竿魂   作:カイバーマン。

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突然ですが今回の話を持ちまして当作品及び他の作品を全て打ち切りとさせて頂きます。

理由はこの度長年連れ添ったガチムチで素敵な彼ピッピと結婚する事になったからです。

それでは皆様、長い間ありがとうございました

















はい嘘です、投稿日がたまたま4月1日だったから大嘘こきました。

ガチムチで素敵な彼ピッピなんぞいないし結婚とかもないです、はい

これからも末永く当作品及び他作品を読んでくれる方が増えるよう精進します。


第二十五層 オフ会ならぬオカマ会

坂田家の朝はたまに早い、基本的に昼前まで家主が寝てる事が多いが稀に起きる時が早い事がある。

 

例えば朝のテレビで人気アナウンサー、結野アナが出ると決まった日とかだ。

 

『みなさーんお早うございまーす、結野アナでーす』

「おはようございまぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!!!」

 

朝っぱらからテレビ画面で陽気に手を振る結野アナに対し

 

右手にコップ、左手に歯ブラシを持ち、口元から歯磨き粉を垂らしながら叫ぶのは家主の坂田銀時。

 

ソファに座って朝食を取っている居候のユウキ、従業員の桐ケ谷和人の冷たい視線を背中で受けながら

 

彼は一人テレビに映る憧れの彼女に夢中になっていた。

 

『今日は日差しも暖かくてお布団を干すには丁度いいかもしれませんねー』

「そうですね! めっちゃ干します!」

『でも昼頃から天気が崩れ始めるので、出かける時は傘を持っていた方がいいですよー』

「わかりました! めっちゃ傘持って行きます!!」

「いや持つ傘は一つでいいから」

 

テレビの向こうの結野アナと会話してるかのように返事をする銀時にボソリとツッコミを入れると

 

朝食の卵かけご飯を食べながら和人は向かいに座るユウキの方へ顔を上げ

 

「あれ何?」

「いつもの事、銀時はお天気アナウンサーの結野アナの大ファンなの」

「なんでテレビに向かって話しかけてるの?」

「あ! おい今俺の事を見たぞ結野アナ! やっぱり繋がってるよ俺達!」

「いつもの事、銀時はバカなの」

「あーなるほど」

 

ガソリンの入ったコップを一気に飲み干しながらやるせない気持ちで説明してくれたユウキのおかげで和人はようやく理解き出た。

 

つまるところ彼がアホなだけだったという訳だ。

 

『それでは恒例のコーナー始めちゃいまーす』

「はいよろしくお願いしまーす! よっしゃあ来いよコラァ!」

 

いきなりパンと両手で叩くとテレビに向かってかかってこいといった構えで何かを持っている様子の銀時

 

すると画面の結野アナがガラガラと画面端から文字の書かれたボードを引っ張って来た。

 

『結野アナのブラック星座占いでーす』

「よっしゃぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!! ブラック星座占い来たぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うるさいアンタ本当に! いい加減にしろさっきから! こっちは飯食ってるんだよ!」

 

一体そこまでテンション上がる理由が何処にあるかわからなくなってきた和人は、遂に銀時にキレて一喝する。

 

「そもそもブラック星座占いってなんだよ! なんか不吉な影が見えるんだけど! ブラックという言葉のせいで何か嫌な予感しかしないんだけど!」

「そうそう、結野アナって占いで天気の予報とかするんだけどさ、それが結構当たるんだよ。それで星座占いもやってるんだけどコレもまた当たるって有名だからボクもつい見ちゃうんだよねー」

「女子ってホント占いとか好きだよな、直葉もそういうの好きだけどたかが占いだろ? 俺はそういうの一切興味無いから」

 

占いなどこれっぽっちも興味ない和人にとってはどんな運勢になろうと知ったこっちゃない。

 

人生とは占いなどで左右されず自らの手で切り開くのだとかどっかの偉い人が言ってた気もするし

 

朝食を食べ終えて茶をすすりながら何気なくテレビを観ていると、結野アナが相も変わらず笑顔でマイクを握っている。

 

『それでは今日一番の最悪の星座は……てんびん座の人でーす』

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 俺てんびん座だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あ、俺もてんびん座、なんだよ朝から気分悪いな……」

「占い興味無いんじゃないの?」

「興味はないけどいざ最悪の運勢だと言われるとやっぱり嫌だろ」

「俺の人生もうおしまいだァァァァァァァァァァ!!!」

「うるせぇ! 頼むから大人しくしてろアンタは!!」

 

結野アナが言った今日一日の最悪の運勢はてんびん座

 

奇遇にもそれは銀時、そして和人の星座でもあった。

 

この世の終わりといわんばかりに一人絶叫している銀時、和人は少々嫌な気持ちになった程度になっている中、テレビの向こうの結野アナは話を続ける。

 

『てんびん座は今日一日最悪です、何も良い事が起きません、何をやっても悪い結果になってしまうでしょー』

「おいおい身も蓋も無いな……」

『特に今テレビの前で何かを口に含んでる方は~』

「「ん?」」

 

和人は茶を、銀時は歯磨き粉を口に含んでる状態だという事に自身で気付いた直後、結野アナは楽し気に笑顔を浮かべたまま

 

 

 

 

 

 

 

 

『今日死にま~す』

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

『それでは皆さんお仕事頑張って下さーい』

 

最後にそれだけ言い残すと結野アナは画面から消え、テレビのCMが始まってしまった。

 

いきなり死の宣告をされて流石に銀時だけでなく和人も驚いた表情でしばらく固まった後……

 

「オイィィィィィィィィィ!? どういう事だコレ!?」

「なんだ今の!? 今日死ぬって言った!? てんびん座今日死ぬって言った!?」

「正確には現在進行形で何か口に咥えてる人が死ぬって言ってたよ、つまり二人共今日死ぬって事だね」

「「なに軽い感じで言ってんだコラ!」」

 

一人だけ安全地帯にいるかの様に呑気にガソリンをすするユウキに銀時と和人が同時に振り返って一緒に叫ぶ。

 

「嘘だろオイ! 銀さんこのままだと死ぬの!? しかもよりにもよってコイツと一緒に!? ふざけんなお前だけ死ね!」

「誰が死ぬか! アンタが死ね! いやこんなのたかがお天気アナウンサーの占いだ! 最初は死ぬって言われて面食らったが、こんなの絶対に当たりっこないって!!」

「参ったなチクショウ、せっかく結野アナの為に早起きしたってのに……」

 

互いに罵倒しつつ和人は断固として当たる訳がないと豪語するも、銀時はどこか浮かない表情。

 

まさかファンだった相手から死刑宣告されるとは夢にも思うまい

 

すると突然事務机に置かれている黒電話が突然鳴り出した。

 

このタイミングで一体なんだと一番近くに立っていた銀時が訝しげに電話の受話器を手に取って耳に当てる。

 

「はいもしもし万事屋です、新聞なら間に合って……あ、どうも」

 

電話の相手は新聞の勧誘ではなく銀時の知り合いだったらしい。受話器を耳に当てながら途端に銀時はけだるそうな感じになる。

 

「はいはい先日はどうもありがとうございました、こちらも色々とね、主人公として大事なモノを失いましたはいはい……、え、今日? いやー今日は色々と立て込んでまして、ここん所忙しくて」

「嘘ばっかり、いつも暇じゃん」

「うるせぇお前は黙ってガソリン飲んでろや!」

 

頬を引きつらせて微妙に嫌そうな反応をする銀時が上手い事誤魔化して何かを拒否しようとするも横からユウキが大き目な声で一言。

 

すぐに銀時は彼女を怒鳴りつけるも、すぐに電話の相手との話を続け

 

「え? お登勢にはもう話付けておいたからってどゆ事? もしかしてあのババァ、俺のいない所で勝手に約束したって事? しかも報酬は全部家賃として回収される? ふざけんなそんなの誰が……! え、マジ?」 

 

何やら雲行きが怪しくなってきた……電話の相手と話してる内に銀時の表情が険しくなり終いには怒りだそうとするも、最終的に顔から冷や汗を掻きながら頬を引きつらせ

 

「……わかりました、昼頃そちらにお伺いしまーす……」

 

諦めたかのように最後にそれだけ言うと、銀時はゆっくりと受話器を戻した。

 

しばらく無言で黙り込んだ後、一体何事かとこちらを向いている和人とユウキの方へ死んだ表情で振り返ると

 

「おい和人君仕事だ、先日やった仕事、もう一回やれってよ……」

「……それって”アレ”?」

「ここ最近やった仕事つったらアレしかねぇだろうが」

「……」

 

彼の言葉に和人はビクッと肩を震わせ全身から悪寒を覚えると、そのまま無言のままスクッと立ち上がり

 

 

 

 

 

「早退します! お疲れ様でしたァァァァァァ!」

「させるかコラァァァァァァァァ!!!」

 

即座に玄関の方へと走り去ろうとする和人を後ろから羽交い絞めにして逃走を阻止する銀時。

 

しかし和人は本気で嫌がっている様子で彼に羽交い絞めにされながらも激しく抵抗する。

 

「イヤだ! あんなのもう一回やるなら死んだほうがマシだ! どうせ今日占いで死ぬって言われてるんだ! 死ぬんなら人間の尊厳を保ったまま死にたい!」

「落ち着け元ひきこもり! そもそもお前は人間の尊厳なんざとっくの昔に捨ててんだろ! お前にあるのはゴミだけだ!」

「やるならアンタ一人でやれよ!」

「ふざけんなお前も道連れだ!」

 

揉み合いながらギャーギャーと言い争っている二人を眺めながら

 

こちらに飛び火が来ないとわかっているユウキはコップをテーブルに置きながらそんな醜い争いを遠目で眺めていた。

 

「早速占い通り不運がやって来たみたいだね、こりゃもしかしたら本当に死ぬかもね二人共」

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは悪たれ共が住むかぶき町の歓楽街

 

夜の町と呼ばれてはいても、昼頃であってもやっている店も多く、様々な人達で溢れかえっていた。

 

「フハァ~……まだ眠いアル……」

「もう、昨日夜更かしして深夜ドラマとか観てるからよ」

「松重豊の演技力に見入ってしまったせいネ、私じゃなくて松重豊を責めてヨ」

「いや松重豊には非は無いから……」

 

欠伸をしながら言い訳する神楽を隣で注意するのは

 

つい最近から彼女と一緒のマンションで同居生活している結城明日菜だ。

 

超人的な怪力を持つ夜兎族の少女・神楽は結城家の長女・結城明日菜と一緒にこのかぶき町へと来ていた。

 

夜兎族は太陽の光に弱いので、神楽は日傘を差して歩きながら当たりを警戒する様に見渡す。。

 

「それにしてもこんなチンピラばかりの場所に一体何の用アルかアスナ姐、ここの連中は私の故郷にそっくりな奴等ばっかりで危ないヨ」

「うんちょっと調べたい事があってね、こういう場所にこそ隠れてる可能性があると思って情報収集に……」

 

お嬢様育ちの明日菜にとって無法者だらけのかぶき町は全く場違いも良い所。

 

一際珍しい服装をしている上に隣に夜兎族のチャイナ娘も従えているのでかなり浮いているのだが

 

彼女にはどうしても調べたい事があったので自らここに足を運んだのだ。

 

「はぁ~……」

「どうしたアルか? そういやアスナ姐家出る前からずっとテンション低いアル、朝のお通じが悪かったアルか? 私は快便だったヨ」

「神楽ちゃんそういのはいくら同性相手であろうと言っちゃちゃダメ」

 

無垢な表情でスッキリした様に今朝の事を話す神楽にジト目でツッコミを入れた後、明日菜は頭に手を置いて悩む表情。

 

「実は朝やってたテレビのの占いを朝食食べながら見てたら、『てんびん座は運勢最悪の上に今口に何か含んでる人は今日死にまーす』って言われたのよ、私てんびん座だからちょっと気にしちゃってて……」

「マジでか? でも大丈夫ネ、アスナ姐には私がついてるヨ、どんな不幸が押し寄せても私が全部この手で追い払ってやるアル」

「ありがとう神楽ちゃん」

「でもお通じが悪い事については私は何も手伝う事が出来ないアル、それはもう自力でふんばってなんとか捻りや出すしかないネ」

「だからもうその話はやめて……」

 

口は少々悪いが根は良い子だし自分が困ってるとすぐに助けてくれようとする本当に頼りになる子なのだが、どうも世間知らずというか間違った教育を受けていたのか……

 

そんな事を思いながらいずれは自分が矯正してあげないと……っと思いながら明日菜が再び歩こうとしたその時

 

「待ちなさいそこのお嬢さん こんな危険な場所になんの用だい?」

「もしかしてこのかぶき町を観光パークかなんかだと思ってるのかい?」

 

ふと後ろから二人分の低い声で呼び止められたので明日菜がやや警戒しながら後ろへ振り向くと

 

灰色の顔の半分を覆う程の大きな黒目をした、テレビとかでよく見る見た目をした天人がスーツ姿で二人立っていた。

 

「我々は愚劣威≪グレイ≫星人、君達か弱い少女たちの味方だ」

「我々は君達の様なお子様をキャトルミューティレーションしてもっと住みやすい星を提供してあげるとても善良で優しい種族なのだよ」

「……いやそれ完全に人身売買ですよね」

 

早速占い通りに不運が巡って来たかと思いながら明日菜はジト目で彼等を睨み付ける。

 

大方こうして女の子二人で歩いてるのを見て自分達を捕まえてどこかに売り払おうと考えてる下賤な輩であろう。

 

「私達を捕まえて別の星に売り払おうとか考えてるんですか?」

「心外な、我々がやってるのはあくまでキャトルミューティレーション……」

 

明日菜がはっきりと指摘するとグレイ星人の片方が長い腕を左右に振りながら弁明しようとすると……

 

突如彼等が何者かにガッと頭を鷲掴まれたかのように、地面から数センチほど浮き始めた。

 

「すみません、ちょっとキャトルミューティレーションしちゃいました」

「「ギャァァァァァァァァァァ!!!!」」

 

ミシミシと頭に指を食い込ませていきながらグレイ星人を持ち上げるのは意外にも華奢な体をした着物姿の女性。

 

志村家の長女・志村妙が仕事帰りの所を偶然ここを通りがかったのだ。

 

「アネゴ!」

「あ、あなたは!」

「あら二人共お久しぶり、元気にしてた?」

 

天人を二人も高々と持ち上げた様子で、前に会った事のある神楽と明日菜を見てお妙はニッコリと笑っていると

 

彼女に鷲掴みにされているグレイ星人は苦しそうに悲鳴を上げ始め

 

「あー頭が! 頭が割れる!」

「我々の意識が今にもキャトルミューティレーション!」

「テメェ等は黙ってろや! 今昼下がりの女子トークをやっている所……なんだよ!!」

「「どっぱぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

彼等の悲鳴が耳障りだったのか、急にキレたお妙は彼等を両手で掴んだままふと近くにあった店に向かって豪快にぶん投げる。

 

哀れグレイ星人は店の窓ガラスをぶち破って来店し、彼等が強盗に来たと誤解した強面の店員達によって瞬く間に成敗されてしまった。

 

そして大の大人二人を投げ飛ばしたというのにお妙はすぐににこやかに微笑みながら喜んでる神楽と、唖然としている明日菜の方へ振り返り

 

「危ない所だったわね二人共、ケガはなかった?」

「お、おかげさまで……ありがとうございます」

「きゃっほーアネゴはやっぱり強いアル!」

「フフ、これでも武家の娘として色々鍛えてるのよ」

 

そう言いながら飛びついてはしゃぎ出す神楽の頭を撫でてあげる。

 

「こんな物騒な所に可愛い女の子二人で無防備に歩いてるんですもの、虎のいる檻に松島トモ子をほおり投げる様なもんだわ、次からはマネージャーを護衛として付けた方がいいかもしれないわね」

「大丈夫アル、私これでも滅茶苦茶強いし、あんなのが100人やってこようが私一人でアスナ姐を護って見せるヨ」

「まあ神楽ちゃんカッコいいわねー、ウチの愚弟二人も見習ってほしいものだわ」

 

自分の腰から離れた神楽が威勢よく両手でガッツポーズ取るのを見ながらお妙は一層微笑んだ後、改まって明日菜の方へと振り向く。

 

「ところであなたは確か橋の上で一緒に新ちゃんの決闘を見物していた……」

「結城明日菜です、あの時は自己紹介できなくてすみませんでした」

「明日菜ちゃんね、見た目も名前も可愛らしいわ。それであなたはどうしてかぶき町なんかに?」

「えと……実はちょっと人探しみたいなことをしてまして……」

 

豪快に天人を投げ飛ばしてた時のギャップの差に明日菜は少々困惑しつつも、かぶき町の事にも詳しそうな彼女に思い切ってここに来た目的を話してみた。

 

「だからちょっと色んな人からお話を伺えるような場所を探してるんですけど、この辺にありますか?」

「人を捜してるのね、それならこのかぶき町で万事屋をやってる……いや」

「?」

 

人探しに適任な人物でも紹介しようとしたのだろうが、お妙は急に黙り込むとすぐに明日菜の方へ顔を上げ

 

「私今仕事を終えて行きつけの店に行こうと思ってたの、とりあえずそこで情報収集しながら女三人で楽しくお喋りでもしてみない?」

「え? 私は構いませんけどいいんですか?」

「やったー! アネゴともっと一緒にいられるアル―!」

「ここで会ったのもきっとなんかの縁だし、それにあなた達の事を何故かほおっておけないのよね」

 

明日菜としてはこの町で情報収集出来る上にこんな良い人と親密になれるなら嬉しい限りだ。

 

神楽もまた彼女にひどく懐いてるし、ここで断るというのも野暮ってモンだ。

 

「わかりました、それじゃあその行きつけの店にみんなで行きましょう」

「決まりね、じゃあ二人共私について来て、大丈夫、ちょっと変わった人が多いけど根は良い人達ばかりだから」

「あ、それとさっきの礼としてお金は私が出しますから」

「いいわよそんなの、あれぐらいこのかぶき町じゃよくある事だし」

 

せめて何かお礼がしたいと思い、その店の支払いを自分に任せて欲しいと言う明日菜だが、お妙は流石というべきか、優しく微笑みながらそれをやんわりと断ってすぐに歩き出す。

 

「礼をしたいって言うなら、これから行く店で一献お酌でもしてもらおうかしらね、こんな可愛い子にお酌して貰ったら周りに羨ましがれそうだもの」

「……お安い御用です」

「明日菜姐行こ!」

「……うん!」

 

お妙の背中を見ながらホントに素敵な人だなとしみじみ思ってる明日菜の手を神楽がはしゃいだ様子で引っ張る。

 

彼女に引っ張られて明日菜もすぐに頷き返してお妙の後を追った。

 

 

やっぱりお天気アナウンサーの占いなんか当たる訳ないか

 

そう思いながらすっかりこの先に不幸などある訳ないと信じする明日菜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、彼女達の事など露知れず、銀時と和人は立派な社会人としてしっかりと働いていた。

 

女性の着物を着飾って

 

「どうもーパー子でーす」

「キ、キリ子でーす……」

「私達のお店かまっ娘倶楽部は昼からでも絶賛営業中でーす」

「お、男も女もその中間も待ってまーす……」

 

ガタイの良い体付きと華奢な体つきのオカマが二人、怪しげな店の前で看板持ちながら通行人に呼び掛けている。

 

銀時はパー子という名前を用いてツインテールの今時ギャル風の化粧が施され

 

和人の方はキリ子という名前を用いて黒髪ロング、そしてほぼノーメイクの状態でやらされていた。

 

「こ、心が折れそうだ……! 猛烈に死にたい……!」

「ちょっと声もっと出しなさいよキリ子、あんたやる気無いんじゃないの?」

「パー子だってダラダラした喋り方と棒読みで全くやる気ないじゃないの……」

「いや私はこういうキャラで行くって決めてるから、こういうけだるそうな感じの方が逆にそそるだろ」

「そそらねぇよ! 自分だけ楽な路線目指すな! 頭パー子のクセに!」

「んだとテメェ! パー子は頭がパーだからじゃねぇ! 天然パーマのパーだ!」

 

ちょいちょい板について来た女言葉を用いながら店の前で手に持った看板で喧嘩を始めようとする二人。

 

だが

 

「はいはい止めなさいアンタ達、ママに言いつけるわよ」

 

その喧嘩をパンパンと両手で強く叩いて止めるのは

 

これまた大きくアゴの出た青髭の生えた長身のオカマ。

 

「客引きの仕事というのはね、店の雰囲気を伝えるとても大事な役目なの、だから全面的に明るく笑顔でやらないとダメ、パー子もキリ子もそこん所ちゃんとわかってるのかしら?」

「ナメてんじゃないわよアゴ代、私達は型に縛られないの、こういう新鮮味溢れるキャラ推そうと決めたの」

「誰がアゴ代だぁ!」

「おいパー子、この人アゴ代じゃないから。アゴ美さんだから」

「あずみじゃボケェ!!」

 

あまりにも尖ったアゴが特徴的だったので、銀時と和人もすっかり名前を間違えてしまう。

 

そんな二人に激昂した後、アゴ代はもといアゴ美はもといあずみは一層厳しい目で二人を睨み付ける。

 

「全くそんなてふざけてた感じでオカマ貫き通せると思ってるの? オカマはそんな簡単になれるモンじゃないの、オカマとは男も女も関係ない究極の美を悟った者のみが名乗る事を許される称号なのよ」

「いやこっちはなりたくてやってる訳じゃないんで、俺等究極の美とか興味ないんで早く帰らせてください」

「フフ、そんな事を言って良いのかしらキリ子? あなた中々素質があるわよ、今からでもこっち側に来たら?」

「は!?」

 

いきなり説教から勧誘に代わり、微笑を浮かべながらこちらをロックオンして来たあずみに和人は困惑した様子で後ずさり

 

しかしあずみは逃がさない

 

「ほとんどお化粧もしていないというのにその精錬されたキュートな顔と瞳、間違いなくウチでトップを狙えるわよ? もしくは……」

 

元々和人は中性的な顔をしていたので、確かにこうして女装してみると知らない人なら普通に女の子だと思ってしまうかもしれない。

 

あずみはそんな彼の潜在能力を見破ってその才能をこの世界で上手く活かしたいと考えてる様だ。それともう一つ。

 

頬を引きつらせその場に固まってしまっている和人を、獲物を狙うハンター華の様にあずみはじっくり凝視しながらペロリと舌なめずり

 

「私が食べちゃいたい……うふふ」

「ひぃぃぃぃぃぃ!! すんません俺そっちの気はないんで!」

「そうよウチのキリ子になに手ぇ出そうとしてるのよ」

 

あずみの好みのタイプは童顔の可愛い系、つまり和人は正にドストライクだという事である。

 

それを目で教えて来たあずみに和人は悲鳴を上げながら銀時の背後に隠れると、銀時もまた彼を護るように立ち塞がりながらフンと鼻を鳴らすと

 

「まずはそっちが出すモン出しなさい、そうしたら一晩でも二晩でも好きにさせてあげるから」

「っておい! なに金で解決しようって流れにしてんだお前!」

「チャンスだキリ子、万事屋の経営不振の為にオカマ共に体売って来い」

「ぶち殺すぞ!」

「って! 何すんだキリ子のクセに! 容姿褒められたからってお高く止まってんじゃないわよ!」

「黙れパー子! 自分がブスだからって嫉妬してんじゃないわよ!」

 

まさかのビジネスのチャンスと踏み込む銀時に和人は激怒して後ろから蹴り飛ばす。

 

それにすかさず銀時は振り返って彼の首根っこを掴み取って揉みくちゃに

 

女性の着物を着たままそうやってしばらくギャーギャーと取っ組み合いをやっていると

 

 

 

 

 

 

「あら、和人君がちゃんとお仕事してるみたいで何よりだわ」

「……」

 

不意に聞こえた物凄く聞き慣れた女性の声に、銀時の顔面に一発入れようとしていた和人の動きがピタリと止まった。

 

全身から冷や汗が流れるのを感じながら和人は必死に頭の中でいませんようにと願いながら声の下方向へそーっと振り返ると

 

もはや身内同然とも言える志村家の長女がにこやかにこちらに笑みを浮かべていた。

 

「直葉ちゃんにも見せてあげたかったわ、あなたの晴れ姿」

「うげぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「前にこの店のオーナーにあなたが働いてたって聞いたんだけど、今日も働いてたなんて私感心したわ」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

穴があったら入りたい……まさか彼女にこの様な姿を見せる羽目になってしまうとは……

 

長い黒髪を地面に垂らしながら和人はガックリとその場で崩れ落ちてガックリと両手を突く。

 

「見られた……一番見られたくない人にオカマやってる俺の姿を見られてしまった……」

「そっちの方は銀さんね、ウチの門下生が相変わらずお世話になってます」

「銀さんじゃありませんパー子です、そんでこっちはキリ子でーす」

「あら源氏名まで付けてもらえたの? 良かったわねキリ子ちゃん」

「殺せよ! いいから殺してくれよ頼むから!!」

 

地面をのたうち回りながら恥ずかしさで死にたくなる和人をよそに、お妙は彼等といたあずみの方へ軽く手を上げて挨拶。

 

「久しぶりでーす、かぶき町に初めて来た女の子が二人いるんだけど構わないかしら?」

「フフフ当然じゃないお妙、男も女も関係なくはしゃいで楽しむ、それが私達のお店ですもの」

 

ここまで恥ずかしい所を見ておいて更に店に寄る気かよ!

 

そう思いつつボロボロになった状態で立ち上がった和人は、いっそ人気の無い所に隠れて泣きたいと思いながら顔を上げると……

 

 

 

 

そこにはこちらを怪しむ様に見るどこかで見覚えのある顔付きをした少女が立っていた。

 

お妙が連れて来た先程言っていた知り合い、結城明日菜である

 

「は!? え!? なんで!? いや……!」

 

この顔付き間違いないと和人は彼女が誰なのかわかった途端すぐにバッと顔を伏せる。

 

一方明日菜の方も段々目がジト目になり、疑惑から確信に変わったかのように和人の方へ歩み寄る。

 

「……ちょっとすみません、あなたどこかで私と会わなかった?」

「……会ってません、私はこの店で働くしがないオカマです……」

「こっちの世界じゃなくてゲーム世界の方では会ってるわよね?」

「ゲーム? いやー私そういうのは興味ないんでー」

「そう、それなら……」

 

あくまでシラを切る様子で絶対に目を合わせないようにする和人の態度を察して、明日菜はズイッと彼の方へ顔を近づけると

 

「青薔薇の剣を手に入れたのはやっぱりあなただったの?」

「あぁ!? 青薔薇の剣取ったのはお前だろうが! 返せ俺の青薔薇の剣!!」

「ほらやっぱり……」

「あ……だぁぁぁぁぁぁぁやっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「……まさかこんな所で会う事になるとはね……世間って案外狭いモノね」

 

青薔薇の剣、和人がずっと欲しがっていたその神器の名前を出されてしまってつい反射的にボロを出してしまう。

 

両手で頭を抱えながら叫ぶ和人を見て明日菜は眉間にしわを寄せるとスッと彼を指差してあずみの方へ振り向き

 

「すみません、この子指名していいですか?」

「はぁ!?」

「あら若いクセに指名なんてやるじゃない、キリ子は新人だから指名料はタダでいいわよ」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」

 

あっさりと彼女の指名をあずみが許可すると、明日菜はキリ子が逃げない様ガッチリ肩を掴みながら店内の方へ

 

「それじゃあ店の中でたっぷり話しましょうか、キリ子さん……」

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 助けてパー子ォォォォォ!!」

「頑張ってキリ子、その女からたっぷり金を搾り取ってやりなさい私応援してるから」

 

強引に明日菜に連れ去られていく和人が助けを求めるようこっちに叫んでいるが、先程の光景をずっと他人事のように見ていた銀時は手を振って彼等を見送るのみ。

 

「おいおいマジかよ、まさか現実でもあの娘と鉢合わせするなんてどうなってんだ……それにしてもやっぱ苦手だわあの娘っ子、リアルで顔合わせるとますますアイツにそっくりでどうも調子狂うんだよな……」

「おい天パ、ちょっといいアルか?」

「あん?」

 

眉間にしわを寄せながら独り言を言いつつ後頭部を掻き毟っていると

 

銀時の前に明日菜の連れである夜兎族の少女・神楽が無垢な瞳でこちらを見つめていた。

 

「お前私とどこかで会った事あるよな、正直に白状するヨロシ」

「いやいやお戯れを、私はお嬢さんみたいなションベン臭いガキンちょは見た事ありませんわ」

「嘘つけヨお前、あっちの世界で散々私の事を口説き落とそうとしたじゃねーか」

「は? あっちの世界てどの世界?」

 

あっちの世界という事はつまりEDOの世界という事であろうか……

 

銀時はもう一度まじまじとその顔を見ると

 

確かにふとどっかで会った様な……それもついさっき戦った事があった様な……

 

「……ひょっとして……あの娘っ子のお友達のグラさん?」

「ようやくわかったかアルか天パ」

「……あのボンキュッボンで声優を見事に使いこなしてるあのグラさん?」

「だからそう言ってるだろーが、私こそ正真正銘お前がずっと下心丸出しで誘おうとしていた……」

 

信じたくないという気持ちがありながらブルブルと体を震わせ張り付いた笑顔を浮かべる銀時に

 

神楽はキョトンとした表情で彼を見上げ

 

「神楽アル」

「うっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

EDOでは本来の自分より若干年を取ったり若返った姿のアバターを作れると和人から聞いた事があった。

 

確かにこの見た目から少し年を取ればあんな風になれるのだろうというのは確かに納得できる。

 

だが銀時はあまりのショックに動揺を隠せない

 

「これがあのグラさんの正体ぃ!? あのボンキュッボンのグラさんが! あの見事に声優を使いこなしていた正統派ツンデレ系ヒロインの正体がコレ!? 知らねぇ! こんな貧相な体つきをした全く声優を使いこなしていない小娘なんて俺は知らねぇ!!」

 

さり気なく失礼な事を言う銀時だが、神楽は何故かスルーしながらあずみの方へ手を上げて

 

「すんませーん、私この天パのオカマ指名するアルー」

「いいわよ連れてってーパー子の事可愛がってあげてねー」

「っておい! なに俺を指名なんかしてんだ! こちとらお前なんかと飲むつもりは……!」

「いいから大人しく私について来るアル腐れ天パ……」

 

突然指名して自分を店内へ連れ込もうとする神楽に銀時はすぐに抗議しようとするも

 

そんな彼の襟をつかんで無理矢理自分の顔下へ引き寄せ、血走った目で神楽はニヤリと笑いかける。

 

「私がお前に向こうの世界で何されたのか忘れてると思ってのかコラァ……! 散々私を腸で縛り付けた上に顔面に醤油ぶっかけやがって……! 今からもう一度テメェの腸をぶちまけてやるから覚悟するヨロシ……!」

「ハ、ハハハハ……」

 

見た目は小柄な少女なのにこの凄味と威圧感。何より自分の襟をつかむその力が尋常じゃない程強い。

 

思わず銀時は言葉を失い渇いた笑い声を上げると、もはや抵抗できまいと観念し

 

「おら行くぞパー子、今度は私から私の事が忘れられなくなるぐらいその身体に刻み込んでやるアル」

「……」

 

胸倉を掴まれながら大人しく彼女に連行されるしかなかった。

 

そして明日菜と神楽に連行されながら和人と銀時はふと思った

 

 

 

 

 

ああ、やっぱりあの占いは本当だったんだと……

 

 

 

 




公式の誕生日を調べてみると
明日菜は9月30日、和人は10月7日、銀さんは10月10日生まれです。

ちなみにランとユウキは5月23日、ふたご座です。



それでは感想お待ちしております。

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