竿魂   作:カイバーマン。

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勇者ヨシヒコとこの素晴らしい世界に祝福を!のクロスオーバーSS

「勇者ヨシヒコと魔王カズマ」を連載開始ました。

こちらもお暇でしたら是非読んでください



第二十四層 君は俺達のヒロイン

山崎退

 

泣く子も黙る武装警察・真撰組の密偵として日々働き、地味な見た目を利用して潜入調査・張り込み・時には闇討ちの仕事を任されるなど数々の暗躍を行うスペシャリスト。

 

しかし屈強な精鋭揃いの中で一人だけどこか浮いた様な存在で周りに忘れられがちなのは確かだ

 

しかし彼は気にしていない、何故なら己の持つこの地味な雰囲気こそが、己にとっての一番の武器でありアイデンティティだと一番よくわかっているからだ。

 

そして今日もまた彼は朝から極秘の指令が携帯に届く。

 

そのおかげで真撰組の副長直々に行う朝礼の時でも彼は副長が何を言っているのか全く耳にも入れず(このおかげで副長にシメられた)

 

朝食の時間も無の表情で黙々と冷蔵庫に入ってあった魚肉ソーセージを食べ終えただけで

 

仕事開始の瞬間に自分の持つ目立たない特徴を生かして難なく他の隊士をすり抜けて一人単独行動に移った。

 

そう、この指令だけはなんとしてでも自分一人で完遂させなければいけないのだ……

 

 

 

 

 

 

「それで五十五層の特殊ダンジョンの最深部まで行ったんですけど……最後の最後に出て来た白い竜にやられちゃって……」

「へぇーそいつは残念だったね、その竜を相手にした時は何人がかりで挑んだの?」

「そこに辿り着けたのは私だけですね、あの子とは途中ではぐれちゃって。そもそもたった一つのレアアイテムを巡ってプレイヤー全員で競争してる様なモンだから、協力して一緒に戦おうとする人なんて誰もいませんよ」

「ハハハ、それもそうか」

 

江戸にある小さな喫茶店にて、真撰組の凄腕密偵・山崎退が小さなテーブルを挟んでどこか楽し気に会話をしている相手は

 

栗色の長い髪をした、江戸では珍しい洋風の服装をしている一人の少女だった。

 

名は結城明日菜、今日の朝から山崎に携帯で連絡を入れて来た

 

極秘任務の送り主である。

 

「それにしても朝からいきなり連絡してすみません山崎さん、今日も仕事だった筈なのにわざわざその合間をぬって私の話に付き合ってくれるなんて……」

「いやいや全然気にしてないから! 仕事つってもどうせ誰でもできる様な地味な仕事だし! むしろこうして明日菜ちゃんの話聞いてあげる事こそ俺にとっての一番の大仕事だから! それ以外の仕事なんか全部カスだから!」

「ありがとうございます山崎さん、どこぞの一番隊隊長と比べて本当に優しいんですね」

「市民の不安を取り除くのが俺達真撰組の役目ですから! 俺はただ侍として当たり前の事をしているだけです!」

 

申し訳なさそうに苦笑して見せる明日菜に山崎は敬礼をしながらそんな事無いと大声を出す。

 

むしろ男臭い職場環境にいる自分にとって、可愛い女の子とこうしてお喋りできるなと光栄の極みである。

 

(しかしそれにしても、日に日に綺麗になっていくな明日菜ちゃん……)

 

テーブルに置かれた自分のメロンソーダをストローで飲みながら山崎は心の中で呟く。

 

名家のお嬢様なので教養も礼儀作法もしっかり教え込まれていて、性格も優しく素直で物凄く良い子。

 

おまけに年々美人になっていくその見た目だ、育ちよし器量よし見た目よし……

 

そんな彼女をどこか眩しそうに眺めながら山崎ははぁ~と深いため息を突く。

 

(これは世の男共がほおっておくわけがない、俺だって自分がもっと若かったら100%惚れてる。彼女に悪い虫が寄り付かない為に、真撰組として彼女に近づこうとするのは全力で潰さなければならない)

 

兄の様な感じで明日菜に接している山崎にとって、彼女に変な男が近づこうとするのを全力で抹殺する義務(局長命令)があった。

 

しかしこう考えているのは山崎だけではない、真撰組の隊士のほとんどが彼と同じく明日菜の為であればなんでもするであろう。

 

聞いた所によると彼女の友人であるチャイナ娘の父親もまた明日菜の事を凄く可愛がってあげているらしい。

 

なんでも彼女に近づこうとした彼女の父親の部下を4/5殺しにしたとかなんとか……

 

(ウチも似た様な事あったら局長命令で全人員を配備してその男を抹殺するだろうなぁ……)

 

もしそうなったら全身全霊を持って男を殺そうと山崎は固く誓いながら頷いていると

 

向かいに座っていた明日菜が店員から注文したカツ丼を受け取りながら不意に話しかけて来た、

 

「そういえばとうし……副長の様子はどうなんですか?」

「やるとしたら毒殺? いやいっそ嬲り殺し……え、副長?」

 

思わず口で物騒な事を口走っていた山崎は我に返ったかのように彼女の方へと視線を戻した。

 

「副長は相変わらずだよ、毎日俺達に厳しく指導しながら江戸の治安を護る為に全力を挙げてるし、近頃はあの攘夷浪士の桂小太郎を捕まえようと躍起になっているよ」

「桂小太郎……近頃この辺の天人の大使館に爆破テロを行ってる危険人物ですよね?」

「そうそう、けどこれがまた逃げ足が速くて中々捕まらなくてさ~」

「……」

 

サラッと警察の現在の方針を一般人に暴露している山崎をよそに、明日菜は顎に手を当て何かを考えている仕草。

 

一体何を考えているのかは付き合いの長い山崎でもわからなかったので、とりあえず別の話題に切り替えようと口を開いた。

 

「ところでEDOの話に戻るけど、五十五層の特殊ダンジョンで手に入るレアアイテムって確かあの有名な神器・『青薔薇の剣』だよね? 今年は誰も手に入らなかったって事はまたイベントは来年になるって事?」

「いえ来年にはもうそのイベントはありません、というか今後一生無いと思います」

「え?」

「クリアされたんです、あの高難易度のクエストを制覇して見事青薔薇の剣を手に入れたプレイヤーがついに現れたんですよ」

「うそぉぉぉぉぉぉ!?」

 

目の前のカツ丼に懐から取り出したマヨネーズをニュルニュルと大量に注ぎながら明日菜は怪訝な表情で呟くと

 

山崎は素っ頓狂な声を上げて驚いて見せた。

 

青薔薇の剣、その名前の響きにそそるモノがあったので近い内に自分も挑戦してみようと思っていたのに……

 

深いショックを受けてガックリと肩を落とす山崎に明日菜は容器が空になる程マヨネーズをカツ丼の上にトッピングし終えると、箸を持ち上げながら話を続ける。

 

「私も驚きました、つい先日に情報が入ったんです、氷の洞窟から青薔薇の剣を持ち帰ったプレイヤーが現れたって。まさかあんな複雑な迷路とトラップを潜り抜け、あの高レベルの竜の猛攻を潜り抜けた人がいたなんて……」

「そうだったんだ……ていうか明日菜ちゃん、現在進行形で俺も別の事で驚いてるんだけど? さっきからなにカツ丼の上に大量のマヨネーズぶっかけてるの? 見た目的にアレなんだけど、とぐろを巻いた黄色いアレなんだけど」

 

ショック状態からすぐに立ち直る程の光景が山崎の目の前に移った。

 

よく見ると明日菜が注文したカツ丼の上には、彼女が事前に用意していたマヨネーズが巨大なとぐろを巻いて乗っているではないか。

 

頬を引きつらせその事について尋ねる山崎だが、彼女は手に持った箸をそのカオスな食べ物に突っ込んで

 

「血盟組として危険人物の手に渡る前に神器の確保をしておこうと思ったのに……私でもクリアできなかったあのクエストを一体誰が……」

「いやスルーしながら普通に食べないで! 大丈夫なのそれ!?  もはや人間が食べて良いモノなの!?」

「はい、最初は手こずりましたがここ最近ではもう普通に食べれるようになりました」

 

意外と早いペースでマヨネーズてんこ盛りのカツ丼を食べて良く明日菜に山崎がすぐにツッコミを入れると

 

彼女はケロッとした表情で顔を上げ

 

「というかもうコレじゃないと私の胃はもう受け付けません」

「それ完全に手遅れじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!! ダメだよ明日菜ちゃん! いくら副長の真似がしたかったとはいえそっちは絶対に真似しちゃダメだから! 優等生委員長タイプヒロインが一瞬にしてゲテモノ愛好ヒロインに!!」

「あ、レモンティーにもマヨネーズトッピングしないと」

「明日菜ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

一本だけでは飽き足らずまさかの二本目のマヨネーズを一緒に頼んでおいたレモンティーに笑顔でぶっかける明日菜。

 

最悪だ……あのマヨネーズ中毒の副長のせいで俺達のヒロインが……

 

青薔薇の剣を手に入れる機会を二度と失った事よりもショックを受けて呆然と固まる山崎をよそに

 

まるでクリームソーダみたいな出来栄えになったレモンティーを一口飲むと、明日菜は眉間にしわを寄せる。

 

「それで私、一体誰が青薔薇の剣を持ち出す事に成功したのか、少し心当たりがあるんですよね……」

「あ、普通にそっちの話を続けるんだ……心当たりがあるって一体どんな?」

 

何事も無かったかのようにまた話を続ける明日菜にジト目を向けながら山崎が尋ねると彼女は口に出すのも嫌だと言った嫌悪感丸出しの表情で

 

「迷宮の攻略途中で見たんです、誰より早く障害を攻略していきながら疾走する黒づくめのあの男を……」

「黒づくめ?」

「黒夜叉です」

「黒夜叉……あの攘夷四天王の!?」

 

黒夜叉というのは攘夷四天王の一人と称され危険思想と疑われているプレイヤーの一人だ。

 

山崎もEDOで度々調べ回って色々と情報を手にし、つい最近ではどういった見た目と戦い方をしているのかも調べ上げる事に成功した。ていうか随分前に尾行した事がある。

 

確か名前はキリトと言って、見た目からして明日菜とさほど年の変わらない少年だった筈だ。

 

「どうしてその黒夜叉が青薔薇の剣を手に入れたと思うの?」

「確証はありませんがあの男なら出来ると思うんです、私では倒せなかったあの竜も、あの男ならなんかズル賢い真似をして上手く出し抜いたんじゃないかなって」

「……なんかえらく黒夜叉の事を高く評価してるんだね」

「まあ一度は私も負かされたようなモンですし、それに……」

「それに?」

「……何故か気になるんです、あの男の事が」

 

EDOで彼女が属するギルド・血盟騎士団は攘夷プレイヤーを徹底的に排除する事に積極的だ。

 

明日菜もまた一応攘夷プレイヤーに対して警告を促したり時には剣を抜く事はあるものの

 

ここまでそのプレイヤーの一人に注目するのは珍しい

 

それにここまで面白くなさそうな表情を浮かべる彼女もまた珍しいな……のんびりとそんな感想を脳内で呟きながら、山崎はふとある事に気付く。

 

(あれ? 年頃の女の子が同年代の男の子の事が気になるって……ひょっとしてアレじゃね?)

 

明日菜だってもう17才だ、その感情が芽生えるのも極々当たり前の事だ。

 

それはわかる、しかし自分は真撰組であり何より彼女の兄的存在であり……

 

「ね、ねぇ明日菜ちゃん、なんなら俺が黒夜叉に直接コンタクト取って青薔薇の剣の事を聞いてみようか?」

「いえいいですよ山崎さんに悪いですし、その件についてはいずれ私が直接確かめに行くんで」

(直接本人に!? なに!? もう自然に会いに行ける関係なの!? 俺が知らぬ内にもうそこまで!)

 

やんわりと断って自分で出向くと主張する明日菜だが、山崎には何やら別の事情があるのではと疑った。

 

(いやしかし片方は血盟騎士団、もう片方は黒夜叉、立場のまるっきり違う二人がそんな関係に発展する訳……いや待て山崎退! これはまさかロミオとジュリエット的なアレでは!? まるっきり立場が違うからこそ逆に二人の間で何か惹かれ合う者が生まれたという可能性も……!)

「あのどうしたんですか山崎さん? なんか凄く目が血走ってますけど?」

(だからといってそれは許されない! もし明日菜ちゃんに男でも出来たモンなら俺達真撰組の士気が確実に下がる! その隙を突かれて攘夷浪士に襲われでもしたらまず江戸が滅ぶ! つまり明日菜ちゃんが男と付き合ったら幕府がヤバい!)

 

高速で頭をフル回転させてみると最悪のシナリオが出来てしまった、コレはマズい、彼女には悪いがここは自分が何とかせねば……

 

俺が幕府を護る為にやるべき事は……

 

「明日菜ちゃん、俺ちょっと急用思い出したから行ってくるよ」

「へ、いきなりどうしたの山崎さん?」

 

決意を秘めた目つきをしながら山崎は、困惑する明日菜をよそに腹をくくった。

 

例え彼女に嫌われようと! 真撰組として俺はこの国の為に戦う!

 

山崎退の戦いが今ここから始まり出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんな事も露知れず、黒夜叉ことキリトは

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

第二十一層の平原エリアにてこの世の終わりといわんばかりに叫んでいた。

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「良かったねぇ銀時、神器の素材ゲットするなんて」

「たまたまケツに突き刺さったのが当たりだっただけだって」

 

何故か一人頭を抱えて絶叫を上げるキリトの背後では先日ガソリンを注入したおかげで復活したユウキが

 

この間神器の素材、『金木犀の枝』を手に入れた銀時を素直に祝っていた。

 

「でもまさか月夜の黒猫団と一緒にクエスト参加してたなんてね、ボクも行きたかったな一緒に」

「ああ、アイツ等すげぇいい奴だったよ、しかしアイツ等から藍子の話聞いた時は驚いたぜ全く」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ぶっちゃけボクはこの世界での姉ちゃんの話は極力教えたくなかったんだよね……なんか銀時に幻滅されるんじゃないかと思って」

「幻滅はしなかったけどアイツが色々と無茶苦茶だったと聞いた時はビビったわマジで、しかもかなりの束縛系だったみてぇだし? なんか俺に近づく女を全て排除する気満々だったみたいだし」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「そうなんだよ姉ちゃんってああ見えて嫉妬深くてさ……妹のボクでさえ銀時と二人っきりにさせないように裏からコソコソ見張ってたみたいだし、意外と腹黒かったんだよ君の恋人は」

「女ってのホント裏の顔隠すの上手いよなぁ、別にそれでアイツの事を嫌いになった訳じゃねぇけど……アイツの意外な一面を知れて良かったよ」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「……つうかよ」

 

 

 

 

 

 

 

「うるっせぇんだよお前はさっきからぁ!!!」

「だぱんぷッ!!」

 

ほのぼのとユウキと会話している一方でずっと叫びっぱなしのキリトに銀時が遂にキレて飛び蹴りをかます。

 

背中から蹴られて派手にぶっ飛んで地面に横たわるキリト

 

「さっきからなんなんだよお前! 一体何が不満なんだ! 先日オカマバーで客引きのバイトする為に女装した事がそんなに嫌だったのかコラ! 俺だって嫌だったよ! でもしょうがないだろ! それが仕事ってモンなんだよ!」

「え、銀時とキリトって女装してオカマバーで働いてたの!? うわそれ見たかった、なんでボクが動けない時にそんな面白い事やってるのさ!」

「動けないからやったんだよ! パー子とキリ子でお前のガソリン代の為に頑張ったんだよ!」

 

自分が動けなくなってる間によもやそんな事を二人でやっていた事を初めて知ったユウキに銀時が事情を説明して上げていると、地べたにうずくまる様に倒れていたキリトがやっとムクリと起き上がる。

 

「いや確かに仕事内容が客引きとは聞いてたけどまさかあんな魔窟で働かされるとは思ってなかったし、不満が無かったわけじゃない……けど俺が泣き叫びたくなるほどショックを受けてるのはその事じゃなくて」

 

服に着いた砂をはたきながら、地面に胡坐を掻いた状態でキリトはピッと銀時を指差す。

 

「こっちが神器入手イベントを失敗してガッカリ来てる所で! 俺より初心者のアンタがちゃっかり神器の素材手に入れたって事だよ!!」

「あーなんだそんな事か、器小さいなお前」

「クソォ! いっその事アンタと一緒に第二十層の特殊ダンジョン行っておけば良かったぁ!! どうせ無理だと思って諦めてたのに! よりにもよってなんでアンタが取ってんだよ! 神器の存在さえ知らなかったクセに!」

「まあ当たりを引いたのは俺じゃなくて俺のケツなんだけどな」

 

銀時に半狂乱した様子で叫んだ後両手で何度も地面を叩き出すキリト、余程悔しかったのであろう。

 

しかし銀時は肩をさすりながらけだるそうに

 

「ま、別に神器なんざどうでもいいけどな俺、武器ならもう間に合ってるし」

「じゃあ下さい! お願いします! これからはナメた態度を取らずに一生銀時様の下僕として生きていきます故! 靴なりなんなり舐めますから!!」

「いきなり土下座して来たよコイツ、プライドないのお前?」

「金でも金玉でもあげますから! なんならウチの妹を貴方様の嫁として差し上げますんで!!」

「凄いなお前どんだけクズなんだよ、もうキリト君ならぬクズト君だよ」

「原作のキリトがこれ見たら100%泣くだろうね」

 

地面に頭を擦り付けながら必死に神器の素材を譲ってほしいと懇願してくるキリトに呆れた様子で銀時とユウキは見下ろした後、銀時の方がはぁ~と深いため息を突く。

 

「残念ながら俺はお前の妹には嫌われてるから嫁に貰うつもりは毛頭ねぇよ、そもそも黒猫団っつうガキ共と協力して神器造ろうって話になってんだ、アイツ等が俺の為にわざわざ躍起になってくれてるんだから付き合ってやらなきゃ悪いだろ」

「うわ、銀時が珍しく他人の心意気に気遣ってあげてる! こりゃ確実に空から隕石が降って来るね!」

「お前俺をどんだけ失礼な奴だと思ってたの? 俺だってたまには気を遣う事だって出来るんだよ、根は優しいんだよ銀さんは」

 

背後で口を抑えながら本気で驚いてる様子のユウキにツッコミを入れた後、銀時はまだ土下座しているキリトに小首を傾げる。

 

「つうかお前も神器探しに行ってなかった? ほら、俺なんかじゃ辿り着けないとかほざいてた五十五層の特殊ダンジョンとやらに行ってたんだろお前」

「五十五層の特殊ダンジョン? それってひょっとして青薔薇の剣が出るっていう氷の洞窟の事?」

「確かにそこへは行ったさ……万全の準備をして絶対に手に入れられると踏んで意気揚々と向かったさ、けど……」

 

銀時に問い詰められてキリトはやっとこさ顔を上げるが、その表情は依然落ち込んだまま

 

「最深部にまで辿り着けた、神器を護る白い竜もギリギリの状況で避け切りながらなんとか出し抜けた、けど竜の裏にある氷の中に封印されているっていう青薔薇の剣は、どこにも無かった」

「それって……既に誰かが先に青薔薇の剣を取っちゃったって事?」

「ハハ、そういう事……俺はもう既に無い神器の為に、貴重な消費アイテムを使いまくったり無駄に時間を浪費して道化を演じていた哀れな存在なのさ……」

「哀れな存在なのは元からじゃん」

「ユウキ、お前ってたまにマジでキツイ事言うよな……ホント止めて泣きたくなるから」

 

正座しながら死んだ目で欲しかった神器を先に取られてしまっていた事を悔しそうに話すキリト。

 

そんな彼にユウキがキョトンとした表情でえぐい事を呟いてる中、銀時はやれやれと後頭部を掻き毟る。

 

「たかがゲームのアイテムを先に取られたからって落ち込んでんじゃねぇよ、神器なんざどこにでもあるモンなんだろ、だったら別のモン探しに行けばいいじゃねぇか」

「この世界に同じ神器は二つと存在しないんだよ! 俺が欲しかったのは青薔薇の剣だったの! クソ腹立つぅ~! 一体何処のどいつが俺の神器を奪いやがったんだ!」

「いやお前のモンじゃないからね、先にとった奴のモンだからね」

 

もはやなりふり構わず怒りの矛先をどこかにぶつけたがっているキリトにシレッとした表情でツッコミを入れると、銀時は隣にいるユウキの方へ振り返り

 

「コイツが欲しかったのってそんなにレアなの?」

「神器は基本的にどれもレアだよ、銀時の持ってる神器の素材だって一般プレイヤーから見れば喉から手が出る程欲しがると思うよきっと」

「……売ったらいくらになる? 家賃何か月分?」

「黒猫団との約束はどうしたのクズ時?」

 

自分が持つ金木犀の枝をもしかして現実世界の金額で高く買ってくれるのではと期待する銀時にユウキが冷たい目を向けていると

 

突然キリトが何か思い出したかのようにハッとした表情で立ち上がった。

 

「そういやあそこにチラッとあの女がいるの見かけたぞ……! もしかしたらアイツが俺の青薔薇の剣を……!」

「あの女って?」

「血盟騎士団のいけすかない副団長様だ、ハッキリとは見えてないけど後ろ姿は間違いなくアイツだった」

「あーアスナの事ね」

 

歯がゆそうにキリトが見たと証言する人物の事を聞いてユウキは納得した様にポンと手を叩く。

 

血盟騎士団の副団長・アスナ、確かに彼女の実力であればあの高難易度のダンジョンをキリトより先にクリアしててもなんらおかしくない。

 

「まさか攘夷プレイヤーの宿敵である血盟騎士団に先越されちゃうなんてキリトも災難だね」

「チクショあのアマァァァァァァァァ!! 俺の青薔薇の剣返せェェェェェェェェェ!!!」

「だからお前のモンじゃねぇって」

 

天を仰いで怒り狂いながら怒鳴り散らすキリトに再びツッコミを入れた後、銀時は彼の肩にポンと手を置く。

 

「先に取られたんならもう仕方ねぇだろ、お前はお前で別の神器探せばいいじゃねぇか、自分に相応しい剣ぐらいいずれ巡り合えるって」

「いやそうは言っても……は! そういえばこの世界で異性同士で結婚出来るって聞いたぞ! そうするとアイテムストレージが互いに共有できるとかなんとか! もし俺があの女と結婚すれば青薔薇の剣もまた俺の下に!」

「おいクズト君、お前この短い中でどんだけクズに成り果ててるんだ? いい加減フォロー難しくなってきたぞ」

「原作キリトがコレ見たら確実に泣きながら走り去るだろうね」

 

まだ未練がましく何やら下卑た企みを持ち始めたキリトに銀時とユウキがそろそろウンザリし始めて来た頃

 

その時彼等の下へフラリと一人の人物が……

 

「おいテメェ……今誰と結婚するとかほざいてやがったんだ、ああん?」

「ん?」

 

こちらに向かって喧嘩腰で飛んで来た言葉にキリトより先に銀時の方が振り返る。

 

そこにいたのは

 

 

 

 

モヒカン頭のいかにもチンピラといった感じの風貌をしたガラの悪そうな男であった。

 

「ようやく見つけたぜ黒夜叉! テメェの悪事もコレで見納めだコラァ!」

「誰コイツ?」

「知らん……悪いけどよそ行ってくれないか、今の俺は機嫌がすこぶる悪いから……マジ今猛烈にイライラしてるから……」

「そう言ってこの俺が逃げられると思ってのかよオイ! ああん!?」

「なんかキリトに用があるみたいだねこのモヒカン頭」

「いやだから知らないっての、いい加減にしろよホント……」

 

頭を左右に振りながら威嚇する様な仕草をする男が歩み寄って来る。

 

キリトは不機嫌そうにシッシッと手で追い払う仕草をしていると、その態度に腹を立てたのか男は血走った目で睨み付けてくる。

 

「俺に狙われたのが運の尽きだったな! 今からテメェを一方的にボコボコにしてやるから覚悟しとけよ! ああん!?」

「なんなのコイツ、ちょっと世界観が俺達と違い過ぎるんだけど、アレ絶対世紀末の時代の人だよね」

「凄いねぇこんな小悪党な見た目をしたアバター見るのボク初めてかも」

「んだテメェ等も黒夜叉の仲間かコラ! だったらテメェ等も俺がとっちめてやんよ! ああん!?」

 

懐から彼が取り出したのは釘の付いたバットというなんともこの世界では珍しい鈍器であった。

 

物珍しそうに見つめて来る銀時とユウキに、男は彼等もまた標的と見定め喧嘩腰で近づいて来る。

 

 

 

 

 

 

 

「このEDOのトップランカーと称されるマウンテンザキ様が!! テメェ等まとめて粛清してやるからかかってこいやコラァァァァァァァァ!!!!」

 

彼の名はマウンテンザキ

 

 

たった一人の少女を護る為に立ち上がった恐れを知らぬ勇者。

 

そして

 

 

 

 

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「ほぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

相手の力量を計らずに一時的なテンションに身を任せて戦いを挑んでしまった愚者。

 

神器を入手できなかった苛立ちが遂に限界突破したのか、剣ではなく拳一つを思いきりマウンテンザキの腹に食い込ませるキリト。

 

「こっちはイライラしてるんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あべしッ!」

 

反射的にのけ反った彼にもう一発顔面に入れて後ろに倒した後、キリトは馬乗りになった状態で一心不乱に彼を両手で殴りつける。

 

「どうして!! 俺以外の奴ばっか!! 神器手に入れてんだゴラァ!!」

「いやそんな事俺は知らな……ひでぶッ!! たわば!!」

「はいはい一旦落ち着こうかキリト、ヤケになってモヒカンに八つ当たりしちゃダメだって」

「そうそう、ところでキリト君、神器を造れる鍛冶屋って知らね? せっかく神器の素材があるのに腕の良い鍛冶師がいねぇとダメみたいなんだわ、いやー神器の素材手に入れちゃったモンだから色々と大変だわー」

「知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! くっそ羨ましいィィィィィィィィィィ!!」

「どっぽんぺッ!!!」

 

ユウキがなあなあで彼の怒りを収めようとするも、わざとらしく神器に触れる銀時の発言よって更にヒートアップ。

 

この後、マウンテンザキは一方的に32発の殴打を食らいあっけなくHPをゼロにして白目を剥いたまま四散。

 

二人の対決の結果はバーサク状態のキリトに軍配が上がる。

 

 

 

 

 

マウンテンザキ、もとい山崎退の戦いは今ここで終わりを告げたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「明日菜ちゃん、俺やっぱEDOでは現実と同じ姿でプレイする事にするよ……」

「また急にどうしたんですか……それは私も大いに賛成ですけどなんかあったんですか?」

「……威勢が良くてもなりふり構わずつっ走っていくのは無謀だとその身で感じたんだ……やっぱり俺は一生地味のまま過ごす方がお似合いなんだ」

「山崎さん暗いですよ! 本当に何かあったんなら私相談に乗りますから!」

 

後日自分が護ってやらねばと決意したばかりの年下の少女・明日菜といつもの喫茶店で再会した山崎は

 

 

激しく落ち込んだ様子で項垂れ、それを心配する彼女から何度も励ましてもらう羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 




前回の回を終えた後感想やメールで

カイバーマンさんの書くヒロインはやたらと愛が重い思考ですけど理由とかあるんですか?

と聞かれました

初めて気づきました。

ぶっちゃけ無意識にこっちの方が好きに暴れられるからとかそんな理由でずっと書いて来たんだと思います。
ヒロインは完璧よりもどこかぶっ壊れてたり弱点があると言ったタイプの方が書いてて楽しいので、
別作品で書いてた暁美ほむらとかノリノリではっちゃけさしてましたからね。

ちなみに私自身はどちらかというと正統派ツンデレ系が好きです

ドラゴンボールで例えるなピッコロです、少年御飯を鍛えてる時とかドストライクです



山崎回はあっけなくこれで終わりです。ちなみに私が一番好きな銀魂キャラです

次回は現実メインの話

遂に原作主人公コンビと原作ヒロインコンビが現実世界で鉢合わせ

銀時と一緒に絶賛辱めに合ってる状況という最悪なタイミングで現れた彼女に和人は……

ご感想いつでもお待ちしておりますのでお気軽にどうぞ!

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