竿魂   作:カイバーマン。

21 / 92
新章スタートです。銀さん一行は更に色々な人達と出会う事となります。お楽しみに

それと春風駘蕩がまたしても本作品のイラストを描いて下さいました!

桐ケ谷兄妹と志村姉弟のデフォルメ絵です


【挿絵表示】


……よりにもよってなんでこの惨劇のシーンをチョイスしたのだろう……

でも描いてくれて本当にありがとうございました!!




疾風怒濤編
第二十一層 その一撃は尻をも貫く


「はぁ!? 聞いてないんだけど!? チョベリバなんだけど!」

「いやまあいきなりで悪いとは思ってるけど……チョベリバってなに?」

 

ここは第二十一層地点にある小さな街

 

今日は上へと昇る為のダンジョンではなく、ちょっとしたイベントが起こると言われている特殊ダンジョンへと赴く予定であった銀時であったが

 

共についてくる予定であったキリトからとんでもない報告を受ける羽目になった。

 

「ちょっくら耳寄りな情報をアルゴの奴から貰ってさ、俺としてはそっちを優先したい訳でして……」

「じゃあ何か、テメェは俺と一緒に行く予定だったダンジョンじゃなくて、俺がまだいけないもっと高難易度のダンジョンへ行くっつうのか?」

「なにせ五十五層のダンジョンだからな、そこで俺達ベテランが待ちに待ったとんでもないモンが手に入るって聞いたら、そらもうゲーマーとして行くしかないだろ」

「テメェなに開き直ってんだぁ!!」

「どふッ!」

 

後頭部を掻きながらヘラヘラ笑って悪びれもしないキリトの顔面に右拳のどストレートをかます銀時

 

ここが街中でなかったらキリトのHPはかなり減っていたであろう。

 

「俺との約束をドタキャンして何一人で強くなろうとしてんだコラ! 俺とダンジョンどっちが大事なのよ!」

「彼女か! ドタキャンは悪いと思ってるけど仕方ないだろ! ようやく『神器』を手に入れる事の出来るまたとないチャンスなんだよ!」

「神器? 何それ?」

「あー神器ってのは……」

 

聞き慣れない言葉を用いて来たキリトに銀時が頭の上に「?」を浮かべると、キリトはめんどくさそうにいつもの様に説明をしてあげようとするのだがその途中で

 

「……いや、やっぱりいいかここで説明しても今のアンタにはまるで関係の無い事だし」

「はぁ!?」

「要するにEDOの中でも極めてレアな類の代物なんだよ、まだ初心者の段階から抜け出せてないアンタじゃ到底手に入らない、いやむしろ一生見つけ出す事さえ出来ないかもしれないな、俺でさえまだ情報しか掴んだ事無いんだから」

「相変わらずこっちの世界では上から目線だなコイツ……いい加減初心者扱いすんじゃねぇよ! こちとらもうここまで進めてるんだからお前等と一緒の枠に入れてもいいじゃねぇか!」

「いやいや、俺達の枠に収まるにはまだまだまだだって、俺がここに至るまでかかった時間は丸二年だぞ? 経験が足りなすぎるし、メニュー操作さえ未だにおぼつかないし、まあ気楽に頑張って……」

「男女の交際さえ経験してねぇ童貞のお前が俺に経験云々を語るんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「どるべッ!」

 

今度はドヤ顔で先輩風を吹かせながら調子に乗った様子で語りかけてくるので

 

またもや銀時がキレて彼の顎に左アッパー。

 

「神器だかキンキキッズだか知らねぇが欲しかったら勝手に取って来いバカ野郎! こうなったら俺は俺一人で行く予定だったダンジョン行ってくっからな!」

「アゴ取れてないよな……悪いけどソロ未経験のアンタじゃ未開のダンジョン攻略なんて止めといた方が良い、てかユウキはどうしたんだ? ユウキがいれば二人で行けるだろ?」

「アイツはガス欠だ」

「ガス欠!?」

「定期的にガソリン飲まねぇとあのからくりの身体は動かなくなるのは前にオメェにも言っただろ」

 

毎度毎度常に銀時と一緒にこっちの世界に入っているユウキだが、今日はまだ彼女の姿を見ていない。

 

銀時は腕を組みながら顔をしかめる。

 

「ここ最近仕事もロクに無かったからアイツのガソリン代も払えなくなっちまったんだよ、だから今のアイツは機能停止状態だ」

「ホント仕事無かったからな……」

「まあそれをみかねたババァが歓楽街の客引きの仕事やるって依頼を貰って来てくれたから、今晩それやってなんとかガソリン代の金位稼いでくるわ」

「アンタってホントユウキには優しんだよな、その優しさをどうして俺にも分けてくれないんだ……」

「あ、お前もちゃんと参加しろよ、俺の部下なんだから」

「いやいいけどさ……でも客引きの仕事を未成年に強制させる大人ってどうなんだろうか……」

 

ペッと唾を地面に吐きながらこちらに目を細めながら命令してくる銀時に、先程ドタキャンした罪悪感もあって内心嫌がりつつも渋々従うしかなかった。

 

「じゃあ今日の夜までにお互いにここでの用事済ませる事にしようぜ、でもアンタはやっぱソロでダンジョン行くのは止めて置いた方が良いぞ」

「ふざけんな、散々俺の事を初心者扱いしやがって、ここいらでちょっとテメェを見返してやらねぇと気が済まねぇんだよ」

「あっそ……なら俺は俺でアンタじゃまだ辿り着けない『神器の入手』に行ってくるよ」

 

このままキリトにナメられ続けるというのもなんだか癪なので、ムスッとした表情を浮かべながら銀時は断固譲らない。

 

キリトもついて行ってやりたい気持ちもほんのちょっぴりはあるが、やはりこの世界で冒険する者なら誰でも欲しがるであろう超が付く程のお宝を手に入れるチャンスをここで失いたくはなかった。

 

「でも残念だな、神器を手に入れることが出来たら、またアンタと俺の差が広がるんだぜ?」

「ケッ、言うだけ言ってろ、見てろよガキンちょ、今日俺は一人前の冒険者となってその差って奴を埋めてやらぁ」

「はいはい……ま、無理だと思うけど何事も経験だし頑張ってみれば良いんじゃないか? 今まで俺がどれだけアンタの事を助けてやっていたのか、嫌と言う程実感できるは筈だし」

「……」

 

肩をすくめながら小馬鹿にした感じで見送るキリトに、銀時は苦々しい表情を浮かべて舌打ちした後

 

たった一人、一度も行った事のないダンジョンへと赴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから三十分後

 

「迷ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ここどこぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

暗い森の中で叫び声が木霊する。

 

初のソロダンジョン攻略に挑戦した銀時は、早くもピンチに陥っていた。

 

ここはプレイヤーの間では迷いの森などと呼ばれている特殊ダンジョン

 

一度入れば複雑な迷路のようになっており、一旦迷うと同じ所を何度も回る羽目になってしまい、ベテランプレイヤーでもここを単独でクリアするのは至難の業だ。

 

意気揚々と入り口から入った銀時であったが、ここのダンジョンのシステムを把握すらしてなかった銀時は、あっという間に森の中を彷徨う羽目になってしまったのである。

 

まだお昼の時間だというのに森の中には光が差し込まれず、辺り一面が暗く不気味だ。

 

嫌な雰囲気を感じつつも銀時はキョロキョロと見渡しながら、一体何処へ進めばいいのか途方に暮れていた。

 

「すんませんやっぱ俺帰るわ! キリト君の言う通り俺にはまだここ早過ぎたわ! という事で誰か出口教えてくださいお願いします!!」

 

暗くなっているおかげでロクに見えない状況で、銀時はあっさりとダンジョン攻略を諦めて帰ろうとする。

 

しかしその帰り道さえもうわからない。

 

「もしもーし!! 誰かいませんか~!? ってうおッ!!」

 

暗闇に向かって両手を口に当てて必死に叫んでいると、銀時の目の前から何かが迫って来たのを感じて、ヒラリと横に逸れてなんとか回避する。

 

迫って来たものの正体は、ギザギザに尖った鋭い二つの牙であった。

 

「うえぇぇぇ! なんだこのでけぇムカデ! 気持ち悪ッ!!」

 

奇襲をかけて攻撃してきた相手はこのダンジョンに棲息する2メートルぐらいの巨大なムカデ型のモンスターであった。

 

大きな体で口下に着いた二本の牙を小刻みに震わせながら、こちらに腹を見せながら何十本もある足をワシャワシャと動かす姿は現実で見る時よりも数倍気色が悪い。

 

いきなりこんなのが現れた事に銀時は一瞬青ざめて面を食らうも、すぐに一歩前に踏み出し

 

「チィ!!」

 

右手に持っていた得物、『物干し竿』の刃を光らせ銀時は巨大ムカデを一刀両断してしまう。

 

この周りに誰もいない無い暗闇の森の中、銀時はもっと”別の存在”が出てくるのではと恐れていたのだが、相手が虫であったら怖くもなんともない。

 

「ムカデなんかでビビッてちゃかぶき町に住めねぇんだよ、こちとらずっとゴキブリ先輩と同居してんだバカヤロー、おまけに最近じゃゴキブリみたいな部下まで出来たんだぞ」

 

一撃で葬ったムカデを見下ろしながらケッと吐き捨てる銀時であったが

 

「あん?」

 

再び奥からワシャワシャと嫌な気配を感じる。

 

案の定巨大ムカデは一匹ではなかった、次から次へと同じ虫型のモンスターが列を乱さずに流れ込み

 

芋虫やアリ、蛾やバッタなどと様々な虫が巨大化した姿で、あっという間に銀時を囲んでしまう。

 

「ったくここのダンジョンのモンスターは全部こんなのばっかなのかよ……流石に集団で現れると鳥肌立つわ」

 

大量の虫軍団に囲まれながらも銀時はまだ余裕と言った態度で周りを見渡し、得物を両手に構えながらまずは目の前にいる芋虫型のモンスターに飛び掛かる。

 

「森なんだから妖精とかユニコーンとかそういうファンタジックなデザインのモンスター用意しとけよ! こんな気持ち悪いのばっかり相手にしてたらやる気でねぇわ!!」

 

そう叫びながら銀時は芋虫を一撃で葬り、近寄って来る虫モンスターを片っ端から斬り捨てていく。

 

何体、何十体ものの虫達を相手に銀時は全く怯みもせずに、襲い掛かって来る連中の攻撃を避けながら何度も相手の急所を捉えてクリティカルヒットによる一撃必殺を浴びせていく。

 

「おらおらそんなんじゃこちとら欠伸出ちまうぞ! 欠伸と一緒に屁も出ちまうぞ! もうちょっとやる気出して襲ってこいや虫けら共!!」

 

それは一般的なプレイヤーの動きとは全く別次元の殺陣であった。

 

愛刀である物干し竿は高い攻撃力を誇る得物ではあるが、HPバーが半分以下に達してないと装備出来ない特殊武器

 

故に銀時はダンジョンに潜る際は常に半分以下のHPの状態を維持している。

 

今回もまた例に漏れず銀時は最初からHPを半分以下に調整して挑戦しているので

 

ここにいるモンスターの攻撃を一度でも食らえばすぐに致命傷に陥る。

 

しかし相手の攻撃を回避する事に関しては、キリトやユウキからお墨付きを貰うほどに銀時はこのゲームを始めた時から上手い。

 

おまけに回避行動を行いながらも相手の急所を確実に捉えるカウンターも得意とし、その常人離れしの戦い方は素直にキリトも認めている。

 

当たらなければどうという事はない、という言葉を体現しているかの様に銀時はそのスタイルでずっとここまで来たのだ。

 

そして更に驚きなのは、この銀時の動きは現実世界での動きよりも遥かに劣化しているという事だ。

 

故にこれはまだ成長の途中段階に過ぎない

 

「はいこれで終わりぃ!!」

 

最後に残った蛾の様なモンスター目掛けて大きくジャンプすると、ザンッ!と斬り伏せて銀時はあっという間に戦いを終了させてしまうのであった。

 

「やべぇ、どうやら銀さんはこのゲームを完全に極めちまったようだ、自分で自分が怖ぇよ、ゲームでも無敵とか半端ねぇよ」

 

死骸となったモンスター達を眺めながら銀時は満足げにドヤ顔を浮かべ、自分の成果を自画自賛し始める。

 

「こりゃあもうキリトとユウキも俺の事を認めざるを得ないみたいだな、今度からアイツ等には常に敬語を使わせる事にしよう、呼び方も「銀時様」に決定だ、いややっぱ「火影」とか「海賊王」とかの方がいいな」

 

二人にどう呼ばれるか想像しなが一人ほくそ笑む銀時、だが……

 

「ん?」

 

プスッと額に何か刺さったかのような感触を覚えた。

 

ふと目の前を見ると誰もおらず、試しに自分の額を触ってみると

 

「何コレ? 蚊?」

 

額に何か付いてたのでそれを取ってみると、先程の巨大な虫達とは違い、現実世界と同じ標準サイズの蚊みたいなモンスターであった。

 

「ま、ここまで小さかったらそりゃ見逃すわな、けどたかが蚊の一撃程度でこの海賊王が倒される訳……」

 

両手でパチンと蚊を潰しながら、全然問題ないと銀時は余裕の態度で一人呟きつつ自分のHPバーをチラリと見てみると……

 

徐々にだが少しずつ減っていた

 

「ってオイィィィィィィィ! 俺の体力どんどん減っていってるじゃねぇか!」

 

よく見ると自分のHPバーの枠が紫色になっている。これはEDOにおけるバッドステータスに陥っているという事を現し

 

そして紫色という事は「毒状態」

 

「まさか毒になってんのコレ!? おいおいまさか変な女から病気染されたとか!? 全然見覚えねぇんだけど! つうかそもそもここ最近御無沙汰なんだけど!」

 

大方原因は先程の蚊の攻撃によるモノであろうが、銀時は全く見当違いな事を言いながら急いで指を動かしてアイテムメニューを目の前に出現させる。

 

「ええっとどくけし草ってどれだっけ? いや待てよ、そもそもどくけし草って名前だったか? つうか俺は毒を消すアイテムとか持ってたっけ?」

 

戦闘方面についてはベテランプレイヤーにも引けを取らない銀時ではあるが、彼がまだ未熟な所はここにある。

 

このEDOにおける基本知識だ。

 

一向に慣れず、おぼつかない操作で長い時間をかけながら必死に毒を消すアイテムを探す銀時

 

しかし

 

ブスリっという下半身から来た鋭い感触が、銀時の操作を止める。

 

「あれ? なんか今度はこっちの方に違和感が……」

 

次は何だと銀時はしかめっ面を浮かべつつ、違和感を感じた自分の”お尻”の部分を振り返って見下ろすと

 

金色にテカテカと光る50センチぐらいの大カブトムシが、自慢の鋭く尖ったツノを見えなくなるぐらい思いきり自分の尻に突き刺していたのだ。

 

「アァァァァァァァァァーッ!! なにコイツいつの間に俺のケツにカンチョ―しやがってッ! ふざけ……!」

 

痛みが無いのは救いだが、それでも尻に異物がぶっ刺さるという生々しい感触はかなり精神的に来る。

 

銀時は雄叫びを上げつつ急いで尻を襲ったカブトムシを抜こうと手を伸ばすのだが……

 

「うご! な、なんか急に全身が痺れて来た……!」

 

全身にビリビリと痺れる感覚が銀時を襲い、そのまま彼は前からバタリと倒れてしまう。

 

カブトムシが刺さった尻を突き出したままというなんともマヌケなポーズで

 

紫色に染まっていたHPバーが今度は黄色の点滅も追加される。

 

これもまたバッドステータスの一つ、いわゆる「麻痺状態」であった。

 

「ま、まともに動かせられねぇ……! ヤベェこんな状態でまたモンスターに出くわしたら……!」

 

己の状況が徐々に深刻になっている事に気付いた銀時は、痺れる身体をなんとか動かそうとするも、残念ながら麻痺による硬直時間はゲーム上の仕様なので自分の気合で解除するとかは不可能である。

 

毒と麻痺を食らい、どんどん減っていくHPバーを眺める事しか出来ない銀時の顔には焦りの色が出始めた。

 

「だ、誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 誰か助けて下さぁぁぁぁぁぁぁぁい!! ヘルス! ヘルスミィィィィィィィ!!!」

 

ダンジョン内で身動きが取れないというのはご自由に攻撃して下さいと言っている様なモノ

 

必死に叫び声を上げながら通りすがりのプレイヤーでもいないのかと願っていると

 

「あり~? なにマヌケなポーズで寝てんですかぃ旦那」

「!?」

 

ふと背後からつい最近聞いた様な声が飛んで来た。

 

振り返りたかったが動くに動けない銀時の前へ、ヒョイッと一人の男が一つに結った長髪を垂らして顔を覗かせて来た。

 

「ちなみにヘルスミーじゃなくてヘルプミーでござる」

「お前は! あの娘っ子二人の仲間だった野郎!」

「ソウゴでさぁ、名前覚えといてくだせぇ、でござる」

 

現れたのはあの血盟騎士団の副団長・アスナと縁の深い人物、エセ人斬り抜刀斎ことソウゴであった。

 

思わぬ助け船に銀時が顔だけを驚かせていると、彼は目の前でしゃがみ込みながらジト目で

 

「およ? あのガキ二人がいないって事は今日は一人でダンジョン攻略に? 奇遇ですね俺も今日はソロで来てるんですよ、毎日小娘のお守りなんてめんどくさくて仕方ねぇんで気晴らしにね」

「いやそれはいいからさっさと助けろよ! まんげつそうなりどくけしそうなり持ってんだろ!」

「そもそも俺はあの小娘共嫌いなんですよ、チャイナの方は言わずもがなですが、もう一人の方はとことん仲が悪くていつも生意気言ってくるんでさぁ。ガキの頃しょっちゅう泣かしてやった事を根に持ってるんでしょうねきっと、あの時に反抗できないぐらいもっと泣かせとけば良かったと未だに後悔してるんですよ俺」

「だから助けろつってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! なにこの状況で普通に世間話始めようとしてんだ!」

 

HPバーがそろそろ赤色に点滅しかけて焦りながら怒鳴り出す銀時に、ソウゴはやれやれとサッと指を振ってすぐに画面から毒を治すポーションをヒョイッと取り出して銀時の口に

 

「はいこれで毒は治りますぜ、でござる」

「ぶ!」

 

乱暴に瓶を突っ込んで銀時に一気に飲ませると、ようやく彼の毒状態は解除された。

 

「もしかして旦那、ソロプレイでのダンジョン攻略は初めてですかぃ? 言っておくがソロで動く時は前々から念入りに準備をしねぇとすぐにおっ死んじまうんですよ。情報屋からマップを買って出現するモンスターやアイテムのチェックをやっておかねぇと、そんな風に敵地でケツ突き出したまま動けなくなっちまってたらソロなんてとてもじゃないけどおススメ出来ませんぜ」

「わざわざアドバイスありがとよ……てかまだ痺れてるんだけど俺! つかまだカブトムシがケツに刺さってるし早く両方共なんとかしてくれ!」

「やれやれ注文が多くて仕方ねぇ、もし血盟組の副長殿が同じ状況になっていたら俺はこの上ない至福の時を過ごせるっつうのに、旦那じゃ虐めても面白くねぇや」

「……お前等本当に仲間?」

 

呆れたように首を振りながらも、ソウゴは銀時の為にまたアイテム欄から麻痺を治す為の薬を取り出そうとする

 

だが

 

突如ソウゴの背後から何者かが襲い掛かり、彼の尻にブスリ!と思いきり刺した。

 

すると一瞬驚いた表情を浮かべるとフッと笑い、ソウゴは銀時と同様バタリと前のめりに倒れ

 

「へ、俺とした事がドジちまったぜ……」

「ソウゴくぅぅぅぅぅぅん!!」

「コイツは『ゴールデンヘラクレスカンチョーカブト』……プレイヤーの背後に忍び込み、そのケツのみ狙いを定めて角を突き刺す事だけを目的とするモンスターでさぁ、刺されたプレイヤーは俺と旦那同等長時間のマヒ状態になっちまうんです」

「カンチョ―されたまま冷静に説明してんじゃねぇよ! どうすんだよコレ! 二人共身動きとれねぇじゃねぇか!」

「こりゃ誰かほかのプレイヤーが通り過ぎるのを待つしかねぇですね。今日はこのダンジョンに来る奴は多いでしょうしきっとすぐ来まさぁ、おっと噂をすれば……」

 

二人で向かい合ったままカブトムシに尻を刺されたまま倒れているというなんともシュールな光景でいると

 

ガサガサと何かが近づいて来る気配がしたのでソウゴは首だけを動かしてそちらの方へ振り向くと

 

 

先程説明したばかりのゴールデンヘラクレスカンチョーカブトの大量の群れがワシャワシャと音を立てて一斉にこちらに近づいて来ていた。

 

 

「あ、プレイヤーじゃねぇモンスターの方が先に来やがった、しかも俺達のケツに刺さってる奴と同じ奴」

「ギャァァァァァァァァァ!!! ケツにカンチョ―してくる奴がこんな大量に出て来たぁ!」

「間違いねぇ、きっとコイツ等は身動き取れねぇ俺達のケツを代わりばんこに刺しまくるつもりだ」

「なにその誰も得しないシチュエーションは!? このままだと銀さんの尻の穴が大変な事になる! 痔になる!」

 

最悪なタイミングかつ最悪なモンスターの集団を前にして銀時はなんとか動こうとするも未だ麻痺は治らない。

 

大量のカブトムシは格好の得物とばかりにどんどん距離を縮めて近づいて来る。

 

万事休す、このままキリトの言う通り成す総べなく簡単にやられてしまうのかっと銀時が覚悟したその時

 

 

 

 

 

 

「テツオ! ササマル! 前衛に出て敵の隊列を乱せ!」

「了解!」

「がってん!」

「!」

 

もうダメかと諦めかけていたタイミングで不意に木霊する声に

 

銀時はハッと目を見開くと

 

「おらおらぁ! 道空けろコンチクショウ!」

「まずは俺達を倒してからこの先進んでみろぃ!!」

 

大量のカブトムシを前に、二人の少年が立ちはだかり、一人はメイス、もう一人は槍を持ち、威勢の良い声を上げながら

 

倒れている銀時とソウゴの目の前でバッタバッタと薙ぎ倒していく。

 

「日頃の行いの賜物だねーソウゴ君、どこぞの役立たずと違って頼りになりそうな奴等が来てくれたよ」

「旦那、あっち見てる所悪ぃんですが、すぐ後ろにまた別のカブトムシがケツを刺そうとしてやすぜ」

「あぁぁぁぁぁぁ!! 止めて! 銀さんの穴に二本も入らない!」

 

後ろに振り返ることが出来ない銀時に代わって、目の前の沖田が冷静に彼の状況を報告。

 

少年二人が倒し切れなかったカブトムシが左右に角を振りながらゆっくりと銀時の背後に忍び込もうとする。

 

するとそこへ

 

「危ない!」

 

三人目の少年が華麗にカブトムシの前へと立ち塞がり、手に持った片手剣で勢い良く吹っ飛ばした。

 

「二人共キチンと敵を倒しておけよ! 倒し損ないがこっちに侵入してるぞ!」

「わりぃダッカー! そのまま俺達の背後で溢れた奴等を倒してくれ!」

「全く、戦い方が荒いんだよ……すみませんちょっと行って来ます」

 

前衛で敵を倒していく二人に向かってため息を突いた後、ダッカーと呼ばれた少年は苦笑しながら銀時達の方へ一礼すると、彼等の背中を護るかのように一緒に戦い始めた。

 

銀時とソウゴはしばらく呆然とその戦いを眺めていると

 

「あー良かった、なんとか間に合ったみたいですね」

「?」

 

駆け足でやってきた4人目の少年が、安堵の表情を浮かべながら優しく笑いかけて来た。

 

見覚えのない少年に銀時はパチクリと瞬きしてると、彼の隣に一人の少女が現れる。

 

「ケイタ、二人共麻痺状態になってるみたい、挨拶する前にさっさと回復させてあげないと」

「あーそうだった! それじゃあサチはお二人の手当てを頼む、俺はまだ近くにいる敵を……」

 

ケイタと呼ばれた少年はすぐにその場を後にしようとする

 

その時銀時とソウゴは、こちらをやや緊張した面持ちで見下ろしてくる少女をジーッと眺めた後

 

「それじゃあのすみません、俺のケツのカブトを抜いて下さい」

「俺もお願いしやーす」

「ええ!?」

「なんかもうケツに異物突っ込まれた感覚が嫌でしょうがねぇんだよ、早く抜いてお嬢さん、君の手で銀さんのカブトを抜いて」

「俺のカブトも遠慮なく抜いてくれ娘っ子」

「いやその……まずは麻痺の回復を……!」

「いや回復より先にカブトだろ、俺のケツの奥底に引っかかるこの巨大でテカテカしたカブトを早く抜い……」

「あの二人共ー! サチに対してそういうセクハラは止めてくれませんかぁ!」

 

尻に刺さるカブトを抜いてくれと妙に生々しい言い回しをしながら頼んで来る銀時とソウゴにサチはオロオロしながら困惑していると、先程行ったと思っていたケイタが急いでこちらにやってくる。

 

「見るからにピンチな状態なのにどうしてそう余裕な態度出来るんですか! カブトなら俺が抜きますから!」

「いやいいって、俺はこのお嬢さんに抜いてもらうから」

「おい早く抜いてくれよ、その震える手で俺のケツを拝みながら抜きやがれ」

「凄いなこの二人! この状況下でもなおセクハラを止めないぞ! いっそ清々しい!」

「いや感心しないでよ……」

 

お尻を突き出して硬直状態にも関わらず、二人はただサチに対して視線を一点集中させながらセクハラ発言の連発。

 

ここまでくると逆に凄いと驚くケイタに、サチはジト目で静かにツッコミを入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後

 

プレイヤーの尻にツノを刺すという凶悪なモンスターをなんとか退けて

 

4人の少年と1人の少女は改めて銀時とソウゴの前に立った。

 

二人はあの後無事に回復を施され、尻に刺さっていたカブトも抜いてもらう事に成功。

 

ちなみに二人は赤面するサチに強要していたが、埒が明かないと無理矢理ケイタが後ろから引っこ抜いた

 

 

「危ない所でしたね二人共、まだ体に異常とか残ってませんか?」

「いやぁ大丈夫大丈夫、ホント助かっ……あー! ケツが二つに割れてんじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」

「旦那、そりゃ元からです」

 

自分の尻をさすりながらショックで叫ぶ銀時にソウゴは冷静に諭した後、5人組の彼等の方へと振り返った。

 

「助けてくれた事には感謝するぜ、だがなんで俺達がここにいるって気付いたんでぃ、でござる」

「いやいやアレだけ森の中で絶叫上げてれば普通気付きますよ」

「おい、この人もしかして血盟騎士団の所の副団長の配下に属してる人斬りソウゴじゃないか?」

「人斬りソウゴってあの傍若無人にして容赦無しに不正プレイヤーを徹底的に弄ぶドSの!?」

「もしかして俺達、とんでもなくヤバい人を助けちまったんじゃないか……?」

「後ろのガキ三人聞こえてるぞ、俺がいつあのおてんぱ娘の部下に成り下がったんだ」

 

5人の先頭に立つケイタに話しかけていると、背後の少年三人組がヒソヒソとこちらを目配せしながら声を潜めて喋っているのをソウゴは見逃さない。

 

色々言われているが、副団長・アスナの部下と言われた事にはカチンと来ているらしい。

 

「俺は別にあそこのギルドに属している身じゃなくてちょいと身を寄せているだけでぃ。拙者はあくまでただの流浪人であって勘違いしてるとテメェ等も不正プレイヤー同様輪切りにするでござる」

「す、すんません!」

「ああ許してください、コイツ等ホント街中の噂話とか聞くの好きなもんで」

「おいズルいぞケイタ!」

 

腰に差してる刀をチャキッと抜こうとするソウゴの動きにいち早く反応して三人組の中の一人が謝ると、後頭部に手を回しながらケイタも非礼を詫びる。

 

「改めて自己紹介させて頂きますソウゴさん、俺達は『月夜の黒猫団』っていうギルドでして。今日は第二十層にある特殊ダンジョンである物が手に入ると聞いてやってきてたんですよ」

「月夜の黒猫団? てんで聞いた事ねぇギルド名だな」

「まあホントに小さなギルドですからね、リアルでの知り合い同士の5人で結成した組織ですし、ギルドと言うよりサークルと言った方が正しいかもしれません」

 

月夜の黒猫団……そう名乗るこのケイタと言う少年がきっとリーダー格なのであろう。

 

しかしソウゴのよく知る血盟騎士団に比べれば弱小もいいとこであろうが

 

先程見事に少数で集団の敵を撃退した動きから察するに、中々良いチームだという事はわかる。

 

「ま、名前だけは覚えておくぜぃ、ツラは揃いも揃って似た様な面構えだから覚える気ねぇけどよ」

「ハハハ……あの人斬りソウゴにギルドの名前だけでも覚えてもらえれば光栄ですよ」

 

かなり失礼な事を言って来るソウゴに対し、ケイタは苦笑しつつ、ふと隣で呆然と立ちすくしていた少女・サチの方へ目をやる。

 

「さっきからずっと黙ってるけどそうしたサチ? まだこの二人にセクハラされた事を根に持ってるのか?」

「ち、違うわよ! ビックリして固まってたの! この銀髪の人が持ってる武器を見てよ!」

「武器? ってああ!」

「あん?」

 

サチが気になっていたのは銀時が右手に握っていた長刀

 

彼女に促されてケイタもそれをまじまじと見つめると、何かに気付いたように目を大きく見開いて見せた。

 

「ひょ、ひょっとしてそれって『物干し竿』ですよね!?」

「なんでオメェ等が俺の刀の名前知ってんだ?」

「知ってるも何も……あ! よく見たらあなた!」

「おいこの人もしかして!」

「嘘だろオイ! こんな偶然ってあんのかよ!」

 

やや興奮した面持ちで尋ねて来るケイタに銀時は口をへの字にして顔をしかめていると

 

ケイタに続いて後ろの少年達も我先にへと銀時の方へを身を乗り上げる。

 

「モジャモジャの銀髪天然パーマ!」

「死んだ魚の様な目!」

「いつもけだるそうな口調で締まりの無い顔付き!」

「よし、お前等が全員まとめてゲームオーバーにされたいってのはよくわかった」

「違います違います! 実は僕等はですね!」

 

自分の特徴を次々と挙げていく彼等に銀時は仏頂面で得物を肩に掛けながら軽く脅すと

 

慌ててケイタが事情を説明しようとする、しかしその前にサチが銀時の方に一歩歩み寄り

 

「実はずっと前にあなたの事をあの人から聞いていたんです! それから私達もあなたの事を探していました!」

「は? いきなり何? ちょっと話が良く見えねぇんだけど」

「あの、念の為確認させて頂きますけど……」

 

銀時は彼等とは間違いなく初対面だ、現実世界でも彼等とは出会っていない筈。

 

一体全体、どうして彼等が自分を探していたのかと銀時が疑問を覚えていると

 

恐る恐るサチは彼に向かって

 

 

 

 

 

 

「”ランさん”の恋人の坂田銀時さんですよね?」

「はぁ!? ランってもしかして……! てかお前今俺の名前を!」

 

ランという名前と、自分の現実世界での名前をフルネームで呼ばれて銀時は驚いた。

 

ラン、それはかつて銀時と深い関係にあった女性・藍子の仮想世界でのもう一つの名前

 

サチの口から放たれたその名に銀時は一瞬思考が停止した。

 

 

 

そして銀時は彼等から聞く事になる

 

現実世界とは違う、仮想世界での彼女のもう一つの顔を

 

 

 

 

 

 

 

 

 




基本的にこの作品の主要陣の中にはロクな奴がいないので

月夜の黒猫団の彼等がより聖人に見えてきます

それでは感想お待ちしております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。