竿魂   作:カイバーマン。

20 / 92
銀魂の原作では最終回も近いという事でファイナルファンタジー(最終回発情期)が流行してるみたいです。

私は誰と誰がくっつこうがどうでもいいのですが

強いて言えば新八にはパンデモニウムさんとファイナルファンタジーして欲しいです


第二十層 繋がり続けるは人の縁

江戸で最も危険な街、かぶき町は朝っぱらからも騒がしかった

 

「知るかボケェェェェェェェ!! 金がねぇなら腎臓なり金玉なりチンコなり売って金作れやクソったりゃあ!!」

「家賃如きで朝からうるせぇんだよババァ!! ていうかチンコは一個しかねぇんだから売ったらおしまいだろうが!! 俺をオカマにしてぇのかコラァ!!」

「なりゃあいいだろうが! そうすりゃあ西郷の奴の所の店で金稼げるだろ!」

「人の性別と就職先を同時に決めてんじゃねぇ! つうかアレだ! この前壊れたパソコン直してやっただろ! アレでチャラだろ! アレで家賃分にはなっただろ!」

「5か月分の家賃をあの程度の事でチャラに出来るかアホンダラ! 大体あのパソコンまた壊れたんだよ! ダブルクリックが出来なくなるという致命傷が出来ちまったんだよ!」

「諦めるな! ダブルクリックがダメならトリプルクリックして補えばいい! 活路もサイトも開ける筈だ!!」

「開くわけねぇだろうが! お前パソコンをなんだと思ってるんだ!」

 

『万事屋銀ちゃん』を営んでいる坂田銀時の戸の前で、その銀時と何やら揉めている様子の50代ぐらいの女性が一人

 

お登勢

 

この店の下の階にある『スナックお登勢』の店主であり銀時に住処を与えた張本人であり何かと彼が世話になっている人物。

 

今日もまた家賃の取り立てとして朝からタバコを片手に持ったまま銀時に催促するのだが、案の定彼は今月分の家賃さえ払う暇がない程文無しであった。

 

「んな事はいいからさっさと家賃払えや貧乏人!!!」

「貧乏だってわかってる人間に金をたかるとかそれが江戸っ子のやる事かコノヤロー!!」

「うるせぇ! 家賃払わずにブラブラ遊び回っているテメェなんか人間としてカウントされてないんだよ! 人並みに扱ってほしかったら働けバカヤロー!!」

 

何を言っても払う様子も無い銀時に、遂にお登勢は掴みかかって揉みくちゃになりながらも二人でギャーギャーと罵り合っていると

 

そんな二人の光景を下から眺めながら、一人の少年が階段を昇って来た。

 

「まだやってんのかあの二人……」

 

もはや慣れた様子で二人の取っ組み合いを眺めながら、桐ケ谷和人はビニール袋片手に呆れたようにため息を突く。

 

ひょんな事から彼がこの万事屋で働く事になってもう半月の時が流れた。

 

ニートから心機一転してこの万事屋で働く事となった彼だが

 

何でも屋といってもこの不景気の世の中ではそんなに楽に稼げる筈も無く、無職の時とたいして変わらず殆ど収入はない。

 

「おいちょっと、アンタ等いい加減……」

 

かといって別に金が稼ぎたいからここで働いてる訳ではない和人にとってはその辺はどうでも良かった。

 

結構な収入の多い仕事に就いている両親のおかげで、既に生活面に関してはかなり充実している。

 

最悪、妹に食わしてもらうという手もあるし

 

彼がここで働く理由はただ一つ、無職でダラダラと一日中家にひきこもっていたら、その内そんな安定した生活を送れる実家から追い出されてしまうと危惧したからである。

 

しかし

 

「だから……家賃払えつってんだろうが腐れ天然パーマァァァァァァァ!!!!」

「ちょ! のわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「へ?」

 

結構な年齢の女性である筈のお登勢だが、流石はかぶき町の女帝と称されるだけはあり

 

自分よりも身長も力も上である筈の銀時を豪快に一本背負いして思いきりぶん投げる。

 

階段を上がっていた和人に向かって……

 

 

「「ギャァァァァァァァァァァァ!!!!」」

 

二人分の悲鳴と派手な音が鳴り響く中で

 

桐ケ谷和人はほんの少し悩んでいた。

 

 

果たしてこのままこの男について行っていいものであろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーこれアレですよ、パソコンじゃなくてマウスの方がダメになってるんです」

 

目の前にある今のご時世ではかなり旧型のパソコンを眺めつつ、和人はヒョイッと手元にあったマウスを手に取って、背後でタバコを吸っていたお登勢の方へと振り返った。

 

「パソコンもそうだけどパソコンの周辺機器もかなりデリケートなんですよ、だから周囲の環境が悪いとすぐにダメになるんですよ、なんか心当たりありますか?」

「フゥ~……全く見当つかないねぇ」

「今アンタが口に咥えてるそれだよ……」

 

自覚無しに堂々とタバコの煙をこちらに吹きかけるお登勢にサラリと返しつつ和人はチラリとパソコンの方へ目をやる。

 

「今ならタバコの煙にも耐えられるパソコンなんて普通に売ってますから、いっその事そっちに買い替えたりするのもいいんじゃないですか?」

「そういう訳にもいかないよ、こちとら年寄りでからくりなんざ全く訳が分からないんだ、長い付き合いでようやくコイツを動かせるようになったってのに新しいモンに手なんて出せないよ。当分はこのポンコツとやっていくよ」

「まあやたらと高スペックのモノを買い続けるより、愛着の湧いたからくりを長年愛用し続けるって考えには俺も理解はできるけど……」

 

そんなに大事にするならタバコを嗜む者も多い店の中に置いておくなとツッコミたい所だが、面倒なので和人はそこで黙って流す事にした。

 

ここはスナックお登勢、銀時の店の下の階にあるお登勢が営むスナックだ。

 

和人もここには何度か足を運んでおり、当然ここの主たる彼女とも面識はあるが、まだ知り合い程度の関係である。

 

「しかし最初は驚いたモンだね、まさか桐ケ谷のじーさんの孫がアイツの所で働き始めたなんて」

「俺の祖父の事知ってるんですか?」

「よーく知ってるよ、このかぶき町に長い事知ってる奴は全員知ってる、昔はここらを取り締まる凄腕の岡っ引きだったからね」

 

お登勢の方は和人の「桐ケ谷」という姓を聞いて勘付いていたらしい。

 

彼の祖父に関しては心当たりがあった様子で懐かしむ様にフッと笑う。

 

「私の死んだ旦那、今じゃこの辺の極道を取り仕切っている泥水次郎長も若い頃は何度もあの頑固親父に拳骨振り下ろされたモンだよ。特にウチの旦那には厳しかった、旦那はあの親父の直接の部下だったからね」

「まあ身内にも厳しい人でしたからね、ウチの祖父は……」

「旦那と次郎長が戦争に参加するって決めた時なんか凄かったよ、誰よりも強く反対して怒り狂ってた。そんで旦那が戦争で死んだと聞かされた時は、旦那の墓の前で誰よりも泣いてくれた」

「……」

「まあ色々と口うるさくて頑固モンのクソジジィだったけど、嫌いじゃなかったよ、あんたの所のジーさんは」

 

和人は生前の祖父に対してはどちらかというと苦手意識が強かった。

 

お登勢の言う通りまさに頑固ジジィという奴で、孫であった自分や直葉にも厳しく剣術を指導を施していた。

 

それからしばらくして祖父は亡くなり、代わりに祖父の弟子であった志村剣が営む道場で学ぶ事になり、そこで和人は新八とお妙、そして生涯決して忘れられないであろうある男と出会う事になる。

 

こうして考えると、自分は祖父の作った縁が下で孤独感に浸る事無く暮らしていけてるんだなと、和人はしみじみと思うのであった。

 

「しかしアレだねぇ、あの頑固ジジィの孫だってのに、見た感じ典型的なもやしっ子だねアンタは」

「う、いきなり何を……」

「若い内に体鍛えておかないと後悔するよ、ったく近頃の若い奴は脳みその方だけ鍛えりゃあなんとかなると思ってる奴ばかりでなってないね本当に……」

「なんか生前の祖父にも似た様な事言われたような……」

 

見事にあの頑固ジジィそっくりな言動で窘めて来るお登勢を見て和人はハッキリと理解した。

 

死んだ祖父の意志が今もなおこのかぶき町に受け継がれていると。

 

「とにかく祖父の話を聞けて良かったです、俺はあの人苦手だったから生前はずっと距離取ってたせいもあってよく知らなくて……」

「まあ良くも悪くもアンタのジーさんはこの町では有名な男だった、その孫のアンタもしっかりここで生き抜いてみな」

「ああ実を言うと……この街に通い始めてからどうも不安しか無くて……」

 

吸い終わったタバコをカウンターに置かれた灰皿に捨てるお登勢に、和人はやや情けない言葉を返しながらチラリとさっきからずっとカウンターの席に座ってボーっとしている「あの男」に目をやる。

 

「果たしてあの男にこのままついて行っていいものか……」

「ったく、そもそもどうしてあんなちゃらんぽらんについて行こうと思ったのかが不思議で仕方ないよ」

「あ? なに? なんか俺の悪口でも言ってた? ぶっ殺すぞコラ」

 

自分の事に関してヒソヒソと会話している和人とお登勢に気付いて、あの男、坂田銀時がけだるそうに彼等の方へと振り返った。

 

「ところで和人君よ、さっきからずっと考えてたんだけどお前もその股の間にぶら下がってるモンは一生使う事無いだろ? この際だから玉二つと棒一本のハッピーセットでちょっくら売りにいかねぇ?」

「なんかずっと黙ってボーっとしてると思ってたらなんつう事企んでんだアンタ! 誰がそんなの買ってハッピーになれるんだよ! 売るなら自分のを売って来い!!」

「それに和人君はまあ中身の方はクズだが見た目のスペックは悪くないだろ? コレに乗じてかぶき町一のオカマ目指してみねぇか? クズはクズでも体を張れば金を稼げる、それがかぶき町だ」

「黙れドクズ!」

 

小指で鼻をほじりながらとんでもない事を押し付けようとして来る銀時に和人がキレて怒鳴っていると

 

新しいタバコを口に咥えながら、お登勢はふと常に銀時に寄り添うように傍にいる”彼女”がいない事に気付いた。

 

「そういやアンタの傍に例のからくり娘がいないなんて珍しいね、アンタいつも一緒だったろ?」

「俺とアイツはいつも一緒にいる訳じゃねえぇよ、ユウキは昨日の夜から源外のジーさんの所で面倒見てもらってんだ」

 

そう言いながら銀時は小指に付いたハナクソをピンと飛ばしながらフンと鼻を鳴らす。

 

「定期的にジーさんの所でメンテ受けねぇとすぐ故障しちまうんだよあの身体、特にここ最近はちょっとした衝撃ですぐにポロッと首が取れちまうし」

「からくり仕掛けの身体ってのも不便なもんだね、人間と同じ様に体の検査を受けなきゃならないなんて」

「人間の身体よりもよっぽどデリケートなんだよアイツの身体は、この際だから首取れない様に協力接着剤でくっつけて欲しいもんだ」

「そんなプラモデルみたいな直し方されちゃ、私なら間違いなくキレるけどね」

 

銀時の安直な考えにお登勢はフゥッとタバコの煙を吐きながらツッコんでいると

 

二人の話を聞いていた和人はふとその源外という名前にどこか聞き覚えがあった。

 

「源外? それってもしかしてあの平賀源外?」

「そうだよ、ご近所にお構いなく騒音を撒き散らす迷惑ジジィさね」

 

ぶっきらぼうにお登勢が答えると、和人は少し驚いたように目を見開いた。

 

平賀源外と言えば江戸で一番のからくり技師と称される大物中の大物だ。

 

からくりに対して好奇心が強い和人も嫌という程その名を聞いた事がある。

 

何より彼は、あの宇宙中を熱狂させているゲーム・EDOを作り上げた人物の……

 

「……アンタってそんな人とも知り合いだったのか……」

「ユウキの身体を修理してもらう為にちょいと付き合いの長い奴に紹介してもらっただけだ、ユウキは何度も会ってるだろうが、俺が直接あのジーさんと顔会わせる機会はあんまねぇよ」

「そうなのか、俺は個人的にちょっとその人に会ってみたいんだけど……」

「別に良いんじゃねぇの? 今度ユウキと一緒に会って来いよ、マジで変人だぞあのジーさん」

「変人との対応はアンタのおかげで間に合ってるから大丈夫だよ」

 

遠回しに銀時の事を変人呼ばわりしながら、和人はいずれ江戸一番のからくり技師と会えるやもしれないと内心心躍っていると

 

まだ開店していない店の戸がガララと開けられた。

 

「……ただいまー、上にいないと思ってたらやっぱこっちにいたんだ」

「あ? なにお前もう帰ってきた訳?」

 

戸を開けて入って来たのは着物姿のユウキであった。

 

仮想世界では少々露出した格好をしているが、リアルの世界では常に着物を着ているので、和人としてはこっちの彼女はどこか新鮮味を覚える。

 

そして珍しく何処か疲れ切ってる表情を浮かべている彼女に、関口一番に声を掛けたのはカウンター席に座る銀時。

 

「なんか珍しくだるそうな顔してるじゃねぇか、ジジィにセクハラでもされたか?」

「そんな真似されてたら今頃ボクは返り血で真っ赤に染まってるよ。いや~なんと言えばいいモノかな~」

「?」

 

さり気なく物騒な事を口走りつつ、ユウキは腕を組んで悩ましい表情を浮かべた後、小首を傾げながらジト目で

 

「源外のじいちゃんの所にさ、妙なからくりの女の子がいたんだよ」

「からくりの女の子? え、あのジジィそういう趣味があったの? 引くわー」

「いやじいちゃんが作ったんじゃなくて、なんでもしばらく会ってなかった弟子からいきなり押し付けられたみたいでさ」

 

からくり仕掛けの女の子、ここ最近で文明が急速に進化した江戸であってもかなり珍しい代物だ。

 

要するに家政婦ロボというモノであり、まるで生きた人間の様な見た目をしながら従順に主人からの命令を聞くという、高性能なからくり人形である。故に値段も一般庶民では手が付けられない程高額である。

 

そんなモノがあの男くさいからくりばかりに熱を注いでいる源外の所にあるとは、意外そうな表情を浮かべる銀時にユウキは話を続けた。

 

「そんでそのからくり娘がおかしいんだよね、普通家政婦ロボットって言われた事だけを忠実に行うだけの人形なのにさ、あの子はなんというかこう……物凄くボクにお節介してくるの」

「からくりがお節介?」

「ボクがじぃちゃんにメンテされてる時もずっと向こうからあーだこーだ言ってくるんだよ「女なんだから身だしなみ整えなさい」とか「着物の帯はキチンと巻きなさい」だの、「はしたないから汚い言葉遣いは止めなさい」とか……」

「ほーん、確かにそりゃ妙なからくりだな」

 

からくりに関してはてんで疎い銀時であっても、そういった動きを見せるからくりというのは珍しいとすぐにわかった。

 

そして一緒に話を聞いていた和人も、興味津々の様子でカウンターから身を乗り上げる。

 

「家政婦ロボがそんな発言をするなんておかしいな、アレは感情も魂も無いただのからくりの筈なのに」

「そうなんだよ、だけど本当に人間みたいでさ……感情があるかのように振る舞うからビックリしたよ、ただ一日中ボクの世話をしたがるから疲れちゃったよ……」

「平賀源外はなんか言ってなかったのか?」

「んーじいちゃんはただのお手伝い係としか思ってないのか、あまり関心が無かったみたいだね、『あの野郎が作ったからくりなんざに興味はねぇ』って言ってたし」

 

随分と冷たいな……もしかしたら弟子がそんな高性能なロボットを作った事に嫉妬しているのか?

 

いやいや江戸一番のからくり技師として数々の大発明をしているあの平賀源外がそんなのする訳ないか……

 

それよりもその平賀源外の弟子とかいう人物、もしかしたらあの……

 

和人は頭の中でそんな事を一人考えながら、ますます平賀源外のいる研究所に行きたいと思っていると

 

隣りにいたお登勢がタバコの煙を吐きながら不意に口を開く。

 

「私はそのからくり見た事あるかもしれないね、前にあのじいさんがその子に荷物持たせて一緒に歩いてるの見たよ」

「どんな見た目のからくりでした?」

「見た目は確かに人間みたいだったね、11才位のちっこいガキ、長い金髪で頭の上に麦わら帽子被ってたよ」

「からくりなのに麦わら帽子って……」

「服装も江戸では珍しい格好だったねそういや、なーんか外国のお嬢様って感じの子だったよ」

 

前に見たと証言するお登勢の話に「そうそう」とユウキが頷いてみせる。

 

「そんで自分よりずっと小さいクセにボクの事をずっと気に掛けてくるんだよその子、ボクの事いくつだと思ってるのさ全く……」

「見た目はガキのまんまだからなお前、中身もまだガキだし」

「中身の事に関しては少なくとも君の方がずっとガキだと思うよ銀時」

「大人になろうが常に少年の心を忘れてねぇだけだ、それがジャンプを愛する者の鉄則なんだよ」

「……いい加減卒業しようよ少年ジャンプ、ヤングジャンプの方が面白いのに……」

 

何時まで経っても大人になれない銀時に、ユウキは「はいはい」っと自ら折れて大人の対応をしながらさっさと話を続けた。

 

「それとおかしな所がもう一つあってさ、ボクがその子との会話の中でうっかり銀時の名前を出したら、その子急に反応してきたんだよね」

「は? 俺の名前で?」

「うん、しかも「今度その人連れて来て」って何度もしつこくせがんで来てさ、もうホントにしつこかった……うるさくて仕方なかったから思わずいいよって返事しちゃった」

「からくりと勝手な約束してんじゃねぇよ……てかあり得ないだろそれ、どうしてそんなに俺に会いたがる訳? まだ一度も会った事ねぇから俺の事なんざ知らねぇ筈だろ?」

「その筈なんだけど……なんか気味が悪いよね、ホント物凄く銀時に会いたがってた……」

「……」

 

全く見当が付かない、一体何なんだその不気味なからくり人形は……

 

まさか呪いのからくり人形とかじゃないよなとか怖い事を想像してしまいつつ、頬を引きつらせながら銀時はカウンターの席から立ち上がる。

 

「ったく訳わかんねぇ……誰がそんなからくりなんざに会うかっつーの」

「えーでも約束しちゃったし今度一緒に来てよ、もし銀時が来なかったガッカリすると思うよあの子」

「からくりが約束なんざ覚える訳ねぇだろ、どうせ次に会った時はそんな記憶とっくに消去されてるって、そんじゃ俺は朝の散歩行って来まーす」

 

そう言って銀時は締まりの無い顔をしながら戸を開けて出て行ってしまった。

 

去っていく銀時を見送りながらユウキはしかめっ面を浮かべて

 

「もしそうだったらいいんだけどね……でもなんかあの子って普通のからくりとは違う気がするんだよね……」

「ユウキみたいに本当は人間で、本体が別の所で操作してる可能性は無いのか?」

「最初はそう思ったけどどうやら違うみたい、じいちゃんが言うには正真正銘ただのからくり人形なんだって」

 

もしかしたらと思って言ってみる和人だったが、ユウキ曰くそれも違うらしい。

 

ホントにおかしなからくりだな、いずれ是非とも直接見せてもらおうと、彼は呑気にそんな事を考えていると

 

隣に立っていたお登勢はタバコを手に持ったまま「あ!」っと何かに気付いたかのように口を開き

 

 

 

 

 

 

「あの野郎、どさくさに紛れて家賃払わずにトンズラしやがった!! 待てぇ腐れ天パァァァァァァァ!!!」

 

一杯食わされたことに気付いた時にはもう遅い

 

戸を開けて出て行った銀時は一目散に全速力で駆け出し、逃げてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~どうにかして逃げ出せたな、ったくあのババァ5か月滞納してるだけであんなにキレやがって……」

 

まんまと逃げる事に成功した銀時は

 

スナックお登勢からそんなに遠くはない場所にある一件の店の前へと来ていた。

 

古ぼけたその店に設置されている看板には「北斗心軒」と書かれている。

 

「しばらくまともなモン食った覚えねぇからたまにはいいよな、ここん所頑張ってる銀さんへのご褒美という事で」

 

そう自分に言い聞かせると、銀時は欲望のままガララと店の戸を開ける。

 

殺風景な店内へと入っていくと、奥の厨房から店の者が銀時に気付いて後ろに振り返った。

 

「ごめんなさい、まだ開店前で仕込みの途中だから……ってアレ銀さん?」

「よう、しばらくぶり」

 

奥から現れたのは眼鏡を掛けてやや短めの黒髪のどこかボーイッシュな少女であった。

 

名は朝田詩乃。数年前に訳あって江戸に上京してきた彼女は、半ば店主に拾われた形でこの店で住み込みで働いている。

 

彼女がどうしてこのかぶき町にやって来たのかは銀時も知らないが、この町に来る者は過去を捨ててやって来る者はそう珍しくはないので、銀時もいらん詮索はしていなかった。

 

そしてそんな銀時とは結構な付き合いである詩乃は、開店前にやって来た客が彼だと知って口をポカンと開けている。

 

「どうしたの急に? ウチまだ開いてないし幾松さんも仕入れに出掛けていないんだけど」

「ババァが家賃払え払えってしつけぇから逃げて来たんだよ」

「また家賃滞納してるの……今度は何か月分?」

「ほんのちょっと滞納してるだけだって、たったの5か月分だ」

「それほんのちょっとってレベルじゃなでしょ……いい加減真面目に働いてお金稼いだら?」

「そうだな、じゃあ俺の下で最近働く事になったガキの玉と棒を買ってくれねぇか?」

「いやいらないから、てか朝から汚い話をしないで」

 

ずっと年上であろう銀時に向かって辛辣な返しをしながら、彼女は勝手にカウンターの席に座る銀時に目を細める。

 

「ていうか銀さんの店で働こうとする人なんていたんだ、私なら大金積まれても死んでもゴメンなのに」

「そうか惜しいな、おめぇは眼鏡掛けてるしツッコミも出来るからウチには合うと思ったんだがな」

「……なんで眼鏡とツッコミで採用条件揃う訳?」

「なんだろうな、俺もよくわからねぇけど、万事屋にはなくてはならない存在の気がするんだよ、ツッコミ眼鏡」

「……相変わらず訳わかんない人ね」

 

よくわからない事を呟く銀時に詩乃はどう反応していいのか困惑しつつ、ふと彼が勝手にカウンターの席に座っていた事にやっと気付いた。

 

「って何勝手に席に着いてるのよ、言っておくけどここは避難場所じゃないし店も開いてないの。一度出直してちゃんと開店時間に来て」

「固い事言うなよ、俺はここしばらくチクワとパンの耳しか食べてねぇんだよ、久しぶりにまともな食事にありつけたいんだよ銀さんは」

「さっき言ったでしょ、幾松さんもいないんだから出せるモンも出せないのよ」

「オメェが作ればいいじゃねぇか」

「私はラーメンの事はまだ修行中の身だもの」

「ならラーメンじゃなくてさ、ほら前にオメェ作ってただろ?」

 

意地でも帰ろうとしない姿勢を見せる銀時にウンザリした様子でしかめっ面を浮かべる詩乃ではあるが

 

迷惑そうに思っていてもお構いなしに銀時は人差し指を立てて見せ

 

「なんかかぁちゃんが作った様なパサパサしてる微妙なチャーハン、アレでいいや、一つ」

「そう言われて誰が作る気出ると思ってるのよ!」

「いいじゃねぇか金だってちゃんと払ってやるから、マズかったら半額な」

「あーもうホントに面倒臭い! このまま居座れても迷惑だからそれ食べたらさっさと帰ってよね!!」

「へーい」

 

これでもこの店で数年働いてるし、自分が作った料理にケチ付けられると流石に詩乃もイラッと来たらしい。

 

けだるそうに一応返事だけする銀時を軽く睨みつけた後、彼女はそそくさと厨房で調理を始め出した。

 

その途中でふとカウンターで料理を待つ銀時に、詩乃の方からポツリと口を開く。

 

「そういや前にここに遊びに来たユウキに聞いたんだけど、銀さんってEDOやり出したの?」

「ああ、藍子の奴を貰ったんでたまにユウキと遊んでるわ、それがどうかしたか?」

「いや実はさ……私もやってるんだよねあのゲーム」

「マジ?」

 

見た感じゲームなんかよりも本とか読んでたりするタイプの彼女が漏らした言葉に銀時が意外そうに顔を上げる。

 

「よくそんな金あったなお前、アレ結構高いんだろ」

「住み込みで生活してるとバイト代が溜まる一方だったから随分前に思いきって買ってみたの」

「へー金持ってんだ、ちょっと貸してくんない、家賃5か月分ぐらい」

「自分よりずっと年下の娘に金をたかろうとするなんて恥ずかしくない訳?」

 

死んだ魚の様な目で全く返してくれる信用性が見当たらない銀時にを軽く蔑むような目で見下ろした後、詩乃は包丁を扱いながら話を続けた。

 

「それで私も結構あのゲームやり込んでるからさ、今度あっちの世界で会ったらクエスト手伝ってあげてもいいよ」

「はぁ~ラーメン屋の小娘如きがこの銀さんを手伝ってやるとは大層な口利くようになったじゃねぇか、二十層のダンジョンでやけに硬ぇ敵が出てくるんで何とかして下さいお願いします」

「前半と後半の台詞が全然違うんだけど……二十層か、あの辺はしばらく行ってないし私もよく覚えてないんだよね」

 

銀時の頼みに彼女はザクザクと包丁で野菜を切りながらしかめっ面で呟く。

 

「悪いけど手伝うなら三十層辺りかな? そこまで行ったらパーティに加わってもいいよ」

「んだよ勿体ぶりやがって、どうせ大した腕前じゃないんだろ? そんなある場所まで辿り着かないと仲間に出来ない強キャラみたいな雰囲気醸し出してもわかってんだよこっちは」

「現実の私を見てるだけでわかった気にならないで欲しいわね、こう見えてあっちの世界だとそれなりに有名なんだから」

「眼鏡なのに二足歩行で歩けるとか? そりゃ有名になるだろうよ、普通に気持ち悪いし」

「私のアバターはちゃんと人間だから! なんで眼鏡単体になって操作しなきゃいけないのよ!」

 

フレームを立ててヒョコヒョコと街中を歩く眼鏡をつい想像してしまう詩乃

 

相変わらずぶっ飛んだ発想をする銀時にツッコミを入れつつ詩乃はフンと鼻を鳴らして顔を背けた。

 

「まあせいぜい好き勝手言ってればいいわ、あっちの世界で会ったら嫌という程私の強さお見舞いしてあげるんだから……」

 

そう呟きながら彼女はカウンターでけだるそうに料理を待つ銀時を一瞥する。

 

 

やがて二人はEDOの世界で会う時が来るであろう

 

もしその時が来たら

 

 

 

 

 

 

真っ先に子のマヌケ面の額に弾丸をお見舞いしてやると決めた朝田詩乃であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




二十話目が終わった所で第二章はこれにて終了、次回からまた新たな展開が始まり銀時やその周りもどんどん成長し続けていきます。

次回の話は銀時がとある理由でまさかのソロでダンジョン攻略を始め

案の定ピンチになった所に駆けつけてくれたのは見知らぬ5人組

そして銀時は彼等から知らされる、かつてこの世界で生きていた亡き恋人のお話を……

次章もお楽しみに待っててください








▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。