竿魂   作:カイバーマン。

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締めの前の回ってどうも書くのが難しいです……


第十九層 この素晴らしき世界に警告を!

キリトとアスナ、グラと銀時の戦いが終わって数分後

 

グラはまだアスナの腕に抱かれながら泣きついていた。

 

「うわぁぁぁぁ!! アスナ姐あの天パ最低ヨ! 私汚されちゃったアル~!!」

「よしよし、あなたも大変だったわね……いや本当に……」

 

自分よりも背の高い彼女を優しく包み込む様に頭を撫でながら、アスナは泣きつく彼女をなだめつつ、ジロリと向かいに立ってアホ面かましている銀時の方へ視線を向けた。

 

「年頃の女の子に変態プレイ強制させるとかなに考えてんのよ! もう本当に最低! あなたも黒夜叉も変態よ!」

「そんな怒鳴るなよ、ただちょっと縛り付けて顔面にぶっかけただけじゃねぇか、なあキリト君?」

「その言い方だと卑猥な表現にしか聞こえないんだが……てかこの人はともかく俺は別に変態じゃないから! 別に何もしてないだろアンタに!!」

 

全く悪びれる様子無く異議を唱える銀時はともかく、隣に立っていたキリトは全く持って身に覚えが無かった。

 

すると銀時を見つめる時よりも一層険しい表情でアスナは

 

「私が気付いてないとでも思ったのかしら? あなた私と戦ってる最中ずっとジロジロと私の身体舐め回す様に眺めてたじゃない、あそこまで堂々と人の身体を見ておいて言い訳は無しよ、このドスケベ」

「うわぁキリト君マジサイテー」

「マジキモイアル、一生に私に近づかないで」

「そういう目で見てねぇよ俺は! 相手の動きをじっくり観察して力量を計るのは戦いの基本……ていうかアンタ等まで何故俺をそんな目で見る!」

 

アスナとおまけに銀時とグラにまで冷ややかな目でスケベ野郎と認定されて慌てて否定に入って身の潔白を証明しようとするキリト。

 

すると隣にいた銀時はうんうんと頷いて

 

「まあでも考えてみたら仕方ないかもしれねぇな、思春期真っ盛りで同年代の女の子に欲情するのは仕方ない事だよ、これぐらいの男子はみんなそういう生き物なんだよ、みんなドスケベなのが普通なんだよ、厨二病だってムラムラしたいんだよ」

「アンタのは全くフォローになってない! むしろますます俺が軽蔑されるからマジで黙っててくれ!」

 

少しも助けにならない、むしろ逆にこっちに向かって全力で石を投げつけて来た銀時にツッコミをいれるキリトに、アスナはフンとは鳴らし

 

「もしかしたらとは思った事もあったけど、やはりあなたと私は一生相容れない間柄みたいね……」

「相容れない部分についてはどうでもいいけど! せめて俺がいやらしい気持ちで見つめていたわけじゃないという事はわかってくれよ! 俺は無実だ!!」

「悪行三昧の攘夷四天王の黒夜叉の言葉に私がまともに耳を貸すとでも?」

 

元よりまともに話しを聞いてくれない相手だ、彼の話など当然聞いちゃくれない。

 

血盟騎士団の副団長にますます嫌われる要員を作ってしまったキリトははぁ~とため息を突いて遂に弁解するのを諦めてしまうのであった。

 

「ま、俺はどっち道アンタに好かれようとする気はこれっぽちもないんだし、嫌われようが別に構わないよ、スケベと思われることに関しては否定し続けるけど」

「あっそ、まあ私もあなたにどう思われようが勝手だから、それよりも別の話をしたいんだけどいいかしら」

 

互いに相手に対して憎まれ口を叩いた後、アスナの方が不意に別の話を切り出した。

 

ようやく泣き止んだグラの頭を撫でつつ、彼女はしばしの間を置いてゆっくりと話を始めた。

 

「悔しいけどこの子がそこの天パに負かされ、私も一応引き分けではあるけど実力的には完全に劣っていたのは素直に認める。よって今回はこちらの敗北という形であなた達を見逃してあげる」

「意外だな素直に引き下がるなんて、俺はてっきりまた何かいちゃもんを付けてくるのかと思っていたのに」

 

せせら笑みを浮かべながら言ってくれるキリとにアスナは顔をしかめる。

 

「付けてやりたいとも思ったけど……正直今はあなたを倒す事よりも先に優先する事が出来たから」

「へぇ、EDOの警察官であられる副団長様が攘夷プレイヤーを討伐する事よりも優先したい事なんてあるのか?」

「ホント口を開けば人の感情を逆撫でしてくるわね……あなたに言われた事を考える時間が欲しいと思ったのよ、少しはこの世界を楽しんだらどうだって話」

「驚きだな、散々人の話聞かないアンタが今更俺の話をまともに聞いていたとは」

 

段々この男と喋るのが嫌になって来たと内心ウンザリしながら、アスナはキリトにハァ~と深いため息。

 

「前にも言ったけどそのいちいち皮肉を混ぜなきゃいけない性格なんとかならないの? そんなんだからソロ専門なのよ、そんなんだからモテないのよ、そんなんだから無職なのよ」

「無職は関係ないだろ! てか最近就職したからもう無職じゃないし!」

「そういう見栄とか張らなくていいわよ別に、アナタが無職だろうがどうでもいいし」

「いや俺は正式にこの人の所に!」

 

ここぞとばかりに反撃をかましてきたアスナにキリトがついムキになって反論を始めようとするも

 

そこでズイッと銀時が彼等の前に一歩入り込んで小指を鼻に突っ込みながらけだるそうに

 

「ねぇ、いつまで口喧嘩続けるのおたく等? もう聞いてるこっちはいい加減にして欲しいんだけど」

「それは私も同意見アル、いくらなんでも長過ぎるネ。どんだけ話のタネ尽きないんだよオマエ等」

「「え……」」

 

さっきからずっと二人でぺちゃくちゃお喋りしているのですっかり蚊帳の外扱いであった銀時とグラが仏頂面で割り込んで来た。

 

アスナの胸元に抱きついていたグラも二人の会話の途中ですっかり泣き止んでいる。

 

そういえばちょっと本題から逸れて長々と話し過ぎたとキリトとアスナが我に返っていると、銀時はボリボリと後頭部を掻きながら

 

「もうとっくに結論出てるんだろ? アンタ等は俺達を見逃す、あの鼠女にも手を出さない、それでOK?」

「ええまあ最初はそれを言うだけで済ませるつもりだったんだけど……どうもこの厨二病男に挑発されてつい乗ってしまったわ……」

「アスナ姐はいっつもその辺ダメダメアルな、安い挑発されただけですぐキレたりするからコイツやあのドS野郎に弄ばれるんだヨ、アスナ姐のマミーとおんなじアル」

「お、お母さんの家の血が濃いせいよ……ていうかあなたいいの、さっきから口調が素になってるわよ」

「あ、ヤベ」

 

ジト目で痛い所を突いて来るグラに言い訳がましいことを述べた後、ふと彼女の口調が素になっている事を追及するアスナ。

 

グラはすぐに口に手を当てると、どこかクールに見える凛とした表情を取り繕って銀時とキリトの方へ振り返った。

 

「ま、今回だけは見逃してあげるから感謝しなさい、でも勘違いしないでね、アンタ達とはまだ決着つけてないんだから」

「いや今更口調を標準語にされてもな、こっちはもうだいぶ前から薄々勘付いてたし……」

「アルアルチャイナ美女か、まあ多少は減点されるけど俺としてはまだアリの方だな」

「いやアンタにアリと言われてもこっちはゴメンだから、腸を巻き付けたり醤油ぶっかけて来たりする奴となんざフラグなんてまず立たないから」

 

顎に手を当てながらうんうんと頷く銀時にグラは素っ気ない態度でキッパリと断ると、「とにかく」と銀時は頷きながら彼女達の方へと口火を切る。

 

「それじゃあ話は済んだって事だけど、俺等はしばらくここであの鼠女と話があるから、おたく等はとっととどっか行ってくんない?」

「言われなくてもアンタみたいな変態天パと付き合うつもりはないわよ、そうでしょアスナ」

「……いいわよ、私も痛い厨二病男にネチネチ言われ続けて苛立ちが収まりきらないし」

「引っかかる言い方だな、いちいちアンタが乗って来るからいけないんだろ」

「はぁ!? 誰が……うぐ!」

 

こちらに対してまたもやいらん事を言ってくれるキリトに、案の定アスナが耳をピクリと動かしてすぐに反応しようとするが、隣に立っているグラが彼女の脇腹に肘を強く入れてすぐに黙らせる。

 

「いい加減にしなさいよね、そこまで乗せられるとこっちがバカみたいじゃないの」

「ご、ごめんなさい……」

「さっきからどっちが姉貴分なのか訳わからないな……」

 

厳しめに言われ、脇腹を抑えながらシュンとするアスナを眺めながらキリトがボソリと呟いていると、銀時はふぅと息を漏らす。

 

「これで一件落着だな」

「いやだまだですぜ」

「ん?」

 

安堵の吐息を漏らす中で背後から飛んで来た声に銀時が振り向くと

 

そこには栗色の髪を一つに結った和装の男がいつの間にか立っていた。

 

「コイツ等はいきなり無茶な要求かまして、挙句の果てに善良なる俺達プレイヤーを無理やり自分で正当化させてPKしようとしやがったんだ。無罪放免でそのまま解放させる訳にはいかねぇでござる」

「なるほど、それも一理あるな。よしお前等、罰として有り金全部俺に差し出せ」

「旦那、それだけじゃ足りねぇでさ、この場で地面に頭こすりつけて土下座させましょうや、そんでその様を写真に撮って掲示板に貼り付けて全国配信って感じで」

「いいねぇ、んじゃその後はコイツ等に切腹でもしてもらおうか」

「介錯の方は俺に任せておくんなせぇ、そいつも動画で撮って脅し用のネタに使うって手もあるでござる」

「ちょっとちょっと! いきなり何よそれ! そんなのされたら私達一生この世界にログイン出来なくなるじゃない! ていうか!」

 

徐々にこちらへの制裁をどうするかについてエスカレートしていく二人に、流石にアスナも黙ってられないと叫びつつ、ビシッと男の方を指差す。

 

「どうしてあなたがそっち側にいんのよ!」

「あ、そういやお前誰?」

「強いて言うなら俺は気分次第で鬼であろうと仏であろうと斬り伏せるしがない流浪人」

 

アスナの追及にふと銀時が気付いて男に尋ねると、男はフッと笑みを浮かべるとドヤ顔で振り返って

 

「人斬りソウゴとは俺の事でさぁ」

「人斬りソウゴ? おいキリト君知ってる?」

「知らん、てか俺は基本的に他のプレイヤーの情報はあまり詳しくないからアルゴに聞いた方が良いぞ」

「ありゃりゃ、俺の名前もこっちの世界じゃまだまだみてぇだな」

 

ソウゴと名乗る男にはキリトも覚えが無いらしい。

 

思ったより自分の名が知られてない事にソウゴは目を細めながら頷き、ショックも受けてない様子で話しを続けた。

 

「簡単に言えば気に入らねぇ野郎を片っ端から徹底的に屈辱を与えた上で弄ぶ事が大好きで、ちょいとお茶目でサディストなただの善良なるプレイヤーでござる」

「簡単に言えてないぞそれ! 俺よりずっとタチ悪いじゃないか!」

「タチ悪くともモノは使い様なのよ」

 

自分よりもずっと危険思考なこの男を放置するばかりか自分側とまで宣言したアスナにキリトはすぐにしかめっ面を浮かべて見せるが

 

その考えを読んでアスナが聞かれる前にサラリと答える。

 

「性格はドクズだけど戦闘だけは役に立つし剣の腕も一級品よ、性格は本当にドクズだけど」

「言うじゃねぇか小娘、リアルでもこっちでも背中には気を付けな」

「リアルならともかくこっちなら負けるつもりはないわ、てかあなたバズーカモロに食らった筈よね、どうして平然と生きてるのよ」

「あの程度のカウンターなんざ目ぇ瞑ってでも避け切れらぁ」

 

アスナに悪態を突かれながらも平然としながら流すソウゴ、二人の会話を聞いてキリトは「リアルなら」という言葉が引っかかっていると

 

「人斬りソウゴという名前には私も覚えがあるナ、性悪のプレイヤーを口で話すのも恐ろしいぐらいイジメ抜く生粋のサディストとか呼ばれてたぞ確か」

「アルゴ! お前逃げてたんじゃないのか!?」

「ハハハ、せっかく時間稼ぎまでしておいて悪いが、キー坊達ならこの程度の揉め事ぐらいサクッと解決すると信じていたんだヨ、だから逃げずにキー坊達の戦いを観察していた」

 

ソウゴの事を供述しながらフラリとこちらへやってきたアルゴ。

 

戦いがひとまず終わった事を確認した後、彼女は腰に両手を当てながらまだソウゴと口論しているアスナの方へ顔を上げた。

 

「で? そちらが負けを認めたという事はもう私を追わないって事で良いんだよナ?」

「そこまで言うなら今度お姉さんに言い付けて……! え? ああうん……しょうがないけどここは一旦退かせて頂くわ、でもまだ諦めた訳じゃないわよ」

「んー諦めてはいないのカ、仕方ない」

 

しつこいなと内心思いながらボリボリと髭の描かれた頬を掻くと、アルゴは一つ彼女に提案してみた。

 

「それなら特別にとある話を”二つ”だけやるからしばらくはこっちに顔出さないでくれ、毎度毎度こうしつこく付き纏われると迷惑だしサ」

「話って情報!? それってもしかして攘夷四天王の!?」

「情報、というより警告みたいなモノ? 血盟騎士団のおたくに伝えておけばすぐに他のプレイヤーにも知れ渡るだろうと思ってナ」

 

情報を出すのに何かと金を絡ませるがめつい性格をしているアルゴでも、今回ばかりは真面目なトーンでアスナとソウゴに話始める。

 

「まず一つ目「攘夷四天王の一人、鬼兵刀は危ないから決して近づくな」だ」

「鬼兵刀……天人達の多くを引退にまで追い込むとかいう謎のプレイヤーね……」

「アレの標的は天人だけじゃなイ、目的はわからんが奴は地球人のプレイヤーも襲うケースがここ最近増えているらしい」

「PKする事に見境なくなったって事かしら? 攘夷プレイヤーは本当に性質の悪い性格してるわね」

 

『鬼兵刀』

過激派攘夷志士として最も危険な男と称される高杉晋助が率いていた「鬼兵隊」からもじった二つ名であり、黒夜叉や魔弾の貴公女と同じく攘夷四天王と呼ばれているプレイヤーの一人。

 

素性もタイプ、性別さえも不明で、目撃情報があまりにも少ない事からもはや本当に存在するのかどうかさえ疑わしいと言われている。

 

「奴にはどうも色々怪しい噂があってナ、神出鬼没に突然現れたり、一般プレイヤーの領域外の場所に入ることが出来るとか、真夜中に森の中で蠢きながら奇声を上げていたとか、まるで鬼兵刀はオバケの類みたいな噂話がチラホラとな」

 

最後に意地の悪そうにニヤッと笑いかけて来るアルゴに対し

 

話を聞いていたアスナと銀時は面白くなさそうに同時にしかめっ面を浮かべ。

 

「は? オバケとか止めてよ、そんなの存在しない訳ないでしょバカバカしい」

「そうそう、ゲームの世界だからっていくらなんでもそんな非現実的な現象がある訳ねぇだろ」

「……おたく等もしかして幽霊とかそういうの苦手なタイプ?」

「いや苦手つうか、それ以前にそういう下らない話には興味ない、みたいな?」

「オバケとかそういうのは大昔に大人が子供を脅かす為のただの作り話よ、情報屋なのにそんな話まで鵜呑みにする訳?」

「そんな二人で早口で言われるとますます怪しいんだガ……」

 

口を揃えて頑なに怪奇現象の存在を全否定する銀時とアスナにボソッとツッコミを入れつつ、新たな情報が手に入ったと内心喜びながらアルゴは話を続けた。

 

「とにかく、鬼兵刀ってのは何かと胡散臭い、わかっているのは銀色の面と銀色のフードを付けて一切顔を周りに見せぬ様にしている所と、奴が所持している武器はこれまた奇妙な刀だという事ぐらいだ」

「奇妙な刀?」

「ああ」

 

刀と聞いて誰よりも早く反応したのはキリトだった、するとアルゴは人差し指をクルクル回しながら縦に頷き

 

「なんでもその刀は斬ったプレイヤーの魂を吸い取るらしいゾ、斬られた天人達がログインしなくなったのはそれが原因だとか……正に”妖刀”だな」

「魂を吸い取る妖刀……?」

「うへぇ、ちょう嘘クセー」

 

この世界でPKされてもせいぜいリスポーン地点に戻るだけだ。

 

そんな世界で魂を吸い取る妖刀とか、いくらなんでも信憑性に乏しい話だと銀時は眉間にしわを寄せる。

 

「お前まさかそんな話マジに信じちゃってる訳?」

「今の所は半信半疑サ、確実性のない情報だからタダで教えてあげてるんだロ、まあそういう話もあるから奴には近づかない様にしておけって警告さね」

「ようするにキリト君より十倍タチの悪い厨二病が辻斬りみてぇな真似をしてるから気を付けろってこったろ?」

「俺で例えるな、俺で」

「妖刀だとかそんなアホらしい話は信じねぇがそこん所だけは覚えておいてやるよ」

 

キリトにツッコまれつつ銀時が全く危機感の欠片もなさそうな様子でそう言うと、アルゴは「まあガセで済めばいいのだがな」と呟きつつ次の話題を始めた。

 

「鬼兵刀の話は以上だが続いての情報は俺っちが個人的に気になっている出来事だ、コイツはまあ小耳にはさんで置けば十分ヨ」

「情報屋のアナタが一体何が気になっているのかしら?」

「最近この辺で「黄金の鎧を着飾った妙なプレイヤー」がいるらしい」

「全身黄金の鎧?」

 

二つ目の情報を話し出すアルゴにアスナは小首をかしげる。

 

「黄金の鎧なんてこの世界に存在したかしら」

「無い、この世界では多種様々な防具が存在するが、全身を黄金に着飾った鎧なんていういかにも成金っぽいモンが俺っちでさえ知りえなかった事ダ」

 

こちらの世界に長い間いるアスナ、そして情報屋として名高いアルゴでもそんな特徴的な防具は見た事も無いらしい。

 

「しかし俺っちの情報が正しければ、ここ最近になってそんな恰好をしたプレイヤーが出没し始めたらしいが、どうもその最近というのはどこかのプレイヤーさんがこの世界に初めてやって来た頃と被るんだよナァ……」

「?」

 

後半に意味ありげな事を小さく呟きつつアルゴはチラリと銀時の方へ一瞥した後、彼女は話を続けた。

 

「しかもその金ピカはこれまた金ピカの得物を複数所持している、偶然見かけたプレイヤーが目撃したらしいが、なんでも金色に輝く槍や大剣、大鎌を使い回しながら初心者では絶対に討伐不可能なレアモンスターをソロで難なく討ち倒したとか」

「武器を使い回すって戦闘中で? そんな戦い方聞いた事無いけど……」

 

メインの武器が何らかの事情で使い物にならなくなった時に急いでクイックチェンジしてサブの武器を装備するという事はよくある事だが、大抵は一度の戦闘で使う武器は大体一種類のみだ。

 

複数の武器を扱うという事はその武器に合わせてそれぞれスキルを上げておかないといけないし、それでは一点特化しているプレイヤー達よりも遅い歩幅でプレイしなければならないという事。

 

未発見の装備と不可解な戦闘術、アスナはふと自分と同じく上級者プレイヤーのキリトの方へ目配せすると、彼もまたお手上げの様子で肩をすくめる。

 

「俺も聞いた事が無い、そんな戦い方なんて普通はまずやらないと考えるのが普通だしな。アルゴの情報が正しければそいつは恐らく効率の悪いプレイをしているバカか、独自に編み出した戦い方を完全にモノにしている天才だ」

「バカか天才、どちらにせよ一度会ってみたい人物ね……」

 

珍しく二人で皮肉も混ぜずに会話を淡々と進めていると、そんな彼女達を眺めながら楽しげな様子でアルゴは口を開いた。

 

「結論を見出すの早いぞ、その金ピカプレイヤーの驚くべき所はまだそれだけじゃない、金色に輝く武器を操るそいつが持つ中で最も強い武器はあろう事か……」

 

 

 

 

 

 

 

「一本の使い古したかの様な汚い木刀だったらしい」

「木刀?」

「その木刀、どうもみずぼらしい見た目に比べてかなりの破壊力と強度を誇っているんだとカ」

 

木刀……EDOにとっては初心者がチュートリアル用の為に扱う程度の得物であり、ぶっちゃけ第一層のザコモンスターでさえ簡単に倒す事さえ出来ない武器であって本当にただ武器の扱い方を学ぶ為に渡される支給品みたいな代物だ。

 

未発見の黄金の鎧などというモノを装備している時点で、キリトはその人物をチートプレイヤーだと睨んでいたが、ますますその線が正しいのではないかと思う様になる。

 

「公式運営に違法通告した方が良いんじゃないか副団長? ハッキリ言ってこのプレイヤー、完全にクロに近いぞ」

「そうだと思うけどまだ断定してる訳じゃないし……やっぱりこの目で見てから判断するべきわ、噂だけで真実を突き止める事にはならないから」

 

キリトに促されてもアスナは顎に手を当てながら渋い表情で早急な判断はまだやるべきではないと決める。

 

彼女のそのチート疑惑のあるプレイヤーへの対応に、キリトは苦い顔を浮かべ目を逸らし

 

「俺の場合はすぐに難癖付けて犯罪者扱いしてたくせに……」

「あなたの場合は確固たる事実でしょ、他人に対して迷惑をかける事はれっきとしたマナー違反よ」

「だから迷惑かけてる訳じゃないって……アンタ本当に俺の事嫌いなんだな」

「私にとって悪党は全員敵よ、次に会ったら容赦なくたたっ斬るから」

「やれやれ」

 

ここまで堅物だといっそ清々しく見える、口での説得は無理だと判断したキリトは素直に負けを認めてため息を突くのであった。

 

「それにしても鬼兵刀と黄金のチートプレイヤーか、俺も長くこの世界に潜ってるけど一度もそんな話聞いた事無いぞ、どうやってそんな情報手に入れたんだアルゴ」

「そいつを聞きたいなら最低10億コルは必要だナ」

「次に渡す時の情報はタダにしてやるとか言ってなかった?」

「だからタダにしただロ、しかももう一つオマケしてあげるという出血大サービス。鬼兵刀と黄金の鎧の話サ」

「この野郎、なんで情報をこうもあっさりと喋り出すのかと思いきやそれが狙いだったのか……」

 

アルゴの謎めいた情報網に疑問を持つキリトだが、やはり彼女はその辺については決して話そうとはしなかった。

 

情報屋といえ、いくらなんでも一般プレイヤーでしかない筈のアルゴがどうしてここまでの情報を把握できているのか……

 

(この世界の情報よりもまずコイツ自身の情報の方が興味出て来たぞ俺……絶対に高い金請求してくるだろうけど)

 

キリトは顔をしかめながら彼女のへの追及するのを諦めていると、隣にいたアスナが腕を組みながら先程のアルゴの話を整理し始めていた。

 

「鬼兵刀の話は血盟組の局長の耳に入れておいた方が良さそうね、魂云々の話は置いといても、見境なしにプレイヤーを襲う行為はこの世界の治安を脅かす危険性があるわ、即刻対処しないと」

「金ピカ野郎はどうするんでぃ?」

「そっちの方はまだ詳しくわかってないし、しばらくは山崎さんに調べてもらいましょう」

 

山崎という名を出すアスナに、ソウゴはジト目を向けて「ケッ」と呟き

 

「また山崎か、”ウチの所”の密偵を何度も軽々しく使ってもらうたぁ随分と偉くなったモンじゃねぇか、”あの野郎”に少し似て来たんじゃねぇかお前?」

「だって「困った時は何時でも俺に頼っていいからね! 現実の仕事ほったからしにしてすぐ駆けつけるから!」って言ってたもん」

「山崎の野郎、職務放棄して小娘相手に尻尾振ってやがったのか……厳罰モンだなこりゃ」

 

ここにはいない(正確には今は)一人のプレイヤーの行動力の速さ、そしてアスナに呼ばれるとすぐ様やってくる姿勢

 

その姿に何度か疑問に思っていたがこれで合点がいった

 

「どうやら現実世界に戻ったら早速その尻尾引き千切らなきゃならねぇみてぇだ」

「あんまり身内同士で喧嘩しないでよ」

「喧嘩じゃねぇ粛清だ」

 

なお悪いだろと目だけで訴えて来るアスナにそっぽを向いた後、ソウゴは銀時の方へと振り返る。

 

「旦那、この小娘は年上の男にいい顔して面倒事を押し付けてくる魔性の女狐だ。ウチのマヌケな部下やお人好しの上司もコイツには随分と甘くてねぇ、おたくもこれから付き合い長くなると色々と厄介事を押し付けられるかもしれねぇんで気を付けてくだせぇ」

「私そんな酷い女じゃないわよ!」

「ああ? 魔性の女狐? そんなモンこちとらとっくに間に合ってるつーの」

 

彼からの忠告を受けて銀時は小指で鼻をほじりながらチラリと死んだ目でそっぽを向いて

 

 

 

 

 

 

「しかもアイツは男どころか獣も女も誑かす、九尾クラスの魔性の女狐よ」

「ゴー! 犬ゴー!!」

「ワンワーン!」

「ゴラァァァァァァァァ!! 定春返せクソガキャァァァァァァァァァ!!!!」

 

白くて巨大な犬らしき生物、定春の背中に跨り颯爽と野原を駆け回っているのはユウキ。

 

明後日の方向を指差しながら叫ぶ彼女の命令通りに定春は哭きながら猛スピードで地面をズシンズシンと走り

 

その後ろを本来の飼い主であるグラが怒り狂ってる様子で追いかけていた。

 

「さっきから姿が見えないと思ってたら……いつの間にあの犬てなづけやがったんだ?」

「ああして楽しそうにしているあの子を見てると奇兵刀とか黄金の鎧云々の話とかどうでもよくなるわね……」

「だろ? 何もかもどうでもよくなるだろ? 考えるだけでアホらしいと思えるだろ?」

 

追いかけるグラから逃げる様に定春を走らせ、上に跨りながら両手を上げて万歳ポーズで「キャッホーイ!」と叫んでるユウキを見てキリトとアスナが唖然としている中で、銀時が後ろから口を出す。

 

「ったく色々と辛ぇモンに遭ってるクセにテメーの人生を思いっきり楽しみやがって……」

「無限の彼方へさあ行くぞー!!」

「ワオーン!!」

「定春ゥゥ! そんなチチ臭いガキに惑わされちゃダメアル! 私という女がいながら他の女に誑かされてんじゃねーヨ!!」

 

ユウキの生い立ちを昔の頃から知っている銀時は、彼女がここに至るまでどれだけ長い間苦労していたかもよく知っている。

 

そんな彼女がはしゃぎ回っている姿を目にしながら銀時は深いため息を突きながらたまに考える。

 

「もうガキでもねぇのに昔と何も変わらねぇな本当によ……」

「定春ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

「フハハハハ! 勝っ飛べマグナァァァァァム!!!」

 

そんな彼女の笑顔を護ってやりたいと同時に

 

 

 

 

 

 

もうちょっと年相応の落ち着きを持って欲しいと思うのであった。

 

 

かくしてアスナ達との戦いは完全に決着は着かないまま幕を閉じる事となる。

 

しかしこれはほんの始まりに過ぎない

 

アスナにグラ、そしてソウゴの三人組とは

 

これからも幾度も顔を合わせる事となっていくのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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