竿魂   作:カイバーマン。

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メリクリです、皆さん今日は待ちに待ったクリスマスですね。

私の予定? わざわざクリスマスジャストにこれ投稿してる時点で察してください(涙目)

でも春風駘蕩さんからクリスマスプレゼントを貰いました。またもやイラストを描いて下さったのです。しかも2枚!

新八とキリト、彼がこの姿で登場するのはまだ先ですが……

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神楽とアスナ、原作ヒロインコンビです、こうして見るとどことなく似てる気がします

【挿絵表示】


ありがとうございました!!



第十七層 攘夷四天王

血盟騎士団の副団長であるアスナとその友人、グラと接触したキリト達。

 

狭い小屋の中でこんなにも人数がいると流石に窮屈だという事で、アスナに言われるがまま一行は小屋の外へと出て来た。

 

「攘夷志士、かつて現実世界で天人達と長年にわたる戦争、攘夷戦争を繰り広げて来た侍達の呼称」

 

キリトの背後で隠れながらポリポリと頭を掻いてとぼけた様子でいるアルゴに対し、アスナは静かに話を始める。

 

「彼等の中には未だに伝説と化した存在もいて、EDOではそんな彼等の異名をなぞって付けられた二つ名を持つ連中が四人いるのよ、それが攘夷四天王」

「あーそういやそんなのがいるとかって前にハゲに聞いた事あったっけ」

 

この世界における攘夷四天王という存在を説明してくれたアスナに一番早く反応したのは

 

けだるそうに死んだ魚の様な目をしながら首を傾げる銀時であった。

 

「で? そいつ等がなんかしたの?」

「彼等は現実にいた攘夷志士と同じく天人に対して過激な活動を繰り返す事を生業とする。まさにこの世界においての反乱分子であり攘夷プレイヤーよ」

 

銀時の問いかけにも真面目な態度でアスナは頷きながらはっきりと答える。

 

「だから私達血盟組は一刻も早く連中を全員確保してなんらかの処置を下す必要があるのよ、最悪アカウント停止処分も……」

「アカウント停止処分?」

「簡単に言えばこの世界に永遠に入る事が出来なくなるって事だね」

 

少々歯がゆそうに最後の言葉を呟いたアスナに銀時がまた疑問を持っていると、すかさず隣にいたユウキが教えてくれる。

 

「EDOに入るにはプレイヤーはそれぞれ自分のアカウントが必要なんだけど、そのアカウントを強制的に凍結させて二度とこっちにログイン出来なくするっていう処置を悪質なプレイヤーには今後行うって、前に血盟騎士団から発表があったんだ」

「あーはいはいなるほど、臭いモンには蓋をするって奴ね、悪臭の無いクリーンな世界がお望みたぁ随分と潔癖なんだな、おたくの所は」

「……周りに迷惑をかける程の強烈な悪臭にはそういった処置も時には必要だって事よ」

 

ユウキの話にわかった様子で頷く銀時の言い方に少々苦い表情を浮かべながらも、アスナはキリトの方へと視線を向けた。

 

「攘夷プレイヤーの行う天人への過激活動は日に日に増加の一途を辿っているの。このままだと地球は天人達に悪い印象を持たれてしまう、だから彼等にこの世界がより良い存在だと思わせる為にそういったプレイヤーは排除するしかないのよ」

「おい、なんでそこで俺を見るんだ副団長さん?」

「しらばっくれないで、もうとっくにあなたの正体は突き止めているんだから」

 

両手を後頭部に回しながらジト目を向けて来るキリトにアスナはキッと睨み返しながら指を突き付けた。

 

「かつて攘夷戦争で鬼神の如く暴れ回ったという『白夜叉』からなぞられた二つ名を持つプレイヤー、それがあなたでしょ、”黒夜叉”」

「……その名前を天人以外に呼ばれたのは久しぶりだな」

「し、白夜叉の名前からとって黒夜叉!?」

 

アスナに黒夜叉と呼ばれたキリトが特に驚きもせずに平静にしている中で

 

何故か銀時が素っ頓狂な声を上げて驚いていた。

 

「え、まさか白夜叉ってそんな有名な攘夷志士であられたんですか!?  ゲームの世界でも有名になるぐらい!? もしかして仮にその白夜叉がさんが街中を歩いてたら女の子にキャーキャー言い寄られてサイン書いて欲しいとねだられるぐらいおモテになられるんですか!?」

「俺が攘夷四天王の一人だという事実よりも、何故にそんな事に疑問を覚えるんだよアンタ……」

 

てっきり自分が危険分子と称される攘夷四天王の一人だという事実を聞かされて驚いてるのかとも思っていたんだが……やはりこの男はどこか反応がおかしい。

 

「俺だって二つ名のモデルになった白夜叉って奴の事はよく知らないんだよ、でもどうせアレだろ? 攘夷戦争の記録が書かれた書物に偶然その名前があって、誰かが適当に俺の事をそっから引用した言葉を使って黒夜叉って呼ぶようになったんだと思うぜ」

「はぁ!?」

「滅茶苦茶強かったってのは聞いた事あるけど、他の四天王の内の二人に比べればそこまで有名でもないマイナーな攘夷志士だ、二つ名は知られても名前さえわかってない人物だし」

「誰がマイナー攘夷志士だ!! テメェちゃんと歴史の勉強してんのか!」

 

肩をすくめながら明らかに白夜叉という存在を軽く見ているキリトに銀時は何故か怒声を上げた。

 

「どう見ても白夜叉さんは攘夷戦争で一番光ってただろ!! 他の連中なんか雑兵もいいとこだよ!!」

「いや有名所といえばやっぱ”狂乱の貴公子の桂小太郎”とか”鬼兵隊総督の高杉晋助”とかだろ? ぶっちゃけ二つ名を貰うんだったら俺は白夜叉よりもそういった所から欲しかったね俺としては」

「てんめぇ白夜叉さんナメんじゃねぇぇぇぇぇぇぇl!! あんなバカ共なんざ所詮白夜叉さんの後をついて回ってこぼれモンを拾ってただけなんだよ! 本当の英雄は白夜叉さんなんだよ!!」

「……さっきからなんでアンタそんなに白夜叉の事を高く評価してるんだ? ひょっとしてマイナーな攘夷志士ファンか何かか?」

「だからマイナーじゃねぇつってんだろうが!! 白夜叉さんは超メジャー級だよ! 大谷選手クラスだよ!!」

 

どうしてこう頑なに白夜叉を庇護するのかわからないキリトが怪訝な様子を浮かべていると、銀時は急にはぁ~とどっと深いため息を突いてユウキの方へ振り向き

 

「……もしかして白夜叉って攘夷志士の中で一番人気なかった?」

「さあ? 少なくともどこぞの田舎に住んでた双子の姉妹はずっと白夜叉のファンだったよ」

 

呆れつつもどこか励ましが含まれた台詞を言いつつ、ユウキが項垂れる銀時の頭をポンポン叩きながら「ドンマイドンマイ」と元気づけている中で

 

そんな二人をよそに今度はキリトの方からアスナの方へ口火を切る。

 

「で? 俺を一体どうするつもりだ副団長さん。まさかここでやり合うつもりか? 黒夜叉と鬼の閃光で」

「それも面白いかもしれないけど、まずはその情報屋からあなた達攘夷四天王の事を教えてもらうのが先だわ」

 

キリトの挑発を軽く受け流すと、アスナは彼の背後で隠れているアルゴをジッと見つめる。

 

「鼠のアルゴ、EDO一番の情報屋として名高いあなたなら当然知っているわよね? 連中の正体を」

「……はぁ~全くキー坊がポカしたおかげで面倒な客に会っちまったヨ」

「私達血盟騎士団でも、連中の情報は全く把握できてないの、まるで”誰かが意図的に連中の情報を秘匿しているかの様に”」

「へ~そんな有名ギルドも欲しがる情報を独り占めしてるたぁ随分と酷い奴もいたモンだナ~」

 

すっとぼけた様子で目を逸らしながらアルゴは他人事のように呟くと、未だ睨み付けて来るアスナにやっとキリトの後ろから顔を出した。

 

「悪いがその情報は売れないヨ、理由は至極簡単、迂闊に漏らせば俺っちの命が危ないからダ。それも相手が攘夷プレイヤーを目の敵にしている血盟騎士団なら尚更さネ」

「報酬さえ貰えるならどんな事も話すのがあなたの流儀だったんじゃなかったのかしら?」

「自分の命が関われば別だ、誰だって金よりも自分の命の方が惜しい」

「それなら情報を譲渡した後は、血盟組が責任を持ってあなたを保護……」

「悪いがそれは無理ダ、血盟騎士団の団長自らが付きっ切りで私をずっと護ってくれるならともかく。おたく等程度じゃ連中の相手にならなイ」

「……なんですって?」

 

軽く小馬鹿にした様子で笑みを浮かべて見せるアルゴに対し、アスナの目元がピクリと動く。

 

「おたくが追ってる連中は甘くはない連中って事サ、キー坊は別だけどナ、コイツは四人の中では最も無害ダ」

「少々ムカッと来る言い方だな……」

「褒めているんだヨ、少なくともキー坊は好き勝手に暴れてるだけで別に天人に対して敵対心を持っている訳ではないしナ」

「まあな、俺は攘夷活動なんかした覚えはない。ムカつく奴がいたから斬ったら、それがたまたま天人達だっただけの話だ、それで連中が大騒ぎして襲い掛かって来たからバラバラにして土に埋めてやっただけの話だよ」

「それが攘夷活動って言うのよこの殺人鬼!!」

 

悪びれも無い様子で淡々とした口調で話すキリトにすかさずアスナがツッコミを入れた。

 

「あなたみたいに目的も理由も無く無差別に天人を襲う輩が一番タチが悪いのよ!!」

「フ、そうでもないさ、俺以外に攘夷四天王と呼ばれてるのは他に三人いるのはわかってるだろ? その中にいる一人よりは俺は至ってマシな方だ」

 

アスナの追及を鼻で笑いながらキリトはとある人物の事を話し始める

 

「『魔弾の貴公女』って奴がいるのは当然知ってるよな? 俺も会った事もないしよく知らないが、天人を駆除する為なら周りの地球人プレイヤーも容赦なく巻き込む程のテロリストだって聞いたぞ」

「『狂乱の貴公子・桂小太郎』の二つ名から取ったプレイヤーね……本物と同じくかなりの悪名が知れ渡っているわ、わかっているのはGGO型の女性だという事と凄腕のスナイパーだという事しか確認されてないけど、いずれは私達が絶対に捕まえて見せる……」

 

魔弾の貴公女はキリトが自分以外に唯一知っている攘夷四天王の一人だ

何度か同じ戦場で戦った事はあるのだが、キリトは彼女の姿を見た事は一度も無い。

 

何故なら彼女は周りに姿を一切見せずに、ヒッソリと物陰に潜みながら獲物を狙い撃つ超遠距離特化型の狙撃手なのだ。近接接近を好むキリトとは真逆のスタイルを取る彼女とは当然遭遇率はゼロと言っていい。

 

そしてそんな彼女も、勿論アスナにとっては捕まえるべき凶悪な悪質プレイヤーに変わりない。

 

「まずは彼女の事も含めてありったけの情報が必要、鼠のアルゴ、このまま情報を出さないというなら私達も奥の手を使わなければならないんだけど、よろしいかしら?」

「なんダ? 俺っちに情報吐かせる為に生け捕りにでもして、エロい事でもするのカ?」

「しないわよ!」

「えーアスナってそっちの趣味があったの? ボク、マジで引くわー」

「ないわよ! そんな変なモノを見る目で見つめないで! 私は至って普通の上流階級の人間です!」

「今サラッと自分の事上流階級の人間だって言わなかった?」

 

自覚のない自慢を挟みながらアスナがドン引きするユウキに叫んだあと、変に誤解された事でますます腹が立ったのか、今度は勢い良く大きな声を放つ。

 

「グラ! 至急あの子の用意を!!」

「やれやれやっと出番みたいね、待ちくたびれたわ」

 

彼女が叫ぶと背後でずっと日傘を差して待機していたグラがフゥッとため息を漏らす。

 

すると背後にあった奥の茂みからガサゴソと何かを掻き分けてくる音が……

 

「ま、こうなると思って事前に呼んで置いたわ。どうせアンタの事だから連中に良いように遊ばれて交渉なんか出来る訳ないと思ってたし」

「心に刺さる毒舌をどうもありがと……」

「なんダ一体、もしかしてサラマンダーの増援でも呼んでいたのカ?」

「は? 勘違いしないでくれる? 鼠一匹を始末するのに私があんな頭の中まで筋肉で出来てるバカ共を使う訳ないでしょ」

 

ALOのサラマンダーでありながら同族達を思いきりバカにしながらアルゴに返事したグラの背後から

 

ヌッと巨大な図体が草葉を掻き分けて現れた。

 

「ワン」

「な!」

「犬だー!」

「ほーん、随分と食費のかかりそうな犬だな」

「……」

 

一行はその姿を見て流石に面食らってしまった。

 

率直に言えば言葉を失う程真っ白な巨大犬、が自分達の前にヘッへッと舌を出しながら現れたのである。

 

その正体は数あるレアモンスターの中でもさらに珍しい種類に属する幻獣種。

 

狗神≪いぬがみ≫、攻撃力・防御力・スピード共にかなりの高さを誇り、敵として現れたらキリトでさえタイマンは難しいと称する程だ。

 

しかもその首には青い首輪が巻かれている所

そして『モンスターテイム』というEDOに存在するモンスターを自らの仲間にする事の出来るスキルを唯一持つ事の出来るのはALO型のみ

 

そしてそのALO型のグラが呼びつけたように見えた所から察するに……

 

「まさか狗神をテイムしたっていうのか!? あの凶暴なモンスターをテイム成功率の低いサラマンダーが!?」

「凶暴だなんて失礼な事言ってくれるわね、ウチの定春はキチンとしつけも出来ていてとっても良い子なのよ、ね、定春」

「ワン!」

 

定春とグラに呼ばれ、嬉しそうに吠えて見事に彼女に従順しているのを見て、キリトは驚愕の表情を浮かべる。

 

「あり得ない……ALOの種族の中でステータスが最も戦闘方面に特化しているサラマンダーが……テイム能力の高いケットシーでさえ未だ成し遂げていない狗神を手に入れてたなんて……」

「よくわかんねぇけどあのぺっぴんさん、本来敵であるモンスターを仲間にしてるって事?」

「ああ、宝くじで一等取るぐらいの確立を引き当てて自分のペットにしたんだ……何者だあのサラマンダーの女」

「てことは俺もグラマラスでナイスバディなサキュバスをテイムする事が出来るって訳か、段々このゲームにおける醍醐味ってモンがわかって来たぜ」

「……言っておくがモンスターのテイムはALO型のみの特権で、SAO型の俺やGGO型のアンタじゃ絶対に出来ないぞ」

 

キリトからモンスターを仲間に出来る方法を聞かされて俄然やる気が出た様子でほくそ笑む銀時にキリトが冷たく呟いていると、ユウキはすっかり舌を出してこっちを見つめて来る定春に興味津々の様子でジッとその姿を眺めている。

 

「いいなーあの犬、モフモフしてそうで触りたいなー」

「ヘッヘッヘ」

「止めとけ止めとけ、犬ってのは触り心地は良いが獣臭くて敵いやしねぇ、遠くから見るだけで満足しとけ」

「その獣臭さが良いんだよ、わかってないなぁ銀時は、ん?」 

 

ぶっきらぼうに犬派を敵に回しかねない発言をする銀時にユウキがやれやれと首を振りつつ

 

ふとさっきから背後で微動だにせずにジッと固まってしまっているアルゴに気付いた。

 

「どうしたのアルゴ?」

「い、犬……犬、犬、犬……!!」

 

常に余裕を持っているような態度と言動であったアルゴが

 

定春が現れた途端急に言葉を震わせ動揺し始めると……

 

「俺っちは犬だけだ絶対にダメなんダ!! 頼ム! 早くその犬を私の視界に見えない所まで連れてってくレェ!!」

「ええ! 犬苦手だったの!? あんなに可愛いのに!?」

「可愛くなんかなイ! 全生物の中で最も恐ろしい生物と言えば犬だロ!!!」

「それはどうかな、ボクとしては犬よりもゴキブリの方が怖いけど」

「犬数十匹のいる檻に閉じ込められるなラ! ゴキブリ数千匹のいるゴミバケツに頭からダイブした方がマシなんだヨ!」

「そこまで!?」

 

どこぞのお笑い芸人張りに体を張る事もいとわないといった感じに、犬に対して物凄く拒絶反応を示しながらアルゴはキリトの後に寄り添って身を震わせながら隠れる。

 

「キー坊お願いダ! 早くあの犬追い払ってくレ! 長い付き合いのよしみで助けてくれヨ!? 次に渡す情報はかなり格安にするからサ!!」

「お前が自分から情報代を値引こうとするなんてな……それにしても」

 

自分の背後で震えながら懇願してきたアルゴの姿に新鮮味を感じつつ、キリトは再びアスナの方へ振り返る。

 

「これが血盟騎士団のやり方か? 女の子から情報取る為にわざわざ苦手なモン用意して脅すとは中々悪どいやり口だな」

「好きに言えばいいわ、私はこの世界を護る為ならどんな事だってするって決めてるの、どんな事だってね……」

「やれやれ、本気でそう思ってる表情には見えないけどな……仕方ない」

 

ハッキリといいつも顔には何らかのうしろめたさを感じるのが見え隠れしている。

 

基本的に鈍い所はあるが時に鋭く相手を観察する事に長けたキリトは、彼女が一体どこまでが本音なのか考えつつ、スッと一歩前に出た。

 

「だったらここで白黒つける為に一つデュエルで勝負して見ないか、鬼の閃光」

「デュエル……まさか私とサシでやって勝ったらあなたやアルゴをひとまず見逃せとでも言うの?」

「いや、アンタが勝っても負けてもアルゴには手を出さないでくれ」

「は? 何よそれ、それじゃあ私にはなんのメリットも無いじゃないの、話にならないわ」

 

ジッと心配そうに見上げて来るアルゴにキリトは脇目で頷きつつ、こちらにたいしてジト目を向けて来るアスナに言葉を続けた。

 

「安心しろ、アルゴは捕まえさせないとは言ったけど俺は別だ、もし俺が負けたら俺の事は好きにして構わない」

「な! まさか自分の身を盾にしてその情報屋を助けるっていうつもり!? 今まで数々の悪行を繰り返してきたあなたが!?」

「卑怯な手を使うよりもフェアプレイな決闘で手柄を取る方がアンタとしては良い話なんじゃないか?」

 

アルゴの代わりに自分が捕まる、まさかの言葉にアスナが唖然とする中でキリトは得意げに笑いながら自分を親指で指す。

 

「まあできればの話だけどな、言っておくがこの『黒夜叉』の首はそう安々と手に入れられるモンじゃないぞ」

「……キー坊、今回は恩に着ル、次回は情報料無料ダ」

「太っ腹だな、その言葉を貰うためにここまで威勢を張ったかいがあるってもんだ」

「素直じゃないな相変わらズ、まあそういう所も嫌いじゃないけどナ」

 

金にがめつい彼女から放たれた無料という言葉にキリトはニヤリと笑いながら返事すると、アルゴもまた背中に隠れながらフッと笑い返した。

 

そんな二人を眺めながらアスナは少々困惑の色を浮かべつつも、すぐ様腰に差しているレイピアの柄を握る。

 

「あなたにも仲間を思うという心構えがあるのね……あなたが真っ当なプレイヤーとして活動していれば、もしかしたら私ともわかり合えたかもしれないのに……」

「腰の得物を握ったって事は……俺の案を呑むって事でいいんだよな」

「いいわ、正々堂々あなたをこの手で打ち負かして黒夜叉の首を取ってあげる」

「へ、出来るモンならな。デュエルのルールは完全決着でいこうぜ」

「体力全損したら終わりって事ね、望む所だわ」

 

相も変わらず小馬鹿にした態度を取って来るキリトではあるが、それが彼なりの主導権を握るやり方だと気付いたアスナは軽く流して睨み付けるだけであった。

 

そしてそんな彼女を横からジッと眺めていたグラはというと……

 

「何勝手に盛り上がってるんだか……それじゃあ私もちょいと一勝負しようかしら? ねぇそこの銀髪の天然パーマ」

「あ? なんか用かネェちゃん?」

「アスナはアスナで良い遊び相手見つけたみたいだから、アンタは私の暇つぶしに付き合ってくんない?」

 

対峙して決闘の準備を進める二人を一瞥した後、グラは手に持った日傘を畳んで肩に掛けながら銀時の方へと話しかける。

 

どうやら彼女は暇潰しという名の決闘をご所望らしい。

 

「私が勝ったらそこの情報屋を捕まえさせてもらうから」

「はぁ? おいネェちゃん、さっきキリト君が言ってた事忘れたのか? コイツはもう見逃せって言っただろ?」

「勘違いしないでくれる? 見逃すと言ったのはアスナで、私は別にそんな約束した覚えはないんだから」

 

随分と勝手な事を……どうやらアスナだけでなく彼女もこの場で黙らせないといけないみたいだ。

 

本来この件に関してはなんの関わりも無い銀時ではあるが、キリトがあそこまでアルゴを護ろうとしているのに、自分がこの場をスタコラサッサッと消えるのはあまりよろしくない。

 

渋々銀時は挑戦的なグラに対し、胸の懐に仕舞っている脇差し『今剣』をスッと取り出す。

 

「上等だ、おたくみたいな綺麗なネェちゃんとやり合えるんならご褒美も良い所だ、せっかくの御指名に答えてやらねぇと男の名もすたるってモンだしよ」

「その短い刀が得物のつもり? アンタもしかして私の事ナメてる?」

「安心しろ、すぐに長いブツをお見せして満足させてやっから」

 

脇差しは武器としては『短剣』に属する。リーチは短いし攻撃力も低い性能なので、あまり好んで使うプレイヤーはいない。

それを当然知っているグラはハンデのつもりなのかとカチンと来ているみたいだが、銀時はヘラヘラと笑いながら下品な言い回しをする。

 

「にしてもまた決闘か、ったく次から次へと俺に勝負挑みやがって、それも全部キリト君絡みじゃねぇか」

「銀時、デュエルの最中なのをいい事にあの人にいかがわしい真似とかしたらボク怒るからね」

「俺の事なんかよりもオメェはテメーの相手に集中しろ」

「え?」

 

現実世界でも決闘、こっちの世界でも決闘

 

それぞれの世界で決闘を挑まれるというレアな展開に巻き込まれた事に疲れた様子でため息を突く銀時に、傍でグラと話していたのを眺めていたユウキが面白くなさそうに注意すると

 

彼はおもむろにユウキの前方にいる『相手』を指差す。

 

「ワンワン!」

「俺とキリト君がこの二人止めてる間に、オメェはあの犬っころをこの小娘に近づかせねぇようにしとけ」

「おお隊長! それはつまり自分はあの犬に触ってモフモフしていいという事でありますか!?」

「その通りだチワワ隊員、遠慮なくモフって来い、ただし獣臭くなったらしばらく俺に近づくな」

「イエッサー!!」

 

ユウキのやる事は巨大犬、定春をアルゴの方へ近づかせない事。

 

それを聞いて思わず右手を掲げて敬礼しながら、上機嫌の様子で銀時に尋ねると

 

そのノリに適当に付き合ってあげながら銀時はバシッと彼女の背中を叩く。

 

「おら行って来いチワワ、俺達に構わず遠慮なく犬とじゃれ合ってろ」

「アイアイサー! プリーズミーモフモフ~!!」

「ワン!」

 

つぶらな瞳でこっちに尻尾を振りながら待っている定春に向かって意気揚々とユウキは走り出すのだった。

 

残された銀時は改めてグラと対峙する。

 

「悪いな、俺の所のマスコットがしばらくそちらのマスコットを止めさせてもらうぜ」

「フン、定春があんな小娘相手に止められるとでも思ったら大間違いよ、モフモフしたいのは結構だけど、果たしてその毛並みを触れる事が出来るのかしらね」

 

定春の強さに果たして彼女が何処まで抵抗できるか見物だなと思いつつ、グラは銀時に笑いかけながら手元にメニューウィンドウを出して人差し指で操作し始める。

 

「この操作には未だに慣れないんだけど……あ、コレね」

 

慣れた者なら両手の指を使ってカチャカチャと高速で操作出来るのだが、どうやら銀時同様グラもまたこの操作にはどこか苦手意識があるらしい。

 

しばらくして彼女が一つの項目を押して操作を進めていくと、銀時の前に勝手にメニューが開かれた。

 

『デュエル・完全決着モード・対戦相手【グラ】 承認しますか? はい・いいえ』

 

それが互いに決闘を行う為の確認画面だと気付いて、銀時は手の平でパチンと「はい」の部分を叩く。

 

結構な勢いで叩いたので画面が若干ブレたが問題はなく、即座に『決闘開始1分前』という新たな文字が浮かび上がった。

 

「この1分の間に、せいぜいどうやって私から逃げ切れるか考えておきなさい」

「随分とテメーの腕に自信あるみたいだなネェちゃん、だがこれでも俺はこの世界での戦い方もわかって来てんだ」

 

挑発的な物言いに対し、銀時は手に持った脇差しを鞘から抜いて、短い刃を見せ付ける様にグラに突き付けた。

 

「とくと見せてやるよ、普通じゃお目にかかれない、こっちの世界での俺の戦い方って奴を」

「へぇ、そこまで言うなら見せてもらおうじゃない、それで私を驚かせたら褒めてあげるわ」

 

キラリと光る刃を彼女の向かって突き出したまま銀時は1分の猶予の中をジッと過ごす。

グラもまた大きな日傘を肩に掛けたまま余裕綽々の態度で待ち構える。

 

そして残り30、20、10、5、と刻まれていき……

 

0となったその瞬間

 

戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「さあかかって来なさい、全力でぶっ倒してやるんだから」

 

まずは威勢良く銀時が大声を上げながら突き出していた刃を動かす。

 

瞬時にグラはその場から動かずにどういった動きをするのか笑いながら見守っていると

 

 

 

 

 

 

「ぬぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「えぇぇぇぇぇぇ! ちょ、ちょっとアンタ!!」

 

咆哮と共に刃を自分の方に向けると、短い刃先を思いきりい自分の腹に突き立てたではないか。

 

しかも必死の形相で自分の腹を突き刺しながらもなお銀時は叫び続ける。

 

始まっていきなりの彼の奇行に面を食らって今までクールだったグラも両目をひん剥いて驚いた。

 

「おげぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「アンタそれ……てかお前何やってるアルか!? なんで私にじゃなくて自分の腹掻っ捌いてるんだヨ!!」

「黙って見てろや! コレが俺の戦い方だコンチクショォォォォォォォ!!!」

「アスナ姐ぇぇぇぇぇぇぇ!! この天パ頭おかしいアル!! 助けてヨ!!」

 

みるみるHPバーが削られている事も気にせずに銀時は更に腹に刃を食い込ませてみせるので、思わずグラは口調がガラリと変わってテンパった様子で隣にいるアスナの方へ助けを求めるのであった。

 

 

かくして、黒夜叉とその愉快な仲間達と鬼の閃光とその愉快仲間達の戦いが始まったのである。

 

「さてさてコイツは見物だナ……どれ、鬼の閃光やあのチャイナ娘の情報を上手く取れる様にちゃんと立ち回ってくれよヨ、それに」

 

そんな騒がしい戦いを前にしながら、アルゴは一人離れた場所に立ちながら静かに傍観に徹する。

 

「白と黒の夜叉……二人の戦いをこんな早くに拝見できるとはこりゃ相当ツイてるかもナー」

 

なにかを知っているかの様に呟くアルゴはローブで顔を隠しながら、ひっそりと笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある密偵が記すEDOにおける設定と豆知識その4

 

『攘夷四天王』

 

光あれば闇もある

 

善良なプレイヤーがいれば悪質なプレイヤーもいる

 

EDOの治安を護る事を使命とする血盟騎士団もいれば、EDOの治安を悪化させて平和を脅かす攘夷プレイヤーもいる。

 

今回紹介するのはその反天人的な思想を持つ攘夷プレイヤーの中でも一際問題視されている攘夷四天王達を紹介しよう。

 

 

『黒夜叉』

 

全身黒に包んだその恰好と、鬼の様に敵を蹴散らす姿からそう呼ばれるようになったらしい。

 

元名は現実世界の攘夷戦争で暴れ回った『白夜叉』から取られている。

 

タイプはSAO型、少々小柄ですばしっこいのが特徴らしくて、そのスピードを生かして相手を翻弄しつつ戦うのがセオリーだとか

 

そんな黒夜叉は最も多くの天人に忌み嫌われている存在であり、どこぞの種族はこの黒夜叉に賞金首を賭けるぐらい恨んでいるとか

 

素性はあまりわからないが、どうやら男性だという所まではわかっている。しかもなんか俺よりもずっと年下らしい……

 

今後も彼については注意深く探りをしながら新たな情報を見つけてみよう

 

 

『魔弾の貴公女』

 

見た目は不明、わかっているのはGGO型の女性プレイヤーであり、類稀なる狙撃センスを持ったスナイパーだという事だ。

 

彼女の放つ弾丸は、遥か数キロ先にいる相手であろうと正確に急所を撃ち抜くことが出来る、俺も昔撃たれました……

 

天人を容赦なく無差別に襲い、時には戦意を失った天人でも徹底的に排除する冷酷さ

 

戦況が思わしくないとすぐ様身を隠して息をひそめ、敗北濃厚となると即撤退して逃げてしまう機敏な対応力を持っている。

 

『狂乱の貴公子・桂小太郎』からの異名を持っているだけあって攻め際と引き際をかなり心得ているという事だ。

 

居所は今の所第三十層のGGO占有地区や、第六十層の大型GGO占有地区にも潜む事が多いとわかっている。

 

だがあそこはかなりの荒れたゴロツキ共が平然と撃ち合いをおっ始めてる場所、中々腕のあるプレイヤーでもそう簡単に近寄る事は出来ない。

 

彼女の情報をもっと詳しく手にいれるには、まだまだ準備が必要そうだ……

 

 

『????』

 

見た目はおろか二つ名も不明、わかっているのはALO型だという事だけ。四天王の中でも一番謎の多い人物だ。

 

そんな人物が何故攘夷四天王と呼ばれているかというと、天人との戦いを経験してきたプレイヤー達の間でとある噂が流れているのだ。

 

戦いにも加わらない存在でありながら、その戦場を引っくり返して度々勝利に導くとんでもない傑物がいるらしい。

 

その存在がどういった方法で彼等を勝たせてやったのかは今もなおわからない。一体何者なのだろうか……

 

天人達の間ではその人物の二つ名が広く知れ渡っているらしく、その名を聞いただけでも天人達は怒り狂うらしい。

 

俺もその二つ名だけでも是非とも知りたいが……連中は全く俺の話を聞いてくれないのでしばらく保留にしておきます……

 

『鬼兵刀』

 

『鬼兵隊総督・高杉晋助』にあやかった異名を持っている人物であり

 

見た目は全身を隠す為の銀色のローブに身を包んでいるらしく、性別も不明、そしてタイプさえも不明。

 

噂によるとSAO型、ALO型、GGO型の特徴に当てはまらない未知の力を秘めているだとか……。

 

EDOではチート行為はやればすぐに運営側に見つかって即アカウント停止処分、ゆえにこの人物の持つその力はあくまで公式に乗っ取った奴だという事になる。

 

そして何より俺が怪しいと思うのは、この人物の周りで起こる不思議な現象だ。

 

なんでもこの人物に倒された天人や地球人も皆、EDOに二度とログインしてこなくったらしい……

 

PKされた事が余程のショックだったからって引退というのは考えられない、何かとてつもなくヤバい事が現実世界で起きたのだと俺は推測している。

 

故に俺にとって最も危険な攘夷プレイヤーだと確信している。

 

天人を倒した数は黒夜叉、魔弾の貴公女よりは少ないモノの、その噂話が元で多くの天人だけでなく一部の地球人プレイヤーからも畏怖されている存在だ。

 

銀のローブに身を包んだ人物にはご用心、もし会ったとしても決して近づかない様にとこの場で忠告しておこう。

 

何かしらの正体が発覚するまで、俺は密偵として警察として今後も探るつもりだ。

 

 

 

という事で以上この四人が攘夷四天王と該当する人物だ、え、謎ばっかで全然わかってねぇじゃねぇかって?

 

仕方ねぇだろ! どいつもこいつも表には滅多に出てこないから調べようがねぇんだよ!!

 

コイツ等の情報を唯一知っている情報屋がいるらしいけど! どんだけ金をつぎ込もうとしても教えてもくれやしねぇし!

 

という事で近い内に血盟騎士団のさる御方に頼んでその情報屋に接触してもらおうと思います。

 

彼女が無理矢理にでも聞き出してくれれば、この危険人物の情報がもっと正確に暴かれるかもしれない。

 

頼んだよアスナちゃん!!

 

 

 

 




この短い説明の中で攘夷四天王全員のキャラを推理できた人にはハナマルとビーチの侍Tシャツをプレゼント

という冗談は置いといて

原作主人公コンビVS原作ヒロインコンビ

おまけでマスコット対決の始まりです。

そしてバズーカの返り討ちを食らって退場になったと思われる男は一体何処に……

次回をお楽しみに

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