二つ目は単純に「.hack GU」というゲームにドはまりしてたせいであります。10年前にプレイしてたんですけど最近PS4で出たという事でもう一度やってみたかったんです……
今後しばらくは不定期更新となるやもしれません、申し訳ありません……
銀時達がいるのは現在・第十三層
一通りの探索を終えてフロアボス対策の為の身支度を終えて
キリトに案内されるがまま銀時はユウキと共に、十四層へと向かうダンジョンの傍にある村へと足を運んでいた。
「身支度と準備も済ませたし後はダンジョンだけ、このまま一気に走り抜けるのも悪くはないが、ひとまずここで一旦休憩しよう」
少々治安が悪そうな、いかにも路地裏で怪しげなモノを売ってるかのような危険な臭いのする村。
そんな所で何一つ警戒する事無くあっさりとキリトが中へと入ってく所で、後をついてくユウキが口を挟む。
「もう十四層か~、ちょっとペース早くない? もう少しサブクエとかやって有意義にゲームの世界を楽しんだら?」
「甘ったれた事言ってんじゃねぇよ、俺は一刻も早くお前等に追いつきてぇんだ。こうしてお前等に先輩面されてる中で、銀さんが虎視眈々と下克上を狙っているのがわからねぇのか?」
「わかってるからもうちょっと先輩の気分を味わさせて欲しいなぁと思ってるんだよ、銀時に頼られるって悪くないし」
一番後ろでぼやく銀時にユウキが振り返りながら答えていると、キリトは確かに今のペースを続けて行けば銀時が自分達に追いつくのもそう遠くはないのでは?っとふと思った。
「とにかく当面の目的は五十層辺りだな、あの辺まで昇り詰めれば色々と出来る事が増えるし。宇宙戦の参加資格も貰えるしな」
「宇宙戦?」
「そういや銀時はまだ知らなかったね、簡単に言えばお祭りみたいなモノだよ」
何処かで聞いた事もある様な無いような……キリトの言った言葉に耳を傾けていた銀時が首を傾げると、ユウキが変わって説明してくれた。
「正式名称は「他星異文化交流会」とかだったかな? そのイベントがやってる間は一般プレイヤーでも地球だけじゃなくて他の星のプレイヤーとも同じサーバー内で対戦や交流が出来るんだ」
「ふーん、俺はあんま興味ねぇなそう言うの。天人とか相手にすんのめんどくせぇし」
「そうでもないぞ、異文化交流会だなんて名目はあくまで表向き、実際は天人と地球人による乱戦が繰り広げられている完全無法地帯だ」
ユウキの話を聞いてもイマイチな反応をする銀時だが、続いてキリトが話の補足をしながら軽く笑みを浮かべた。
「連中を倒せば向こうの星でしか手に入らないレアドロップ品を落とす時もあるし、EDOでより強くなるための手段としてはかなり旨味のあるイベントなんだよ。ま、一部の頭の固い連中にはあまり面白くないみたいだけどな」
「そりゃあ本当は地球人と天人が友好的な関係を築く為のイベントとして用意したモンだしね。お互い血気盛んな様子で戦ってアイテムを取り合いなんてしてちゃ何時まで経っても仲良くなれないよ」
「いいんだよ仲良くしなくたって、何時まで経っても上から目線の連中と手を取り合う事自体出来る訳ないんだからさ」
天人に対してはかなり嫌悪感を示すキリトはそう言いながら、とある路地裏に差し掛かった所で一つの店へと指をさす。
「とりあえず五十層まではまだ先が長いんだから宇宙戦の話はここまでにしておこうぜ、それよりまずは十三層のフロアボスの情報、そして腹ごしらえだ」
「ようやく飯にありつけるのか、ここ最近現実世界じゃパンの耳ばかり食っててひもじい思いしてんだよ。せめてゲームの世界ではまともなモンを食べてぇと思ってたんだ」
「パンの耳……万事屋ってそんな儲からないのか?」
「儲からないし無駄遣いばかりするんだよ銀時は、おかげで家賃も滞納してるし」
「お前のガソリン代もバカにならねぇしな」
「就職先間違えたかな……」
万事屋の悲しい懐事情を二人から聞きながらキリトは数日後にはそちらへお邪魔する予定だったので、安易に働き口として選んだのは間違いだったのでは?っと自問自答を繰り返しつつ、少々見ずぼらしい中華風の店へと入ろうとする。
だがその時
「この店に入るのは止めておいた方が良いでござるよ」
「ん?」
ふと隣から飛んで来た声にキリトは思わずそちらに目を向ける。
ヒビ割れた店の壁に背を預けながら、長い栗色の髪を一つに結った着物姿の男が腕を組んで立っていた。
腰に差すのは刀……EDOにおいてレアの中のレアと称されている武器を持つという事はよほど運が良いのか、それともかなりの熟練プレイヤーのどちらかだ。
キリトはそんな彼を眺めながら正体を見極めようとしつつ、男に向かって口を開く。
「どうして店に入らない方が良いんだ?」
「血盟組、罪人の臭いを嗅ぎけて一人の女剣士が客人を連れてこの村をしらみ潰しに探索しているみたいだぜ」
「血盟組……血盟騎士団か、そこの女剣士という事は……」
「ちなみに今その女がいるのが、この店の中でござる」
男がアゴでしゃくって店のドアを指す。
それを聞いてキリトは頭の中でちょっと前にあった一人の少女を思い出し、反射的にドアを開けようとしていた手を引っ込めた。
「情報ありがとな、別に後ろめたい気持ちはないんだがあの連中はどうも苦手でね」
「礼には及ばねぇさ、俺も同じくあの連中の事は好きじゃねぇ、それと」
壁に体を傾けながら男はニヤリと笑いつつ、更に新たな情報をキリト達に話してくれた。
「この村に長居するのは止めときな、あのお嬢さん、どうも何かを必死に探しているみたいでここからしばらく離れそうにねぇみたいでござる」
「ったく本当にめんどくさいな……わかった、しばらくはここに近づかないようにするよ」
度々語尾に付ける「ござる」というのは何かのロールなのだろうか……
細かな疑問が浮かびつつもキリトはあっさりと彼の忠告を聞き入れて店から遠ざかって背を向ける。
「二人共、ちょっとついて来てくれ」
「はいよー」
「ったくせっかく食い物にありつけると思ってたのによ」
言葉短めに後ろにいるユウキと銀時に合図すると、二人は素直に彼の後をついて行く。
そのまま歩を進めて少しずつ去っていく三人の背中を
男は口元に小さな笑みを浮かべながら静かに見送るのであった。
「さてさて、これで面白れぇモンが見れるかどうか拝見させてもらうか、でござる」
キリトが向かった先は村から少し離れた場所にある草原フィールドの僻地
モンスターが現れる気配もない感じなので、普通のプレイヤーならまず近づくどころか気付きもしない様な草葉に覆われた所へとやって来ていた。
「血盟組? とか言ってたよなあの男、そこの女騎士って事はアレだろ? キリト君に対して熱を上げている例の」
「かもしれないねー、こんな所まで探しに来るなんて積極的じゃん、良かったねキリト」
「そこははっきりと嬉しくないと言っておくよ。全く攻略組としても名が通ってる血盟騎士団のメンバーがなにヒマな事やってんだか……」
血盟騎士団の女騎士、それを聞いて勘付いたのはキリトだけではなかったみたいだ。
後ろから軽く茶化してくる二人にキリトはけだるそうに答えながら、草葉を掻き分けてようやく目的地へと辿り着く。
そこは周りと同化してぱっと見では気付かない程擬態に成功している小さなウッドハウスだった。
壁やら屋根には蔦、枝等が絡みついており、キリトが目の前で足を止めていなければ銀時とユウキも気付かなかったであろう。
「”アイツ”の事だ、村で起こってる事態を把握してこの場所に隠れてる筈」
「アイツ?」
「実は俺達が行こうとしていたあの店で、俺はとある”情報屋”と顔合わせする予定だったんだよ」
「情報屋、おいおいまさかこのゲームにはそんな奴もいんのか?」
キリトはさっきの村に合った店で情報屋を請け負うプレイヤーと落ち合う約束であったらしい。
それを聞いて銀時がまず情報屋等という存在自体がこのEDOにいる事に驚くが、ユウキが軽く説明してあげる。
「そりゃあ未だに未発見のクエスト、スキル、アイテムとかある超ボリュームの高いMMORPGだからね、情報屋として商売する人もいるんだよ。わからない事があれば自力で見つけようとするプレイヤーもいるけど、金さえ払えば楽に情報をくれるから場合によっちゃ便利なんだ」
「金さえ払えばか……俺も万事屋だからそういう連中とは色々と付き合いはあるが、今会おうとしてる奴はアテになるのか?」
情報屋というモノには当たりもあればハズレもある。その事に関してしかめっ面で尋ねて来る銀時に対し、キリトは家の戸の前に立つとこちらに振り返って来た。
「金の事に関してはかなりがめつくていい性格しているな、けどガセネタは流さず正真正銘本当の情報を渡してくれることに関しては、俺はアイツより信用性のある優れた情報屋なんて知らないよ」
「本当に? へーボクも姉ちゃんも何度か情報屋から買った事あったけどさー、高いお金出したのにでっち上げ掴まされて騙された事が何回もあったんだよねー」
情報屋に対しては苦い経験もあるユウキに銀時が興味を持って近づく。
「姉妹揃って騙されやすいもんなお前等……で? その後どうなった」
「騙した情報屋を姉ちゃんが血眼で探して見つけてボコボコにして全財産没収した後川にほおり捨てた」
「お前の姉ちゃん怖ぇ~」
「その怖い姉ちゃんと付き合ってたのはどこのどちらさん?」
一部始終を短くまとめ上げてホラ吹き情報屋の末路を話し終えたユウキに、銀時はため息交じりに呟くと、彼女もまた笑みを浮かべながら言葉を返している中。
キリトがその情報屋がいるであろう家の戸をギィっと開ける。
中はどこか土臭く、そして辺り一面ボロボロで家具らしい物も見つからない殺風景な部屋であった。
そしてその照明も点いていない薄暗い部屋の奥で
「なんダ、遅かったじゃないかキー坊」
尖った猫の様な耳の為に穴が二つ空いている織物のフードで顔を半分隠しながら、ひっそりと座る小柄の少女がそこにいた。
キリトはそれを見てすぐに安心したかのように息を漏らす。
「てっきり重要参考人としてとっ捕まったと思ってたよ」
「ハハハ、それでキー坊の情報を包み隠さず全部バラしてやるのも面白かったかもナー」
「それであの物騒な血盟騎士団から金を取ろうとするってんならどうぞご自由に、命の保証はしないけど」
キリトの皮肉に負けじと返す事の出来るこの独特な口調で喋る少女は一体……銀時は家の中へと入りながら首を傾げる。
「もしかしてそいつがさっき言ってた情報屋?」
「ああ、金さえ積めば相手が鬼だろうが悪魔だろうがあらゆる情報を売りさばく事で有名な銭ゲバだ」
「酷い言い草だナ、これでも情報を売る相手は選んでる方だゾ?」
キリトの紹介の仕方に文句を言いながら少女は覆っていたフードを手に取ってあっさりと顔を出す。
獣の耳がピョコンと生えて少しクセッ毛のある金髪。そして何故か頬には3本のひげの様な線が書かれていた。
「俺っちは情報屋のアルゴってモンだヨ、噂はかねがね聞いているよ”2代目絶刀”さん」
「絶刀?」
「ランが持ってた特殊刀、『物干し竿』を受け継いだのはおたくなんだロ? 彼女のかつての二つ名は『絶刀』だからおたくは2代目って事になるだろ、ギンさん?」
「は!? なんで俺の名前まで知ってんだお前!?」
「そら情報屋だからナー、些細な事も逐一頭に入れておかないと商売にならんのヨ」
ランというのはつまりユウキの双子の姉であり銀時の恋人でも会った藍子の事。
アルゴと名乗ったこの情報屋は彼女事どころか銀時の情報まで既に大体把握していたらしい。
もしやキリトが彼女に教えたのか?と銀時が目を細めながら彼の方へ振り返るが、キリトはすぐに察して首を横に振る。
「言っておくが俺はアンタの事を一度たりともコイツに教えた事はないぞ」
「キー坊からは何も聞いてないヨ、全部俺っちが勝手に調べた事さネ」
「情報屋ってのはただのプレイヤーの経歴さえも把握してるモンなのか? まるでストーカーだな」
「いやいや普通はそんな事覚えて置かないんだけどサ、おたくはちょっと後々結構有名になりそうだからピックアップしておいてるんだよ、『鼠のアルゴ』の御目に適った事を光栄に思っておくレ」
自分の事を『鼠のアルゴ』と胸を張って名乗る彼女の耳がピコピコと動いた。
その耳を見て銀時はますます彼女を胡散臭そうな目で見る。
「鼠って、その耳に付いてるのはどう見えても猫じゃねぇの?」
「種族がケットシーだから仕方ないんだヨ、そこん所はツッコまないで欲しい」
「ケットシーってなに?」
「ん? 知りたいなら情報料貰うけどいいのかナ?」
「……金にがめついってのは本当みたいだな」
少し気になったから尋ねただけなのに、その答えにさえビジネスを絡ませるアルゴの仕事っぷりにしかめっ面を浮かべると、彼女にではなく隣にいるユウキの方へと口を開いた。
「おいタダで色々教えてくれる親切なユウキさん、ケットシーとはなんでございますか?」
「ケットシーは猫妖精というALO型の中で分類されている種族の一つだね。獣っぽい耳を付けてるせいか、野性的かつ狩猟系の戦闘を得意とする連中なんだよ、ちなみにボクは闇妖精と書いてインプで、主に暗闇とかに潜んで暗殺とかが得意な種族」
「ふーん、とりあえず今後は暗い洞窟を歩く時はお前を後ろに立たないようにするわ」
「いやそういうのが得意な種族ってだけでボクはしないからねそういうの。ボクは相手と戦う時は正面からぶつかる方が好きだし」
途中からアルゴの種族だけでなく自分の種族の事まで付け加えてくれたユウキに、銀時はゆっくりと背を向けない様に彼女の正面に立った状態で、顔だけアルゴの方へと向けた、
「ALO型の猫妖精ね……三つのタイプから一つ選ぶだけでも面倒なのに、その上種族まで選ばなきゃいけねぇとはめんどくせぇタイプだなホント」
「あ~実は俺っちもちょっとばかり後悔してるんだよネー、確かに色々とめんどくさいんだヨALO型って、しかも目立つ猫耳だから周りに溶け込むのが難しいのなんの……やっぱキー坊みたいなシンプルのSAO型にしておくべきだったかナ、いっその事コンバートしてまた一からキャラ作り直すのも悪くない気が……」
「愚痴はいいからさっさと本題に入らないか、鼠のアルゴさん?」
「おっと、俺っちとした事がつい自分で自分の情報をバラシちまった」
つい仕事を忘れて口を滑らせてしまったと反省し、こちらに腕を組みながらジト目を向けて来るキリトに苦笑しながらアルゴは改めて彼と話を始めた。
「それじゃあ商売を始めようか、キー坊は一体何の情報がお望みで?」
「まず最初に、数日後に行われる宇宙戦に参加する予定の天人の情報をざっくりでいいから教えて欲しい」
「やっぱりそれカ、まあ当然そっちの情報は把握済みサ、ざっくりどころか詳細に書かれたデータを売ってやってもいいゾ」
「どうせその場合更に料金が上乗せされるんだろ、こっちが懐寂しいのはわかってるクセに、いつもの料金分での情報だけでいいよ」
「はいはい、装備やアイテムに金つぎ込み過ぎてるキー坊じゃ仕方ないカー」
手慣れた様子で誘いを断るキリトに、アルゴもまたわかってた様子で手早くメインメニューを開いてテキパキと操作を進めていく。
そしてキリトもまたメニューを開いて、彼女からの情報入りメールを待った。
「ほれ、送っておいたゾ」
程無くしてアルゴはメニューからひょうきんな顔を上げて来たので、キリトはすぐに自分のメニュー画面で確認する。
「……おいおい、今回は随分と多くの天人が押し寄せてくるみたいだな、まさか前回俺が暴れ過ぎたせいじゃ……」
「数だけじゃないゾ、所持している武器も向こうの星でしか手に入らないレア物だ。流石に今回ばかりはキツそうだなキー坊も、それよりお金」
「ああ悪い、前払いなのに後払いにしちまって」
「まあ付き合いの長いキー坊だから別にいいんだがネ、後で金払わずトンズラしてもすぐに見つけられるシ」
「逃げ切る自信は無いから安心していいぞ、それとそんなに信頼してくれてるなら次回はツケ払いにしてもいいかな? もしくはローン払いとか?」
「悪いが俺っちはそこまで優しくないナー、あまり冗談が過ぎるとその舌引っこ抜いちゃうゾ」
「ハハハ……すみません」
朗らかな表情をしながらも目は決して笑っていないアルゴにキリトが頬を引きつらせながら無理矢理笑みを浮かべている。
そんな光景を最初から眺めていたユウキと銀時はは怪訝な様子で
「驚いたよ……キリトがボク以外の女性プレイヤーとまともに会話出来るなんて……」
「童貞で皮肉屋のキリト君と付き合える女がまだ地球上にいたとはな」
「アンタ等流石に失礼じゃないかそれ……」
傍らで悪意はないが胸に刺さる言葉を呟く二人に、キリトはムスッとしながら振り返る。
「確かに現実でもゲームでもソロプレイだった俺だけど、それでも付き合いの長い奴は一人や二人ちゃんといるんだよ。それにアルゴに関しては女性というより腕の立つ情報屋としか見てないしな」
「酷いなそれハ、俺っちの事はただの便利屋としか見てくれていなかったのか? これでも一応女なんだから傷付くぞそれは」
「はいはいわかったわかった、それじゃあ次からは気を付けておくよ。それで今度は別の情報を頼む」
「綺麗に俺っちの主張を左から右に流したナ、なんかますます傷付いた……で? 別の情報とはなんぞや?」
アルゴとはもうかなり付き合いが長いので、女性に対しての遠慮とか気遣いとかはもはや考えてすらいないみたいだ。
そんなキリトに肩眉を吊り上げながら面白くなさそうな顔をしつつも、アルゴは仕事に徹して何の情報が欲しいのかと彼に尋ねる。
「言っておくが「アレ」の情報は流石にこの俺っちでも仕入れてないゾ」
「そっちはまだ先延ばしにしておいてもいいさ、この人が俺に追いついた頃に判明出来ればいいから……」
「あ?」
二人で意味深な会話をしつつキリトがチラリとこちらを見て来たのでキョトンとする銀時。
そんな彼を尻目にキリトはアルゴに向かって再度口を開いた。
「第十三層から第二十層までのダンジョンマップとフロアボスの情報が欲しい、既に攻略されてる階層だから安く済むよな?」
「へ? んーまあ確かに安く渡せるが……あ、もしかしてそちらの二代目絶刀さんの為?」
「……まあそんな所だ」
「ふーん、キー坊も随分と優しいナ」
「リアルで色々とお世話になったから借りを返すだけだっての」
「ほーリアルでも付き合いがあるのカ、なるほどなるほど」
バツの悪そうな表情で呟くキリトの口から出た情報をしっかりと脳に刻みながら、いずれネタになるかもとニヤニヤしながらアルゴは笑みを浮かべる。
(よもや現実とこの世界で”黒と白”が繋がるとハ……まあ俺っちも似たようなモンだし、世の中にある偶然って奴ももしかしたら運命に導かれた結果なのかもしれんナ……)
「何一人でニヤニヤしてんだよ、バカにしてんのか?」
「いいや、やっぱり俺っちとキー坊は相性悪くないのかもなと思っただけサ」
「へ?」
なにか色々な意味が取れる彼女の発言に一瞬キリトが面食らっていると、それを見ていた銀時とユウキが「おー」と口を揃えて
「良いんじゃないキリト君、コレはもしかしたらアレだよ? 俺の経験上、相手の反応と態度から察するに……」
「頑張ってキリト、もう少し頑張ればフラグ立てられるよ。モテなかった人生からサヨナラバイバイ出来るよ」
「なにがサヨナラバイバイだ! アンタ等暇だからって俺に茶々入れるのは止めろ!」
お節介というより嫌がらせに近い応援を始める二人にキリトがイラッとしながら彼等の方へと振り返ると……
「あれ、もしかして私お邪魔だったかしら?」
「!?」
銀時とユウキの背後にあるドアが音も気配もなく開かれており
そこから一人の少女が開いたドアを背に腕を組みながら機嫌悪そうにこちらを睨み付けていたのだ。
栗色の長く綺麗な髪と、誰が見ても美人だと口を揃えて言うであろう整った顔付き、そして赤と白を強調としたあの恰好と腰に差すレイピア……
「ごめんなさいね、まさかこんな所で厨二病男が一欠片のチャンスを握り締めて玉砕するであろう瞬間の時に空気を読まずに入って来ちゃって、私の事はいいから遠慮せずその情報屋に突っ込んで玉砕していいわよ」
「あ、アスナだ」
「ゲ、マジかよ、何時の間に来てたんだよ」
「……」
無言で固まるキリトをよそに、ユウキと銀時は彼女が現れた事に振り向いて反応した。
血盟騎士団の副団長・アスナ。鬼の閃光という異名を持ち、前に一度だけキリト達と共闘した事のある仲だ。
しかしそれはただ偶然目的が一致していただけであって、実際は向こうはこちらの事をかなり嫌っている節がある。
その証拠に顔を合わせて早々いきなり失礼な事をびせて来たので、キリトは咄嗟にこの家の窓の方へとチラリと目をやった後
「撤退!」
「あ、キリトが一人で逃げた」
「女性を前に逃げるとは情けないゾ、キー坊」
サッと動いてすぐに窓を開け、そのスペースに身を乗り出そうと両手を置くキリト。
しかし
「ちょっと」
「え? ぬおわぁぁぁぁぁ!!!」
身を乗り出した所にすかさずアスナが躊躇もなく腰に差していたレイピアをこちら目掛けて突き刺してきたのだ。
剣先がこちらの眼前ギリギリの距離にまで来た間一髪の所で、キリトは足を捻ってわざと床に倒れて避けた。
床に倒れてなんとか回避できたキリトに向かって、レイピアを手に持ったままアスナは瞳孔を開かせながら冷たい表情で彼を見下ろす。
「逃げる事はないでしょ、せっかくの再会なんだから楽しみましょうよ」
「おいおいアンタ本当に血盟騎士団か……? よく面接通ったな、瞳孔開いてるぞ」
「人の事言えた義理じゃないでしょ、締まりのない顔してるクセに」
「いいんだよ、いざという時はきっちり締めるから」
こちらを見下ろしながら優位な態勢を取っているアスナに対しても、キリトは床に倒れた状態でもなお軽口叩いて見せる。
二人の間で緊迫した状況がそのまましばし続いていると……
「副長ー、危ないですぜ」
「へ? って!」
ふと家の中からではなくドアの向こう側から声が飛んで来た。
キリトはどこかで聞いた事のある声に思わず顔を上げてそちらへ見ると、アスナもまた咄嗟に後ろに振り返る。
すると彼女が振り返った先には、いかにも侍といった感じの服装でありながら
肩に掛けたバズーカをこちらに向けて照準を定める男の姿があった……
そして
アスナや、他のプレイヤーが家の中にいるにも関わらず、男は澄ました表情で躊躇なくバズーカの引き金を引いた
「あばよ」
「いやちょ! まさか私まで……!」
最後にニヤリと笑みを浮かべる男にアスナが何か言おうとするが、彼の肩にかかったバズーカから巨大な音と共に大弾が発射される。
あわやこのままこの場にいる者達が直撃の危機……かと思いきや
突如頭上から舞い降りたチャイナ服の美女が家の前へと立ち塞がり
「お前があばよ」
「!」
放たれた大弾に向かって手に持っていた傘をバットの様なスイングで振り抜き、そのまま撃った本人である男に向かって跳ね返したのだ。
一瞬、男は目を見開いて驚いた様子を浮かべるも
瞬く間に爆発音と砂埃と共に見えなくなってしまった。
そして爆破を背景にしながらチャイナ服の美女がアスナ達の方へとジト目で振り返る。
「アイツに迂闊に背を向けるのはダメって散々言ってたでしょ、アイツはアスナが油断してたら即座に殺ろうとするサイコ野郎なんだから」
「ご、ごめんなさいグラさん……気を付けてはいたんだけどまさかこのタイミングを狙って来るなんて……」
グラと呼ばれた女性にシュンとした様子でアスナが謝っていると、キリトはその女性を見て気付く。
「あの人、前にアンタと話してた人だよな」
「そうよ、言っておくけどあの子に近づこうでもしたら本気で刺すから」
「あの子って……アンタよりも年上っぽいけど?」
「……」
倒れてる状態のキリトからの問いにアスナは目を背けて無視していると
グラという女性が手に持った傘を肩に掛けながらツカツカと家の中へと入って来て、チラリと銀時の方へと釣り目を向けた。
「また会ったわね天パの侍、まあ私からアンタを見たのはこれで三度目だけど」
「三度目? おいおいそいつは間違いだろ、俺とおたくが会ったのはこれで二度目だ」
「たまたま偶然出くわしたのよ、アンタが誰かさんと戦っている所をね」
「誰かさん? よくわからねぇけど見ててくれてたんならそん時にお声をかけて欲しかったモンだな」
一体いつどこで見ていたのだろうかと銀時は首を傾げつつも、早速彼女の方へと自ら歩み寄る。
「俺としてはおたくみたいな別嬪さんに早々会えるもんじゃねぇし、見ててもらえただけでも光栄だがやはり顔を合わせてじっくり話でも……」
グラに対してヘラヘラ笑いながら早速ナンパの一つでも試みようとする銀時だが
彼女の近づこうとした途端、アスナの剣先がキリトから銀時の目の前へと突き出される。
「それ以上彼女に近づくのは止めなさい、アナタには前々から危険な匂いがするのよ」
「危険? 悪いが危険な匂いがするってのは男としては誉め言葉になるんだぜ、男ってのはちょっとばかり悪い方が凄味が出るんだよ」
「ならアナタの背後にいる彼女にも説明してあげたら?」
「へ?」
アスナに対してはどこか苦手意識がある銀時だが、ここは負けじと口で応戦して見せる。
しかし彼女が見ているのは銀時ではなく、彼の背後で静かに立っている……
「それ以上下らない事ほざくんならボクが全力で斬り捨てるよ銀時……」
「オイィィィィィィィィ!!! なんでお前がアイツ等に寝返ってんだ!!」
彼の向かって剣を突き付けているのは前方のアスナだけでなく、背後にいたユウキもだった。
前と後ろに剣を突き出されながら、銀時は流石にヤバいと感じ取ってすぐ様叫び声を上げる。
「助けてキリト君! 銀さん前と後ろに剣を突き出されてサンドウィッチ状態だよ! このままだと串刺しサンドウィッチが出来上がっちまうよ!!」
「いやアンタは一回ユウキに斬られた方が良いと思う、マジで」
「なんでだよ!! 斬られた方が良いってそんなアドバイス聞いた事ねぇよ!!」
どこか呆れた様子でボソリト呟くキリトに銀時がキレながらツッコミを入れている中、アルゴは目の前で行われている出来事に「ハハハ」と笑いながら頭を掻きむしる。
「それデ? 血盟騎士団の副団長様アスナとそのご友人さんは一体何故こんな所に来たんダ?」
「あ、しまった私とした事が……つい友人に悪い虫が取り付こうとしてたから本来の目的を忘れてしまっていたわ……」
「にしてもよくここに俺っち達がいるのわかったナ、ここは本来誰も寄り付かない隠れ家的な所なんだガ」
「残念だけど、私にはとびっきりずば抜けた凄腕の密偵がいるのよ」
つい熱くなってしまったと反省しつつ、アスナは銀時に突き付けていた剣を下ろしてアルゴの方へと振り返る。
「その人が上手くこの三人組の後を尾行してくれたおかげで、簡単にここを突き止めたって訳」
「お、俺達を尾行してた奴がいたのか!?」
「キー坊……お前の捜索・探知スキルは飾りなのカ?」
「すまん全く気付けなかった……恐らく俺の探知でもバレない程の隠密スキルを持っていたんじゃないか? 用心深く周りに気を配ってればわかってたかもしれないけど……」
「ハァ~、まだまだだなキー坊も……」
あっさりとバレた原因を教えてくれたアスナに驚くキリト、彼には周りにいる敵やプレイヤーの気配を瞬時に感じ取る事の出来る探知スキルがあるのだが……
それを上手く掻い潜り最後までバレずに尾行するとはアスナの言う通り確かにかなりの腕を持った隠密特化型のプレイヤーだ。
呆れてため息を突くアルゴに申し訳なさそうに後頭部に手を置きながら頭を下げるキリト。自分だけならともかくアルゴまで巻き込んでしまうとは……。
「勘違いしてるでしょうから先に言っておいてあげる、今回の私の狙いはアナタではないわ」
「は? 俺じゃない?」
「アナタを狙うならこんな回りくどい手使わないで直接正面から行くわよ、私の狙いは……」
てっきり自分を捕まえて騎士団の本部に連行でもして、尋問でもやろうとしていたのかと思っていたキリトだったが、どうやらアスナは今回自分達を追跡していたのは別の思惑があったらしい。
キョトンとするキリトをよそにアスナはアルゴを指差し
「今回私は接触を試みようよしたのはアナタよアルゴさん。EDOの中で最も膨大な情報量を持つ便利屋、その噂を聞いて一つ情報を売って欲しいと思ってね」
「ア、アルゴに!?」
狙いはキリトではなくアルゴ。それを聞かされて本人は三本の髭が書かれた頬を掻きながら
「なんだ狙いはこっちカ、でも悪いが血盟騎士団のモノにあっさり情報を流すの無理だナ、迂闊に情報をバラまくとどこで恨みを買うかわかったもんじゃないんでネ」
「この世界の治安を取り締まる私達に手を貸さないというの?」
「だからこそ手を貸したくないのヨ、血盟騎士団は確かにやってる事はご立派だが、その裏で多くの犯罪ギルドから憎まれている、そんなおたく等に情報売った事をもし連中に知られたら俺っちはもう大手を振って歩けなくなるヨ」
「大丈夫、あなたから情報を買ったという事は外部に漏らさないと約束するから」
「……随分と必死だナ、一体私に何が聞きたいんだ?」
「……聞きたい事はただ一つ」
やんわりと断りたいのだが向こうもかなり頑固なのか、是が是非にでも聞き出そうとする姿勢を保つアスナにアルゴがウンザリとした顔を向けると、彼女はジッと見据えながら
「このEDOの中で実際に過去に存在した攘夷志士の二つ名からもじった異名を持つ四人のプレイヤー、通称『攘夷四天王』と呼ばれている彼等の、その内の三人の名前と居所を教えて欲しいの」
「おいおい……こりゃまた随分と大層なモンを欲しがってきたナ……」
「……」
アスナが欲しがる情報の内容を聞いて、さっきまでやる気の無さそうにしていたアルゴは一瞬にして険しい表情を浮かべ、キリトもまた眉間にしわを寄せて意味ありげな表情をしながら黙りこくるのであった。
「攘夷四天王? それってなんですかユウキ先生?」
「質問する前にまずはなりふり構わずナンパしようとした事について全面的に謝罪する事が先だよ」
「先生もういい加減背中に剣突き付けるの止めて下さい、ちょっと刺さってますから。反省してますから本当に」
そんな緊張感漂う中で相変わらずの銀時とユウキをよそに今回の物語が始まる。
多くの天人から恨まれている存在、攘夷思想を持っている可能性のある4人のプレイヤー
その名は攘夷四天王
彼等の情報を知る為にアスナはアルゴから無理矢理にでも聞き出そうとする。
その時キリトが取った行動は……
それはまた次回という事で