竿魂   作:カイバーマン。

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タイトルはまあ……なんとなく決めただけです


第十五層 かさなる影

それは今から数年前の事

 

幼い頃から父の下で道場で剣の稽古をしていた志村新八は

 

今日も一人庭でコッソリと嗚咽を漏らし泣いていた。

 

「……グス」

 

岩陰に隠れて泣くのは二つ上の姉に怒られない為なのだが、袖を何度も涙で濡らしながら息を潜めていると、そんな彼の背後から

 

「ガハハハハハハ!! こんな所で泣いてたんか! 新坊!!」

「は、一兄……」

 

一際やかましい笑い声を上げながら不意に話しかけてきたのは

 

泣いてる少年とは対照的に豪快な笑みを浮かべる青年だった。

 

「さっきお妙ちゃんと直葉ちゃんがお前の事探してたぞ! なんでもまた和坊の奴にやられちまったみたいだの!」

「……」

「だからってこんな所で泣いてちゃ何時まで経っても和坊に勝てんぞ新坊! 強くなって見返してやれ!」

「む、無理だよ一兄……だって僕弱いし……和人君より頑張って稽古しているつもりなのに、全然勝てないんだもん」

「ううむ確かに新坊は物凄く弱いの! どうしてあそこまで稽古してるのに剣の扱い方が下手くそなのか逆に驚くぐらいだ! なんかもう言葉じゃ足りん位ヘタレすぎる! 剣だけでなく全身からヘタレのオーラが噴出されて更に一層弱く見えるな!!」

「そこは励ます所だよ一兄、どうしてそこで全力で崖から突き落とすのさ……」

 

満面の笑みを浮かべながらサラリと酷い事を言う青年に、新八は思わず泣くのを止めてジト目でボソリとツッコミを入れると、彼はまた「ガハハハハハ!」と笑い声を上げ。

 

「じゃがお前は幸せモンだ新坊、その年でもう同い年のいいライバルを見つけられたんだからな」

「ライバルなんかじゃないよ……だって僕は和人君より全然弱いんだし、妹の直葉ちゃんにも勝てないんだよ……?」

「勝てないと言い訳して泣いて逃げてはいかんぞ新坊! こんな所で隠れて一人メソメソ泣いてたらそりゃあ何時まで経っても強くなれないのは当たり前よ!!」

 

信頼できる彼に対して正直に本音を漏らす新八に対し、青年は彼の隣にドカッと胡坐を掻いて座りながら話しかける。

 

「涙っつうのは辛いモンも悲しいモンも全部まとめて綺麗に洗い流してくれる便利な代物だ、だがお前もこの先を生きていくにつれてやがて知る、人生には涙だけでは流せない悲しい事や辛い事がたくさんあると」

「……」

「涙なんかで流しちゃいかん、大切な『痛み』がある事をな」

 

新八の小さな頭をポンポンと優しく叩きながら、青年は笑ったまま空を見上げた。

 

「だから本当に強い人間ってのは、泣きたくなるほど笑うのさ。痛みも悲しみも全部背負って、それでも笑って奴等と一緒に歩いて行くのさ」

「一兄……」

「新坊、今は泣きたい時に泣けばいいのかもしれんが、泣いてばかりじゃ何時までも前には進めん、お前も強い侍を目指せ」

 

彼の話を聞いてる内に、不思議と涙は止まっていた。

 

青年の言葉をしっかりと胸に刻みながら新八はぎこちなく頷くと、恐る恐る彼の方へと顔を上げる。

 

「……僕も一兄みたいに強くなれるかな?」

「いやいや! 現時点では100%無理だ!!」

「ええぇぇぇぇぇ!?」

 

僅かな希望を漏らす新八に対し青年は清々しい表情でグサリと刺すような一言。

 

「なにせわし最強だから! もう道場の仲間にわしに適うモンもいないし! 新坊が勝てない和坊を毎日ボコボコにしてやってるのもわしだし!! 進化し続けるこの剣の冴え! 今の新坊じゃ一生経ってもわしに追いつけんだろうよ!」

「そこは絶対なれるとか言ってよ……どうして上げて落とすスタイルなの?」

「ガハハハハハハ! 理想だけでなく現実を教えてやるのも兄貴分の役目だからな! よーしそれじゃあこっから更に辛い現実ってモンを新坊に教えてやろうか!!」

 

そう言って青年は立ち上がると、座ってこちらにムスッとした表情を浮かべる新八にクイッと親指を立てて誘う。

 

「立て新坊! 今からわしが直々に稽古つけてやる! そんでわしに一本取ってみろ! わしは和坊には一度も負けた事がない! つまりわしを倒すことが出来れば新坊! お前は和坊をも超える潜在能力を秘めた逸材だという事だ!」

「えぇ! い、いきなりそんな無茶苦茶だよ! 僕が一兄に勝てる訳ないじゃないか!」

「つべこべ言わずに道場に行くぞ! お妙ちゃんや直葉ちゃん! それに和坊の奴にも見せてやれ! お前の本気って奴を!」

「うわぁぁぁぁ!! 引きずらないでよ~~!」

 

勝手な事を言って青年は強引に新八の後襟をつかんでズルズルと地面を引きずらせながら道場へと連れ込む。

 

嫌がる新八に対し青年は

 

やはり「ガハハハハハハ!」と豪快な笑い声を上げるのであった。

 

 

 

 

 

「わしを信じろ新坊! そしてこの無双の剣を追ってみろ! お前ならきっと! 立派な強い侍になれる!!」

 

彼の名は『尾美一』

 

若くして道場の塾頭を任される程の凄腕剣士であり、その剣才は江戸中に知れ渡る程。

 

数か月後には剣術留学生として宇宙へ赴き、更なる新天地でその剣を振るう予定”だった”。

 

見るからにバカっぽいしやかましいし、たまに腹の立つ所もあったが

 

兄貴分として新八だけでなく姉のお妙、そして道場の数少ない子供の門下生、桐ケ谷直葉と、そしてこの頃はまだ道場に通っていた桐ケ谷和人にとって何よりも大きな存在であり

 

 

 

 

 

真に強い本物の侍だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして話は”今”に戻る。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

既にいなくなってしまった人物、尾美一との会話を思いだしながら、新八は今木刀を振りかざし

 

突然目の前に現れた強敵、坂田銀時目掛けて気合の方向を上げながら攻め立てる。

 

(実力差と腕の差も歴然……! ならば僕がこの男に勝つにはこれしかない!)

 

新八の動きは明らかに前とは違っていた、トリッキーな動きをしてカウンターを当てて来る銀時を相手に、最小のモーションで動きながら出来るだけ隙を見せぬ様にしつつ、怒涛の攻めで一気に相手に畳みかける。

 

(呼吸させる暇さえ与えずに避け切れない剣撃を浴びせ続ければ……だがそれだけじゃまだ勝てない!)

 

新八の一撃を避け続けていた銀時だったが、次第に押され始め出したので遂に木刀を掲げて彼の一撃を得物で受け止めた。

 

激しい音を鳴らしながらぶつかり合う二本の木刀。歯を食いしばり必死な形相を浮かべる新八に対し

 

銀時は以前涼しい顔をしているままだった。

 

「ようやく様になって来たんじゃないの? 新五君?」

「だから新八だって……つってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

こっちがもう限界だってのに向こうは顔色変えずにすっとぼけた様子を見せている。

 

そんな彼に雄叫びを上げながら一気に木刀を引き抜くと、衝突し合っていた得物が弾かれ両者後方に1歩分後退する。

 

だがその反応と動きを呼んでいた新八は、銀時よりもすぐに前進し、まだ片足が地面に付いてない状態の銀時に向かって

 

「貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「いけ! 新八さん!!」

「し、新八!?」

 

彼の腹を貫かんばかりに思いきり突き出す、全く動作を見せずに瞬時に追い打ちをかまそうとする新八に

 

直葉は興奮した面持ちで叫び、和人は予想だにしていなかったのか、驚愕した様子で彼を見る。

 

「相手に大きな隙を作らせそこで勝機を見出す! それもまた侍の戦いだ!!」

「よく知ってるじゃねぇか」

「!」

 

この一撃を叩き込めばかなりのダメージを背負うであろう、そこから更に責め続ければ勝てる!

 

叫びながら新八がふとそんな事を考えていると

 

木刀で突かれる寸前の銀時は、ニヤリと笑いながら

 

「だがあえて隙を作り向こうに大技をやらせるってのも、それもまた侍同士の駆け引きって奴よ」

「な!」

 

新八の突き出す木刀は、銀時の腹の寸での所でピタリと止まってしまう。

 

よく見ると彼の木刀の先を、これ見よがしに銀時は左手で強く握っていたのだ。

 

もしや彼は自分の作戦を見抜き、わざとよろけたというのか? 新八は銀時にしてやられたと思ったその瞬間。

 

「ほらそっちも隙だらけだぞ」

「!」

 

ブンッと音を立ててこちらの頭部目掛けて銀時がもう片方の手で握っている木刀を振り上げて来た。

 

新八は咄嗟に彼に捕まれている得物から両手を離して大きく上体を逸らし、その一撃をギリギリのタイミングで回避すると

 

すぐに彼が掴む自分の木刀を再度握って、一気に引き抜いて彼から距離を取った。

 

「ハァハァ……! 本当に無茶苦茶な人ですねアンタ……」

「今の動き悪くなかったんじゃねぇの? よくもまあ自らテメーの得物から手ぇ放す事が出来たな」

「僕自身も驚きですよ、アンタのデタラメな動きを見てたせいですこしうつったのかもしれません……」

「へぇ、よく学習してるみたいだな」

「アンタに教えられたことを実行したまでの事ですよ、自分が動くよりまず相手の動きを読めって」

 

荒い息を吐きながらもまだその手には木刀がしっかりと握られている。

 

そして何より、この戦いを決して諦めてないとその目が全力で訴えていた。

 

「なんででしょうね、今日初めて会ったばかりの人なのに……こうして剣を交えているとどこか懐かしく思えます」

「ったく戦いの最中でセンチメンタルに浸ってんじゃねぇよ」

 

肩で呼吸しながらボソリと呟く新八に、銀時は左手でボリボリと後頭部を掻きながら悪態を突く。

 

そんな姿を見て思わず新八の表情が綻んだ。

 

「性格も見た目も思いきり違うのにどこか一兄に似てる……和人君がアンタの事を惚れこんだ理由が少しわかった気がします」

「ケ、男に惚れられたって嬉しくもなんともねぇや」

 

不機嫌な様子で新八に言葉を返すと、おもむろに銀時は木刀の掴む部分に巻かれていた白い手拭をシュルリと取った。

 

それを少し離れた場所で和人と一緒に見ていたユウキがピクリと反応する。

 

「……どうやら直に決着が着くみたいだよ」

「え、どうしてわかるんだ?」

「見てればわかるよ」

「?」

 

手拭いを地面に捨てた銀時を神妙な面持ちで眺めながら呟くユウキに、隣にいた和人が疑問を浮かべていると

 

改めて木刀を握り締めた銀時はスッと構えてゆっくりと新八の方へ動きだす。

 

「けど俺もお前を見てふとガキの頃を思い出したよ、道場に通ってた頃にテメェみたいに何度も突っかかって勝負を挑んで来たチビがいたなそういや」

「アンタ……自分だってセンチメンタルに浸ってるじゃないですか」

「あのチビは負かす度にちょっとずつ強くなってよ、ムカつく事に最終的には俺に一本取る様になるまで化けやがった」

「おい無視してんじゃねぇぞコノヤロー」

 

人の事言っておいて自らセンチメンタルに浸りながら語り出す銀時に新八が静かにツッコミを入れると

 

銀時は二ッと彼に向かって笑いかける。

 

「だからといってお前があのチビの様に勝てる訳じゃねぇけどな、何せお前の目の前にいるのは下の毛も生えてねぇガキの頃の銀さんじゃねぇ、酸いも甘いも知る下の毛も生え揃ったアダルティな銀さんだ」

「よく言うよ、脳みその方は子供のままのクセに」

「全くだ、ゲームの操作も未だ覚えきれてないし」

「外野は黙ってろ! このメガネよりも先にテメェ等のド頭カチ割るぞコラ!」

 

ユウキと和人の冷ややかな言葉をしっかりと耳に入れながら銀時は彼女達の方へ振り向かずに返事をしつつ

 

新八の方へと木刀を下げた状態から前かがみの態勢を取った。

 

「だからお前が何処まで行ける逸材になるのか、大人である俺が直々に試してやらぁ」

「試すのは僕の方ですよ、アンタが本当に和人君の兄貴分に足るかどうか、今ここで僕が見定めます」

 

新八も同じく彼と同じ態勢を取って身構える。

 

両者同じ姿勢で固まったまま、ただ互いに目をジッと合わせながら出方を伺う銀時と新八。

 

周りの者達が固唾を飲んで見守ってる中、橋の上から見物している野次馬達も無言でどうなるのか眺めていた。

 

「……」

「……」

 

無言で視線を交差しながら静かに時が流れていく。そして……

 

 

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 

全く同じタイミングで二人は足を踏み込む。

 

叫びながら銀時と新八は一気に駆け出し、そして両者が剣の届く範囲に入ると

 

力の限り振り抜いた両者の得物が正面からぶつかり合った

 

 

その瞬間

 

 

バキィ!という激しい音で何かが砕ける。

 

そしてその音と共に交差した銀時と新八の頭上で、何かが回転しながら宙に浮いているのを周りの者達はハッキリと見た。

 

柄から綺麗にへし折られた木刀の先だ

 

そしてそのへし折られた木刀の持ち主は

 

 

 

 

 

「やれやれ、せっかく洞爺湖の仙人から頂いた木刀なのによ」

 

坂田銀時の方であった。

 

「嘘、だろ……あの人の剣を新八が、あの新八が……!」

「新八さんがあの人の木刀を正面からへし折った!!」

 

宙を舞う木刀の破片が地面に落ちると同時に、和人は大きく目を見開いて驚き、直葉は目の前で起きた出来事を叫びながら拳を掲げてガッツポーズを取った。

 

その叫び声を聞きながらも、銀時の木刀を見事砕いた新八はフゥ~と深く息を吐いた後、ゆっくりと銀時の方へと振り返る。

 

「どうやら勝負ありですね、完全勝利とは言えませんけど、今後の為になる経験をありがとうございま……」

 

戦いは終わった、自分が勝ったんだと実感しながら、新八は自分の成長を促してくれた恩人である銀時の方へと好意的に笑いかけながら振り返る。

 

だが

 

「……あれ?」

 

振り返った先にいた銀時はこちらに突っ立たまま

 

先程へし折った筈の木刀の握っていた部分をポイッと無造作に捨てながら

 

左手に持った「新たな木刀」を再びこちらに構え直しているではないか。

 

どこであんな新しい得物を? と新八が思っている中でふと彼は気付く。

 

自分の手に握られている筈の木刀が既に無くなっている事を

 

思わず手の平を見つめながらぽかんと口を開けて固まる新八に目掛けて

 

銀時はスッと木刀を掲げながら近づいていく。

 

「あ、あれ? ちょ! アンタいつの間に僕の木刀を! いや待って! ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

丸腰になってしまったのは銀時ではなく自分の方であった。

 

その事に気付いて慌てて手を突き出しながら新八が叫ぶも、銀時は無言で思いきり手に持った木刀で

 

 

 

 

 

「ぶほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

彼の顔面目掛けて綺麗なフルスイングをかますのであった。

 

ぶっ飛ばされた新八は眼鏡にヒビが入ると同時に、ゴロゴロと転がっていくとやがて止まり、倒れたまま動けなくなった。

 

この状態ではもう立つ事も出来ないであろう、先程新八が言っていた通り、『勝負あり』だ。

 

「甘ぇ、天津甘栗より甘ぇ、剣を折ったからって勝ち誇るようじゃまだまだ甘過ぎるわ」

「……ま、まさか自分の得物がへし折られたからって相手の得物を掠めとるなんて……」

「侍同士の決闘だろうがなんだろうが、生き延びる為にはあらゆる手段を用いる技術が必要なんだよ、例え卑怯や外道と呼ばれようがな」

「ハハハ、確かにアンタ周りに何言われようが気にしなそうなタイプですもんね……一兄とおんなじだ……」

 

意識が飛びそうになりながらも新八は、歩み寄って来てこちらを見下ろす銀時の表情を見る。

 

倒した相手に対してニンマリと笑い、してやったりといった表情でポイッと持っていた木刀をこちらに返してきた。

 

そんな彼に新八は何故か渇いた笑みを浮かべている所に、戦いを見届けていた直葉が慌てて彼の下へ駆け寄っていく。

 

「新八さん大丈夫!」

「直葉ちゃん……僕の戦いどうだった?」

「凄かったよ、それに強かった。新八さんがこの人の剣をへし折った時はびっくりしちゃったもの、けどまさかその後すぐにこの人が相手の武器を奪ってでも勝ちを狙ってきた時はもっとびっくりしたけど……」

 

倒れる新八にそっと称賛の声を呟くと、直葉はムスッとした表情で銀時の方へと振り返る。

 

「次は私と勝負! 今度はあんな卑怯な手なんか使わせないんだから!!」

「もういいだろ直葉、お前戦う理由がわからないとか言っておきながら何一人で熱くなってんだよ」

「お兄ちゃん!」

 

指を突き付けながら直葉がけだるそうにしている銀時に向かって宣戦布告をふっかけるも

 

不意に和人が現れて静かに彼女を宥める。

 

「それより今は新八の方の手当てしてやれ、最寄りの病院に連れていくぞ、よっと」

「え、お兄ちゃん何してるの!?」

 

珍しく直葉に対して兄貴っぽい事を言いながら和人は倒れている新八に手を伸ばし、肩を貸して抱き起してあげる。

 

新八に対していつもどこか冷めた態度を取っていた彼が、そんな真似するとは思って思いなかった直葉は驚愕を露にした。

 

「まさか病院まで新八さん連れて行ってくれるの!?」

「お前一人じゃコイツを抱き抱えられないだろ、仕方ないから俺が連れて行ってやるよ」

「ツンデレ!? お兄ちゃんまさかの新八さんに対してツンデレだったの!?」

「おい気持ち悪い事言うな、このまま川にほおり投げるぞコイツ」

 

新八に肩を貸しながら和人は変な事を言い始める直葉にジト目で呟いた後、傍にいた銀時の方へと振り向いて

 

「悪いけどアンタのおススメのラーメン屋に行くのはまた今度な、今日は色々あって疲れた。新八を病院で診てもらった後、家に帰って素直に直葉の飯でも食べる事にするよ」

「んだよラーメン奢ってくれるんじゃねぇのかよ」

「アンタまだ覚えていたのか……あーまあいつか奢ってやるよ仕方ない……それじゃあ深夜に向こうの世界でまた会おうぜ」

「まあそれならいいか……それじゃあ眼鏡君によろしく」

 

最後に会話を終えると、和人はそのまま新八を連れて最寄りの病院へと向かっていった。

 

直葉もまた去り際に一人残された銀時に対して無言でジロリと怒っている様に睨み付けた後、慌てて和人を追いかけて行った。

 

「……こりゃあ妹には随分と嫌われたようだな、俺」

「あの子きっと剣に対しては凄く真面目なんだよ、だから銀時みたいな不真面目全開で戦う人を認められないんじゃないかな?」

 

ボリボリと頭を掻きながら呟く銀時の隣に、いつの間にかユウキが楽しげな様子で立っていた。

 

「でもボクは好きだけどね、銀時のフラフラ~としてても、肝心な所は決してブレない所」

「そいつはどうも、ま、あんな小生意気そうなガキに好かれる気も更々ねぇし、お前がいりゃあそれでいいわ」

「へへへ、ホントたま~に嬉しい事言ってくれるよね銀時って。ところでさぁ、一つ気になる事があったんだけど」

 

素直に評価してくれるユウキに対して満更でもなさそうに答えてくれる銀時に、彼女は若干照れながら頬を掻きつつふと思い出したかのように彼に尋ね出す。

 

 

「どうして戦う前に、銀時は木刀を少し削って折れるようにしたの? ずっと気になってんだよね、あの時どうしてあんな真似してたのか」

「大したことじゃねぇよ、ただアイツの覚悟が本当かどうか見定める為に準備しておいただけだよ」

 

そう言って銀時はふと足元に落ちていた、砕け散った自分の愛刀の欠片を拾い上げる。

 

「切れ目を手拭いで巻きつけて、いざとなったら手拭いを取る、そんで強い一撃叩き込められれば勢いよく折られる。っと言ってもそう生半可な力じゃ折れねぇ様に工夫したんだけどな」

「へぇ~よく知ってたねそんなの」

「昔俺が道場に通ってた頃に”アイツ”が自分に自信を持てない門下生相手にやってた事があったからつい真似したくなってみただけだ」

「アイツって?」

「さあて誰だったかねぇ、んじゃ俺達二人でラーメン屋に行くか」

「え! 何その下手な誤魔化し方! 教えてくれたっていいじゃん! ちょっと銀時!」

 

摘まみ上げた欠片をまた河原に捨てながら、銀時はすっとぼけた様子でかぶき町にあるラーメン屋へと歩き出した。

 

袖にされたユウキは気になって共に歩きながら再度問いかけても銀時は口元に笑みを浮かべながら答えず、結局その人物が何者かは教えてくれなかったのであった。

 

 

 

 

銀時と新八の決闘はこれにて終わった。

 

その戦いを橋の上から見ていた野次馬達がゾロゾロと減っていく中で

 

三人の女と一人の男はまだ去り行く銀時の背中を見送っていた。

 

「あの天パの男中々やるアルな、戦い方はせこいけど私は嫌いじゃないネ」

「そう? まあああいう戦いも時と場合によっては必要なのはわかるけど、あんな年下相手に大人げない真似をするのは私はあまり好きじゃないわね……」

 

チャイナ服を着飾った神楽という少女が銀時に対して感心しているのに対し、栗色ロングの少女はしかめっ面で呟いていると、隣で一緒に見ていた黒い制服を着た青年は「へっ」と面白いモンが見れたかの様に笑みを浮かべた。

 

「そういや俺も昔は近藤さんにされてたな……すぐに腕上げて対等に戦えるようになったから、すっかり忘れちまってたぜ」

「え、なんの話よ? 昔って武州にいた頃?」

「おやおやコイツは驚いた、名家のお姫様があんな短い間しか住んでいなかったド田舎の名前をまだ覚えてい下さったとは光栄だな」

 

普通に気になったから尋ねただけなのに、青年が皮肉ったっぷりに返事してきたので、少女は不機嫌になりながらハッキリと答える。

 

「忘れる訳ないでしょ、何時まで経ってもあそこは私にとって大切なもう一つの故郷なんだから」

「大切な故郷ってどういう所だったアルか?」

「そうね、空気が綺麗で自然がいっぱいののどかな所って言った感じかな? 優しくて親切な人もたくさん住んでたの、一人の男の子を除いて、あの子はきっと綺麗な空気も寄せ付けない澱んだ心を持っていたのね」

「いやぁ思いだすわ~、そういやどこぞの男の後をついて来て、剣も振る気ねぇクセに道場に遊びに来るアホ面したガキがいたからよく泣かしてやってたっけ。ありゃ~楽しかったなぁ」

「あの頃はあなたもガキだったでしょ! よくもまああの頃は散々イジメてくれたわね!」

 

気になった様子で聞いて来た神楽に、懐かしく思いながらふと故郷の話でもするのかと思いきや、またもや青年が意地の悪そうに少女を挑発したおかげで、すぐに彼女は食って掛かる。

 

怒った様子で少女が青年に対してギャーギャーと叫んでいる中

 

三人からは少し離れた場所に立っていた志村妙は

 

みるみる小さくなっていく銀時を静かに見送る

 

「あの木刀の折れ方……フフ」

 

何かに勘付いた様子で微笑みかけながら、お妙は踵を返して我が家の方へと振り向く。

 

「和人君が惹かれたのもわかる気がするわね」

 

家に戻って手負いの新八の為に晩飯の準備でもしておこうと考えながら

 

日の沈む空を眺めつつお妙は一人呟くのであった。

 

 

 

 

 

「ホント、あんなおかしな人見たのは久しぶりね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい新八、一人で歩けるなら歩けよ……こちとら力ねぇんだからお前一人背負うのもだるいんだよ」

「ごめん和人君、今日は一日とても満足に体動かせそうにないや、あんなに全身全霊で戦うなんて本当に久しぶりだったから……」

「ったく重てぇなホント……」

 

お妙が家で新八を仕留める、否、出迎える為の料理の献立を考えている頃

 

すっかり沈みかけている夕日をバックに、新八は和人に肩を貸してもらいながらフラフラとしながらも、ゆっくりと歩いていた。

 

そんな彼を後ろから直葉が心配そうに見つめる。

 

「新八さん本当に病院行かなくていいの? あの人に思いっきり顔ぶっ叩かれたり他にも色々とやられたのに……」

「この程度の傷大した事無いよ、これぐらいでいちいち病院なんか行ってたら侍だなんて到底名乗れないからね」

「……なんか新八さん、あの人と戦ってから少し性格が熱くなってない?」

「そうかな? 自分ではよくわからないけど……」

 

頑なに病院に行くことを拒む新八に、直葉はどこか彼の心境が変化した様な気がすると感じしていると

 

新八は苦笑しつつふと自分に肩を貸してくれている和人の方へ振り向く。

 

「和人君にこんな真似されるとは思ってもいなかったよ、てっきり倒れた僕をほったからしにしてあの男と一緒に行っちゃうのかと思ってたのに」

「そこまで薄情じゃねぇよ俺も、それにしてもまさかお前があそこまで強くなってたとはな」

「お兄ちゃんもようやくわかったみたいだね、見たでしょあの真っ二つに折られた木刀。勝負には負けたけど剣同士での戦いなら絶対新八さんの勝ちだったね」

「ああ、あの人の剣をへし折った時は正直マジでビビったよ」

「……」

 

自分が全身の力を込めて、銀時の木刀をへし折った事に素直に評価する桐ケ谷兄妹だが新八はどこか腑に落ちない様子で黙り込む。

 

(あの人の木刀を折った時何か妙な感触がした……まるであらかじめ折れ目が入ってたかのように簡単にポッキリと割れたような……)

「そうえば新八さんが戦いで相手の剣を折ったのってこれで2度目だよね」

「あーそういやそうだったな」

「え?」

 

直葉の言葉に思わず反射的に顔を上げる新八

 

「随分と昔の頃だけど、新八さんが一お兄ちゃんに稽古つけられてた時、最後の最後に新八さんが気合を込めて竹刀を振るったら、一お兄ちゃんの持ってた竹刀が凄い音立てて割れちゃった事あったよね?」

「確か俺が散々お前を負かした上に泣かしていつもの様に逃げ出してた所を、一兄貴が見つけて稽古つけてあげてた時だったな。俺は家に帰ろうとしてたのに直葉に無理矢理見る様に言われて渋々だったけど、俺でさえやった事ないのにあんな真似が出来るなんてって当時は本気で驚いたもんだぜ」

「!」

 

直葉と和人の話を聞いて新八もその時の事を思い出した。

 

カッと目を見開きながらふとあの時の光景を思い出す。

 

 

 

 

 

 

『ガハハハハハハ!! コイツは参ったまさかわしの竹刀をへし折るとはな! 新坊! やっぱりお前はこれからどんどん強くなる逸材を持ってるぞ!!』

 

銀時の木刀を折った時に感じたあの妙な感触、それはあの時に感じたのと同じ……

 

もしかしたら尾美一も、そして今日戦った銀時も……

 

どこか侍としての自信を持てなかった自分の為に

 

「全く……一兄にもあの天パの侍にも敵わないよ……」

「は? 急にどうしたんだよ?」

「和人君、君があの坂田銀時って人の下で共に歩みたいって気持ち、今ならよくわかるよ」

 

和人と共に歩みながら、何か吹っ切れや様子で新八は顔を上げる。

 

 

 

 

 

「もしも和人君より先に僕があの人に会ってたら、僕があの人の後について行ったかもしれない」

「……そうか」

「ええ! 新八さん何言ってるの! まさかお兄ちゃんだけじゃなくて新八さんまであの男に毒されて!?」

 

 

沈んでいく夕日がまるで自分達の明日を照らすように一際眩しく見えた。

 

三人の足元のかさなった影は、まっすぐに伸びている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という事でVS新八編は終わりです。

次回からは現実から仮想世界に戻って和人もまたキリトとして大いに活躍します。

キリトの紹介でとある情報屋と出会う事になった銀時とユウキ

するとそこへ現れたのはかつて共に戦った事のある少女、アスナと謎のチャイナ美人、そして謎のドS侍

キリトとアスナ、二人の長き因縁はここから始まる





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