竿魂   作:カイバーマン。

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春風駘蕩さんがまたしても新たなイラストを送って下さりました。

銀さん、ユウキ、キリト、アスナ、エギル、クラインと第一章メインメンバーが揃い踏みの
集合絵です。


【挿絵表示】


きっと描くのも大変でしたでしょうに……わざわざ時間をかけて描いて下さり本当にありがとうございました。

そしてタイミング良く今回にて第一章も終わりです


第十層 Let’s do the Odyssey!

全員の力、そして新たな力を得た銀時によって無事に誰一人倒れることなくボス、コボルドロードを倒す事に成功した。

 

一行はボス撃破により開いた第二層へ続く扉を潜ると、ゾロゾロと皆それぞれ勝利の余韻に語り合いながら長い階段を昇っていき

 

遂に第二層へと到着したのであった。

 

殺風景ながら広大な草原フィールドを前にテンションの上がるプレイヤー達とは裏腹に

 

ラストアタックボーナスというMVPみたいなモノを手に入れた筈の銀時は一人しかめっ面を浮かべるのであった。

 

「あんだけ苦労したってのに報酬が小刀かよ、こんなんどう使えばいいっつうんだ」

「短剣スキルでも上げて使いこなしてみれば? ていうか脇差しって結構レアだよ、やったじゃん」

 

銀時が今手に持っているのは先程ボス戦でのラストアタックボーナスで手に入れた『今剣』という脇差しであった。

 

綺麗な刺繍が施された鞘に収められた小刀を抜きながら、銀時がぼやいているとすぐに隣からユウキが話しかける。

 

「せっかくボスに勝った上にラストアタックボーナスまで手に入れたんだからもっと喜べばいいのに」

「たかが一面のボス如きを倒したぐらいで喜べるかってんだ、それに色々と変な事が起きた戦いだったからな」

「まあね、とりあえずディアベルの事は運営に報告しておいた方がいいかも」

 

第一層での戦いにて、指揮官であるディアベルが突如豹変したと思ったらボスの見た目も大きく変貌した。

 

しかもそれだけでは飽き足らずボスの攻撃は現実世界の様にリアルにダメージを食らうという奇妙な事態が起きたのである。

 

銀時もまだ体の節々に痛みが残っている、念の為行きつけの病院で診てもらうかと思いながら、銀時は脇差しを腰に差すとユウキの方へ振り返った。

 

「オメェは大丈夫だったのか? まさか痛みを悟られぬ様ずっと我慢してる訳じゃねぇよな?」

「だから大丈夫だって何回も言ってるじゃん。ボス戦の時はボクずっと無傷だったんだし何もないよ、心配性だな銀時は」

「どうだかねぇ、弱音を吐かずに無理矢理明るく振る舞おうとするのはお前の良い所でもあり悪い所でもあるし……お前の身体も倉橋さんに診てもらうとするか」

「もーだからいいってば、ボクの事よりもまず銀時でしょ。ボスの攻撃まともに食らってるんだから、それと銀時だけじゃなくて」

 

疑り深い表情で目を細めて来た銀時に、ユウキはムキになった様子で否定すると不意に銀時とは反対方向に目をやる。

 

「キリトだって病院で検査してもらった方がいいよ、ボス戦終わってからずっとお腹抑えてるよね」

「……ああ、実の所まだ痛むんだ」

 

ユウキの隣を歩いていたキリトが少々ぐったりした様子で右手でお腹を押さえながら歩いていた。

 

人の手を借りずに自力で歩く事が出来るが、やはり痛いモノは痛い。

 

「まさかゲームの世界でリアルダメージを食らっちまう羽目になるとはな……」

「一体どういう仕組みで体に影響を及ぼす様な事になってるんだろ?」

「まだわからないな、というかわからない事だらけでどこから解明すればいいのかさっぱりだ」

「今の所は逃げたディアベルを捕まえるのが最優先かもね、こうなった原因はそもそも彼にあるのかもしれないし」

「だな、EDOを引退しない限り捕まるのは時間の問題だろうが。俺も色々と奴の手掛かりを探ってみるよ」

 

個人的にもこの事態について危機感を持っているキリトは、当面は自ら動いて捜査してみる事にした。

 

理由はともあれこの世界を脅かすような真似はさせない、キリトにとってこの世界こそが『現実』なのだから。

 

まずは金にがめついあの情報屋にでも当たってみるか……と考えていると

 

「なにをしようとしてるの、素人が無闇に首突っ込まないで頂戴」

 

不意に背後から突き刺すような視線を感じ、振り返ってみると

 

右腕をギュッと握りながらこちらを睨み付ける少女、鬼の閃光ことアスナだった。

 

「特にアナタだけには関わってほしくないの、今はただの警告だけにしておくけど二度目はないから」

「随分な嫌われようだな、一緒に戦った仲だろ? 少しはデレてくれよ」

「黒づくめの格好に二刀流、そしてボス戦で見せたあの俊敏かつ獰猛な動き……」

 

未だ殺気の込められた目つきのまま、むしろ瞳孔が開いて更に威圧感のある眼差しを向けて来るアスナに、キリトが苦笑しながら茶化すが彼女は全く聞く耳持たず淡々と呟き始める。

 

「あなたの正体はハッキリと掴んだわ。今回だけは見逃してあげるけど、次に会った時は容赦はしない」

「……流石にバレたか」

「なになに? 血盟騎士団に睨まれるような悪い事してたのキリトって?」

「あ~? アレだろ? どうせキリト君の事だから夜道を歩いてる女にテメーの恥部を見せびらかしてたんだろうよ」

「どうせってなんだよ! キリト君がいつそんな変態行為に勤しむキャラだと思われる事をした!」

 

めんどくさい事になったなと頭に手を置いて眉を顰めるキリトをよそに勝手な事をユウキに言っている銀時。

当然そんな真似はしてないとキリトは即座に否定する。

 

「まあ色々とやんちゃしてるんだよ俺も、でも俺は別にディアベルの様なシステムの改竄とかチート行為はしていない。ゲームのルールに乗っ取ってプレイをしているだけだ」

 

自分は何らおかしい行為はしていないとハッキリと述べると、アスナに向かって肩をすくませる。

 

「まあこのお嬢さんはどれだけ俺が正論を並べても聞く耳持たないだろうけどな」

「正論ではなくて歪論の間違いでしょ? あなたの悪逆非道の行いは色んなプレイヤーが迷惑行為だと訴えているの」

 

これまた彼の言い分に対して厳しい見方でアスナは一蹴した。

 

「それらを踏まえて自分は無実だと言い張るなんて往生際が悪いわよ」

「訴えてるプレイヤーはどうせ俺にやられた天人の連中だろ? 負けた腹いせにアンタ等にある事無い事報告してなんとかしろって叫んでるだけだ、警察ごっこしてるなら少しは連中の話だけを鵜呑みにしないで”俺達側”の話も聞いてみたらどうだ」

「被害者の言葉より容疑者の言い訳に耳を傾けろって言うの? 私達はこの仮想世界の治安を守る義務がある、だからこそあなた達みたいなのがのうのうとしているのが我慢ならない」

「そもそも俺達が容疑者と言われる筋合いは無いんだが? 勝手に俺達を犯罪者に仕立て上げてるのはアンタ達と天人だろ」

 

流石にアスナの言い方にムカッと来たのか、キリトは腹部の痛みも忘れて彼女の方へ身を乗り出すと負けじと彼女を睨み付ける。

 

「この際だから言っておくが、血盟騎士団とは名ばかりの警察もどきが人のプレイの仕方にいちいち口挟もうとするな」

「なんですって……」

 

アスナも目を逸らさず真っ向から彼と睨み合いながら、まさに一触即発状態の険悪なムードを醸し出した。

 

そんな雰囲気に耐え切れなくなったのか、火花を散らしてメンチの切り合いをする二人の間に

 

「はいはい止め止め」

 

銀時がズカズカと歩み寄って割り込む。

 

「経緯は知らねぇが今やるべき喧嘩じゃねぇだろうが、お前等がやるべき事は一つ。ボス戦で大活躍したこの銀さんを褒め称える事だ、さあ褒めろ、じゃんじゃん褒めろ。最近の主人公は周りから無駄に持ち上げられまくるのがお約束だって知ってるんだよ俺」

 

手を内側に振りながら待っている様子の銀時を一瞥すると、アスナはキリトの方へジト目を向けた。

 

「……ねぇ、この人本当になんなの? なんでこんな人とパーティ組んでるのあなた?」

「それを知りたいからこうして一緒にいるんだよこの人と……」

「物好きね」

「ほっとけ……」

 

アスナの正直な意見にキリトは手を横に振って軽く流していると、ずっと褒められるのを待っている銀時に二人に代わってユウキが彼の方へ顔を上げた。

 

「ボクは正直に凄いと思ってるよ、慣れない仮想世界であんな強敵を相手にしても逃げずに立ち向かえるなんて普通の人じゃまず無理だよ。よく頑張ったね偉い偉い、今度二人でお祝いしようか」

「え? ああどうも……素直に褒められるとそれはそれで反応に困るな……」

 

朗らかに笑いながら面と向かって好印象を伝えてくれるユウキに、銀時はどう対応していいのか困惑した様子でとりあえず礼を兼ねて彼女の頭をポンポンと叩いた。

 

そんなやり取りを見ていたアスナは不思議そうにユウキの方へ歩み寄り

 

「そういえばあなたってこの銀髪天パの人とずっと仲良さそうにしてるけど一体どんな関係なの?」

「え? 同じ屋根の下で一緒に住んでる関係だけど?」

「……」

「おい小娘、なんだその明らかに俺に対して警戒心を露わにしてる表情は」

 

キョトンとした様子で素直にユウキが答えると、しばしの間をおいてアスナは怪訝な様子で銀時の方へ目をやると、すぐにユウキの方へ顔を戻し

 

「何か変な真似されそうになったらすぐに私に言ってね。私知り合いにお巡りさんがいるの、性根からひん曲がった性格の悪いドSだけど犯罪者を捕まる事に関しては容赦ないから」

「わかった!」

「なに勝手に誤解して通報しようとしてんだコラ! おいキリト君お前の言う通りだわ! この娘っ子勝手に推測して勝手に人を犯罪者に仕立て上げようとしてやがる!」

「いやアンタの場合だとそういう風に思われても仕方ない気がする……」

「え、お前もあっち側!?」

 

ユウキの両肩に手を置いて親身になって接するアスナの後ろ姿に指差しながら銀時が叫ぶも

 

それも致し方なしとキリトは腕を組んで頷く。

 

「つうかアンタ等一緒に住んでたのか、死んだ恋人の妹と一緒に住むっておかしな話だな……」

「住んでるっちゃ住んでるけど、家族みたいなモンだよコイツと俺は。世話のかかる妹みたいなモンだ」

「そういうモンなのか、俺は男女の間ってのはよくわからんけど……ユウキとしては複雑なんじゃないかな?」

「なんで?」

「いや……」

 

妹みたいなモン、そうキッパリと言い切った銀時にキリトはアスナと話してるユウキを眺めながら、この男の攻略は一筋縄ではいかないだろうけど頑張れよと心の中で呟いていると、彼の肩を後ろから急に強く掴む者が

 

「ったく探したぜ、俺だけ置いてけぼりで何くっちゃべってんだお前等?」

「おっと、なんだエギルか……」

「なんだとはなんだ、人がせっかく祝勝祝いに第二層にある宴会広場でパーッと盛り上がるかって誘いに来たってのによ」

 

いきなり後ろから現れたいかつい黒いスキンヘッドの男にキリトは全くビビる様子を見せずにジト目で振り返った。

 

どうやらボス攻略、またはおかしな現象に見舞われながらもなんとか生還出来た事を祝う為に、この先にある第二層の村で何やら宴でも始めるつもりの様だ。

 

「他のプレイヤーの皆さんがお是非オメェ等に来てほしいそうだぜ、なにせお前等が一番活躍してくれたからな」

「まあ別にログアウトしても寝るだけだけど……あーアンタ達はどうするんだ?」

 

正直な所人が騒ぐ場所に行くのはあまり好んではいないのだが、銀時達が行くなら自分も行ってみるかとキリトが思っていると

 

銀時は待ってましたといわんばかりに微笑を浮かべて腕を組む。

 

「行くに決まってんだろ、ボス戦で最も活躍したこの俺を差し置いて祝勝会なんてやらせるかってんだ、せいぜい俺を崇め奉れお前等、誰のおかげで生き残れたのか感謝し、ありったけの貢物を俺に提供しろ」

「いややってる事キバオウと変わらないだろそれじゃあ、初心者プレイヤー達からの貢物なんてたかが知れてるんだから諦めろ」

「ハハハ、そういやそのキバオウから言伝があったぜ」

「言伝?」

 

現在かなり調子にノリにノリまくっている銀時が無茶苦茶な要求をしてくるので、キリトが適当にあしらっていると、エギルは思い出したかのように口を開いた。

 

「『大きな借りが出来た、めんどくさいが借りを返すんはウチ等の世界じゃ常識やからの、ディアベルはんの事がどうしても気になるからこっちで探してみる、もしなんかわかったら報告しちゃるからそんで貸し借りナシや』だそうだ」

「貸しなんて作った覚え無いんだけどな、でも結構義理堅い所もあるんだなアイツ」

「悪い奴ではないのかもしれねぇな、お、そうだまた思い出したぜ、キリト、鬼の閃光はいるか?」

「鬼の閃光? ああ、あの堅物女か」

 

今度はキリトではなく鬼の閃光ことアスナの方へ伝える事があるらしいエギル。

 

堅物女と称しながらキリトは親指で背後にいるアスナをクイッと差すと、彼女の方が気付いた様子で彼等の方へ歩み寄った。

 

「エギルさん、だったかしら? ボス戦での足払いは見事だったわね。それで私に何か用なの?」

「用というより言っておこうと思ってよ、さっきチャイナ服を着た綺麗なネェちゃんが傘差して俺達を眺めててよ、気になったから話しかけてみたらどうやらお前さんの事を探してたみたいだぞ?」

「チャイナ服で傘を差した……」

 

エギルの話を聞いてアスナがその人物が一体誰なのかおおよそ検討付いていると……

 

「こんな所にいたのね、随分と探したんだから」

「え!?」

 

そのチャイナ服を着た綺麗な女性が突然エギルの背後からぬっと顔を出して現れたので、アスナは驚いて目を見開いた。どうやら彼女の知り合いらしい

 

「も、もしかして私がボス攻略するまでずっと第二層入口で待っててくれたの?」

「勘違いしないでくれる? そろそろ来る頃かなと思って気まぐれに足を運んでただけよ、アンタの為にずっと待ってるほど暇じゃないのよ私は」

 

日傘を差したままプイッと顔を背けながら不機嫌そうに言う女性にアスナが「アハハ……」と苦笑していると。

銀時もまたアスナの目の前に現れた女性に気付いた様子で近づいて来た。

 

「おい、誰だこのボンッキュッボンの綺麗なネェちゃん? おたくの仲間かなんかか?」

「仲間でもあり大切な友人よ、この子に変な真似でもしようモンなら私が許さないからね」

 

未だユウキの事で疑っているアスナが背後にいる銀時にジト目を向けていると、女性の方も銀時に気付く。

 

「……誰この死んだ目をしたおっさん? 頭爆発してるんだけど?」

「爆発じゃねぇこれは天然パーマだ、ちょっとぐらい美人だからって人のコンプレックスをイジっていい訳じゃねぇんだぞコラ」

「別に悪く言ってる訳じゃないわ、ちょっと珍しいと思ったから聞いてみただけよ、で、誰なのアナタ?」

「こんな上物に興味持たれるのは中々悪くねぇが、まずはそちらさんが先に名前だけでも言って欲しいモンだ、出来れば電話番号も」

「なにそれ口説いてるつもり? 言っておくけど私安くないから、私とお茶でもしたかったらフライドチキンの皮たくさん用意してから来る事ね」

「いやそれ結構安上がりじゃね?」

 

アスナ以上に仏頂面でこちらを観察する様に目を細めて来た女性に、銀時が自然に会話してるのを見て、キリトの隣に立っていたユウキは一人つまらなそうな顔を浮かべる、というかイライラしている。

 

「……ちょっと綺麗だからって会ったばかりの女の人に馴れ馴れしくし過ぎだっての……」

「いやでも確かにあんな綺麗な人が現れたら男としてはほおっておけないというか……はう!」

 

健全な男子たるキリトがしっかりと女性の上から下を眺めながら、銀時同様すっかり心奪われそうになっている所で、すかさずユウキが彼の横っ腹に無言で肘鉄をかますと、銀時の方へ苛立った表情を向けて叫ぶ。

 

「ちょっと! なに鼻の下伸ばしてんのさ銀時! その人おっぽい大きいよ! 銀時って貧乳派でしょ!? だって姉ちゃんも貧乳だったし!」

「うるせぇ! 何勝手に人を貧乳好きに仕立て上げようとしてんだ! たまたま惚れた相手がそうだっただけだろうが! つーかお前も姉ちゃんの事言えねぇだろうが! 黙ってろ洗濯板!」

「せ、洗濯板ぁ!? 貴様ぁ! ボクに対して言ってはならない事をよくも!」

「うおい! 落ち着けユウキ! せっかくボス戦終わったのにPK行為はさすがにダメだ!」

 

自分の胸部を指差しながら罵倒してきた銀時に、さすがにユウキも顔を赤らめて腰に差す細剣を振り抜こうとしているので、キリトがすぐに後ろから羽交い絞めにして止めに入る。

 

そんな一悶着起こしそうな彼等を他人事の様子で眺めていた後、女性は顔をそむけてアスナの方へ目をやる。

 

「で? ディアベルに何か怪しい事とかあったの? 見た所アイツの姿は無いみたいだけど」

「大ありよ、予想以上の収穫だったわ、至急本部に戻って局長に報告しに行くけど、アナタも来る?」

「そうね私もその事について聞きたいし。それと局長じゃなくて団長だから」

「い、いいじゃない別に私がどう呼ぼうが勝手でしょ……」

「副団長が別の名前で呼んでると他の団員も混乱するの、アンタのせいでアイツも局長とか副長とか呼び出す始末だし」

「まあ元々アイツはそういう呼称を使う組織の一員だし……」

 

長い髪をなびかせながら訂正する女性にアスナがうろたえた様子でいると、女性は更に追及

 

「血盟騎士団なのに血盟組、副団長なのに副長とか色々と自分で名前変え過ぎなのよアンタ。どこぞの組織と被るからいい加減止めてくれない?」

「いやむしろあえて被らせているというか……なんというかその、インスパイア的な?」

「ふーん、前から思ってたけど、いつもはしっかりしてるのにどこか発想がガキっぽいのよねアンタ」

「ガキって……ちょっと誰に対してそんな言い方してるのかしら? 生意気な事言ってるとご飯作ってあげないわよ」

「ええ! リアルで仕返ししようとするのあんまりネ! アスナ姐それはさすがに酷いア……! ゴホン!」

 

小馬鹿にしてきた彼女にアスナがボソリと恨めしい目で反撃に出ると、急に幼くなったような表情と口調に変わりかけるが口元を押さえて大きな咳を一つすると、再び女性は元の口調で話を切り出した。

 

「まあ名前の件は一時的に口出さないようにしてあげるわ……」

「わかればよろしい、それじゃあ行きましょうか、あ、でもその前に……」

 

彼女との会話をいったん中断すると、アスナは後ろに振り返るとすぐにユウキが暴れるのを押さえていたキリトの方へと振り返った。

 

先程女性と話していた時のような柔らかなイメージではなく、はっきりとした敵意を剥き出したまま

 

「血盟組はここから本格的に治安維持に力を入れ始めるわ、素行の悪過ぎるプレイヤーを積極的に捕まえにいくでしょうね。最悪そのプレイヤーのアカウントを永久停止にする事も……今後は己の身の振り方をわきまえるように」

「しつこい奴だな、誰が何と言おうと俺は俺のままこの世界で生きる。脅し吹っかけて来るのはいいけどそんな可愛らしいツラだと全然怖くないぞ、鬼の閃光さん?」

「……」

 

このまま彼の憎まれ口を聞き続けていると、いつか自分を制御できずに剣を抜いてしまうかもしれない。

 

激しい苛立ちを胸の中に必死に抑え込みながら、アスナはフンと鼻を鳴らすと女性の方へと戻って行った。

 

「行きましょう、親切心で再三警告してやったのに無駄だったわ」

「あの男の子誰?」

「バカよバカ、大バカよ」

「あのドSバカとどっちがバカ?」

「両方バカ、ていうか男はみんなバカ」

「それは同意するわね」

 

頭に血が昇ってる様子でイライラしながら身も蓋も無い事を言いながら、アスナはこちらに一度も振り返りもせずに女性を連れてスタスタと行ってしまった。

 

キリトはそんな彼女の後ろ姿を見送りながら、あの女とバッタリ出くわさない様に気を付けるかと呑気に考えていると

 

ようやくユウキが落ち着いたのか、フーフーと息を荒げながらも剣を抜こうとするのを止めた。

 

「……女性に対してはもうちょっと言い方考えた方がいいと思うよ」

「はいはい悪かったな、これでいいだろ」

「やっぱり姉ちゃんと違ってボクの扱いが悪い……それとキリトもね」

「え、俺?」

 

適当な感じで後頭部を掻きながら詫びる銀時にムスッとした後、急にキリトの方へ振り返って話を振り出した。

 

「さっきあのアスナって子と話してた時もなんか皮肉を利かせた感じで喋ってたじゃん、ダメだよああいうのは。相手は女の子なんだからキチンと優しく言ってあげないと」

「そうは言っても向こうは完全に俺の事を敵と見定めてるからな、売り言葉に買い言葉、向こうが喧嘩腰だからこっちも同じ土俵に立ってあげたまでの事だって」

「……そんなんだからモテないんだよ、そんなんだから童貞なんだよ」

「べ、別にモテたいと思ってねぇし! 童貞だって捨てようと思えばいつでも捨てられるし!」

 

キリトが根っからの皮肉屋なのは今より始まった事ではない、まるでどこぞの銀髪天然パーマみたいな言い訳をする彼にジト目で睨んだ後、ユウキは傍にいたエギルの方へ顔を上げる。

 

「なんだかこのバカ二人と比べるとエギルが凄く立派に見えるよ、ちゃんと結婚して奥さん大事にしてるもんね」

「嫁さんにしょっちゅう怒られる俺は立派って呼ばれるモンでもねぇよ。コイツ等がただ肝心な時に素直になれないガキなだけだ」

「あ、言われてみれば」

 

妙に納得した様子でユウキがポンと手を叩くと、それを聞いていた銀時とキリトは同時にしかめっ面で振り返り

 

 

「何言ってんだテメェ等、俺はいつだってテメーに素直に生きてるわ」

「同じく、素直に生きてるからこそ己の考えるままに発言出来るんだ」

「相手が女だから気を遣わなきゃいけないとか、んなモンかったるくってやってらんねーよな?」

「そもそも年も異性も関係ないこの世界で今時の男女論を唱えられてもなぁ」

「……コイツ等どんどん仲良くなってねぇか?」

「ある意味似た者同士だからね……」

 

二人揃ってあーだこーだと喚き出す銀時とキリト。

 

エギルの言う通り確かに子供みたいだと思いながら、ユウキは頬を掻きながら彼等の言い分を適当に流すと

 

おもむろに銀時の右腕に手を伸ばしてグイッと掴む。

 

「わかったからもう行こうよ村に、宴会するんでしょ」

「ああそうだった忘れてた。オメェ等のせいで不毛な議論を始める所だったぜ」

「まあ結論を出すなら、俺達は何も悪くないって事でいいよな」

「一生言ってろバカ共」

 

勝手に自分達で始めたくせに勝手に自分の言い分を肯定するキリトに、エギルが疲れた様子で返事しつつ三人の後ろを歩く。

 

「ていうかキリト、お前なんだかんだでコイツ等と上手く息合ってるな、しばらくコイツ等とトリオでやったらどうだ? ソロもいい加減寂しいと思ってたんだろ?」

「いや寂しいだなんて思った事ねぇよ、好きでソロやってた訳だし……ま、単純にこの二人に興味持ったのと気分転換の兼ね合いに行動しやってもいいかな」

「そういう所が素直じゃねぇって言ってんだよ、ったく」

 

少々照れ臭そうに目を逸らしながら呟くキリト

 

自分はあくまでソロプレイヤーだから今後この連中と付き合う事は無い

 

とか仏頂面で言い張るよりはマシかと思いながら、エギルは微笑を浮かべてやれやれと首を横に振る。

 

「ま、お前さんがそう決めたんならそうすりゃあいいさ。だが言っておくが銀時の方は本当に自由奔放でテメーの思うがままに突き進むぜ、付き合いの長い俺が言うんだから確かだ、ついて行けるか?」

「当たり前だろ、アンタと違ってあの人の事はまだまだわからない事ばかりだけど、EDOの先輩としてむしろついて来させてやる……ってアレ?」

 

問いかけに対して確固たる自信を持ってそう言い切りながらキリトはふと気付いた。

 

先程まで隣にいた銀時がいなくなっている、それにユウキも……

 

どこいったんだと周りを見渡してみると、いつの間にか銀時は前方で両手を振って走り出しているではないか。ユウキもそれを懸命に追っている

 

「よし、じゃあ村に一番先に着いた奴が他の三人からパフェ1個づつ奢って貰うって事で」

「あ、ズルい! そういう卑怯な真似して食べるパフェが本当に美味しいと思うの!?」

「美味いに決まってんだろ、俺は何時だってパフェを美味しく味わって食えるんだよ、参ったかコノヤロー」

 

走りながら会話しつつ、抜かれまいと必死に走る銀時を追うユウキ

 

そんな光景に思わずキリトは口を開けて唖然としていると、後ろからエギルが愉快そうに笑い声を上げて

 

「早速アイツに置いてかれてるぞお前」

「自由奔放にも程があるだろ……ったく!」

 

自分で言い切ってしまったモンだからここで取り残される訳にはいかない、キリトは意を決したかのように彼等を追う為に走り出した。

 

腹部に来る痛みなどもうとうの昔に忘れ去っている、今はとにかく彼等に追いつきたいという一心のみで食らいつく。

 

「ボス戦終わった後に元気すぎるぞアンタ等!」

「おお、キリトが追いかけて来たよ銀時」

「引きこもりの体力なんぞたかが知れてらぁ、ほっとけほっとけ、その内バテて倒れ込むって絶対」

「そんな余裕の事言ってるのも今の内だ! 敏捷ステータスならこっちの方が上なんだよ!」

 

ぐいぐいと凄い勢いで二人との距離を縮めて行きながらキリトは銀時とユウキと共に駆けて行く。

 

そんな彼にユウキは楽し気に、銀時はニヤリと笑いながら一瞥すると抜かれてたまるかと、見えて来た村目掛けてスピードを上げた。

 

「よっしゃパフェは俺のモンだ! おい! あの村で一番高くて美味い甘味屋はどこだ!?」

「飛んじゃダメとは言ってないよね? そろそろ本気見せちゃおうかな!」

「置いてかれてたまるか……! しがみついてでも絶対について行くからな!」

 

二人に引き離されない様に必死にキリトは追いかける。

 

そんな今まで見た事ない姿をしている彼を後ろから眺めながら、エギルは思わずフッと笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れよキリト、こっからがオメェの本当のゲームスタートだ」

 

影ながら応援しつつエギルは彼等が夢中になってその存在を忘れているであろうモノを取り出した。

 

それは指定した村へ一瞬でテレポート出来る転移結晶

 

即座に使用してあっという間にエギルは第二層への村へと飛び、走る三人を尻目に無事1位に輝くのであった。

 

 

 

これは仮想世界と現実世界の両方を行き来しながら成長していく少年と侍の物語。

 

この先一体どんな出来事が彼等を待っているのかは誰もわからない。

 

ただ一つわかる事があるとするならば

 

きっと退屈とは程遠い波乱に満ちた人生が待っているのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前に読者の方から(恥ずかしいと思いますので名前は伏せさせていただきます)「竿魂のとOPとEDあるとしたらこんな曲どうですか?」とメールを送られた事があります。 
その時言われたのはOPは「Empty Mermaid/LiSA」 EDは「誓い/Do As Destiny」でした。

曲を聞いてなんというかこの作品はこういうイメージもたれてるんだなと実感し、つい嬉しく感じます。

ぶっちゃけ私も自分で書いてる時によくそんなイメージを思って書いてる時もありますので。

作品書くのってやっぱり持続的に続けるためのモチベーションが大事なんで、そうやって気分を乗らせないといけないんですよ。


ちなみに私がこの作品を書き始めてからずっと頭の中でイメージソングにして聞いているのは「Jump_Up,_Super_Star!」です

「え? 何それ?」と思うでしょう。

本日発売される「スーパーマリオオデッセイ」というゲームで使われてる主題歌です

まさかの銀魂とSAOのクロスssでマリオです

でも歌詞を見ると思いの他「竿魂」の世界観に合うんですよ

新たな世界に旅立って冒険する銀さんに、愛刀・物干し竿に宿る「あの人」が影ながらエールを送っているとイメージすると結構合うかもしれませんので

暇な時にようつべとかで検索して聴いてみてください


第一章はこれにて閉幕、次回からは新たな新展開が待っています。

どうやら仮想世界だけでなく現実世界でもゴタゴタが起きるみたいです

いつもと変わらず引きこもり生活を堪能していた桐ケ谷和人を襲う魔の手

それは妹が用意した刺客であり、彼女が最も憧れている姉貴分

その時、銀時が取った行動とは……

基本SAOキャラが多いですが、銀魂キャラもこれから徐々に増えていくのでお楽しみに


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