戦姫絶唱シンフォギア Tears to Tiara 作:リューイ
誘拐された未来を助けにきた響が誘拐犯に一緒に捕まり、そのうえ魔王も復活し、アルカノイズもそこら中に生み出された。
なのに制御していた奴は早々に魔王に殺される。
そんなカオスな状況を整理するためかのようにクリスと翼はさっそうと現れアルカノイズたちを倒していった。
二人と戦闘に参加しない緒川を見比べてアロウンは未来と響に話しかける。
「どうやらお前たちを助ける勇者はあの男ではなくあの戦士たちのよだな。」
未来たちはまだアロウンとどう接していいのか分からず沈黙を保っているが、そうこうしている内にクリスと翼がアルカノイズを倒し切り、緒川と合流し、アロウンたちへと近づいてきた。
「やい! そこの黒ずくめのオッサン!! その二人に指一本でも触れてみろ、ドタマに風穴開けてやるから、覚悟しな!!」
響の胸にギアのペンダントが無いことに気づくとクリスはそう啖呵を切ってボーガン型のアームドギアをアロウンに向ける。
「フッ、それは勘弁願いたいね。」
アロウンはおちゃらけた感じでそう言うと彼の後ろでお互いを守るように抱き合う未来と響の背を押しクリスたちのもとに戻るよう促す。
「さぁ、行け。」
背を押された未来と響の歩みは最初、戸惑った様子でゆっくりだったがその歩みはだんだん早くなり、最後には解放された喜びに跳び上がらんばかり早くなって二人手をつないだままクリスと翼に抱きつき無事と再会を喜んだ。
しかし翼とクリスは喜んでばかりはいられなかった、なぜならばアロウンの存在があったからだ。
彼女たちはアロウンが未来や響をアルカノイズなどから守ったなどと言う事は知らない。
なので基本的にアロウンの印象は彼女が感じたものだけになるわけで、クリスからすればほぼ全身黒ずくめの赤い剣を持った危なそうな男であるし、翼からすれば見た目と剣の事はおいておくとしても不敵な言動とは明らかに不釣り合いな尋常ならざる強い意志をその目に宿した油断のならない相手である。
2人が警戒を解かないのも当然だと言える。
しばし再開を喜ぶ響たちを言葉なく見るアロウンに言いようのない不快さを感じた翼はアロウンに彼女の刀型のアームドギアを向け強く詰問する。
「貴様は一体何者だ? その眼光ただモノではあるまい。」
「何者か……か、今まで色々な呼ばれ方はしてきたが、そうだな、今の私はただのアロウンだ。」
アロウンは翼の気勢も何のその、何か少し楽し気な雰囲気で翼たちを見回し、問いに返答した。
しかしこれに翼たちは納得できるはずもなくなおもアロウンを問い詰めるが肝心のアロウンがまるでまじめに答える様子がなく、糠に釘状態であった。
業を煮やした翼は質問の相手を大広間で起こったことの一部始終を見ていたであろう緒川に変える。
「緒川さん、彼は一体何ですか?」
「私にも詳しく事は……ただ未来さんを誘拐した人物曰く、世界に終焉をもたらす魔王と言っていましたが、彼を復活させた張本人が殺されてしまいましたので詳細は分かりかねますね。」
「世界に終焉ですか…… それだけ分かれば十分です。」
緒川の説明を聞いた翼は知るべきことは知ったと自らの剣を構える。
幼い頃から守護する者として育てられてきた翼にはそれだけ分かれば刃を振るう理由には十分だったのだ。
翼はアメノハバキリから伴奏が流れてくると心から湧き出てくる思いを言葉と綴り歌となす。
序曲も終わらぬうちにアロウンとの距離をつめ、己のアームドギアで袈裟斬りに斬りつける。
響が翼を制止する声が広間に響き渡るが翼は意に介さず次々と放つ斬撃はアロウンを容赦なく襲う。
しかしそのことごとくをアロウンは躱していく。
翼はその状態を何とか崩そうとアームドギアをもう一本取り出しアロウンの目を引くように大きく下から垂直に切り上げると同時に放り投げる。
「何を?」
アロウンがそれに気を取られる隙に翼はアロウンを横一文字に斬りつける。
「隙あり!!」
しかしそれすらアロウンは己の愛剣エドラムで受けとめててみせた。
「フッ どうやら隙は無かったようだな。」
不敵に笑うアロウンを無視し翼はそのままもう一歩踏み出し、アロウンを後ろに吹き飛ばす様にそのまま薙ぎきった。
アロウンは間合いを開けるため込められた力に逆らわず、半ば自ら後ろに飛んだ。
だがアロウンが飛んだ先には先ほどまでなかった障害物ができていた。
「柱だと!!」
「否! 剣だ!! 今度こそ、その隙つかせてもらう!」
翼が投げた剣はアロウンの気を引くための物ではなかった、そう見せかけて本来の目的は逃げ場を塞ぐための物だったのだ。
翼はあえてアロウンの気を引くように剣を投げ、その隙を突くように見せかける事で本当の目的を見事隠しきった。
今度は翼がしてやったりと言う顔でアロウンを追い詰める。
翼は振り上げたその剣を巨大化し大剣と成し必殺の斬撃を撃つ。
蒼ノ一閃
その斬撃は青い光の刃となりアロウンを襲う
アロウンは迎撃すべくエドラムを振るう。
そしてエドラムと蒼ノ一閃が邂逅した瞬間、強い衝撃があたりを縦横無尽に走りまわり、遺跡にたまった塵を舞い上げアロウンの姿を隠した。
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翼が響の制止を聞かずアロウンと戦っている時、響は今にも戦いに割って入りそうな勢いで飛び出そうとしていた。
しかしそれを阻止する者がいた。
クリスだ。
彼女は片手で翼の援護をいつでもできる様に構えながらも、もう片方の手ではしっかりと響の腕を掴んでいた。
「このバカ‼ 生身であの中に飛び込んで行く気かよ。」
クリスはちらっと未来の方を見て、
「こいつと会えた嬉しさで脳みそ溶かしてどっかにおいてきちまたってのか?」
と強く響を止める。
だが響のお人よしと頑なさは筋金入りだった。
「でも‼ あの人は私と未来を助けてくれた。 きっと悪い人じゃない。」
響はもう決めてしまっている様だった。
「話し合えば、きっと手を取りあうことだってできるはず!!」
クリスは響の強い思い、信念に精神的に押され気味だったが彼女にも譲れぬ一線がある。
「だからって生身の奴を戦場にだせるか!!」
「クリスちゃん!!」
響は離してという意思を込めて彼女の名を呼び、腕を振りほどこうとするがクリスは絶対に離す気が無い様で、より一層強く響を掴む。
響とクリス二人の口論がだんだんヒートアップしていたその時、優しい声が二人に届く。
「二人とも落ち着いて、要は生身じゃなかったらいいんでしょう。」
未来はガングニールのギアのペンダントを響に手渡す。
「はい、これ。」
響はギアを受け取るがまるで状況の理解が追いついていないようで目を瞬かせる
「どうして未来がギアを!?」
未来は優しく微笑むと緒川の方を見る。
「緒川さんがね、翼さんとクリスがアルカノイズと戦っている時に素早く回収しておいてくれたの。」
響が緒川の顔を見ると彼は品の良い笑顔で一礼した。
これまであまり役に立たなかった、緒川の面目躍如と言う所だろう。
こういうそつの無さは流石OTONAでNINJAな緒川だ。
「ありがとうございました、緒川さん。」
響は緒川に感謝すると未来とクリスの正面に立つ
「未来、クリスちゃん、心配かけてごめん。けどちゃんと解決する自信はあるから、行ってきます。」
「がんばって、響ならできるって信じてるよ。」
「ったく、バカは死んでも治んねぇんだったっけ、 しゃねぇから援護してやるよ。」
未来とクリスの反応は二人ともちがう感じだがそれでもどちらも響を大切に思う思いが伝わってくるようだった。
響は二人の声援を受け先ほどよりも自信を確かなものとして力強く聖詠を紡ぐ。
ギアは響の歌に反応しエネルギーへと解け、響の体に合わせ再構成される。
そのギアは性能のほとんどを両腕のガントレットと両足のグリーブのパワージャッキにつぎ込み遠距離装備はおろか近接武器すら持たない。
響のガングニールはまさに彼女の『誰かと手を繋ぎ合う事』を第一としたい彼女の願いを体現してくれている様だった。
響がギアを纏い翼とアロウンの戦いに割って入ろうとしたその時は丁度翼がアロウンを剣のもとに追い詰め、蒼ノ一閃を撃った後だった。
翼は追撃をかけるために土埃が舞い直単に視界が悪くなった中アロウンへと迫る。
翼がアームドギアを振りかぶるとアロウンもそれに気づきエドラムを構える。
翼が渾身の力をこめ振り下ろした剣はアロウンではなくいきなり飛び込んできた響に受け止められる。
だがそれは響の功績ではないとっさに響に気づいた翼が剣を止めたのだ。
「何のつもりだ!! 立花!!」
翼は響の突飛な行動を責めるが少し強引なところのある響きは翼の叱責をサラッと流し自らの主張を開陳する。
「すいません! 翼さん。 でも魔王さんは私や未来を軍人やアルカノイズから守ってくれたんです。 世界に終焉をもたらすなんてきっと何かの間違いです。 それにその証拠に私は切られてません。 翼さんが剣を止めてくれなければきっと私は切られてました。 同じように魔王さんも剣をとめてくれたんですよ。 きっと話し合えば手を取りあう事も出来るはづです。」
響は翼に何も語らせぬ勢いで自分の主張を一息に語り切ると翼の反応を待った。
響には翼の次の言葉か出てくるまでの数秒がとても長く感じている様で少し心配そうに翼を見つめていた。
「わかった。 この場は刀を収めよう。」
翼はアームドギアをしまったがアロウンに対する疑いは捨てきれない様子で響が言ったことも半信半疑だった。
響は翼がアームドギアを収めるのを見届けるとアロウンの方を向き彼の目を見つめ何の思惑もなくまっすぐに質問を投げかける。
「魔王さんは世界を滅ぼすんですか?」
「そんなこは考えていない。」
アロウンの答えを聞いた響は満面の笑みで翼へと振り返る。
「翼さん聞きました、魔王さん世界を滅ぼさないって!!」
「あぁ、聞いていた。 だがこのまま捨て置くと言うわけにはいかないぞ。」
翼のその言葉をどう受け取ったのか響はまたとんでもないことを言い始めた。
「わかってます。 魔王さんは私が面倒見ます。」
あまりにも想定外の答えを聞いた翼はいつもの凛々しさはどこかに消え去ってしまいあたふたするばかりだった。
「面倒を看るって、あなた正気?」
「もちろんですよ、翼さん。 魔王さん一人ぐらい私が養ってみせます。」
あまりに自信たっぷりにトンチンカンなことを言う響に翼はさらに混乱して、ついには自分が間違っているのかと考えそうになっている。
だがそんな翼に強力な助っ人が駆け付けた。
響のことならばもちろん小日向未来だ。
「ダメッタメッ、絶対にダメー」
いつも響を応援していた未来は何処へやら、絶対に反対と言う態度で響に詰め寄る。
「響‼ 魔王は犬や猫じゃないのよ。 もっとちゃんと考えて!!」
「へいき、へっちゃらだよ、犬も猫も魔王も大して変わらないよ。 ちゃんと最後まで面倒見るから、 お願い‼ 未来。」
響も頑固なので諦めず認めてくれるよう未来を説得する。
そんな様子を見ていてクリスは思わず「いや、魔王と犬や猫はだいぶ違うだろが」とツッコミを入れるがそれを聞いていたのはもはや緒川ぐらいのもので他のものは響たちの言い合いに注目している。
頑なな響きに未来は、怒るのは効果が無いと悟ったのか次は切なげに語る作戦に出たようだ。
「響、私分かってたよ。 響がダメな人を好きになるって、だって響のお父さんはあんな人だし、憧れてた翼さんはおかたづけのできない人だし……」
思わぬところから飛び火してきた翼は「なんで私がこき下ろされているんだ」と不満を漏らしていたが未来は気にした様子もなく話をつづけた。
「だけどね、今回はもっとよく考えて……」
「未来。」
響は本気で心配している未来に抱きつきその言葉を遮る。
「大丈夫だよ。 だって私が大好きな未来は全然ダメな人じゃないもん。 だから何とかなる、何とかするよ。」
「響。」
そんな風に言われてしまえば未来はもう何もいいかえせなくなってしまう。
そして抱きしめあう2人は完全に自分たちだけの世界に入ってしまい『そう言うことは家でやれ』と周りに思わせるぐらいあきれさせた。
そんな時、先ほどから沈黙を保っていたアロウンが響たちに語り掛ける。
「先ほどから聞いていれば俺をペットか何かの様に言った挙句に自分たちだけの世界に入りやがって、全く言いたいことは色々あるが、とりあえずそろそろ俺に対する態度を決めた方がいいんじゃないか、俺と戦うかそれとも、共に戦うかをな。」
響たちは「今はそんなこと、話してなかったよね」と言うような感じで凄い気勢で返される。
アロウンもその若い女たちのかしましい勢いに押され気味だが広間の入口を指さし必要性を説く。
「だがアレはお前たちの仲間と言うわけではあるまい。」
アロウンが指さす場所には何十体もの動く骸骨がいたそのほとんどがぼろぼろの鎧をまとい剣や槍で武装している。
そして頭蓋骨のかつて瞳があった場所には青く揺らめく火の玉の様な光が宿り、おどろおどろしさに拍車をかけている。
「骨が動いてますよ、翼さん!!」
今度は響が何が何だか分からないとばかりに翼に話しかけるが翼とて動く骸骨が何かなど見当も好かない様子だった。
「新手のアルカノイズか。」
翼は分からないなりに推測するがそれはアロウンによってすぐに否定される。
「アルカノイズと言うのが何かわらないがあれはただの死者だ。 おそらく復活の大釜の力が強すぎてこいつらも呼び起こされたのだろう。 ここは墓地の様だしまだまだ出てくるぞ。」
「仕方ない、立花に小日向、魔王の事は後回しだ、今は共闘してこの場を切り抜ける。 魔王もそれでいいな。」
翼の提案にアロウンはすぐに賛同する。
「俺はかまわんぞ。」
アロウンが共闘を了承すると翼はクリスと緒川にも声をかける。
「聞こえていたな、クリス、魔王とは共闘する。 援護してやれ、 緒川さんは小日向の事を守ってください。」
翼はクリスと緒川に指示を出すとアロウンと響をちらっと確認すると「行くぞ!」と号令をかけアームドギアを構えて一番に切り込んでいった。
そしてアロウンと響も翼に続く。
読んでいただきありがとうございました。
そして投稿が遅くなりすいませんでした。
決してエタった訳ではないのでゆっくり書いて行こうと思います。
感想&批評などいただければ幸いです。