毒舌女神正論派   作:猫毛布

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シンフォギア見てたら遅れました。
(淫夢要素は)ないです。
(次話は)ないです。


否・正論勇者告白派

 女神として在る事に苦労などなかった。それこそ正論しか吐き出せない、正論以外は口に出来なかったとしても、それは私の苦労に繋がることなどなかった。

 正しい事。間違っている事。その全てを両断するように在るのが権能であり、根源であり、そして矜持でもあった。だからこそ、私という女神は異世界転生の扉として、番人として、与える者として存在していた。

 だから、私は女神として生きていく事に疲れていたのかもしれない。果たして女神という存在に疲労があるかは別にして。精神的に疲れていたのだろう。いいや、女神としての私に疲労などあり得るわけがないのだけれど。

 

 そんな時に出会った、凡百の一が、彼であった。これは、本当にそれだけの話なのである。

 

 

 

 

 

 

 意識が浮上する。何かで眠らされていた事は理解出来た。僅かばかりの頭痛がありありと現実で生きている事を意識させる。

 瞼を上げれば、それは磨かれた大理石で作られたような白亜の部屋であった。

 右を向けど、白。

 左を向けど、白。

 前方に唯一ある扉から、白い世界に映える赤の絨毯が私の場所まで伸びていた。

 四肢に感じる拘束を僅かに力を込めて引き千切ろうとするも、全く千切れる気配はない。視線だけ動かして腕を見ても、そこには変哲もない革のベルトが横に伸びた石柱と共に腕を巻き込んでいる。

 

「どうやら目が覚めたようだね」

 

 ふわりと、闇色のマントを靡かせて男が宙から降り立った。闇そのものである証明の如く黒い髪に黒い瞳、焼けてもいない白い肌。偉丈夫というには烏滸がましい線の細い身体。

 コツリコツリと石造りの床を靴で叩きながら歩く男の顔面を粉砕してやりたい気持ちを抑える意味も無く、力を込めたところで革のベルトは私の腕を放してくれる訳もなかった。

 

「今のキミがソレを引きちぎるなんて無理だよ。尤も、引き千切るなんて選択肢があるのも変に思うけれど」

 

 クスクスと小馬鹿にするように笑いを溢した黒の男を視界に入れ、確認するように口を開いた。

 

「――魔王」

「そう、僕は魔王だ」

 

 アッサリと男――魔王は応え、私の横にある椅子――玉座へと座した。

 

「それは、上位者から人まで堕とすモノさ」

「――このベルトが?」

「……いや、ベルトじゃなく、キミの頭に付けているティアラの方さ」

「なるほど」

 

 瞳を上に向けた所で頭上なんて見れる訳もなく、僅かに感じる違和感でその存在が分かる。

 魔王はどうしてか溜め息を吐き出して、

 

 魔王に捕まったのは必然であった。()()()()()()()に頼まれた、それだけである。

 私の選んだ選択であり、それはきっと正しい事だったのであろう。例えそれが私の死に繋がる選択であったとしても。道理に反するなど正しくはない。それは私の矜持に反し、私の根源に反し、私の権能ですら無い。だから、この選択に後悔はない。

 

「アナタは――転生者なのね」

「そうだ。このクソッタレの世界に落とされた転生者の一人さ」

 

 玉座に座りながらも、魔王はまるで自嘲するように笑みを浮かべた。

 

「僕の理想とした世界じゃなかった」

「そう」

「本当は僕の周りに女の子が居て、僕をちやほやして、僕が世界を救う。その為に力も貰ったッ!」

 

 魔王である男の叫びを聞きながら、視線を向ければ、それは確かに願い通りの力である事が分かる。彼は記憶にないから、別の世界の転生者であるのだろうけれど、そこに差異はない。

 何も贔屓もなく、願われた事は叶っていた。

 

「願いは叶っているでしょう」

「そう! 僕の願いは十全に! 正しく! 叶えられたッ! 僕は願い通りの力を手に入れたッ!」

「なら、それは正しい筈よ」

「こんなモノが正しい訳がないッ! 僕が魔王!? 成りたかったのは英雄だッ! 僕が英雄になれる世界を求めたのに、僕が理想とする世界を求めたのに――……」

 

 怒りの唐突に冷えていく。先程までの熱を一切感じない、英雄に憧れていた男が消えていく。そこに残ったのは闇の権化。力を求め、得た存在。

 

「だから、僕は世界を壊す。だって、間違ってるだろ? 僕が英雄じゃない世界なんて。そうさ、僕が魔王と呼ばれているのはほんの一瞬だ」

「間違ったモノを正すのは、正論ね」

「そうだろう。だから、キミは僕のモノになってくれる。だって、キミは転生者に尽くす存在なのだから」

 

 それは、間違いではない。確かに私はどこかの誰かの正論によって、転生者に尽くす存在になっている。それは確かに正論である。

 間違いではない。正論である。正しい言葉である。

 だからこそ、私は私の矜持の為だけに口を開かねばならない。

 

「身体を鍛えてから出直しなさい」

「――は?」

「好みじゃないって言ってるのよ」

「ど、どうしてだ。正論だろう? キミが従うべき根源だろう!?」

「ええ。私は転生者に尽くす存在、それは間違いじゃないわ。けれど同時に私はアナタの女神でもない。これも――正論よ」

 

 魔王の顔が怒りに満ち、玉座から立ち上がり私の顔を殴る。

 女神であれば痛みも感じにくいけれど、人間に堕ちている今その殴打が焼けるように痛さを伝えてくる。

 

「どうして、どうして僕のモノにならない! 僕は英雄になる存在だぞ! 僕はこの世界を救う存在だぞ!」

「アナタの望みは十全に叶えられた筈よ。それ以上を求めるならそれなりの努力をしなさい」

「違う違う違う違う違うッ! お前らが勝手に殺したんだ! 僕を殺して、異世界に落として、英雄にしてくれるんだろう!? そうじゃない異世界なんて望んじゃいない!」

「ならソレを口にすればよかったのよ。正しく、アナタの口から出ていたならば、きっとそう成っていたでしょう。けれど、口にしなかった。それだけよ」

「お前らは――神様達は上位者なんだろう!? ならどうして叶えてくれない。どうして僕は英雄になれないッ!!」

 

 幾度も殴られながら、死を予感する。

 癇癪を起こしたように、自分の意思を今更になって口にする。その恨みは確かに間違いではないのであろう。人が正しく抱くモノだ。

 数十回も殴れば満足したのか、それとも私の意識が朦朧としている事に気付いたのか魔王は殴るのをやめて疲れたように息を吐き出して玉座へと座る。

 

「まあいい。キミのその力は僕が使わせてもらう」

 

 宣言のように吐き出された言葉に毒を吐くことすら出来なかった。

 痛い。けれど、まだ生きていた。もう数刻すれば死ぬだろうけれど、まだ生きている。

 助けは、来ない。来る訳がない。この世界の魔王という存在は普通に倒す事は出来ない。だからこそ、私は彼へ来ないように告げた。倒せないのだから、意味もない。

 

「ん? ああ、なるほど。なるほど」

 

 魔王が何かに気付いたように、クツクツと喉で笑っている。

 喧騒が聞こえた。何かの叫びが聞こえた。剣を振る音が聞こえた。

 掠れた視界を持ち上げれば、空中に投影された映像に彼が映っていた。彼の身の丈にあった剣を持ち、剣を振り、迫り来る敵を倒しながら、背後に屍を積み上げながら真っ直ぐにここへと向かっていた。

 

「無謀だね。いいや、正しく無茶苦茶だ」

「……どうして」

「さてね。僕には理解出来ないね。リスクに対してリターンも無い。なんせ彼では僕を――魔王を倒せない」

 

 それは事実だ。魔王を倒すのは聖剣かそれと同等の魔法しかない。それが彼のルールだ。そして彼の剣は変わらずに私が適当に選んだ剣である。

 だから、彼は魔王を倒せない。この世界の魔王を倒すことは出来ない。

 だから、彼をここに向かわせない為に伝言を頼んだ。

 意味など理解出来ない。正しくない選択でしかない。そして彼が死んでしまう選択でもある。

 

 

 

 

 

 二時間を掛けて、彼は扉を開けた。

 

「ヒュー……ハァハァ、ゲホッゲホッ」

 

 呼吸すら儘ならないほど疲労して、刃毀れした剣を杖にして、紫色の返り血に塗れながら、自身の傷から溢れた赤で白亜の部屋を汚す。

 

「おめでとう。ようこそ、我が城へ」

 

 彼は応える事も出来なかった。満身創痍なのだから、そんな余裕がある訳がなかった。

 けれど、彼は一つだけ大きく息を吸い込んで、剣を構える。

 震える腕で、力も篭っていない構え。

 

「どうして……どうして!」

「どうしてって……女神様を、助けに、来たんですよ」

「魔王である僕も倒せないのに?」

「ハハッ……ああ、そうだ」

 

 真っ直ぐに向いた瞳が魔王を捉えて離さない。

 自分が教えた戦いの基本であった。けれども勝ち目の無い戦いは逃げろとも教えた。けれども彼は居る。

 それは、正しい選択ではない。

 

「逃げなさい! 私なんかいいから!」

「……確かに、いつも正論を言う、女神様の言葉だから、それが正論なんでしょうよ」

「なら――」

「……ハァ……

 

 うっせぇ!! 人間を正論だけで語れるかよッ!」

 

 彼の叫びが白亜の城に響く。

 いつもの様に丁寧で、少し情けない彼ではない。けれども間違いなく、彼は彼であった。

 

「筋肉嗜好の女神様だけど! やたらと鍛え方に煩い女神様だけど!! 俺より強いステゴロ女神様だけどなッ! 好きなんだよッ!」

「――ッ」

 

 息を飲み込んだ。殴られて熱を持った顔に余計に熱を帯び、ヒリヒリと顔が痛む。

 

「女神様が好きだから、ここに立ってんだよッ! 正論なんて知らない、俺が助けたいから来たんだッ!」

 

 それは確かに正論ではない。正しい選択などではない。

 けれど、私の心がそれを許さない。幸福を全身に循環させ、熱を顔に集め、跳ね上がる心が、正しくないとは言わせない。

 

「けれど、キミは魔王である僕に傷一つ付けられない。キミは英雄ではない」

「――いいえ、それは違うわ」

 

 だからこそ、否定する。否定しなければならない。

 この時点を以って、彼は()()に成った。けれども彼は英雄などではない。

 魔王に挑む者。女神の祝福を受ける者。

 それは英雄などという人の為の存在ではない。

 人はその存在をこう呼ぶのだ。

 

「――彼は、勇者よ」

 

 私がその言葉を口にすれば彼の構えていた剣に変化していく。

 刃毀れは消え、真っ直ぐに伸びた両刃の直剣。飾り気の無い、彼だけの剣。それは単なる剣ではない。ワゴン品よろしく叩き売りにされていた雑多な剣の一つなどではない。

 勇者が握る剣がそんなモノである訳がない。魔王を断つ剣。勇者が握る剣。

 彼だけが握る事の出来る、彼だけの聖剣。

 その聖剣を見て、どこか驚いた表情をしていた彼であるけれど、その表情はすぐに真剣なものへと変化し、魔王を見据えた。

 理解していた。その剣が魔王を倒せる剣である事を。そして自分が魔王を倒せる存在になった事を。

 

「なんだ、なんでだよ! なんでお前なんだよ! なんなんだよ! お前はッ!!」

「もう一度だけ言ってあげるわ」

 

 倒されるべき魔王の為に私は正論しか吐き出せない口を開く。

 

「彼は――私の転生者(勇者様)よ」

 

「うぉぉぉおぉおおおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

======

 

「いやぁ、随分ボコボコにされたみたいですね」

「ボロボロのアナタに言われたくないわ」

「御尤もで」

 

 果たしてアッサリと戦いは終わった訳である。

 どういう訳かティアラを外した瞬間に腕を縛っていたベルトを引き千切った女神様に顔を引きつらせた俺は悪くないと思う。え? 何、この女神様……実はいつでも逃げれたの?

 俺の頑張りは? え? 無駄? マジかよ……。

 溜め息を吐き出して肩を落としていれば、女神様の視線を感じる。

 かと言って、何かを言うでもなく、ただ俺の事を見ているだけである。筋力落ちたとか? これでもここまで頑張って剣振り回してたから落ちた事はないと思うんですが。

 

「……うん」

「何納得してるんですかね……」

「――……なんでもないわ。さ、行きましょ」

 

 歩き出す女神様を見て、疲れた身体に鞭を打ちながら足を進める。

 追いついた女神様の顔を横目で見れば顔を逸らされる。なんのさ。

 どうにも疑問に思えてしまうけれど、女神様も女の子である。ボコボコにされた顔――はすぐに治ったけど、あまり見られたくはないのだろう。

 

「さあ、次はどこの魔王を倒すのかしら?」

「……ん?」

 

 そっぽ向いた女神様の言葉に思わず疑問符で返してしまう。

 

「いやいや、女神様。魔王はさっき倒したじゃないですか」

「そうね。魔王の一人を倒したわね」

「……えぇ……つまり、魔王が沢山いると?」

「ええ。居るわ」

「マジっすか……」

「マジよ」

 

 魔王一人倒すのですら満身創痍で必死だった俺に対して地獄のような宣告をした女神様であるが、その顔は楽しそうに笑っていた。

 

「さあ、私達の冒険はまだまだ先があるわ。行きましょう、私の転生者さん」

「凄い打ち切り感あるんですが……。頑張りましょう、俺の女神様」




>>この世界の規律に関して。
 魔王は倒されない。せかいに! へいわは! おとずれなぁい!
 各魔王で強さの上下が激しいので、無力化に関してはあっさり出来たり交渉したりも出来る。
 感想でも言い当てられてますが、ぼっちコボルトよりも弱い魔王も存在してます。
 人間が魔王に倒されてないのはそこそこに強い人間軍が頑張っていたり、人間を攻めてる間に自分の領地を奪われたり、他の魔王が親人類派だったりする。
 基本的には抵抗せずに貢物などで生き延びてる。
 今作で出てきた魔王様は転生者であり、魔王のレベルで言うならそこそこに高い位置の存在でもあります。筋肉は無いです。

>>勇者と聖剣と魔王
 まるでRPGみたいだぁ()
 魔王を挑み、倒す者としての称号。聖剣の担い手、というより、勇者の握る剣が聖剣になる。特別な力は無いけれど魔王を倒せる。
 今作の最初に女神様が言っていた聖剣は歴代の勇者達の握った剣であり、主人公君には適さない剣です。こっそり書き直しているので「今の聖剣」という事になってる事でしょう(自白)

>>主人公が勇者になったのは?
 愛です。
 理論や概念として言うのなら、女神様が主人公君の告白で祝福を与えました。女神の祝福を受けて、魔王に挑む者。そうつまり勇者です(脳筋理論)
 あとは正論を言う女神様が彼の存在を確定させた事で彼は勇者に成れ、そして自分だけの聖剣を手にして女神様を助けました。王道だな!()

>>女神様の祝福と主人公の告白
 答えを返してない感じですが、即落ち二コマよろしく祝福として答えを返してます。なお主人公は自分が勇者になったことも気付いてないもよう。剣も刃毀れ直っただけの普通の剣だし、多少はね。

>>続きは?
 ないです。

>>あとがき。
 まず、読了お疲れ様です。ありがとうございました。
 twitterで他の書き手様方と会話してたら女神様が完成して、悪ふざけで書いたら思いの外続きを求められたのか書きました。そして終わらせました。俺たちの冒険はまだ始まったばかりだ!
 この場をお借りして他の書き手様方に感謝をば。
 実際、女神様はこんな感じじゃなかったような気もします。たぶん。私の趣味が多分に含まれている事は間違いないでしょう。うん。
 きっとココまで読んだ私を知る読者は言うのです。「猫毛布っぽくない」とか言うのです。
 おそらく私っぽいと思うのは「女神様が黒幕で主人公君に一目惚れしたから転生させて一緒に着いてって魔王を倒させる。最後に女神様と主人公が心中する」みたいなモノでしょう。なんだコレは……たまげたなぁ。
 王道書きたかったんです。許してください!

 ともあれ、王道です。勇者が女神様を救い、魔王を倒す。王道だな!(女神様の筋力値は見ないものとする)
 転生者、というよりは転移じゃねぇか! と気付いたのは書いてから少ししてなのでそこらの設定のガバさは許して亭許して。

 そんな感じですかね。何かご質問などあればtwitterやコチラのメッセージボックス、感想など気軽にお尋ねください。
 読了ありがとうございました。お疲れ様でした。

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