High School Fleet ~封鎖された学園都市で~   作:Dr.JD

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どうも皆さんおはこんばんにちわ。
作者でござんす。

久しぶりの投稿だーーーー!!
ようやく最新話を上げられました。
お待たせしてしまって、申し訳ありませんでした。
ストーリーの構成を考えていたら、時間が掛かってしまいました(汗

長く話すのも何ですし、早速どうぞ。

※もうすでにお読みの方、まだ読んでない方にお伝えします!
念写の一部を追加しました!
よりいっそう読みやすくなったと思いますので、よろしくお願いします!

※すみません、一部だけ抜けている文章がありましたので、修正しました。
修正日:2017/12/27


第9話 First beginer

[First beginer]

2012年、7月19日、12;00;00

高校1年生 陽炎型航洋艦五番艦「晴風」 艦長

岬 明乃(みさき あけの)

茨城県 尾阿嵯(おあさ)町港湾 宇宙エレベーター・火星重力センター、2番ゲート

 

ゴウンッ、ガチャッ

私達の乗っているクライマーが宇宙ステーションに到着した。

発射した時と同じ振動で、クライマーが揺れた。

プシューッと音が鳴ってから、分厚い扉がゆっくりと開かれた。

 

ツアーガイド

「お待たせしました、宇宙ステーション・火星重力センターへ到着しました!これからはこちらで見学会を行いますので、皆様、お荷物をお忘れなきよう、ご注意下さいませ」

 

ワイワイガヤガヤ………………。

扉が開いて、乗客達が一斉にステーションへ流れ込んだ。

私達も例に漏れず、みんなと一緒に外へ出て行った。

ここに来て気付いたんだけど、ここの環境は地上に居る時と大差がないことだ。

やはり人が宇宙で活動するには、同じ環境でないといけないのだ。

天井を見上げると、まだクライマーの先が続いていて、だけどその先が見えなかった。

改めて、私は宇宙へ来た実感がようやく沸いてきた。

 

――――ステーションに着く直前の外の景色を見たけど、こりゃまた壮大だった。

ステーションの形状自体は、全体的に長方形で形成されていた。

私達が乗ってきたクライマーを、いくつも重ねて組み合わせて、まるでブロックのおもちゃの様だった。

ツアーガイドさん曰く、これはどれか一つの区画(ブロックと呼んでいた)が故障して、他の区画に影響が及ぼされる場合、すぐにパージするためにこの工法を用いたのだという。

安全性を確保するにはこの方法が一番とのこと。

ここへ来て、この世界の日本の技術力の高さに感銘を受けた。

 

………さて、みんなとの距離を少し置いて、私は蘭ちゃんに近付いた。

さっきから元気がないので、少し話を聞こうと思ったのだ。

他のみんなには心配を掛けないために、あえて距離を置いた。

 

岬 明乃

「ねぇ蘭ちゃん。ちょっといいかな?」

磯崎 蘭

「あっ、ミケちゃん………」

岬 明乃

「どうしたの?さっきから元気がないけど。もしかして宇宙に来たから、なにか病でも」

磯崎 蘭

「ち、違うの!ただ、その、何て言うか………」

 

慌てて否定するも、言葉が続かない蘭ちゃん。

無理に聞くのも嫌だから、別の方法で………。

 

岬 明乃

「もしかして、さ。蘭ちゃんの持つ感の鋭さと関係してる?」

磯崎 蘭

「えっ!?」

岬 明乃

「私の勘違いだったら良いんだけど、蘭ちゃんってさ、人の考えてる事が何となくだけど分かるんじゃないかなって思ったの」

磯崎 蘭

「えっ、な、なんで」

岬 明乃

「だって蘭ちゃん、私の考えてる事が分かりそうな発言してたし。ほら、覚えてる?私と蘭ちゃんが最初に出会ったときの事」

磯崎 蘭

「う、うん」

岬 明乃

「そこからかな。もしかしてこの子は普通の子とはちょっと違うんじゃないかなって」

磯崎 蘭

「………」

岬 明乃

「ごめんね、こんな事言って。でも蘭ちゃんが元気がないのは、いやだったから」

 

そう、これはただの憶測。

もしかしてを繋ぎ合わせただけのパズルを、とりあえず形にしただけだ。

根拠なんてない。

 

磯崎 蘭

「………ごめんねミケちゃん。まだ気持ちの整理が付いてないから、今は話せない。でもいずれは」

 

話すよ。

最後まで言わなくても、それは伝わった。

元気さも前より戻ってきたようだった。

 

岬 明乃

「うんうん、元気が少し戻ってきて、お姉さん安心だよ。でもホントに無理しちゃダメだよ?」

磯崎 蘭

「………ごめんなさい」

 

身体を抱き寄せて、蘭ちゃんの頭をそっと撫でる。

蘭ちゃんも身を任せて、同じように抱き締めてくれた。

これなら、大丈夫かな?

 

磯崎 蘭

「もう大丈夫だよ。ありがとう」

 

これは、どっちなんだろう?

私の心を読んだのか、会話の流れに従ったのか。

 

磯崎 蘭

「………」

トリエラ

「2人とも、何をボーッとしてるの?」

 

するとトリエラちゃんが私達の元へやって来ると、右手を差し出してきた。

どうしたんだろう?

 

トリエラ

「ステーションの機密保持のために、携帯電話やそこにあるカウンターに預けてくれってさ。だから、皆でいっぺんに行くよりも、私が代表して1人で行った方が、周りに迷惑掛けずに済むでしょ?」

 

そういう事か。

確かにこれだけの構造物を作ってるのなら、当然、秘密だってある。

機密保持のためならば、仕方のなかった。

 

岬 明乃

「あっ、そうだったんだ。ごめんね、話を聞いてなくて。はいこれ、お願いね」

磯崎 蘭

「お、お願いします」

 

私と蘭ちゃんの携帯電話を受け取ると、トリエラちゃんは受け取って、カウンターへ持って行った。

 

ツアーガイド

「………では皆様、全員お集まりですね?それではツアーを開始致します。改めまして皆さん、ようこそ。宇宙ステーション・火星重力センターへ!」

乗客達

「「「「「おおおぉぉ!!!」」」」」

 

テンションが上がった他の観光客も、一斉に雄叫びを上げた。

私達も続こうかなと思ったけど、完全に出遅れたので、機会を逃してしまった。

ま、まぁ下に居たときは場違いだったし、良いよね?

 

ツアーガイド

「ふふ、皆様の熱気がこちらまで伝わってきたところで、早速ですが当施設について簡単にご説明します。その後は自由に見学して貰って大丈夫です!それでは出発!」

 

ツアーガイドさんもテンションが上がって、彼女を先頭に私達も歩き始める。

うん、私もテンションが上がってきた。

 

岬 明乃

「蘭ちゃん、行こう!」

磯崎 蘭

「う、うん!」

 

蘭ちゃんと手を繋いでみんなの後に続いた。

するとすぐに翠ちゃんが近付いてくる。

 

名波 翠

「蘭、どうしたの?岬さんにベッタリくっついて」

磯崎 蘭

「あっ、翠………」

名波 翠

「すみません岬さん。少しの間だけ、蘭を借りて良いですか?用はすぐに終わりますので」

岬 明乃

「うん、蘭ちゃんの傍に居てあげて?」

名波 翠

「なら借ります。蘭、ちょっとこっち来て?」

磯崎 蘭

「う、うん」

 

翠ちゃんに手を引っ張られて、蘭ちゃんが慌てて付いて行った。

ただ気になることがあって、連れて行く時の翠ちゃんの表情が険しかった。

でも理由なんて分からないし、蘭ちゃんの様子は彼女に任せよう。

 

トリエラ

「なにー、明乃。あの子にフラれちゃったの?可哀想に」

岬 明乃

「べ、別にフラれたとかじゃないしっ。まだ告白もしてないしって、どうしたのトリエラちゃん?サングラスなんて掛けて」

 

背後からヒョコッと出てきたトリエラちゃんの顔に、サングラスが掛かっていた。

サイズがピッタリのそのサングラスの奥の瞳は、全然見えない。

なんだか迫力が増していて、少しだけ怖さを感じるくらいに、失礼だが似合っていた。

 

トリエラ

「ああ、これはここの照明が明るすぎるから、眩しくてサングラスを付けてるだけよ」

岬 明乃

「あー、確かにここは眩しいからね。エスコートしようか?」

トリエラ

「なに言ってるの。エスコートするのは………」

 

ギュッ

耳元で囁いたと思ったら、いつの間にか私の隣に立って右肩を抱いて寄せてきた。

抱き寄せる力は本当に強くて、私がよろけるくらいに強かった。

さっきの握力対決と言い、抱き寄せる力と言い、人は見かけによらないと改めて感じていた。

 

岬 明乃

「わわっ!」

トリエラ

「私の方だから、あなたは私の傍から離れちゃダメよ?いい?」

岬 明乃

「は、はいっ」

 

彼女のキレイな顔が目の前にあるのだから、ドキッとしてしまう。

その時にサングラスの奥にある瞳が少し見えた気がした。

2つの透き通った、青色の瞳が。

 

トリエラ

「なんちゃってね♪ほら、私なんかより前で皆が集まってるよ。私達も行こう?」

岬 明乃

「うん!」

ツアーガイド

「ではまず始めに、こちらの訓練施設からご紹介します。皆様、ガラス張りの中をご覧下さい」

 

私達の目の前にある分厚いガラスを注目する。

そこは訓練施設と言っているだけあって、かなりの大きさを誇る。

部屋がすっぽりと収まっている中で、異変が起きた。

どこから現れたのか、宇宙服を着た人が2人ほど現れたのだ。

プカプカと浮いているその人達は、どこかシュールな光景に見えるが、私達に向かって手を振っている。

そして床下からは、地面に固定された大きなエンジンが出てきた。

 

ツアーガイド

「皆様には、これから宇宙空間におけるステーション外部から応急修理している事を想定して、実際に修理する様子をご覧頂きます。それではエンジニアの方々、お願いします!」

 

ツアーガイドさんの号令でビシッと空中で静止して敬礼する2人を見て、私はちょっとだけ笑ってしまった。

普段全く見ない宇宙服だからか、自然と笑みが零れてしまう。

だけど次の瞬間には、笑みから驚愕へと変わっていった。

 

万里小路 楓

「まぁ、これは………」

磯崎 凛

「へぇ、実際にあんな風に作業するのか。メンテナンスだけでも一苦労しそうだなぁ」

綾瀬 留衣

「あの暗い防護服の上から、よくあそこまで出来ますね………」

 

同じく作業光景を見ていた3人も、それぞれの感想を口にした。

中で応急修理している2人は、故障箇所へそれぞれ位置についていた。

そこまでは普通だった。

だけど驚いたのは、その早さと正確さだ。

2人はまずカバーを外して、コードやら基板を傍に置くのだが、無重力空間ではどうしても浮いてしまう。

だから早急に修理を終えて、一旦飛んだ基板とコードを手で掴んで、納めて、そしてカバーで蓋をする。

1人はそれで完了したが、もう1人の修理が終わっていない。

機転を利かせたのか、修理を終えた人が相方に向かってレンチとドライバーを投げて、もう片方の人に渡す。

それを受け取った人は、またもさっさと修理を終えてカバーを施す。

この間、2分もしなかった。

 

ツアーガイド

「はい、タイムは2分14秒でした!もしこのステーションにトラブルが発生し修理する場面になったら、彼らが早急に修理します!なので皆様は安心して、当施設の見学をお楽しみ下さいませ!」

 

パチパチパチパチ………

施設内からおおーっと歓声の声が上がり、私も釣られて拍手した。

すごいなぁ、あんなにぷかぷか浮いてる状態で作業できるんだもん。

私だったらその場でクルクル回っちゃうだけで2分が過ぎそうだよ………。

 

万里小路 楓

「あの方達は、かなり器用な方々でしたね。息も合っていて、手際も良くて」

磯崎 凛

「あれくらいの腕なら、いざって時に安心できるな」

トリエラ

「サーカスショーを見てる気分になったね。途中で工具を投げて渡すところとか」

磯崎 凛

「おー、その例え上手い。互いでペア組んで………って、そう言えば蘭と翠ちゃんはどこへ行った?」

岬 明乃

「えと、その2人なら調子が優れないから、少し席を外しましたけど」

磯崎 凛

「そうなの?あ、その2人が来たぞ。蘭、翠ちゃん、大丈夫かい?」

 

少しだけこの場を離れていた2人が戻ってきた。

なんとも表現しがたい表情をしていた2人が、ようやく口を開いた。

 

名波 翠

「大丈夫ですわ。宇宙へ初めてやって来て、調子が少し悪くなっただけです。ね?蘭」

磯崎 蘭

「そ、そうだよ!地上で過ごしてる時と全然違うんだし、もう大丈夫だよ!」

トリエラ

「そう?何かあったらお姉さんに言いなさい?」

磯崎 蘭

「は、はい。その時はお願いしま――――」

 

バチンッ

最後まで言いかけたところで、突然、全てが闇に飲まれた。

闇に包まれたと言っても、辛うじて地球からの明かりによって、凝視していれば何とか見える。

他の乗客達もざわつき初めてはいたけど、パニックにはなっていない。

この僅かな光のおかげだろう。

もしもこれが完全に真っ暗なら、瞬く間にパニックとなるだろう。

――――それはさておき、今の状況について分析する。

だけど結論は早く出てしまった。

もしかして、これって………。

 

磯崎 蘭

「て、停電?」

磯崎 凛

「みんな、その場から動くな!足下が見えない以上、無闇に動くのは危険だ!」

男性乗客

「なんだ、どうしたんだ!?」

軍人っぽい乗客

「お、おい!暗視ゴーグルを!」

ツアーガイド

「皆様、落ち着いて下さい!これは一時的な停電です!もう間もなく予備電源が作動します!ですので皆様、くれぐれも落ち着いて、その場から動かないようにして下さい!」

万里小路 楓

「あの、岬艦長、お尋ねしたいことがあるのですが」

岬 明乃

「?ど、どうしたの?」

万里小路 楓

「………そう言えば、副長はどちらにいらっしゃるのでしょうか?先程から姿が見えないのですが」

岬 明乃

「………えっ?」

 

そう言えば、先程からシロちゃんの声が聞こえないと思ったら、まさかこの場に居なかった?

確かめたいけど、周りはみんな真っ暗で誰がどこに居るのか、全く分からない。

なんだか嫌な予感が急速に膨れあがっていった。

気が付くと、私は大声でその主を呼んでいたのだ。

 

岬 明乃

「シロちゃーん!どこにいるの!?居たら返事して!」

 

だけど返ってきたのは、ざわめく乗客達の声だけだった。

この事でさらに不安が、風船のように大きくなっていく。

嫌な汗も沢山出てくる。

携帯電話を出そうにも、さっきカウンターへ預けたままだと気付く。

これじゃあ、連絡を取ることが出来ないっ。

完全に八方塞がりだった。

 

岬 明乃

「シロちゃん!お願い、返事して!」

万里小路 楓

「落ち着いて下さい岬さん!この状態で動くのは危険です!」

岬 明乃

「で、でも!」

磯崎 凛

「岬さん、落ち着くんだ。不安なのは分かるが、ここで慌てても事態は好転しないよ。だから落ち着いて」

岬 明乃

「………っ」

磯崎 蘭

「ミケちゃん、電力が復旧するまで待ってよ?さすがにこんな暗い中じゃ、動けないし」

 

隣で囁いてくれる蘭ちゃんの声も、今は焦りの中で消えてしまいそうだった。

何も出来ない自分が、もどかしかった。

シロちゃんの安否さえも分からない自分が、無力だと悟った。

 

――――ツアーガイドさんの言う予備電源も、なかなか復旧せずに数分が経とうとしていた。

ここで乗客達がパニックを引き起こし始める。

 

男性乗客

「おい!いつになったら照明は元に戻るんだよ!!」

女性乗客

「さっき預けた携帯電話、返してよ!携帯なら明かりを点せられるから!」

ツアーガイド

「それは出来ません!ステーションの機密保持条約に則らないといけません!この混乱に乗じて、ステーション内部を撮影されたら、機密が外部へ漏れてしまいます!」

男性乗客

「なにっ、俺らがスパイ紛いな行為をするってのか!?冗談じゃねぇ、なら俺はさっさと帰らせて貰うぞ!」

ツアーガイド

「なっ、お客様困ります!明かりが僅かにあるとは言え、動かれては――――」

男性乗客

「うるせぇ!こんな危険な場所に居られるか!」

??????

「まぁまぁ、少し落ち着いて下さい。動くにしろ留まるにせよ、こんな暗くてはどこが出口なのかは分からないでしょう?なら動き回るのはオススメしませんよ」

男性乗客

「た、確かにそうだけどよ、いつまでもここに居るわけにもいかねぇだろ。って言うかあんた誰だよ?」

??????

「これは申し遅れました。私は海上自衛隊所属、角松洋介(かどまつようすけ)と申します」

男性乗客

「えっ!?あんた海自の人だったのか。そりゃ悪かったな」

 

海上自衛隊、の角松さんと名乗った彼を見て、今まで乱暴口調だった男の人が急に大人しくなった。

ワイシャツにズボンと普通の格好だが、どこか民間人とは違うオーラを感じていた。

体格も一回り大きく、服の上から見てもかなり鍛えられている。

海上自衛隊………うん、聞いたことがない。

名前に海上が入ってるって事は、私達の世界で言うブルーマーメイドやホワイトドルフィンの様な位置付けなのかも知れない。

 

万里小路 楓

「海上自衛隊という組織は、聞いたことがございません、岬さん」

岬 明乃

「うーん、ホワイトドルフィンかブルマーみたいなものかな?」

万里小路 楓

「まぁ!もしそうでしたら、私達の先輩になる方々ですね。あのお方は、海の平和を守るのですから」

 

こちらの心境を悟ったのか、万里小路さんが耳元で囁いてくれた。

万里小路さんの言葉に、私はハッとした。

私達の先輩、か。

もう一度、チラリと角松さんの方を見た。

ツアーガイドさんと色々と話している。

とても落ち着いている人で、時折、男性特有の笑みを浮かべていて、周りの人達を安心させているようだ。

その姿を、ブルーマーメイドと重ねてみる。

………………うん、私が目指している姿と、全く同じだ。

助けるべき人達が居て、不安を抱えている人々を取り除いて。

そして、会いたい人達の元へ還していく。

まさに、理想的な姿そのものだった。

 

??????

「よう洋介、この後どうするって?」

角松 洋介

「康平か。ツアーガイドと話したんだが、復旧する見込みはあるそうだ。だから俺達が配電室に行って修理する必要はないそうだ」

??????

「そりゃ良かった。にしても、何が原因で停電が起きたんだ?」

角松 洋介

「………あまり大きな声で言えないが、彼女が言うには配電盤が爆弾で吹っ飛ばされていたようだ」

??????

「マジかよ?でも、爆発音なんて俺は聞いてないぜ?」

角松 洋介

「そりゃそうだ。その配電盤があるのはこことは別の区画なんだ、聞こえないのは当然だ」

 

途中から他の乗客達に聞こえないように、そっと耳元でそう呟いていたけど、近くに居た私達には聞こえてしまった。

何やら物騒な単語が出てきて、身が強ばってしまった。

そうだったんだ。

爆発が違うところから聞こえたなら、確かに聞こえないね。

でも、誰が何のために爆弾なんて設置して、爆発させたんだろう?

 

角松 洋介

「そう言えば菊池は?さっきから姿が見えないが?」

??????

「トイレだよ。さっきツアーガイドに聞いて、非常灯を頼りに行ったよ」

角松 洋介

「非常灯?非常灯があるなら、なんでさっさと非常灯使ってエレベーターまで誘導して、客を下の階へ降ろさないんだ?小規模とは言え、爆発があったんだぞ」

??????

「理由は知らないが、エレベーターに通じる非常灯が、なぜか点灯しないから、真っ暗のままじゃ動くに動けないんだとよ」

角松 洋介

「大丈夫かこの施設。まだ設備が整ってないんじゃ――――」

 

………壊れた非常灯、小規模の爆発、そしてシロちゃんの安否不明。

いくつも重なる不可解な要因に、やはり焦りや不安を感じる。

ま、まさかっ――――

 

岬 明乃

「その爆発に、シロちゃんが巻き込まれたんじゃ………!」

??????

「いや、その爆発で怪我人が出たなんて話は聞いてないぜ。だから君の連れが爆発に巻き込まれたなんて事はないから安心しな」

 

声に出ていたのか、私はハッと口元を押さえた。

そばで話していた彼に聞こえていたのか、私の独り言に答えてくれたようだ。

 

岬 明乃

「そっか、怪我人は出てないんだ。よかった………」

万里小路 楓

「貴重な情報提供、ありがとうございました。失礼ですが、お名前を教えて下さいませんか?恩人の名前を聞いておきたいのです」

??????

「おっと、こりゃ失礼。俺は尾栗康平(おぐりこうへい)って言います。こいつと同じで、海上自衛隊所属してるんだ、よろしくな」

 

隣にいる角松さんに肘を付きながら名乗り出る。

ニカッと笑う姿が似合っていて、でも雰囲気はしっかりとした大人そのものだった。

この空気に居たからか、どこか頼りになる人というか、安心できる人というか。

これが、海上自衛隊の人達が持ってる器なのだろうか?

私の憧れる、同じ海を守るブルーマーメイドの人達と同じ――――

 

??????

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

突如として鳴り響く男性の悲鳴。

心拍数が一瞬で跳ね上がり、身体が強ばってしまう。

あまりにも唐突な出来事に、周囲の人々にも戦慄が走った。

あ、これはやばい。

このままじゃ………。

 

女性乗客

「えっ!?な、何今の!?」

外国人乗客

「お、男の悲鳴だ!男の悲鳴が聞こえたぞ!?」

男性乗客

「こっ、こんなところに居られるか!!おい!俺達をさっさとここから出せー!!」

 

案の定、乗客達がパニックに陥った。

1人の悲鳴は連鎖し、周囲の人々を恐怖に陥れる。

恐ろしいのは、そこが全く悪意がなくてもそれが人々の本能を刺激して、行動として突き動かしてしまうことだ。

だから、この後に起るのは………。

 

乗客達

「「「「うわぁぁぁぁ!?」」」」

 

多くの人々が我先にと、ここから離れるために互いを押しつけ合っていた。

非常灯が点灯している通路を走る者もいれば、非常灯が故障していて真っ暗な通路へ逃げる者もいる。

点灯している方へ逃げているならまだしも、真っ暗な方へ逃げるなんて!

 

角松 洋介

「皆さん!落ち着いて下さい!」

尾栗 康平

「お、おい!落ち着け!ここでパニックになったら余計に――――」

??????

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!?」

 

今度は聞き覚えのある悲鳴が周囲を包んだ。

こ、この叫び声は!!

 

岬 明乃

「この声、蘭ちゃん!!」

磯崎 凛

「くそ!蘭っ、どこにいるんだ!?返事をしろ!」

綾瀬 留衣

「蘭!蘭!どこだ!」

 

………いつの間にか居なくなっていた蘭ちゃんに、私達は全く気付くことが出来なかった。

どうしていなくなったんだろう?

こんな真っ暗な中なのにっ。

疑問は尽きなかったけど、私はこの真っ暗の中で、蘭ちゃんの場所へ向かいたかった。

でも、こんな悪環境では無闇に動けなかった。

下手に動けば、二次災害が起きかねない。

くっ、悔しい。

シロちゃんだけじゃなく、蘭ちゃんの元にも行けないなんて………!!

 

角松 洋介

「あっ、明かりが点いたぞ!」

岬 明乃

「っ!シロちゃん!蘭ちゃん!」

万里小路 楓

「あっ!待って下さい岬艦長!」

 

ようやく修理が終わったのだろう、明かりが点いた途端、私はその場から走り出していた。

万里小路さんの静止も聞かず、以前のように飛び出した。

戸惑う人々の中を掻き分けて、シロちゃんと蘭ちゃんを捜し回った。

そしたら、広い場所へ出てきた時――――蘭ちゃんとトリエラちゃんの姿があった。

蘭ちゃんは壁際に横たわっていて、グッタリとしていた。

その彼女をトリエラちゃんは介抱をしている2人に、私は駆け寄っていった。

 

岬 明乃

「2人とも、どうしたの!?どこか怪我でもしたの!?」

トリエラ

「………この子がそこから落ちそうになってるところを、私が咄嗟に手を掴んで引き上げたの。いっつ!」

岬 明乃

「だ、大丈夫?腕、怪我したの?」

トリエラ

「え、ええ。さっきこの子の兄と握力対決した時と、今引き上げた時のダメージが腕と肩に集中しちゃったみたいで、痛みが出てきちゃって………」

 

そこからの部分で、私は目の前の吹き抜けを一瞬だけ見つめた。

そこはエントランスのような場所で、下には大勢の観光客が点在している。

………もしここから落ちてたら、この高さから落ちたら蘭ちゃんは――――

そこまで考えて、頭を振り払った。

最悪な場面を想像しそうになるも、そうならないように助けてくれたトリエラちゃんに感謝しながら彼女の様子を伺った。

トリエラちゃんは、時折、顔を歪めながら右肩を痛そうに抑えている。

そう言えば、さっきそんな対決してたんだっけ?

かなり痛そうにしていたけど、それでも蘭ちゃんを引き上げるんだから、相当な腕力あるって事だよね?

改めてすごいなぁ、と感じながら、トリエラちゃんは続けた。

 

トリエラ

「この子は安心しきったのか、気を失ってる。でもどこも異常はなさそうだから、大丈夫だと思うよ」

岬 明乃

「ほっ、良かった、どこも怪我がなくて………そうだ、シロちゃんを見なかった?さっきから姿が見えなくてっ」

トリエラ

「えっ?シロちゃん?いえ、知らないわ。ここはいいから、あんたはその子を探しに行ったら?」

 

私はコクリと頷いて、トリエラちゃんをその場に任せてそこを後にした。

トリエラちゃんも知らないって事は、ここには居ないと思うっ。

シロちゃん、どこに居るの!?

私は居そうな場所を考えたけど………。

ダメだ、焦りすぎて考えがまとまらない!!

とりあえず近場から探し出そうと決心した時――――通路の奥から人だかりを見つけた。

だからそこへと足を進める。

も、もしかしたら――――

 

岬 明乃

「あのっ、すみません!通して下さい!」

 

人々の隙間をまたもかいくぐって、騒ぎの中心となる場所へ赴いていく。

するとそこは、どうやら男子トイレから続くようだった。

数人の大人が出入りしているところを見るに、間違いなさそうだった。

そして恐る恐るトイレ内を見てみると――――

 

岬 明乃

「えっ………シロ、ちゃん?」

 

消えそうな声しか、出てこなかった。

なぜならそこには、壁際に倒れていたシロちゃんの姿を見たからだった。

――――身体中に血を沢山、付けた状態のシロちゃんを。

全く動かない彼女は、まるで………死んでいるようで。

力なく首が垂れている姿は。

頼りになる彼女の表情は、今は何も映し出してなくて、まるで――――

 

岬 明乃

「――――」

 

言葉にならない叫びが、全身を覆い尽くしていた。

後悔の波が押し寄せて、私を殺しに掛かってくるようにも感じる。

あの時、ずっとシロちゃんの傍に居ていれば。

停電したあの時、すぐにシロちゃんを探しに行っていれば。

今日の宇宙エレベーター見学ツアーに参加さえしていなければ。

グルグル回って、後悔の渦が私を飲み込んでいく。

シロちゃんに触れようとしたけど、後ろから誰かに抑えられて、それでもシロちゃんを触れようとするのを止めなかったからか、誰かに羽交い締めにされて。

その後の事は、全く覚えていなかった。

なぜなら、いつの間にか意識を無くしていたのだから。

これが夢なら良かったなと、何度も思いながら、私は現実との世界との繋がりを絶った。

 




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