High School Fleet ~封鎖された学園都市で~   作:Dr.JD

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――――人間の偉大さは、恐怖に耐える誇り高き姿にある――――プルタルコス

どうも皆さんおはこんばんにちは。
作者であります!

6月中に上げるのは、叶いませんでした。
申し訳ありませぬ('・ω・')
今回も引き続き戦闘念写が入ってきます。
そして今回から、本ストーリーの裏の顔がちょっとだけ覗きます。
ある人物の記憶が一部だけ蘇り、そして覚醒します。

では早速どうぞ。




第20話 マーメイドは微笑まない~プラットフォーム奪還戦Ⅱ~

2012年、7月23日、13;03;45

高校1年生 陽炎型航洋艦五番艦「晴風」 艦長

岬 明乃(みさき あけの)

日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 近海

 

兵士1

「こっちに負傷者が出た!担架を持ってきてくれ!すぐにだ!」

兵士2

「負傷者はすぐ近くの救命ボートで脱出させろ!動ける奴は隣のプラットフォームから脱出するんだ!」

研究員1

「持てる研究資料だけ持つんだ!君、そんな大きな荷物は置いていくんだ!」

研究員2

「しかし、これは長い年月を掛けてようやく結果が出そうなデータなんです!置いて行くには!」

研究員1

「君が死んだら元も子もないだろ!とにかく、必要なモノだけを持つんだ!!早く!」

 

現場へ到着した時、もう既に地獄図絵でした。

晴風を近くへ止め、必要最低限の乗組員だけを引き連れました。

あまり多くの子達を連れていくと、かえって混乱すると思ったからです。

こう言った多くの人々が避難させる際は、こちらの人数は可能な限り抑えます。

 

プラットフォームへ乗り込んだのは、

野間 マチコ、松永 理都子、姫路 果代子、立石 志摩、西崎 芽依

そしてクウェンサー・バーボタージュ君。

 

上記の子達だと、戦闘の要として役割を担っているから、彼女達に出てもらいました。

今はもう戦闘もないので、救助へ向かわせました。

 

艦橋組は私、ココちゃん、リンちゃんが残ります。

………私達も一緒に乗り込んでしまうと、いざ指揮が必要な時にすぐに動けなくなるので、残念ですが晴風で待機します。

火災炎上中のプラットフォームから視線を逸らすと、無線が入りました。

心拍数が僅かに上昇しますが、ココちゃんとリンちゃんを不安にさせないように、極力冷静な態度で臨みます。

 

??????

『――ら、MSF司令部!応答――!』

 

無線からは雑音が入りながらも、何とか会話が可能なようです。

聞き取れない部分が一部あるけど内容は多分、

”こちら、MSF司令部!応答せよ!”かな?

 

岬 明乃

「こちら、えと、レスキュー隊の者です!皆さんを救助しに参りました!」

 

とっさに、自分達の身分を偽る事に疑念を抱いたのか、ココちゃんとリンちゃんが互いに目を見合わせつつ、私を見つめてきました。

………現状の悲惨さを目の当たりにして、相手に正直に自分達の身分を明かして良いのかまでは考えてませんでした。

深く反省しつつも、相手の声に耳を傾けます。

 

??????

『――か、君達が――なのか?思った以上に―――』

 

またも雑音が入り聞き取れませんでしたが、どうやら相手はこちらに驚いているようです。

 

??????

『おっと、失礼――。俺はMSF副司令の―――――ミラーだ」

 

相手が素性を明かします。

だから私は、MSF副司令官であるミラーさんに答えます。

 

岬 明乃

「駆逐艦艦長の岬明乃です!早速ですが、救助の手が回ってない箇所を教えてください!」

 

航洋艦と名のならかったのは、この世界では存在しない艦種だから。

少しでも混合を紛らわすために、こちらの世界の用語に合わせます。

しかし駆逐艦と名乗ったのがまずかったのか、相手は更に動揺しているようです。

 

ミラー

『ん?レス――――なのに、駆逐艦の艦長――?まぁいい、それは後だ!』

 

惨状を前にして、すぐに冷静さを取り戻すあたり、さすがはこの施設をトップであるなと感心します。

 

ミラー

『避難は―――9割は完了――いる!あとは避難に当たっている兵士と俺達―――!だから君達の船に乗せてくれれば完了だ!居場所を教えてくれ!』

岬 明乃

「了解です!場所は――――」

 

場所を伝えようとして、結局はそれは叶いませんでした。

なぜなら、目の前のプラットフォームが大爆発を引き起こし、艦橋のガラスが割れたからです。

 

岬 明乃

「!?」

納沙 幸子

「きゃあぁぁぁ!」

知床 鈴

「ひ、ひいぃぃぃ!?」

 

突然の事だったので、驚いて目を閉じ、両腕で飛んでくるガラスの破片を防ぎます。

だけど全ての破片を防げず、顔や腕、両足にいくつか突き刺さります。

 

岬 明乃

「ぐっ!?」

 

あまりの痛さに、私は思わずその場で崩れ落ちてしまいます。

手足はビリビリと痺れるように痛み、それが続くような錯覚を起こし、やがて吐き気もしてきます。

だけど、意を決してゆっくりと目を開眼すると――――

 

知床 鈴

「み、岬さん!」

納沙 幸子

「か、艦長!!大丈夫ですか!?」

 

鈴ちゃんが、ココちゃんが私に駆け寄って来てくれました。

2人を見上げると、擦り傷がいくつかあるだけで、重傷は負ってないようで、安心します。

そして私の身体を見下ろすと。

 

納沙 幸子

「!!み、岬さん、その傷………!い、急いで美波さんに!」

知床 鈴

「ひっ!!」

岬 明乃

「だ、大丈夫、だよ」

 

ぎこちない笑みを浮かべると、私は力を振り絞って、何とか立ち上がります。

若干ふらつきながら、近くの物に掴まります。

私は――――血がだらだらと出る右肩に手を当てつつも、無線機を握ろうとして、そこで気付きました。

無線機は一目で見てわかるほど、壊れてしまっていたのです。

奥歯をぎりっと噛み締めると、ココちゃんに振り返ります。

 

岬 明乃

「ココ、ちゃん。伝声管でつぐちゃんに、知らせて。艦橋の無線機が壊れたから、そっちを借りるよって」

納沙 幸子

「でもその前に、艦長の手当てが先です!!」

岬 明乃

「だから、大丈夫だって――――」

納沙 幸子

「全然大丈夫じゃありませんよ!!だって、艦長の頭から、こんなに血が出てるのに!」

岬 明乃

「えっ?」

 

ココちゃんは耐え切れず、涙を流しながら手鏡で私を映してくれました。

………ココちゃんの言う通り、私の頭からかなりの量の血が出てしまっていました。

出血した血は、顔の左半分を埋め尽くし、それに伴い左目も開かない状態でした。

まるでゾンビ映画に出てくるような風貌に、私は愕然としてしまいます。

 

ああ、そうか。

だからこんなにも、立つのに苦労したんだ。

片目が開かないから、平衡感覚も認識できないから。

 

 

 

 

 

 

 

だ っ て 左 目 が 使 い 物 に な ら な い か ら

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンッ

 

その事実を認識した途端、私の世界が真っ赤に染まりまシタ。

周囲のオトもみんな消エ、あれだけ騒がしかったのに、マッタク聞こえません。

 

ドクンッ、ドクンッ

 

それよりも、シンゾウノ音がウルサイ。

ココチャんやリンちゃんも私のカタヲユスッテくるが、ワタシハそれを払いノケル。

 

知床 鈴

「――――?」

納沙 幸子

「―――!―――!」

 

ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ

 

フタリガなにかイッテイルガ、マッタクミミニはいらない。

ソンナコトヨリモ、シンゾウノバクバクとしたオトがウルサクテしょうがナイ。

 

納沙 幸子

「岬さん!!」

 

ガシッ。

普段の私のヨウスガ違うのに驚いたのか、ココちゃんが私の背後から取り押さえようとシマス。

や、やめ、て………。

 

岬 明乃

「――――――――!!」

 

そこで、私ノナカにある凶暴な力ガワイテキテ――――

彼女の意識は、そこで途切れた。

 

 

2012年、7月23日、13;16;43

高校1年生 陽炎型航洋艦五番艦「晴風」 砲術員

武田 美千留(たけだ みちる)

日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 近海 海上プラットフォーム『司令塔 第2エリア』

 

武田 美千留

「はぁ、はぁ、はぁ………ぐっ」

 

私は複雑に入り組んだパイプや通路を止まらずに、そのままのペースで走り続けていた。

そのせいか、息が途切れかけるが、止まるのもまずい。

マスクをしているから余計に息が曇り、ガラスが湿って前が見づらくなる。

本当はマスクを外したいけど、周囲に有毒ガスが充満しているため、無闇に外すのもまずい。

訓練課程の一環で特殊部隊風の隊服を身にまとっている。

それよりも。

それよりも身体中に出来た擦り傷や火傷が痛んでしょうがない。

だから私は、危険を承知で一度、物陰に隠れて傷の手当てをする。

痛む傷を我慢しながら、ふと、つい数刻前の出来事を思い出していた――――

 

………私は順子と光とで、このプラットフォームで行われる射撃訓練を受けていた。

岬艦長の紹介で、町長と知り合いになり、どこか訓練出来る場所がないかを尋ねた。

すると、渋々だがここの事を聞いてその情報から、私達はこのプラットフォームへ赴いた。

 

まぁ、なんで射撃訓練なんて参加したかったのかと言うと………もっと、もっと強くなりたかったから。

肉体的にも、精神的にも。

だからこの情報は渡りに船だった。

なぜなら、射撃訓練だけでなく、戦闘訓練も受けられるからだ。

ならば話は早い。

すぐに行くと返答すると、2人も行きたいと言い出したのだ。

その時、私はすごく焦った。

だって、私が強くなりたかったのは、この2人ともう1人………のために自分に課した訓練だったからだ。

ああ、勘違いしないでほしいんだけど、晴風クラスの友達も当然、力になりたいと思ってる。

大切な人に優先順位を付けられる程、私は勇気を持てなかった。

 

だけどこの2人と、もう1人を守る気持ちは、人一倍も強かった。

………理由は今は言えないけど、次こそは。

次こそはあの人のために。

 

話は変わるけど、途中までは光と順子、あと口の悪い不良のそばに居たのだが、暴走した月光の襲撃を受けてしまい、散り散りになってしまった。

合流したいけど、皆がどの位置にいるのかが分からないため、それは望めない。

 

武田 美千留

「うっ、ぐ!!」

 

唐突な痛みに顔をしかめる。

傷の手当てをしていると、傷口から血が流れ出し、痛み出したのだ。

傷口を抑えると、フラフラと立ち上がる。

いつまでもこんな場所で立ち止まっていたら、またいつ奴に追い回されるか――――

 

武田 美千留

「っ!?」

 

回想に溶け込んでいたら、頭上から物音が聞こえた。

真上を見上げると、私の顔から血の気が引くのを感じられた。

そこには、器用に両足を使って、壁に張り付いている”月光”が私を見下ろしていた。

 

武田 美千留

「嘘でしょ!?くっ!!」

 

するとカメラで私の姿を捉え、そしてその巨体を私目がけて落としてきた!

 

武田 美千留

「ぐっ!!」

 

間一髪のところでその巨体から回避すると、ドスンッ、と大きな音を出しながら着地する。

あの巨体の下敷きになったらと思うと、私は身震いするが、そんなのは後で良い。

私は月光を真正面から捉えると、月光もこちらを振り向く。

 

ズキリッ

 

無理に回避したせいか、傷が再び痛み出す。

だけどそんなことを構っていられるほど、楽観視できない。

その証拠に。

案の定、月光が先手として猛ダッシュして来た。

どうやらこっちの事情はお構いないみたい。

 

武田 美千留

「!!」

 

私も、血迷ったのか月光に向かって駆け出していた。

もうどこに逃げても追ってくるなら、もういっその事、立ち向かった方が生き残れるかもしれない。

そう身体が勝手に判断したのかもしれない。

内心で呆れていると、月光は次のアクションで右足を繰り出し、私を蹴飛ばそうとするが――――

 

武田 美千留

「ふっ!」

 

私はそれを前回り受け身で回避し、月光の両足の間を滑り込む。

そして素早く立ち上がると、担いでいたライフルを構え、月光の両足に撃ち込む。

高速で飛ぶ弾丸は月光の両足に殺到していく。

2発くらい外したけど、ほとんど命中し、両足から緑色の液体が漏れ出した。

………あの不良男が持ってた端末に送られたデータによると、あの月光の両足は生体パーツだ。

なら弾を撃ち込めば、いずれかはダメージに耐えきれずに破損する。

だけど――――

 

武田 美千留

「くっ、5.56ミリを撃つ程度じゃあ、あのパーツにダメージは与えられないか!!」

 

対して、悠々と巨体をこちらへ向ける月光。

両足に僅かなダメージしか与えられず、思わず舌打ちする。

これは、RPG並の破壊力を持った兵器でないと、太刀打ちできない。

何か有効な兵器がないかどうかを探す。

すると近くの巨大なタンクに目が行った。

”OIL TANK”

 

――――あれって確か、司令部で一度、チェックされるオイルタンクだよね。それから各プラットフォームに送られるから………!

そう表記されているのを見て、すぐに閃いた。

すぐそばには海。

ドアが開いたままのトラック。

 

私はライフルの残弾を素早くチェックする。

うん、行ける!!

 

武田 美千留

「お願い、行って!!」

 

私は走りながらライフルを撃った。

狙いは、オイルタンク本体。

カンカンッ、と乾いた音が何発か響くと、やがてオイルタンクに小さな穴が空く。

そこからオイルが少しずつ漏れ出していき、やがて月光の足下まで到達する。

ここで私はドアが開いたままのトラックへ乗り込んだ。

幸いにもキーは指しっぱなしで、回したらすぐにエンジンがかかった。

その間にも、月光はオイルによって足を滑らせ、上手く立ち上がれないでいた。

その姿に滑稽に思いながらも、私は思いっきりアクセルペダルを踏んだ。

 

巨大な車体が月光へ向かって突進していく。

そう、これは月光を海へ突き落とすための作戦だ。

後は月光に体当たりをする寸前で飛び降りれば、作戦完了だ。

もう既に目の前に月光が迫ってきたが、ここでトラブルが起きた。

 

武田 美千留

「っ!?」

 

トラックが地滑りを起こしてしまったのだ。

月光の回りにはオイルが漏れていたのだから、その上を通過するのだから当然と言えよう。

だけど月光をいち早く倒したいがために、問題点を頭の隅に追いやってしまった!

そして考える間もなく、トラックはやがて月光へ激突した。

 

――――考えてるヒマはない!もう飛び降りよう!

 

激突した衝撃で視界が歪んでいたが、アドレナリンが過剰分泌されたせいか、周囲の世界がスローモーションしている錯覚に見舞われた。

恐怖なんて感じている余裕さえない。

何とかトラックから飛び出したけど、当然、受け身なんてまともに取れるはずもなく、地面へ激突した。

 

武田 美千留

「がはっ!!」

 

背中から激突し、何度もバウンドする。

ぐるぐる回る視界を目にしながら、両腕で何とか自身の身体を守ろうとする、が。

ようやく止まったところで、私は全く動けなかった。

身体中がズキズキと痛み、指一本も動かせない。

多分だけど、複雑骨折、してるよね………。

息をするのも、かなりの苦痛を伴う。

呼吸も乱れ、胃の中身が逆流してしまうけど、胃液しか出てこなかった。

泣き叫びたい衝動に駆られるけど、生憎、そんな似たような場面なんて、既に何度も経験済みなのだ。

簡単に泣いてなんてやる、ものか!!

 

歯を必死に食いしばって、辛うじて動かせる左腕を前へ突き出しながら、身体を匍匐前進させる。

その間にも身体中が悲鳴を上げるが、私は構わず前へ進み続けた。

この目で、この目であいつが海の底へ沈んだのを確認しない限り、安心できない!

その一心で、私は左腕に力を込め続ける。

 

武田 美千留

「はぁ、はぁ、はぁ………あ、いつ、は?」

 

やっとの思いで階下が見える場所へと着いた。

そこで力尽きたのか、頭と左腕を出した状態で階下へ広がる海を見つめた。

海面にはプラットフォームから投げ出された廃材やボートなどが、虚しく徘徊している。

その中に、大小様々な気泡が浮かんでいるのが見えた。

ここで、月光が落ちた、と判断する。

 

武田 美千留

「はぁ、はぁ。うぐっ、ようやく、あいつを倒せた………」

 

ようやく月光を沈黙させることに安堵する。

そのせいか、痛みは先程よりも大分薄れてきていた。

仰向けになってマスクを取り外して、顔から網状の布を脱ぎ捨てると、今度は反対の広がる青空へ目を向ける。

黒煙や燃え盛る海上構造物を除けば、今日は満点の青空だ。

思いっきり空気を吸うと、肺が酸素によって満たされ、全身に行き渡る。

たったこれだけなのに。

たったこれだけで、生きていると実感できてしまう。

それがなんとなく嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。

 

――――自分がなんでここまでして、危ない橋を渡って、命がけで戦わなくてはいけないのか。

そんなちっぽけな争いなんぞどうでも良くなりそうな一言を思い浮かべると、私に変化が訪れる。

両目の瞼が徐々に重みを増していくのを感じる。

身体も言うことを利いてくれないようで、ただ、その身を任せるしかない。

と、思っていたが。

 

武田 美千留

「近くに救命ボート、ないかな。これ以上は、ほんとにきつい………」

 

周囲に目を凝らすように顔を上げる。

が、唐突に彼女に影が落ちてきた。

それと同時に。

 

ドスンッ

 

私のそばで、何か巨大な物体が上から落ちてきたような音と揺れが、私に降り注いだ。

――――私はその正体に気付くと、頭の中が真っ白になった。

そこには、私と対峙するかのように月光が立っていたのだ。

 

武田 美千留

「………は?」

 

私は、自分が見ている光景をすぐに受け取れなかった。

いや、理解できなかったと表現するのが正しいか。

だって先程倒したはずの月光が、なぜ自分の目の前に鎮座しているのか、疑問が湧く。

しかしよく観察してみると、この月光、足の部分が縦に亀裂の様な傷が入っている。

その傷から、液体が漏れ出している。

さらに、この月光はボディの所々が濡れていた。

これらの情報を基に考えると――――

 

武田 美千留

「この月光、さっき海面へ落ちたはずの月光だって言うの?」

 

そう口にすると、月光はその問いに答えるように、牛のような鳴き声を発する。

………どうやら私の考えは当たっているようだった。

それにしたって、色々と規格外すぎるでしょ、この機体。

なんて呑気な考えが浮かんでいた。

 

私は今、怪我の影響でその場から動けなかった。

両足は引きずらないといけないし、怪我したところは両手の指の本数を軽く超してるし、傷口もズキズキと痛み出す始末。

そう感じた途端、命の危機に瀕している事態を再び察知した。

とっさに、手元にあったライフルを月光に向けて、発砲するために引き金を引くが。

出てきたのはカチッ、カチッと虚しく弾切れを知らせる音だった。

 

武田 美千留

「っ!?た、弾切れ!?う、嘘でしょ!?」

 

唯一、頼りにしていたライフルも、弾がなければただの重りにしかならない。

投げ捨てると、私は身体を引きずりながら、後ずさる。

だけど背後は海面であり、逃げ道にならない。

ここから海面まではそれなりの高さがある。

ダメージを負ったこの身体が、飛び込んだ後でも問題なのかも分からないのだ。

月光も先程の攻撃を受けたからか、武器さえ持っていない私を必要以上に警戒しているように見える。

さすがは、学習機能を有してるAIを積んだ機体だこと。

クソが。

 

武田 美千留

「………っ」

 

手持ちもない、身体も自由に動けないし、さらには逃げ場もない。

仲間や応援だって期待できない。

相手の不具合に関しては以ての外だ。

まさに八方塞がりだった。

――――私、ここで死ぬのかな。

光や順子は、無事に逃げられたかな。

月光がこちらへゆっくりと近付いてくる。

まだこちらを警戒しているのか、武装を取り出そうともせず、ただこちらを眺めているだけだった。

ただ単に武装が故障しているかもしれないが、どうでもいい。

 

本音を言えば、私はまだ生きていたかった。

光や順子、タマちゃんをはじめ、多くの仲間達。

仲良くなった友達と言ってもいい。

もう彼女達に会えないと思ったら、途端に両目の涙腺が崩れかける。

元の世界へ戻って、皆を助けて、また皆で色んな海で航海をして。

自分の腕をもっと磨いて、大切な人達を助けたり、助けられたりしたかった。

ごめんなさい。

皆、先に逝く私を許して下さい。

そして――――さん。

私は、あの時あなたに助けられた恩を、今でも忘れません。

だから、ごめんなさい。

私はゆっくりと瞼を閉じる。

月光が何か動きを見せるが、これ以上見ていたら、恐怖でみっともない最後をさらしてしまうから、両目を閉じたのだ。

 

??????

「――――――――――!!」

 

だけど。

誰かの声が聞こえたと思った瞬間、

 

シュッ

 

私の身体が一瞬だけ宙に浮いたかと思えば、猛スピードでどこかへ連れ去られる錯覚に陥った。

実際は気のせいなのだろうが、私は怖くて目を開けることは出来なかった。

身体を縮こまらせ、ビクビクと震えていた。

 

??????

「もう大丈夫だ。両目を開けて?」

 

その声に、私は聞き覚えがあった。

力強くて、それでいてホッとするかのような声色。

聞き間違えるなんて、あり得なかった。

あの時だってそうだ。

この世界へ飛ばされる前に、前の世界でかつて、あの人に助けられた時だ。

同じ台詞が、今この場で聞いたのは。

皆のために命をかけて、危険を顧みずにクラスからの絶大な信頼を勝ち取り、今なお私達を導いてくれる――――

 

武田 美千留

「か、艦長!」

岬 明乃

「すまない、来るのが遅れてしまって。怪我はないか?」

 

そう。

我らの艦長、岬明乃さんだった。

その彼女は、私を励ますように笑みを浮かべていた。

ただ気になるのが、顔の半分が血に染まっていることだった。

それに、片目もずっと閉じたまま。

 

武田 美千留

「それよりも艦長、その怪我は!?ひどい怪我じゃないですか!」

岬 明乃

「………少し頭を切っただけだ。かすり傷だよ。それより、美千留。歩けるか?」

武田 美千留

「!!」

 

私を名前を呼び捨てにする。

そんなことをするのは、私達が知ってる岬さんしかいない!!

もしかして、岬さんは――――

 

武田 美千留

「艦長、もしかして記憶が………いづ!」

 

岬さんに抱えられた状態から脱出すると、身体に電流が走ったように身体が痛み出した。

 

岬 明乃

「!!その怪我じゃ歩けそうにない。状況も切迫してるし………なら私が君を運ぶから、掴まってて」

武田 美千留

「でも………はい、分かりました。お言葉に甘えます!」

 

状況はかなり深刻化しているようだから、反論はせずに、大人しく彼女の指示に従う。

すると岬さんは、私を――――

 

武田 美千留

「わぁ!?」

岬 明乃

「これから飛ばすから、あまり喋らない方が良いよ。舌を噛むから」

武田 美千留

「え、あの、うわあぁぁぁ!?」

 

岬さんは、私をお姫様抱っこすると、再び猛スピードでプラットフォーム内を駆け巡った。

私は内心ドギマギしながら、岬さんを見つめていた。

今は片方の、髪が邪魔でもあったけど、流血してる方の顔しか見えてないから分からず、表情が読めなかった。

よく見ると、岬さんも所々に切り傷や流血の跡があった。

私達を助けるために、危険を顧みずにここまでやって来てくれた事の裏付けだった。

そんな状態なのに、私を抱えて皆の元へ向かっている。

本当に、本当にこの人には頭が上がらない。

 

――――私よりもずっと小さい身体なのに、私を抱えてる上に、こんなスピードで走れるなんて。

景色が次々と過ぎていっては、さっきの月光と距離が開いていってしまう。

私もまだまだ鍛えないと、この人の役には立てない。

そんな自分が嫌で、光と順子と共にこのプラットフォームで訓練を受けていたのに。

こんな事故に巻き込まれて。

挙げ句の果てにはクラスの皆も巻き込んでしまい、自分が情けなく思う。

 

岬 明乃

「………美千留」

武田 美千留

「!!は、はい!」

岬 明乃

「今、もしかして私達に迷惑を掛けたことを気にしてるんじゃない?」

武田 美千留

「!!」

 

図星だった。

その時。

目の前に壁が立ち塞がっていたが、岬さんはクルリと華麗な身のこなしで避けてみせる。

その際に髪がふわりと浮いた。

彼女の表情は、とても穏やかであった。

今この場は火災と崩落によりヒドイ有様となっているが、そんなのは関係ないくらいの可愛らしい笑みだった。

 

岬 明乃

「慌てないで?強くなろうとするのは、立派なことだよ。でもその過程の中で、危険な目に遭って私に迷惑が掛かると思ってるなら、それは勘違いだよ」

武田 美千留

「えっ?」

岬 明乃

「だって、私は嬉しいよ。美千留が強くなろうって考えて、ここへ来て訓練を受けて。前へ進もうって意思がこっちにまで伝わってくるんだ。だから、嬉しい。それに私よりも強い」

武田 美千留

「そ、そんな!私よりも艦長の方が強いです!私達が途方に暮れている時だって、自分が辛いのに私達を励ましてくれて!事件が起きた時だって、真っ先に弁護士を務めて!その背中にあまりにも多くの責務を背負ってるのに、誰にも弱音を吐かなくて!」

岬 明乃

「そうじゃない。そうじゃないんだよ、美千留。私が”強い”なんて言われる資格なんて、もうないんだ」

 

岬さんは諦めに近い表情を浮かべて、自らを自嘲する。

私には何のことか分からないので、疑問を口に出来ない。

だから何に苦しめられているのかも、私には知る由もなかった。

 

武田 美千留

「っ………」

岬 明乃

「私には出来なかった。でも君なら出来るって確信してるんだ。だから、君は絶対に諦めないで。私のようにはならないでほしいな」

 

岬さんがこちらに笑みを浮かべる。

が、それはどこか壊れたようなもので、違和感を感じる表情だった。

普段の彼女を知らない者が見たら、不自然だと気付く。

 

と、その時。

不意に景色が開けた場所へ変わった。

今まではプラットフォーム上の構造物ばかりが目立っていたが、それがなくなった。

 

岬 明乃

「美千留。もうすぐ晴風に着く。だから舌を噛まないようにね」

 

何を言ってるんですか?

そう口にすると、突然、身体全体に浮遊感が包み込んだ。

そして次の瞬間。

 

ドガンッ

 

派手な音と共に全身が僅かに痛み出す。

正直に言って、驚く余裕さえなかった。

上の方を見てみると、そこには見慣れた主砲や魚雷発射管があった。

ここって………晴風の甲板?

 

日置 順子

「わあぁ!?艦長!みっちん!」

小笠原 光

「2人とも無事!?」

 

そこへ、先に救助されたと思しき2人が、出迎えてくれた。

至る所に擦り傷が見られたが、様子を見るに特に重傷を負ってるようには見えなかった。

ホッと一安心する。

周囲を見渡すと、他にも救助された人や、仲間がそこにいた。

皆一様にこちらに注目している。

………まぁ、あんな派手な登場したら、誰だって目を丸くするよね………。

 

武田 美千留

「私は、大丈夫だよ。艦長が、助けてくれたから」

岬 明乃

「光、順子。急いで美波を連れてきて。美千留の怪我が酷いから、すぐに手当が必要だ」

日置 順子

「!!か、艦長、その口調………」

小笠原 光

「たまに出てた、あの格好良い方の艦長だ!分かった、みっちんの事は任せて!」

 

岬さんは私を下ろすと、彼女は数歩だけ後ろへ下がる。

そこで代わるように美波さん達が現れた。

 

鏑木 美波

「――――」

岬 明乃

「――――」

 

すると美波さんと岬さんは、秘密話をするように私達と距離を置いて話し始める。

遠目になったので内容までは分からない。

これから脱出するために、話しているのだろうと勝手に想像した。

それから艦長は周囲をぐるりと見渡し始める。

すると何かに気付いたのか、眉間に皺を僅かに寄せる。

 

岬 明乃

「………クウェンサーはどうした?」

 

と、ここで不良軍人、ヘイヴィアの相方の名前が出てくる。

そう言えば、それらしい人物がこの場にいないのに気付く。

ヘイヴィアがこの場に居ないのと関係があるのだろうか?

 

日置 順子

「それが、その。途中ではぐれちゃったんです………」

岬 明乃

「どの辺ではぐれた?」

小笠原 光

「えと………現在位置はここ。それで彼とはぐれたのはここだよ」

 

光が地図を取り出して、指で示していく。

ここはこのプラットフォーム全体で言うと、中央部分。

つまり、司令塔が存在するプラットフォームだ。

全部で5つで構成されていて、さらに1つ1つの規模もそれなりにあるので、探すのも一苦労。

その中で指を指した場所に、彼がいる。

ちょうど、現在位置から2ブロック分離れた区画を指していた。

 

岬 明乃

「はぐれた理由は?」

小笠原 光

「月光が突然現れて、足場が崩落して下の階層へ落ちたんだ………ごめんなさい、艦長。私達じゃどうにも出来なかったよ」

岬 明乃

「………皆は要救助者と共に脱出しろ。もうこのプラットフォームは長くは持たない」

武田 美千留

「艦長はどうするんですか?」

岬 明乃

「私はこれからクウェンサーを救いに行く。皆は先に晴風と共に当海域から離脱するんだ」

武田 美千留

「ま、待って下さい!1人じゃ危険です!それにっ」

岬 明乃

「見捨てるわけにはいかない。それに皆じゃ怪我を負っていて動ける状態じゃない。なら私が行くしかない」

武田 美千留

「でも!」

岬 明乃

「艦長の指示に従えないのか?」

 

ビクッ。

艦長に睨まれた途端、私はこれ以上何も言えなかった。

彼女の目はどこか罪悪感を含んだものに見えたのは、なぜだろう。

そして彼女は私達に背を向けて、晴風から飛び出してしまった。

私はただ、言葉を掛けることも出来ずに、彼女の背中を黙って見守るしか出来なかった。

 




今回のトップバッターは岬艦長でした!
いやー、覚醒した彼女について考えていたら、更新が遅くなっちゃいました!

さて、今回の話は最初に記述したとおり、本ストーリーが始まる前の出来事と繋がっています。
その話についてはまだ後日、アップロードします。
なので、少々お待ち下さいませ。
また、途中から視点を武田さんにしたのも、彼女押しもありますが、岬艦長の心情を表現してしまうと、答えがすぐに出てきそうだからです。

ちなみに、奪還戦についてはまだ話は続きます。
敵が次々と湧いてきて、どう立ち向かうか。
どうぞお楽しみに。

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