High School Fleet ~封鎖された学園都市で~   作:Dr.JD

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何かのために死ぬことが出来ない者は、生きるのに適さない
――――マーティン・ルーサーキング・ジュニア

どうもおはこんばんにちは。
作者であります。

前回言った5月頃に上げると言ったな、あれは嘘だ。
ゴールデンウィークに突入し、休みを謳歌するであろう読者の方々に捧げるぜ!
………なんだか妙なテンションになってますね。

今回はタイトルをヘヴィ・オブジェクトよりにしてみました。
今度から、他作品とクロスオーバーさせる時は、その作品のタイトル名をベースにしたいと思います。
そして今回から、戦いの舞台がいよいよ海上へ移ります。
海上プラットフォームが出てくる作品のゲームが出てきます。
どの作品かは、読者の皆様でご考察下さいませ。

ヒント
???「まともなのは僕だけかぁ!?」

です。
今回はあまり話は進んでないかも知れませんが、どうぞ。



第19話 マーメイドは微笑まない~プラットフォーム奪還戦Ⅰ~

2012年、7月23日、12;15;49

高校1年生 陽炎型航洋艦五番艦「晴風」 艦長

岬 明乃(みさき あけの)

日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 近海

 

クウェンサー君の依頼で、もとい、私の仲間を助けるために協力することになりました。

艦橋組と他の生徒達にその事を説明すると、皆はすぐに行動しようと決意してくれました。

そこから私は急いで皆を呼び戻す――――と時間が掛かるので、今回は私達と合流できそうな位置にいる子達だけになりそうです。

しかし、それでも時間が掛かるのではないかと思いましたが、ココちゃんが機転を利かせてくれて。

 

納沙 幸子

『皆さんが持ってる携帯にあるGPSをハッキングして、地図上に投影することで、合流できそうな方のみに連絡を入れるようにします!!』

 

とのことで、ココちゃんに提案されました。

手口が過激なので私は反対しかけましたが、危機的状況にあるじゅんちゃん達の事を考えると、選択肢はこれ以外にはないようです。

なので、ハッキングをお願いすると、ココちゃんは生き生きとした表情でiPadの操作を始めました。

その顔がとても恍惚を放っていているのが、とても印象的でした。

前の施設に乗り込んだ時に仕込まれたハッキング技術が、ここまでココちゃんを変えてしまったと思うと、少し複雑な気分になりました。

でも今は一刻も早く海上プラットフォームへ向かわなければいけません。

意識を目の前に集中させます――――

 

港へ到着すると、合流する子達が既に全員集まっていました。

タラップでメンバーを上がらせ、その場で急いで事情を説明します。

その間に晴風を出航させ、現場へと急行させます。

 

岬 明乃

「皆に集まってもらったのは、通信で話したとおりです。海上プラットフォームで訓練を受けている砲術科の子達を助けるためです。だから、皆の力を貸してほしい!」

 

集まったメンバー、いや、集めた仲間は以下の通りになりました。

砲雷科:松永 理都子、姫路 果代子

航海科:勝田 聡子、野間マチコ

機関科:和住 媛萌、柳原 麻侖

主計科:鏑木 美波、伊良子 美甘

 

………すごく心苦しいけど、他の子達は位置的に遠く、合流するには時間が掛かります。

なので、今回はお留守番となります。

ごめんね?

後でいっぱい私を責めていいから………。

 

勝田 聡子

「でも艦長、他のクラスメイトには伝えなくていいぞな?」

伊良子 美甘

「私達だけでそこへ向かうんだよね?でも、そこってかなり危ないって………」

柳原 麻侖

「艦長、ちょっくら機関室へ行ってくら………でも後でちゃんとあいつらには事情を説明してくれよ?」

岬 明乃

「分かった………現状、施設付近で研究中のロボットが暴走を起こし、予断を許さない状態です。それ以外の情報は入ってないけど、じゅんちゃん達を放っておけない」

鏑木 美波

「情報が少ないと、対策を立てられないぞ?それに、行動方針は決まっていても、詳細が分からないと私達も動けない」

岬 明乃

「そ、それは」

クウェンサー・バーボタージュ

「お話し中に失礼しますよ、お嬢さん方」

 

言葉に詰まっていると、横からクウェンサー君が割って入ってきました。

突然の状況に言葉が出ない一同です。

そうか、クウェンサー君の事、ちゃんと説明してなかったような………。

でも当のクウェンサー君は手に持ってるタブレットを操作しながら説明します。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「相棒からプラットフォームの図面を送ってもらった。それと今現在の状況も。それらを基に具体的な作戦を立てるから、もう少しだけお時間を頂けますか?お嬢さん方」

 

まるで執事のように会釈すると、一同はポカンとしたまま私を見つめました。

この人誰?

そう言いたげな表情をしながら。

 

岬 明乃

「えと、彼はクウェンサー・バーボタージュ君。その、私達と同じ学生だよ」

クウェンサー・バーボタージュ

「戦地派遣留学生だけどね。兵科は工兵、爆発物の扱いなら任せてくれ」

 

と、私が伝えようか迷っている情報を彼があっさりバラしてしまいます。

港へ向かう最中に聞いてた話だけど、未だに半信半疑です。

学生が武器を取って戦うなんて。

やはり生きてる世界が違うと、こうも変わってしまうのでしょうか?

それは聞いた皆も同じようで。

 

伊良子 美甘

「ば、爆発物って」

和住 媛萌

「私達とそう年齢違わないよね?それで戦場で戦ってるの?」

松永 理都子

「なんだか気が合いそうな感じがするよねー」

 

などと三者三様の反応を示してくれました。

まぁ、当然の反応と言えばそうなるのよね………一名を除いては。

そんなことを考えていると、クウェンサー君が切り出した。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「これから作戦会議を始めるから、もうしばしお待ちを。行こう、明乃」

岬 明乃

「あ、うん」

 

私の両肩に手を乗せて、回れ右させると、その場を後にします。

少しだけドキリとしますが、すぐに冷めてしまいます。

なぜなら後ろから少しだけキャーキャー聞こえたからでした――――

 

艦橋に到着し、クウェンサー君の事を紹介すると、すぐに作戦会議を始めます。

現場付近の海洋状態と突入経路、救助するための合流地点などを話します。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「相棒と君らの仲間は一緒に行動していて、この場所で隠れてやり過ごしているようだが、いつ見つかるか分からないそうだ」

 

タブレット上に地図を立体投影し、赤い光を灯している場所に注目します。

そして次に、暴走していると思われているロボットの画像を出します。

私はそれを見た途端、自分の目を疑いました。

それを見た他の皆も同じ感想を抱いているようで、メイちゃんがそれを代弁してくれました。

 

西崎 芽依

「うわ、なにこれ?ロボットなのに人の足がある!?」

知床 鈴

「き、気持ち悪いよぅ………」

納沙 幸子

「映画に出てきそうな二足ロボットですね!」

立石 志摩

「………キモい………」

 

こちらもまた三者三様の反応を示してくれました。

なに、このロボット?

私が前に中央研究所で見かけた警備ロボットとはまた違う形をしてるけど、どうなってるの?

 

クウェンサー・バーボタージュ

「言っとくけど、この足は人の足じゃないからね………こいつは月光。こいつの足は人工的に作り出された、生体部品と呼ばれるモノだ。こいつを利用することで広い稼働範囲と戦車と比べものにならないくらいの機動性の実現に成功してるんだ」

納沙 幸子

「おお!ますます映画みたいな話ですね!!」

クウェンサー・バーボタージュ

「実際の俺達の相手は映画に出てくる、ちゃちな演出のために用意された悪役じゃないけどね。でだ、話はこれだけじゃない。こいつは壁の凹凸を掴んで登ったり、数ブロック単位での跳躍も可能なんだ」

西崎 芽依

「まるでカエルだな。全然可愛くないけど」

立石 志摩

「焼いて、喰う」

岬 明乃

「タマちゃん!?」

クウェンサー・バーボタージュ

「遺伝子組み換えしてあるから、オススメはしないよ?食品でも同じ事言えるし、どのみちカエルなんて食べないけど。それに武装はボディの側面にM2重機関銃が左右に一門ずつと対空・対戦車ミサイル発射機が一門ずつある。これだけでもかなりの重武装だ、近づいたらこっちが火だるまにされて喰われるぞ」

立石 志摩

「う、うぃ!?」

 

クウェンサー君が少しタマちゃんを脅かすと、私はジト目でクウェンサー君を見つめました。

 

岬 明乃

「………侵入経路については?この月光の死角になるような場所から入るの?」

クウェンサー・バーボタージュ

「基本的にはそうだな。ただ、こいつの持つマニピュレーターには赤外線カメラが搭載されているから、下手に近付いたらこっちの存在に気付かれる。だから、長い時間はその場に居座り続けられない。脱出させるなら、多く見積もっても数十秒が限界だな」

岬 明乃

「数十秒、か」

 

長いようで短い時間。

いや、今回は救出作戦のため、短い分類に入るでしょう。

しかも多く見積もってと言うことは、実際はもっと短いかも知れないのです。

そして一番に懸念してる事が一つ。

救出活動をしている最中にロボットが攻撃してきたら?

私が疑問を口にする前に、リンちゃんが先に尋ねました。

 

知床 鈴

「でももし、じゅんちゃん達を助けてる最中にあのロボットが襲ってきたら、ど、どうするの?」

クウェンサー・バーボタージュ

「相棒に頼んで、ちょっとばかり奴の気を引いてもらうさ………ヘイヴィア、聞こえるか?」

 

肩に着いてる無線機を取り出して、相棒の名前と思しき単語を呟くと、無線機から男の人の声が戻ってきます。

 

ヘイヴィア

『脅かすなよクソ野郎!今一瞬、マジで寿命が縮まったぞ!!』

 

いきなり罵詈雑言の言葉が出てきて、逆にこちらが驚きました。

だけど悪口を言われた当の本人は、そんな態度に全く意を返しませんでした。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「今仲間と一緒に船でそっちへ向かってる。到着予定時刻は、えと、あと何分くらい?」

知床 鈴

「えと、今の速度だとあと20分で到着します………」

ヘイヴィア

『ふざけんな!そんなに待ってられるかっ、5分で来させろ!!』

知床 鈴

「ひぃ!?」

 

その矛先がリンちゃんにも向かい、リンちゃんは身体をビクリと震わせています。

ちょっと、態度が悪すぎるんじゃないかな?

 

クウェンサー・バーボタージュ

「ヘイヴィア、落ち着けって。女の子に怒鳴っても事態は好転しないぞ」

ヘイヴィア

『こっちは命がけだってのに………ん?おい待て、今女の子って言ったか?』

クウェンサー・バーボタージュ

「ああ、言ったけど。彼女達が操舵してる船に乗ってる」

ヘイヴィア

『ふ、ふざけんな!なんで毎回てめぇばっかり………!とでも言うと思ったか?はっ、今回ばかりはてめぇばっかり良い思いはさせないぜ』

クウェンサー・バーボタージュ

「えっ、なに?お前の所にも可愛い女の子がいるの?」

ヘイヴィア

『いるぜいるぜ。名前をさっき確認したら、どうやらてめぇの知り合いらしいな?』

 

知り合いと聞いて、私は居ても立っても居られず、クウェンサー君の通信機の横から強引に割って入りました。

 

岬 明乃

「そこにじゅんちゃん達がいるの!?」

ヘイヴィア

『うぉっ、ビックリした。なんだ、てめぇの知り合いか?』

??????

『っ!!ちょっと代わって!』

ヘイヴィア

『あ、おい!』

 

向こうでは通信機を無理矢理取ったのか、雑音が少しだけ悪くなりました。

やがて収まり、聞こえてきたのは、どこか隠った声をした女の子の声でした。

 

??????

『もしもしっ、艦長、聞こえますか!?』

岬 明乃

「その声って、じゅんちゃん?」

日置 順子

『そうです!あと美千留と光も一緒に居ます!』

武田 美千留

『こちら武田、特に怪我はありません!』

小笠原 光

『小笠原も同じく!!それで、そっちの状況は!?』

岬 明乃

「プラットフォームにはあと20分で到着予定!救出時間はそこまで取れないだろうから、すぐにでも動けるようにしておいて!」

砲術科3名

『『『了解!!』』』

ヘイヴィア

『話は済んだか?んじゃ代わってくれ………クウェンサー、状況はかなりまずいぜ』

クウェンサー・バーボタージュ

「まずくなかった状況なんてあったっけ?まぁ一番まずかったのは、フローレイティアさんにエロ本を見つけられた時かな」

ヘイヴィア

『あまりその話はしないでくれよ、おほほのことを思い出しちまう。でだ、暴走してる野郎のことなんだが』

クウェンサー・バーボタージュ

「ちょっと待った。暴走してるロボットにコードネームを付けよう。その方が呼びやすい」

ヘイヴィア

『キモガエルで良いだろ。こっちが対戦車ミサイルを撃とうとしたら、ジャンプして避けるくらいだし』

納沙 幸子

「普通に月光って呼びましょうよ………」

クウェンサー・バーボタージュ

「だそうだ。俺は月光に1票」

ヘイヴィア

『くそっ、この民主主義大好きっ子がっ』

納沙 幸子

「平等で良いじゃないですか!!日本人は平等が大好きなんです!」

岬 明乃

「あの、もうそろそろ本題を………」

 

このまま言ってたら、日が暮れちゃうよ!

とは言えず、本題に無理矢理戻します。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「おっと、そうだった。んで、何がまずいんだ?」

ヘイヴィア

『暴走してる月光野郎だが、1機だけじゃねぇんだ。正確な数まではカウントできなかったが、何体か辺りをうろついてやがる』

 

そこは意地でも”月光”とは呼ばないんですね。

そんなに平等が嫌なのかな?

 

クウェンサー・バーボタージュ

「そいつらの足止めは可能か?」

ヘイヴィア

『可能だが、かなり危険な橋を渡る必要がある………っておい。まさかてめぇ、また俺に厄引きさせる気かよ?」

クウェンサー・バーボタージュ

「じゃあそばに居る女の子達にでも頼むのか?それじゃ本物の貴族とは言えないぞ?」

ヘイヴィア

『ちょ、おま!ここでそれ出さなくてもいいじゃねぇか!くそっ、分かったよくそったれ。今回も引き受けてやる。ただてめぇも付き合え』

 

相手から貴族と言う単語を聞いて、ふと思いました。

こんな口の悪い貴族は、相手にしたいとは思わない、と。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「そうこなくっちゃ。やっといつもの俺達に戻れそうだ」

ヘイヴィア

『野郎に尻を任せられるいつもなんて、俺から願い下げだけどな』

 

………なんかこの2人のやりとりを見てると、なんとなく懐かしい記憶が蘇ってきます。

悪態とかは言わないけど、代わりにお互いを気遣う言葉を掛け合って多様な気がする。

今日みたいな、晴天の日。

木々の中にある小さな、養護施設。

そこで私は、誰かと会って――――

 

西崎 芽衣

「――、艦長ってば!」

岬 明乃

「!!」

 

思いに耽っていた時、横から誰かに肩を揺すられた気がします。

その人物はメイちゃんで、心配そうに私を見ています。

どうしたの?

 

西崎 芽衣

「大丈夫?さっきからバーボっちに呼ばれてるけど?」

岬 明乃

「えっ?」

クウェンサー・バーボタージュ

「あの、バーボっちは恥ずかしいから止めてほしいんだけど………それより、侵入経路についてだが、問題ある」

岬 明乃

「さっきは死角から突入するって言ってたけど」

クウェンサー・バーボタージュ

「そいつはなしだ。実は暴走してるのは、何もロボットだけじゃない。プラットフォーム全体を防衛してる人工知能も暴走してるんだ。と言っても、そのシステムが暴走したからロボットも暴走したみたいなんだ」

知床 鈴

「それじゃあ、中には入れないんですか?」

クウェンサー・バーボタージュ

「いや、防衛システムは基本的にプラットフォーム内の警備を、外部からの侵入者や船舶、航空機を排除するためのシステムがそれぞれ独立に存在してる」

岬 明乃

「なんで?」

クウェンサー・バーボタージュ

「まだそのAIも研究段階で実用性はまだなんだってさ。だからそれぞれ、”内部に侵入した敵”と”外部から侵入しようとしてる敵”を両方いっぺんに相手するのは難しいんだろうな」

西崎 芽衣

「敵の挟撃からの重点突破!これぞ将棋のワンシーンみたいな展開だな!」

クウェンサー・バーボタージュ

「俺達は生きた駒って訳ですか。笑えないね。盤面があるならヘイヴィアの出番だけど、今は手が離せないしな」

知床 鈴

「で、でも、なんで不完全な人工知能をそんなに広く使ってるんでしょうか?」

クウェンサー・バーボタージュ

「試験の一環だってさ。一部のプラットフォームしか使えないんじゃ防衛システムとしては不完全。だからプラットフォーム全体に防衛システムを行き届かせることで、どれほどの効果があるかを実証中だったんだってさ」

岬 明乃

「それが失敗して、じゅんちゃん達が危ない目に遭ってるなんて………」

 

それにしても、と思う。

こんな偶然なんてあり得るのでしょうか?

完璧だと思われていた人工知能の実験が失敗して、挙げ句の果てには暴走。

そして同じタイミングでじゅんちゃん達が居合わせて、今まさに危機に瀕している。

さらに居合わせたのが、今日出会ったクウェンサー君の相方であること。

私は、何者かによって仕組まれているのではないかと思わざる終えません。

 

西崎 芽依

「不運が重なっちゃったね。副長、今居ないけど」

立石 志摩

「うぃ」

納沙 幸子

「クウェンサーさんって、人工知能に否定的ですね?アニメじゃ定番で、ロマンの塊なのに!!」

クウェンサー・バーボタージュ

「あのね、アニメと違ってこれは現実なの。フレーム問題を解決できて、対人との連携が取れるようにならないと」

 

対人との連携。

その言葉にふと、あの時言われた言葉を思い出しました。

中央研究所で言われた、あの一言。

 

??????

『人間だって間違える。単純な作業であっても、な。その点、AIやロボットは違う。間違いがなく、不満も言わない。まさに理想的じゃないか』

 

その言葉を聞いて、私は頭で即座に否定します。

完璧だって?

なら、どうして私の仲間を傷付けようとするの?

その考えが、頭から離れません。

だから私は、その答えを知りたくてほぼ無意識に、クウェンサー君に聞いてしまいました。

様々な専門的な知識を有している彼なら、きっと答えてくれるんじゃないかと期待して。

 

岬 明乃

「クウェンサー君」

クウェンサー・バーボタージュ

「ん?どうした?」

岬 明乃

「教えてほしいんだ。クウェンサー君は――――」

野間 マチコ

『海上プラットフォーム視認!距離10000、方位30!』

 

と、ここで伝声管から野間さんの声により、後に続く言葉は消えてしまいました。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「っ、いよいよ、か。それで明乃、聞きたい事って?」

岬 明乃

「あ、う、ううん、何でもない!別に大したことじゃないから。それよりも」

 

内容を理解し、その方向へ双眼鏡を向けると、目的地が見えてきます。

同時に、息を飲み込みました。

海の上に浮かんでいるのは、間違いなく構造物。

だけど、その構造物から黒煙が靡いていて、空の色と混じり合います。

所々から消火するためか、火元に向かって放水されていますが、勢いが強くて鎮火できる気配がありません。

そしてプラットフォームの足下に、いくつかの救命ボートが下ろされていて、浮いています。

遠目から見ても、人が乗っているのが見えます。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「くそ、思った以上に被害がデカいな。ヘイヴィアは上手くいったんだろうな」

岬 明乃

「?その人に何か頼んだの?」

クウェンサー・バーボタージュ

「あれ、言わなかったっけ?俺達がプラットフォームへ突撃する際、外部防衛システムが作動しないようにヘイヴィアに頼んだんだよ。それに失敗すると、対艦ミサイルを撃ち込まれるからな」

知床 鈴

「た、対艦ミサイル?」

納沙 幸子

「えーっと、ヘイヴィアさんから送られたデータによると、RGM-84、愛称”ハープーンミサイル”ですね。うわ、すごい!マッハ1近くで飛んでくる代物で、射程が140km!?」

クウェンサー・バーボタージュ

「長距離射程のミサイルが飛んでこないところを見るに、無力化に成功したみたいだな。待ってろ、今ヘイヴィアに確認を――――」

 

するとその時、黒煙の中から1本の細長い物体が飛び出るのを見逃しませんでした。

最初はポールか何かが倒れてくるのかと思いましたが、こちらへ真っ直ぐ飛んでくるのを見ると、それは間違いだと気付きます。

あ、あれってもしかして………。

 

すると同時に。

頭の中でフラッシュバックが反映されました。

 

――――私がリンちゃんに向かって、何かを叫ぶ。

その後でクウェンサー君に何かを聞かれて。

でも私は答えられずに、ミサイルが艦橋目がけて――――

 

気付いたら、私は叫んでいました。

 

岬 明乃

「リンちゃん、面舵いっぱーい!!」

知床 鈴

「お、面舵いっぱい、ヨーソロー!」

八木 鶫

『艦長!こちらに向かってくる高速物体を確認!速度は、えっ、嘘!?音速で接近中!!』

クウェンサー・バーボタージュ

「くそっ、ヘイヴィアの奴、しくじったな!?うわぁ!?」

一同

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」」」

 

船が急な回避行動を取ったため、クウェンサー君が倒れそうになります。

向きがすぐにミサイルに対して平行するような方向になると、急いで距離を取ろうとします。

が、音速飛行体と艦船では追いかけっこにもなりません。

だけど、次にやらなければいけない事は、もう分かっていました。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「このままじゃ、恰好の良い的だ!この船にフレアやCIWSは積んでないのか!?」

岬 明乃

「自動化が進んでるとは言え、兵器までは自動化されてないよ!でも火元になるモノだったらあるよ!!」

クウェンサー・バーボタージュ

「どこにある!?」

岬 明乃

「クウェンサー君が今まさに掴まってる木箱がそう!中身は花火だから、それを使って!」

クウェンサー・バーボタージュ

「メイ、タマ!手伝ってくれ、俺一人じゃ出来ない!」

西崎 芽依

「何か考えがあるんだな、わ、分かった!行こう、タマ!」

立石 志摩

「うぃ!」

 

3人が木箱を持って艦橋を飛び出すと、私は急いで機関室に伝声管を張る。

 

岬 明乃

「クロちゃん、速度ってどれくらい出せる!?」

柳原 麻侖

『最大戦速まで出せる!さっきまで機関をいじってたあの兄ちゃん、すごいな!まだぐずらねぇや!』

岬 明乃

「機関、最大戦速!ハープーンミサイルを全力で回避するから、みんな衝撃に備えて!」

一同

『『『『了解!!』』』』

クウェンサー・バーボタージュ

「明乃、こっちの準備は完了した!急いでこの海域から離脱しろ!」

岬 明乃

「了解!リンちゃん、取り舵90度!」

知床 鈴

「と、取り舵、90度!」

 

号令と共に、私やみんなは耐衝撃姿勢に入ります。

私も近くの柱に掴まり、ぐっと両手に力を込めます。

そして――――

 

背後からの大爆発が起きたのは、それからものの数秒後のことでした。

船体が激しく揺れ、強い衝撃が加わりそうになります。

世界がぐらりとひっくり返ったのかと思うくらいです。

 

岬 明乃

「わあぁぁ!?」

 

背中から地面へ叩き付けられそうになりますが、そうはなりませんでした。

ゆっくりと目を開けると、クウェンサー君が心配そうにこちらを見つめていました。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「明乃、大丈夫か?」

岬 明乃

「っ、あ、う、うん」

 

一瞬だけドキリとしますが、私は慌てて立ち上がり、周囲の状況確認へ移ります。

痛そうに腕や足を擦る子はいるけど、特に医務室へ運ぶ必要はなさそう。

 

岬 明乃

「みんな、大丈夫!?」

柳原 麻侖

『機関科、異常なしでい!』

野間 マチコ

『こちらも異常ありません!』

勝田 聡子

『こっちも問題ないぞな!』

和住 媛萌

『こっちも問題なし!応急修理が必要なら、いつでも言って!』

納沙 幸子

「私達も大丈夫です!ハープーンミサイルを撃墜しました!」

クウェンサー・バーボタージュ

「よっしゃ!途中からヒヤヒヤしたけど、何とかかわしたな!」

岬 明乃

「かなり際どかったけどね。でもみんなが無事で良かった………」

知床 鈴

「でも岬さん。あのミサイルは、花火なんかでかわせるものなの?すごく速度も出てたし………」

岬 明乃

「ハープーンミサイルは、ロックした相手の熱源を探知して自動的に追尾するシステムを採用してる。だから熱源になるようなモノを近くにばらまけば、それに反応して誤爆するんだよ」

納沙 幸子

「熱源………ああ、だから火元として花火を利用したと」

クウェンサー・バーボタージュ

「そういうこと。まぁでも、正直に白状すると、ほとんど賭けだったけどね。ハープーンが花火に食い付くかなんてさ」

納沙 幸子

「でもよくとっさに思い付きましたね。ミサイルが発射されてから、時間なんて経ってないでしょうに」

クウェンサー・バーボタージュ

「………これも全て、図書館で読んでた書物の賜物だな、明乃」

岬 明乃

「えへへ………」

 

彼が近寄ってきて、耳打ちをしてきたのと、褒めてくれたことで思わず頰が緩んでしまいました。

そう、なにも読んでいたのは、一昔前の戦争の歴史書だけじゃない。

現代の戦争の在り方や、その武装までも一通り目を通しておいたのです。

一安心したと思い、ふと、腕に触れていて初めて気がつきました。

腕が震えていたのです。

 

――――時代が変わるにつれて、戦い方も変わっていった。

艦隊決戦から………航空決戦へ。

そして、それらと平行するように存在する、私達の世界にはないミサイル技術。

噴進魚雷に似たこの技術は、戦術においても運用方法が大きく変わっていった。

魚雷を発射するかと思いきや、直接相手の艦を狙い撃つような方法へ。

実際の戦闘で、その戦いを見た私は、その脅威について身をもって知ることとなりました。

 

今でも鳥肌が止まらず、ずっと震えたまま。

心臓が鼓動を打つたびに、ズキリと頭が痛みます。

すぐそこに死が迫ってきていたと。

 

それともう一つ。

さっきのフラッシュバック。

明らかに不自然な点が起こっていました。

私が、ハープーンミサイルの回避に失敗してしまった映像が、鮮明に映し出されました。

それがやけにリアルで。

少しでも対応が遅れていたら、ミサイルの火に飲まれていたのかも知れないと思うと、ゾッとしてしまいます。

誰かの返り血が、私の顔に張り付いて――――

 

クウェンサー・バーボタージュ

「明乃。大丈夫さ」

 

そんな心中を察したように、クウェンサー君が私の肩をポンッと置いてくれました。

彼は続けます。

 

クウェンサー・バーボタージュ

「とっさの判断であの場面を切り抜けられたんだ、自分をもっと信じてもいいはずだ。ま、軍人でもない俺が言っても説得力皆無かな?」

岬 明乃

「!!う、ううん、そんな事ないよ!でも、その………ありがとう」

 

嬉しいのと同時に、こうも考えてしまいました。

………なんだか、私は、周囲の人達に気を使われてばかり、だな。

落胆にも近いため息と、肩の荷が少しだけ下りたような息を吐くと、私はリンちゃんに。

 

岬 明乃

「リンちゃん、大丈夫?舵取りできる?」

知床 鈴

「大丈夫だよ岬さん。それで、どの航路を通るの?」

岬 明乃

「これから海上プラットフォームへ真っ直ぐ向かうよ。クウェンサー君、ハープーンミサイルはもう飛んでこないよね?」

クウェンサー・バーボタージュ

「………今確認を取った。レーダー施設を破壊したから、もう対艦ミサイルは、ターゲットに対してロックオンができない。これでもう障害はなくなったぞ」

岬 明乃

「ありがとう」

 

コクリと頷いて、伝声管や艦橋に居る皆に向かって宣言する。

 

岬 明乃

「これから私達は、海上プラットフォームへ急行します。でもその前に、みんなに聞いてほしいことがあります」

 

一間置いてから、ゆっくりと話します。

 

岬 明乃

「さっきのハープーンミサイルの攻撃が行われました。幸いにも攻撃は防ぐことに成功し、けが人も出ませんでした。でもこの先、相手からどんな攻撃が繰り出されるか、全く予測できません。少なくとも、私達がいた世界の常識を覆す手段を行使してくるかも知れない」

 

先程のミサイル攻撃を目の当たりにし、回避には成功した。

だけど、今回は偶然かもしれない。

いや、たまたま上手くいっただけなのだろうとさえ思える。

次に更なる方法で私達に被害が及ぶかも知れない。

さっきの映像の二の舞になるかも知れない。

 

岬 明乃

「ほとんど情報がない中で、戦いに向かうのは非常に危険なのは私も承知しているよ。でも、仲間を放っておけないのも事実です」

 

脳裏に不安が巻き起こりますが、それを表に出すわけにはいきません。

見られたら、きっと不安がるだろうから。

それと………私自身に言い聞かせるように。

勇気を振り絞るように。

 

岬 明乃

「だからみんな………行こう!」

 




戦闘念写が、かなり難しい(小並感)
出てくる兵器をウィキペディアさんなどを見てステータスを確認して、
それに沿った戦闘を表現する。
くぅー、これが上手く表現できる方はすごい。

さて、次回の更新は6月頃を予定しております。
引き続き、戦闘念写が出てきます。
MSF側から、あの方が登場します。

次回も、お楽しみに。


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