High School Fleet ~封鎖された学園都市で~   作:Dr.JD

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――――自らを価値なしと思っているものこそが、真に価値なき人間なのだ――――
ハンス=ウルリッヒ・ルーデル

どうも皆さんおはこんばんにちわ。
作者であります。

実に本編から見て3ヶ月ぶりの投稿となります。
長らくお待たせして申し訳ありません。
今更ですが………

UA5000超えた、ぞ-!↑

いやぁ、感激の極みですね。
書いている身としては、これ程多くの方に読んで頂けるのは、嬉しい限りです!

さて、前回は衝撃的でしたね(笑
この町の用途については、前回でお話ししたとおりです。
彼女達は、今後どうなってしまうのでしょうか?

それでは、本編の方をどうぞ。




第17話 小休止

[小休止]

2012年、7月22日、15;40;00

高校1年生 陽炎型航洋艦五番艦「晴風」 副艦長

宗谷 ましろ

日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 ??????

 

突如現れた彼女達を見て、私は眉を潜めるのを隠せなかった。

今の自分を見たら誰だって不信に思うだろうが、そんなのは関係なかった。

それに、今はクラスの皆や町長以外の人間を信じられるほどの余裕もない。

………もっと冷静ならば、こんな動揺することもなかっただろうが。

 

納紗 幸子

「あ、あの、野村町長。その方達は一体?」

野村 志保

「ああ、この子達はいわば助っ人だと思えば良いわ。ムギ、さっきの部屋に戻ってて?他の皆も」

??????

「分かりました」

 

彼女達は頷くと、別の方向へと歩き出した。

その内の一人がこちらを睨み付けていたが、心当たりがない。

そもそも彼女達とは面識がないから、睨まれる覚えもない。

やばい、色々と混乱してきた。

 

野村 志保

「ごめんなさいね。あの子達も色々あったから、ピリピリしてるの………それより、ましろ。ちょっといい?」

宗谷 ましろ

「えっ?あ、はい」

 

いきなり呼ばれるとは思わなかったので、反応が遅れてしまった。

私は背後に居るクラスメイト達を見つめる。

皆がコクリと頷いてくれたので、彼女の後を付いていった。

連れて来られたのは、納紗さんがコンピューターハッキングをした部屋だった。

今でも私の知らない装置が稼働を続けている。

今はその音しか聞こえなかった。

 

宗谷 ましろ

「あの、何でしょうか?私は………」

野村 志保

「ショックを今受けてるのは分かるわ。でも気をしっかり持って欲しいの。明乃が無事に戻るのを祈りましょう」

宗谷 ましろ

「ええ………」

野村 志保

「それでね、中央研究所の連中の動向を探らせてたんだけど、今のところ動きは一切ないの。捜索部隊も無反応だから、追っ手の心配は必要ないわ」

宗谷 ましろ

「素直に諦めてくれる連中でしょうか?」

野村 志保

「まだ連中が入手できてない技術があるならね。でも捜索隊を出さないって事は、連中が目当てにしてた技術はもう入手してった事ね」

 

ではなにか?

もう用済みとなった晴風は必要ないから、私達が奪取したことで厄払いできて一石二鳥ってか?

ふざけるな。

 

宗谷 ましろ

「なら、なら岬さんも返してくれよ………!!船の技術ならいくらでもやるから、岬さんを返してくれよ!!」

野村 志保

「ましろ」

 

ギュッ。

車椅子に乗っている状態のまま、志保さんは私を抱き締めてくれた。

子供をあやすかのように、背中をポンポンと叩いてくれる。

 

野村 志保

「分かるわよ、その気持ち。私も同じだった。もう戻らないんじゃないかって、思ってたから。でも」

 

私から手を離すと、彼女の微笑んだ顔が見える。

 

野村 志保

「もう少しだけ時間が欲しいの。大丈夫、絶対に彼女を取り戻してみせるから」

 

何日か前に見た、彼女の自信に溢れる表情が目の前にあった。

 

宗谷 ましろ

「ですけど、今回の敵は」

野村 志保

「分かってる。強大すぎる敵よ。でも何も出来ない相手ではないわ」

 

コンコンッ。

背後から扉がノックされる。

彼女はどうぞ、と一言だけ答えると、先程の金髪の女性が部屋へ入ってくる。

 

??????

「町長、今終わりました。直に彼女は戻って来るでしょう」

野村 志保

「ありがとう、ムギ」

 

淡々と答える彼女の言葉に、私はつい、この言葉を聞き逃しそうになってしまった。

ん?直に戻ってくる?

いやいや、どうやって?

 

宗谷 ましろ

「あの、戻ってくるとは?」

野村 志保

「ちょっとね、彼女の伝手を頼ろうと思ったのよ。私が無理矢理介入しても良かったんだけど、大事な時期だから目立つアクションは起こせないの。だから」

??????

「ある条件を元に、あなたの友達を助力して欲しいと頼まれたんです。大丈夫ですよ、宗谷ましろさん。もう少しで岬明乃さんは戻ってきますから」

宗谷 ましろ

「!!私達のこと、彼女に喋ったんですか?」

 

喋ったというのは、私達の正体のこと。

すなわち、私達が居世界から来たこと。

そして、今ある現状のことも。

 

野村 志保

「…………安心して?彼女にはあなた達の友達が危ない目に遭ってるから手を貸して欲しい、としか言ってないから」

 

こちらの心境を察したのか、彼女は私の耳元にそう呟いた。

それに安堵する私だが、女性も苦笑し始める。

 

??????

「ごめんなさい、あなた達も大変な目に遭ってるのに。私達もこうするしかなかったのよ」

 

こちらの空気を察したのか、私達に同情する言葉を贈ってくれる。

………きっと、彼女達にも私達が知らない場所で、何かと、誰かと戦っているのだろう。

武器を持って戦うという意味合いでは異なるだろうけど。

何にしても――――

 

宗谷 ましろ

「岬さん、本当に戻ってこれるんですよね?嘘だったら………」

野村 志保

「ええ、大丈夫よ。私達もしばらくはここで待ってましょう?」

??????

「そうですね。あっ、申し遅れました。私は琴吹紬(ことぶきつむぎ)と申します。宗谷ましろさん、以後お見知りおきを」

 

長めの金髪がフワリと揺れるように挨拶する。

どこかのお嬢様と似ていると思ったら、万里小路さんに似ていると感じた。

彼女と同じように、全く嫌みを感じさせない彼女は、私の中ですんなりと入っていった。

それを見て、こちらも名乗ろうと思ったが、既にこちらの名前を知っているのを思い出し、口の中で転がした。

ただ軽く会釈する。

 

宗谷 ましろ

「よろしくお願いします、琴吹さん」

野村 志保

「さて、お互いに名前を知ったところで………少しだけ談笑しましょう?ずっと緊張の連続みたいだったし、明乃が帰ってくるまでに、ね?」

 

そう彼女が提案してくる。

………正直に言って、皆にもうすぐ岬さんが帰ってくることを伝えたかったのだが、疲労が蓄積してきたのも事実。

でも。

 

宗谷 ましろ

「先に皆に岬さんが戻ってくるのを伝えに行ってもいいですか?彼女達もかなり心配しているので………」

野村 志保

「良いわよ。ムギ、それでも良いでしょ?」

琴吹 紬

「もちろん。宗谷さん、先にクラスの子達を安心させてあげて?」

宗谷 ましろ

「はい!」

 

私は2人に頭を下げ、皆の元へと戻るために、走った。

先程まではつっけんどんな返ししかしなかったが、内心では

――――早く、この事を伝えたい!岬さんが、岬さんがもうすぐ戻ってくるって!!

これは皆を早く安心させてあげたい衝動と、本当に帰ってくるのかと不安な気持ちを誤魔化すための二重の感情が入り交じった結果、私の足を動かせたのだ。

無我夢中で走り回って、途中で誰かとすれ違ったような気がするが、今の私は気にしている余裕はない。

そして皆がいるドッグへ戻ってくると、先程の琴吹さんの話をした。

それを聞いていた皆の反応は、まちまちだった。

ある者は帰ってくるのかと安堵する者もいたり。

ある者は本当に帰ってくるのかと懐疑的になる者も然り。

かく言う私自身は、ハッキリとどちらとも言えない。

 

納紗 幸子

「………?シロちゃん、浮かない顔してますけど、大丈夫ですか?」

宗谷 ましろ

「え?ああ、いや。大丈夫だ」

 

急に話を振られたので、反応が遅れてしまった。

浮かない顔をしていると心配されて、大丈夫だと答えたのは嘘ではない。

 

納紗 幸子

「ふふ………」

宗谷 ましろ

「?どうしたんだ?私の顔に何か付いてるのか?」

 

顔に汚れや頭に寝癖が付いていないかを、近くの鏡で見たり触れたりするが、そんなモノはない。

笑う要素なんて、どこにもないぞ?

 

納紗 幸子

「いえ、違いますよ。あの時の航海で同じ事があったじゃないですか」

宗谷 ましろ

「あの時の航海?………ああ、私達の世界に居た時の話か」

 

彼女に指摘されて、よくやく思い出した。

――――この世界へ飛ばされる前、私達の世界では学校のカリキュラムの一環として、海洋学習が行われていた。

だが途中でトラブルに見舞われ、私達がお尋ね人にされる事態が起こったのだ。

その途中で岬さんが”艦長”の役目をほっぽり出して、大事な友達を助けに行った時の話をしているのだろう。

我ながら、あの時から随分と時間が経っているように感じる。

 

宗谷 ましろ

「あの時の気持ちを、また味わうことになるなんてな」

納紗 幸子

「あれから艦長、成長しましたよね。前は大事な人の所へはすぐに飛び出しちゃいましたけど、それもある程度は抑えられたようにも見えます」

宗谷 ましろ

「誰かを待つのがこんなに苦しいなんて、入学したての頃は考えられなかったよ」

 

ガックリと両肩を落しては、その仕草が別に嫌でないのに気付く。

何だか苦労人を演じてるみたいだが、まぁ実際は苦労人なので別に良いだろう。

 

黒木 洋美

「ん?ねぇ、麻侖、あれって………」

柳原 麻侖

「どうしたんだ、クロちゃん?」

 

と、先程まで訝しげな表情をしていた彼女が驚愕した表情で指を指していた。

私達は釣られて、彼女の指先を見てみると――――

 

 

全員

「「「「「「岬さん!!(艦長!)」」」」」」

 

 

そこには――――待ち焦がれたあの人の姿があった。

ただ彼女は、女性におぶられる形であるのは、些か疑問に感じた。

しかし今は彼女の生還を喜ぶべきであると思い、そんな考えはすぐに頭の端へと追いやられた。

 

宗谷 ましろ

「無事でしたか!?奴らにっ、奴らに何をされたんですか!?」

岬 明乃

「………大丈夫だよ。本当に大丈夫。ただ、話を聞かされた後に気を失った、だけだ、よ………」

 

自身の足で立ち上がるも、どこかフラついていて、足取りも覚束ない。

私とおぶっていた女性は、とっさに岬さんを抱き上げる。

 

宗谷 ましろ

「艦長!!」

岬 明乃

「えへへ、ごめんね?何だか、力が入らなくて」

??????

「無理しないでね?………えと、ところであなた達が、あけ………こ、この子の仲間かな?」

 

彼女をおぶっていた女性が、どこか要領を得ない口調で私達に問うた。

 

納紗 幸子

「そうです!岬さんは、私達の大事な仲間なんです!」

柳原 麻侖

「おうよ!艦長はマロン達の大事な家族なんでい!」

伊良子 美甘

「だからその、岬さんを送ってくれてありがとうございました!」

 

口々から語られる、岬さんに向けられた言葉。

1つ1つを聞くかのように女性は、耳を傾けていく。

その傍ら、皆の目をジッと見つめていた。

まるで私達を探っているかのような、決して気分が良くなるし船ではない。

だけどその視線もすぐに終わり、彼女は口にする。

 

??????

「………そっか。分かった………ほら、もう歩ける?」

岬 明乃

「あ、うん。その、ありがとう。お――――」

??????

「おっと」

 

何か言いかけた岬さんの口を、女性は人差し指で抑えた。

そして岬さんの耳元で何かを呟くと、岬さんはコクリと頷く。

さらには、岬さんの頭を撫で始めたのだ。

 

岬 明乃

「もう、そこまでしなくて良いのに………」

??????

「ごめんね。どうしてもやってみたかったからさ」

 

2人を見ていると、まるで姉妹のようだ。

今の現状を表現すると、そんな感じだ。

満足したのか、女性は岬さんの頭から手を離して、岬さんを庇うように前へ出た。

 

??????

「”はれかぜ”クラスの皆さん、この子をこれからもよろしくお願いします――――それと」

 

この場の全員に一通り、改めて視線を配り、最後に私の方を向いた。

スッと手を伸ばして私の肩を掴まれると、彼女の傍まで引き寄せられる。

 

宗谷 ましろ

「わわっ!?」

 

あまりに突然だったので、反応が遅れたが、どうにか転ばずに済んだ。

ただ、後から来た彼女の言葉に、私は全身が身震いを起こした。

 

??????

「もし次に明乃ちゃんを危険な目に遭わせたら、私は絶対にあなたを許さないから」

 

耳元で呟かれた、明確な警告。

幸いと言うべきか言わないべきか、耳元で言われたので、他の仲間には聞こえなかったようだ。

私は思わず、彼女の顔を見てしまった。

彼女の両目はどこか濁っていて、暗い藍色の目はどこまでも吸い込まれそうで。

でも睨まれた蛇の如く、こちらを決して離そうとしない。

だから迂闊に身動きが取れなかったのだ。

 

宗谷 ましろ

「は、はいっ」

 

情けない返事しか出来なかった自分が不甲斐なく思う。

だが彼女は返事を貰えたから良かったのか、次の瞬間にはもう元に戻っていた。

もう、さっきの暗い目はどこにもなかった。

 

??????

「ならいいよ。でもごめんね?脅かすようなこと言って」

宗谷 ましろ

「いえ。ただ急変ぶりに度肝を抜かされただけですよ。それに、岬さんとの関係性は分かりませんが、岬さんを大事だって思ってるみたいで、安心しました」

??????

「ごめんね。明乃ちゃんとの関係はまだ言えないんだ。ただ、時が来たら絶対に言うから、それまで待ってて?」

宗谷 ましろ

「はい」

岬 明乃

「………」

西崎 芽依

「ちょっとー、2人ともさっきから何の話しをしてるのさ?皆をほっぽってさー」

立石 志摩

「うぃ」

 

ここで、周囲の状況を見てみると、皆は私達のやり取りを遠目で見守っていた。

ただ、内容が全く聞こえなかったため、自分達だけのけ者にされてるみたいで、嫌だったようだ。

 

宗谷 ましろ

「あー、すまない皆。大した話じゃないから、話す必要はないって判断したんだ」

知床 鈴

「ほ、本当ですか?」

岬 明乃

「本当だよ!それより、みんなごめんね?心配をかけちゃって………」

杵崎 ほまれ

「ホントだよー、もう。でも無事に戻って来れたし、晴風も戻って来れたし!今晩はパーティーにしましょう!」

杵崎 あかね

「あ!!いいねほっちゃん!美甘ちゃんも手伝ってくれる?」

伊良子 美甘

「もちろんだよ!」

岬 明乃

「ヒカリちゃん達、砲雷科のみんなで兵装の異常がないかのチェックをお願い

小笠原 光

「まっかせてよ、艦長!よし、他の子達に遅れないようにするよ!」

砲雷科

「「「「「おおー!!!」」」」」

岬 明乃

「マロンちゃん達は」

柳原 麻侖

「機関の点検だろ?んなもん言われなくても、きちんとやるんでい!」

黒木 洋美

「でも艦長。艦長はしっかり休んでいて下さいね?あいつらに捕まったんですから、ね?」

岬 明乃

「でも」

柳原 麻侖

「艦長!クロちゃんの言う通りでい。今は大人しく休んどきな。あとはマロン達でやっとくからよ!」

??????

「そうだよ。仲間に頼ることも大事だよ」

岬 明乃

「みんな………分かったよ。そうさせてもらうね?」

 

とっさの彼女の機転で、私達が話した内容は有耶無耶になった。

再び岬さんがこちらへ向くと。

 

岬 明乃

「シロちゃん、後はお願いできるかな?」

宗谷 ましろ

「ええ、岬さんもちゃんと休んで下さいね?」

鏑木 美波

「艦長、念のためだ。医務室で検査をしたいのだが」

岬 明乃

「あっ、でもその前に志保さんはいるかな?ちょっと、その、話したいことがあって」

 

そうだ、すっかり忘れていた。

岬さんが帰ってくるのが嬉しくて、野村さんに伝えるのをすっかり失念していた。

………まぁ、絶対に岬さん本人の前では言わないが。

 

野村 志保

「あっ、明乃!」

 

タイミングを見計らったかのように、野村町長が現れた。

後ろには琴吹さんが車いすを押していた。

 

岬 明乃

「志保さん………ただいま」

野村 志保

「ええ、お帰りなさい」

琴吹 紬

「あの、お話し中すみません。私はもうそろそろ戻らないといけないので、これで失礼します」

??????

「私も、もう戻らないといけないから、行くね?またね、明乃ちゃん」

岬 明乃

「うん、ありがとう!またね!」

野村 志保

「分かったわ。ありがとう、協力してくれて」

宗谷 ましろ

「ありがとうございました!!」

 

お礼を言うと、琴吹さんと彼女は笑みを返すと、そのまま去って行った。

 

岬 明乃

「志保さん、この後話したいことがあるんです。大丈夫ですか?」

野村 志保

「ええ。ならさっきの部屋に行きましょう。私からもちょうど話したいことがあったし」

岬 明乃

「………はい」

 

神妙な顔付きで、頷いた。

なんだ?私達にも聞かれたくない内容なのか?

 

野村 志保

「なら、そこで話しましょう。悪いけど、ましろ達は先に戻ってて?」

宗谷 ましろ

「はい」

岬 明乃

「後はお願いね」

 

2人はその場から離れていった。

他の仲間達も各々の持ち場に戻ったのか、ほとんどが移動した後だった。

2人が話したい内容も気になるが、今は自分に出来ることをしよう――――

 

 

――――そして、夜になった。

時間は午後7時を回ったところだ。

あれから数時間近く経ち、晴風奪還と岬さんの脱出成功パーティの準備も無事に済んだ。

ちなみに、各科の報告だとどこも異常は見られなかったとのこと。

どこかに異常がないかの不安もあったが、それを聞いて安心する。

 

場所はここ、晴風がいるドッグである。

そこをパーティー会場として設営したのだ。

 

勝田 聡子

「にしても艦長、遅いぞなー。町長と話があるって言って、もう何時間も経つぞな」

内田 まゆみ

「そうだね。とても大事をしてるんじゃないかな?」

広田 空

「何かありましたかな?」

 

………確かに話すにしては長すぎる。

と、そこまで考えたとき、私の脳裏に嫌な考えが浮かんだ。

………連中に捕まった際に、脳内を施されてしまって、例の記憶が蘇って――――

 

駿河 留奈

「あ、艦長だ!」

宗谷 ましろ

「えっ?」

 

だけど、すぐにその考えは否定されることになる。

トレーを押してる岬さんと、自分で車いすを押してる野村町長が現れると、全員が歓迎した。

良かった、2人に何事もなくて………。

 

野村 志保

「あら、みんな待ってるわね。ごめんなさいね、かなり待たせちゃって」

宗谷 ましろ

「いえ、大丈夫ですが………」

岬 明乃

「ごめんね、でもみんなに渡したいモノがあったから、時間が掛かっちゃった」

納紗 幸子

「渡したいモノ?お頭、そりゃなんですかい?」

岬 明乃

「はい、これだよ。ちゃんと人数分あるから、焦らないで持って行ってね」

 

押してきたトレーから、はい、とカードの様なモノを渡される。

見てみると、カードには氏名と血液型、生年月日が記載されていた。

 

伊勢 桜良

「艦長、これは?」

八木 鶫

「IDカードだね。どこかの施設へのパスかな?」

岬 明乃

「そうだよ。ただ、施設じゃなくてね………志保さん、説明をお願いします」

野村 志保

「オッケー。と、その前に、あなた達の今後の対応について説明するわ。良く聞いてね?」

 

今後の対応?

それってつまり………今後の私達の生活についての説明だろうか?

だから岬さんはその説明を受けていたから、来るのが遅れたのか。

ならば、今後の私達の在り方について左右されるではないか。

自然と姿勢がさらに真っ直ぐのびる。

 

野村 志保

「今回の事件を受けて、私達はあなた達を正式にこの町で保護することに決めました」

宗谷 ましろ

「っ!!」

西崎 芽依

「保護、って?」

岬 明乃

「私達は、この世界の人間じゃないでしょ?だから、異世界の人間がこの世界に影響を与えないために、この町で保護するプログラムに入って貰うってだけだよ」

知床 鈴

「それって、私達ここに閉じ込めるってこと!?」

若狭 麗央

「ええ!?嫌だよ!隔離なんてっ」

野村 志保

「落ち着いて!閉じ込めるなんてことしないから安心して。だからそのIDカードを皆に渡したのよ。そのカードはこの町を自由に過ごせるためのパスだと思えば良いわ」

岬 明乃

「そのカードはね、食事や寝床を提供するための、いわば身分証みたいなモノなの。または、他の施設を扱えるようにするためにも使うから、なくさないでね?」

鏑木 美波

「質問がある」

野村 志保

「あら、なに?」

岬 明乃

「どうしたの?」

鏑木 美波

「他に使える施設があると言ったが、図書館も使えるのか?」

野村 志保

「もちろんよ。そうだ、使える施設のリストを用紙にして送るわ。それを参考にしながら、町を利用していけばいいわ」

和住 媛萌

「はいはーい!その施設使うなら、お金が掛かると思いまーす。私達、そこまでお金持ってないですけど、どうすればいいんですか?バイトとかしても良いんですか?」

野村 志保

「そうね、そこは自由にして貰っても構わないわ。身元はこちらで保証するし、バイトはして構わないわ。でも銀行強盗とかして、お金がっぽがっぽはダメだからね?」

和住 媛萌

「し、しませんよそんなこと!」

岬 明乃

「あ、あははは………」

野村 志保

「話を戻すわね。それでね、皆が生活する分には補助金が出るのよ。でもね、どこかへ行って遊ぶ―、となると心許ないでしょうね。だからバイトは許可するわ」

宗谷 ましろ

「………つまり、私達は身元がないから外部から攻撃されたと?」

野村 志保

「言い方は悪いけど、そうなってしまうわね。いわば、異世界の人間は彼らにとっては都合のいい、実験材料なのよ。今回の場合、あなた達よりもあなた達の持ってる船に興味を持ったようだけど」

 

それで合点がつく。

身元や身分がない異世界の人間は、”身の安全を保証できない”人間だ。

仮に拉致されようが殺害されようが、心配する人間はいない。

警察や周囲へ知らされる心配もない。

だから――――

 

野村 志保

「だからこっちから先手を打つわ。あなた達を私達の身元にすることで、手出し出来ないようにするの」

納紗 幸子

「なるほど。それなら私達を狙う人達から身を守るんですね………お頭、こっちの土地荒らされたしまいにゃ、こちとらしまいじゃ」

内田 まゆみ

「なるほど。それなら安心して外へ出られますね」

駿河 留奈

「やったね!これで麻雀大会に出られるね!」

伊勢 桜良

「あの時はお面を付けてたから、助かるわね」

 

野村町長の話を聞いて、肩の荷が降りた気がした。

これで、もうこちらの身分を隠す必要がなくなるのだから。

でも。

 

宗谷 ましろ

「こちらの正体については、引き続き隠しておいた方が良いでしょうね。いくら身元が保証されていたって、これでは意味がなくなってしまいそうだ」

野村 志保

「そうね。そして外へ出歩いたとしても、決して警戒は怠らないでね?ま、これも後で送られてくるPDAを常に持ち歩いていれば問題ないから、それに関しては明乃から説明よろしくね?」

岬 明乃

「分かりました」

野村 志保

「以上で説明を終わります。他に質問がなければ、私はこれで失礼するわね?」

納紗 幸子

「パーティーには参加されないんですか?」

野村 志保

「本当は参加して祝いたかったんだけど、次の仕事があるから、参加できそうにないわね。ごめんなさいね?」

宗谷 ましろ

「いえ、仕事なら仕方ありませんよ。頑張って下さい。それと………」

 

私は岬さんとアイコンタクトすると、彼女は察したのかコクリと頷いた。

岬さんは帽子を取ると、私と一緒に頭を下げた。

 

岬&宗谷

「「この度は、多くの支援をして下さり、ありがとうございました!」

クラス全員

「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」

野村 志保

「別にこれくらいどうってことないわ。それよりも、あなた達が全員無事なのが嬉しいわ。こちらこそありがとね」

 

彼女もまた、微笑みながらウィンクすると、車いすを漕ぎながらここから去って行った。

彼女が去ってから、私の中にある大きな不安が完全に払拭された気がした。

………これで、目の見えない敵に怯える必要はなくなった。

だからといって警戒を解いてはならないが、少なくとも大きな負担となりはしないだろう。

今はそう思うことにしよう。

 

岬 明乃

「よしみんな!晴風奪還の祝勝会と、みんなの身の安全が保証されたことを祝って、パーティーを始めよう!それではシロちゃん。乾杯の音頭をお願いします」

宗谷 ましろ

「ふえぇ!?わ、私が!?」

岬 明乃

「うん!」

宗谷 ましろ

「っ………」

 

すると、皆の視線が私へと集中した。

岬さんに急に振られてしまい、私は戸惑ってしまうが、長く待たせるのも悪い。

自分が今思っていることを、正直に話そう。

一度だけ咳払いすると。

 

宗谷 ましろ

「みんな、今日は本当にご苦労だった!晴風と、岬さんが無事に戻ってこられたことを、大変嬉しく思う。

私達は、今日という日を無事に誰一人として欠けずに、生き延びることが出来た。

明日はどんな出来事があるかは分からない。

だけど少なくとも、私達には明日がある!

高く険しい壁を乗り越えられた私達に待っているのは、明日という未来だ!

そのことを思い、今日は目一杯、騒いでくれ!それでは乾杯!」

 

全員

「「「「「「乾杯!!!」」」」」」

 

西崎 芽依

「カンパーイ!!タマ、今日は飲みまくるぞ!」

立石 志摩

「うぃ、うぃ!」

小笠原 光

「ねぇねぇ、この後ダーツやらない?晴風に積んであるのがあったからさ!」

日置 順子

「おっ、いいね!いいね!」

武田 美千留

「さんせー!」

松永 理都子

「明日はどこへ行こうか?決めてある?」

姫路 果代子

「まだ決めてないよー。これ飲んでから決めようかなぁ」

柳原 麻侖

「よっしゃ!ならマロンは――――」

 

――――この後のドンチャン騒ぎは、真夜中まで続いた。

その騒ぎ様は、生まれて15年間の中で最も喧しかった。

でもその喧しさは、全くと言っていいほど嫌な感情はなく。

むしろ心地よさを感じていた。

 

ようやくだ。

ようやく、私達の中で安寧を見つけられた気がする。

異世界へ飛ばされて、いきなり殺人事件に出くわして。

終わったと思ったら、今度は晴風が盗まれて。

奪還に成功したものの、岬さんが敵に捕まって。

無事に帰ってきてくれた時の安堵感は、言うに及ばず。

その間に、心情的に休めた時間は僅かだった。

 

まだ、元の世界へ戻れる方法は見つかっていないけど、それでも。

それでも全員で帰還すると言う”条件”を満たして。

元の世界へ戻るためのヒントを出してくれる”仲間”が出来て。

方法を実行するための”道筋”を模索して。

やることは沢山あるけれど、今だけは。

今だけは、この余韻を楽しむとしよう。

それくらいは、いつも不運に見舞われる私だって、味わっても良いだろう?

 

岬 明乃

「――――ちゃん、シロちゃん!!」

 

隣に居る岬さんに声を掛けられて、我に戻った。

そこには、手を差し出した彼女がいた。

微笑みながら、一言。

 

岬 明乃

「私達も行こう!!」

宗谷 ましろ

「………はい!」

 

差し出された彼女の手を握って、皆の元へと向かっていく。

楽しそうに騒いでいる、仲間の元へと、私達2人は突き進んでいった。

その間に、私は自然と握る手が強くなっていくのを、私は気付かなかった――――

 


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