High School Fleet ~封鎖された学園都市で~   作:Dr.JD

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――――テクノロジーは基本的には中立である。我々が用いる時だけ、善悪が宿る――――
ウィリアム・ギブソン

どうも皆さんおはこんばんにちわ。
作者です。
やっと話がまとまったー!!
前作から1ヶ月以上が経過してしまいました。
リアルでは栃木へ引っ越し、肉体労働に近い仕事ばかりしていて、疲労が溜まりつつある状態に・・・・・・・・。
まぁそんなことは端に置いておいて、テンション高くしていきましょう!

それでは第2章・第1話をどうぞ。


第2章 IJN Y-467 〜横須賀海洋女子学校 vs Team APA Force〜
第14話 新たな戦い


[新たな戦い]

2012年、7月22日、10;00;00

高校1年生 陽炎型航洋艦五番艦「晴風」 艦長

岬 明乃(みさき あけの)

茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 ??????

 

岬 明乃

「………」

宗谷 ましろ

「………」

 

重たい空気が、この場を支配していた。

外の天気は、ちょうど雨が降っていて、さらに普段とは違う空気が漂っている。

雨に濡れないようにお互いに傘をさしている。

だけどお互いの距離がとても狭い。

身を寄せ合って隠れている、と表現した方が正しいだろう。

そして、今この場に居るのは私とシロちゃんだけだ。

 

宗谷 ましろ

「………引き返すなら、今ですよ?」

 

隣で息を潜めているシロちゃんが、私の方へ振り向いた。

その顔は、形容するには私の頭じゃ表せないくらい、妙な表情だった。

しかしそんな思いを言ったら、間違いなく白い目で見られるだろう。

一瞬だけだけど、ドキリとした。

こちらの気持ちを見透かされたような気がしたから。

その時、シロちゃんの両目と合わさった。

その目は、絶対に後には退かない、いや、退くことはない意思の現れだった。

だから、私はそれに答えなければいけない。

なぜなら私は、晴風の艦長で、みんなのお父さんだから。

 

岬 明乃

「大丈夫だよシロちゃん。後は、進むだけだから」

宗谷 ましろ

「はぁ、よくここまで来れたなと、我ながら感心しますよ。ま、あなたとあの人の力添えがあってのものでしょうけど」

岬 明乃

「へへへ、そうだね。あの人にも色々とお世話になったからねぇ………」

宗谷 ましろ

「………もうそろそろ時間だ。皆に合図を」

岬 明乃

「はい」

 

シロちゃんの手には、トランシーバー。

私はそれを受け取ると、指でスイッチを押し、マイクに向かって。

 

岬 明乃

「これからオペレーション・ソードフィッシュを発動します。みんな、気を付けて」

 

無線の向こう側から返答はなかったけど、みんなが頷くような感じは伝わった。

その一言だけで十分だった。

後は、予め決めた作戦内容を順当にクリアしていくだけだ――――

 

私とシロちゃんは軍帽を被り、舗装された道を歩いて行く。

数分だけ歩くと、やがてフェンスに囲まれた巨大な施設へと辿り着いた。

その巨大な陰が写すのは、様々な分野の研究を行っている施設である。

表には『中央研究所』と明記されている。

国の研究を担っているだけあって、警備もかなり厳重であった。

その証拠に、正面にあるゲートに見張り員のようなモノが中座している。

モノと言うには語弊があるが、一言で表すと要は人型の警備ロボットが見張っているのだ。

人型でも、腕や胴体、足回りはかなり細い。

だけど歩き回っているところを見るに、バランスを保っての走行は可能であるようだ。

アンテナのような細い棒が上へと伸びているところを見るに、背中には大きな通信機が搭載されている。

 

気になるのは、彼らの両手に持っているモノだ。

あれは恐らく、事前に渡された情報に記載されていた、ブラスターと呼ばれる銃の類いだ。

弾丸を撃つのではなく、エネルギー弾を発射するという、極めて単純な代物だ。

だが、もはや技術力において訳の分からない域までに達しており、理解に苦しんだのは言うまでもあるまい。

改めて、この世界の技術の発展に少しだけ驚いてしまった。

武装した警備ロボットの数は3体ほど。

 

隣にいるシロちゃんに視線だけを合わせて、コクリと頷く。

そしてゲート前までやって来ると、警備ロボットに止められた。

 

ドロイド兵1

「身分証を拝見」

宗谷 ましろ

「はい」

 

シロちゃんが警備ロボットに身分証を提示する。

もちろんこの身分証は偽物である。

この世界に籍を置いていない私達が、身分証なんて発行できるはずがない。

これはある人物から入手した代物である。

渡した身分証を奥でコンピューター操作しているロボットへ渡す。

ブラスターから目を離せず、自然と心拍数が上がる。

 

ドロイド兵1

「見かけない顔だな」

宗谷 ましろ

「本日付で配属になったのだ、知らないのは当たり前だろう」

ドロイド兵2

「こっちは?」

宗谷 ましろ

「主任研究員にして、幹部候補生として抜擢された方だ。主任、お願いします」

 

そう呼ばれて、私は軍帽を外さないまま警備ロボットの前に出た。

出来るだけ語気を強めにして、相手に威圧感を与える。

 

岬 明乃

「………岬明乃だ。本日付で本部署に配属になった、よろしく」

ドロイド兵3

「おいお前達、失礼だぞ!彼女が言ってることは本当だ!岬主任、大変失礼しました。確認が取れましたので、どうぞお通りください」

ドロイド兵1,2

「「失礼しました!!」」

岬 明乃

「ありがとう」

 

奥でコンピュータ作業していたロボットが急に焦りだして、ゲートを上げた。

片手だけ上げて、シロちゃんと共にゲートをくぐり抜けた。

そしてすぐに真っ白の研究所に入り口から入ると、ここでようやく心拍数が低下する。

――――中も同じように白く塗られた通路が広がっており、部屋も数多く存在している。

マップを確認してみると、この研究所は5階建てのようだ。

持っていた傘を傘入れに刺そうとして、その傘入れがないことに気付く。

 

宗谷 ましろ

「ふぅ、どうにか怪しまれずに済みましたね」

岬 明乃

「ふふっ、さっきは格好良かったよ」

宗谷 ましろ

「………先を急ぎましょう、彼女達もそろそろ配置が終わるでしょうし」

岬 明乃

「そうだね」

 

中に無事に入れたとは言え、まだ油断は出来ない。

いつこちらの身分が偽物であるかがバレてしまわないか、不安だからだ。

通路ですれ違うのは、人ではなく先程の様な警備ロボット達ばかりだ。

すれ違う度に、もう事前に知らされているからか、皆からは敬礼されるので、こちらも返礼する。

 

………思って感じたのは、この建物からほとんど人の気配がしないと言うこと。

研究機関と名付けられている以上、最低でも研究員や従業員がいてもおかしくないはず。

一応私は、設定上では主任研究員と位置付けであるが、実際は何の研究を行うかは分からない。

分野では美波さんが詳しいけど、彼女は今この場には居ない。

専門分野ではないけど、それを差し引いても私でも分かる。

ここには、人は居ない。

 

まるで人だけを切り離して、ロボットの労働環境を作ろうとしているかのような。

 

宗谷 ましろ

「人が居なかったのは、幸いでしたね。まだ私達の正体に気付けて無いようです」

岬 明乃

「でもここは、私達の船がある場所であり、同時に船を盗んだ人達の本拠地でもあるよ。気を引き締めていこう」

宗谷 ましろ

「………そうですね」

 

私に指摘されたのか、苦虫を潰すような表情のまま歩き出す。

私は特に気にせず彼女の後に続いた。

………この後の流れとしては、私達は一度、自身の職場(研究室って言ってたかな)に向かい、そこで警備をしてるロボットへ挨拶する。

その後でこの施設を案内して貰う手筈になっている。

そこで晴風の所在を確認して、通信機で密かに伝えてから、機関科と艦橋組が晴風を動かして、脱出。

私達も隙を見計らってこの研究所から脱出する算段だった。

 

宗谷 ましろ

「着きました。ここのようですね」

岬 明乃

「うん」

 

計画の流れを確認していると、私達はいつの間にか研究室の前まで来ていた。

シロちゃんはIDカードをかざした。

扉はスライド式で、シューッと音を出しながら開き、中へ入っていった。

中へ入ると目に入ったのは、席から慌てて立ち上がって敬礼するロボットの姿である。

他にもドロボットは複数居て、部屋の奥から敬礼している。

こちらも敬礼で返す。

 

ドロイド兵

「研究お疲れ様です!」

岬 明乃

「警備ご苦労」

ドロイド兵

「そう言って頂けるとは光栄です!荷物はこちらで預かります」

宗谷 ましろ

「ありがとう」

 

シロちゃんはアタッシュケースをロボットに預ける。

持っていた傘を机に立てて、ようやく両手が空いた。

 

ドロイド兵

「それにしても、あなた方がまともな方でよかったと思ってます」

宗谷 ましろ

「?前任者に問題でもあったのか?」

ドロイド兵

「前任者は我々を道具のように扱い、更迭されました。正直に言って、ホッとしています」

 

これは驚いた。

ロボットでもこんな人みたいな感情を持ち合わせているなんて、思ってもみなかった。

 

岬 明乃

「………大変な苦労をしたのだな。大丈夫だ、我々は君達を粗末に扱わない」

ドロイド兵

「ありがたきお言葉」

 

自然と出た言葉に、私もシロちゃんも驚いてしまった。

別に彼らに同情するつもりなど無かった。

私達の船であり、今は帰る家として唯一存在してるあの子を盗んでいった人達の仲間を、私は許す気にはなれなかった。

いわば、私達は少なくとも良好な関係ではないのだ。

なのにロボットに同情するなんて、私は………。

 

ドロイド兵

「主任、もうそろそろお時間です。これから当施設を案内していきます」

岬 明乃

「よろしく頼む」

 

彼に案内されるように、私達はこの巨大な施設を歩くこととなった。

――――簡単に言うと、この研究施設は主に海洋技術を向上させるために設けられた研究所のようだ。

海流を想定した大規模実験施設やメガフロート技術を用いた耐久試験などを行っている。

施設を案内している傍ら、こんな話を聞いた。

実際、アメリカとヨーロッパが共同開発した、地中海に建設されたテラグリジアと呼ばれる超大型フロートに、この研究分野が大いに活躍したそうだ。

このロボットはお喋りが好きなのか、更に話を続けている。

ヨーロッパは気候変動対策、アメリカはアフリカ大陸の電力供給戦略と目的から建設されたようだ。

しかし最新鋭のインフラ設備を整えたこの都市は、長くは続かなかった。

開発に反対していたテロ組織、えと、名前はなんて言うか忘れたが、彼らが行ったバイオテロによって都市の被害は拡大。

問題解決するために派遣されたFBC?によって被害は食い止めたものの、安全面を考慮して都市は封鎖。

今でも都市には誰も入られないように、厳重に管理されてるとのこと。

 

ドロイド兵

「この事件は世界に衝撃を与えました。テロ組織は壊滅したものの、バイオテロが世界中で問題視されるようになったのです」

宗谷 ましろ

「そうだったのか………」

ドロイド兵

「てっきりご存じだったのかと」

岬 明乃

「研究に没頭する日々が続いたのでね。事件発生は知ってたものの、詳細までは知らなかったからな」

 

そんな大きな事件が起ってたなど、誰が予測できただろうか。

私は慌てて弁明するも、彼はそこまで深く追求することはしなかった。

………そう言えばバイオテロとは違うが、ウィルスに関する事件なら私達の世界でもあった気がする。

何だったかな?

 

岬 明乃

「うぐっ!!」

 

記憶を掘り返そうとした途端、激しい頭痛に見舞われる。

吐き気もするせいか、壁に寄りかかるように寄り添った。

頭を抑えるが、なかなか引いてくれなかった。

 

宗谷 ましろ

「主任!?大丈夫ですか!?」

ドロイド兵

「すぐに救護班に連絡をっ」

岬 明乃

「いや、いい。もう頭痛は引いたから」

 

胸を抑えるように、何度も荒い呼吸を繰り返した。

少しずつ痛みも引いていき、輪郭もハッキリと映し出されていく。

頭も切り換えていこう。

どうやら私は過去の記憶を思い出したら、頭痛と吐き気がするようだ。

帰ったら美波さんに診て貰おうかな。

 

ドロイド兵

「案内を続けても問題ありませんか?」

岬 明乃

「あ、ああ。問題ない。続けてくれ」

ドロイド兵

「はっ。それでは次は、地下施設における重要な拠点となるドッグになります」

 

!!

彼から出た言葉に、思わず笑みが零れそうになる。

そこに行けば、目的の晴風回収を行えるかもしれないからだ。

私はシロちゃんにそっとアイコンタクトを取ると、コクリと小さく頷いた。

頭痛に耐えながらも、私は後を追った。

 

それから再び施設の奥へと案内されていく。

今度はエレベーターを使用して下の階へと移動する。

エレベーターを動かすにはIDカードをかざさないと、ボタンを押しても動かせないようだ。

これ程の厳重なセキュリティを設けているのは、やはりここが研究機関だからか。

警備ロボットとシロちゃんは何かを話しているようだが、ほとんど頭に入らなかった。

エレベーターが止まると、扉が両サイドへスライドして開いた。

乗った時間からするに、ここはそこまで地上から深い場所に作られたのではないと考えた。

またも目の前には長く続く通路があり、警備ロボットが先へ歩く。

 

ドロイド兵

「到着しました。こちらが地下ドッグになります。案内します」

岬 明乃

「ああ、頼む」

ドロイド兵

「ここは研究所における最重要施設となっております。ここでは海上プラットフォーム開発における、自然災害を想定しての耐久試験を実施しております。他にも船舶の開発や自動化を施すための試験も兼ねております」

岬 明乃

「概要は把握した。しかしなぜ船舶の自動化まで行っている?」

ドロイド兵

「人手不足を解消するためです。少子高齢化問題は解決したとは言え、国防を担う人間の数を補うためだそうで」

岬 明乃

「ふむ、そうか」

宗谷 ましろ

「………!!あれを見てください」

 

シロちゃんに肩を突かれたので、その方を見てみる。

すると私は思わず掛け出しそうになるが、シロちゃんが肩を掴んでいたので助かった。

窓の下から見える、ドッグの内の一つにあったのだ。

私達の船である、晴風が。

今はタンクから燃料を入れる作業を行っていて、ホースが伸びている。

晴風の傍には数体の警備ロボットが居る。

あれをどうにかしないと、突入組が中へ入れない。

 

岬 明乃

「あの船はどうしたのだ?」

ドロイド兵

「はっ、数日前に鹵獲した船舶であります。廃港に放置されているのを警備の者が発見したので、回収しました」

岬 明乃

「………警備と言っていたな。我々以外に人間は居ないのか?」

ドロイド兵

「本研究所の幹部がおります。先程の警備は、外部機関から契約している部隊のことです」

岬 明乃

「外部機関だと?」

ドロイド兵

「PMCアトラスの社員を雇っています。大丈夫です、彼らは優秀ですので研究所が襲撃されても我々と彼らであなた方をお守りします」

岬 明乃

「よろしく頼む」

 

やはり、と私の中で結論を出した。

彼女の言ったとおり彼らは、いや、ここの研究所は人を使いたがらない。

理由までは定かではないが、私にとってはどうでも良いことだ。

それに、彼女の言葉通りとなった今、彼女は信じても問題ないだろうと結論づける。

正直に言って全く信用してないわけではないが、信じてるほどでもなかった。

 

岬 明乃

「その鹵獲した船を見たい。案内を頼めるか?」

ドロイド兵

「構いませんが、お眼鏡に叶うかどうか」

岬 明乃

「私が見たいからそうしたいだけだ。興味あるモノに飛び付くのは、研究者としての理念だ」

ドロイド兵

「失礼しました」

 

研究者っぽい言葉を並べてみたが、研究者でもない私でも感じた。

さっきの言葉はないな、と――――

 

程なくして、ドッグへと到着した。

広大な敷地に数多くある巨大な機器類に驚きながらも、その中で変わらないモノがある。

それは懐かしいという感情だ。

たった数日前の出来事の筈なのに、もう随分と昔のように感じられた。

晴風の傍に来ると、先程の警備ロボットが会話を中断し、敬礼する。

こちらも敬礼し、再び晴風を見上げた。

 

ドロイド兵

「こちらが鹵獲した船舶です。バックにはれかぜとあり、武装を見たところこれは駆逐艦に分類されます」

岬 明乃

「ほう、これが………」

 

初めて見るような反応をするが、内心ではかなり安心しきっていた。

てっきり船体を”解体されてしまっているかもしれない不安”があったからだ。

だけど目の前で実物を見て安心しないわけがない。

ちゃんと、残っていたのだ。

数々の危機を共に乗り越えてきた、32人目の仲間が。

 

岬 明乃

「この船の処遇は?」

ドロイド兵

「はっ。燃料補給が完了次第、付近の近海を航行するとのことです。航行データや運用レポートの作成が完了次第、破棄するそうです」

 

破棄。

その言葉を聞いた途端、私は我を忘れてこのドロイドに飛び掛かりそうになる。

だけど手先が動いただけで、実際には何も起こらなかった。

そう、願いたい。

 

岬 明乃

「そう、か。残念だ、こんなに綺麗な船体なのに」

ドロイド兵

「上層部からの命令だそうなので、致し方がありません。もしよろしければ、幹部に直談判しては如何でしょう?確か本日は会議のために出席されてると思いますが」

岬 明乃

「ありがとう。では――――」

ドロイド兵4

「岬主任」

 

私達の中に、もう一体のドロイドが話に割って入って来る。

見た目が同じドロイドが私に向かった。

 

岬 明乃

「どうした?」

ドロイド兵4

「幹部がお呼びです。至急、会議室に出頭するようにと」

岬 明乃

「………出頭だと?」

 

不覚にも間抜けにオウム返しとなってしまう。

これは、予想だにしなかった事態だ。

このままでは計画に支障を来してしまう。

計画ではシロちゃんとは基本的には別行動を取らないことで成り立っている。

仮に不足の事態に陥っても、互いにカバーできるから。

しかし分断されては脱出する際に面倒だ。

だがこのまま何も言わないのも、彼らに怪しまれる。

先に口を開いたのはシロちゃんだった。

 

宗谷 ましろ

「挨拶なら後でする。今は」

ドロイド兵4

「すぐに出頭せよとのことです。移動を」

宗谷 ましろ

「………分かった、なら行きましょう」

ドロイド兵4

「いえ、呼ばれているのは岬主任だけです。宗谷監察官は引き続き施設の案内を行います」

岬 明乃

「なぜバラバラに出頭を?」

ドロイド兵4

「それ以上はお答えできません」

 

このままでは埒が明かない。

シロちゃんの顔を見ると、表情を僅かに歪ませているだけで済んでるが、内心では焦っているに違いない。

私としてもシロちゃんと離れ離れになるのは得策ではないのは明らかである。

しかし沈黙はどう捉えられるか分からない。

…………………………………………………。

………長く熟考した結果、口を開いた。

 

岬 明乃

「分かった、すぐに向かおう。では宗谷監察官、あとは頼む」

宗谷 ましろ

「………はっ!」

 

一瞬だけ不安そうな顔をするが、すぐに表情を引き締めて敬礼する。

私も返礼してからその場から離れる。

その間際、私はドロイドの死角になるように通信機を取り出した。

スイッチのオンオフを3回だけ繰り返す。

そしてすぐに通信機をしまった。

これは、”目標を発見、行動せよ”

と言う意味である。

これで私が居なくても、計画は進められる。

後はシロちゃんと幸子ちゃんに任せるほか無い。

成功を祈りつつ、私は自分の脱出手段に考えを馳せていた――――

 

ドロイド兵4

「こちらになります」

岬 明乃

「ありがとう」

 

研究所の最上階にある会議室前。

扉の両サイドには先程のドロイドとは比較にならないくらいの頑丈そうなドロイドが警備を務めていた。

威圧感を感じつつも、私は一度深呼吸をしてからノックする。

 

??????

「入れ」

岬 明乃

「失礼します」

 

中から女性の声がすると、ガチャリと扉を開いた。

中は広くて中央に巨大なテーブルがあり、それなりの数の椅子が並べられている。

しかしこのだだっ広い会議室には、私を含めて3人の人間しか居ない。

残りの2人は外から入る光が当たり、逆光となっているために素顔は見れない。

私はコツコツと靴音を出しながら部屋の中央までやって来る。

 

岬 明乃

「岬明乃研究主任、出頭いたしました」

??????

「ふむ、君が今日から入った主任か。随分と若いな」

岬 明乃

「飛び級で卒業したので、よく言われます」

 

我ながら歯の浮くような台詞が飛び出てくる事に頭を痛める。

それにしても、と思う。

奥の席で寛いでいる声は、男性であった。

先程の入れ、と言った女性とは違う。

研究職だから、てっきり女性だけが働いてるのかと勝手な偏見を抱いていた。

こんな異常事態にもかかわらず、そんな呑気な考えを頭に浮かべられる自分に笑みが浮かぶ。

実際は無表情であるが。

 

??????

「どうかね?実際に我が研究施設を見た感想は?」

岬 明乃

「はっ。設備も規模も充実しており、警備も優れた者達がいるので、安心して仕事に打ち込めます」

??????

「それを聞いて安心したよ、あんまり外の機関にうちの警備を任せたくはなかったがね。話は変わるが、君はさっきまでドッグに居たようだが」

岬 明乃

「数日前に拿捕された船の様子を見に行っていました」

??????

「そうか………ところで、君はあの船をどう思う?」

岬 明乃

「?どう、とは?」

??????

「君の意見を聞きたい。あの船に搭載されてる自動化システムは非常に興味深いんだ。おかげで少ない人員であれだけの船を動かせる」

岬 明乃

「そうですね。確かにあれだけのシステム構築が整っているのであれば、数百人から数十人まで人数を減らせますね」

??????

「だろう?だからあの船を君の管理下に置きたいんだ。あのシステムさえ我が物に出来れば、少ない人数でより多くの艦船を運用できる!」

岬 明乃

「………お言葉を返すようですが、システムに頼り過ぎるのは危険かと」

??????

「な、なぜだね?」

岬 明乃

「どんな完璧に近いシステムを構築しても、完全ではない。必ずどこかで問題が起きます。その時に対処できる人間がいないと話になりません。だからシステムに頼り過ぎるのは、いずれ破滅をもたらします」

??????

「む、むぅ………」

 

男がこちらに何かを言いたげそうに見つめているが、言葉が出てこない。

少し言い過ぎてしまったかなと思っていた途端、今度は女性の方が口を開いた。

 

??????

「間違ってはいない。だが正しくもないな」

岬 明乃

「………どう言う意味ですか?」

??????

「人間だって間違える。単純な作業であっても、な。その点、AIやロボットは違う。間違いがなく、不満も言わない。まさに理想じゃないか」

岬 明乃

「仲間が居るから切磋琢磨し、成長できるんです。間違いだって直せるんです」

??????

「それはAIだって同じ事だ」

岬 明乃

「AIは笑ったりしません」

??????

「死んだりもしないだろう?」

 

この人と話していても、平行線を辿るだけだ。

私の方から先に黙ると、男の方から話を再開する。

 

??????

「とにかくだ。あの船を君の管理下に置いておきたいのだよ。その上で、自動化システム構築の基礎を見つけて欲しいのだ」

岬 明乃

「………分かりました。お任せを」

 

熱くなっていた私は、ここで一気に冷めた心情になる。

私達の目的はあくまで、盗まれた晴風の奪還。

それをこんなところで台無しにしたくはない。

だけどそんな私の決意を無駄にするかのように、出口がいきなり蹴破られた。

 

??????

「その必要は無い」

??????

「おい、今は大事な会議中だ。部外者が口を挟むな」

??????

「この施設の警備を任せたのはお前達だ。当然、施設に入る権利がある」

 

突然数体のドロイドを引き連れて入ってきた、ブロンドの女性。

顔つきから見て、外国人であるのかは確かだが、どこの出身なのかは分からない。

身体には妙なスーツみたいな代物を身に纏っている。

そんな彼女は、私に詰め寄ってくる。

彼女の覇気に堪えられず、私は数歩だけ後ずさる。

彼女は私に近付くと、右腕を私の前に出し、私と見比べる。

 

岬 明乃

「なっ、なにか?」

??????

「やはりな。おい警備、こいつは偽物だ。捕えろ」

ドロイド兵

「はっ」

岬 明乃

「うぐっ!?」

 

ドロイドが私の腕を掴んで、床に叩きつける。

突然の事で上手く対処できず、肺にある空気が一気に吐き出される。

ブラスターの先端を私の頭に標準に合わせられる。

 

??????

「おい、何の真似だね?」

??????

「だから言ったろう、こいつは偽のIDを使ってこの施設に入り込んだPLRの回し者だ」

岬 明乃

「ぴ、PLR?」

??????

「とぼけても無駄よ。あなたは不当に施設へ侵入したスパイ」

岬 明乃

「ま、待って!私は――――」

ドロイド兵

「動くな」

 

ドロイドにブラスターの先端を頭に押し付けられて、黙り込む。

先程話したドロイドの口調は異なり、明らかに敵意に満ちている。

ロボットでもそんな感情表現が出来る事実に驚きつつ、彼女と対面する。

するとブロンドの女性は、私を今度は無理矢理起こすと、近くの席へ放り投げる。

 

岬 明乃

「うわぁ!?」

 

背中に背もたれの柔らかい感触と、テーブルの角にぶつかる衝撃が集まった。

目が回って、どっちが上なのかが分からない。

私が悲鳴を上げると、彼女は懐から拳銃を取り出して、私の胸に押し当てる。

 

??????

「さて、時間はまだたっぷりある。話して貰うわ。あなたの正体と目的を、ね」

 

彼女は私を睨み付けながら、問いかけてきた。

銃を突きつけられても、何故か慌てなかった。

普通でないこの状況下でも私の脳は別の事を考えていた。

この人を、絶対にシロちゃん達の元へ連れて行くわけには行かない。

シロちゃん達の事がまだ口にしていない辺り、まだ他の仲間達の正体はばれてないと思った私は、少しでも時間稼ぎをしようとする。

私の脱出については、通信機の合図を待てば良い。

最悪、私だけ逃げ出せなくても、みんなが元の世界に戻れれば良いんだ。

 

そして私はそんな思いをしまい、今度は過去の記憶を思い返していた。

3日前に起きた、あの裁判の後で起こった出来事を。

忌々しい、思い出したくもないと吐き捨てた感情を他所に、あの艦橋の中で起きてしまった出来事を頭に浮かばせて――――




如何だったでしょうか?
新たな敵としてドロイド、イラン・イラクテロ組織PLR、Atlās corporation、そしてテラグリジアパニックが出てきました(どの単語がどの作品に出てくる用語なのか、調べてみて下さい♪)。
多重クロス作品の醍醐味である複数の世界観の統一!
彼女達の知らないところで、別の事件や物語があるのは一興です。
( ̄^ ̄)ゞ
その視点もいずれか投稿しますので、しばしお待ちを。
そして感想などがあればどうぞ。

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