High School Fleet ~封鎖された学園都市で~   作:Dr.JD

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どうも皆さんおはこんばんにちわ。
Dr.JDです。

久しぶりの投稿です!
かなり時間が空いてしまって、すみませんでした。
それと一言。


UA2000越えキター\(°▽°)/
読者の皆様、作品を読んでいただき、感激の極みでございます。
引き続き、作品製作に取り掛かります。

それから、ここでインフォメーションを行います。
あらすじの下の部分に、注意書きを追加しました。
見ていて、そんなもん分かっとるわい!
と言う方はスルーで問題ございません。

では、スタート。



第11話 調査開始!~捜査パート~

[調査開始!]

2012年、7月19日、15;01;24

高校1年生 陽炎型航洋艦五番艦「晴風」 艦長

岬 明乃(みさき あけの)

茨城県 尾阿嵯(おあさ)町港湾 宇宙エレベーター・火星重力センター、医務室前

 

シロちゃんの弁護を引き受け、補佐として蘭ちゃんと行動することになった。

もう1人の補佐である万里小路さんは一度、地上へ戻って法廷制度について直に確認するようだった。

行動力のある2人の補佐に感謝しながら、今後の方針について話し合っていた。

 

岬 明乃

「まずはどうするべきかな?おおみえ張って言っちゃったけど、よく考えたら私、捜査方法とか全然分かんない」

磯崎 蘭

「それなら、まずは宗谷さんから話を聞くべきだと思う!現場百編はその後だよ!」

岬 明乃

「よし!ならシロちゃんから事件当時の状況を聞き出しに行こう」

磯崎 蘭

「はい!」

 

言うや否や、医務室の前に立ち止まった。

コンコンッ。

数回ノックすると、さっきの刑事が出てきた。

 

糸鋸 圭介

「ん?誰かと思ったら、被告人の友達じゃないっすか。どうしたっすか?」

岬 明乃

「被告人じゃなくて、シロちゃんです!」

磯崎 蘭

「それかもしくは宗谷さんとお呼び下さい」

糸鋸 圭介

「うぐぐ、む、宗谷さんなら医務室の奥にいるっすよ。それで?あんた達は何しにここへ来たっすか?」

岬 明乃

「さっき町長の人の許可が下りて、私が今回の事件の担当弁護人になりました。だからシロちゃんの事情聴取をさせて下さい」

磯崎 蘭

「ちなみに私はその助手です」

糸鋸 圭介

「なっ、なんとおぉぉぉぉぉぉぉ!?あんた達が弁護人になるんすか!?あんたが弁護士だったなんて、知らなかったっす!」

岬 明乃

「弁護士と言っても、代理弁護人で法廷に上がって弁護するだけですけどね」

糸鋸 圭介

「うぐぐぐ。ま、まぁ事情聴取くらいなら好きにすると良いっす。でも捜査資料だけは渡さないっすよ!琴浦検事にそう言われてるっすからね!残念だったっすね!!」

磯崎 蘭

「いいえ、こちらも捜査資料も渡すように町長さんが手配してるので、後で渡して貰います。いいですね?」

糸鋸 圭介

「あ、はい。後で持って来るっすよ………ああ、被告に、宗谷さんの事情聴取はもう終わったっすから、好きにして良いっすよ?」

岬 明乃

「ありがとうございまーす」

 

イトノコさんがトボトボと肩をガックシと落すと、背中を見せてその場から去った。

さっきの捜査資料を持ってくるのだろう。

蘭ちゃんとの息の合ったプレーのおかげで、シロちゃんから話を聞けそうだった。

ちょっとイトノコさんが可哀想だったけど、シロちゃんの無実を証明するためには仕方がない!

互いに頷き合って、医務室へ入ろうとすると、背後から声が掛かった。

 

トリエラ

「ねぇ。よかったら私にも、あなた達の手伝いをさせてくれないかしら?もちろん邪魔しないからさ」

 

声の主はトリエラちゃんだった。

さっきの元気のなさから一変、私達の協力してくれるとの事だった。

人の手を借りたかったため、かなりありがたかったので、断る理由は特にない。

 

岬 明乃

「ありがとう!なら、よろしくね」

トリエラ

「よろしく。それで、彼女から話を聞くのね?」

岬 明乃

「うん。まずは事件とどう関わっているのかを、確認しておきたいから」

トリエラ

「でもあの刑事には思い出せないの一点張りだったんでしょ?新しく証言なんて出来るの?」

岬 明乃

「分からないけど、シロちゃんはあの刑事さんに言えないことがあるんじゃないかって思ったの。だから、もう1回だけ話をするよ」

トリエラ

「………」

 

医務室へ入るとすぐに、シロちゃんの表情が伺えた。

顔が青ざめていて、脳震盪はもう平気だけど、具合が良くなさそうだった。

私はシロちゃんに近付いた。

 

岬 明乃

「シロちゃん、大丈夫?あの刑事さんに変なことされてない?」

宗谷 ましろ

「………特には、何もありません。それよりも岬さん、私の弁護を引き受けるって」

岬 明乃

「あれ?聞こえちゃってたかぁ。そうだよ、だって他に弁護を引き受けてくれる弁護士さんがいないんだよ!?酷いと思わない!?」

宗谷 ましろ

「いやいや、だからって岬さんは弁護士の資格なんて持ってないだろ!?どうやって弁護するんだ!?」

岬 明乃

「そんなの地道にシロちゃんの無罪を証明できる証拠集めて、法廷でみんなに納得して貰うしかないでしょ?それ以外にシロちゃんを助けられる道はないんだよ?」

宗谷 ましろ

「………はぁ、分かりました。そうするしかないんですよね。またこんな展開になって………どうせこの後私から証言を取るんでしょ?」

岬 明乃

「う、うん。よく分かったね」

 

またこんな展開になって?

どうせこの後証言取るんでしょ?

私達がやろうとしてることは間違ってないけど、なんでシロちゃんは知ってるんだろう?

ここはイトノコさんが居なくなった今が、聞き出すチャンスだね!!

 

岬 明乃

「それでシロちゃん。早速なんだけど、シロちゃんの行動をもう一度確認したいの。私達とはぐれた後、シロちゃんはどこで何をしていたのか」

宗谷 ましろ

「………………最初に言いましたが、はぐれた後は通路を彷徨ってたんですよ。しばらくしてから停電が起きて、でもちょうど近くに明かりの点いてたトイレから、物音がしてトイレに入ったんです」

 

ここまでは、さっきの内容と同じだ。

問題は、ここからだ。

 

宗谷 ましろ

「………ああ、そうだ!思い出した!確かあれは、トイレに入ったら突然、男が襲ってきたんです!私は逃げようとして、そしたら男が覆い被さってきて、そのまま気絶して今って、目が覚めたら………」

 

殺人事件の容疑者にされちゃってところか。

でも私はそれを聞いて安心した。

だってシロちゃん、犯人じゃないって分かったんだもん。

それだけでもこの裁判、戦えるよ!

 

磯崎 蘭

「ほっ、宗谷さんが犯人じゃなくって良かったぁ。何も覚えてないって言ったら、どうしようかと思ったよ」

トリエラ

「でもさ、あの小さな検事さん言ってたじゃない。この子が被害者を殺害する瞬間を、目撃したって人がいるんだよ?それはどう説明するの?」

宗谷 ましろ

「えっ!?ど、どう言う意味だそれは!!」

トリエラ

「どうって、そのままの意味よ。あんたが被害者を殺した瞬間を見た人が居るんだって」

 

あっ、そう言えばそうだった。

でも本人が男の人、被害者に襲われたって言ってるから、これも事実。

つまり………あれ?結論は?

 

岬 明乃

「でもでも、シロちゃんは被害者に襲われたって言ってるよ?でもあの検事さんはシロちゃんが被害者を殺害したとも言ってる」

トリエラ

「あまりこう言う事は言いたくないけど、この子が嘘を言ってるのも考えられるわ」

宗谷 ましろ

「なっ、そんな筈ないだろ!そもそも被害者とは面識がないのに、なんで人殺しなんてする必要があるんだ!!」

トリエラ

「動機がないにしろあるにしろ、凶器からはあなたの指紋が出てる。さらには目撃者までいる。これらの証拠がある限り、あなたの容疑が晴れることはないわ」

宗谷 ましろ

「ぐぅ、私は凶器の事なんて知らないし、本当に無実なんだぁ………」

 

再び頭を抑えて苦悩するシロちゃんに、私は静かに呟いた。

 

岬 明乃

「大丈夫、シロちゃんはやってないよ。本当に不幸な出来事が重なって起きちゃった、事件なんだよ。それに、分かるんだ。ずっと傍に居たから、シロちゃんのこと」

トリエラ

「はぁ?それって身内贔屓なんじゃないの?そんなんじゃ証拠にはならないわよ」

岬 明乃

「それでも、だよ。それでも私はシロちゃんが犯人じゃないって信じるよ。だからシロちゃん、もう少しだけ詳しく話を聞かせてくれないかな?相手の特徴とか」

宗谷 ましろ

「ええ、いいですよ――――」

 

宗谷 ましろ

「トイレに入ったら、被害者が襲ってきたんです。でも、光が反射していたせいでほとんど相手の姿が見えませんでした。そしたら、相手が私を押し倒して、床に頭を打って気絶したんです………」

 

証拠品:宗谷ましろの証言

 

岬 明乃

「なるほど………うん、シロちゃんありがとう。蘭ちゃん、シロちゃんの証言取った?」

磯崎 蘭

「うん、取ったよ。宗谷さんの証言」

宗谷 ましろ

「………岬さん、この度は、その、本当に申し訳ありませんでした」

岬 明乃

「?どうしたのシロちゃん?急に謝ったりして」

宗谷 ましろ

「今回の件ですよ。こんな事件に、岬さんや万里小路さん達を巻き込んでしまったんです、私があの時、岬さん達とはぐれていなければ、巻き込まれずに済んだのにっ」

 

シロちゃんが悔しそうにシーツをギューッと握りしめた。

………シロちゃんが言っているのは、この世界の厄介事に巻き込まれてしまった後悔なのか。

それとも、自分達の身元がこの世界の人達に知られてしまう恐れがあるから来るのか。

前者の場合なら、これは仕方ないと思う。

悲しいことに、事件はどこの世界でも、どの時代だって起きるものだ。

ただ運のないことに、それにシロちゃんが巻き込まれてしまっただけなんだ。

だから、シロちゃんを責めるマネは絶対にしない。

後者の場合なら――――

 

岬 明乃

「気にしないで。って言ってもシロちゃんは気にしちゃうと思う。だから………この裁判を乗り越えられたら、もっと他の場所へ行こう?それで、みんなともっともっと楽しい旅をしようよ!」

 

真面目すぎるシロちゃんには、これが最適。

か、どうかは分からないけど、私が今思う付く限りの罰。

真面目だからこそ、たまにはこんなにだらけても罰は当たらない。

それに、元の世界に戻ったら、これほどまでに自由な時間は夏休みか冬休みくらいしかない。

 

宗谷 ましろ

「は、はぁ?それって罰とは言いませんよ。はぁ、全くもう………」

 

呆れられてしまったけど、どこか満更でもなさそうだった。

表情も先程よりも大分、柔らかくなっている。

なら、もうシロちゃんは大丈夫だろう。

 

岬 明乃

「それじゃシロちゃん、私達は事件の調査に戻るよ。何かあったら連絡して?」

磯崎 蘭

「でもミケちゃん、連絡取ろうにも携帯電話を預けたままだよ?連絡できないんじゃ」

岬 明乃

「あっ、忘れてた」

宗谷 ましろ

「もう、岬さんってば………連絡する時はこっちから出向くから、岬さんは調査に戻って?」

岬 明乃

「分かったよ、シロちゃん」

 

シロちゃんから話を聞いて、医務室を出た私達は、今回の現場であるトイレへと向かった。

歩いている間に、私達は話をしていた。

 

岬 明乃

「シロちゃん、回復して元気そうだったね」

トリエラ

「そうね、私も彼女が回復して良かったと思ってるわ。だってせっかくこんな場所で出会えたんだもの、仲良くしたいじゃない?」

磯崎 蘭

「………でもトリエラさん、すごく宗谷さんのこと疑ってましたよね?それに、ミケちゃんが弁護するって言ったとき、贔屓だって言ってたじゃないですか」

トリエラ

「それはそれ、これはこれよ。頭を打って気絶するくらいだから、記憶があやふやになってて嘘を言うかもしれないでしょ?彼女だって罪を逃れたい筈だから」

磯崎 蘭

「なら彼女が言った言葉を信じないんですか?」

トリエラ

「今の状況を見るだけじゃ、判断が出来ないわ。だからこれからの調査で明らかにしたいのよ。私だって、ずっと疑っていたくないから」

岬 明乃

「トリエラちゃん………」

 

そっか。

そう言う考え方も出来るんだ。

何時までも疑っていたいわけじゃなく、シロちゃんと仲良くなりたいからこそ、疑念を振り払いたいんだ。

 

岬 明乃

「………トリエラちゃん」

トリエラ

「ん?どうしたの?」

岬 明乃

「ごめんなさい。私、トリエラちゃんのこと酷い子だなって思っちゃってた。さっきからシロちゃんを疑ってばかりだったから」

トリエラ

「まぁ私も身内贔屓って言ったのは謝るわ、ごめんなさい」

 

互いに謝ったところで、現場へ到着した。

数人の警官や鑑識の人が居て、調査しているようだった。

 

磯崎 蘭

「わぁ、ここが事件現場かぁ。何だかんだで初めて見た気がする」

トリエラ

「いやいや、普通は拝めないからね?殺人事件の現場なんて」

 

蘭ちゃんの口から、気になる発言が取れた。

何だかんだって、まるで事件に巻き込まれた経験があるみたいな言い草だったな。

気になったけど、それは後回しにしよう。

私は近くの警官に事情を話すことにした。

 

岬 明乃

「すみません、事件現場の捜査をしても良いですか?」

警官

「ん?なんだね君達は。ここは子供が近寄っていい場所じゃないぞ、さっさと親の元へ帰りなさい」

磯崎 蘭

「いえ、町長さんにちゃんと許可を取りました。代理弁護人制度を利用して、裁判に臨みます。町長さんから聞いてませんか?」

警官

「なに、そうなのか?特に聞いていないぞ。本当にそう言ってたのか?」

??????

「本当よ、さっき私が許可したの。彼女のお友達が被告人となって裁判に出廷しないといけないから、彼女には代理弁護人になってもらったの。ごめんなさいね、連絡が遅れちゃって」

警官

「あっ!野村志保(のむらしほ)町長!そうでしたか、すみません疑ってしまって」

野村 志保

「いいのよ、気にしないで。それよりこの子達に調査をさせてあげて?裁判で戦えるように」

警官

「了解です!!」

 

町長さんのフルネーム、初めて聞いた。

野村志保さん、うん、覚えた。

私は警官に事情を言ってくれた志保さんにお礼を言った。

 

岬 明乃

「志保さん、ありがとうございました。調査を許可して下さって」

野村 志保

「気にしないで。お友達を助けるためなんでしょう?ならこんな事、大したことないわ。それより、その子は?さっきはあの場には居なかったようだけど?」

トリエラ

「私もこの子のために手伝おうと思いまして」

野村 志保

「そうだったの。お友達思いなのは嬉しいけど、ごめんなさいね。代理弁護人が指定した助手以外の人は現場の調査を禁じているの。まぁもしもこの中で犯人が居て、現場を工作されないようにするためなんだけどね」

磯崎 蘭

「えっ、この中に犯人ってっ」

野村 志保

「ああ、いや違うの。もしもの話よ、もしもの。だからあなたは、この現場の調査の立ち会いは出来ないの。ごめんなさいね」

トリエラ

「い、いえ。規則なら仕方がないです………………」

 

トリエラちゃんは仕方がなさそうにため息を吐いて、こちらへ向いた。

私にしか聞こえないように、トリエラちゃんは耳元で呟いた。

 

トリエラ

「それなら明乃、この現場で何か見つけたら教えてね?私も力になりたいんだから。いいわね?」

岬 明乃

「も、もちろん!ちゃんとトリエラちゃんの分も頑張るからね!」

トリエラ

「なら皆、あとは任せたわね。それじゃ町長、ご機嫌よう」

野村 志保

「………あなたもね」

 

含みのある言い方をしながら、トリエラちゃんはこの場を去った。

気を取り直して、私は目の前の事件現場へ足を踏み入れた――――

 

岬 明乃

「わぁ!?」

 

足を踏み入れた途端、私は咄嗟に飛び退いた。

なぜならそこには――――

 

磯崎 蘭

「大丈夫ミケちゃん………うわっ、地面が赤くなってる。これって、まさか血痕?」

警官

「ああ、言い忘れていたが、被害者と被告人はトイレ中央に倒れ込むような状態で発見されたんだ。だから血痕はその付近に大量に残ってたんだ」

 

――――そう言う大事な事は最初に言って欲しい。

時間は経っていたのか、靴の裏には特に血痕は付着していなかった。

 

私は現場を見渡した。

トイレだけあって、みんな個室であり、数は5つほどが並べられている。

扉は開いていて、中で誰かが入っていたら、すぐに分かりそうだった。

奥には宇宙を眺められる窓がある。

………ここが、殺人事件のあった現場なんだ。

私は気を引き締めるように、蘭ちゃんを見つめる。

 

岬 明乃

「よし、なら早速事件現場を調べよう!」

磯崎 蘭

「うん!!」

 

まず手始めに調べたのは、トイレの真ん中に広がっている血と、人の形をした白い線が入った床だった。

胴体の部分と思われる場所から、血痕が池のように広がっている。

 

岬 明乃

「ここに、男の人が倒れて亡くなったんだよね。そして、その下敷きになったのが、シロちゃん」

警官

「ああ。被害者の名前は、持っている免許証から鳩山五郎(はとやまごろう)さん。ほら、こっちに写真と名前が記載されてる資料を渡しておく。それと検死報告書もあるが、当時の写真が入ってる。刺激がかなり強いから、子供には見せたくはないんだがな」

岬 明乃

「あ、ありがとうございます。でも、友達を救うためですから………」

 

証拠品:被害者情報、検死報告書

 

被害者情報:鳩山五郎(43)。元エンジニアで、今回の事件の被害者。

検死報告書:死亡推定時刻は12時30分~50分の間。死因は背中をナイフで刺された事による失血死。

 

私はファイルをそっと開いて、最初の文章を読んでから、次のページを捲ろうとした。

一瞬だけその手を止めたけど、意を決して写真が挟まっているページを開いた。

――――初めて見る、人が死んだ写真を見て、吐き気がした。

床に広がる血痕。

俯せになるように倒れている被害者。

そして、下敷きになって力なく目が閉じられているシロちゃんの写真を。

 

私は将来、ブルーマーメイドになるためにあらゆる事故現場の写真を見るようにしてる。

理由としては、決して私が猟奇的な性格をしているからとか、遺体を見て興奮するからではない。

非日常的なショッキングの映像を見て、実践でも臆することなく救助活動に当たるためだ。

救助者を全員、助けられたらいいが、残念ながら現実はそう甘くない。

最悪の事態を想定して、それなりの悲惨な光景に、慣れると言うのも変だが、ある程度の耐性を施す必要がある。

が、実際に人の死体を見ると、それらの体験も無意味であったと感じざる負えない。

いざ現実に直面すると、その場で固まってしまうのが常なのだろうか。

うまく頭が回らない。

 

磯崎 蘭

「背中をナイフで刺されたんだね………痛かっただろうなぁ」

岬 明乃

「蘭ちゃん………?ひ、人が亡くなった写真見ても、平気なの?」

 

私は失念していた。

この場には蘭ちゃんも居ることを。

蘭ちゃんは後ろから、写真を見てしまっていて、泣いていた。

 

磯崎 蘭

「平気じゃないと言えば、嘘になるよ?でも、間近で誰かが亡くなったって、思ったら、残された人達はこの人が死んだ時、悲しむんじゃないかなって感じたんだ」

岬 明乃

「!!」

磯崎 蘭

「この人に家族が居るか分からない。でも、最後に家族と話せなかったのに、誰にも彼の思いを聞けずに死んでいった彼が、可哀想だなって感じたら、悲しくなっちゃって………」

 

この子の言った言葉に、私は何も返せなかった。

私は、人が亡くなっているのを初めて見て吐き気がしたのに、この子はこの人自身を案じて悲しんでいたんだ。

自分が今、酷いことを考えていたのに、蘭ちゃんは泣いてくれていたんだ。

こんなマイナスな発送しか出来ない自分自身に嫌悪するのと同時に、蘭ちゃんの見えない強さに、少し羨ましさを感じていた。

私には持っていない強さを、この子は持ってることに。

 

磯崎 蘭

「なんて、ね。おかしいよね。赤の他人で一度も話したこともないのに、他人にここまで気持ちを抱けるなんて」

岬 明乃

「………蘭ちゃんは強いんだね。私なんて、写真を見たら、その、吐き気がしちゃったのにさ」

 

あえて蘭ちゃんの言葉を素通りさせる。

何て答えて良いかなんて、分からなかったから。

私は自嘲するかのように吐き捨てた。

 

磯崎 蘭

「仕方ないよ。私は何度も悲惨な目に遭っていて、もう慣れちゃってるんだから。本当はこんな事を慣れたくないんだけどね」

 

辛そうに笑う彼女を見て、ますます心が締め付けられる。

この子は、過去に辛い経験をして、それで亡くなった人の心を直に触れて。

他人に対してここまで干渉してしまう子になってしまったんだ。

 

磯崎 蘭

「………さてっ、暗い雰囲気はここまで!早く現場の捜査に戻ろう?時間もあまりありないし」

岬 明乃

「っ、そう、だね」

 

だからこそ、切り替えの早さにも驚いてしまって、変な返事しか出来なかったんだと思う。

今この場で蘭ちゃんを思いっきり抱き締めたかったけど、早くも他の場所を調べ始めた後ろ姿を見て、私はぐっと堪えた。

だけど、この裁判が終わったらきっと――――

 

磯崎 蘭

「お巡りさん、ここの鏡が割れてますけど、いつから割れてたんですか?」

警官

「用務員の話によると、事件発生前には割れていなかったそうだ。だから、事件が起きている最中に割れたんじゃないかって」

岬 明乃

「つまり、2人がここで争っていて、その最中に腕に当たって割れたと?」

警官

「少なくとも、警察はそう睨んでいるそうだ」

 

証拠品:割れた鏡

割れた鏡:粉々に砕け散って、洗面台や床に散りばめられていた。

 

岬 明乃

「それにしても、男性のトイレってみんな個室なんだね。入った時に感じていた違和感って、これだったんだ」

警官

「個室しかないのは、使う水の量が少なくて済むから。男子トイレ特有の小便器がないのは、それが理由さ」

岬 明乃

「へぇ、どれどれ………あれ?スイッチ押しても流れない?」

警官

「事件が起きる前に電気設備が爆破されていた報告があったな。その影響で水が流れなくなったと報告が入った」

磯崎 蘭

「誰が犯人で、なんの目的で爆破したのかは?」

警官

「現在調査中だ。にしても、こんな最新鋭の施設に堂々と爆発事件や殺人事件が起きたとあれば、警備システムの脆弱性を世間に晒しちまった様なもんだ」

岬 明乃

「そう言えばお巡りさんって普通にこの施設に来れましたね。やっぱり警察関係者だからですか?」

警官

「それもあるが、今回警官を連れて来れたのはかなり少数でな。やっぱり世界トップクラスの厳重な施設だけあって、本当は警察も介入できなかったんだが、町長が計らいをしてくれてな」

磯崎 蘭

「えっ。でも殺人事件が起きたんですよね?普通なら警察が動かないとダメなんじゃ?」

警官

「ここの宇宙エレベーター建てた会社が、”産業スパイが警官の中に居るかもしれないから、少人数で事件を捜査しろって”ってのが理由さ。連中にとってここの技術は、世界中が欲しがってるからな」

岬 明乃

「………?なら宇宙エレベーターの見学ツアーなんてしない方が良いんじゃないですか?それこそ、観光客の中に産業スパイが居る可能性だって」

警官

「ところがどっこい、ここで町長が割って入ってきたんだ。”市民の反対を押し切ってまで建造したこの施設の中でどんな研究を行っているのかを解明しないで、どうして一企業が名乗れるのか”って言って、企業側は渋々了承を得て、この見学ツアーを開催したのさ。所謂、市民と観光客、企業との橋渡し役的な企画さ」

 

………そう言えばミミちゃんが言ってたっけ。

この町の人達は一枚岩じゃないって。

学園都市の開発に賛成的な意見の人達と、反対する人達が居るって。

それがこんなところにも、影響していただなんて。

 

磯崎 蘭

「へぇ、結構詳しいんですね」

警官

「まぁな。俺はこの宇宙エレベーターについて、色々と興味があったから調べてただけさ。ホントは今日の見学ツアーに参加したかったんだが、くじ引きで外れちまってよ。まさかこんな形でこれるとは思わなかったけどな」

磯崎 蘭

「そ、そうですね………」

 

さて、他に調べる箇所は………。

あ、でも気になる点はあるから、聞いてみようかな。

 

岬 明乃

「事件の瞬間を目撃したって人が居ましたけど、その人は今どちらに?」

警官

「エントランスホールだよ。今は検事殿が直々に事情聴取している最中だとさ。それと連れが居るんだったら、そこに行くといい。施設に居る客やら従業員らがそこに集められてるからよ」

 

磯崎 蘭

「………ミケちゃん、この現場での調査はこのくらいにして、そろそろ事件関係者に話を聞きに行かない?」

岬 明乃

「そうだね。お巡りさん、ありがとうございました!」

警官

「おうよ、また調べに来たかったらいつでも来な」

 

ひとまず、事件現場を後にした私達は、目撃者からの話を聞くためにエントランスホールを目指していた。

隣の蘭ちゃんの口が開く。

 

磯崎 蘭

「ミケちゃん、証拠品を見直していたけど、宗谷さんの無実を証明できる証拠品がないよ」

岬 明乃

「諦めちゃダメだよ。まだ話を聞けていない人が居るなら、そこから状況把握に努めよ?」

 

ドカッ

 

磯崎 蘭

「きゃぁ!」

 

前を見て歩いていなかったからか、蘭ちゃんが目の前から来ていた人に気付けずにぶつかってしまった。

ぶつかった反動で蘭ちゃんは床に尻餅を付いた。

 

岬 明乃

「蘭ちゃん、大丈夫?」

磯崎 蘭

「う、うん、大丈夫だよ」

??????

「………ふんっ」

野村 志保

「こら!!待ちなさい!!」

 

ぶかった本人は一度、こちらを見下ろしていたが、特に何も言わずその場から立ち去った。

代わりに飛んできたのは、志保さんの怒声だった。

私は蘭ちゃんを起き上がらせると、志保さんに向かった。

 

岬 明乃

「あの、志保さん、大丈夫ですか?」

野村 志保

「あら、あなた達。もう事件現場はいいの?」

磯崎 蘭

「今は目撃証言を確認したくって、ここまで来ました。それで、さっきの人は?」

野村 志保

「ああ、彼はこの宇宙エレベーターを建造した会社のCEOで、高見見仏(たかみけんぶつ)よ」

 

たかみ、けんぶつ………すごい名前だなぁ。

CEOって役職は、確か代表取締役って意味だっけ?

でも、なんでそんな偉い人がここに?

 

野村 志保

「彼がここへ来たのはね、今日開かれる見学ツアーの中に産業スパイが潜り込んでいるかどうかを自らチェックするためらしいわ」

岬 明乃

「でも志保さん、なんでそんなに怒ってたんですか?」

野村 志保

「………あの男、自分はこの事件とは一切関係ないから、仕事へ戻らせて貰うって言って、警官や私の静止を聞かずにさっさと帰ったのよ」

 

うわぁ、だから志保さん、あんなに怒ってたんだ。

にしても、会社のトップ自らが産業スパイの有無を確認するなんて、すごい執念だなぁ。

………よく考えたら、私もある意味、晴風においてトップだから、船の状態確認くらいはするからやっぱり普通なんだろうね。

 

野村 志保

「って、こんな事あなた達にぼやいても仕方ないわね。それで、目撃証言の確認だっけ?」

磯崎 蘭

「はい。どちらにいるか分かりますか?」

野村 志保

「えっとね、確か検事と話していたんだけど、今はここには居ないわ。今回の目撃者、かなりの変わり者だから」

岬 明乃

「変わり者?」

野村 志保

「何でも自らを芸術家って名乗ってるし、その証拠にいつも、えと、絵を描く時に使うパレートやボードを持ってるから、すぐに見つけられると思うわよ」

 

志保さんはやれやれと言った風に肩をすくめた。

ここまで呆れさせるくらいだから、結構な曲者なのだろう。

志保さんに一言残して、とりあえず凜さん達の話を聞くために、彼らを探した。

 

そして人混みの中から、凜さん達を見つけた。

 

磯崎 蘭

「お兄ちゃーーん!」

磯崎 凛

「おっ、蘭!!大丈夫だったか?」

磯崎 蘭

「うん、大丈夫だよ。それより、すごい人だよね」

綾瀬 留衣

「みんな足止めされてるからね。事件の捜査が終了するまで、誰もここから出ないようにって、さっき女性が言ってたよ」

岬 明乃

「女性って、高校生くらいの?」

綾瀬 留衣

「ええ、もしかして会いました?」

岬 明乃

「うん、実はね――――」

 

これまでの経緯を、凛さん達に話した。

私が制度を利用して、シロちゃんの弁護を引き受けること。

 

磯崎 凛

「なるほどな。蘭、また厄介な事件を抱えたな。大丈夫か?」

磯崎 蘭

「もう、心配しすぎだよ。大丈夫、ミケちゃんや翠と一緒に頑張るから」

岬 明乃

「………それでみんなに話を聞きたいんですけど、いいかな?」

綾瀬 留衣

「はい。それで、どんな話を聞きたいんですか?」

岬 明乃

「えとね………事件があったお昼12時くらいの話を聞きたいの。みんなはその時、なにをしてたのかなって」

磯崎 凛

「その時間なら停電があって、身動きが取れなかったな。それは岬さんも知ってるだろ?」

岬 明乃

「そうなんだけど、あの暗い中、犯人はどうやって被害者を殺害したんだろうって」

綾瀬 留衣

「被害者が停電よりも前に殺害されたのなら可能ですけど、殺害されたのは停電の最中………」

 

そう。

その時間、謎の爆発により配電盤が故障、それにより施設全体が停電となった。

あの暗闇の中、動き回るなんて出来るのだろうか?

 

岬 明乃

「うーん、なら、停電中におかしな事ってなかった?変な音がしたとか」

綾瀬 留衣

「いえ、特には何も」

磯崎 凛

「俺も聞いてないな。もしも音を頼りにしてるなら、他の人が気付くだろうし」

岬 明乃

「あはは、そうだよね………何か見た、のもないよね」

磯崎 蘭

「ミケちゃん、あんなに暗い中じゃ無理だよ」

 

だよねぇ。

あと、他に聞きたいことは………。

 

岬 明乃

「そう言えばさっき、この宇宙エレベーターを建造した社長と町長が揉めてたみたいだけど」

磯崎 凛

「あー、すごい剣幕だったなぁ。私はこの事件とは一切関係ない!帰らせて貰うって言って、さっきこの場から離れていったよ。ま、今は捜査中だからどのみち帰れないけどな」

磯崎 蘭

「………ねぇ、その社長さんに会ってみない?」

岬 明乃

「えっ?」

磯崎 蘭

「だってさ、事件が起きたのに真っ先に逃げ出そうとするなんて、怪しいよね?犯人がすぐに使いそうな手だよ」

岬 明乃

「確かに………よし!なら早速、あの社長さんに――――」

糸鋸 圭介

「あ、見つけたっすよ。ここに居たっすね」

 

社長さんに会いに行こうとした矢先、イトノコ刑事が列を別けながらやって来た。

彼は私の目の前までやって来ると。

 

糸鋸 圭介

「裁判の準備が整ったっす。現在の捜査を打ち切って、至急、法廷へ出廷するっす」

岬 明乃

「………………はい?」

 

この人が何を言っているのか、全く理解できなかった。

法廷へ出廷しろ?

いやいや、だってこっちはまだ――――

 

磯崎 蘭

「ちょ、ちょっと待って下さい!私達はまだ捜査したばかりなんですよ!?事件の概要だってまだまとめられていないのに………」

糸鋸 圭介

「事情は察するっすけど、これも裁判制度によるものっす。理解してほしいっす」

岬 明乃

「お願いします!もう少しだけ時間を下さい!」

糸鋸 圭介

「………残念っすけど、自分の権限だけではどうすることも出来ないっす」

岬 明乃

「そ、そんな………」

糸鋸 圭介

「………今、エレベーターが稼働してる最中っす。裁判所がある地上に到着するまで時間はあるっす。それまでに、この事件の調査資料を渡しておくから、整理するっすよ」

 

証拠品:事件調査書

事件調査書:事件の概要の記された資料。

 

新しく証拠品が見つかったのは嬉しかったけど、喜んでいるほどの余裕はない。

だって、まだ満足に調べられてもいないのに、人生初の裁判だなんて………。

やばい、どうしよう、頭が混乱してきたっ。

 

磯崎 蘭

「………ミケちゃん、裁判所へ向かって」

岬 明乃

「えっ、蘭ちゃん?」

磯崎 蘭

「宗谷さんの無実を証明するほどの証拠品はまだ揃ってないなら、私がここへ残って証拠品を集めるよ!それなら問題ないですよね?イトノコさん!」

糸鋸 圭介

「無論っす。代理弁護人が裁判所へ出廷していれば問題ないっす。まぁ、そのための助手2名体制っすから」

磯崎 蘭

「ありがとうございます!さ、ミケちゃんは早く裁判所へ向かって!私は後から向かうから!大丈夫っ、絶対に宗谷さんが無罪になる証拠品を持ってくるから!」

岬 明乃

「蘭ちゃん………分かった、お願いね!私、それまで何とか持ち堪えてみるから!」

磯崎 蘭

「持ち堪えるって、もう。それじゃ負けること前提で話してるみたいじゃない、ミケちゃん、自信持って」

岬 明乃

「うんっ。頑張るよ、だから、蘭ちゃんも………」

糸鋸 圭介

「………もうそろそろ時間っす。さ、岬弁護士、こちらへ」

岬 明乃

「あっ、はい!」

 

私は蘭ちゃんから証拠品一式を預かり、イトノコ刑事に連れられて、先に裁判所へ向かうことにした。

振り向きざまに蘭ちゃんが手を振ってくれて、私も手を振った。

ここから先は、シロちゃんを助けるための戦いだ。

蘭ちゃん達の事は心配だけど、それ以上に自分が弁護士なんて大役が務まるかが、とても不安だった。

それに、事件の捜査だって始まったばかりなのに………。

私は、満足に捜査ができない状態のまま、人生で初の裁判を戦い抜かなくてはいけなくなった。

 

 





今回の話は、投稿した中でも最も長いです。
よって、矛盾している箇所が発生しないよう読み返してはいますが、それでも発見された場合はご指摘の程、よろしくお願い申しあげます。

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