High School Fleet ~封鎖された学園都市で~   作:Dr.JD

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どうも皆さんおはこんばんにちわ。
作者です。

お待たせしました。最新話を投稿致します。
前回のお話で、宗谷ましろさんが倒れましたね。
ここで主人公の対応次第で、今後の物語が大きく変わる一つの分岐点となります。

それでは早速どうぞ。



第10話 運命の分岐点

[運命の分岐点]

2012年、7月19日、14;13;15

高校1年生 陽炎型航洋艦五番艦「晴風」 艦長

岬 明乃(みさき あけの)

茨城県 尾阿嵯(おあさ)町港湾 宇宙エレベーター・火星重力センター、2番ゲート

―――――――――――

――――――

――――

あれからいったい、どれほどの時間が過ぎただろうか?

現実と夢の狭間を彷徨っているような感覚で、早く目覚めろ、と誰かから言われた気がした。

そんな幻聴が聞こえたって事は、いよいよ頭がおかしくなったのかも知れない。

 

??????

「――――、起きて下さい!聞こえますか!?」

 

でも誰かが私を起こす声が、かすかに聞こえる。

私が聞いたその台詞は、皮肉にも、この世界へ飛ばされて最初に聞いた言葉と、全く同じだった。

だけど私は、あの時と違ってすぐに両目を開くことが出来なかった。

その時私を起こしてくれたのが、紛れもなくシロちゃんだったから。

意識を手放す時に見た、最後の記憶。

シロちゃんが、血だらけで壁際で横たわっている光景。

ハッキリ言って、現実世界に目覚めて確認するのが、怖くて怖くて仕方がなかった。

もしも目覚めて、シロちゃんが………死んでしまったら?

両親を失った私がまた、大事な誰かを亡くしてしまったら?

そう考えてしまったら、恐怖に縛られて動けなくなってしまう。

 

そう思った瞬間、私の脳裏にフラッシュバックが起きる。

昔見た、どこかの光景。

海辺をバックに、隣に居る小さな女の子。

驚いたのは、その子の顔にモザイクが掛かっていて、顔を認識できなかったこと。

なぜこうなっているのか分からない。

私はその子の顔を見ながら熟考する。

名前は思い出せないけど、忘れてはいけないような、いや、忘れるはずのない子なのは分かっていた。

だけどどうしても、名前は思い出せなかった。

 

??????

「――――ちゃん、私ね――――」

 

その子の語った内容を表した口の動きで、その子が何を言いたいのかを理解した時、私はハッと我に返った。

――――そうだ、私は何をやってたの?私は、誓ったじゃない。

――ちゃんと交わした約束。

晴風の艦長になった私が目指していた、”お父さん”になる目標を。

隣の子が誰なのかは分からないけど、この子のおかげで思い出せた!!

みんなを守れるようなお父さんの存在になるって!

………もう既にシロちゃんを守れてない時点で、もうお父さんじゃないかも知れないけど、それでも。

それでも、ちゃんと現実と向き合わなきゃ行けないんだ!

 

岬 明乃

「ありがとう!大切な目標を思い出させてくれて!私、もう行くね!!」

 

隣の子に別れの言葉を継げると、私は勇気を振り絞って両の目を開いた。

………気のせいかな?

私が最後に振り向いた時、悲しい顔してたような………。

 

万里小路 楓

「岬さん!しっかりして下さいませ!」

 

私の肩を揺すってを起こしてくれたのは、万里小路さんだった。

心配そうに見下ろしていた私を見て、喜びの顔が見れたのは、嬉しかった。

私が目覚めたのは、トイレの前の通路だった。

背中を壁に付けて気絶したようだった。

 

万里小路 楓

「岬さんっ、意識が戻ったのでございますね?」

岬 明乃

「う、うん。ごめんね?心配掛けさせちゃって」

万里小路 楓

「………岬さん、落ち着いて聞いて下さい」

 

普段の柔和な笑みは消え去り、別の表情が姿を現した。

深刻な事態、あるいは戦いに挑んだ時の顔と、全く同じだった。

その両目は、私の不安な表情を如実に記していた。

 

岬 明乃

「っ、ど、どうしたの?何かあった?」

万里小路 楓

「岬さん、宗谷さんの事で話したいことがあるんです」

 

やっぱり、か。

でも、シロちゃんは絶対に無事!

いくら不幸であっても、死んでしまったなんて事――――

 

万里小路 楓

「宗谷さんは無事です。軽い脳震盪を起こしたと、自衛隊の方が仰ってました。宗谷さんは今、医務室にいます。心配いりませんわ」

岬 明乃

「ほっ、良かったぁ………」

万里小路 楓

「ですが、その、別の問題が」

 

無事だと分かっても、なおも万里小路さんの顔は晴れなかった。

別の問題?

そう言えば、シロちゃんはどこに居るのだろう?

 

岬 明乃

「もしかして、シロちゃんがこの場に居ないことと関係あるのかな?」

万里小路 楓

「っ、そ、それは」

磯崎 蘭

「あっ、ミケちゃん!目が覚めたんだね!」

 

万里小路さんが答えに詰まっていると、蘭ちゃんが元気よく手を振ってくれた。

さっきホールから落ちそうになったって言ってたけど、特に怪我はなさそうだった。

良かった、怪我がなくて………。

 

岬 明乃

「トリエラちゃんから聞いたよ、蘭ちゃん。ホールから落ちそうになったって」

磯崎 蘭

「う、うん。トリエラさんが居なかったら、今頃大変な事になってたよ………って、こんな呑気に話してる場合じゃないよ!!大変なんだよ!!」

 

両手をブンブン振り回して、強引に話を切り替えた。

 

岬 明乃

「な、何があったの?まさか、シロちゃんの具合が悪くなった!?」

磯崎 蘭

「いや、違うの。岬さん、落ち着いて聞いて」

 

しん、と波打ったかのような静けさ。

岬さん。

そんな呼び方をするって事は、よほど深刻なのだろう。

これ以上、何があるって言うの?

 

磯崎 蘭

「実はさっきね、トイレで男の人が死んでるのを見つけたの。その傍に、宗谷さんが倒れてたの」

岬 明乃

「えっ?人が、死んでた?」

 

聞き慣れない言葉で、思考が固まってしまった。

ニュースとかで殺人事件や事故で人が亡くなったと聞いたことはあるが、まさかこんな身近な場所で聞くことになるなんて、思わなかった。

蘭ちゃんは話を続ける。

 

磯崎 蘭

「それで、その男の人は他殺されたって見解が出て、その容疑者に、宗谷さんがさっき逮捕されちゃったんです」

岬 明乃

「………………は?」

万里小路 楓

「蘭さんの言ったことは本当でございます。私が伝えたかったのは、その………」

 

とても言葉にしづらそうに顔を俯かせる。

………事件の容疑者として逮捕?

これもまた、テレビでしか聞いたことがない言葉だった。

いやいや、ちょっと待ってよ。

何でシロちゃんが疑われるのさ?

 

岬 明乃

「こんなのおかしいよ。何でシロちゃんが捕まるのさ?あんなにたくさん血まで出てたのに、普通は被害者でしょう!」

磯崎 蘭

「それが、宗谷さんの服に付いていた血は宗谷さんのじゃなくて、殺された人の血だったんだよ。だから被害者は男の人だって」

岬 明乃

「それでもだよ!それに、シロちゃんが人を殺すわけないでしょ!きっと何かの間違いだよ!」

??????

「いいえ。その人は間違いなく、被害者を殺害しています」

 

怒り出していた私に、女の声がする。

その人は私達と変わらないくらいの年齢の女で、こちらに向かってツカツカと歩いてきた。

それよりも………。

 

磯崎 蘭

「あの、男の人を殺害したのって、本当に宗谷さんなんですか?いくらトイレで一緒に倒れていたからと言って、容疑者にするなんて」

??????

「一緒に倒れただけではありません。目撃者が居たんです。被害者の男性に襲い掛かって殺害する場面をね!」

万里小路 楓

「そ、それは本当ですか?」

??????

「裏付け調査はちゃんと行っています。間違いなんてありません」

岬 明乃

「………ところであなたは誰?」

??????

「ああ、申し遅れました。私は検事をしております、琴浦春香(ことうらはるか)と申します。今回の事件の担当検事になりましたので、よろしく」

 

小さな頭が揺れ、深く頭を下げる。

検事って、この子が?

法律に詳しいわけじゃないけど、こんな小さな子が検事なんてなれるの?

 

琴浦 春香

「私は学園都市で検事資格を取得しましたので、ちゃんと法廷で犯罪の立証を行えますよ。ご心配なく」

 

なんだか心を読まれたような気がするけど、でも、そんなことはどうでも良い。

私は一歩前へ出た。

 

岬 明乃

「シロちゃんは、宗谷ましろさんは人殺しなんてやってません。あなたは、間違ってます」

琴浦 春香

「ふぅん?でもこちらには決定的な証拠品が多数あります。彼女の有罪判決は確かなのも事実です。まぁ、そこまで言うなら法廷で待ってますから」

 

そう言い残して、琴浦さんは去って行った。

法廷で待ってる………と、言ったのだろうか?

その言葉の中に、いったいどう言う意味が含まれているのだろう?

 

磯崎 蘭

「あれって、どう言う意味なんだろう?」

万里小路 楓

「………こちらの勝利は確実。反論があるならしてみろ、と言う意味でしょう。彼女から、かなりの自信を感じられましたから」

岬 明乃

「………」

 

私はシロちゃんから話を聞くために、医務室へ向かった。

真面目で、頼りになって、でもちょっとカワイイ物が大好きなシロちゃん。

そして………いつだって私の隣で支えてくれてたシロちゃんが、人を殺すはずない!!

だから話を聞いて、こんな事件とは無関係だって、あの検事さんに教えるんだ!!

2人は、私に黙って付いてきてくれた――――

 

コンコンッ

医務室の前まで来ると、ノックする。

中から返事があると、私達は医務室へと入った。

 

岬 明乃

「失礼します。あの、宗谷ましろさんはいらっしゃいますか?」

ドクター

「ん?ああ、さっきの患者さんね。奥に居るよ。宗谷さん、刑事さん、面会だよ」

宗谷 ましろ

「あっ、艦長………」

岬 明乃

「シロちゃん………」

 

そこに居たのは、ベッドから上半身だけ起こして、頭に包帯を巻かれた状態の彼女であった。

私の顔を見た途端、シロちゃんはどこか悲しそうな目をしていた。

身体を両手で覆い尽くすように、こちらを見つめている。

傍には濃い緑色のコートを着た、無精ひげを生やした男性が座っていた。

 

??????

「ん?なんなんすか?あんた達は?」

岬 明乃

「あの、岬明乃と申します。こっちは万里小路楓さんで、こっちは磯崎蘭ちゃんです。シロちゃ、宗谷ましろさんと同じ高校のクラスメイトです。ここへ運ばれたと聞いたので、様子を見に来たんです」

万里小路 楓

「宗谷さん、調子は如何ですか?」

磯崎 蘭

「怪我がなくて良かったです!!」

宗谷 ましろ

「2人とも………ありがとう。医者が言うには軽い脳震盪って言われたから、すぐに良くなるよ」

??????

「ああ、そうだったすか。自分は、糸鋸圭介(いとのこぎりけいすけ)と申すっす。今は訳あって、この町で所轄の刑事をしてるっすよ!」

 

椅子から立ち上がり、ビシッと敬礼してくれた。

本当はこっちも敬礼したかったけど、艦長帽を忘れてしまったので控えた。

って言うか、口調がももちゃんに似ていて、一瞬だけ笑いそうになるけど、懸命に堪えた。

 

糸鋸 圭介

「それで宗谷さん、さっきの話の続きを良いっすか?」

宗谷 ましろ

「は、はい………」

岬 明乃

「待って下さい!シロちゃんが人を殺すはずありません!何かの間違いです!」

糸鋸 圭介

「それを今確認中っすよ。落ち着くっす、それも後に聞くっすから」

宗谷 ましろ

「………岬さん達とこのステーションで見学している時にはぐれてしまって、道に迷ったんです。しばらくしてから停電が起きて、でもちょうど近くに明かりの点いてたトイレから、物音がしてトイレに入ってから………うぐ!!」

岬 明乃

「だ、大丈夫シロちゃん!?もしかして怪我がまだ治ってないんじゃっ」

宗谷 ましろ

「うぐぅ、何も、何も思い出せないんですよ………!!停電した後の事を、全く!」

 

シロちゃんが悲鳴を上げて、頭を両腕で抱えながら悶絶する。

 

糸鋸 圭介

「本当に何も覚えてないっすか?ただ単にその場で言い逃れしてるだけじゃないっすか?」

 

この言葉で、私はキレた。

………怪我してる人に向かって言い逃れしてるって?

 

岬 明乃

「なに言ってるんですか!!シロちゃんは脳震盪を起こして、医務室に運ばれたんですよ!?頭を強く打った子が本気で嘘を言ってるように見えるんですか!?」

糸鋸 圭介

「ああいや、違うっす!被疑者の中には嘘をついて、罪から逃れる方も居るって意味で………」

岬 明乃

「つまりシロちゃんを疑ってるんじゃないですか!!仕事なら仕方ありませんけど、こんなに苦しんでいるのに嘘なんて言えるわけないでしょう!!」

 

はぁ、はぁ、はぁ………。

人生で初めてこんなに怒りをぶつけたことで、私は息切れを起こしてしまった。

蘭ちゃんと万里小路さん、シロちゃんは呆然と見つめている。

 

糸鋸 圭介

「うぅ、仕事とは言え、こんなに怒られるのはきついっすよ………」

岬 明乃

「それで、シロちゃん。はぁ、他に何か覚えてないかな?ふぅ、シロちゃんが、人殺し何てするはずないし、何かの間違いだって、ひぃ」

宗谷 ましろ

「艦長、息を整えてからでも大丈夫ですので、落ち着いて下さい。ほら、深呼吸して」

岬 明乃

「すー、はぁー。すー、はぁ………うん、落ち着いたかな?」

宗谷 ましろ

「なんで疑問系なんですか………」

糸鋸 圭介

「おほん!では話の続きを、と言いたいところっすけど、さっきからあんたが言っている艦長ってなんすか?」

 

シロちゃんが少しだけいつもの調子に戻ったのも束の間。

あー、やっぱり気になるよね。

シロちゃんはしまったって顔に出てるから、またフォローしないとね。

普段から私はシロちゃんに頼りっぱなしだから、ここで変に疑われないようにしないとね。

 

糸鋸 圭介

「まぁ、どうでもいいっすけどね。それで、さっきの話の続きを聞かせて欲しいっす」

岬 明乃

「………」

 

一瞬だけ怒鳴りつけようかと考えたけど、不毛なので止めた。

それに、シロちゃんの話の続き、私も知りたかったから。

 

宗谷 ましろ

「続きも何も、気絶から目を覚ましたら、トイレの中で倒れていたんです。それくらいしか覚えてません」

糸鋸 圭介

「ふむふむ。ではトイレで殺害された男性に面識はないと言うっすか?」

宗谷 ましろ

「あ、当たり前です!!み、見たことも会ったこともありませんよ。あんな人っ」

 

殺害された男性のことになると、シロちゃんの様子が変わった。

なんだかシロちゃんが慌てて否定しているようにも見える。

………シロちゃん、事件とは全く無関係だよね?不安が募り始めるのを隠すように、両腕を抱えた。

後で刑事さんに内緒でこっそり聞いてみよう。

 

糸鋸 圭介

「しかし、凶器に使われたナイフからはあんたの指紋が検出されたっすよ!これはどう説明するっすか!?実は本当は凶器でブスリと刺したんじゃないっすか?」

宗谷 ましろ

「えっ」

3人

「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」

 

この場に来て、一番驚いた事実だった。

いやいや、待ってよ。

何でシロちゃんの指紋が凶器から検出されるのさ?

 

宗谷 ましろ

「待って下さい!私は本当に知りません!気を失っていて、目が覚めたらいつの間にかここに居てっ」

糸鋸 圭介

「それはもう分かったっす!とにかく、あんたは事件の容疑者っす!直に裁判も始まるから、必要な証言をまとめるっすよ!これから事情聴取を行うから、ほら!あんた達はさっさと出て行くっす!」

磯崎 蘭

「うわぁ!?」

??????

「「おふっ」」

 

バタンッ

医務室から無理矢理追い出される形で、私達は通路へと流されてしまった。

私は扉に縋り付いた。

まだ私は、シロちゃんから聞きたいことがあったのに。

 

ドクター

「やれやれ、私も追い出されるのか。まぁ、部屋の物を勝手に弄らないように言ってあるから、関係ないがね。君達もあまり警察の人に迷惑を掛けちゃいけないよ」

 

そう言い残してその場から立ち去った。

通路に取り残されたのは、6人だけ………6人?

 

トリエラ

「ううぅ、何よいきなり。部屋から飛び出してさ………」

磯崎 凛

「扉で鼻ぶつけちまった………」

綾瀬 留衣

「あ、どうも」

 

そこには、しばらく顔を見ていなかった3人がそこに立っていた。

トリエラちゃんと凜さんは顔をぶつけたらしく、鼻辺りを擦っている。

留衣君は特に打った箇所はなく、頭を下げる。

 

万里小路 楓

「申し訳ございません。こちらの不注意で怪我をさせてしまいました」

トリエラ

「良いのよ別に、怪我なんて慣れっこだから。それよりどうしたの?あんた達、かなり深刻と言うか、難しそうな顔してさ。何かあったの?」

岬 明乃

「っ、実はね………」

 

これまでの経緯を、トリエラちゃんに全て話した。

この近くで殺人事件があったこと、その容疑者に、シロちゃんが疑われていることも。

 

トリエラ

「そ、そうだったの。だから警察があんなにたくさん来てたのね。さっきトイレの近くに警官が張り付いてたよ」

磯崎 凛

「俺と留衣も色々と事情聞かれた。犯行時刻にどこで何してたってな」

磯崎 蘭

「もう、あんなに暗くて動けなかったのに、トイレに行けるはずないのに」

綾瀬 留衣

「………岬さん、さっき医務室の刑事さんが裁判が行われるって言ってたんですよね?」

岬 明乃

「うん、言ってたね。でも裁判って、そんなに早くに行われるの?」

綾瀬 留衣

「日本の一般的な法律として、序審法廷制度と言って刑事事件が発生した場合、審理はまず起訴された容疑者が有罪か無罪か、または有罪が確定した後に被告の量刑を審理する日数を最長で3日以内で行わなくてはいけない法律なんです。これはご存じですよね?」

 

と言われても、私達はこの世界の住民じゃないから当然知る由がない。

元の世界でも裁判なんて単語自体聞かないから、3日以内で誰が犯人かを決めなくちゃいけないなんて法律、聞いたことがないから、何も言えない。

 

磯崎 凛

「なぁ、留衣。それって結局はどう言う意味なんだ?」

綾瀬 留衣

「つまり、簡単に言うと犯罪が多いから、ぱぱっと片付けよう。と、解釈して頂ければ大丈夫です」

万里小路 楓

「それを3日で全て解決させないといけないのですね。人様の命運が掛かっている裁判を、そのような短期間で閉幕して問題ないのでしょうか?」

綾瀬 留衣

「疑問が残る制度です。でもルールとして用いられてしまった以上、遵守しなければいけないのも事実です………ところで話を元に戻しますけど、もうすぐ裁判が始まってしまうなら、誰が宗谷さんの弁護を引き受けるか聞いてますか?」

岬 明乃

「ううん、聞いてないよ。あ、でもさっき私くらいの年齢の子が検事をするって言ってたよ」

??????

「なら急いで弁護士探して、彼女を弁護させなさい。でないとあなたのお友達、無実の罪で収監されちゃうわよ」

 

初めて聞く声に、私達は背後を振り返った。

車いすに乗った若い女性で、赤い髪が光っている。

そして後ろから車いすを押している女性の2人がやって来た。

 

磯崎 蘭

「あの、さっきの無実の罪で収監されるって、どう言う意味ですか?」

??????

「そのままの意味よ。彼女の実力は知ってるわ。いくつもの事件を担当して、被告人を有罪判決に導いてる。だからあなた達も早く腕利きの弁護士を付けないと、大変なことになるわよ」

万里小路 楓

「お言葉を返すようで申し訳ありませんが、不幸にも弁護士様の知り合いはございません。そのような状態でどのように弁護士様を探すのでしょう?」

??????

「被告人に対して弁護士を付ける権利は、全ての人間にある。この法律があるから、誰かしら弁護士は付けること出来るわ。よかったら私が手配しておこうか?」

岬 明乃

「お願いしてもよろしいですか?」

??????

「もっちろん!ほら汐子!仕事よ!」

??????

「ふえぇぇ、結局はあたしがやるんじゃないですか~」

 

後ろの女性がしくしくしながらも携帯を取り出して、どこかへ電話し始めた。

あの人、苦労人なのかな?

 

磯崎 蘭

「あっ、そうだ!私も知り合いに弁護士さんがいるので、電話してきても良いですか?」

岬 明乃

「本当!?ありがとう!お願いして良い?」

磯崎 蘭

「うん!」

??????

「………でも、検事が彼女だって知ったら、弁護を引き受けてくれる弁護士なんて、居なくなっちゃうわね」

磯崎 凛

「えっ?それってどう言う」

??????

「彼女ね、先日の裁判以外では無敗だったの。それは法曹界の人間なら誰でも知ってるの。だから、自分のキャリアに泥を塗られたくない弁護士は、きっと彼女の弁護を断るでしょうね」

岬 明乃

「そ、そんな!無実の罪で苦しんでいる子が居るのに、それをほっとくなんて!」

??????

「それ程までに恐ろしいのよ。琴浦検事の戦略が、ね」

 

………もしも、もしも誰も裁判で弁護を担当してくれなかったら?

弁護士不在の裁判になり、シロちゃんは有罪になってしまう。

そんなの、そんなの嫌だ!!

誰一人欠けることなく、全員で元の世界へ帰るんだ!

そして、いっぱい謝るんだ!

謝ってあの子にっ………あれ?

あの子って、誰だろう?

私は、誰に謝ろうとしてたのだろう?

 

??????

「町長ダメです!どの方も弁護を断ると言って、切られました!」

磯崎 蘭

「ごめんなさい!こっちもなぜか電話しても繋がらなくて………」

??????

「あーもう!やっぱりそうなっちゃうのよね!何でこう、嫌な予感っていつも当たるのかしらっ」

万里小路 楓

「そ、そんなっ、では、宗谷さんはっ!?」

??????

「ごめんなさい、弁護士不在の裁判になって、彼女は………」

 

彼女は最後まで言わなかった。

言わなくても、どうなるかは分かってしまうから。

………このまま、なにもせずに、終わっちゃうの?

何も出来ないまま、幕を閉じちゃうの?

万里小路さんは俯かせ、蘭ちゃんは留衣君に詰め寄って、打開策を聞き出そうとしていた。

凜さんとトリエラちゃんも目を合わせようとしない。

無気力が、虚脱感が、そして絶望が私達を支配していた。

私は、このまま………。

 

―――――――――――――

――――――――

――――

いや、まだだ。

それどころか、始まってすらいない。

何を悲観的になっているだ私は。

弁護士がいないなら、なれば良いじゃないか。

誰も引き受けないなら、代わりにやれば良いじゃないか。

私が、この状況を変える!!

他の誰でもない、この私が、シロちゃんを助け出すんだ!

今まで私を支えてくれて、力になってくれたシロちゃんを!

 

岬 明乃

「………町長さん」

??????

「ん?何かしら?」

岬 明乃

「裁判で誰も弁護を引き受けないなら、誰もシロちゃんを助けないなら………私が弁護士になって、シロちゃんを弁護します」

 

たった一言。

たった一言が、この場の空気を変えたんだ。

みんなの表情が徐々に、上へ向いていく。

 

??????

「………それって、代理弁護人制度として法廷に立つって事よね?」

 

代理弁護人制度。

聞いたことがないけど、名前から見て、きっと弁護士の代わりにその人が弁護する法律なのだろう。

なら、迷うことはなかった。

 

岬 明乃

「はい」

磯崎 蘭

「えっ?どう言うこと?ミケちゃんが、弁護士になるって事?」

綾瀬 留衣

「なるほど、この町は特区で15歳以上なら、代理弁護人として法廷に立つことも許されると、記載されてた。これなら!」

??????

「でも条件があるのを忘れてない?もし代理弁護人制度を適用するなら、助手として2人まで登録する必要があるのよ。正規の弁護人と違って、代理弁護人を補助する必要があるからね」

綾瀬 留衣

「補佐をする人物は、法律に詳しい人物でないといけませんか?」

??????

「いいえ。でもある程度の法廷の知識は必要だから、そうね、私からアドバイスしてあげるわ。岬さんが弁護士として法廷に立つなら、事件の調査を担当。後の1人は法廷についての制度確認で人員を割く必要がある」

??????

「あと調査するなら補佐の人がもう1人必要ですね!」

 

そっか、補佐する人間が必要なんだね。

裁判をスムーズに進めるために。

なら、私を補佐してくれる人間なんて、もう決まっていた。

私はその子達に視線を合わせて頷いた。

 

岬 明乃

「なら補佐として、万里小路さんと蘭ちゃん、お願いして良いかな?役割としては事件の調査で私と蘭ちゃん、法廷での制度確認を万里小路さんにお願いします」

万里小路 楓

「はい!畏まりました!」

磯崎 蘭

「万里小路さんは良いとして、いいの?私なんかで」

岬 明乃

「うん!万里小路さんは要領はすごくて、蘭ちゃんはどこか勘が鋭くて、そして言い出しっぺの私。このメンバーが最適かなって」

磯崎 凛

「はぁ、俺達は留守番か。事件に遭遇した身としては、蘭のポジションが羨ましい」

綾瀬 留衣

「凜さん、今回は蘭に任せましょう。素人である僕達では、足手纏いになってしまいますから」

トリエラ

「………」

??????

「なら決まりね!私は警察関係者に担当弁護士が決まったって言って、事件現場や捜査資料を渡すように手配しておくから」

??????

「それも私が全部やるんですよね?そうなんですよね?」

??????

「それくらい自分でやるわよ。あんたは車いすを押す掛かりだから!」

??????

「ふぇ~、やっぱりぃ!!」

 

………そうだ、まだ始まったばかりだ。

異世界へやって来て、一番最初の事件。

そして、人生初の裁判。

この後の展開がどうなるかは、私にも分からない。

全くの未知の世界で、私はどう切り抜けていけるのだろうか。

だけど、私には守るべき仲間がいて、頼りに出来る仲間がいて。

彼女達がいる限り、私は止まる事態にはならないだろう。

そう胸に誓いながら、相棒の2人を見つめていた。

 





感想などをお待ちしております。
次回は捜査編をお送り致します。

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