仮面ライダーフォーゼ サンシャインキターッ!   作:高砂 真司

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「……で? その、()()ってのは誰だったんだよ」

「? 何のことだい?」

「忘れたとは言わせねーぞ! 『「地球の本棚」に誰かがアクセスしてきたようだ……。少し見てくるよ』って言ったあと、俺や亜樹子に散々検索ワード上げさせるわ、説明もなしに静岡の大学教授に連絡し始めるわ、と思ったらまた「地球の本棚」に引きこもるわ!」

「国木田花丸のことかい? そのあと〈アカデミー〉について検索していたからすっかり忘れていたよ」

「ああ? 〈アカデミー〉っていや、照井がインターポールと一緒に追ってるガイアメモリの流れ先か。関係してるのか?」

「いいや、彼女は流出したマインドメモリの使用者ではなかった。偶然が重なり、奇跡的な確率で迷い込んだだけの一般人さ。その証拠に、彼女は「地球の本棚」に対する一切の干渉ができなかった。……しかし、彼女のお陰でやつらの尻尾は見えた気がするよ」

「尻尾?」

「国木田花丸はメモリの使用者ではないが、マインドドーパントの攻撃を受けていた。そのうえゾディアーツスイッチのスイッチャーでもあり、本や知識に関する造詣もあった。恐らく、地球も宇宙に散らばる星の一つだった、ということだろう。随分、幸運な星だ」

「……〈アカデミー〉って連中は、ガイアメモリだけじゃなくゾディアーツスイッチにまで手を出してるのか?」

「まだ隠し球はありそうだけどね。でも、国木田花丸については問題ない。あそこには僕たちの後輩がいるからね」

「……そうか。まあ、俺たちもこの街のドーパントで手一杯だからな。そっちは任せるとしようぜ、フィリップ」

「勿論だとも翔太郎。……ところでさっきの僕の真似だけど、あまり似ていないから外で披露するのはやめてくれたまえ」

「いや、今の話で気になるところはそこか!?」


第8話 異・心・電・心

 心が落ち着く紙の匂い。

 座り慣れた受付の椅子。

 見覚えのある景色。

 本棚を焼き尽くす茜色。

 一度も触れたことのないパソコン。

 今日は動いていない業務用の大きな扇風機。

 いつもより静かで寂しく感じる空間。

 

 机の中には、いつぞやのスクールアイドルの雑誌が入っているのだろうか?

 

(あれ……? マルはどうしてここにいるんだろう?)

 

 疑問が頭に浮かび、ここに至るまでの記憶が欠落していることを認識する。妙に頭が重く、思考が回らず、どこかで事故を起こしたのか言葉が渋滞しているようだった。

 ゆっくりと、順を追って、覚えていることを、思い出す。

 

 スクールアイドルの体験入部、慣れないダンスへの戸惑い、淡島神社での階段ダッシュ、すぐに差をつけられて、自分を気にする彼女の背中を押して、彼女は彼女の夢の先へと駆け上がっていった。そして……

 

(マルは、階段を降りた)

 

 そうだった。

 親友に自分という足枷を外させるために、姉というしがらみから解放するために、その小さな翼で夢の大空へと羽ばたかせるために、背中を押したのだ。しかし、だからと言って自分がここにいる理由とは結び付かない。

 まだ何か忘れている。記憶の糸を手繰り寄せようとしたとき、自分が何かを大切に握っていることに気がついた。

 

「これは……?」

 

 見た目は何かのスイッチのようだった。黒く、どこか禍々しく、洋物推理小説の犯人が持つ爆弾のスイッチのような、一見するとそういう類いのもの。勿論、国木田花丸という人間にこういったものを収集する趣味はない。精々、読んだ本の世界を空想で広げ、その中に登場させる小道具程度でしか馴染みのない代物だ。こんなものを買った覚えも、貰った覚えも……

 

 

『寂しいなぁ。悲しいなぁ。でも、ルビィちゃんのことを思えば仕方ないなぁ』

『なぁんて、嘘嘘。大嘘ずらっ』

 

 

「っ!?」

 

 頭に響いた声に体が跳ねる。とても馴染みのある、でも内側から耳の中を嘗め回すような気味の悪い声に驚き立ち上がると、椅子は激しい音を立てて床に倒れた。

 

「誰……?」

 

 静かな問いかけに答える者はいない。しかし、何となく気配はわかった。自分以外の何かがこの空間にいる。そんな気がして目を凝らし、耳をすます。

 

『本当は一人に戻りたくない。いつまでもルビィちゃんと一緒にいたい。もう、一人寂しく空想の世界に引きこもるなんて耐えられない』

『建前で塗り固めて大人ぶっても、素の国木田花丸は孤独に耐えられない、未練がましい、よわぁいよわぁい存在ずら』

 

 影が動いた。

 三文芝居もいいところな声が、本棚の影から現れる。驚きはしたが、声は上げなかった。せめてもの抵抗だとか、そんなみみっちい理由ではない。あの覚えのある声を聞いたときから何となく、そんな気がしていたからだ。

 

 抜き出た影が色を持つ。そうして出来上がった()()()()()は、とても楽しそうに笑っていた。

 

物怪(もののけ)、ずら?」

 

『そんなわけないずら。マルはマル。オラはオラ、ずら』

 

 問いに対しそう答えた彼女は、ふんふんと鼻唄を歌いながらステップを踏む。不器用で、不格好で、ダンスと呼ぶには程遠い足運び。筋力も持久力もない自分に相応しい無様な舞だと、正直に思った。千歌たちに教えてもらったそのワンフレーズを楽しそうに踊りきった彼女は、揺れる花丸の機微を感じとりニヤッと口元を歪める。そして鼻先で馬鹿にするように、大振りな動きをつけて三文芝居の続きを演じた。

 

『真似事だけどとっても楽しかったな、スクールアイドル。やっちゃおっかな。ルビィちゃんと一緒に』

「……」

『練習についていけるか自信はないけど、やってみたいな。あんなキラキラしたこと』

「……」

『でも、頑張ってる皆の足を引っ張っちゃうのは嫌だなぁ。嫌われたらどうしよう』

「……」

 

 静観する花丸に、彼女は嗤う。

 

『一人立ちしたかったのは、どっちなのかなぁ?』

 

「……マルの姿で(かどわ)かそうとしても無駄ずら」

 

『拐かすなんて人聞きが悪いよ。これはマルの本心。貴女の胸の内の声ずら』

 

「マルはそんなこと『思ってない? 本当に?』

 

 クスクスと笑う彼女は、見透かしたように花丸の瞳を覗きこむ。ずいっと近づいてきた自分の顔に思わず顔を反らしてしまった花丸を見て、彼女はより滑稽を嘲笑うように喉を鳴らした。

 

『嘘をついても無駄。マルは貴女なんだからなんだってわかる。貴女もマルのことわかるよね? ただ、今みたいに弱さから目を反らしているだけ』

 

「でも! ……仮にあなたの言う通りだっだとしても、ルビィちゃんを応援したいって気持ちは同じ。マルのお話はここでおしまい。また昔のように、一人の図書室に戻る」

 

『戻れる……ずら?』

 

 ムキになって反論しようとする花丸の唇を指で塞ぎ、見透かしたように笑う彼女は耳元でそっと続きを囁いた。

 

『戻れないよ。もう一人には』

『二人で肩を並べて読む本の良さを知ったから。二人で歩く帰り道の楽しさを知ったから。二人で過ごす休日の充実感を知ったから』

『もう、一人の静かな図書室には戻れないよ』

 

 押し寄せる言葉の群れに、花丸はもがくことすらできなかった。記憶の深いところから引きずり出された感情が、彼女の手足を絡めとり動きを封じる。満足げな表情に影を落とす彼女は尚も続けた。

 

『きっと、ルビィちゃんは図書室に来る時間なんて無くなっちゃう。帰る時間もバラバラになる。休日だって練習がある』

「…………て」

『ルビィちゃんの前には煌めくスクールアイドルの世界が広がっている。でも、マルにはそれが眩しかった。楽しそうな彼女を見てそう思った。だから階段を降りた。逃げだした』

「……めて……!」

『わかっちゃった。マルはルビィちゃんと違う世界を生きなきゃいけないってこと。違う道を歩かなきゃいけないってこと。もうルビィちゃんは━━

「やめて!!」

 

 花丸の声に、窓ガラスが揺れた。飲み込んだつもりの気持ちが噎せ返り咽を焼く。蓋をしようとしても、どうしてか口は、心は、止まらない。

 後悔なんてしていない。それは事実で、彼女の羽ばたく姿が見たいと、輝く姿が見たいと思った。しかし、目の前に立つ彼女……自分は、その奥に蓋をした感情を引きずり出してくる。僅かな逃げ場を奪っていく。じわりじわりと足元を侵食し、花丸を後の無い崖の縁へと追い込んでいく。

 目の前の、心の内をどろどろと垂れ流すまるで溶岩のような自分は告げた。

 

『ね? 戻れないでしょ?』

『だからやろうよ、スクールアイドル』

『我慢なんてせずにやりたいことをやればいいんだよ』

『そうすればルビィちゃんとも一緒にいられる』

『一人寂しい思いをしなくてすむ』

 

 甘美な誘いだった。友達と一緒にいるために、友達と同じ景色を見る。実に簡単で、わかりやすくて、理屈の通った誘い。追い込まれた自分の前に垂れてきた蜘蛛の糸だった。断る理由なんて無いはずの、花丸にとっての最適解。

 それでも、それは黒澤ルビィの最適解ではないと首を振る。

 

「……マルがルビィちゃんの足を引っ張るわけにはいかない。マルには、あんなキラキラしたことはできないし、…………ああは、なれない」

 

 今日一日。それで自分が向いていないことを花丸は自覚した。

 自分にはあのキラキラした世界は眩し過ぎる。自分には皆についていけるだけの体力も、筋力も、溢れんばかりの情熱もない。

 自分には彼女たちのような、スクールアイドルたらしめるものは何もない。だからこそ、この糸を掴むことなんてできはしない。

 誘いをはね除けた花丸に、もう一人の花丸は呆れたように肩を落とす。

 

『頑固だなぁ。……あっ! じゃあこうしよう』

 

 名案を閃いたのか、両手を合わせた彼女はにっこりと、鏡の前で笑ったときのように柔和な笑みを見せる。そして優しく花丸の手の中にあるスイッチごと両手を包み込むと、甘く耳元で囁いた。

 

『このスイッチを押せば、貴女は今の貴女をやめられる。生まれ変われる。どう?』

 

「生まれ……変わる……?」

 

『そうずら。今の弱い貴女を捨てて、もっとずっと強い貴女になれる。そうすれば、ルビィちゃんのいない世界で一人孤独に立ち向かえる強い貴女になれる。……かもしれない』

『弱い自分を捨てて、一人でも大丈夫な、“一人でなんでもできる貴女”になれる。そんなおまじないずら』

 

 視線を手に落とす。正直に子供騙しだと思った。こんなスイッチ一つで思うように自分の世界が変わるわけがないと、本気でそう思った。

 それでも。

 頭では理解していても、目の前の自分がそう言うのなら可能性があるのかもしれない。

 

 自分の中には些細なきっかけで変われるだけの力があるのかもしれない。

 

 もし親友の輝きを犯すことなくその光を見つめ続けられたら、その僅かな望みに期待をしてもバチは当たらないんじゃないか。そういう気持ちがふつふつと芽生えた。

 一人でも平気な強い自分になるために。輝かしい彼女の姿を見ていられる新しい自分になるために。目の前の糸を掴める自分になるために。

 変わるために足掻き、殻を脱ぎ捨てるためにもがく。そんなおまじない。

 

『そう。「ただの、おまじない』……」

 

 藁にも縋る思い。激しい思い込みの類い。それでも、何かきっかけがあれば“できる”かもしれない。

 手元を見つめる花丸は、その手を包み込む影たる彼女の悪しき笑みには気づかない。

 彼女……もう一人の花丸は、瞳から光の失せた花丸の背中をそっと押した。

 

 その崖の先が例え、光も届かぬ奈落の下だとしても。

 

 

 

 

「ダメだよ! 花丸ちゃん!」

 

『「ルビィちゃん……?』」

 

 体が甘い重力に屈するという寸前。あとほんの少しでスイッチが押されるというとき。扉から勢いよく現れたのは花丸が心待ちにしていた人だった。汗の張り付く練習着姿で跳ねる心臓を押さえつけ息を切らす彼女に続いて、二年生の三人も駆け込んでくる。皆が一様に険しい顔をし、恐らく自分の身を案じてくれているのだろうことはぼんやりとした意識でも察しがついた。

 

    「国木田さんが二人……!?」

 

    「ッ! スイッチ持ってる! 止めないと!」

 

    「ダメだよ花丸ちゃん! それを押しちゃダメ!」

 

 声が遠くに聞こえ、目に映るものを脳がゆっくりと噛み砕き処理する。徐々に自分というものがわからなくなり、不安定に揺れる思考が少し、また少しと忘我の谷へと落ちていく。

 それでも、追い付かないほどにその姿が眩しくて。

 必死な姿が愛しくて。

 そうなりたいと思ってしまった。

 “輝きたい”と、星に願ってしまった。

 強い自分に、できる自分に、彼女の隣にいても眩しいままの彼女を見つめ続けられる自分に、なりたいと。

 

 口は自分の意思を無視して動いていた。

 

 

 

 

「『……ルビィちゃんは、マルが変わるのが嫌なの?」』

 

 二人の花丸の言葉が重なる。口の動きも、瞬きも、まるで鏡合わせのように同じ。どこを見ているかわからない空っぽの瞳と、喜びを感じているのか意地悪な瞳が一組ずつルビィを見つめる。物言わぬ迫力が気の弱い少女を丸飲みにしようと襲ってくるのが、傍目から見ていた千歌にもわかった。

 それでも、強く眩しい彼女の光は揺るがない。

 

「目を覚まして花丸ちゃん! こんなの押したって何も変われないよ!」

 

 その強い光が、空っぽの影をより濃くする。突きつけられた現実に目眩がし、きゅっと花丸の心臓を掴んで離さない。その痛みだけがふわふわした感覚に囚われた花丸の中にある唯一確かなもので、上っ面の言葉すら簡単に奪い去り空っぽを満たす負の感情を器から溢れされる。ドロドロと垂れてくる熱い熔岩は、冷めることなく花丸の身をじわじわと焦がした。その度に体の力がゆっくりと抜け、もう自分の意思で立っている気さえしない。

 その変化を感じ取ったもう一人の花丸は満を持して、蓄えた微笑と共にルビィの言葉を突く。

 

『変われないなんて酷い言い草ずら。マルは必死に足掻いて前に進もうとしてるだけなのに』

 

「変われないよ! ……誰も、前になんて進めなかった。人を越えたって、いくら星に手を伸ばしたって、叶えたい願いには届かない! そうやって逃げた先にあるのは、希望なんて優しいものじゃないの!」

 

『希望か絶望かを判断するのはオラずら。星の力を信じもしないルビィちゃんじゃない。……そうずらよね、オラ?』

 

 その花丸の言葉に導かれるように、虚ろな花丸はスイッチを両手で握り前に突き出した。邪な笑みを浮かべる片割れの花丸の体が、闇となってそのスイッチに吸収されていく。そして、花丸(かのじょ)を飲み込んだスイッチは姿を変え、自身の名を高らかに、しかし静かに宣言した。

 

《LAST ONE》

 

『「ルビィちゃん。オラも変わるから。見ててね」』

 

「ダメーー!!!」

 

 握りしめたスイッチに指をかけた花丸へ、ルビィは片方の手を必死に伸ばした。谷底へ落ちようとする大切な友達へと、必死に。するとスイッチから放たれた闇は、花丸だけでなくルビィまでも簡単に飲み込んでしまった。

 

「ルビィちゃん!!」

 

 

∝∝∝∝∝

 

 

 暗闇の中で指が触れ合う。力のない手を握ったルビィは離すまいと懸命にもがき、この闇から逃れようと身を捩る。しかし奈落の底から伸びてきた絶望は、そう簡単に手を離してはくれなかった。

 煌めく星の輝きが、ルビィの思いを嘲笑うように花丸の肉体を怪物へと変えていく。柔らかく温かな肌が硬質で冷たいものに塗り替えられようと、握った手からルビィの腕へと闇が這いずり上がってこようと、ルビィはただ親友を抱き寄せその体を包み込む。

 

「ルビィは花丸ちゃんを一人になんてしない! 絶対に……!」

 

 闇がルビィの体に染み込む。自分の体が異形の姿へと変質する恐怖はあった。目をつぶり、ぐっと震えを我慢する。理性と本能が同時に危険を訴えかけ、人から足を踏み外す感覚が全身に奇妙な高揚感を与える。

 ルビィにあったのはなんでもない、意地だった。離すまいという意地と、離れたいという恐怖のせめぎあい。

 だが、それ以上に。

 最後にちらついたのは、静かに涙を流すあの日の姉の背中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

 空気が変わった。

 ルビィは恐る恐る、そっと目を開く。先程までの闇とは打って変わって、目の前に広がるのは真っ白な何もない空間だった。抱き締めていたはずの花丸も、捕まったときに押し付けられたまま握りしめていた悪夢の象徴も、何もない。空虚な無の空間が、見渡す限り無限に続いているようだった。

 

「ここは……?」

 

『どうしてルビィちゃんがここにいるずら?』

 

 突然の声にばっと顔をあげる。そこにはさっきまでいなかったはずの花丸が一人、腰に手を当て不満げにため息をつきながらこちらを見返していた。

 もう名残惜しさも感じない思い出の中にある中学の制服。それに身を包む彼女を見て、ルビィの直感は違うと囁いた。身の丈も、指先までの仕草も似ているが、決定的に何かが違うという確信。その確信が花丸にも伝わったのか、彼女はまた大袈裟にため息をついた。

 

『ルビィちゃんが思ってる通り、マルはルビィちゃんの思う国木田花丸ではないずら』

 

「ここはどこ……? 花丸ちゃんは……?」

 

 ルビィの問いかけに、つまらなそうな顔をする彼女は顎でルビィの後方を指す。つられて振り返り、そしてルビィは大きく目を見開いた。

 

「花丸ちゃん!」

 

 大切な人は、そこでお姫様のように眠りについていた。練習着のまま仰向けで、死んだように静かに寝息をたてる花丸を揺すり、声を何度もかけるが反応はない。このまま目を覚まさないんじゃないかという恐怖がルビィを追いたて、わかっていた結末を避けられなかった自分の無力さに唇を噛む。しかし、もう一人の花丸はそんなルビィに一筋の可能性を示した。

 

『ちょっとやり過ぎたけど、まだ死んだわけではないずらよ。より深い意識の層まで落ちてしまった国木田花丸の体だけを引っ張ってきただけだから、その点は保証するずら』

 

 もう一人の花丸は、何もないはずの空間にどっかりと腰を落ち着けた。見えないだけで大きな椅子でもあるのか、普段の花丸らしからぬ姿勢で足を組み、挑発的な視線をルビィに送る。

 

『ここは国木田花丸の精神世界ずら。ルビィちゃんのせいでオラがここに引き留められたのは誤算だったけど……ま、結果オーライというやつずらね。十分巻き返せるずら』

 

「精神世界……?」

 

『“あんだーわーるど”って呼ばれてるらしいけど、オラもルビィちゃんも関係ないから説明はくしゃくしゃのぽいっ、ずら。時間もあまりないずらからな』

 

 さて、長々とした前置きはここまでずら。

 

 そう言ってもう一人の花丸は指を二本立てる。まるでそれだけが救いだとでも言いたげに見せつける彼女は、にやっと口元を歪めた。

 

『ルビィちゃんに残された道は二つずら。このまま二人して存在が消えるのを待つか、その国木田花丸を残して外に出るか』

 

 さぁ、どっちずら?

 

 残酷な選択を突きつけたもう一人の花丸は悠然とした態度で、瞳に写るルビィを静かに眺めていた。

 

 

∝∝∝∝∝

 

 

 二つの星が瞬いた。千歌たちの目の前で闇は濃縮し、そこから一人分の体が排出され床へと崩れ落ちる。

 

「ルビィちゃん!!」

 

 曜が倒れた彼女へと駆け寄り体を持ち上げた。意識がないのか反応のないルビィの脈をはかり、力はないが生きていることを再確認し安堵する。少しうなされながらぐったりとした彼女の様子に一抹の不安が過るも、医学的な知識やこういう超常的なものへの理解があるわけでもない曜にはどうすることもできなかった。

 一先ず体の自由を奪う白い繭を引き千切ろうとするが、何度剥がそうと繭はルビィ自身の体から抜け出てくるので終わりが見えない。

 

「何この繭……?」

 

「曜ちゃん危ない!!」

 

 不気味な繭に困惑する曜の耳に、千歌の声が響く。怪物の存在を思い出しハッと顔をあげたとき、目の前にあったのは犬のような毛で覆われた障害物だった。

 

「ッ!!」

 

 瞬時に危険を感じ取った曜がルビィの頭を抱き抱えて身を縮ませる。直後、肩辺りにやって来た痛みが曜の体をサッカーボールのように簡単に蹴り飛ばし、壁際の本棚まで綺麗に床を転がした。

 

「曜ちゃん!」

 

 激突し走る背中の痛みに苦悶するが、目を開けなければ死が待っている。そんな強迫観念が曜の瞼をなんとか抉じ開けた。

 眼前に立ち塞がるのは、左半身が獣のような豊かなピンクの体毛で覆われた獣人、右半身が鈍い黄土色の西洋甲冑で覆われた涙滴型の縦を持つ騎士という、見た目ちぐはぐな怪物だった。唸るわけでも、叫ぶわけでもない。ただじっと立ち尽くすそれに梨子は声を漏らす。

 

「なに、あれ……」

 

 片身のどちらにも異なったスターラインの走る異質な怪物。このゾディアーツが二つの星座をもつ異常なものだということは、ゾディアーツやスイッチに詳しくない三人にも目に見えてわかるものだった。

 ギョロリと左半身の獣の目が動き、声を出した梨子の姿を捕らえる。

 

『ヴ……ア"ァ"……』

 

 声帯から出ているのか疑わしい音を漏らしながら、怪物は覚束無い足取りと錆び付いた機械のような動きで体の向きを梨子の方向へと変えた。両半身が別々の意思を持っているのか、獣の左足を引き摺りながらガチャガチャと音を立てて怪物は一歩一歩近づいていく。

 きっと悪魔はこうして這い寄ってくるのだろう、と梨子は思った。

 焦点の合わない血走った左目。近づいてくるごとに耳に響く甲冑の音。怪物の重みに耐えられず静かに軋む床。嫌悪感が形を持てばこういう姿をしているのだろうか。十分に逃げられるのったりとした動きだが、その異様さと言い知れぬ恐怖が梨子と千歌の足を掴んで離さなかった。

 

「だあああぁぁぁぁッ!!!」

 

 痛みを押して立ち上がった曜が叫ぶ。自分を鼓舞するためか、それとも注意を引くためかはわからない。肺の空気を絶叫と共に吐き出し、出せる全力をもって二人に忍び寄る恐怖に迫る。怪物がこちらに向くかどうかの瀬戸際で、曜は目標に全体重を乗せた体当たりを見舞った。

 

 手応えは、とても軽い。その一言に尽きた。空気や紙にぶつかったような手応えだとか、そういった物理的な軽さではない。何なら人二人分以上のような重量の感触であったし、現に曜は跳ね返され床に転がっていた。それは、耐えようとか迎え撃とうという本来あるべき意志が全く感じられない軽さだったのだ。

 結果、怪物はされるがままに押し出され、たたらを踏み、腰ほどの高さの本棚を越えて窓に激突する。決して古くはない窓枠の棧が、怪物の重みに悲鳴をあげて五月蝿いほどの嘆きと共にその存在を外へと吐き出した。

 

「曜ちゃん! 大丈夫!?」

 

 窓ガラスの破砕音でようやく我に帰った千歌が、倒れる曜へと駆け寄った。平気だよ、と蹴られた左肩を押さえてはにかむのも束の間、穴の空いた窓から中庭を確認した梨子の言葉で二人の表情はひきつる。

 

「どうしよう……! あのゾディアーツ、外に出ようとしてる……!」

 

「外に出て暴れたら大変なことになるよ! 弦ちゃん先生を早く呼ばなきゃ!」

 

 曜の言葉に梨子が登録したての番号を探し出す。あの独特のデザインとカラーリングの携帯電話を思い出しながらワンコール、ツーコールと返答を待っていると、千歌は何かを決心したように立ち上がった。

 

「……私、行ってくる」

 

「!? 千歌ちゃん!?」

 

 そう宣言した千歌は、名前を呼ぶ曜を無視して図書室を出ていった。見えなくなった後ろ姿に、曜は弦太朗に連絡を取る梨子へと目を向ける。

 

「お願い梨子ちゃん! 千歌ちゃんに着いて行って! 私もルビィちゃんを連れてすぐに行くから!」

 

「う、うん! わかった!」

 

 電話をかけながら、梨子も転がるように図書室を飛び出した。静かになった部屋で、緊張から解き放たれた曜はアドレナリンのお陰かいくらかマシな体の痛みに顔を歪める。

 

「ッ……! 痕、残らないといいんだけど……」

 

 強がりを吐いて震える足を少しつねる。あともう少しだけと気合いで足を支え、やっとこさ立ち上がった曜はよろめきながら眠りにつくルビィの傍に腰を下ろした。やはり繭はルビィを離さないように体に巻き付いていて、引きちぎるとそれは空気にとけるように消えてしまう。

 

「もう少し頑張ってよ、私……!」

 

 何とかルビィの体を背中におぶり立ち上がる。鈍痛と小柄な女子高生の体重を一身に背負うと、流石に筋力に自信のある曜でも少しよろめいてしまう。ずれ落ちそうになる体を慌てて支えると、その衝撃でルビィの手から何かがこぼれ落ちた。

 

「これって……」

 

 軽い音を立てて転がったものを、恐る恐る、ゆっくりとしゃがみ拾い上げる。見知ったというか、なるべくなら見たくはない元凶たる装置。赤い魅惑的な突起は押し込まれておらず、まだ使われていないということはわかる。初めて触れるにしては手に馴染む、思っていたよりずっと重いそれはただ沈黙を貫いていた。

 

「どうしてルビィちゃんがスイッチを……?」

 

 疑問を口にした曜は肩越しに眠り続けるルビィを見る。魂が抜けたような表情で苦悶する彼女がいったいどんな夢を見ているのか、曜には皆目見当もつかなかった。

 

 

∝∝∝∝∝

 

 

「ルビィは、外に出るよ」

 

『……ふーん、意外ずら。てっきりルビィちゃんはその国木田花丸と心中の道を選ぶと思ってたずら。ま、人間なんてそんなものずらね』

 

 少しつまらなさそうな花丸は、エスコートするように視線と右手を差し出す。すると、どっかりと座る花丸の横にグルグルと空間を歪ませる奇妙な渦が現れた。

 

『さ、お待ちかねの出口ずら。早く行くずらよ。友情を簡単に裏切るルビィちゃんの顔なんか━━━って、何してるずら?』

 

「何って、花丸ちゃんも連れていくに決まってるよ……!」

 

 花丸が視線を戻すと、そこには眠る花丸を引き摺りながら出口を目指すルビィの姿があった。何がしたいのか理解のできない花丸が言葉を失っている間にも、ルビィは一歩一歩着実に外へと歩みを進めていく。可笑しさよりも驚きの方が勝ってしまった花丸は、眉間のコリをほぐしながら彼女を手で制す。

 

『待って待って待つずら。無茶ずらよ。国木田花丸の意識はより深い層にあるって言ったずらよね? 体だけ外に引っ張り出しても意識が戻らなければ直に国木田花丸は死ぬずら』

 

「じゃあ、花丸ちゃんを助ける方法を教えて!」

 

『無茶苦茶言うずらなぁこの子は……。二択って言ったの覚えてないずらか? 国木田花丸はもう助けられないずら』

 

「そんなのわからないよ!」

 

『わかるずら。この精神世界っていうのは、謂わば国木田花丸にとっての心の支えずら。その中にいないってことは、国木田花丸は自分の全てを投げ捨ててしまったってことずらよ。“変身”を望んだ国木田花丸はこれから一つ一つ大切なことを忘れていって消滅し、代わりにオラが新しい国木田花丸として生きていくことになるずら。今、この瞬間、元の国木田花丸が後悔していようと関係ないずら。奇跡でも起きない限り、国木田花丸が目覚めることはないずらよ』

 

「奇跡……」

 

 そこで、ルビィの足は止まってしまった。奇跡という、憎たらしくて愛しい言葉が頭の中でこだまして煌めく。その僅かな輝きがいかに簡単に手のひらを返してくるかを知っているルビィは、もう自信をもって一歩を踏み出すことができなかった。宇宙に瞬く星々の輝きが自分達を裏切ったように、そんな甘い言葉さえ誰も救ってはくれないと、幼いながらも彼女は知ってしまっているのだ。

 

「奇跡、なんて…………」

 

━━━━奇跡なんか起きないって思うな

 

 見知った声が、ルビィの中で優しく囁いた。

 この言葉を知っている。とても力強くて、彼女の否定し続けてきた思いを優しくほどいてくれた人の言葉。都合のいい奇跡なんてこの世にはないのだと思っていたルビィの世界に、ほんのちょっとだけ差した光。

 

    信じるだけじゃ奇跡は起こせねぇ

 でも信じなくちゃ、奇跡は起きない……!

 

 未だに男だというだけで怯えてしまう彼の、その言葉を強く自分の中で握りしめて胸を張る。

 躊躇う理由なんて、最初からない。

 

 花丸の体をそっと下ろしたルビィは、自分もその場に腰を下ろすと彼女を優しく抱き締める。そして躊躇うような大きな沈黙の間を設けたのち、ゆっくりと重たい口を開いた。

 

「……ルビィね、花丸ちゃんのこと見てた。花丸ちゃんがルビィを見ててくれたくらい、ルビィも見てた」

「ルビィに気を使って、無理してるんじゃないかなって思ったから。辛くないかなって不安だったから。……でも、花丸ちゃん笑ってた」

「美味しそうにご飯を食べてるときみたいに。新しい本を読んでるときみたいに。練習中も、みんなといるときも、すごく楽しそうに笑ってた」

「だからルビィ思ったの。花丸ちゃんも、ルビィと同じくらいスクールアイドル好きなんだって。好きになってくれたんだって……!」

 

 ぽつぽつと吐き出し始めた心中に、花丸は茶々を入れることもなくただ静かに聞き耳をたてていた。奇跡をひた向きに信じる彼女の姿に心打たれたわけでも無いだろうに。見守るような、憑き物が落ちた眼差しで静かに。まるでこの時を待ちわびていたかのように優しい目で頬杖をつく。

 

「ルビィだって弱いよ! 変わりたいって思う! 花丸ちゃんに頼ってばかりなルビィも、如月先生に怯えちゃうルビィも、人見知りなルビィもやめたいって思う。でも、だからこそこんな力に頼っちゃダメなんだよ!」

「一人でなんて変われない。ルビィも、きっと花丸ちゃんも弱いから、一人で変われるなんて思わない。だからルビィは、花丸ちゃんと一緒に変わりたい! 一緒にスクールアイドルして、“変身”して、新しい自分になりたい! ワガママかもしれないけど、ルビィは花丸ちゃんと一緒にいたい! だからお願い。目を覚まして、花丸ちゃん!」

 

 話終えたルビィの瞳から、一筋の涙がこぼれる。その滴は頬を伝い、はぐれた数滴が眠りにつく花丸を濡らす。咽び泣くルビィの目元を拭ってくれる人はいない。それでも“奇跡”を信じるルビィは強く花丸を抱き締めた。

 

「…………ルビィ、ちゃん?」

 

 涙を止めてくれる声がした。そっとルビィの頬に触れた温もりが、二人に希望の光を照らし出す。

 

「オラも、ルビィちゃんと一緒にいたい。いいかな……?」

 

「……うん!!」

 

 はにかみ合う二人を見届けたもう一人の花丸は、満足げに立ち上がる。満を持して動き出した彼女に気付いたルビィだが、心のどこかで警戒という文字は不要だと切り捨てていた。安心感というには少し違う、しかし怖さももう感じない不思議な感覚があったのだ。

 もう花丸とは似ても似つかない彼女は、穏やかな声を紡いだ。

 

『ようやく受け入れてくれた? 私』

 

「……貴女はオラなんだね。今まで色んなことを押し付けてきた、オラの心の弱い部分」

 

『さ。消えたくなければ、生きたければ、とっとと行って。時間は待ってくれない━━

 

 見た目からは想像のできない腕力でルビィの襟首を掴んだ彼女は、浮いた足に目が点になる少女を大きく振りかぶり……

 

 ━━よっ!』

 

「ぴぎゃぁぁ!?」

 

 抵抗する間も与えず、軽々と渦の中へと放り込んだ。ルビィのか細い悲鳴が聞こえなくなると、もう一人の花丸は次に花丸の襟首を掴もうとする。しかし、その手をやんわりと払った花丸は、もう一人の自分に笑みを向けた。

 

「大丈夫。オラはもう、一人で立てるよ」

 

『……そう』

 

 重い体をゆっくりと持ち上げた花丸は、自分の足でしっかりと立ち上がった。もう一人の花丸は、よろめく彼女を支えることもなく、その背中を押すこともなく、ただじっと明日へ向かう姿から目を反らさない。役目を終え消えてしまった渦を少しの間見つめていた彼女は肩の荷が下りたのか、うんと一つ伸びをした。

 

『ここも賑やかになるなー。もう、オラの居場所はないかも。……あ、まだオラって言っちゃってるずら』

 

 そう呟いた彼女は、心底楽しそうに笑った。

 

 

∝∝∝∝∝

 

 

『賢吾! ゾディアーツから国木田の体が出てきた!』

 

「弦ちゃん先生! ルビィちゃんの体の繭も無くなったよ!」

 

 レーダーモジュール越しに報告する弦太朗たちの目の前で、二つの星座━━盾座と小犬座をもつゾディアーツから左半身だけが溶け落ちた。小犬座のカニスミノルゾディアーツを脱ぎ捨て立ち竦む異形は、内側から更に闇を放出してその身に纏う。吸収した闇の影響か、色が抜け落ち黒々しく変色した西洋甲冑に身を包む、涙滴型の盾を両手に携えた盾座・スクトゥムゾディアーツは先程までの乱心した様子はなく、ただ静かに騎士然とした様子で構えた。

 

『うっし! こっからが本番ってわけだ』

 

『気を付けろ弦太朗。スクトゥムは防御力に長けたゾディアーツだ。物理的な攻撃は効果が薄いぞ』

 

『じゃあ、こいつで行く』

 

《ELEK》

 

 フォーゼが取り出したのはクリアオレンジ一色のスイッチ、「No.10エレキ」。他のアストロスイッチとはどこか違う存在感を放つそれを右腕のスイッチと交換し、ブレーカーのようなスイッチをオンにする。

 

《ELEK━ON》

 

 その瞬間、曜の髪を静電気が優しく撫でた。

 モジュールを展開するだけではない、“普通じゃない”スイッチのみが持つ特殊な性質「ステイツチェンジ」。その秘めたる素質を解放したエレキスイッチは、フォーゼに強力な電気の力を授け新たな姿へと変えていく。梨子が目を細めるほどの目映い電撃がフォーゼの装甲を包み込み、その色を瞬く間に金色(こんじき)へと染め上げた。雷神太鼓の意匠がその身に刻まれ、稲妻の走るマスクに複眼は青。

 

「金ぴかのフォーゼだ……!」

 

 千歌の言葉を背中に、右手に出現したロッド型のエレキモジュール「ビリーザロッド」を担いだ“ありのままを受け入れる心”が覚醒させた力、フォーゼ・エレキステイツは、真っ白な左拳をスクトゥムへとつき出して力強く宣言した。

 

『仮面ライダーフォーゼ、ようやくタイマン張らせてもらうぜ!』

 

 間髪いれずに迫ってくるスクトゥムの攻撃をかわし、鍔にある三つのユナイテッドタップの内の一つに柄尻から伸びるイグニッションプラグを刺しこむ。近接戦闘に最適な「帯電」を選んだ弦太朗は、追撃を仕掛けてきたスクトゥムとのすれ違い様にビリーザロッドを腹部目掛けて一閃した。

 

『このパワー、シビれるぜ?』

 

 声を漏らすこともない無言のスクトゥムだが、電撃は有効だったようで痺れが足の自由を奪い膝をつく。プラグを差し替え「放電」を選択した弦太朗は、空中でビリーザロッドを振り抜くことで電撃の塊を射出する。

 

『食らいやがれ!』

 

 最早誰の意思をもって動いているのかわからないスクトゥムは、反射的に両手の盾で防御を試みる。しかし受け止めた電撃は盾からスクトゥム自身へと伝い、ゾディアーツの手から唯一の武装を剥ぎ取った。

 スクトゥムの身を守るものは何もない。しかし逃げることも拳を握ることもないゾディアーツに何かを悟った弦太朗は、フォーゼドライバーからエレキスイッチを抜き取った。

 

『弦太朗』

 

『わかってる。……()()なんだな、お前』

 

 賢吾の言葉を遮った弦太朗は、弔うような一言と共にビリーザロッドにエレキスイッチを装填する。エレキスイッチの力で増幅した電撃が周囲を駆け巡り、フォーゼは一撃必殺の力を解放したビリーザロッドを構えて腰を落とした。

 

《LIMIT BREAK》

 

『あばよ、国木田』

 

 ゾディアーツは答えない。それでも弦太朗は、けたたましい警告音が鳴り響く校内を切り裂くようにビリーザロッド振り抜いた。

 

『ライダー100億ボルトシューートッ!!!』

 

 地を抉る一筋の電撃が、防御も回避もしないスクトゥムを容赦なく襲う。満足げな表情にも思えた異形は悲鳴をあげることもなくその一撃を受け、爆炎のなかで静かにその生涯に幕を下ろした。弾き出されたスイッチは催促するかのように弦太朗の手にすっぽりと収まり、弦太朗もその意思を汲み取り迷うことなくオフにする。消失した虚空を握りしめ、フォーゼは少し寂しそうに呟いた。

 

『……やったぜ』




「聞きましたよ、如月先生。スクールアイドル部、部員増えたそうですね」

「あ、無咲先生。そうなんですよ! 一年のルビィと花丸! これで五人です!」

「黒澤会長の妹さんと、図書委員の国木田さんですか。二人とも、そういう人前に立って何かするっていうイメージじゃなかったんですけどね」

「まあ、二人とも静かな方ですからね。……でも、千歌が言ってたんです。できるかどうかじゃなくて、やりたいかどうかだって。二人がやりたいって思ってくれたなら、挑戦する価値はありますから。それで笑い支え合える仲間になれれば最高じゃないッスか」

「ふふっ、そうですね」

「ダチとの笑顔は青春のしおりです。辛くて、悲しくて、心が折れそうなくらい苦しいことがあっても、ダチとの笑顔、絆が思い出させてくれる。それを乗り越えられる強さを」

「青春のしおりですか……。とっても、ロマンチックですね。……それでその、私にもしおりが欲しいというか、お祝いというか、親睦を深めるという意味でこの後しょくj「いけね! もうこんな時間だ。すみません先生! 俺、津島のところ行かなくちゃなんで、お先に失礼しますね!」あ、はい、おつかれさまでしたー」

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