仮面ライダーフォーゼ サンシャインキターッ!   作:高砂 真司

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「悪ィな賢吾、朝早くから」

『いや、こっちもドライバーの調整中で一息いれようと思っていたところだ。ゾディアーツについて、何か掴んだのか?』

「画像もねぇから聞き込みのしようもねぇ。っと、電話の用件はそれとは別なんだけどよ……」

『? どうした。君にしては歯切れが悪いな』

「…………スマン! フードロイドなんか送ってくれ!」

『フードロイド? まさか持って行ってなかったのか!? 一体も!?』

「ああ! 俺にはメンテとかできねぇからと思ったが無理だ! 明日から仕事ってこと考えると寝ずの番なんて絶対できねぇ! 今も無理矢理テンションあげてるが、船待ってる間に寝ちまいそうだ!」

『今までどうしてたんだ?』

「バイクで沼津を周回! その後、ダチと夢について語り明かしてた!」

『まったく、君という奴は……。わかった。フードロイドは先にそっちに送る』

「助かるぜ! これで、安しんして、ねむれ……」

『……弦太朗? まさか寝たのか? 弦太朗!』

「Zzz……」

『おい! 起きろ! 弦太朗ーーッ!!』

「Zzz …………」


第1話 軌・跡・輝・待

 ーーー明日に希望を

 

 

 広大な暗闇。頭に響く声。ただぽつんと、ちっぽけな自分がいるという孤独感だけがあった。

 

 

 ーーー未来に光を

 

 

 誰の声かわからない。それでも声は止むことなく、世界に反響する。早くこの闇から逃れたい。襲い来る切迫感に気が急くのがわかる。

 

 

 ーーー宇宙に夢を

 

 

 声が響く度に、広大な暗闇に光の粒が散りばめられていく。その惹き付けられるような煌めきに、必死になって手を伸ばした。この蔓延する闇から逃げ出すにはそれしかなかったから。しかし、遠すぎて届くことはない。

 

 

 ーーー星に、願いを

 

 

 届くはずのない煌めき達が、目を背けたくなるほど眩い輝きを放つ。その中でも、一際輝きを増す一点があった。あれなら届く、掴める。そんな気がした時だった。

 

 

 

 

「……また、あの夢だ」

 

 目覚めてまず見えたのは、見慣れた天井と真っ直ぐに伸ばした自分の腕だった。もう十六年も過ごした自分の部屋に、ほっと安堵の溜め息が漏れる。

 

「最近よく見るな、あの変な夢……」

 

 ここ数年で見るようになった、奇妙な夢。目覚めたあともハッキリと覚えていて、恐怖とは違う言い表せない不安のような、焦りを感じさせる気味の悪い夢だった。高校に上がってからというもの、頻度は昔に比べて高くなっているような気がする。

 時計を見れば草木も眠る丑三つ時。数ヵ月前なら全身にかいた気持ちの悪い汗を気にしながら無理矢理寝ていたが、今は違う。ベッドから起き上がり音楽プレイヤーを握った少女は、他の人間に気づかれないよう音を殺しながら部屋を抜け出した。

 

 

 

 自宅の目の前、月明かりに照らされた海を眺めながら砂浜に腰を落ち着かせる。片耳で波の音を聴きながら、少女は音楽を再生した。

 イヤホンから流れ出す、憧れの人たちの歌。このスクールアイドルというものを知ったのは少女にとって本当に偶然で、奇跡だった。だが、今ならこの出会いは運命だったと信じられる。

 自分と同じどこにでもいる普通の女子高生が、楽しそうに歌い、踊り、キラキラと輝く姿が目に焼き付いていた。歌詞の一言一言、メロディの一音一音から暖かな光を感じる。その光が、さっきまで自分の中で渦巻いていた気味の悪い靄をどこかへ追い出してくれているような、そんな気がするのだ。だから彼女たちの存在を知ったとき、夢も目標もなかった少女の人生に光が差した気がした。

 

「なれるかな、私も。スクールアイドルに……」

 

 水平線に向けて呟く。まだ輪郭すらぼんやりとした夢に、少女の胸は高鳴っていた。

 

「おい。こんなとこで何やってんだ?」

 

「ひゃぅ!?」

 

 自分の世界に入っていたせいか、声をかけられるまで全く人の気配を感じなかった。それ故に、突然の来訪者に少女は飛び上がり違う意味で胸が高鳴る。驚きは来訪者にも伝達したのか、振り向くとそこに立っていた青年も目を剥いていた。

 

「わ、悪ィ! 驚かせるつもりはなかったんだ!」

 

 両手を挙げてホールドアップの姿勢をとる。申し訳なさそうな彼の表情に、少女はわたわたと手を振った。

 

「いえ! 私も音楽聞いてて全然気がつかなくて!」

 

 そう言いながらパッと立ち上がる。音楽プレイヤーを仕舞いながら、少女は見かけない青年の全体像をまじまじと観察した。ジーンズにシャツというラフな格好。優しげな顔立ちはなかなか直に拝めることのないイケメン。しかし、少女の視線はある一点に注がれる。

 

「……リーゼント?」

 

「お。お前わかるのか? この男を貫く髪型がよ」

 

 どうやら中身は残念な方向に振り切れてしまっているようだ。悪い人では無さそうだなと、少女は愛想笑いを浮かべて回答を流す。ふと、路肩に止められたスペースシャトルを彷彿とさせるバイクが目に入った。公道を走るには素人目からしても難のありそうなデザイン。少女の視線に気がついたのか、青年もそちらに目を向けた。

 

「えっと、お兄さんは旅行の方ですか?」

 

「いいや。仕事でこっちに引っ越してきたんだ。良い町だな、ここは。飯もうまいし、人も良い」

 

「そうでしょ? 私たちの自慢なんです!」

 

「そりゃ誇らしいな。ところで、お前はこんな時間に何してたんだ?」

 

 その問いに言葉が詰まる。正直に見た夢の話をしても、姉のようにバカにされることはないだろうが、幼馴染みのように心配されてもそれはそれで困る。上手い言葉の見つからない少女は、当たり障りのない無難な理由を選んだ。

 

「ちょっと眠れなくて、風に当たって音楽を聴いてたんです。大丈夫ですよ、家はそこなので」

 

「そうか。でも早く帰れよ。こんな時間に先生に見つかったら、生徒指導じゃ済まねぇぞ」

 

 納得した風な青年は、脅すように頭に指で角を作って笑う。その姿が少し滑稽で、少女はつい吹き出してしまった。

 

「ふふっ、生徒指導って。まるで先生みたいなこと言うんですね」

 

「ま、これでも一応教師だからな」

 

「……教師? 仕事で引っ越してきたんじゃ?」

 

「おう。今年度から浦の星女学院ってとこに転勤だ」

 

「そうなんですか! 私、そこの二年です!」

 

「お、ホントか!? なら、お前が浦の星第一号だな!」

 

 そう言って、彼は手を差し出す。不思議そうに見つめる少女に、青年は楽しそうな笑顔を見せた。

 

「俺は如月弦太朗。夢は宇宙中のやつら全員と友達になることだ」

 

「夢……」

 

 その眩しい笑顔と言葉が頭の中で響く。夢という文字が胸を暖かく締め付け、鼓動が速くなったのがわかった。

 この気持ちを夢と呼んでいいのか。そんな疑問が脳裏を過る。ただの憧れなのかもしれない。それでも、この輝きたいという気持ちは嘘ではない。意を決して口を結んだ彼女は、ぐっと力強く弦太朗の手を握り返した。

 

「私は浦の星女学院二年、高海(たかみ)千歌(ちか)! 夢はスクールアイドルになって、いーーっぱい輝くことです!」

 

 笑顔を向け合う千歌の手を離した弦太朗は、いつものように握り拳を作る。釣られて握った千歌の拳に拳を重ね、内浦で初めての友情のシルシを刻んでいく。自分の手を眺める千歌に、拳を突き合わせた弦太朗は笑いかけた。

 

「これは友情のシルシ。ダチの証しだ。お前の夢、応援するぜ。叶うといいな!」

 

「……はい!」

 

 新たな出会いに胸を膨らませる。千歌には奇跡が起きそうな、そんな予感がしていた。

 

「……ところで、スクールアイドルってなんだ?」

 

「ええ!? スクールアイドル知らないんですか!?」

 

 それまでの道のりは、前途多難のようだが。

 

 

∝∝∝∝∝

 

 

「ーーで、結局日が昇るまでスクールアイドルの話してたんだ! きっと(よう)ちゃんも弦ちゃん先生と気が合うよ!」

 

 始業式は明日ということもあって、通学者の疎らなバス。一番奥の席で揺られながら楽しげに語る隣の幼馴染みを眺め、曜もまた目を細める。

 

「そっか、東京からの新しい先生か。いい人そうで良かったね!」

 

「うん! 今日のビラ配りは入学式の準備があるから手伝えないって言われたけど、五人集まって部が承認されたら顧問になってくれるって! ほら!」

 

 千歌は鞄から引っ張り出した一枚の紙を見せる。新規部活動申請書と書かれた事務的な用紙に、“高海千歌”と欄外に“如月弦太朗”の名前が書き込まれていた。流石の行動の早さに、曜も驚きを見せる。

 

「そんなのまで書いてもらったんだ」

 

「うん! こういうのは早い方がいいかなって!」

 

 目を輝かせながら、二人分の名前が書かれた申請書を見つめる。それはスクールアイドルに恋する乙女の表情だった。未来を夢見てわくわくが収まりきらないようで、口角は緩みっぱなし。隣の曜までが嬉しくなるほどの笑顔を咲かせていた。

 

「えへへー。……わっと!」

 

 と、紙ばかりに夢中になっていたせいか、バスの停車時の揺れに手から申請書が抜け落ちる。ひらひらとバスの中央まで飛ばされてしまったので追いかけて行くと、申請書を拾い上げてくれる手があった。

 

「あ、すみません。それ私のなん……で、す……」

 

 千歌は申し訳なさそうに頭を下げる。そして顔を上げた時、言葉を失った。

 黒のドレスに鍔の広い黒の帽子。全身黒装束にも拘らず見える肌は死人のように真っ白で、浮世離れした風貌は内浦という田舎の背景から浮かび上がるような、異様な出で立ち。血の気のない真っ白な顔と吸いまれそうな真っ黒な瞳が帽子から現れたとき、素直に綺麗な人だと感じた。

 

「いいのよ。夢は大切だもの」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 聞き入ってしまいそうなソプラノに、千歌は慌てて感謝を伝え申請書を受け取る。すると彼女は何かに気がついたようにそっと千歌の頬を撫でた。ひゃっと、突然のことに肩が跳ねる。自身を写す彼女の純黒の瞳に既視感と、言い表せない寒気が背筋を走った。

 

「不思議。あなたの星はとても輝いているわね」

 

「え?」

 

 困惑する千歌を他所に微笑んだ彼女は、何事もなかったかのようにバスを降りていく。その後ろ姿を呆然と追いかけていると、運転手に座席に座るよう促され慌てて元の席へと帰った。

 

「千歌ちゃん? どうしたの?」

 

 元の席で窺う曜に、千歌は首を振って答える。

 

「大丈夫だよ。見たことないけど綺麗な人だなって」

 

 あれだけ目立つ格好なのだから、きっと市外から来た人なのだろうと当たりをつける。しかし、当の曜から返ってきたのは以外な返答だった。

 

「あれ、千歌ちゃん知らないの? あの人有名だよ」

 

「へ? そうなの?」

 

「うん。淡島の方にできたリバースターって会社の社長さんなんだって。色白美人社長って漁協の人が噂してたもん」

 

「へー、そうなんだ……」

 

 うわ言のように呟きながら、撫でられた頬を触る。感触はとっくに無くなっていたが、それでもあの異常な感覚は忘れることができなかった。

 

(手、氷みたいに冷たかったな……)

 

 

∝∝∝∝∝

 

 

「お待ちしておりました、如月先生」

 

「ダイヤじゃねぇか。どうした?」

 

 入学式も無事終了し、後片付けを済ませた弦太朗が職員室に戻ると、扉の前で一人の少女が待ち構えていた。日本人形のような美しい髪と凛々しい目元が、端整な顔立ちをより際立たせている。二日ぶりの再会だったが、用件は決して楽しいものではないらしい。彼女の険しい表情に、弦太朗も身を構えた。

 

「スクールアイドル部のことです。今朝、他の部と混じって無断で部員集めを行っていたところを摘まみ出しました。高海千歌さんから聞きましたが、承認されれば顧問になると約束されたというのは本当で?」

 

「ああ、本当だ。それで、部はできそうなのか?」

 

 スクールアイドルに情熱を燃やす千歌のことを思い出す。全国的な人気のスクールアイドルを一切知らなかった弦太朗だったが、千歌に教えられてから自分で調べ、今ではμ'sの曲も一通り聴いている。顧問としてそれなりの知識を付け始めていたのだが、ダイヤの口から出てきたのはいい答えではなかった。

 

「いいえ。申請された部員は高海さん一人。あれでは最低五人のラインに届いていませんわ」

 

 それに、とダイヤは続けた。

 

「例え五人集まったとしても、スクールアイドル部は認められません。今日はそのことをお伝えしに来ました」

 

「どうしてだ?」

 

 彼女の通告に弦太朗も眉をひそめる。何か明確な理由があると勘繰ったのだが、一瞬口ごもったダイヤは表情を隠すように背を向けてしまった。

 

「この学校にスクールアイドルは必要ないからです」

 

「なんでそう言いきれる」

 

「……なんでもです」

 

「理由があるみたいだな。何かあったのか?」

 

「それを先生に言う必要はありません」

 

「それじゃあ千歌も納得しねぇだろ。俺もできねぇ」

 

「納得していただかなくても結構です。このことは私に一任していただけるよう、先程校長先生より許可を頂きました」

 

「任す任せねぇってことじゃねぇ。そこまで拘るならそれ相応の理由があるんだろう。でもな。誰かの夢にケチ付けるってんなら、その理由が知りたいって話をしてんだ」

 

「高海さんには悪いと思います。ですが、これは私たちの問題です。……それでは生徒会の仕事がありますのでこれで失礼します」

 

「あ、おい! まだ話は終わってないぞ!」

 

 伸ばした手は空を切る。これ以上話すことはないと言いたげに、ダイヤは足早に去っていった。手持ちぶさたになった手で、答えの出そうにない疑問を抱えて頭を掻く。

 

「こりゃ一筋縄じゃいきそうにねぇな……」

 

 振り返ることのなかった彼女の背中は、弦太朗の目には横暴と言うより少し寂しげに写っていた。

 

 

 

 夕焼けを背景に、海岸線をバイクで走りながら考える。どうしてダイヤがあそこまで頑なだったのか、どうして校長は生徒会長とはいえ一人の生徒に一任したのか。

 初めて浦の星を訪れたとき、学校を案内してくれたのはダイヤだった。真面目な生徒会長、というのが印象的な少女。そして校長も人任せにするような無責任な人ではなかった。堂々巡りで答えはでない。

 

(過去にスクールアイドル絡みで何かあった、って考えるのが妥当なんだけどな)

 

 詮索していいものか。きっとこれも、“ダチになるだけでは解決しない問題”なのだろう。踏み込まれたくない事情がそこにはあって、それは今の弦太朗ではどうしようもない。トンネルを抜けても、もやもやは晴れない。

 

(ま、わからねぇことをうだうだ考えても仕方ねぇな。今は流れに任せるしかないか)

 

 そもそも、これは千歌の夢に立ち塞がる障害だ。それを無理に解決へと導くのは、千歌のためにもダイヤのためにもならないだろう。問題の解き方を教えるのが教師で、隣で待つのが友達で、正解を見せてやるのは、そのどちらでもない。

 今のところの結論を出した弦太朗は、慣れた様子でバイクを船着き場に停めた。時計を確認しつつ、次に淡島へ渡る船の時刻と照らし合わせながら歩いていく。すると、乗り場の待ち合いに設けられたベンチに人影があることに気がついた。

 視界を占める黒の割合に、弦太朗の本能が歩みを止める。直感が、コレは危険だと囁いていた。

 

「どうかされましたか?」

 

 鍔の広い黒の帽子から覗いたのは、黒のドレスに身を包む何のことはない色白の美女だった。柔和な表情を浮かべ、この世の者とは思えない透き通った白い肌に輪郭を与えている。聞き入ってしまいそうなソプラノは、男心を擽ることに熟知した声色。自分のプロポーションもよく理解した動き。しかしそんな出来過ぎた色香に惑わされるほど、弦太朗の戦士としての勘は落ちぶれてはいなかった。

 

「……アンタ、何者だ」

 

 口をついて出た言葉。無意識に体が半歩開く。その様子を見た女は驚いたように目を丸くすると、俯いてくつくつと喉奥で笑い始めた。

 

「何者だ、なんて心外だわ。貴方が昼も夜も休みなくずっと私のことを探してるから会いに来てあげたのに。それともーー」

 

 彼女は胸元から弦太朗もよく知った物を取り出す。手のひらに収まる、小さな怪物の種。新たな体へと人類を強制進化させる魅惑(パンドラ)小箱(はこ)。血走ったドームと棘のついた持ち手に、弦太朗の顔は険しくなる。

 

「ーーこっちの方がわかりやすいかしら?」

 

「ラストワンのゾディアーツスイッチ……!」

 

 女は笑みを浮かべ、躊躇いなくスイッチを押す。黒い靄が吹き出し女を包むと、内に秘められた星の輝きが怪物を型どっていく。靄が晴れたとき、そこに立っていたのは人間ではなかった。

 枝を彷彿とさせる飴色の体躯に走る星の連なりと、胸元まで垂れた額から突き出す長い触覚。異形と呼ぶに相応しい、星座の力を宿す怪物・ゾディアーツがそこにはいた。円柱状に変化した右腕を自身の足下に向けると、腕から四発の光弾を射出する。命中した弾から黒い靄が噴き出し、それは瞬く間にゾディアーツの分身体・ダスタードへと姿を変えた。ジャケットとネクタイを投げ捨てた弦太朗は、肩を回しながら疑問を口にする。

 

「おい。何でラストワンなのに体が排出されねぇんだ」

 

『「私に最後の一回(ラストワン)なんて存在しないわ。だって、この体は無限に生き続けるんですもの」』

 

 腑に落ちない表情だが、ゾディアーツは待ってはくれない。駆けてくるダスタードの攻撃を受け流し、捻りを付けて顔面に蹴りを見舞う。立て続けに襲い来るダスタードたちも殴り、頭突きで迎撃していくが、何処と無く歯応えがない。ダスタードが生み出したゾディアーツの力量に起因するということを思い出し、何度地に伏せてもゾンビのように立ち上がる星屑をこれまた何度も叩き伏せる。

 

『「貴方には感謝しているの。私の目的にとても貢献してくれているもの」』

 

「感謝だ? 生憎、感謝されるようなことをした覚えはねぇな、っと!」

 

『「気づいていないだけよ。貴方には特別な力がある。流石は仮面ライダーに選ばれた、といったところかしら」』

 

 四体ものダスタードが劣勢で進む乱闘を眺めながら、ゾディアーツは続ける。

 

『「貴方はフォーゼになるべくしてなった。それが貴方の星のもつ運命。地球の輝きをその身に宿す、選定された英雄」』

 

「何訳わかんねぇこと言ってやがる」

 

『「私には人の中に眠る星を視る力がある。その星がわかれば、ゾディアーツになれるかなれないか、そして何座のゾディアーツになれるのかわかるのよ」』

 

「へぇ。そいつは便利な能力だ、な!」

 

『「ええ。でも欠点があるわ。満たされた者は自身の輝きで星の光をかき消してしまう。人工の光で見えなくなってしまう夜空のように。そうなれば、例え星が目覚めていたとしても最輝星でもない限り輝きを視るのは不可能なの」』

 

「そりゃ、困ったな!」

 

 何度倒しても立ち上がるダスタードに、弦太朗の息も上がり始める。弱いとは言ってもやはり異形の存在。並みの人間以上の力は伊達ではない。取り囲むように間合いをとる四体に、弦太朗も膠着状態に陥る。が、何を思ったのかゾディアーツは手を叩いてダスタードたちを影に戻していった。

 

『「だからこそ星の輝きを視るためのアプローチが必要だった。この町中の人間全員の輝きを失わせて星を浮かび上がらせる、負の感情に漬け込む方法。簡単よ」』

 

 

『「ハズレとわかった人間を殺していけばいい」』

 

 

 その一言に、弦太朗の表情が固まった。

 

『「手間はかかるけど、なるべく残忍に、惨たらしく有効利用(ころ)していけば他の星が見やすくなるくらいには、人々が負の感情に支配されてくれる。この町の人間は皆仲良しこよしなことだし、何十人か間引けば十分だと思ったわ。いえ、思っていたが正しいかしら」』

 

 ふふふ、と笑うゾディアーツに、嫌悪以上の感情を抱く。睨み付ける弦太朗に、ゾディアーツは歩み寄り余裕の態度で続けた。

 

『「そこに貴方が来た。一度死に、コズミックエナジーと絆の力で生き返ることができた貴方が。生命を蘇生させるほどの膨大なコズミックエナジーを内包した貴方が人と関われば、眠っている星は影響を受けて最輝星と同等の輝きを得られる。その確証を得たとき思ったわ。ヒーローって本当にいるのね、って」』

 

 愉快そうなゾディアーツは、肩を震わせて笑い始める。本当に、心の底から楽しそうな笑い声に、弦太朗は素直に気持ちが悪いと感じた。これほどまでにエゴと欲にまみれた人間がいたということに恐怖さえ感じる。このゾディアーツは、既に心が怪物なのだ。

 

「テメェの目的はなんだ」

 

 語気が荒くなるのがわかる。ここまで強い怒りを覚えたのは随分と久しぶりな気がしたが、やはり気持ちのいいものではない。弦太朗の厳しい視線を意に介すこともなく、ゾディアーツは大袈裟に手を広げて空を仰いだ。

 

『「私だけの星空を作ること。そして、そのために必要なある星座を探し出すこと」』

 

「ある星座?」

 

『「それは秘密よ。安心して? 仮面ライダーは殺せって言われてるけど、私の目的が果たされるまでは生かしておいてあげる」』

 

 弦太朗の脇を通り抜けたゾディアーツはスイッチを押して女へと戻る。黒装束に身を包む女の後ろ姿を睨んでいると、女は立ち止まって振り返った。

 

「私の名前は遠望(とおぼう)(みやこ)。よろしくね、仮面ライダー」

 

 立ち去っていく彼女の笑い声が船着き場にこだまする。嵐が来ると、潮風が騒いでいるような気がした。




「……はじめまして、私は浦の星女学院で生徒会長を勤めております、黒澤(くろさわ)ダイヤと申します」

「おう! 俺は宇宙中のやつら全員と友達になる男、如月弦太朗だ! よろしくな!」

「は、はぁ……。その、如月先生のお話はお伺いしております。当校はミッションスクールですので、何かわからないことがあれば遠慮なく仰ってください」

「ミッション? 何か特別な任務でも請け負ってるのか?」

「いいえ。ミッションスクールというのはキリスト教の理念に基づいた教育を行う学校という意味でして、決してそういうことではありません」

「そうか。キリストってたしか、隣人を愛せってやつだろ? 大丈夫だ! 俺は隣人ともお向かいさんともダチになるからな!」

「そ、そうですか……」

「おう! お前も何か質問とかないか? 何でも答えるぜ!」

「あの、別に質問大会ではないのですが……」

「気にすんなよ!」

「はあ……。では一つ」

「おう、なんだ?」

「……その髪型、どうにかなりませんの?」

「リーゼントは俺のポリシーだ。どうにもならねぇ」

「はあ、そうですか」
(また面倒臭い感じの方がいらっしゃいましたわね……)

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