堕天使総督始めました。   作:土岐宙

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7話

彼女が思考に耽っていると…………

 

「えい」

 

「フギャッ」

 

耀が黒ウサギの背に忍びよりその可愛らしい耳を引っ張っていた。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

 そう言って、今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。

 

「………じゃあ私も」

 

「ちょ、ちょっと待―――!」

 

今度は飛鳥が左から。左右に力一杯引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。

 

「若いってのは良いねぇ」

 

アザゼルと名乗る中年の男性は、黒ウサギが弄ばれてるのを見て感慨に耽っていた。

 

******

 

「あ、あり得ないのですよ。まさか話を聞いて貰うだけで小一時間も費やすとは。学級崩壊とはきっとこのような状態に違いないのデス」

 

あの後―――自分達に散々揉みくちゃにされた黒ウサギは、疲れた様に呟いた。

 

「こ、コホン!

 それではいいですか、皆様方?

 ようこそ、"箱庭の世界"へ! 我々は皆様にギフトを与えれた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせて頂こうかと召喚いたしました!」

 

耀は小首を傾げて問いかける。

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです! すでに気づいてらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません!

 その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。

 『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競い合うためのゲーム。

 そしてこの箱庭の世界は強大な力をもつギフト保持者がオモシロオカシク生活できるために造られたステージなのでございますよ!」

 

両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギに、今度は飛鳥が挙手して尋ねる。

 

「まず初歩的な質問からしていいかしら?

 貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「YES!

 異世界から呼び出されたギフト保持者は、箱庭で生活するにあたって数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

 

「属していただきますっ!

 そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者ホスト”が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

順を追ってこの世界の説明をしていく黒ウサギに、アザゼルが口を挟む。

 

「“主催者”ってぇのはどういう奴等だ?」

 

「様々ですね。

 暇を持て余した修羅神仏が人を試す為ための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示する為に独自開催するグループもございます。

 特徴として前者は自由参加が多いですが、“主催者”が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解な者が多く命の危険もあるでしょう。

 しかし、見返りは大きいです。

 “主催者”次第ですが、新たな“恩恵ギフト”を手にすることも夢ではありません。

 後者はチップを用意する必要があり、参加者が敗退すればチップは全て主催者のコミュニティに寄贈されます」

 

「後者はずいぶん俗物ね……チップには何を?」

 

「それも様々ですね。

 金品・土地・名誉・権利・人間……そしてギフトを賭けることも可能です!

 新たな才能を他者から奪えばより高度なギフトゲームに挑むことも可能でしょう。

 ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然──ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

黒ウサギは愛嬌あいきょうたっぷりの笑顔に黒い影を仄ほのめかせる。

挑発とも取れるその発言に、同じく飛鳥は挑発的な声音で問う。

 

「なら、最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」

 

「どうぞどうぞ♪」

 

「ゲームそのものはどうすれば始められるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOKです!

 商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているので、よかったら参加していってくださいな」

 

飛鳥はピクリと片眉を上げる。

 

「……つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

お? とウサ耳を反応させて驚く黒ウサギ。

 

「ふふん?

 中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。

 我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!

 そんな不逞ふていな輩やからはことごとく処罰します………

が、しかし! 『ギフトゲーム』の本質は全く逆! 一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。

 店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手に入れることも可能だということですね」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

「ごもっとも。

 しかし“主催者”は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり、奪われるのが嫌な腰ぬけは初めからゲームに参加しなければいいだけの話なのでございます」

 

黒ウサギはあらかたの説明を終えたのか、そこで一端会話を区切る。

 

「さて。

 皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんをいつまでも野外に放り出しておくのは忍びないですし。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが……

 よろしいです?」

「待てよ。まだ俺が質問していないだろ」

 

するとそれまで静聴していた十六夜が、威圧的な声と共に立ち上がる。

ずっと刻まれていた軽薄な笑みが無くなっていることに気づいた黒ウサギは、身構えるように聞き返した。

 

「……どういった質問です?

 ルールですか? ゲームそのものですか?」

「そんなものはどうでもいい。

 腹の底からどうでもいいぜ黒ウサギ。

 ここでお前に向けてルールを問いただしたところで、何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。

 俺が聞きたいのは……たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

十六夜は黒ウサギから視線を外し、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。

そして、何もかも見下すような声音で一言、

 

「この世界は……

 

 

 

 

 

 

 面白いか?」

 

ただ一言、そう問うた。

その質問に、日向達も無言で返答を待つ。

彼らを呼んだ手紙には、確かにこう書かれていたのだ。

 

 ──『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて、箱庭に来い』と──

 

 それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、四人にとって最も重要なことだった。

 

「──YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」 

 

 彼女の答えに十六夜は再び軽薄な笑みを浮かべ──日向もまた、内心で歓喜しているのだった。

 

 


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