堕天使総督始めました。   作:土岐宙

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9話

「な、なんであの短時間に"フォレス・ガロ"のリーダーと接触してしかも喧嘩売る状況になったんですか⁉︎」

「しかもゲームの日取りは明日⁉︎」

「それも敵のテリトリー内で戦うなんて!」

「準備している時間もお金もありません!」

「一体どういう心算があってのことです!」

「聞いているのですか三人とも‼︎」

 

「「「ムシャクシャしてやった。

   今は反省しています」」」

 

「黙らっしゃい!!!」

 

まるで口裏を合わせていたかのような飛鳥達の言い訳に激怒する黒ウサギ。

それを笑って見ていた十六夜が止めに入る。

 

「別にいいじゃねえか。

 見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれないけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?

 この"契約書類ギアスロール"を見てください」

 

「"参加者が勝利した場合、主催者は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する"

 ………まあ、確かに自己満足だ。

 時間をかければ立証できるものを、わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

ちなみに飛鳥達のチップは"罪を黙認する"というものだ。

ゲームに負ければ、これ以降もずっと口を閉ざし続けるという意味だ。

 

「でも時間さえかければ、彼らの罪は必ず暴かれます。

 だって肝心の子供達は………その、」

 

黒ウサギが言い淀む。

彼女も"フォレス・ガロ"の悪評は聞いていたが、そこまでひどい状態になっているとは思っていなかったらしい。

 

「そう。

 人質は既にこの世にいないわ。

 その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。

 あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの」

 

「それにね、黒ウサギ。

 私はあの外道が私の活動範囲内で野放しされるのが許せないの。

 ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「ま、まあ………逃がせば厄介かもしれませんけれど」

 

「僕もガルドを逃したくないと思ってる。

 彼のような悪人は野放しにしちゃいけない」

 

ジンも同調する姿勢を見せ、黒ウサギは諦めたように頷く。

 

「はあ〜……。仕方がない人たちです。

 まあいいデス。"フォレス・ガロ"程度なら十六夜さんかアザゼルさんのどちらかがいれば楽勝でしょう」

 

「何言ってんだよ。

 俺は参加しねえよ?」

 

「俺も参加しねぇぞ」

 

「当たり前よ。貴方達なんて参加させないわ」

 

フン、と鼻を鳴らす俺達。

 

「だ、駄目ですよ!

 御四人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」

 

「いいか?この喧嘩は、コイツらが"売って"、ヤツらが"買った"。

 なのに俺達が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、分かっているじゃない」

 

「………。

 ああもう、好きにしてください」

 

黒ウサギは肩を落として呟く。

 

******

 

「そろそろ行きましょうか。

 本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約して色々セッティングしていたのですけれども……不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。

 また後日、きちんと歓迎を」

 

「いいわよ、無理しなくて。

 私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」

 

黒ウサギはすかさずジンを見る。

ジンの申し訳なさそうな顔を見て、自分達の事情を知られたのだと悟り、ウサ耳まで赤くした黒ウサギは恥ずかしそうに頭を下げた。

 

「申し訳ございません。

 皆さんを騙すのは気が引けたのですが………

 黒ウサギ達も必死だったのです………」

 

「もういいわ。

 私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんは?」

 

「私も怒ってない。

 そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも………

 あ、けど」

 

「どうぞ気兼ねなく聞いてください。

 僕らに出来る事なら最低限の用意はさせてもらいます」

 

「そ、そんな大それた物じゃないよ。

 ただ私は……毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」

 

その言葉にジンの表情は固まる。

この箱庭で水を得るには買うか、もしくは数キロ離れた大河から汲まねばならないらしい。

その苦労を察した耀が慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが嬉々とした顔で水樹を持ち上げる。

 

「それなら大丈夫です!

 十六夜さんがこんな大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから!

 これで水を買う必要もなくなりますし、水路を復活させることもできます♪」

 

これには飛鳥も安心したような顔を浮かべた。そして俺はある事を思い出す。

 

「そういや黒ウサギ。上空4000mからガキ共投げ出すって、どんな招待の仕方だよ」

 

「それには同意だぜ。

 あんな手荒い招待は二度と御免だ」

 

「あう………

 そ、それは黒ウサギの責任外の事ですよぅ」

 

「あはは……それじゃあ今日はコミュニティへ帰る?」

 

「あ、ジン坊っちゃんは先にお帰りください。

 ギフトゲームが明日なら"サウザンドアイズ"に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。

 この水樹の事もありますし」

 

俺達四人は首を傾げて聞き直す。

 

「"サウザンドアイズ"?

 コミュニティの名前か?」

 

「YES。

 "サウザンドアイズ"は特殊な"瞳"のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。

 箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。

 幸いこの近くに支店がありますし………」

 

「ギフトの鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。

 自分の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。

 皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

同意を求める黒ウサギに三人は複雑な表情で返す。

思う事はそれぞれあるのだろうが、拒否する声はない。

日が暮れて月と街頭ランプに照らされている並木道を、飛鳥は不思議そうに眺めて呟く。

 

「桜の木………ではないわよね?

 花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。

 気合の入った桜が残っていてもおかしくないはずだろ」

 

「……?

 今は秋だったと思うけど」

 

「俺んところは冬だったが、俺の予想が正しければ、

 俺らが飛ばされた時間軸や世界軸が違うって話だ。

 つまり、俺らの元居た世界で起こった出来事が食い違ってんだろうから、季節くれぇ違っても可笑しくはねぇよ」

 

「YES!

 皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。

 元いた時間軸以外にも、アザゼルさんが言った通り、歴史や文化、生態系など所々違う箇所があるはずですよ」

 

「へぇ?

 パラレルワールドってやつか?」

 

「惜しいな逆廻。

 これは立体交差平行世界論というやつだ。これを説明するのに一日二日以上かかるからまた今度だな」

 

「お、詳しいですね」

 

「まあな」

 

話に一段落付いたところで、目的の店が見えてきた。

商店の旗には、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神が記されている。あれが"サウザンドアイズ"の旗なのだろう。

日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを………

 

「まっ」

 

「待った無しです御客様。

 うちは時間外営業はやっていません」

 

……ストップをかける事が出来なかった。

黒ウサギは悔しそうに店員を睨みつける。

流石は超大手の商業コミュニティ。押し入る客の拒み方にも隙がない。

 

「なんて商売っ気のねぇ店なんだ。

 困ってる客見捨てるなんざ、商売をやる資格はねぇだろうよ」

 

「ま、全くです! 

 閉店時間の五分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。

 あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁です!?

 これだけで出禁とか御客様舐めすぎでございます!?」

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに、店員は冷めたような眼と侮蔑を込めた声で対応していた。

 

「なるほど、"箱庭の貴族"であるウサギの御客様を無下にするのは失礼ですね。

 中で入店許可を伺いますので、コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「………うっ」

 

一転して言葉を詰まる黒ウサギ。

しかし十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。

 

「俺達は"ノーネーム"ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。

 ではどこの"ノーネーム"様でしょう。よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

 


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