※弊デアにスカディ様いません。
よくわからないがカルデアにスカサハと同じ容姿の女神が来た。目の前でクルフィを嬉しそうに食んでいるが、彼女は一体何者なんだろうか。
「クルフィとやらはもう無いのか?」
実に美味そうに食べていたのに、気がつけば不機嫌そうな声がした。近寄って見てみると、もう無くなっている。
これはもともと幼いサーヴァントたちのために作ったものだから、さほど量があるわけでもないものだ。女王がなんと言おうと、余りが無いものは無い。
「氷の君、残念ながら私は貴君の接待のためにこれを作ったわけではない。あとはもう幼い彼らに作ったものしか残っていないので、堪えてくれないか」
「氷の君……しかし、貴様の国の菓子は一食が随分少ないのではないか。すぐになくなってしまったのだが」
あまり華美な言葉遣いは好かれないのは分かっているので控えめにしたが、それでも微妙に思われたようだった。ドゥリーヨダナの感覚が強いらしいときにはこんな口調になるが、どうしたものか。マスターには訝しがられることはないのがいいが、バレるのも時間の問題か。
「しかし、異聞帯の女王よ、あれは作るのに時間がかかる。それに、もう少しで夕餉の時間だろう? ならば、簡易なものを作るにしてもそれより後になる」
「むぅ、それならよい。簡易でも、また持ってきてくれ。……それより其方、水に縁があるのか?」
ふと気づいたというよりは、前からモヤモヤしていた、という風情で聞いてきた。懐かしいといえば懐かしい。ターラーはあの後元気だっただろうかと疑問が首をもたげてくる。今更とはいえ、やはり気にはなる。ドゥリーヨダナは既に終わった存在で、今は別の人間として引き継がれている形を取っているのだから気にすることもないのかもしれないが。
「慈しみ深い王よ。異教の神にもやはりわかるものなのか、この縁は」
「うむ、縁というよりは直接の加護であろう。効果はあまり高くないが、とても優しく、強い加護だ」
「そう、なのか」
直接的にヴァルナ神と関わった覚えはないが、お守り的な加護をもらえるということはターラーが取りなしてくれるか何かしたのだろう。私、末世の化身で好かれてないはずだったんだが、案外場外から見てる神は別だったのかもしれない。うん、やっぱりターラーには会いたいな。どこかで会える機会があってほしいものだ。
教えてもらったのだから、相応な対価が必要だろう。夕飯前にもう一度クルフィを仕込んでおくことにしよう。
「まあ、近いもので夕餉の後ならば供せるくらいの量は作れるだろう」
「そうか。楽しみにしているぞ、水の王」
……は?
呼ばれ方になんとなくゾワッとしたのですぐに退出したが、もしかして礼を失しただろうか。まあ、今更だから考えても無駄だ。
「加護をくれるほど結びつきがあったとはおもわなかったな……それならあの二人はやはり婚姻させるべきだっただろうか」
食堂に向かいながら思ったが、あの二人は案外似合いだったかもしれない。どちらも自分の近くにいたし、それで結びつきが強まるなら良かっただろう。
カルナは嫁さん居なかったし、ターラーも逃がす前まで独身だったしな。然るべき、というかうちの養女に取って見合いをさせるべきだったかもしれない。あれほど気の利く彼女なら、カルナもやたら不運に見舞われても誤解されることなくやっていけただろう。……いや、こういう考え方が嫌われる上司への一歩か。いけないな。
あ、そういえば私室に戻っていない。どうせなら前に確保したカルダモンをそのまま置きっぱなしだった。取りに行かねば。
「あ、水の王だ」
「水の王さま〜、さっきのアイス美味しかった!」
「……やっぱり広まったか」
私室に戻ってから食堂に辿り着いたとき、子どもたちの口から飛び出た言葉に思わず天を仰いで目元を覆う。嫌な予感はしていた。どこから洩れたんだ。というか誰が聞いていたんだ。緑のアーチャーか?
「ねぇ、王さま。わたしたち、どうやってあのお菓子を作るか知りたい! あの機械解体していい?」
「プレゼントを配るのを頑張るサンタさんにはもっとたくさんあってもいいと思うんです! もっと食べたい!」
「……あれと同じものだと、作るのに時間がかかるぞ。それと、形は違うが実際相当原始的な冷凍庫のようなものだから、解体するより作ってみたほうが分かりやすい。今度してみるなら、マスターに伝えておこう」
あの女王と同じことを言っている小さなサンタさんはいいとして、機材をバラされては流石に困る。私には修理できない。
「なんで時間がかかるの?」
「ミルクと砂糖とをすごく煮詰めてから冷やすからだ。柔らかいキャラメルを包み紙に入れたまま、雪に埋めてみたことはあるか?」
尋ねてみると不思議そうな顔をしてお互いを見合う。そういえば、柔らかいキャラメル食べたことがあるんだろうか、この子達。
エミヤのおやつ表を思い浮かべてみるが、全く思い出せない。そもそも、あの男は凝った料理というか趣味としての料理のような手が込んだものが多い。それと、食べさせるおやつにちょっとした物よりはしっかりしたものが多かった。キャラメルソースは見た気がするが、キャラメルは出ていない筈だ。あと、食べ物で遊ぶのを許さない奴が出来立ての柔いキャラメルを雪に埋めさせるとも思えない。うん、無いな。
「ううん、ないわ!」
「そうするとどうなるんですか?」
「そうやってキャラメルを冷やそうとすると、カチカチになるのには時間がかかるんだ。私が作ったのは、似たようなものだから固めるためには時間が掛かる」
液体を固めるわけじゃないからな。女王に追加で作るのは簡易のものだ。趣向を変えてみたといえばそれもまた楽しんでくれるだろうが、もう一度同じものとなると就寝間際までかかる。なんとか誤魔化すが、何か言われたらそこまでだな……。
「そうだな、明日スカディ女王に伝えて、一緒に作ってみるといい」
愛すか殺すかの2択の女王だ。なら、愛すると決めた幼子の頼みを無下にはしまい。今後の手間も省ける。
「じゃあ、ご飯を食べたら行ってみましょう!」
「機械を解体できないの、残念」
「でも、今度はあのアイスをもっとたくさん食べられますよ!」
きゃいきゃい笑って話し合う子どもたちは愛らしい。こんなふうに笑い合う国民を守りたかったのが、遥か遠い記憶のように思えて来たので、そっと考えるのをやめた。私の国は、もうどこにもない。ここはクルではない。クルのためにと鬼になる必要はないのだから、享受しなくてはならないのだ。
だから、今日はただの親切なお兄さんとしてアイスクリームを作らなくてはならないな。
いい加減オルレアン進めたいんですが、うまく噛み合わなくなってきたのでカルデアに入ったあとの全話書き直しになりそうで頭を抱えています。もしかしたらその範囲全部消すかもしれません。