叙事詩の悪に私はなる!   作:小森朔

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フランスに人理修復に行って、夢を見る話。

 非常に長いこと書けなくなりまして、あとドゥリさんが全く動いてくれないので、フランスから行くか亜種特異点にするか悩みました。フランスから行きます


八百坂燈は思い出せない

  遠くに白い煙が立ち上っているのが見える。細い細いそれは、ただの一本ではない。

 

 すぐそこに黒い煙が見える。地面にまとわりつくように、何かを焼いている。ああ、なんとなく頭がぼんやりする。

 

 きっと戦争なのだろう。これでまた、人が死ぬ。守ろうとした男たちはたくさん死ぬ。守られるはずだった女や子供からは奪われる。でも、これが世界の理なのだ。私が変えることのできないもの。これは過去のことで、変えてはいけないもの。

 

「いいのか」

 

 

「良くなくても、どうしようもないよ」

 誰かが、私の隣でポツリと、つぶやくように言った。背の高い、明らかに戦士であろう逞しい上腕の男だ。きっと、私の首程度なら簡単にへし折れるだろう。

 私にどうこうできるものではないことは、すぐにわかるだろうに、なぜそんなことを聞くんだろう。

 

「お前は、望まないのか」

 

「ああ。もう、私は何者でもないからね」

 もはや私は王ではない。たしかに力はそのまま持ち合わせているかもしれない。でも、それは私が英霊召喚機構の一部だから。私は過去世のような夢を定義できない。それに、それができてしまったら、私は人ではないものになる。ましてや神の器になんて、もっての外だろう。

 

 その男は、顔はよく見えなかったが、泣いているようだった。ぽたりぽたりと肩に雫が落ちる。

 私の返答を、彼はお気に召さなかったらしい。だからどうということはないけれど。彼の涙を拭う理由を私には持ち合わせていないのだから、わざわざ拭う必要はないだろう。

 

 それでもうっかり、気まぐれを起こして拭ってやろうとその顔に手を伸ばしかける。直ぐにはっと我に返って手を引っ込めると、ぐにゃりと視界が歪んだ。ああ、やめろ、そんな恨みがましい目で私を見るな、×××!

 

 

 

 

「…んせ……先生!」

「うん?」

「やっと起きた!」

 意識が急にクリアになって、先程までの煙も、背の高い男もいなくなった。あれは、一体何だったんだろう。

「立ったまま寝てましたよ、先生!」

「え、我ながら器用……ここが百年戦争あたりのフランスか」

 なんという器用さ。立って寝たのは初めてだから英霊になった影響か。いや、どんな影響だ。ないない。

 

 周囲の景色を確認するために可能な限りぐるっと首を回すと、のどかな欧州の田舎。まだ眠くて、そのへんの牧草の上ででも寝こけてしまいそうだ。アンサモン慣れしてなくて、眠たくて仕方ない。早くコフィン酔いにも慣れないといけないな。

 

 でも、なにかおかしい。あんまりにも普通なのだ、このあたりの土地。

「これが、特異点?」

「ええ、そのはず……あれは?」

 違和を感じたらしい藤丸さんが、なにか見つけたらしい。向こうの道の黒い何か……

「逃走兵?」

「逃走兵だね。三割切ったか指揮官亡くしたものと見た」

 やってくる重装備の男たちは、ボロボロな上に統率がうまく取れてない。これはあれだ、壊滅状態に陥って逃げたやつだ。三割切ると壊滅です。うーん、面倒。道の途中でカチ合って死にたくないな。

「先生、あの人たちとコンタクト取れる?」

「道に迷った巡礼者ってことで、なんとか?」

 

 そうこういっているうちに、彼らはどんどん近づいている。マシュは護衛に雇ったということで話を通すことになったけど、果たして大丈夫だろうか。フランス語なんてほとんど分からない。一応話せるように魔術翻訳機器があるものの、これが本当に通じてくれるかは謎だ。

 

 ちょっとした細工、というより安全のために翻訳を多少設定し直し、気を取り直して3人で道を歩き出した。

 

 

「止まれ! お前達、何者だ?」

「わわっ、お助けください!巡礼のために来たものです!」

「バレンシア訛り……イギリス兵ではないな」

「はい、出身はバレンシアにございます……一体何があったのですか」

 

 そう、スペイン方面からの巡礼者ということにしたのだ。ちなみにイタリアではないのはイタリアとフランスの仲が微妙なのと、ローマ関連である。ローマ巡礼ということにしておいたほうが、まだなんとなく分かりやすい。ジャンヌ・ダルクの母もローマ巡礼してロメと名乗ったらしいし。

 まあ、そんなことはどうでもいいか。とりあえず、ごまかせればそれで!

 

「魔女が暴れまわっている。どこもかしこも火の海だ」

「……なんて?」

 

 魔女が、大勢の人間に見える場所で暴れている? そもそも、この時代の魔女というのは宗教絡みのであって、魔術師ではないはずなのに、火の海にできる?

 

 負傷した兵をよく見れば、確かに裂傷以外にも火傷をした者が多い。しかし、手当の仕方がかなり雑だ。

「でしたら一刻も早く退きましょう!」

「燈先生!?」

 立香ちゃんが叫ぶけど、時間に余裕はなさそうだ。ごめん、大人しく従ってほしい。

「リツカちゃん、それどころじゃないよ!

 兵隊さん、あなた方が逃げていたなら魔女は追いかけてくるはずです!」

「あっちに町がある! 悪いが手伝ってくれ!」

 焦ったような彼らの声に、マシュも立香ちゃんも物凄く慌てだした。活動できるようになるならそれでいい。とりあえず、ここから逃げてある程度情報を得られるようにしないとな。

 

 しかし、その町も焼き討ちに遭ったらどうするべきだろうか。早めにカルデアから地図をもらうべきかな。


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