幻想錯乱領域ハースティナプラ
亜種特異点への人理定礎値 A
B.C.????
平行世界線で英雄になることを拒み消えた者と、取り戻さんとする英雄たちの物語。
――それはあり得ないはずだった神代の可能性。
それは、諸悪の根源として生まれ落ち、生き抜いた王の死後の戦場で起きた。
王の死を受け入れられないものが引き起こす惨禍。戦場は一瞬にして形勢逆転し、阿鼻叫喚地獄と化す。
死者であるはずの将軍の復活、水神の参戦に、世界は破滅の兆しを見せたのだった……。
「あ、あ……」
彼はすべてを見、崩折れた。それは、些細なきっかけ。献上され、手にした瞬間起動したそれは、彼の漠然と思い描くそれとは、大きく異なっていた。
「なぜ!なぜ救われないんだ!どうして、一人だけ救われない!皆が救われるのだろう!そのために、それに向けて皆戦うのだろう!?」
血涙を流し、ふらりふらりと揺れつつその手を伸ばす。作り変えるはかの王の生きる道。たとえ死んでいても、生きるように。
「許さない!許してなるものか!神でも、人でも、そうでないものであっても!」
曖昧な笑顔が浮かぶ。ああ、もう二度と会うことができないなど、考えたくもない。救われるのだろう。そうでないならば、
「それでも生きたいはずだ!私は、それを肯定するだけだ!」
慟哭が響く。
そうして、世界は変容する。
「あーかーりー!どこなのー!」
「所長、どうかされましたか?」
八百坂を呼ぶオルガマリーと鉢合わせして、立香とマシュは尋ねた。何か異変があったことを察したからだ。
「燈がどこにも居ないの。もしかしたら、新しい特異点行ったのかもしれないわ」
どれほど呼んでも居ない。そのことがあらわしている可能性が濃厚になってきていたのだ。
それまでに特異点に召喚されたサーヴァントの例があったため、オルガマリーはその可能性に行き着いていた。そうでもなければ、どこかしらで見当たるはずである。
「そうかもしれません」
「管制室へ行こう、所長。ドクターが何か観測してるかも」
「ええ、そうね」
立香の意見にオルガマリーも賛成し、三人は管制室へ向かう。その特異点が一体どのようなものであるか知らずに。
薄暗い部屋は、だからといってひどい環境でない。とても恵まれている。でも、日の光から遠ざけられてしまえば、人間は弱るものだ。自由もないここは、ひどく虚しい。
「姉上、姉上。婚礼衣装はいかがですか」
どこに嫁ぐというのだ。私は男でも女でもないのに。ましてや、両性でも無性でもないのに。
「素敵ですよ。きっと、あの王子も文句はつけられないでしょう」
そんなことがあるわけがない。誰が、鎖の跡や枷の痣だらけの者を欲しがるというのだ。
「あなたはここにいればいいのです、姉上」
嘘だ。私は異物でしかない。もう死んだ。そうでなくとも、居るだけで世界をおかしな事にしてしまった。
「それから、ずっと幸せに暮せばいいのです」
そんなことできるはずがない。私は、私の心のままに生きたかった。それが私の幸せだったのだから。ここでは、私は幸せになれない。この国での私はただの機構に過ぎない。
「ねえ、そうでしょう?」
弟たちは皆、幸せそうに笑っている。
もう、やめてくれ。私が、私で無くなってしまう。
悪役、というか元凶は二、三人いるつもりでいます。