叙事詩の悪に私はなる!   作:小森朔

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ドゥリーヨダナさんさい
やることは一応決まってきたドゥリさんと初めての計略


今の状況と今後の予定について

 もともとの存在(ドゥリーヨダナ)から歪められていたのはどうも中の人入りってとこだけじゃなかったらしい。

 

 子供が生まれて良かった、ってことになればよかったんだろうが、ドゥリーヨダナである以上そんなに上手く行くわけもなし。

 それどころか私が不吉の象徴を山ほど抱えて長男として引き継げるのか! っていう非常に面倒な問題を完全に残したまま、しかも超弩級の爆弾もぶち込んで暫定嫡子にされてしまった。

 

 やめてくれー、私の胃に穴が開いてしまうではないかー……

 

 という抵抗なんぞ、もちろん言えるはずもない。弟の前ではちょっとぐらい見栄を張りたい。

 あのあと、あれこれ騒ぎがあったけど、無事に99人の弟たちと可愛らしい妹も産まれてきた。某ゲームじゃないけどブラザープリンスか、とか思ったぞ。元ネタの方はやったことないけど。そもそも一気にこんな大所帯になったから使用人も増えるわ必要なものも増えるわで結構大変だったりする。

 一応、資産はあるからいい。けど、ここまで増えると若干特需みたいになりそうで顔がチベットスナギツネになる。そんなに大規模でもないかもしれないけど、割と誕生祝いとかは盛大だから潤うのは潤うんだよな……

 

 そういえば、私達が生まれたあとブチ込まれてたあの壷、ギーとかいう液状バター入れて封しただけの人工哺育機だった。

 ギーなんて元日本人の私には溶けた虎が原料のギーのパンケーキくらいしか思いつかないから困る。読んだときに浴びるほど食べてみたいとは思ったけど、原材料にどっぷり浸かりたいとは流石に思ってないぞ。

 それはそうとして、あれで人間が生まれるなんて流石神代。これたぶんだが、月神の末裔ってことが大きいんだと思う。一応、最後に棍棒で殴り合えるだけの臀力があるだけの理由はあるのだ。

 もちろん普通の人間に適用できるわけが無いから、その辺りの医療施設を追い追い設置する。絶対にだ。

 

 この時代、出産時の母子ももちろんだけど、出生後も無事な子供が少ない。7つまではいつ死ぬかわからない。この辺はよく知らないけどマラリヤになって死ぬ可能性だって結構高いし、靴を履かないのも普通だから破傷風にかかる危険はずっと身近だ。

 マラリヤは器具が作れないし、薬品の抽出法がよくわからないから特効薬を作れない。使える植物は分かるけど肝心のところがどうにもダメだ。血清なんかは難しいが、医者をかき集めて屈せず頑張ればできなくもないかもしれない程度。種痘は、エカチェリーナ帝に倣うつもりだけど微妙だな。耐性がある人がどれぐらいいるかでやるかどうか変わってくるし、予算に合わねば切り捨てなければならない。

 でも、出産を比較的清潔な場所ですれば無事でいられる母子は多い。これだけでかなり変わる。汚れた布でなく、洗ってきちんと清潔になった布を。傷口は消毒できるようにアルコールと綿を。子供を洗うのに汚れてない産湯を。

 

 できる事からするならとりあえずは産院の設立。子供も母親も多いんだから産院を作ることをまず真っ先に考えるべきだ。やらなきゃいけないこと。そういうことをできる場所と、水、アルコールと沢山の布の確保をすることならできる。

 

 あとは栄養関係だけど、幸いにもこの辺一体、というかクル国は穀物生産に向いてる。後の世の話だけど、そうすることができるだけの土地ではあるのだ。パンシャービー州万歳。それに、ユディシュティラが不毛の地を緑豊かな地に変えている。なら、土地改良は本来なら何十年か必要になるのだとしても出来るはずだ。穀物の備蓄と配布方法を整えるよう気をつけるべきだろう。

 

 

 それはそれでいいとして、まず考えるべきは私がちゃんとパーンダヴァに向き合うことと、邪魔されずに7歳まで生き延びることだ。

 やっぱり、最初に駄目じゃないかって言われたのに生き残れたんだから、しぶとくいきたい。あと、最悪ここ(クル国)で死ななきゃいいんだよな。天国行き確定チケがあるから女神の気まぐれのあと帰れなくなってしまう。

 私はまだ飽きるほど和食を食べてないし、帰ったら目標の歴史の先生になるんだ。死ぬの割と早い段階だしね。

 

「ドゥリーヨダナ、我が愛し子よ。その言葉は真か」

「ええ、いと気高き王よ。特別施設と一般の母子の比較をしますれば、子が生まれ、母親も生きられるようになっておりました」

 

 まだパーンダヴァは来ていない。ならば、私は今のうちにできることをやって徳を積むだけだ。この徳は、あの世じゃなくてこの世にだけど。

 

 

 当然ながら単に良心、なんかではない。あと何十年かしたら絶対にくる戦争への布石でもある。

 

 もともと、神々が戦乱を起こそうとしていたのは、ここで人が増えすぎたからだ。

 人が多いのは神にとっていいことだ。信仰者が増えれば増えるほど己の存在が確固たるものになる。

 しかし、問題は別のところ、地母神が余りの重さに耐えられないところにあると話がまた別の方向に向くのだ。今回みたいに。

 主神ともあろう者が、縁の下の力持ちがギブギブ言ってんのにそれを無視するわけにも行かない。いやそこは踊りながら壊して程々に治そうよ。

 

 ともあれ、それで戦争させて減らすのだ。地母神も細腕過ぎやしないだろうか。他の地域は他の神様が頑張っているにせよ、未来は数十億人の国なのに。大丈夫か。

 現状そのことを念頭に置いて動いているから、これはある種の復讐で、こういう人間に全部押し付ける理不尽を完全に信仰に還元させてやれ、というのが目標。カースト全盛で保たれてる信仰が薄れてしまえ。

 

 護岸工事やったり産院や救急医療をある程度確立させてやりさえすれば人は増える。当然女神は悲鳴を上げるだろうし、ここに来て神の怒りが下ったらそれらすべてを引き上げるのだ。もちろんちゃんと神託を聴いて、そのとおりならだけども。神託はそのすべてを公開する。恨むなら神を恨むのだと。

 神様の力を削ぐなんてうまくできるかわからないけれど、少しだけ不信感を植え付けることができる。最悪、私が悪いと言われたら事業すべてを引き上げてしまえばいいのだ。産院も、病院も、それからやろうとしてる公共事業やら何やらも全て。泣き寝入りなんぞしないでまとめて国外に持ち出して、一財産築いて帰ってきてやる。

 

 で、その第一段階として味方につけられる人間は多い方がいい。まだ試験段階だから余り大きな事はできないし、ちゃんと成果を挙げて進言できるほどにまとめられるか少し心配だけど、今のうちにやらなきゃならないんだ。

 できることなら色々な階層の、多くの人に参加してほしくないって言うと嘘になる。けど、そのシステムを多少秘匿しておけば、あとから命が脅かされることはないだろうとも思うのだ。パーンダヴァが真似出来ないものを、少しずつ、少しずつ増やしておけば、首の皮一枚で生き残るかもしれない。

「父上、賢きお方。私はお暇致します。あの薬は、私にしか作れませぬゆえに」

「構わぬ。しかし我が息子よ、その薬は許す限り作るようにせよ。そしてカウラヴァの王子100人のみの知るところとするのだ」

「私もそのようにしとうございます」

 

 

 父と通じ合ってお互い悪い笑みを浮かべる。カウラヴァを絶やさぬ、それについては父上は一致団結できる相手だ。

 愚かしい王子であるように振る舞え。

 どいつもこいつも、腹の中を見せるような相手ではない。

 

 

 嗚呼、どうせやるなら一人こっきり、おあつらえ向きの舞台でせいぜい足掻いてやるよ。




まずは神様を相手取って生き延びる策を練るはなし。

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