第二、第三宝具も出ます。狂化もあります。
青いキャスターことクー・フーリンとの情報交換はかなり有益だった。トップ役じゃなくて良かったと思ってしまうのは、私の根が変わってないからかもしれない。一時はやっていたとはいえ、情報処理が苦手だからこういうのはできる人に任せるに限る。でも、任せると言っても意見を聞かれたら言えるようにしておくのが最低条件だ。誰かひとりに責任おっ被せることになるのはいただけない。
で、得た情報は原作の通り。この歪みきってるらしい聖杯戦争と、クー・フーリンと敵対しなくていいこと、それにやっぱりラスボスは洞穴にいることがわかっただけでもかなり助かる。
「ところで、そっちの嬢ちゃんは宝具が使えねぇんだな」
「は、はい……どうしてなのかは分からないのですが」
「お、じゃあ訓練してみるか?」
「え?」
この時点で嫌な予感がしたからそっとマスターを引き寄せて藤丸さんとの間に隠す。さて、この男はどうするつもりなのか。
「厄寄せのルーンを刻んでっと」
あ、そこは普通に電柱に刻むのか。でも、なんとなく半径どれくらい、とか決まってそうでそっちの方が怖いな。
あ、三人とも厄寄せって聞こえなかったのか首かしげてる。これ、集まってきたらパニックになるな。
「ぎゃああああ!?」
「いっぱい来たー!?」
「せ、先輩と所長はこちらへ!」
わらわら集ってくるのを見て思う。これはまずい。想像よりずっと数多すぎて最後にゃ私も多分へばる。殴れば済むってもんじゃない。
「まずは嬢ちゃんに精も魂も尽き果ててもらうって寸法だ!冴えてるなオレ!」
「もしかして馬鹿なんですかー!」
考え方は良いと思うんだけど、やり方が拙すぎるね!
というか、
「なんで私は分断されてるのかな!」
ルーンなのか意図的な風に押されて身のこなしがちょっとは強そうな方に連れて行かれた。しかも集まってるやつも完全にヤバそうなやつばっかりこっちに流れてきてるんだけど何これ!
「そっちはそっちで体の動かし方思い出せよ!アンタも感が鈍ってんだろ!」
「バレてたか」
実は、三人の前で宝具を出してないのは、まだ微妙に感が取り戻せてないから不安だったっていうのもあってのことなんだ。できないわけじゃないけど、対軍宝具ってのがどの程度効くのか全く分からない分余計に怖い。
「まあ、アンタも精魂尽き果ててくれや!」
「結構。代わりに後で一発殴らせてもらうからな!」
一言も言わずにこんなことしたのに対しては殴らせてもらいたい。駄目だったら今度から地味な嫌がらせをしてやろう。一人分おやつがないとか。
「ああ……ああぁあああ!!」
「宝具……!」
分断された向こう側、大きく発現して防ぎ切る盾の姿が見える。行けたんだ、一つ目の壁の向こうに。受け持ちの生徒ではないけど、やっぱりなんとなく人の成長は喜ばしい。目に見えるのは、余計に。
「私もやってみないとな」
なんにもわかんないけど、発動だけは分かる。制御確認も兼ねてやらないと。
「人の
するりと出てきた言葉はあまりにも味気なく、私が持っていた威力への懸念は一気に吹き飛んだ。辺り一面更地にできる、というか自制か何かない限りこれはだいたい更地にできる。さっきまで敵がわんさか居たところなんてドロップの骨しかない。
やっぱり、諸悪の根源の性質が強めなんだな。もともと中の人入りの性質じゃなくて良かった。微妙にいろんな背景が合わなくなりそう。
「バーサーカーのクラスも、これなら納得できるか」
ドゥリーヨダナの存在からかなり逸れた宝具が出てきやしないか心配だったんだ。特定の地域と時代の破壊者としての面が強いなら、まず逸れる心配はいらないだろう。第一と第三宝具の方は私だった方のドゥリーヨダナに寄ってるものだから、バランスとしては多分トントン。というか攻撃宝具しか基本使わないからトントンよりは原典に寄るか。
……まあ、それはいい。合流しないと。
「おーい、そっち大丈夫?」
「先生さっきすごい音と破壊音しましたけど!?」
周りに気配もないし、神経を尖らせなくて済むから、ゆったり燃え残った全員のところに歩いていく。めちゃめちゃ焦ってる藤丸さんが目を剥いた。すごく漫画チックな表情だなぁ。可愛いけどコミカル。ギャグチック。
「そりゃ宝具展開したら音もするさ!」
「そっち更地になってるじゃない!」
「気にしたら負けさ!」
そもそも宝具って更地になる武器だよね。敵単体だと消し炭とか。なかなかにエグい。威力舐めてた。
「それより、そっちはどう?」
「宝具の展開はできました!所長が呪文を考案してくださったので、これなら行けるかと!」
まじか、じゃあ貴重な所長のデレを見逃したんだ私……まあ、仕方ないよね。次だ次。
そろそろセイバーを倒さにゃなるまい。それから、所長と藤丸さん、キリエライトさんを無事にカルデアに返す。
……今考えてるやり方で大丈夫だと信じたいけど、どうかなぁ。
「じゃあ、奴さんの首狙いに行くかな、マスター?」
「貴女かなり物騒になってきたわね……」
「あんまりうかうかしててもいけませんからねぇ」
「おう、それに関しちゃオレも賛成だ。こういうこたぁ早い方がいいぜ」
先が煤まみれになった棍棒を担いでマスターに笑いかけると、盛大に顔が引きつった。ごめん、やっぱり笑顔作って明るく言おうとするの苦手なんだわ。そしてキャスニキはありがとう。流れが早くなって解決までがスムーズになる。
「いいかい、マスターたち二人共」
「わ、私は頭数入らないんですか?」
ちょっとしょげてるらしいキリエライトさんには申し訳ない。
「んー、マシュは藤丸さんのサーヴァントだからね。彼女の指示如何でしょ?」
「はい……」
「変な数え方してごめんね」
「いえ!」
理由を示すと納得してくれたけど、本音を言うと、これ慣習付けの一環なんだよね。彼女が藤丸さんのサーヴァントであり、マスターにおよそ必ず従うものっていう刷り込み。ごめんね。でも、そうでもしないと、安心できない。依存になってしまうのは目に見えてるけど、変なところで意見と行動が割れたらそれこそ死に向かう。
「じゃあ行きましょう!」
「はい!所長、なんだかすごく頼もしいです!」
「当然よ!私はフィニス・カルデアのトップなんだから!」
士気が高めで良い。うまく行くかわからないけど、せめてこの三人だけでも生かせたら万々歳だな。
「天然の洞窟、に見えますが、これも元から冬木にあったものですか?」
「でしょうね。これは半分天然、半分人工よ。魔術師が長い時間をかけて拡げた地下工房です」
うーん、削れ方とか、雰囲気とかが微妙に天然らしくない。自然地理の先生とかならもっと確実に根拠が示せるんだろうけど、私がちゃんとわかるのは地誌学と人文地理学の入門レベルの知識だけ。街の作りとか、文化とかそんな辺りだ。
「約束された勝利の剣。騎士の王と誉れ高い、アーサー王の持つ剣だ」
気になるなぁと眺めていたらほとんど聴き逃してた。いかんいかん。
と、出てきたシャドウサーヴァントを見た途端、頭がパンクしそうになった。
これ、獲物だ。狩らなきゃいけない獲物だ。こいつは倒さなきゃ、喉笛食いちぎって、四肢をもいで。
だから、
「悪霊退散ッ悪霊退散ッ!」
ふざけたふうに振る舞ってごまかす。
「バーサーカー!こんな時にふざけたテンポで言うことないでしょ!何してるの!」
「や、だってこいつ見てたらウズウズしてね……」
息が上がる。やばい、そろそろ理性焼ききれそう。こいつだけは早く倒さなきゃ何か介入がありそうな気がする。だから、本能が倒せって言ってる。
「じゃあ、やりなさい!」
「応!……ゔ、あ、アアアアア!」
考えるのをやめて体を任せたら、途端に頭がガンガンする。なんだろう、何なんだろうこれ。嫌だけど爽快というか、気分がいい。
敵に突っ込んでいくのも、殴り掛かるのも、恐ろしいくらい楽しい。楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて、痛いはずなのに痛くない。楽しい。
「バーサーカー、止まりなさい!!」
「え?」
パッと見てみればシャドウサーヴァントは居ないし、ここどこだ。もしかして大聖杯目前か。どれだけ意識飛んでたんだ?
場所が場所だけにちゃんと警戒し直すと、多少は状況がわかった。セイバーらしいドレスの女の子も、どうやらタコ殴りにしてたみたいだ。剣が折れて戦意が落ちてる。
と言うか、一気にクリアな思考になったから令呪使われたのかな。狂化こわい。そして割と便利。何も考えず行けるの、戸惑わずに済んで最高に楽だった。一応、ここまでは司令が通る程度には意思疎通もできてたみたいだし。無自覚だったけど。
……本音を言うとマスターが雪解けしてるの見たかったし混ざりたかったけど、仕方ないよね、うん。だってバーサーク入ったら私の紙みたいなペラッペラの理性なんて一気に飛ぶし。
「結局、どう運命が変わろうと私ひとりでは同じ結末を迎えるということか」
彼女の結末はよく知らないけど、運命なんぞ早々変わるものじゃないと思うよ。ただ、キーパーソンや分岐点が変更されたら、そうも言えないんだろうけど。それを見つけて、なおかつ変えるのは難しいことだ。
「あ?どういう意味だ、そりゃあ。テメェ何を知っていやがる」
「いずれ貴方も知る、アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー―聖杯を巡る戦いは始まったばかりだということをな」
「おい待て、それはどういう―おぉお!?やべぇ、ここで強制送還かよ……!」
食いつきつつも送還の光がキャスニキの体を溶かしていく。
「次は槍のオレを呼んでくれ!」
言い残すだけ残してスッと消えていったキャスターに、ぞわりと嫌な感覚を覚える。背中を何か這い回ってるみたいな、ひどい感覚だ。
このあとのために、第三宝具を確認する。体制だけは整って、いつでも使えるようになっているらしい。良かった、あとはどうにか合わせるだけ。
そう思ったところで、ガンガン頭の中で鐘が打ち鳴らされる。
……不味いなぁ、また頭ん中が狂いそうだ。さっきの言葉がまだきいてるからいいけど、ちょっとちゃんと持つかわからない。今にも切りつけて、殺してしまいそうだ。
必死こいて耐えながらマスターが走り出すのを止めようと待ち構えていたら、そのときは来た。でも、伸ばした手は無情にも届かない。スカっと空を切って、彼女は行ってしまった。
それに、追いかけたくても、体がおかしい。うまく動かない。それに、さっきは大丈夫だったはずなのに対象を決めた途端宝具にもセーフティが掛かった。なんでこんな時に!
とても、まずい。
「人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」
マスター、行っちゃ駄目だ。早く助けないと。間に合わなくなる。
動け。頼む。早く、動いて。動け!
「いやーいや、いや、助けて!
わた、わたし、こんなところで死にたくない!」
パキン、カシャン
「大丈夫だよ、マスター」
「え……?」
何か割れるような音が聴こえて、宝具のセーフティが外れた。同時に、一気に第三宝具がその場に展開した。
綻びかけていたオルガマリーの姿が、崩れるのをやめる。良かった。ちゃんと使えるし、彼女を救うこともできる。なれないことでも、頑張れば結構いけるね。
宝具のキーになっているらしい水晶の髪飾りが、大きなモザイクランプへと代わる。モロッコランプやトルコランプみたいな、風船を軽く押し付けたような形のそれは、私がカルナたちを導くときに持っていたものとよく似ている。あのときランプを持ってたことすら今頃思い出したんだけど、多分、再現だろう。
「黄金の黄昏、神の祝福」
すべてが終わった神代の黄昏も、そこに込められた祈りも、祝福も。
「我には必要なくも、
必要とする人には分け与えられ、そして導かれるべきすべてがそこにあるならば、それは私が導くべき場所だ。
「汝の道を、我は照らさん。〈
宝具展開とともに、消えかけのオルガマリーが元の姿に戻っていく。それを、こちらに引き寄せて、小さくランプへと仕舞い込む。中にいる姿はミニチュアドールみたいだ。大丈夫、出られるから。これから、彼女はカルデアへ、今度こそ必要な愛のある居場所へと戻る。だって彼女は、この男に不当に梯子を外されたもの。
ダ・ヴィンチちゃんあたりは通信が生きてるから見てるだろう。どうか、ちゃんと伝わりますように。
「藤丸さん、マシュ、先にカルデアに行くから、あとは頼むよ。ドクター、彼女の新しい宿は頼めますか?」
「はい!」
「え、はい……?」
〈……そういうことか!大丈夫、至急手配する!〉
三者三様、とりあえずドクターに伝わってよかった。魂だけ連れて帰っても死んじゃうからね。器がないとまずいよね。
そのへん、パピリオマギカとかでも『老いたら新しい肉体としてホムンクルス使えば無問題、コピー入れときゃだいたいいける』だったから何とかなるんじゃないかなとは思う。駄目ならマントラで焦げた肉体を元に戻す。でも、精度が落ちるせいで幾らか後遺症が残るだろうから、正直なところあんまりやりたくないんだよな。
道が開ける。黒い空間の亀裂のようなところに、迷うことなく歩を進めた。
本当は、彼女は無事に届けられても、連れて行く私はどうなるかわからないから物凄く怖い。でも彼女は帰りたがってた。死にたくないと言った。本当なら死ぬはずじゃなかったのだから、冥府に繋げない。経緯度と年代の確定しているそこへ、ぐにゃぐにゃした道を通って送り届けるだけだ。怖くない、怖くない。
「大丈夫、マスターはちゃんと頑張ったよ。だから、カルデアへ行こう。ちゃんと帰ってから、ドクター達にはお礼を言わないとでしょ?」
ランプの一角、透明で外が見えるところから彼女が怯えた目で私を見ていて、無駄に怖がらせるのも嫌だから語りかける。大丈夫、嫌なことはしない。ただ、送り届けるだけなんだ。今、私に許されるのは戦うことと、この役目ぐらいだから。
カルデアに戻ったら、ちゃんと休まないといけないよ、私のマスター。
序章が終わったら宝具も含めて詳しくプロフィール書き直します。