一応は大まかなところだけは決めています。目下、オルガマリー所長救済の方向で。
サクサク倒せる骸骨たちを崩して、漁港や大橋を探索する。その間、一応ズレのないようにしっかりとオルガマリーから情報の聞き取りをして、持っている知識とすり合わせる。
多少ズレがあったところは難しそうだけど、概ね把握はできた。固有スキルとかについては私の持ってる物に微妙な部分があるから、その辺が少し心配な程度だ。
「へー、聖杯に人理、それに修正機関ねぇ」
「案外驚かないのね」
「まあ、いちいち驚いていても仕方ないですしねぇ」
もう素で行くことにして気の抜けた返事に徹することにした。前々からだけど、小説書いたり締め切り前だったり以外であんまり根を詰めたりとか精神を追い込むの好きじゃないんだよな。
「そういえば、八百坂先生は宝具の展開はできるの?」
「出来るよ。第三まであるんだけど、使えるのは今のところ第二と第三くらいだなぁ。戦闘に使えそうなのは第二宝具だけみたいだ」
今度はさっきと違って、念じれば思う通りに子細が分かる。第一宝具は一度限り、アーラシュとはまた別方面で本当に一度限りの技。第三宝具は、生きている人間や戦うためには使えはしない。だけど、第三宝具はここではとんでもない効果を発揮できそうで重畳。いやはや頼もしい。そして一つしか大丈夫そうな宝具ないってどういうことだ。対軍宝具だからしばらく重宝しそうだけど。
「まあ、キリエライトさんは多分別の要因、ストッパーか何か掛かりっぱなしの状態なんだと思うよ。きっかけが出来ればいいんだけど」
「そ、そうなんですか……」
「まあ気負わず、それなりに打開策考えればいいと思うよ」
無責任だけど、それしか言えない。私もデミ鯖だからうまく発破掛けられるとも思えないのだ。エキスパート捕まえてなんとかするしかない。
周りは教会跡に近づくにつれてどんどん火力も変わっていってる。だいぶ倒壊が酷いな。「何か」を見つけるなら急いだほうがいいかもしれない。
……にしても、だ。話を聴いただけでも相当大変なのに、オルガマリーみたいな特に後継者教育を受ける前の年若い魔術師が引き継いだと思うと凄く……心が痛いです。
「オルガマリー、いや、マスターは頑張り屋さん過ぎるよ。そんな細い肩に重たすぎるもの載っけてさ」
「え、は?」
良くできました、と頭を撫でると、えらく動揺してるみたいだった。うん、褒められ慣れてないんだろうなあ。よし、これからカルデアで目一杯甘やかしてやろ。私のほうが年下だけど、年功序列とか儒教圏だけだし。あ、日本は朱子学の影響だからね。やっぱり中韓に比べると制度の重さが軽い。向こうはかなり主たる宗教だもんなぁ。
「頑張り屋さん過ぎると壊れるよ。私の家族にも一度壊れちゃった人がいるから、マスターにも頑張りすぎてほしくないなぁ」
「?!」
ぎょっとした目でこっちを見る二人、目があっても慌てて目を逸らさなくていいから。特に不都合とか無いから。
実話だけどね、脳が壊れるって本当にやばい。だって、ずっと薬飲み続けても緩和しかできない。絶対に戻らないんだよ。不可遡と言うんだっけ。溢れたミルクは皿には二度と戻らない。
「あの、凄く聞いてはいけないことを聞いてしまったのでは?」
「うん?うつ病なんていつ誰がかかるか分からないからね、知っておくに越したことはないよ」
「ええ……ヘビィすぎるよ先生……」
「はは、怖くなったろ?だったらみんな無理しちゃだめってことだよ。それを教えるのも教師の役目。受験うつとかもあるから、本当に年齢なんて関係ないんだ。気をつけようね」
うつの話から大人しくして頭を撫でられてくれたマスターから手を退ける。
「さて、奴さん出てきたよ」
〈四人とも、逃げるんだ!その反応はサーヴァントだ!〉
「うそ!?」
「いや、同類だな。聖杯戦争の変種だろうと思うよ」
「なんであなたはそんなに落ち着いてるよの!」
「あの速さだと逃げられない。マシュ、マスター二人を頼むぞ」
「え、あ、はい!」
どさくさ紛れにマシュ呼びしたけど、長いからね。しかし、アタッカー一人でどうにかなるかな、なるといいな。
まず適当なつぶてを投擲、っと。一匹倒せた。次は、足元と手首狙ってそぉい!
「当たった!?」
「バーサーカー舐めんな、繊細な操作もするに決まってるさ」
本命をまず行かなきゃ、生存率は高くない。さてさて、行けるかねぇ。行くしかないけどね。
さぁてまずはおおきく振りかぶってー!
ドゴォォォォオオっとすごい音とともに、必要以上に力んで叩きつけた棍棒がめり込んで地面まで割った。
……嘘でしょ。神代インドでもここまで地面凹まなかったのに。
「たお、せた……?」
「す、すごいじゃないバーサーカー!」
「うーん、名前で頼める?しっくりこない」
「あ、ごめんなさい」
初撃で倒せた衝撃が頭をくらくらさせる。能力盛りに盛ってません?
〈まだ来る!マシュ、八百坂さん!〉
「はいよー!そっち頼むね!」
「了解です!」
ボウフラかよと思うほど後続が来る。あの真っ黒サーヴァント倒したら少しは楽になるだろうし、頑張るか。二匹目仕留めりゃ後は四匹だ。
とまあ気張ったはいいけど、疲労は溜まる。肉体ではなくて精神に。しかもさ、盗み聞きの輩がいるとなれば余計にだ。二人、いや三人ともまだ気づいてはいないみたいだけども。
そろそろ、盗み聞きの猛犬にも出てきてもらわにゃならない。放ったままでも話は進むまい。少し合図して、マスターに告げると体がこわばった。大丈夫、絶対守る。様子が変なのに気づいて、マシュと藤丸さんも硬くなった。
「そろそろ出てきたらどうかな」
「あー、バレてたか」
「そりゃ、デミとはいえサーヴァントだからね」
気づいたのは少し前。ドゥリーヨダナだった頃に暗殺だの何だのを一通り経験しててこれほど良かったと感じたことはない。嫌な慣れだけど、気づかないよかずっとマシだ。
青いローブに青い髪、魔法の杖を持ったその男は、相当強い力を持つドルイドだ。私のレベルそこまで高くないし、今戦ったらぎりぎり勝てるかなぁ。バーサーカーだし、すぐ倒れたりしないだろうか。マスターの調子も心配だ。
[どうするかな、マスター]
[そのままで。どうなるか分からないから、ずっと警戒していて]
[イエス、マム。マスター、いざというときの結界の準備は頼むよ]
怪しいことには変わりない。物語どおりとは限らないのはさっきの説明のところで実感済みだ。
「単刀直入に言おう、手を組まないか」
怪しいよ、青キャスター。知ってるけど交渉はトップに譲らないと体裁がまずいからどうしようもないし、手短に早めに頼む。
「信頼に値する情報と証拠があれば」
「いいぜ、俺にわかる範囲で話そう」
マスターに任せると精神に負荷かかり過ぎるのが心配だけど、頼むしかない。
ドクターのサポートもあるとは知ってるけど、これから本当に大丈夫だろうか。それと、ちゃんと私も第三宝具展開できるようにしなきゃいけないな。
ちゃんと第三宝具の名前をまだ考えてないので、もうしばらくあとに出てきそう。
一応性能と使いどころだけは確定させているので、辞書を引きながら唸ってます。