叙事詩の悪に私はなる!   作:小森朔

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止まり木になる話。
難産でした……なんだかドゥリーヨダナ主の一人称とか色々なものが揺らいでいたので、まだ暫くはうまく行かないかも。書けるだけ書きます。

主人公の名前決めました。出身のことは後々(英霊剣豪七番勝負とか)で使えるような設定にしようとしてそうなってます。


はぐれ召喚と契約

 

 燃え盛る街、というのはなかなか壮観。というか何これめちゃめちゃ暑い。

「えっと、冬木……冬木ぃ!?」

 看板で現在地を確認すると、大好きなゲームのあの土地と同じ地名。周りは相変わらず非常事態の大火事大惨事。避難することもできないか、それとももう逃げられる人間すら残っていないのか、人っ子一人いない。うそやん。こんなところでトリップとか嬉しくない。似た語感としてドリップコーヒーを所望する。徹夜にキくのだ。

 ……待てよ、あの研修先の藤丸さんって、まさか。よく似てたし、平凡なのか非凡なのかわからなかったけどまさか、主人公?もうエンカウント済?

「あっはは……マジかよぉ」

 神様、これ嘘ですよね。やめてください死ぬ。今度こそ本気で死ぬ。あと一年ちょっとで私も夢が叶うところだし、前みたいに救いのあるやり方にしてくださいよ本当に頼みますから……

 

 と、思って頭抱えていても仕方ない。生まれ育ちは備州、武士の末裔な上にガチ総大将も(異世界だけど)やったこの身の上。やばいことぐらいは分かるのだ。

「うーん、しっかし私ができるの棍棒とカバディが主だしなぁ」

 本当にここが序章のあの冬木なら、私すぐ殺されかねないしな!着ている服は現代服……じゃない。ラサロハ衣装でもなく、ドゥリーヨダナだった頃の平服だ。強いて言うならアルジュナの第三再臨衣装に近いか。あれをもっとちゃんとインド服らしくしたやつ。よく着ていたオリーブ色の生地に金の刺繍の入ったそれはあまりにも懐かしく、そして着て修練をしていたことを思い出させて少しだけスイッチが入り直す。何もなければ無いなりに仕方はあるが、しかしながら馴染んだ棍棒がないのは心もとない。

 

「……と、思ったが。こんなところにあるとはなぁ」

 無いと思ったはずなのに、さっき気が付いた所に愛用の棍棒が無造作に投げてあった。おかしい。しかし、都合はいい。徒手で生き延びるにはいささか力が足りないから仕方ない。ゲーム仕様ならステータスが物を言うんだが、私のクラスとステータスはどうなっているのやら。棍棒を拾っても前の感覚と変わらないからきっと筋力は前世基準なんだけども。早いところ知らねばならない。

 

「きゃああああ!」

「おや、面倒な」

 前方約500mのところに銀髪の女性と妙な生き物が見えた。ありゃどう考えても所長さんです。なんてこった。骸骨だけなら楽なものを。こちとら救助とか得意ではないんだ。

 しかもこの距離。遠いから瓦礫から手頃なのを拾い上げたつぶてを投げて崩すのが精一杯。でも、やるしかないね。

 スキルが上手く効きますように。

「〈智者の弾劾〉っと。そーれっ!」

 頭に思いついた言葉が多分それだと思ったから口に出し、石っころというか瓦の破片を幾つか全力投擲する。

 

 ガシャンと、どうやら崩れたらしい音がした。でも油断はならない。裸眼だと目があんまり良くないから投げたあとに近付いて確認しなきゃいけないのだ。

 駆け寄るのはつかれるから、ゆったりと歩いて彼女の方へ行く。さっきはよく見えなかったけど、近くで見ると別嬪さんだ。この人が消えちゃうのかぁ。ちょっくらカルデアまで連れて帰ってあげたいところだ。スキル的にあれがあるなら何とかできそうだけど、あるかなぁ。

 

「こんばんは。大丈夫ですか」

「ひっ、助けて……!」

 いきなり骸骨が崩れた原因だからか凄く警戒、と言うか怯えられてる。ううん、やだなぁ。寂しいものがある。私とて人間だ。前世スキルがインストールされたところで一般人でしかない。

「あの、私一応は一般人なんですが」

「嘘よ……!だって、そんな格好に膂力なんて!」

「それがいきなり火の海に立っててわけが分からんのですよ」

 何かご存知じゃないですか、と続けて話すと、え、とか、うぁ、とか混乱の極みみたいな声しか出なくなった。ごめんね、いっぱいいっぱいなのはわかるんだけど話してもらわなきゃ本当に土地勘すらなくてなんにもわからない。助けたくとも無理。

 

「所長!」

「マシュ!あと貴女は居眠りしてた一般人!」

 遠くからさっきの声を聞いてやってきたのか、やってきたのが藤丸さんとマシュちゃんである。やっぱりエンカウントしてた。マジかよ。なんであのときは気づかなかったんだろう。

「先生?!なんでここにいるの!?」

「藤丸さん、私も聞きたいくらいだよ」

「先生?どういうことよ」

 私の身元が意外なところから分かりかけたことで少しだけ警戒心が薄れたらしい。良かった、にっちもさっちも行かなくなりそうだったから助かった。

 しかし、この焼け野原のど真ん中でずっと話をしているわけにも行かないだろう。手短に、手短に。

「私は八百坂燈(やおさかあかり)。✕✕大学の学生で、彼女の中学校で研修をさせて頂いていました」

 彼女は迷ったように藤丸さんの方に視線を視線を投げかけて、頷いたのをみて、大きく息を吐き出した。

「教師の卵なの、貴女」

「ええ、この状況は、私にもよくわかりません。場所を変えてご教授いただけませんか」

 前世がインストールされるとか、普通はわかるはずもない。何が起きているのか知りたいのは本当なんだ。情報を一部カットしてるだけで嘘なんか言ってない。

 しばらく黙って、でもマシュちゃんと藤丸さんを見てからこっちを見た。強い目だ。とてもいい目。でも、苦しんでいる色のある、少しだけ悲しい目をしている。

「……いいわ。でも、信用できません。レイポイントを設置した後、私と契約しなさい」

 私の前で生徒の事を罵倒するのは憚られたのだろう。彼女は聡明だ。追い詰められていても、多少の政治的判断もできるんだと思う。とても、しっかりとしている。努力であっても、いや、むしろそうであるならば更に評価されねばならない。この年で狸になるなんてよほどのことがない限りありえないだろうから。

「え、先生いいの?」

「ええ。それで信用していただけるなら構いません」

「そう。私はオルガマリー・アニムスフィアよ」

 手を差しだして握手。ちょっとは、前進できるだろうか。

 

 レイポイント設置はつつがなく。私は初めて見る魔術に興奮してた。だって生でこういうの見れると思ってなかったからワクワクする。オカルトはだいたい読んで手順知ってるけど、マジモンのは久しぶりだ。マントラとかそこらへんのは前回のインドで見た。あれも覚えてる範囲なら、こういう魔力が濃い古代インドみたいなとこならできそう。

〈良かった、繋がった!〉

 食い入るように作業を見てたら、わりと会話が進んでた。全然集中して聞いてませんでしたごめんなさい。

「ちょっと!なんでロマニが仕切ってるのよ!レフ!レフはどこ!レフを出しなさい!」

〈うっひゃあ!しょ、所長!?生きていらしたんですか!しかも無傷!どんだけ!?〉

 このまま続けてもらってもいいんだけど、なんか長いなぁ。

「生存者に医療チームトップ以上の人材がいない……?」

「そんな、じゃあマスター候補生は?」

〈47人、全員危篤状態です。医療機器が足りず、〉

「何をしてるの!すぐ凍結保存に移行!蘇生方法は後回し!死なせないことが最優先よ!」

 うん、流れは知っているけれど、彼女の判断は正しい。

「第一、47人の生命なんて背負えるわけがないじゃない……!」

 二人が何とも言えない、失望したような顔をしているけど、大人がみんな、軽々と人の命を背負えるわけがない。

 私は総大将で何千人もの命を預かった。でも、何度やってもそんな覚悟は軽々決めきれるものじゃない。しかも、彼女はうら若き魔術師。人の上に立つことだって、きっと慣れてないんだから難しいことだ。

「ミス・アニムスフィアの判断は正しい。いくら大規模研究機関の所長とは言え、人間の命を軽々背負えるものではないよ、二人共。それが普通だ」

「え、でも」

「その前にここから帰れないことが問題。全員死んでしまっては、おそらく考えるのも恐ろしいことになる」

 人理修復のナビゲートは多い方がいい。それに、私のゲーム開始時からの推しなんだよね、オルガマリー所長とドクター・ロマン。二人ともすごく好きなの。守りたい、この笑顔。

 

 と、帰ってきたらしいアーキマン氏が映像に写って、情報交換をひとしきりしたあとでこっちを見てギョッとした。ちょっと失礼じゃありません?というか気付いてなかったんだ?

〈うわっ、初めて見る人がいる!?〉

「初めまして、ドクターロマニ……で合っていますか?」

 知っているけど、一応確認。じゃなきゃ、随分変わっていて不審がられるかもしれないし。それはそれでとても面倒だからね。

〈ああ、それで大丈夫です。ご丁寧にどうも……って、嘘だろ!?〉

「ドクター、どうしたんですか」

〈この人デミ・サーヴァントだ!〉

 バレた。というか、ちゃんとデミ鯖だった。まあ、数値とか確認したらすぐ分かるよね。作中で生身の人間か判定してたくらいだし、できないはずもない。

〈クラスはバーサーカーで、しかもこの数値レアリティ5!?〉

「ありゃ、それなら結構戦えそうですね。重畳重畳。」

 やっぱり前のスキルとか全部引き継いでるんだろうか。能力数値が高い半神、プライスレス。そしてお陰様で少しだけ余裕で賢人じみたキャラとかできそう。

〈わぁ、なんか凄く厄介そうな人だぞぅ……なんだか非人間臭がする気が〉

「ファーストコンタクトから随分酷くありませんか、ミスター」

〈ちゃんと礼儀正しいところがすごく胡散臭い〉

 なんだろう、物語後半のマーリンに似た対応な気がする。コイツが悪い感をドクターに持たない代わりにドクターから嫌われそうって、かなり心折れそうなんだけど。それとも、ドクターってもともと一部にはこういう対応の人なの?

「ドクターがそんな風に対応するなんて、初めて見ました……」

 違うらしいね、困ったね。素直にさみしいです。拗ねるぞ。

「私の何が悪いんですか……」

〈え、あ、ごめん……気のせいかな……

 キミと契約できるならオルガマリーも安全だと思うよ〉

「お墨付きがもらえるのは嬉しいですね。じゃあ、契約しましょうか、ミス?」

 とりあえずスペックは問題なしということだろうと思うことで揺らぐ自信を落ち着かせる。オルガマリーとの契約、うまく出来るかなぁ。

「え、ええ。……本当に、いいの?」

「いいですよ。私どうせ半分人間の半端者ですし、信頼できそうな、支えの必要な人と契約したいですから」

「そ、それならいいけど」

 俯きつつ、それでもしっかりと契約印を結んでくれる。やっぱりかわいいのだ、この人は。頑張る。ちゃんと、この素敵なマスターを生き延びさせてみせる。

 

「さて、契約も結んだところで、今後の行動の確認をするわよ。今この時点をもってマスター、藤丸立香とサーヴァント、マシュ・キリエライトを特別調査員に任命します。目的は、特異点・冬木の発生原因の調査・発見。いいわね」

「「はい!」」

 力強く断言したオルガマリーに、二人共特に異論はないように返事をした。オルガマリーも、私が契約できたことで背負っていた荷の幾らかが降りたのだろう、ホッとした顔で指揮官らしく振る舞えていた。デミとはいえレアリティが高いサーヴァントってこともあるんだろうけど。とにかく彼女の身はしばらく安全とわかったようなものだからだ。

 

 まあ、人間らしい扱いされなかったら反旗を翻すつもりだし、そうじゃなかったら甘やかすし、できればずっと交流したいものだと思う。

 さて、始まったばかりの序章。来てしまった以上は、私は出来る限りすべてを変える。悲しい最期よりも幸せな大団円を。止まり木として、少しばかり導く者として、ここで奮闘しようじゃないか。




・八百坂燈(やおさかあかり)
デミ鯖になった。設定見直して思ったけど、割と素が非人間じみてる。推しはロマニとオルガマリー。
本人はロマニに嫌な感じがしない代わりに、ロマニから非人間臭を感じてファーストコンタクトがちょっとアレ。ロマニに嫌な感じがしなかったのは土台の燈が外部の人間だったから。

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