遅くなる詐欺みたいになってるけどそろそろ本当にかける気がしなくなってます。
「うまく行くわけないよな、うん。知ってた」
「なら、やらなければよかっただろう」
ギイギイとうるさくしなる弓を眺めながらそっとため息を付く。カルナ、私が呟くのに律儀に返事してくれるのはいいけど、HP削られるからもう少しマイルドにしてほしい。
「弓、引けたけど……」
手の内でしなり唸る弓を戻しながら、心底疲れた顔をどうにかいつも通りになるように戻す。仮面で隠してあるから一応バレないけど、これを外せと言われたらどうしようもないからな。
だってドゥリーヨダナが引けるとか想定外でしょどう考えたって。息抜きで来たかっただけなのに、うっかりカルナより先に弓引かされただけだぞ私は。
出来心で仮装して婿選びに参加したら、本来引けないはずの弓が引けてしまったのである。しかも、火傷の爛れたあとがある男だからと言い訳していたのを引っ張り出して現在進行形でかなり糾弾される。どんな地獄だよ。慣れてるけどさ。
正直ここまで大事になるとは思いませんでした。結構な立場らしい奴らが糾弾してるのも見えてこの国大丈夫かと少し不安になる。余計な戦争なんて無駄に金を食うんだからしたくない。
番狂わせしたかったけど、思ってたのと違う。こういうことじゃない。
「それこそお前の狙い通りだろう」
「カルナに引いてもらおうと思ってたんだよ」
ドゥリーヨダナの代理扱いで来てみたはいいけど、まさかこの弓引けるとは思わなかったんだよ。本当は、無理ですーってカルナにパスするつもりだったのに。骨格が男だったから怪しい仮面の男でも参加できたんだろうな。
「嫌です! こんな男の元へ嫁ぎたくはない」
「それは随分なことを仰る。この男は主君の名代で、このことは伝えておきますゆえ、これにて」
あらかじめ蒸留酒で酒焼けさせた声で戦争準備しとくから覚えとけよと脅しあげたが、こいつら本当にわかってるんだろうか……一応諸王の名代に喧嘩売るって相当だぞ。
約一部青ざめてるけど、まあちゃんとわかってるならいいんだよ。どうせあとから使者よこすだろうし、詫びを巻き上げられるだけ巻き上げれば。
馬車に戻ってから暑苦しい仮面を外すと、かなり解放感がある。
「良かったのか」
「何が」
あ、なんか言いたげな目。これは心配してくれてると受け取っていいんだろうか。そうだと、結構嬉しいんだけど。
「あの王女はバラモンに嫁ぐようだが」
「良いんだよ」
「だが……」
バラモンの正体のほうが問題だっただけで特に気にしてはいないし、そもそも嫁をもらえないからね。一応、人をやって参加したってポーズを取りたかっただけだ。クル国の体面があるからこればかりら避けられなかった。
それに、お付きに世話をさせるとはいえ、カルナを一人で婿選びに放り込むわけにも行かなかった。絶対に拗れるからな。わかってるのにそのまま行かせるわけがない。
それと、
「ぶっちゃけ彼女は好みじゃない」
「聴かれたら殺されるぞ」
訊いたのお前だろ、と軽く仮面を投げ渡すと、私の顔が見えたのかカルナの目が少しだけ開かれる。
バレないように火傷の特殊メイクもどきをしてたんだけど、崩れただろうか。あんまり汗をかかないから油断してた。
「……その顔なら、掌を返すだろう」
「どうせ形だけだからいいんだよ。もう終わったんだ」
油で拭い去っていくと、相当コットンが汚れたのがわかって、思わずうへぇと声が出た。これ現代の化粧でやってうっかり寝たら粉瘤とかできるやつ……考えるのはやめよう。
「私は闊達な町娘とかの方が好きだな」
「姫君では無理だろう、それは」
「だろ?」
この時代の、ごく普通の姫君に求めることじゃないんだよね。私は女の徳とか言われるものの遵守が気に入らない。自由に生きる人間の活き活きした美しさが好きなんだ。それを押し込めるようなものを礼賛できない。
そういえば、この前見た町娘の花の飾り愛らしかったんだけど、妹はああいうのを好むだろうか。最近全然話せてないし、話したら話したで「お兄様は分かってない!」って叱られるんだよな。ごめんよ、兄様には女心がよくわからない。
「なあ、カルナ。うちの妹どんな贈り物を喜ぶか分かる?」
「知っているはずがなかろう。オレはそういったものに関心がなかったからな」
「そうだよな……だいたい施しか鍛錬かぼーっとしてるもんな」
「贈り物なら、女に選ばせればいい」
「それもそうだ」
なるほどと思い、連れてきていたターラーに声をかければ、そっと贈り物用の袋をかけた品物を渡された。
この子本当に有能で嬉しい。予想外にめちゃくちゃ成長してる。カルナとターラーがいれば本当になんでもできそうだ。
「ま、後は宮殿に戻って執務と応対だな」
立太子してからこの方、全然やることが変わってないけれど、まあそんなものなのだろうと思いこむことにする。
この調子でいたら、それこそ執務にかまけてるうちに報告が来て、寝耳に水、ということにでもなりそうだ。少し気をつけよう。
帰還して、竪琴をいじりながら盤上の駒をまた進める。また少し、終わりに近付いている。
「クリシュナとか、どうにか殺せないかな」
部屋に籠もって見る覚書の、次のところには黒と一言書かれているだけだ。生まれ落ちてからもう十数年、あんまり覚えてないけどメモ書きのお陰で大方のことは分かる。薄ぼんやりしたところは、その時々で臨機応変に対処するしかないけど。
「そそのかす相手がいなけりゃ、こちらに勝機はあるんだけど」
そろそろ、対策しとかないと本当にまずい。人減らしを阻止したくて動いてるんだ。軍の壊滅は避けたいし、弟たちを生きて逃したい。馬の買い付け、の言い訳で何人か国外に逃がせないだろうか。
ああでも、あの子達は私の弟だから、きっと良しとしないだろうな。どうにか、父母が救われるような顛末にしたい。
でも、私はどう死ぬんだったのだろう。もう思い出すこともできないし、覚書も無い。足掻くほかに、できることはないだろう。この時ばかりは少しだけ、自分の行動を悔やんだ。
少しずつ進んでいく話。
カルナ語がうまくかけているのかよくわかりません。
話が書きにくいから弊デアにインド兄弟来てくれ頼む……
ちなみにドゥリーヨダナが弓を引けたのは、アルジュナを調べているときに和弓とかの引き方を調べたことがあったからという設定があったりする。