叙事詩の悪に私はなる!   作:小森朔

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タイトル通りに吉祥の家が燃えたあとの話。立太子式も少し。短い。


吉祥・炎上

 うまく建てて住まわせられたと一安心していた「吉祥」の家が燃えたらしい。

 案外監視とか色々後回しになってたから分担させてどうにかこうにかごまかしてたんだけど、監視が小火を起こして燃えた。流石にこれは想定外にもほどがあってしばらく絶句した。

 

「まあ、いいか。あれはあれで良かったし」

 おかげで祝いに行った長老共の大半が死んだし、それに合わせて都から逃げる反対勢力の面子が大勢居た。時期はもっとあとにしようと思っていたけど、予想外ながら都合がいい。

 

「末恐ろしい男だ」

「まあ、そういうこともあるんだろう」

 じっとりと物言いたげな視線が飛んでくるが、私ならもっと準備を整えて警告がてら他の計画と同時に実行しようとするから違うんだよ。未だにカルナの表情を読めないんだが、恨みがましい目とか何か言いたそうなのとかぐらいならわかってきた気がする。本当に友達になれる日も、思っているより遠くないかもしれない。

 

 多少の時期の差はあれど、こうなるとは思わなかったからね。行事のことを考えていたから想定した日からは数週間くらい前倒しだ。

「よし、今のうちに立太子式を執り行ってもらおう。私も早めに立場を固めておきたいからね」

 

 実は、海路での交易ルートの道路敷設が上手く行っていない。必要なことだが、これを行うには私の立場が弱い。というか今まで色々ごねて無理やり通してきたからそろそろまっとうにやりたいという気持ちがあるんだ。裏工作が面倒になってきたからとも言う。

 これがうまく行くなら、これまで以上に街が活気あふれる様相になる。これを制御できるかわからないけど、まあどうにでもなるだろ。職人と商人が豊かであれば、回り回って他のところだってどんどん潤う。もちろん、溜め込んでる富をうまく吐き出させればだけど。それでも、全ての階級が富めば税は自然と増加する。私達の軍備に回すことができる金も当然増える。いいことだ。

 そろそろ、この手の仕事は弟たちにも手伝ってもらわなければならないように思う。立太子すれば、その辺もなんとかできるから早く指揮を済ませてしまわねばならない。疲れるなぁ。

 

「お前のことだ、肝心要のところで失敗するだろう」

「は?! 絶対成功させてやるから見てろよ! その予想通りにはさせねぇからな!」

「どうだろうな」

 

 この言われようは少しひどいと思うし、ムキになったとしても仕方ないだろう。本番でコケたら本当に笑いものどころか立場が危ういんだから絶対失敗なんてできるもんか。見てろよ……。

 

 

 

 

「失敗こいたぁ……」

「だから言っただろう。お前は肝心なところでしくじる男だ」

「うぅ……そこまで言うか……」

 見事なオチというか、立太子式の途中で舌を噛むとかベタなことをやらかした。なんか、こう、影で笑われそうだし嫌だな……。間抜けに見えただろうし、こういう場で揚げ足取られることが多いから本当にこういうミスは嫌なんだ。

「傍目から見ればそうでもなかったぞ」

「でも結構盛大に噛んだぞ私」

「お前のことだ、誰も気にしない」

「……もういい寝る、おやすみ」

 

 こういうときは寝るに限る。あ、でも乳酪食べてからにしよう。それから、しばらく執務室で書類を片付けなくては。

「お前は早く寝るようにな。明日から忙しいぞ」

「お前こそ、働き過ぎて使い物にならないなどということにはなるな」

「分かってら。それじゃあ」

 

 談話室を出て、部屋からかなり離れてから、溜め息をつく。こっちの生活、あんまり便利ではないけど楽しくなってきたから困るな。

 

 

 

 

 

「天の意思なら、まあ随分こちらに都合よく動いてくれたものだ」

 天盤に下ろした駒がコト、と小さな音を立てる。人生ゲーム、とはよく言ったものだ。人生になぞらえて駒を進めるとき、わかりきった人生ならとても見やすく、わかりやすい。

「最後に笑えるように、こちらも手を尽くすけどな」

 

 見くびってくれるなよ、神様方。私はアンタらの盤上で好き勝手動いてやらない。せいぜい、勝手が悪いジョーカーとして指咥えて見てろ。




追記
誤字の報告を頂いたので訂正しました

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