誰かの用事がない限り変わらない大体同じいつものスリザリンメンバーと会話に花を咲かせながら大広間へ入ると1週間ぶりに見る顔があった。
ロナルド・ウィーズリーだ。
彼を見つけたドラコはダフネと夢中で話をしていたシャルロットの手首を引いた。
「うぇ!?何、誰!?」
突然の事に状況が上手く飲み込めないのか、シャルロットは大きな蒼い瞳を瞬かせている。
「ちょっとドラコ…私とシャルの会話を邪魔するとはどういう了見かしら」
突然会話を終了させられたダフネは機嫌が急降下していくのが目に見えてわかった。
二人の関係を応援しているシャルロットの身からすればこれはあまり良くない、非常に良くない展開である。
「待ってダフネ、落ち着いて、ほら深呼吸よ」
「すぅー…はぁーーーって落ち着けるわけないでしょう!?うちの子に何するのよー!もう!」
「いやいや待って、うちの子って何よ、どっちかというとダフネの方が…」
「あの…そろそろいいかい?シャルロット、ちょっとそこまで来てくれないか」
何か用事でもあるのだろうか。
さっきも何も言わずに手首を引くくらいだったのだからきっと何かあるのだろう。
こくりと頷くとドラコは満足そうに微笑んだ。
「助かるよ。すまないダフネ、シャルロットを借りる、すぐに戻る」
ドラコはそれだけ言うとシャルロットを連れて行ってしまった。
「うっうぐ…えっうっうっそんなぁ…しゃるうぅぅ………」
「ちょっとあんた、泣かないでったら!私だってドラコに引っ張られたいっていうのに………」
「ぱん、じー………」「だ、だふね……」
「「うわぁぁぁぁああぁぁん!!!」」
「はいはい暑苦しい暑苦しい、先にテーブルに行ってようか。あの2人ならすぐに戻ってくるよ」
ミリセントは寂しがるダフネとパンジーを連れて無理やりスリザリンのテーブルまで引っ張っていった。
ドラコに連れられた先はグリフィンドールのテーブルだった。
スリザリンとグリフィンドールは知っての通りあまり仲がよろしくない。
色々な意味を含めて注目度の高いスリザリン生2人がやってきたのだから自然と視線も集まる。
「あの、ドラコ、聞いてもいいかしら。どうしてここに…」
「シャルロットは黙って僕の後にいてくれるだけでいい」
話す気はないみたいだ。
仕方ない、大人しく事を眺めていよう。
ドラコはとある人物の横で止まった。
そう、ロナルド・ウィーズリーの横だ。
「やぁウィーズリー。1週間ぶりの大広間での食事はどうだい?」
何故今更あの関連の話題を出すんだこのお坊ちゃんは…!!しかも!ここ!グリフィンドールのテーブル!考えが足りないんじゃないか!?
シャルロットは突然の話題に思わず咳き込みそうになるのを必死に抑えた。
「……黙れマルフォイ。僕に近づくな」
ロンはシャルロットの方を一目見てから冷たい声でドラコにそういった。
「嫌だね、君はスリザリンの仲間に手を出したどころか、怪我まで負わせた。君の身勝手なスリザリン嫌いのおかげでね。ああ、やっぱりグリフィンドールって言うのは猪突猛進的で頭の硬いやつしかいないのかい?」
ああああ……もうダメだ終わりだ……。
正直、ここにいるのが物凄く辛い。ドラコの声を聞き取ったグリフィンドール生が殺気だったのがよくわかった。もう顔を手で覆ってしまいたい。
その時1人の男子生徒と目が合った。
ネビルだ。
彼はシャルロットと目が合うと、驚いたように思い切り目を逸らした。
そのあと何度か頷いたかと思うと、今度は勢いよく顔を上げた。
「あ、あの…!」
そしてなんと、そのままシャルロットに話しかけてきたのだ。
前方ではドラコとロンの言い争いがどんどんヒートアップしていく。正直巻き込まれたくはないのでネビルの方へ少し歩み寄った。
シャルロットが自分の声に気づいてくれたのが嬉しかったのか、歩み寄ってくれたのが嬉しかったのか、ネビルは顔を輝かせた。
「シャル…ロット……さん、だよね?僕ネビル、ネビル・ロングボトムっていうんだけど…ハリーから、君が助けてくれたって聞いて……」
ネビルは戸惑いながらも一言一言呟いていく。
彼の声は自信なさげで少し小さい、シャルロットは隣の大声からネビルの言葉を一語一句聞き逃さないようにしっかり聞いた。
「だから…その、一言!お礼……を、言いたくて……あの、ありがとう」
言い切った!とばかりにほっと一息つくネビルと、微笑ましげに眺めるハリーの視線がシャルロットの胸にズキリと刺さった。
本当は貴方を助ける為じゃなくて、自分の友人を想っての事だったなんて申し訳なくて。そんな考えで行動した私に純粋に感謝の言葉を伝えてくれるなんて。
でも、ここで白黒つけないでどうするのだ。
「…ごめんなさい、私、貴方を思って助けたわけじゃなくて……友人の為に…友人の悲しむ顔を見たくなくて、だから…そんな純粋な感謝の気持ちは私に向けられていいものじゃない」
二人の顔を見ていられなくなってふいと顔を逸らすと、くすっと笑い声が聞こえた。
慌ててそちらへ顔を向けると2人がくすくすと笑っていた。
「それでも、だよ。シャルロットさんが結果的に僕を助けてくれたことには変わらないよ!シャルロットさんは優しいんだね」
「友人の為にってなかなか出来ることじゃないって僕は思うよ。シャルは友達想いだ。まあ、その友人っていうのがそこのマルフォイっていうのがあれだけど…」
2人の言葉に思わず涙腺が緩んだ。
2人の方がよっぽど優しくて、お人好しだ。
顔をあげてお礼を言おうとすると、またしても手首を引っ張られた。
「わかった。なら僕の介添人はシャルロットだ。ウィーズリーは?」
「僕は……っ、ハリーだ!いいね!?ハリー!」
突然名前を呼ばれたハリーとシャルロットは訳が分からないというように顔を見合わせて首を傾げた。
「今夜0時頃にトロフィー室だ。あそこはいつも鍵が開いてるんでね」
ドラコはそれだけ言うと、もう用がないというように歩き出した。
「あの…ドラコ、介添人って何の話なの?まさかとは思うけど……」
スリザリンのテーブル近くまで来るとドラコは口を開いた。
「ああ、そのまさかさ。魔法使いの決闘だ。ウィーズリーのやつから言ってきたんだ、スリザリンの誇りをかけてこてんぱんに打ちのめしてやる」
魔法使いの決闘だって?それはいけない。
最悪どちらかが死んでしまうかもしれない。
ロンの事は正直どうでもいいが、ドラコが傷つくのは友人としてあまり見たくない光景だし、ロンが倒れた後に戦うのはハリーだ。
友人同士が闘う光景は見てて味気のいいものではない。それに、もしドラコが倒れたら……無理無理無理無理、絶対に無理だ。
「だめ、私は反対よ。あまりにも危険すぎるもの」
「…君が傷つけられてもずっと黙っていろと?そんな事は出来ない。もちろんスリザリンに軽はずみに手を出したこともあるが、僕の一友人に手を出した事は何よりも許し難いことだ。決着がつくまではこの事は絶対に許されるべきことじゃない」
ドラコの瞳はシャルロットを運んだ時と同じ目になっていた。
ここまで言われて反対できる程シャルロットは強くは無い。シャルロット自身にもその気持ちはよくわかるから。
もしダフネや友人達に危害を加えられたとしたら許しはしないだろう。
こうなったら1度満足するまでやってもらうしかない。
もし何かあったら私が回復させればいい。
「………わかった、わかったわ。けど、その1回限りにして。私だって友人が傷つくところを見たいわけじゃないもの」
「っ……ああ、そうするよ」
2人は静かに頷きあって、友人達の座るテーブルへと向かった。
軽く仮眠をとっていたシャルロットは目を覚ました。
時間を確認すれば23時半頃。
なかなかいいタイミングに起きる事が出来たと思う。
ダフネを起こさないようにそっとベッドを抜け出そうと思うと、またがっしりとホールドされていた。
「…ごめんね」
慎重にダフネの手を解いてベッドから抜け出すと、真夜中の冷たい空気がふるりと体を震わせる。
シャルロットは机に掛けておいたブランケットを手に取り、談話室へ向かった。
談話室にはまだドラコはおらず、この寒いまま待っているのもあれなので紅茶を淹れて待つことにした。
しかし、5分、10分経とうともドラコが来る気配は全くない。
「…まさか寝てるんじゃないでしょうね?」
規則破りにはなるけれど起こしに行くしかない。どっちにしろ今からさらに規則破りをするのだから気にしても仕方のないことだ。
時間も差し迫っているし、シャルロットは覚悟を決めて立ち上がった。
男子寮ではまだ誰か起きているのか、どこかの部屋から笑い声や話し声が聞こえる。
男子寮の通路の灯りは全て落とされ、真っ暗だった。
シャルロットは暗いところがあまり得意ではない為、恐る恐る壁伝いに進んでいく。
壁のプレートを見つつ進んでいくと、ようやくお目当ての人物の名前を見つけた。
鍵開けの呪文を使って中に入ると、やはりドラコは熟睡中だった。
オールバックにしていない時の彼は新鮮で、ついつい眺めてしまう。
まだまだあどけなさの残る顔に、さらさらなプラチナブロンドは天使の髪みたいで、普段あんなにハリー達に意地悪なのが嘘みたいだ。
しまった、観察してる場合じゃない。
「ドラコ起きて、ほら、もうすぐ時間よ」
体を揺らすが全く起きる気配がない。
こうなったらもう強引に起こす。時間が無いのだ。
「………リクタスセンプラ」
次の瞬間ドラコが大声で笑い始めた。
流石くすぐりの呪文。
「ちょ、待っ…やめ、ふはっ、あっははは!!!!!」
「フィニート、おはよう。もうすぐ時間、4階まで走るわよ」
ドラコは涙目でまだひいひい言いながらシャルロットの方を見る。
「いやいや、確かに寝ていた僕も悪いけど、もうちょっとマシな起こし方とか無かったのかい!?」
「……水をかけたりした方が良かったのかしら…一応声は掛けたのだけれど起きそうになかったから」
「……………うん、もし次があったら僕は必ず自分で起きる。よし、行こう」
杖に光を灯し、2人はスリザリン寮を抜け出した。
目指すは4階のトロフィー室だ。
トロフィー室へ到着し、懐中時計で時間を確認すると、0時までまだあと少しあった。
先に到着した2人はただ静かに待つ。
その時、外から足音が聞こえた。
「来たみたいよ。でも……足音の数が…人数が多い…?」
シャルロットの言う通りで、やってきたのは4人もの生徒だった。
ロン、ハリー、ネビル、そして1人の女生徒。
「ふん、逃げずにやってきたか。だが、些か人数が多いんじゃないか?」
「そっちこそ!もっと卑怯な手を使うと思ってた。人数は、その……」
「まあいい、僕達が負けるなんて事は1ミリもないからね!」
ドラコのその言葉を合図に、ドラコとロンは魔法をぶつけ合った。
だが、二人とも攻撃魔法を習っていないので、火花を散らす程度で済んでいる。
よかった、これなら死人が出るなんて事は起こらない、そうシャルロットが思った時だ。
トロフィー室の外からもう一つ足音が聞こえたのだ。
しかも、シャルロット達がいる方の扉から。
きっと見回り中のフィルチだろう。
タイミングが悪すぎる。
「皆早くここから出て!」
シャルロットの突然の言葉に皆目を丸くした。だが、大きい声を出せばあちらにも気づかれる。
「今どこからか生徒の声が聞こえたぞ!ここか!?」
フィルチがトロフィー室の扉を開いた瞬間、シャルロットは杖を向けて魔法を使った。
「ルーモス・マキシマ!ノックス!」
今使える簡単な魔法を使った軽い目くらましだ。
間近で見てしまったフィルチは目をおさえて呻いている。
その間にドラコを引っ張って反対側のハリー達がいる方のドアから出た。
「もう決闘は中止よ。フィルチに見つかったということは、これ以上夜のホグワーツにいるのは危険を伴うわ、寮に戻るわよ」
「っ……けど…………いや、戻るよ…」
「はやく走って、きっとすぐに追いかけてくるから」
ハリー達などとっくに逃げ出している。
勇猛果敢なグリフィンドール生とは一体。
まあフィルチになんて捕まりたくはないだろうからさっさと逃げるのも当たり前なのだが。
シャルロット達は扉から一番遠かったのもあり、逃げるのが一足遅れていた。
動く階段の所までなんとか走るけれど、後ろから動けるようになったフィルチが追いかけてくる。
このまま行先に階段が動くのを待ちつつ下っていると間違いなく捕まる。
「……ドラコ、階段の中心が全て開く瞬間があるわね?その時に一階に向かって飛び降りて」
「いや、何を言ってるんだ!そんなの無理に決まってる」
「大丈夫よ。大幅に減点されるのと私を信じるのどちらがマシ?」
ドラコの返事を待つ間にもフィルチはどんどん近づいてくる。そろそろまずい。
「……君を、信じるよぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ」
階段のタイミング的にも返事的にもバッチリだ。叫び声さえなければパーフェクトだったのに、残念。
ドラコを抱え込みながらダイブしたシャルロットは少し位置を調整しつつ、杖を構え直す。
「インカーセラス…!」
コンタクトをしていないシャルロットの魔法は絶好調だ。
普段は対象を縛る程度しか出来ないこの魔法も自由自在にコントロール出来る。
素早く2階に位置する階段の手すりにロープを巻き付け、ついでに自分達にも巻き付ける。
一階に激突する最悪の結果はなんとか免れた。
ただ、落下の勢いを殺しきれなくて空中でぷらんぷらんしているが、そこは大目に見て欲しい。
「あ…あああ………ああああああ……たまに、君って、過激なことするね…」
「逃げるにはこれくらいしか思いつかなかったのよ、ごめんなさいね」
ロープを少しずつ緩めて一階に着地する。
心なしかドラコがガタガタしている気がするが気の所為だろう、多分。
自分達に怪我がないか一通り確認していると、上からも誰かの悲鳴が聞こえた。
きっとハリー達だろう。何かあったのだろうか。
まあ、今はフィルチがこっちに来ないうちに寮へ戻る方が大事なのでさっさと戻るけど。
「はあ…なんか、酷い目にあった気分だ。僕はもう寝たいよ」
ドラコの言葉にシャルロットはクスッと笑った。確かに酷い目にはあったけど、それ以上に楽しかったからだ。
「な、なんで笑ってるんだ?」
「……別に…なんでもないわ、早く戻ってもう休みましょう」
ここのフォイはチクりません戦います、でも寝坊する
フライハーイ!