異能の少女は何を齎す   作:如月しらす

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6話と7話はロンがかなりアレです
ロン好きの方は今すぐブラウザバックを推奨します。


6 個人授業とか

 

 

 

 

 

つぅ……と頬に伝ってきた汗を拭う。

 

ロクに魔法も使えない私が魔力8.5割カットの状態で魔法を使うのはなかなかの苦行だ。

 

今頃皆は美味しいお菓子を囲ってお茶会してるんだろうなぁ、いいなぁ。

 

そんな事を考えていると呪いが飛んできた。

 

防御の仕方もわからないので、横へ勢いよくスライディングする。

 

 

「今何を考えていた?理論と構築は理解していても使えなければ何も意味が無いぞ」

 

 

スネイプ先生は顔色1つ変えずにまた杖を構える。

これでも大分手加減してもらっている方なのに、何の成果もあげられていないのが悔しい。

 

場所を研究室から空き教室へ移り、最初は呪文の構築要素辺りから始めたのだが、そのあたりは長年の読書で既に理解していた。

簡単に言えば、足りないものは実戦経験。

加えてシャルロットには魔力制限がかかっているのだ。精度をあげ、確実に行使しなければ魔法自体が使えない。

 

だが、魔力の枷が大きくなろうとも、フリンデル家固有の魔法は問題なく使えるはずだ。

 

「……ヴェ二グローリア」

 

聞いたこともない呪文にスネイプ先生は怪訝そうな顔をする。

 

魔法発動後、シャルロットの周りに色とりどりの蝶が召喚された。

 

「…蝶は、ただ綺麗なだけじゃないです。…………オパグノ」

 

突如優雅に舞っていた蝶が殺気を纏う。

 

スネイプ先生は慌てて杖を構えるが、それよりも早くシャルロットが動いた。

 

「オーキデウス!エンゴージオ!」

 

シャルロットは殺気を纏う蝶を隠すように花を咲かせ、それを大きくすることによってスネイプ先生の視界を遮った。

 

……頭が痛い。割れるように痛い。

たった4つ。たった4つの呪文を使っただけで魔力が空になりかけている。

消費量の少ない固有魔法を使ってもこの有様だ。

 

蝶はスネイプ先生の近くへ瞬時に向かうと怪しげな鱗粉を振り撒いた。

 

手加減をしていたスネイプ先生もこれはまずいと思ったのか、まともに対処することを決めたようだ。

 

「ディセンド」

 

しまった、それはいけない。蝶たちが落とされる。

増量させて、時間を稼がなければ。

 

「…ッジェミ___ッホ、ゴホッ」

 

突然身体の力が抜けて、床へ座り込んでしまう。

咳を抑えるために口に添えていた手を離すと、手には紅い血がべっとりとくっついていた。

 

その様子を見ていたスネイプ先生は慌てて駆け寄ってきた。

 

「……馬鹿者!いくら魔力が足りないからといって血液を代償に使うなど……」

 

頭がぼーっとしてしまって何が何だかよく分からない。

なんだか疲れて眠く……なって、きた…ような。

 

「エネルベート」

「う………ぁ…」

 

……叩き起された。

頭がぐわんぐわんする。痛い。

 

「今日はここまでだ。ところで、まだ習ってもいないような魔法を何故…それに、あの魔法………」

 

固有魔法はさておき、他に使った魔法は一年生で習うものではない。

シャルロットは深呼吸をしてからゆっくりと立ち上がる。

 

「っ…はい、ヴェ二グローリアはフリンデル家固有の魔法です。他の魔法はそれを最大限に活かすために使えるかなと思いまして…練習を…すみません、それ以外は全く使えなくて……」

 

「……そうか、今日でフリンデルの実力はよくわかった。来週からは他の重要な魔法を重点的に教える。来週までにこの呪文学の本を読み、レポートを書いてきたまえ」

 

 

そう言ってスネイプ先生はシャルロットに一冊の本を押し付けると、空き教室を出ていってしまった。

 

これ読んだことある気がするんだけど…まあいいか。

 

魔法式はよくわかってはいるのだが、実際にやるのとはまた違う。

だからこそ私は他の魔法が使えない。なんてったって難易度が高いもの。

 

シャルロットは溜息をつきながらそのまま空き教室を出た。

 

 

 

____________

 

 

 

 

寮へ戻るとお茶会はお開きした後のようだった。

 

談話室のソファにはダフネとマルフォイが向かい合わせで座っている。

 

シャルロットの帰りに気づいたらしいダフネがシャルロットに向かって手招く。

 

「お疲れ様シャル、どうだったの個人授業は」

 

ダフネはにこにこしながら私の為に残しておいてくれたらしいお菓子を出してくれた。

よくクラッブとゴイルからお菓子を死守出来たな…尊敬する。

 

「……聞かないで…魔力が空なのよ、頭が痛くて」

 

疲れた体に甘い物が染み渡る………ありがとうお菓子、ありがとうダフネ。

 

「魔力が空に!?一体どんな事をすればそこまでなるんだい?それにしたってスネイプ先生との個人授業…羨ましい限りだよ本当にね」

 

「シャルにはコンタクトのことがあるもの。個人授業は仕方ないわ」

 

「コンタクト?……なんだい?コンタクトの事って」

 

そうか、マルフォイは知らないのか。そういえば話してなかった気がする。

めんどくさいし、この機会にダフネにもここ最近のことも合わせて話しておこう。

 

 

「ん、ええと、実は……____」

 

 

私の話を聞き終えた2人はなんともいえない顔をしていた。

 

「……魔力8.5割カットってそれ貴女大丈夫なの?」

 

「…大丈夫よ、皆の邪魔をしたくないもの……変身術の時にマッチ棒が吹き飛んだのだって私のせい。でも、きっとこれからは大丈夫よ、もう邪魔しないわ」

 

 

シャルロットが2人に有無を言わさぬように微笑むと、2人は何も言えなくなったのか、黙って紅茶に口をつけた。

 

 

 

____________________

 

 

 

 

シャルロットは毎週金曜日のスネイプ先生のスパルタ個人授業をこなしつつ、充実的なホグワーツ生活を送っていた。

 

出来なかった魔法も1回コツを覚えればさくさく出来るものだ。

 

スネイプ先生のスパルタ具合は見せられないよ!レベルだが、その効果は高い。

 

たった数回の授業でシャルロットは一年生終了過程の魔法まで使えるようになっていた。

 

まだ攻撃魔法から身を守れるようなレベルではないが、スネイプ先生には感謝してもしきれない。

 

 

「今日はこれくらいで切り上げる。この後飛行訓練なのだろう?」

 

「っは………はぁ…っ、わかりました。ありがとうございます」

 

 

今日は15時半から初の飛行訓練の授業が入っていた。

時間を確認して、15時半が差し迫っていることに気づいたシャルロットは慌てて教室を出ようと扉に手をかける。

その瞬間、後ろからスネイプ先生に声を掛けられた。

 

 

「フリンデル、飛行訓練は魔法を使わない。その間にコンタクトの様子を見るから渡すようにと校長から言われている」

 

「ダンブルドア先生が…?わかりました」

 

 

あのコンタクトはちょくちょく様子を見ないとたまに負荷が緩んでいることがある。

それを防ぐ為に、魔法を使わない時にダンブルドア先生がコンタクトの様子を見てくれるのだ。

 

シャルロットはコンタクトをとってケースにしまい、それをスネイプ先生に手渡す。

お願いしますとだけ言って慌てて教室から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行訓練を行う場所まで行くと、またしてもスリザリンのみ先に到着している状態だった。

 

朝からマルフォイが箒やクィディッチについて熱弁していたから、無理矢理早い時間から引きずられてきたのかもしれない。

 

 

「シャルは箒に乗ったことがある?私はあるわ!妹と空で過ごす時間がとても好きなのよ」

 

隣へやって来たシャルロットに、ねえねえ!とダフネが興奮気味に話しかける。

ダフネもマルフォイと同じで箒やクィディッチが好きなのだ。

鏡時代に熱弁された記憶がある。

 

「いいえ、私はないわ。そもそも外に出られたなかったんですもの。でも、とても楽しみよ飛行訓練」

 

「そ、そうよね…私ったら失言を……でも、何かわからなかったら言って!コツを教えるわ」

 

ダフネは悲しそうな表情を浮かべるが、すぐに切替え、シャルロットの片手を両手で握りしめてぶんぶん振る。

 

「ありがとう、ダフネ」

 

 

 

「何をぼやぼやしてるんですか!」

 

 

突然響いた声に慌てて顔をあげる。

 

いつの間にかグリフィンドールの生徒もやって来ていて、飛行訓練の先生であるフーチ先生も到着していた。

 

「皆さん箒の側に立って、さあ早く!」

 

なんだか凄く急かしてくる先生だな。

でもぼやぼやしているとまた怒られるかもしれない、急いで箒の側に行こう。

 

「右手を箒の上にかざして、上がれと言ってください、いいですね!」

 

その指示のあと、皆が一斉に上がれ!と言い出した。

 

一声で上がったのは、マルフォイやダフネ、ハリー、他一部の人だけだった。

 

シャルロットはというと…

「上がれ」

 

箒は反応した。確かに反応した。

反応はしたのだが、些か反応しすぎた。

 

そう、勢いあまって額に直撃したのだ。

 

「あう!」

 

鈍い痛みに額をおさえてうずくまると、ダフネがクスクス笑う声が聞こえた。

 

涙目のシャルロットに睨まれながらごめんなさいねと謝るその姿には全く反省の気配が見えない。許すけど。

 

「気負いすぎよ、もっと力を抜いて、落ち着いてやってみて?」

 

ダフネの言うとおりにやってみると、箒はすんなりと手中に収まった。

 

 

その後、どうしても上がらなかった人はそのまま自分で持って、次の段階へ進んだ。

 

 

「さ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように押さえ、2m程浮上したら、少し前屈みになってすぐに降りてきてください。それでは…1.2の____」

 

 

だが、笛の合図を待たずに、グリフィンドールの生徒の1人が勢いよく飛んでいってしまった。

確かあの少年、魔法薬学でもミスをしていなかったか?

 

 

「こら!戻ってきなさい!!!」

 

 

フーチ先生の大声が響くが、無駄だ。

 

完全に箒に主導権を握られている。

箒はそのままぐんぐんと上へ行き、少年を振り落とした。

 

皆は突然の出来事に呆気に取られて動けずにいる。

 

その間にも少年は地面へ向かって落下していく。

 

もしこのまま少年が落下死したらどうなるだろうか。

きっと飛行訓練自体が禁止になる。そんな事には絶対させない。

 

シャルロットは覚悟を決め杖を取り出す。

 

その様子に気づいたダフネが慌てて止めよつとする。

 

「シャル!?貴女何を…!?」

 

的は動いているし、見た目からして質量が多そうだから魔法の負荷は凄そうだけど、きっとなんとかなる。

 

「私は…友人と幼馴染みの好きなこの授業を絶対に禁止になんてさせないわ。……ウィンガーディアム・レヴィオーサ」

 

次の瞬間、負荷がかかり、魔力が消費される感覚がした。

でも大丈夫、今はコンタクトを付けていない。いくら使っても魔力は足りてる。

 

「っは……ぅ…オーキデウスッ」

 

彼の落下地点にたくさんの花を咲かせ、小さな花の山を作り、落下の衝撃を柔らかくする。

 

我ながらナイスアイデアだとは思うけど、少し危ないかもしれない。

2つの魔法を同時に最大出力で使うのは流石に集中力がもたない。

 

花の山が完成し、少しほっとした私は気を緩めてしまった。

そう、集中力が欠けたせいで花の山まで残り1.2mのところで浮遊術の効果が切れてしまったのだ。

 

「っ…しまっ……!」

 

だが、心配は杞憂だった。

花の山が少年をふんわりとキャッチする。

 

「…ありがとうございます、あなたの咄嗟の判断で彼は救われました。スリザリンに10点与えましょう」

 

あんなに鋭かったフーチ先生の目が柔らかくなっていた。

それからフーチ先生は倒れた少年の元へ向かう。

 

「…………気絶していますね。一応医務室へ連れていきましょう。いいですか皆さん、私が戻るまで空を飛んではいけません、絶対にです」

 

そういうと、フーチ先生は少年を抱えて城内へと入っていった。

 

だが、シャルロットがほっと息をつく暇はそこには無かった。

 

「おい、お前」

 

上からかけられた声に顔を上げると、赤髪の男の子がいた。

ハリーの隣にいた子だった気がする。

 

「なんでネビルを助けた?」

 

ネビル…あの少年はネビルっていう名前だったのか。

また何かあったら困るし覚えておこう。

 

「なんで答えない?スリザリンがグリフィンドールを助けるなんておかしい、絶対裏があるに決まってる!」

 

ちょっと待って、この人少しも待てないタイプなのだろうか。

私が返答する時間を与えて欲しいのだが。

 

「私は友人と幼馴染みの為に…__」

 

「嘘をつくな!スリザリンのくせに……ハリーにでも気に入られたいのか?ああ、もうオトモダチ、だったっけ?」

 

「やめろロン!シャルはネビルを助けてくれた!シャルに限って裏なんかない!」

 

暴走し始めた赤髪の少年…__ロンをハリーが止めに入る。

 

「離せ!君はどうしてスリザリンの肩を持つんだ!おかしいよ!」

 

するとロンは杖を勢いよく引き抜いた。

 

何か魔法を使うつもりなのだろうか…それはいけない、今はコンタクトをつけていないのだ。

 

彼は何の魔法を放てばいいのかわからなかったのか、杖をめちゃくちゃに振り回してこちらに向けた。

 

まずい、めちゃくちゃな振り方に魔力をのせている。

魔力波がくる。それもかなり高威力なものが。

 

 

そしてシャルロットの紫紺の瞳がキラリと輝いた。

 

 

彼の放った適当な魔力波がシャルロットの能力の強化を受け、倍の威力となってシャルロットに降りかかる。

 

至近距離のものは流石に避けられない。

これ運が悪いと死ぬかも。

 

強力な魔力波がシャルロットに当たった。

 

シャルロットに凄まじい衝撃が襲う。

 

そのまま受け止めきれるはずも無く、軽く10mは吹き飛ばされた。

 

 

 

 

ロンは呆然としていた。

何が起こったのかわからない、そういった顔をしていた。

 

すると、いつの間にかシャルロットと似たような少女がロンの目の前に来ていて、思い切り頬を叩かれた。

 

「貴方、最低よ…__!!」

 

少女は今にも泣きそうな顔をしながら踵を返し、シャルロットの方へ走って行った。

 

「………彼女の言う通りだ。君、本当に最低だよ」

 

ハリーもロンと目を合わせずにその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ル!…………ャル!シャル!しっかりして、目を覚まして!」

 

これはダフネの声だ。

軽く意識を失っていたのかもしれない。

起き上がろうとすると全身に鈍い痛みが走った。

これは骨が何本か折れているかもしれない。

最悪内臓にもダメージが入っているかも。

それでも、ダフネを安心させるために無理して上体を起こす。

 

「だふ…ね、泣かないで……大丈夫……全然、問題ないわ」

 

「…嘘よ、嘘をつかないで。貴方、だいぶ無理してるわ…!」

 

ダフネは泣きながら反論してくる。

もちろん図星だから何も言い返せない。

 

「ウィーズリーのやつ……スリザリンに喧嘩を売ったな」

 

ダフネの反対側でマルフォイが憎々しげに呟いた。

それに同調するようにパンジーやミリセントも続く。

 

「私の……私の友達に手を出すなんて、絶対に許さないわ」

 

「スリザリンの絆は生半可なものじゃない。どこよりも結束力の高い寮。これは宣戦布告ととっても問題ないね?」

 

だめだ。

今ここで問題を起こしたらスリザリンの皆にも被害が行く。それだけは絶対避けなくちゃならない。

私の幼馴染み以外での初めての友達。

なによりも大事にしたい。

スリザリンの皆がここ一か月の間に友達の素晴らしさを余すこと無く教えてくれた。

 

「……っだめ、みん、な、落ち着いて…そんなこと、したらダメ。皆…に、危険な橋は、渡らせな……___」

 

そのとき何か熱いものが体の内側からこみ上げてきて、思わず口を押さえて咳込んだ。

 

目に入ったのは鮮烈な紅。

 

血だった。

 

これは多分内臓までダメージ入ってる。

 

意識し始めた途端、ズキズキと強烈に痛み始めた。

 

だめだ。これ、痛すぎて意識飛ぶ…____。

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっとシャル!?シャル!」

 

ダフネは、再び倒れたシャルロットに驚き、揺らそうとする。

 

だがそれは、マルフォイの手によって阻まれた。

 

「待て、グリーングラス。揺らすな。血を吐いたということは確実にどこかの内臓が傷ついているか破裂している。余計な振動はあたえるべきじゃない」

 

マルフォイの顔はいつもと違って真剣そのものだった。

 

「あ~んドラコったら…真剣な表情も素敵…!」

「パンジー、こんな大変な時にそういう事は言わない」

 

くねくねするパンジーをミリセントがなんとか止める。

 

 

「グリーングラス、僕がフリンデルを運ぶ。グリーングラスは皆を寮に戻してくれ。どのみちこの状況じゃ授業なんて出来ない、中止だ」

 

「…わかったわ、そうする。シャルをお願い………」

 

 

ダフネの言葉に頷くと、マルフォイはシャルロットを抱きかかえた。

 

 

「ドラコは力持ちなのね…!今度私も倒れようかしら……」

 

「いいからいいから、ほら行くよ。パンジーはもうちょっと痩せてから頼みなよ」

 

「うるっさい!今ダイエット中なのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだか心地よい揺れを感じる。少しの揺れでも傷は痛むけど、気遣うような持ち運び方に優しさを感じた。

 

「………痛…っ………あれ、マルフォイ…?」

 

シャルロットの声に反応したマルフォイはこちらに顔を向けた。

 

「!目覚めたか…よかった。これでダフ、グリーングラスも安心するだろう。医務室まであと少しだ。もう少しだけ耐えてくれ」

 

少し、意外だった。

こんな事をするタイプには見えなかったから。

 

「ごめ、なさ…重かったでしょう……もう、下ろし…__」

 

「その身体じゃ歩けないだろう?いいから僕に任せてくれ、これくらいなら出来る」

 

11歳の子供が同じ歳の子供を運ぶってかなり無理してる気もするけど…しかもマルフォイ痩せ型だし、本当に大丈夫なのだろうか。

 

何か言葉をかけようかと悩んでいると、本当にあと少しだったらしく、医務室へ到着してしまった。

 

それからはあれよあれよとベッドへ案内され、何種類かの薬を渡されて飲む事になった。味?味は死ぬほど不味い。

 

フーチ先生とは入れ替わりで医務室へ来たらしく、まだ飛行訓練の状況を知る先生はいない。

状況を聞かされたマダム・ポンフリーは飛ぶように職員室へ向かった。

 

私の代わりに一通りの事を説明してくれたマルフォイにはいつもの面影はなく、しっかりした優等生、という印象の方が強かった。

やれば出来るタイプなのかな……わからないけど、とても助かった。

 

 

「あの…マルフォイ、運んでくれて…その、ありがとう……」

 

「気にしないでくれ、スリザリンの仲間だろう?……それより、何故ロングボトムを助けた?」

 

 

マルフォイはシャルロットに射るような視線を向ける。

これも、初めて見た表情だった。

 

 

「…貴方やダフネが箒やクィディッチの事が好きだって知ってたから。飛行訓練楽しみにしてたんだろうなぁって……けど、そこでもし死者が出るような事が起きたら…きっと飛行訓練の授業はなくなってしまうわ。だから……友人の好きなものを私は守りたくて……その……」

 

 

上手く話をきれなくて、しどろもどろになる言葉に不安を覚えながらベッドサイドの椅子に座っていたマルフォイの方を見る。

マルフォイは驚いた表情のまま固まっていた。

 

 

「あ、あれ…?マルフォイさーん、おーーーーい」

 

目の前で手を振るとハッとしたように体を震わせた。

 

「そ、そうか……ありがとう。あと…フリンデル、ダイアゴン横丁での事は謝る。小馬鹿にしてすまなかった」

 

今度は私が目を丸くする番だった。

まさか謝られるだなんて思っていなかったから。そもそもそんな事すっかり忘れていた。

 

「いいのよ、気にしないで。あとその、フリンデルっていうのもやめよう?ダフネに対してもそうだけれど、わざわざファミリーネームで呼ぶことないわ。せっかく同じ寮の友達…なのに」

 

「あ、ああ、わかった。シャル…ロット、でいいか?僕のこともドラコでいい。けど、ダ、グリーングラスだけは…___」

 

「それはダフネの事が好きだから?」

 

つい流れで今まで誰も踏み込まなかった問題について触れてしまうと、青白いドラコの頬に朱色が差した。

 

「な……ん、な………そ、それをどこで!!?い、いや、僕がグリーングラスを好きなわけが………な、くも…ない……けど…」

 

「……あんまり奥手すぎるとダフネには伝わらないわよ。現に眼中に無いみたいだし…もっと積極的に行かないと駄目ね」

 

パンジー以外の皆が気づいている事は言わないでおこう。

1人が知っているだけでこの慌てようだと、全員に知れ渡っていることがバレたら気を失いそうだ。

 

「…忠告、ありがたく受け取っておく………」

 

「ええ、応援するわ」

 

「うぇ!?あ……ありがとう……また夕食前に皆と来るよ」

 

ドラコは最後にそう告げると、そそくさと医務室を出ていった。

頬が少し赤かった為にきっと照れてたのもあるのだろう。

 

 

それにしても、身体が熱い。

 

傷の痛みでズキズキするし、薬の効果が効いている為か、物凄く内側が熱い。地獄だ。

 

今すぐ治ってくれれば楽なのに。

 

そういえばお父様……アルフレッドには傷を癒す力があるってフリンデルの家系図に書いてあったような気がする。

お父様は魔力が少なかったから擦り傷を治す程度しか使えなかったらしいけれど、ひいおばあ様は底無しの魔力を持ち、どんなに大きな怪我も治せたとかなんとか。

 

フリンデル家での能力が遺伝することはよくある事のようなのだが、残念ながら私は引き継いでいない。

 

シャルロットは、私も治癒の能力を引き継いでいたら良かったのに、なんて思いながらお腹に手をあて、冗談半分で治れー!と魔力をのせて念じた。まあ治るはずもないのだが。

 

はぁ…とため息をついて手を離そうとすると、お腹にあてていた手から淡い藤色の光が溢れる。それと同時に、自分の魔力がガクンと減る感覚がした。

 

いや、まさか………まさかそんなはずがあるわけない。

 

だが、体の痛みや熱さがすーっと消えていく。

 

「嘘でしょ……」

 

まあでも、こんなのただの偶然かもしれない。だが、確かめなければ。

もし使えるのであればそれは物凄く助かる。

 

シャルロットはベッドから降り、マダム・ポンフリーの机へ向かう。

さっきまで1人では歩けなかったのに歩けるようになっている……本当に治っているのか。

そして、机の上でお目当てのものを見つけた。

羽ペン、だ。

羽ペンの先端はとても鋭利だ。

あとは簡単、これを思いっきり刺してから治してみるだけ。

流石にそのまま使うのはマダム・ポンフリーに申し訳ないので、双子の呪文を使い、羽ペンを複製する。

そして腕に向かって思い切り羽ペンを振り下ろした。

 

「っ…………!!!!!」

 

………い、痛い。痛すぎる。

声がでないくらい痛い、いやもうこれ駄目なパターン。

この後治さなければならないのだが、まずは刺さったままの羽ペンを抜かなければならない。

羽ペンに手を伸ばすと、誰かの声が医務室に響いた。

 

「な、何してるの!?」

 

シャルロットが振り向くと、そこにはハリーがいた。

きっとネビルのお見舞いに来たのだろう。

ハリーはシャルロットの蒼白な表情を見て、慌ててこちらに駆け寄って来る。

そして腕に突き刺さった羽ペンを見てうわぁという表情を浮かべた後、がっしりと腕を掴まれた。

 

「何があったかはよくわからないけどはやく抜かなきゃ!ごめん、じっとしてて!」

 

「…えっ………え、ちょっ、待っ…………っ!ぅ………!!」

 

物凄い勢いで抜かれた。ポーンッという効果音がつきそうなくらいに。

もう二度と羽ペンを腕に突き刺すのはやめよう、物凄く痛い。

 

羽ペンが抜けた後の傷口からはどくどくと血が流れている。

それを見たハリーはさらに焦ったらしく慌てふためいている。

 

「ど、どうしよう…血、血を止めなきゃ!シャル!なんでこんなこと……」

 

まあ、ハリーは気にしないでいこう。抜けたあとにやる事は変わらない。

慌てていろいろ聞いてくるハリーの口に指をあてて黙らせる。

 

「…黙ってて、ね?」

 

そして手を傷口にかざし、先程と同じように念じる。

すると、やはり藤色の光が溢れ、まるで傷なんて無かったかのように腕が治っていた。

 

偶然じゃ無かったんだ。

けど、何故私にだけ二種類も能力が使えるのだろうか。

……もしかして、魔力を封印された時にお父様の力全てを使って封印したからその時に付与されていたのかもしれない。

詳しい事はよくわからないが、今はそういう事にしておこう。

 

「っ……凄い!今のなんて魔法!?」

 

ハリーはさっきまでの慌てようはどこへ行ったのか、今度は驚いたように何度もシャルロットの顔と腕を見る。

そういえばハリー・ポッターはマグルの家に育てられていたんだっけ。それならば、あまり魔法界の事は詳しくないはずだし能力持ちのフリンデル家の事も知らないはずだ。

 

「ふふ、秘密よ」

 

知らないのなら知らないままでいてもらおう。他寮の生徒には簡単にこちらの手の内を明かすのはあまりしたくはない。

 

「すっごく気になるけど…そうだネビル!僕ネビルの様子を見に来たんだ。シャル、あの時はネビルを助けてくれてありがとう」

 

「え、あ……いや、私は………うん…」

 

本当はネビルの為にネビルを助けた訳では無いのだが、否定しても説明するのが面倒くさい。ここは頷いておくべきだろう。

 

 

その後特にやることも無かった私は元のベッドへと戻った。

 

他の先生に状況を知らせに行ったマダム・ポンフリーが戻って来た際に傷の具合を再び診られたのだが、全て治っていたことに大分首を傾げていた。

本当は薬を使って3日程かかるはずのものがたった数十分以内に治っているのだからそうなりもするだろう。

 

コンタクトの調整が終わったらしいダンブルドア先生もやってきて、コンタクトを渡される。状況を事細かく聞かれたがお咎めが出たのはロンただ1人で、謹慎処分1週間だそうだ。

 

私もその後すぐに寮へ返され、再び元のホグワーツ生活へと戻った。





ヴェニグローリアはオリジナルスペルです。
詳しい魔法の内容はまた次の機会に


申し訳ありません、遅くなりました。
試験や旅行で予想以上に大幅に遅れてしまいました…!
前回言っておけばよかったのですがついつい言い忘れてしまって…

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