異能の少女は何を齎す   作:如月しらす

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5 授業、授業、授業

 

 

 

 

 

昨日の夜は酷い目にあったが、なんとか充分な睡眠を獲得出来たシャルロット。

 

だが、今何故か物凄く寝苦しい。

 

完全に意識が浮上してきてしまったので仕方なく目を開ける。

 

まだ真っ暗じゃないか、とも思ったがそういえばここ地下だ。

 

仕方なくベッドサイドのテーブルに置いてある懐中時計へ手を伸ばそうとすると、そもそも腕が動かなかった。

 

なんとか動かせそうな反対の手で毛布をどかすと、すやすやと寝息をたてながら私の全身をがっちりホールドしているダフネがいた。

 

 

「ぴ…ぴぇぁああぁぁあああああああ!!??!!??!?!!」

 

 

我ながらなんとも情けない悲鳴をあげてしまった。

 

こんなのソワレさんに聞かれたならばぴっぴっぴっぴ笑われること間違いなしだ。

 

私の声に反応したダフネがもぞりと動く。

 

 

「…うぅん……アス…テ、リア…マ、マ……」

 

 

そう言ったダフネの顔には泣いた痕が見えた。

 

気丈に振る舞っていてもやはり11歳。本当は心細かったのかもしれない。

 

開幕一番に叫んでしまったことを申し訳ないと思いながら、まだ起きないダフネの髪をくるんくるん弄っていると、部屋の扉が勢いよく開いた。

 

 

「ちょっと!大丈夫!?」

 

「もう、朝からうるさい!私まで起きちゃったじゃない!」

 

 

ミリセントとパンジーだ。

言い合いをしててもやはり仲がいいのか、2人は相部屋にしていた。

 

 

「ご、ごめんなさい…おはようミリセント、パンジー、今何時か知らないけれど」

 

「ちょ、あんた達そんな仲だったの!?」

 

 

パンジーが驚いた顔をしているが何か問題があっただろうか。

 

寂しくなってベッドに入るのは普通にある事だと思う。

 

私もよくお母様のベッドに潜り込んだものだ。

 

 

「だって、そんな、腰に手を回して……二人仲良くベッドに入ってるだなんて…」

 

 

そういえばミリセント達が入り込んできたあたりからなんか動いてるな~とは思ってたけど、まさか、まさか…____。

 

慌ててダフネの方を見ると、翡翠の瞳とばっちり目が合った。

 

しかも先程まで私をホールドしていた手つきがなんか怪しい動きをしている。

 

 

「……おはよ、シャル」

 

 

ダフネはにこりと微笑むと、シャルロットの頬へキスを落とした。

 

 

「ぐぇ………」

 

 

段々顔の周りが熱くなっていく。

キャパオーバーだ。無理。ぷしゅぅ。

 

 

「ちょ、ちょっとシャルロット!!ああもう、ダフネ何してるの!?」

 

 

ミリセントが慌てて駆け寄ると、ダフネはにこにこしながらベッドから降りる。

 

 

「……ん、ちょっと、また気づかれちゃったかなって………………なんでもないわ!その、おはよう!今何時かしら?」

 

「5時!!よ!!!私のぴちぴちお肌に影響があったらどうすんのよ!」

 

 

パンジーがその場で地団駄を踏む。

 

駆け寄ってきたミリセントはというと、シャルロットの肩をつかんでぶんぶん揺らしている。

 

 

「……………っ!ゆ、揺れ…!?あっあっ気持ち悪、待って、ちょっと……生きてる、生きてるから!」

 

「生きてた、よかった、またキャパオーバーで固まってたから心配したよ」

 

 

心配してくれるのは嬉しいけれども、朝からそこまでぶんぶん揺さぶるのはやめていただきたい。

頭がぐわんぐわんしてる。

 

 

「……とにかくその、私のせいで朝早くから起こしてしまってごめんなさい…、まだ寝るんだったら寝てきても大丈夫よ?起こすから」

 

「別にいい!まあ?早起きは三文の徳?とも言うみたいだし、仕方なくこの私が一緒に起きておいてあげる」

 

「パンジーは素直じゃないね」

 

「うるさいわね、ミリセント!埋めるわよ!」

 

「はいはい、じゃあ皆着替えて、談話室に行きましょう」

 

 

ダフネの言葉を素直に聞いたミリセント達は自分の部屋に戻る。

 

それからダフネは天井にぶら下がっている銀のランタンに光を灯す。

 

 

「…あの、さ、ダフネ。貴方泣____」

 

「言わないで…!お願いよ、家族と離れて寂しかったとか…別にそんなんじゃ、ない……から」

 

 

だが、ダフネの肩は小さく震えていた。

 

シャルロットはダフネの所へ歩み寄り、ぎゅっと抱きしめた。

 

 

「無理しなくていいのよ。……鏡越しだったけれど、私達幼い頃からの友達、でしょう?それに、私も貴女の気持ちはよくわかるから」

 

「…うん、うん…………ごめんなさいね、シャル。あと、勝手にベッドに入ったこともごめ、」

 

「寂しくなったらいつでもおいで、今日は、その、驚いただけだから…」

 

「……………シャルこそ、私に甘えてもいいのよ?」

 

ダフネは自分の額とシャルロットの額をこつりとくっつける。

 

「お馬鹿さんね、貴女の方が弱いのに…」

 

「っ!…うるさいわよ、もう!」

 

私がクスリと笑うと、ダフネも釣られたようにクスクスと笑い出した。

 

ああ、この関係がとても心地良い。

 

鏡越しじゃなくて、ちゃんと会える友達ってとてもいいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着替えを済ませた早起き4人組が談話室でお茶をしていると、次第にスリザリン生がちらほらとやってきた。

 

 

「それにしたってシャルロット、紅茶淹れるの上手だね」

 

「ずっと家にいたからかしら……自然とそういうことだけ無駄に上達してしまって……」

 

 

シャルロットはティーポットをそっと撫でる。

 

私も伊達に引きこもりやってたわけじゃないのだ。

 

 

「シャルの紅茶気に入ったわ、私毎日淹れてもらおうかしら」

 

「ちょっとダフネ、あんただけずるいわよ、私も!」

 

「えぇ……私メイドさんになった覚えはないのだけれど…」

 

朝からわちゃわちゃしていると、後ろから声をかけられる。

 

 

「やあ、おはよう」

 

「やーん!ドラコ!おはよぉ♡」

 

 

パンジーが一目散にマルフォイの元へ行く。

 

あまりの勢いにマルフォイも若干後退している。

 

 

「吐き気」「そうね」

 

「今しれっと私のこと馬鹿にしたでしょあんた達」

 

「してない」「ええ、全くね」

 

 

ミリセントはわかるとしてもダフネまで!?

いや、昔からちょっと片鱗は見えてたけれども…!

シャルロットはティーポットを握りしめたまま苦笑いをする。

 

 

「だ、ぐ、グリーングラス、調子はどうだ?」

 

「上々よ、シャルの紅茶のおかげね」

 

「そ、そうか、それはよかった」

 

 

頑張れフォイ。もっとアピールしなきゃダフネには通じないぞ。

 

 

「シャル、そろそろ大広間へ朝食を食べに行きましょ」

 

「ええ、いいわよ」

 

 

そのままダフネはさも当然かのように手を握ってくる。何事。

 

 

「だっ、ダフネさん……?その…手、手!!!あの、その、恥ずかしいかなって……」

 

「何よ、私と手を繋ぐのが嫌なのかしら」

 

「そそ、そういうわけじゃないけどおぉぉぅぁぁあぁぁあぁ」

 

 

やだもうダフネちゃん意外と力が強い。

 

すっごい引っ張られる。いやもうすっごい。

 

 

「ダフネ・グリーングラスとシャルロット・フリンデル……合格だな、可愛い」

 

「どっから湧いて出てきたザビニ」

 

「ブレーズくん私は?」「なし」

「私の可愛さに照れてるのね!」「…………」

 

 

 

 

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軽く朝食をとってから、授業のある教室へと向かった。

 

最初の授業なんてまだつまらないものだ。

 

どの授業も大体が説明。本格的な授業は来週からだそうで。

 

 

 

 

 

そんな感じで入学してから約1週間後。

ようやく本格的な授業が始まった。

 

 

けれど、闇の魔術に対する防衛術だけは別。

まともな授業を全ッ然やってくれない。

正直期待はずれだった。

というか教室がにんにく臭い。なんとかして欲しいのだが、我慢するしかないのだろうか。

 

 

魔法史はカスバート・ビンズという先生が教鞭をとっているのだが、いかんせん眠くなる。

魔法でも使ってるんじゃないかと思うくらい眠くなる。

けれど、将来の為にもどの授業もまじめに受けなければ。

絶対に目的を達成させる為にも。

 

 

薬草学はハッフルパフの寮監であるポモーナ・スプラウト先生が担当だ。

薬草や魔法植物についての知識は全くといって無いので新鮮だった。

 

 

天文学は夜に行われる。

オーロラ・シニストラ先生のもと、生徒は天体についての知識を学び、天体観測を行ったり天体の動きを計算したりするのだが、この時はダフネがぴったりくっついてきてとても可愛いのだ。

 

 

妖精の魔法こと呪文学はレイブンクローの寮監、フィリウス・フリットウィック先生の担当だ。

1、2年時は、杖を使い、物を浮かせる術などを訓練するらしい。(妖精がいたずらをするような類の魔法)

3年以上は呪文学になるため、さまざまな呪文を訓練するようだ。

まだ説明段階で魔法には手をつけてはいないが、とても期待できそうな教科ではある。

今からでも楽しみ。

 

 

 

変身術は動物をモノに変身させたり物体を消去させたりする術などを訓練する教科だ。

教鞭をとるのは副校長のミネルバ・マクゴナガル。

マグゴナガル先生曰く、一番難しい教科らしい。

ちなみにマクゴナガル先生は最初の授業で見せてくれたように猫に変身できる動物もどきだ。

 

今回の授業は変身術の構造や理論をしっかりと理解し、マッチ棒を針に変える授業だった。

 

「落ち着いて、よくイメージしなさい。きっと出来るはずです。ではどうぞ」

 

 

なんだかんだで、これがホグワーツで初めて習って使う魔法だ。少しばかり緊張する。

マッチ棒を針に、マッチ棒を針に。

銀色で、尖った針に。

 

杖を構えて集中し、魔力回路を起動させて、魔力を張り巡らせる。

 

「コンヴァルシオン」

 

___手応えは確かにあった。

 

だが、やはり上手く魔力が放出できない。

コンタクトのせいで、どうしても針の穴に糸を通すような作業になってしまう。

 

「きゃ…!!」「おわっ」

 

私の周りにいたいつものメンバーが声をあげた。

何事かと思うと、声をあげた人のマッチ棒が2m程吹き飛んでいたのだ。

 

「え…?ど、どうしてかしら…私そこまでの魔力を使った覚えはないのだけれど…」

 

隣でダフネも狼狽えている。

____ああ、そうか。これは私のせいだ。

また、私のせいだ。

 

コンタクトではある程度しか抑えられない。

近くにいる人には効果が出てしまう、と言っていたではないか。

 

今回は攻撃系の呪文ではなく変身術だからまだよかった。

これが攻撃系の呪文になれば危険性が格段に上がる。

 

本当に、この能力のせいで、私は……私の人生は……!

 

 

「…ル?…シ………?シャル?…大丈夫?」

 

 

ダフネの言葉にシャルロットはハッとする。

また、考え込んでいた。

お祖母様の時みたいに、相手に心配をさせてしまった。

 

 

「…ん、その……ごめんなさい、お腹の調子が良くなくて。マクゴナガル先生、ちょっとお手洗いに行ってきても?」

 

「ええ、構いませんが、次からは授業の前に行くことをお勧めします」

 

「…はい、すみません、ありがとうございます」

 

 

シャルロットは変身術の教室から逃げるように出た。

 

お腹の調子がよろしくないなんてもちろん嘘だ。

 

アテもなくホグワーツの中をぶらぶら歩いていると、ベンチと小さな噴水が少し置いてあるだけの小さな中庭を見つけた。

 

座ろう、そうしよう。

ずっと歩いていたから疲れてしまった。

 

 

「はぁ…」

 

ベンチに座り、溜息をつくと頭上から声をかけられた。

 

「溜息はよくないと思うのじゃが、そうは思わんかね?」

 

「だ、ダン…ブルドア……先生……」

 

そこには見間違うはずもない、入学式の時に初めて見たアルバス・ダンブルドアがいた。

 

「こんにちは、シャルロット。わしも隣に座っても良いかな?」

 

「あ、えと、どうぞ…」

 

急いでダンブルドア先生の分のスペースを空ける。

 

「よいこらしょ……シャルロット、ホグワーツはどうじゃ?」

 

「……とても、いい所だと思います。私には全てが目新しく映りますし、お友達も増えました。これも全てダンブルドア先生のコンタクトのおかげです」

 

思ったことを素直に話していると、ダンブルドア先生のキラキラした水色の瞳と目が合った。

 

「ご両親の事は本当に残念じゃった……じゃが、シャルロットがここで楽しく過ごしてくれているようで本当によかった。ミラも安心しているじゃろう!…ところで、何か困ったことがあったりするんじゃないかね?」

 

「!!」

 

何故わかったのだろうか。この人、なかなか侮れない。

 

「…実は、力の影響で皆の授業を妨害…しているような状態になってしまって、邪魔をしないように教室から出てきたんです。私自身も、コンタクトをつけた状態だと魔力を引き出すのが難しくて…」

 

「シャルロット、変身術で使った魔法を今使ってみてくれるかね?」

 

そう言うと、ダンブルドアは雑草を1本引き抜き、杖を軽く一振りする。

 

すると、その雑草は先程見ていたものとなんら変わりないマッチ棒へと変身した。

 

流石校長なだけはある。凄い実力だ。

今の私では足の爪程度にも及ばないだろう。

 

「では、その、失礼します……コンヴァルシオン!」

 

だめだ、やっぱり魔力が引っかかる。

それでも、それでも……____!

 

引っかかる魔力を強引に引っ張り出した結果、マッチ棒は形だけ針へと変化した。

 

「…………すみません」

 

「いいや、謝ることはない。新入生でここまで出来るのはなかなか凄いことじゃ。スリザリンに2点。ではシャルロット、そのコンタクトを外してもう1度じゃ」

 

「はい、コンタクトを…って、ええ!?外してしまって大丈夫なのですか!?」

 

ダンブルドアは針の形をしたマッチ棒を元のマッチ棒へと戻しながら頷く。

 

「今ここにはシャルロット以外に魔法を使う者はおらん。大丈夫じゃ、さ、やってみるのじゃ」

 

この人が何を考えているのかはよくわからないが、コンタクトを外してケースにしまう。

 

それから強く、強く針のイメージをする。

煌めくような銀色で、先端の尖った細い針。

 

「コンヴァルシオン…!」

 

マッチ棒は、シャルロットのイメージと同じ見事な針へと変化していた。

 

「……!やった……!成功したわ…!!」

 

魔力の引っかかりもなく、スムーズに魔力を引き出す事が出来て思わず笑みがこぼれる。

 

「おお、おお!これは凄い、スリザリンに5点じゃ!」

 

「…はい!ありがとうございます…!」

 

本当に嬉しい。無事に成功できてよかったと思う。

 

シャルロットが喜びを噛み締めていると、ダンブルドアがシャルロットの手元のコンタクトを見ながら話しはじめた。

 

「そのコンタクトは魔力を6割カットしている状態なんじゃ。じゃが…先程の君は、それでもマッチ棒を針へと変化させかけていた。シャルロットの能力的にもコンタクトをつけたままでも魔法が出来るようにならねばならん。シャルロット次第ではあるが…どなたか先生に個別に授業をして頂いた方がよいと思うのじゃが……」

 

個別……それはとてもいい案だとは思う。

どの道私はたくさんの魔法を使えるようにならなければならない。

 

だが1つだけ問題がある。

 

「先生、それはとてもありがたいお話だと思います。私としても是非お願いしたい所なのですが…最初に言ったとおり、今の負荷のままでは皆の妨害をしてしまいます。………ですので、8.5割まで魔力をカットして頂きたいのです。きっとそこが最低限のライン…だと思うので…お願い出来ませんか?」

 

「……それでは魔法を使うのがより厳しく、難しいものになってしまうのじゃが………君がそこまで言うのなら調整してこようかの、友を思う気持は何よりも尊重せねばならん」

 

「ありがとうございます…我侭を聞いていただいて……。その代わり個別授業で力をつけて負荷を頑張ってカバーしたいと思います…!」

 

ケースに入れたコンタクトをダンブルドア先生に渡すと、ダンブルドア先生は代わりにといってキャンディーをくれた。

 

「…?先生、これは……?」

 

「レモン味じゃ、ああ、そうだ。先生はスネイプ先生に頼んでおこうかの。スリザリンの寮監じゃし、ちょうどよいじゃろ」

 

そう言うと、ダンブルドア先生は颯爽とその場を去っていった。

 

スネイプ先生の授業…魔法薬学は確かまだ受けていない。

確か今週からスタートだった気がするが、いつだっただろうか。

 

何にせよ、魔法を個別に学べる手段を得たのは凄く大きい。

負荷はキツくなるが、ダフネ達の勉強まで邪魔はしたくない。

学年があがって攻撃系の魔法が出てきた時に対処ができるようになるためにもここは頑張らなければならない。

 

気合いを入れる為にも、貰ったレモンキャンディーを口の中に放り込む。うん、酸っぱい。でも、とても優しい味がする。

 

次はどこに行こうかな、なんて考えていたけど、よくよく考えてみたらどこにも行けない。

さっきコンタクトをダンブルドア先生に渡してしまった。

 

仕方ない。お昼寝でもしてよう。

むやみやたらにこのまま出歩いて、ホグワーツを混乱に陥れるつもりもない。

この小さい中庭はお日様がぽかぽかしていて気持ちがいいし、お昼寝には最適だと思う。

それじゃあ、おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……み………ぇ、ねえ、君、大丈夫…?」

 

誰かが私に声をかけている…?

だが、確実にダフネではないことがわかる。

ダフネの声はもっとこう、可憐で可愛らしいのだ。

 

「なあハリー、そいつ緑のネクタイしてるぜ?スリザリンだろ、やめろよ、もう行こう」

 

ハリー……ハリー・ポッターかな?

どっちにしろ意識も浮上してきてしまったのでゆっくりと目を開ける。

目を開けた瞬間、太陽の光が目に入った。

 

「ん…眩し………ぅ……」

 

「あれ…君は……」

 

こちらをのぞき込んでいるのは丸眼鏡にくしゃくしゃした茶髪の男の子。

やはりハリー・ポッターで合っていたようだ。

その後ろにいるのは、燃えるような赤髪に、やたらと背の高い少年。ウィーズリー家の子だろうか。

 

 

「ごめんなさい、迷惑をかけたわ……久しぶりね、ポッターさん」

 

 

シャルロットは立ち上がって、身だしなみを軽く整えてから挨拶をする。

だが、さっそくウィーズリー家の子と思われる子が動いた。

 

 

「本当だよ!とんだ迷惑だ!!なあ、もういいだろハリー?」

 

「ちょ、ロン落ち着いて。ごめんねフリンデルさん、久しぶり。あ、僕の事はハリーでいいよ」

 

 

ロンと呼ばれた男の子にじろりと睨まれ続けていて、少し居心地が悪い。

うう、ストレスで胃が痛くなってきた。

 

 

「ありがとう、ハリー、じゃあ私の事もシャルでいいわ。………あ、それ、魔法薬学の教科書…?」

 

「うん、そうなんだ。この後スリザリンと合同で魔法薬学の授業」

 

「そう、スリザリンと合同…で………合同!?ああ!私も行かなくちゃ…ごめんなさい、お先に失礼するわ。起こしてくれて本当にありがとう」

 

 

そう言うと、シャルロットは長い金髪を揺らしながら走り去っていった。

 

前に見た時と瞳の色が違った気がするが気のせいだろうか?

 

一か月前のことだ、自分の記憶も確かだとは言えなかった。

つまり、この感覚は気の所為だとハリーは思うことにした。

 

 

「ふん、ハリーがスリザリンの奴と仲良くするなんて思ってなかった。いつの間に仲良くなってたんだよ、見損なったね」

 

 

そう言ったロンはつかつかと先に行ってしまった。

ロンはスリザリンの事になると短気も短気。超短気になってしまう。

 

 

「待ってくれロン、違う、違うんだ。あの子…シャルとはダイアゴン横丁で会ったんだ。マルフォイと違っていいやつなんだよ。さっきも僕達のこと弄ってこなかっただろ?……それに、シャルとは何か似通ったものを感じるんだ…僕は」

 

「いいや、ハリー。今が良くてもきっと後からマルフォイみたいになるに決まってる。だってスリザリンだからな」

 

 

ロンには何を言ったって無駄な気がしてきた。

スリザリンにはマルフォイとかいう悪いお手本みたいなのがいるから仕方ないかもしれないが、あの子から悪意は全く感じない。

それだけはわかって欲しかったのだが……駄目そうだこれは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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慌てて魔法薬学の教室まで行くと、スリザリン生しかまだいなかった。

ああよかった。寮監の授業に遅刻なんて絶対したくなかったから。

シャルロットは一人で座っていたダフネの隣へ座る。

 

 

「もう!シャル!貴女どこ行ってたのよ!心配してたのよ!?」

 

「ごめんなさいダフネ、廊下に出た後、ダンブルドア先生に捕まってしまって……」

 

「はぁ…でも本当に、貴女が無事で良かったわ…………あれ、コンタクトはどうしたの?」

 

 

しまった。また忘れてた。

まあ魔法薬学は魔法使わないだろうし多分大丈夫………でしょう。

 

 

「ダンブルドア先生に今メンテナンスしてもらってるの」

 

「ふーん、そうなのね、あ、これ魔法薬学の教科書と置いてった変身術の教科書よ」

 

「持ってきてくれてたの…?ありがとう…ダフネ」

 

「別にいいわよ、気にしないで。あ、グリフィンドールが来たみたい。スネイプ先生も来たわ」

 

 

グリフィンドール生の中には先程会ったハリーや赤髪の子がいた。

 

それから程なくして魔法薬学の授業は開始した。

 

スリザリンの寮監であるセブルス・スネイプ先生は、淡々と生徒達の出席をとっていく。

 

だが、とある人物の名前でそれは止まった。

 

 

「ハリー・ポッター。我らが新しい____スターだね」

 

 

その様子に一部のスリザリン生がクスリと笑った。

 

スネイプ先生はすぐにハリーから視線を外す。

 

出席を取り終わると魔法薬学という学問について語り始めた。

 

 

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

 

 

スネイプ先生はそこで一拍置いて、教室を見回した。

 

 

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ゆらゆらと立ち昇る湯気、人の血管の中をはいめぐる液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である。ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが………」

 

 

スネイプ先生の圧倒的な演説の前に生徒達はただ黙るしかなかった。

 

 

「ポッター!」

 

 

スネイプ先生の声が教室に響く。

 

それから唐突に魔法薬学の問題を出した。

 

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」

 

 

ハリーが「わかりません」と答えると、スネイプの表情がやや嬉しそうな顔に変化した。

 

 

「チッ、チッ、チッ…有名なだけではどうにもならんらしい。ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探す?」

 

 

ハリーはまたもわからないらしく、困った表情を浮かべていた。

 

ハリーの近くにいる栗毛の女の子が高らかに右手を挙げているが、どうにも無視されているようだ。

 

ハリーは苦々しげにわかりませんと答えた。

 

その答えにスネイプ先生は呆れた表情を浮かべる。

 

 

「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかった訳だな、ポッター、え?」

 

 

シャルロットは少し不憫だと思って眺めていた。

いくら一年生の教科書を開いても一番最初の質問の問題は載っていない。

一番最初の質問の答えは生ける屍の水薬、あれは6年生で習うもののはずだ。

随分前にフリンデルの家の本を漁っていた時に目にしたことがある。

 

 

「…さて、ではモンクスフードとウルフスベーンの違いはなんだね?」

 

 

ああ、まだ質問責め続いてたのね。

シャルロットはこんな人に教えてもらうのは大丈夫なのかと少し不安になってきていた。

 

 

「わかりません……、ハーマイオニーがわかっていると思いますから彼女に質問してみたらどうでしょうか」

 

 

スネイプ先生はハーマイオニーをじろりと見やると、座りなさい、とただ一言だけ言った。

 

 

「教えてやろう、ポッター。アスフォデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬となる。あまりに強力な為、生ける屍の水薬とも言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で、大抵の薬に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名アコナイトとも言うが、トリカブトの事だ。諸君、なぜ今のを全てノートに書きとらんのだ?」

 

 

スネイプ先生の言葉に皆一斉にノートをとりはじめた。

 

 

「…そうだポッター、君の無礼な態度でグリフィンドールは一点減点」

 

 

これが引き金で、グリフィンドールはどんどん点数を引かれていくことになる。

 

 

 

今回の授業はおできを治す薬を調合する事だった。難易度的には比較的簡単な薬だ。

 

材料に、干しイラクサ、砕いた蛇の牙、ゆでた角ナメクジ、山嵐の針などを使う。

 

 

「ぅ……ぅ……なめ、くじ…………ご、ごめんダフネよろしく……!」

 

「ええ、いくわ、いくわよ。茹でるわ!」

 

 

ナメクジはぬめぬめしてるのが嫌で少し苦手なのだ。

それをダフネはフツフツと煮えたぎる鍋の中に勢いよく突っ込んだ。

ああ!悶えてる…!ナメクジが悶えてる!!

いけない、今日夢に出てくるかもしれない。

 

 

「ど、どうして君達はそんなに必死なんだ……」

 

 

ダフネとシャルロットの前の席にいたマルフォイは茹で終わった角ナメクジを掬いながら振り向いた。

 

 

「ひぃ…ぅ!だ、だめ!マルフォイお願いこっちに向かないで…!」

 

「す、すまない…」

 

 

ああ…ああ……あのナメクジは完全に茹であがってる……お亡くなりになられてる。

凄いぐったりしてるしもう見てられない。

 

 

「シャルがナメクジ苦手なんて知らなかったわ」

 

 

ダフネはにやにやしながら鍋の中のナメクジの様子を眺めている。

 

シャルロットは蛇の牙を砕きながら反論する。

 

 

「に、苦手ってわけじゃないわ…!な、なんかぬめぬめしてるのがちょっと……」

 

「そういうのを苦手って言うのよ!」

 

「う、うぅ………あ、ダフネ、茹でるのはそのくらいで」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

ダフネがナメクジを鍋の中から掬い上げるのと同時に、スネイプ先生がマルフォイの茹でた角ナメクジを褒めた。

 

スネイプ先生に褒められて嬉しかったのか、マルフォイは年相応の笑顔を見せていた。

 

 

「うわぁぁ!!!」

 

 

その時突然、誰かの声が響くと同時に地下室いっぱいに強烈な緑色の煙があがった。

 

床にはこぼれた薬が流れ出している。

 

誰かが調合に失敗したのかもしれない。

 

 

「馬鹿者!おおかた、大鍋を火から降ろさないうちに山嵐の針を入れたんだな?」

 

 

スネイプ先生は杖をひと振りしてこぼれた薬を消失させる。

 

おできを治す薬は調合に失敗すると、おできを作る薬になってしまう。

 

調合に失敗したらしい男の子には体のいたるところにおできができあがっていた。

 

スネイプ先生はおできが出来てしまった子の隣にいた男の子に医務室へ連れていくように指示をする。

 

 

「ポッター、何故隣にいたのに注意をしてやらなかったのだ?彼が失敗することによって自分をよく見せようと考えたな?グリフィンドールから一点減点」

 

 

理不尽な減点だ…ハリーは拳を握ってるし、やっぱり少しばかり可哀想だ。

 

 

「…シャル?もう干しイラクサいれても大丈夫?」

 

「え?あぁ、ええ。問題ないわ。牙も入れてね」

 

「了解よ」

 

 

その後も淡々と薬を調合していき、完全にどんよりモードなグリフィンドールをおいて、スリザリンは薬の出来を褒められ合計で6点程稼いだ。

 

魔法薬学の授業が終わると、グリフィンドールの生徒はそそくさと教室を出ていってしまった。

 

 

「やっとお昼ね!シャル、今日はもう授業もないし、ママから送ってもらったお菓子で後でお茶しない?」

 

「だ、グリーングラス、僕の家からもお菓子が届いているんだ。皆でやらないか?」

 

「皆でお茶会なんて名案だわ!ミリセント達も誘いましょう」

 

 

ダフネ、マルフォイ、シャルロットの3人で午後の予定について思案していると、背後から声がかかった。

 

 

「フリンデルは少し残ってくれ」

 

 

スネイプ先生だった。

 

2人に先に行くよう伝えて、シャルロットはスネイプ先生の元へ向かう。

 

 

「あの……なんでしょうか?」

 

 

シャルロットが話しかけると、スネイプ先生は懐からケースを取り出した。

 

 

「…あ、これ……」

 

「校長から既に事情は聞いた。金曜日の午後は個人授業を行えとの事だ。昼食をとった後、我輩の研究室まで来たまえ」

 

 

午後の予定が全部消えたよ!!!

ハリーとのやり取りを見ているとあまり気は進まないが…しょうがない。

私はいずれにせよやらなければならないのだから。

 

 

「はい、その…では、午後にお伺いしますね。コンタクトありがとうございます」

 

 

要件だけ済むと、スネイプは準備室の方へと行ってしまった。

 

………上手くやれるのか心配になってきた。

 

 

 

 

 





い、1万字こえてる……ひぇ……初めてだ…

コンヴァルシオンはオリジナルスペルです


この物語上でのダフネちゃんをイメージしやすいように軽く落書きしてみました

【挿絵表示】


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