星降る夜に   作:空音。

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星降り

 星が降る夜、そんな日は空を見上げて願い事を三回…叶うわけもないネガイゴトを唱えて満足そうに笑う。自分が泣いていることにも気付かずに―――……

 

 

 11月も半ば、だんだんと寒くなってくるこの時期は、一段と空気が澄んでいて星がよく見える。今夜も何とか流星群とやらが見れると、昼休みにクラスの女子がきゃいきゃいとはしゃいでいた。そんなもの見て何の得になるんだ。そう心の中で呟きながら、一緒に見に行かないかという誘いを、もうすぐ大事な試合があるから…、と上手くかわしていった。

 当然、これといった試合もなく、誘いを断る口実でしかないのだが、それをどこで見ていたのか、部活が終わり、体育館の端でクールダウンのために柔軟をしていると、まだまだ動き足りなさそうな青峰がどかっと隣に腰を下した。星…ねぇ…?と意味ありげに呟き、にやにやとしながら顔を覗き込んできた。

 

「…なんスか…何か言いたげっスね…」

「べーつにぃ、嘘までついて断らなきゃいけないものなのかと思っただけ。」

 

 昼休みに女の子達に誘われ、断っているところを見られたのだろう。頬を伝う汗を拭きとりながら、何と答えようか迷っていると、隣に座ったはずの青峰が立ち上がっており、自分に向けて手を差し伸べている。不思議そうに首をかしげると、早く手をとれと言わんばかりに、ん!と言うものだから、ト○ロに出てくる男の子が、意中の女の子に傘を差し出すときのようだと思いながらも、おずおずと手を取ると、ぐいっと引っぱられ、立ち上がらせられると、思わず驚きの声をあげた。

 

「ふぁ?!ちょ…何、びっくりした…」

「黄瀬」

「な、なんスか…」

「星、見にいかねぇ?」

 

はにかむような笑顔でそう言われれば答えははい。以外考えられなかった。

 

 

 ただ星を見るだけ、そう自分に言い聞かせるも、なぜか胸がどきどきと高鳴り、心なしか顔も熱い気がする。熱でもあるのだろうかと家の救急箱から体温計を取り出して計ってみるも36,2度。うん、平熱だ。それより少し低いくらいかも。しかし、意識すればするほど顔が火照り、別の事を考えようとぶんぶんと頭を振った。

 

「何着てこう…」

 

 無意識に呟いた言葉ではっと我に返り、デート前の女子か!と自らに突っ込みをいれる。謎の羞恥心により、じたばたと床で悶ていると、下の階から母親のうるさい!という叫び声が聞こえたが、今はそれどころではない。少し落ち着いてから一息つくと、改めてなぜ青峰が星を見に行くのに自分を誘ったのかがわからず、うーむ…と考え込んでいるうちに眠くなってきてしまい、いつの間にか眠りに落ちていた。

数時間後、待ち合わせ時刻30分前にセットしておいたアラームで目が覚める。何一つ自宅ができていない状態で、この時刻では到底待ち合わせ時間に間に合うはずもない。

 

「やっば…遅刻…!」

 

 バタバタと慌てて支度をし、携帯、財布などの必要最低限のものをパーカーのポケットに突っ込み、寝癖もそのままに家を飛び出せば、走って待ち合わせ場所に向かった。

 

「っ…は…はぁ…流石に…いない…っスよね……ははっ……はぁ……」

 

結果20分ほど遅れてしまい、待ち合わせ場所の公園の入り口には人影はなく、やはり帰ってしまっただろうか、と明らかに落ち込む自分がいた。もしかして遅れてくるのかもしれない、と少しだけ待つつもりで近くのベンチに腰をおろした。

 

「はー…さむ…さすがにちょっと薄着過ぎたかな…」

 

 走ってきたためにかいた汗が冷え、体温が下がり始める。あまりの寒さにぶるるっと身震いをした。冷たくなり始めてきた指先に自分の息を吹きかけながら空を見上げると、きらっと一瞬星が流れていくのが見えた。あ、流れ星…と言う前に、更にちらちらと流れ星が見え始め、ふと子供のころ母親に言われた言葉を思い出し、願い事を三回心の中で唱えてみた。

 

(「流れ星を見つけたらそれが消えてしまう前に三回願いを言うのよ。」)

(「何で消えてからじゃだめなの?」)

(「それはね、流れ星さんが――…」)

 

「………せ……い…きせ…おい!」

「わっ、ああ青峰っち?!」

 

 思わずひっくり返ってしまいそうなほど驚き、頬に添えられた青峰の手の暖かさに、自分がどれだけ冷えていたのか実感した。青峰が暫く黙ってじっと顔を見つめてくるため、だんだんと居心地が悪くなり、何か話を切りだそうとした

 

「あ、あの、遅れてごめっ…」

「お前、なんで泣いてんの」

「え…嘘、あれ、本当だ…。……何で?…スかね…あは、あはは…」

 

 自分でも何故泣いているのか、なんてわからなかった。ただ三回願い事を心の中で唱え、少し昔の事を思い出していたら青峰が現れていた。ただそれだけなのだが…

親指で優しく涙をぬぐってくれる青峰に、心がぽかぽかとしてくるのを感じて、不意にああ、好きだなぁ。と思い、その気持ちに不思議と嫌悪感はなかった。案外、今日星を見るのに誘ってもらって浮かれていたのも、青峰が待ち合わせ場所にいないことにがっかりしたのも、今まで憧れだと思っていたこの気持はどうやら恋心…というものらしい。

暫く小さい子を宥めるように頭を撫でながら泣きやむのを待っててくれていた青峰を、好きだと意識したとたん、何だか妙に気恥しくなってきてしまい、もう大丈夫と微笑みかけた。その笑顔もぎこちなかったような気もするが、気がつかなかったのかそれとも気を使ってか、どちらか判断はできないが、そうか、と短く返事をして隣に座った。

隣に感じる体温は暖かくて、心地よくて、思わずもっと近くに寄りたい、ずっと傍にいたいと思ってしまう。

 

「なんか願い事してたのか?考え込んでるようにも見えたけど。」

 

ただ青峰に会いたい、そう願ったら本当に来てくれた。なんて口が裂けても言えるはずもなく、内緒。とだけ伝えた。

 

「ふうん…まあいいけど、ココア飲むか?待ってる間寒かったから買ってきた、んで遅れちまった。…悪かったな。」

 

そう言うと、ポケットからココアを二本取り出して、一本俺の手に握らせた、冷めてしまっているのは待たせてしまったからだろうか、遅刻してきたのは自分のほうなのに、全く悪くない青峰に謝られると、どうしたいいか分からなくなってしまう。居たたまれなくなり自ら会話を切り出す。

 

「星、きれいっスね…」

「ああ」

「満足?」

「ああ」

「変ってるっスね」

「お前もな」

 

 確かに、変わってるかもしれない。どうしようもなくこの人が好きだ。他愛無い会話でさえ、とても楽しく、この時がずっと続けばいいのに。そう考えずにはいられなかった。

 一際輝く流れ星に願い事を、この人とできるだけ長く、一緒にいられますように。三回は言えなかったけれど、流れ星が消えてしまう前に言えた…と思う。精一杯の思いを込めて、どうかこの願いが叶いますように。

 昔、母さんが言っていた言葉は何だっけ…確か…

 

「それはね、流れ星さんが、願いをかなえてくれる人の所に、その願い事を持って行ってくれるからよ」

 

 そうだ、思い出した。ならさっき願いを込めた流れ星は、今隣にいる大好きな人に願いを届けてくれるのだろうか。何年先のことだかわからないが、届くといいな。そう思うと自然と笑みが零れた

 

「また…泣いてる。」

 

 そう聞こえたのは気のせいだったのだろうか、え?と青峰のほうに振り向き聞き返すと真剣な顔でこちらを見つめていた。どきんと心臓が高鳴り、何か言われるのだろうかどぎまぎしていると、ベンチについていた手をぎゅっと握られた。

 あまりの不意打ちに顔が熱を持つのを感じた。あたりは街灯も少なく公園の中なのに薄暗いため、バレていないとは思うが、あまりにも真剣な表情で見つめてくるため、思わず俯いてしまった。

 

「なあ黄瀬、俺さ。お前のこと――…」

「………え?」

 

 意外と流れ星は優秀なのかもしれない。だってこんなに早く願いがかなうかも知れないだなんて。今まで迷信だと思っていたけれど、信じてもいいかもしれない。信じるだけで、別に損にはならないからね。




最後まで読んでくださったのですね、あなたこそ紛うことなき天使。はい。←
特にこれと言ってないぱっと浮かんだだけの小説でし。
青峰sideもありますが、なんとも…うぅん…
昔(?)別サイトにて載せたものを修正しての投稿です。大して変わってない。

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