彼らはただ、待つことしかできない。
信じて、待つことしか――――――――――
※ウルトラマンジード7話のネタバレあり。
「…どした、チビ助」
ぼーっとしているピグモンを見て、グレンファイヤーが声をかける。
「何をボケェーっとして座ってんだよ、おい」
相手の近くまで行ってしゃがんでみるが、なにも答えない。わき腹をツンツンとつついてちょっかいをかけると、ピグモンはようやく鳴いた。しかしその声がいつもより小さく悲しそうだったため、驚いたグレンファイヤーが手を引っ込める。
「な、なんだよ、突っついただけだろ…」
焦るグレンファイヤーに、ピグモンは手を振って何かを伝えるように鳴き始めた。相手はその動きを見てふんふん、と頷く。
「ああ、ゼロちゃんが心配。なるほどねぇ」
そんなことかよ、とグレンファイヤーは頭の後ろで腕を組んだ。
「ゼロちゃんなら気にすんな! あいつは、死ぬようなタマじゃねぇんだから。お前もよく知ってんだろ?」
ピグモンは頷くが、心配そうな声をあげ続けている。
「大丈夫だって! そんな大げさに心配することなんて」
「あるだろう」
「うおぉ!?」
急に後ろから聞こえてきた声に、グレンファイヤーとピグモンがびくっと体を震わせて驚く。二人が振り向くと、そこにはいつの間にか一体のロボットが仁王立ちしていた。
「焼き鳥! やめろよ、後ろから来るの!」
「私は焼き鳥ではない! ジャンボットだ!」
怒ったように言い返すが、いつものように相手は聞いていなかった。
「お前、ミラーちゃんとナインの坊主との三人で、姫さんとこ行ってたんじゃなかったか?」
「つい先程、帰還した。二人もすぐに戻ってくるはずだ」
「あっそ、おかえり」
はーあ、とうんざりしたような大きなため息をつく彼の隣に、ジャンボットが並ぶ。
「…先程の話の続きだが」
「あん?」
走りよってきたピグモンを手の上に乗せて撫でながら、グレンファイヤーが面倒くさそうに返事をした。
「彼はあの時、ケガを負っていた」
しかし、相手の言葉に撫でていた手が止まる。あの時帰ってきた傷だらけの姿を思い出しながら、隣にいる相手へ顔を向けずに答えた。
「…あぁ。結構なダメージを食らっちまったように見えたぜ」
「ウルティメイトブレスレットにも、その影響は出ていた」
「んだとぉ?」
グレンファイヤーはゆっくりとジャンボットの方を向く。
「…ってことは、つまり」
「あの鎧に大ダメージを負わせる程の攻撃を受けた、と言うことになる」
「マジかよ…」
基地内に、重い空気が流れ込み始めた。
「でもよ。あいつすぐに、あの銀河に向かったじゃねぇか。そんだけのダメージ受けてても、ちゃんと回復して行ったんだろ」
グレンファイヤーは威圧的に訊ねるが、ジャンボットは静かに首を振った。
「…いや。けして万全ではないはずだ。かなりフラついていたし、それに…」
「うるせぇ!!」
相手の大声に、ジャンボットは口をつぐんだ。ピグモンも、怯えたように長細い手で顔を覆う。
それに気付いたグレンファイヤーは彼を床に下ろすと、自分の手をじっと見つめて拳を握りしめた。
「…あいつは、光の国から持ち去られちまったカプセルを探しに行った。一人でだ。ってことは、勝算があるんだろ」
「もちろん、そうだと思う」
相手からの相槌が返ってくると、グレンファイヤーは勢いよく立ち上がり、握りしめた拳を降り下ろした。
「じゃあ!! オレ達はあいつが帰ってくるのを待つしかねぇだろうが!!」
「そんなことは分かっている!!」
ジャンボットは力強く言い放つ。その言い方に、グレンファイヤーが少しひるんだ。
「…ただ、気にしなくてもいい、という言葉が…どうにも引っ掛かっただけだ」
そう言ってにらみ付けてくる相手に、グレンファイヤーは拍子抜けしたような声をあげた。
「かーっ! なんだよ、そんなことかよ!」
「そんなことだと!? グレンファイヤー、貴様という奴は!」
「いいか焼き鳥、よく聞け」
怒っている相手の肩に腕を回すと、グレンファイヤーは自分の方に引き寄せた。
「オレが言ったのは、心配なんかしなくていいって意味の気にするな、だ。どうでもいいとか、そういう意味で使っちゃいねぇんだよ」
「…ならば、どういった意味で使った」
「そりゃお前、これだよ」
問いを投げかける相手の胸に、ぐっと拳を押し当てる。
「ゼロのことを心から信頼してんだから、そんな風に考えるのはいけねぇってこと」
ジャンボットは相手の言葉に息を飲み、ゆっくりとうつむいた。
少しの間、沈黙が流れる。
「…すまない」
「あーもー、謝んなくていいって。お前の気持ちは、痛いほど分かるから」
ポンポン、とうなだれた相手の肩を叩く。
「オレだってゼロちゃんのことを、そういう風に悪い方へと考えてない訳じゃねぇ…でもそれってよ、心から信用出来てないってことになるだろ。信用してたんなら、自信もって任せることが出来るはずだぜ」
ジャンボットはグレンファイヤーの方を向くと、しっかりと頷いた。
「ああ、そうだな」
「だろ。…オイ、チビ助も分かったか?」
下にいるピグモンに話しかけると、ピョンピョンと飛びながらいつもの元気な鳴き声が返ってきた。
「よーしよし、いい子だ」
グレンファイヤーはジャンボットの肩から腕を外すと、ピグモンの方にしゃがみこみ、小さい相手を優しく撫でた。
「…早く、帰ってこないだろうか」
上を見上げ、呟くようにジャンボットはそう言った。ピグモンから手を離し、グレンファイヤーも同じ方向を向く。
「そうだな…そこに隠れてるお二人さんみてえに、いつの間にか帰ってくりゃいいが」
「え?」
ジャンボットは何の話か分からず、間の抜けた返事をした。その様子を見て、グレンファイヤーがケラケラと笑いだす。
「何だよ、気付いてなかったのか? さっきお前が言ってたじゃねぇか、他の二人もすぐ帰ってくるって」
ほら、と親指で後ろをさす。振り返ると、二人の影がこちらへ歩いてきていた。
「お話し中だったので、邪魔をしてはいけないと思いまして」
「そんな変に気を回さなくてもよかったんだぜ、ミラーちゃん」
よっこらしょと言いながら立ち上がると、あだ名を呼んだ相手に向かって軽く手を上げた。
「おう、おかえり」
彼は会釈を返すと、ジャンボットの方に目を向けた。
「私も、あなたと同じ考えを持っていない、というわけではありません」
「ミラーナイト…」
「特に今回の件は、あのベリアル絡み。ゼロにとって…いえ、私たちにとって脅威であることは間違いないでしょう」
しかし、とミラーナイトは話を続ける。
「だからといって、悪い方ばかりに考えてしまうのはいかがなものかと」
なにも言い返せず、ジャンボットは少しうつむいた。
「…兄さん」
その時、彼の前にジャンナインが歩いてきた。
「僕は兄さんたちより、ゼロと関わっている時間が少ない。だからこそ、ベリアルとの因縁がどのように作られたのか、詳しいことは分からない」
「ジャンナイン…」
「僕のゼロに対しての思いは…信頼は。一緒にベリアルと戦った兄さんたちより、どこか違うのだろう」
「そんなことは!!」
ジャンボットがジャンナインの肩をつかむと、こちらにまっすぐな目を向けてきた。
「それでも僕は、ゼロは帰ってくると信じている」
そう言うと、ジャンナインは自分の胸に手を当てた。
「心を教えてもらった、というだけじゃない。彼と戦ってきたから、大事な仲間だからこそ、そう考えることが出来る」
「おっ! 言うじゃねぇかナインの坊主!」
グレンファイヤーが嬉しそうにジャンナインの肩を軽く叩いた。
「ま、今はあいつが帰ってくるのを待つしかねぇな。帰ってきたらパーティーしようぜ、パーティー!」
な、と全員の顔を見回す。その言葉に彼らは笑いながら、しっかりと頷いた。
「う、う…」
震える手で、目の前におちたものを掴もうとする。だが、どうしても届かない。
『よく耐えてくれたな』
彼の優しく語りかけてくれたあの声が、まだ耳に残っている。
「…ゼロ、さん」
名前を呼んでも、何も返ってこない。聞こえてくるのは砂埃を立てている、乾いた風の音だけだった。