ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】 作:熊0803
人とは往々にして、恥ずかしい失敗をする生き物である。
パラドが俺の前に実在するものして現れ、恋仲となった時からはや数年が経過した。
現在パラドとの仲は良好そのものである。彼女は俺の中で成長する過程で手に入れたその高い能力で家では家事全般をこなし、職場では社長秘書兼アドバイザーとして公私ともに俺を支えてくれ、もう毎日が幸せすぎる。
どれくらい幸せかというと、パラドに恋い焦がれるだけだった日々の数千倍くらいは幸せだ。まあ、それをいうと本人は羞恥心がオーバーヒートしてしまうので滅多には言わないが。ちなみにその滅多な時とは、疲労していて癒しを求めた時にパラドの赤面顔が見たくなった時である。なに?ゲス?はん、なんとでも言いたまえ。彼女の可愛らしい姿を見れればなんでも良い。
こほん。惚気はこれくらいにしてと。次に、俺は『仮面ライダークロニクル』を完成させることに決めた。幼少期満足のいくものにまで作り上げることができなかったものを今更なぜ作り出そうとするのか?それは、パラドがいるからだ。
彼女は本来『仮面ライダークロニクル』に存在する複数の主人公たち…『仮面ライダーエグゼイド』、『仮面ライダーブレイブ』、『仮面ライダースナイプ』などの一人であり、つまるところパラドがいるべき場所は仮面ライダークロニクルではないか?という疑問を呈したからだ。勿論、それはもう実在する彼女にゲームの中に入れとかいう無茶振りをしているわけではなく、彼女が主役となり攻略するはずだったゲームを完成させ遊んでもらいたいという俺の勝手な願望だ。
そもそも、『仮面ライダークロニクル』とは何か。それは、いうなれば究極のゲームである。内容は下級、中級、上級と分けられるステージに存在する『バグスター』という敵キャラを時には一人で、時には大勢の仲間とともに攻略し、やがて全てのバグスターを倒して史上最強のラスボス……すなわち、『ゲムデウス』を攻略するというありふれた、しかし無限の遊び方を持つゲームである。他人を蹴落としてもよし、手を取り合うもよしだ。
仮面ライダークロニクルに登場するキャラクターはといえば、実は我が幻夢コーポレーションの扱っているゲームは全て『仮面ライダークロニクル』の一部を切り離し、拡張させ一つのゲームとしたものである。なので当然、各々のゲームの主人公は仮面ライダークロニクルにも登場するわけで、その一人が『仮面ライダーパラドクス』ことパラドというわけだ。
他にもエムこと『仮面ライダーエグゼイド』や、仮面ライダークロニクル自体の主人公……伝説の戦士、『仮面ライダークロノス』というのも存在する。
ではそれとは反対に敵キャラは?と聞かれれば、当然各ゲームのボスたちである。例えば『ドラゴナイトハンターZ』に登場する『龍戦士グラファイト』や、『マイティアクションX』の『ソルティ伯爵』などなど。中には下級にいたものが強くなって他の階級に現れる、なんて定番の設定も入れる予定だ。例えばグラファイトは全階級に出てくる重要キャラである。
で、そろそろこの一人語りを誰かが聞けばこう疑問を抱くだろう。なぜ今開発中のゲームの内容をそこまで詳しく、自慢げに語っているのか?と。その答えは毎回単純。なんと、仮面ライダークロニクルに存在するバグスターの何体かがパラドのように現実世界に実態化したからだ。
俺がその度にあの時と同じ苦痛を味わって生み出された彼らは
以上、これが俺が仮面ライダークロニクルを完成させようとしている理由である。結果的にいえば開発はスムーズに進んでおり、常に俺に最初の仮面ライダークロニクルの時は感じることのできなかった満足感と達成感を与えてくれていた。
そんなわけで、俺はとても充実した人生を送っているわけだ。ならば傲慢ながらも、それを他人にも分けるべきではないか?
よって考え抜いた結果、
「…この中にはテレビなどで知っている奴も多いだろうが、中学部から繰り上がりでやってきた神崎正斗だ。趣味はゲーム開発とゲームプレイ、と言ったところだ。あと自己紹介の必要事項はーーーああそうだ。そこの男女、観束総二と津辺愛香は俺の生涯の友であり、お互いに将来を誓い合った仲である。よって、下手なちょっかいをかけようものなら社会的に抹殺するからそのつもりで」
「「ーーッ!?!!?」」
高校入学式後のホームルームの自己紹介にて、権力にモノを言わせるというニュアンスを感じさせる、盛大な暴発テロを実行したのだった。後悔?そんなものない。
●◯●
記念すべき高校生活初日の放課後。真新しい制服に身を包んだ四人の男女が、喫茶『アドレシェンツァ』で遅めの昼食を取っていた。
二名いる男の一人はこの店の息子である世界最強のツインテール馬鹿、そして我が幼馴染兼親友である観束総二。もう片方は俺ことゲームとパラド大好き男、神崎正斗。そして同じく二名いる女の片方は俺たちの向かいの席に座っている、これまた幼馴染兼親友の超武闘派少女、津辺愛香と、我が最愛の女性であるパラドこと神崎盾奈。
雰囲気のある個人経営の喫茶店でランチ、なんて学生の割に小洒落てるが、総二にとっては帰宅しただけだし、俺は昔からよく遊びに来ていたので特に何も感じない。愛香も週末に総二の部屋に泊まってはニャンニャンしているようだしな。俺?俺は自宅でパラドとニャンニャンだ(真顔)。
そもそも、今この店は閉まっている。俺も気に入っている当店特製のブレンドコーヒーはこの店の自慢の一品でファンも多いが、いかんせん観束の母親、この店のオーナーでもある未春さんが気分次第で簡単に店を閉めて外出してしまうので、コーヒーが飲みたかったら自分でやるしかない。現在もドアに『Closed』の札が下がった店内には、俺たち四人のみ。
しかし、どうやら総二にとっては漂う強烈なスパイス臭も今胸の内を占める悩みに比べれば、とても些細な問題らしい。
「…なんであんなこと書いちまったんだ……」
「幾ら何でもツインテール部はないだろう総二」
カタカタとパソコンを操作しながら俺が言うと、ドカ盛りカレーを三杯ほど平らげた愛香とニヤニヤしているパラドもうんうんと頷く。ちなみに、愛香が食しているカレー代は全て俺のおごりである。自らの所業への罰という奴だ。まあ、別に痛くも痒くもないが。
「焦ってたんだよ…無意識だったんだよ、そんなつもり全然無かったんだよ!!」
「あたしとしては無意識に出てくるレベルでヤバイ気がするんだけど、一番の原因は間違いなくこいつよね」
「……?」
「あんたよあんた!何言ってんのみたいな顔してるけどあの状況作った大元、マサだからね!?」
おや、俺だったか。確かに暴発テロを起こしたのは俺だが、それで精神を乱されたのは二人である。よって俺は何も悪くない、動揺したこいつらが悪い。
「…責任転嫁するエムは好きじゃないかなー」
「すみませんでした愛香様全て私の責任でございます、どうぞ心ゆくまで食べてください!」
「「弱っ!!!」」
パラドの一言であっさりと手のひら返しした俺に、愛香と総二が立ち上がりハモってツッコミを入れてきた。はん、パラドに嫌われるくらいならプライドなんぞいくらでも捨ててやるわ!そんなもの、そこいらの犬にでも食わせればいいんだよ!
「貴様、今犬と言ったな!」
「いやそこは乗るのかよ!」
俺の
そんな俺に呆れたようなため息をつき、愛香は愛しの総二に体を寄せると精神の安定化を計り始めた。対する総二も今日のことを思い出したのか、悩ましげな顔をして愛香のツインテールをいじり始めた。途端にとろける愛香の表情。もやは定番のやりとりである。
「それにしたって、先生も声に出して言わなくてもいいだろうよ……」
しばらくして愛香のツインテールを触り、いくらか落ち着くことのできた総二がこめかみから手を離してそう呟く。
「ああ…あれは酷かったな」
俺は数時間前のことを思い出し、公開処刑された総二を不憫に思った。ま、その理由の半分は俺にあるのだが。
俺たちの通う私立陽月学園は、初等部から大学部まで一貫進学が可能な、超エスカレーター校だ。
そんな中、初めて陽月学園高等部を見た俺を除くメンバーたちは圧倒された。校舎、体育館、目につくものすべての大きさが中学時代とは桁違いだったのである。俺は普段からでかい建物など見慣れているので特に何も思わなかったが。
だが他の三人とここにはいないもう一人はそうもいかないようで、入学式の後に体育館で行われた各部活主導のオリエンテーションも圧巻の一言に尽きたようだ。運動部と文化部が入れ替わり立ち替わりパフォーマンスを披露し、新入生へアピールする。実質一分に凝縮された各部の情熱に、思わず拍手を送っていたほどだ。
だが、どうやら総二の目に焼き付いたのはその後に登場した一人の少女だったらしい。いや、正確には彼女の髪形。ツインテールといったほうが良いだろう。生徒会長、
背格好は小学生ほどで見た目詐欺もいいところだが、彼女の新入生に向けての歓迎のスピーチは、さながら歴史に名を馳せた偉人たちの演説の如く。圧倒的な求心力を以ってその場にいる全員の胸を打った。
『あなたたちには無限の可能性があります。わたくしが、そして陽月学園高等部が、その輝く未来を開花させる道標となることを、約束いたしますわ』
その小柄な体躯と相反する凛として落ち着いた雰囲気は、尊大とも取れる言葉を決して嫌味に聞こえさせはしなかった。あれがカリスマ性というのだろう。俺はそこまで大勢の人前で話すのは得意なわけではないので、少し羨ましかったりした。
だが、それを含めても総二が何よりも美しいと感じたのは、そのツインテールだったらしい。彼女のツインテールは高貴で麗しく。スピーチが進むにつれて躍動するそれはダンスを踊っているかのようだと総二に熱弁されたのを覚えている。それに嫉妬した愛香に総二が殴られていたのはいい思い出だ。ちなみに総二と俺以外の生徒は子猫を愛でるような目をしていた。
で、教室に帰ってHRをしている間も総二は
神堂会長のツインテールのことを思い出していたのかぼーっとしていたのだが、その後の俺の暴発テロにより更に混乱し、部活プレゼンを見た上で配られた希望部アンケートを回収される直前に慌ててかなり変なことを書いたのだ。
『ふんふん…あれ〜、名前が未記入のものがありますね〜』
『あっ、すいません、それ多分俺です……』
担任の間延びした声で放たれた言葉に総二が自分だと名乗り出て、そのあとが彼にとっての地獄だったようで。集めたプリントを一枚ずつ検めていた担任は首を傾げ、その名前未記入の用紙に書かれていたことを読み上げてしまったのだ。
『……うん?ツインテール部?ツインテール部なんてありましたっけ?……ああ、新設希望ですね〜?』
『えっ!?違っ……俺は部活を作りたいんじゃなくて、その!』
輪をかけたようにテンパり始めたその時の総二を、俺とパラドを含めたクラスメイトたちが面白げな目で見ていたことは想像に難くないだろう。
『そっか〜、ツインテール部か〜。観束君はツインテールが好きなんですね〜』
『あ、はい。それはもちろん』
『ちなみに世界で一番好きなツインテールは?』
『愛香のツインテール!!!』
『ふぇっ!?』
ーー条件反射。
高校生活三年間の総二のポジションが、確定された瞬間だった。悪ふざけして便乗した俺の腹筋が完全に崩壊した瞬間でもあった。
『それでは皆さん、HRを終わりますが、最近この近辺で変質者が増えているそうですから注意してくださいね〜♪』
『それ今このタイミングで言うことか!?なあ先生、待ってくれ!俺は本気なんだ!本気でツインテールが好きなんだ!!あっ……違……その!!っていうか、正斗と盾奈は爆笑してんじゃねえええええええ!!!』
言い訳ご無用の大惨事を自ら引き起こし、総二の輝ける(笑)高校生活初日は終わった。
「あああああああああああああああああああ……」
どうやら思い出しただけで体から力が抜けたらしい。空欄を見るや咄嗟に「ツインテール」って書くとか、ちょっとお脳のホスピタルに連れてった方がいいと思う。もはやこいつの場合、生理現象どころか生態の域である。
「んぐ……ん。おかわり」
コーヒー一杯すら満足に喉を通らない総二をよそに、愛香は余裕で総二のカレーをかっさらっていった。おい、三杯目だろそれ。そろそろ腹痛くなるぞ。
「間違って書いたことより、その後のフォローがまずかったな。テンパりすぎだっての」
「そうそう」
「私は面白かったからいいけどね〜♪」
「テンパってるのがわかってたならお前らこそフォローしてくれよ!俺たちの仲だろうが!!」
俺たちの仲も何も、なぁ……
「そもそもアンケートなんて、あくまでファーストインプレッションだろう。現段階での希望調査に過ぎないんだよ。希望部以外に『自分で作ってみたい同好会があれば書いてください』とか捕捉されてたが、そんなものは形式上のものに過ぎん。むしろ、いきなりそんな自己主張する奴がいたらそいつはよっぽどの目立ちたがりか、ろくにプリントを読まなかったバカ野郎だ」
「ぐっ……」
ろくにプリントを読まなかったバカ野郎は図星なのだろう、自分の胸に手を置いてうめき声をあげた。そうそう、それでいい。会社経営をしているこちらからすれば、一度の見落としや凡ミスで会社全体が傾く自体にもなる。故に、いつでも冷静に細かいところまで気配りすることを学ばなければいけないのだ。
「そういうエムだって冷静じゃないときあるよね?」
「当たり前だろう!パラドと一緒にいるんだ、テンションが壊れないわけがない!」
「現在進行形で壊れてるよ!?」
……ん?
そうやって四人で仲良く騒いでいると、ふと違和感を覚える。その発生源は視界の隅に移ったものだ。思わず目を少し見開いてしまう。
もう一度店の奥に目線を移して注視すると、今一度驚愕に目を見開く。そこには、一人の女性客が座っていた。俺たちの席とはちょうど直角に位置する角席に座っている彼女は、気のせいかこちらをちらちらと見ている。変である、未春さんはしっかりと店を閉めてったはずだ。
とすると…もしかして!?
「ちょっとそーじ、また…」
「あ」
隣でまだ総二たちは夫婦漫才をやっている。それを尻目に、俺は高速で思考を回転させた。誰もいないはずの店内、いつの間にか入ってきた女、そしてこちらを、いや、正確には総二を見ている。そこまで考えて、ようやく俺はパズルのピースがはまった感覚を覚えた。くそっ、まさか恐れていた事態が起こってしまったのか!
「…エム、あの人」
「…ああ」
神妙な表情でこちらへと近づいてきたパラドが、俺の耳元でぼそりと囁く。普段なら耳が幸せとかふざけるのだが、今はそれどころではない。こちらも真剣な顔をし、女性に気づかれないようこっそりと傍に置いていたバッグを探る。そしてその中からあるものを取り出し、パラドへ手渡した。
「パラド、これを」
「これって…もしかして」
俺の手渡したものに、パラドは少しだけ目を見開く。
彼女の手に収まったそれは、一見してゲームカセットのようなものだった。細長く黒い画面のようなものが両側についている上の部分と、青く染められた黒いグリップのついた下の部分。下の部分には両側面に違うラベルが貼られており、『PERFECT PUZZLE』という名前が刻まれた眼鏡をかけた青いスライムとパズルが描かれたものと、『KNOCK OUT FIGHTER』という名前が刻まれたハチマキをした赤い男と燃え盛る炎の描かれた二つがあった。グリップと反対の位置についている黄色いダイヤルのようなものにもその絵は左右の半円の中に存在している。
「ああ。もしもの時は頼む」
「…了解」
ニヤリといつもゲームをやる時の好戦的な笑みを浮かべ、パラドは懐にそれをしまい込む。それを確認し、一つ頷いてからまた女性客を見やる。
女がついたてのように使っている新聞紙には、二つの穴が開いていた。その奥からくりっとした瞳が覗いている。昭和だ。ベタすぎて腹筋が崩壊しそう。 もはやコントの撮影でもしているのではないか、という願望に近いものが俺の中に生まれる。しかし、現実とはかくも非情なものだ。
「ーー!?嘘、どうして……気配を感じなかったわよ………!?」
どうやら俺たちのやりとりでようやく気がついたらしい愛香がそう言った瞬間に、女は新聞紙を畳んでテーブルに置き、立ち上がった。そしてそのまま出口に向かうと思いきや、俺たちのテーブルの横で立ち止まる。そして、総二だけに朗らかな微笑みを向けた。
「私、トゥアールと申します。……相席よろしいですか?」
「いやちょっと待てぇ!」
いきなり現れたかと思えば厚かましい願いを申し出てくる女…トゥアールに、愛香が牙を剥いた。それに特に怯えた様子もなく、こてんと首をかしげるトゥアール。ああ、こいつはまだ愛香の戦闘力を知らないからそんな無垢な表情をしていられるのだろうな。俺の予想通りならそう時間はかからずに知ることになるだろうが。
「誰よ、あなた!」
「おかまいなく」
「かまうわ!」
「いえ、あなたには用はありません。こちらの方に用がありますので」
「俺に!?」
バスガイドの案内のように、上品に傾げた手の平で総二を示す。それに額に青筋を立てて愛香はがるるっと吠えた。おいおい、その顔は総二的にポイントが低いんじゃないか?
「あたしのツレでしょうが!何考えてんのよ!おとなしそうな顔しておっぱい目立つ服着てムカつくわね!谷間にストロー差し込むわよ!!」
「一度落ち着け愛香、マジで」
冷静を装い、愛香が世にも恐ろしい恫喝をする。それを俺は諌めた。そうすると情報を集めるために、トゥアールと名乗る謎の女を観察する。すると奇行が目立つが、間近で目にすると、凄まじい美少女だというのがわかった。
艶やかな長い銀髪に、長い睫毛とサファイアを思わせる透き通った碧眼。すっきり通った鼻筋と、微笑みをたたえた小さな桜色の唇。まるで、二次元の世界でしかお目にかかれないような超絶美少女である。
女は、清楚な顔立ちに似合わずそのけしからん胸を強調する薄手の服を着ていた。その上に白衣を羽織っている。……おそらく白衣と思われるそれは、コートと言われればそう見える、洒落たデザインをしていた。
その下のスカートも、ミニと呼ぶのすら躊躇われる。一見するとただの痴女にしか見えないが、すらりと伸びた綺麗な脚を見れば、それが絶対の自信に裏打ちされてのコーディネートなのだとわかる。こんな格好、一度パラドにもしてもらいたいかもしれない。危ない色気がありそうだ。
「……やらないからね」
「はいはい」
「ちょ、何さその適当な反応!本当に私はやらないからね!」
そう言いつつやってくれそうだから、うちのパラドは可愛いのである。あ、ちょ、やめて!さすがに本気グーは効くから!主に俺の心に!
俺たちがそんなことをしている間に展開は進んでいき、大切な用があるとトゥアールが言うとそれに総二が答え、ツインテールが好きかと問われれば彼は好きだと即答する。どうやら今日のことが全く懲りていないようだ。
で、何も言わずにこれをつけてくれとメカメカしい鮮やかな赤いブレスレットをトゥアールが総二に渡そうとすれば、こんなものを嵌めたら後で法外な金額を吹っ掛けられるに違いないとヒートアップして拒絶する愛香と、それに対し怪しいものではありませんと泣き落としを交えた必死の説得を始めるトゥアール。二人はギャースカ言いながら押し問答を繰り広げ、やがて総二にとって決定的となる言葉が放たれた。
「お願いします!これをつけなければーー世界から、ツインテールが消えて無くなってしまうのです!!」
「何!?」
胸をえぐられたような顔をする総二に、トゥアールはしめたっ、と小さく呟いて観束の手を取った。そのままトゥアールはするりと、いとも簡単に総二の手首にブレスレットを滑り込ませる。
「あ……」
「……よかった。これで、奴らがいつ現れても安心です」
壁の時計を見て安堵の表情を浮かべると、トゥアールさんは潤んだ瞳で総二を見た。慌てて愛香が総二の首根っこを掴んで総二をトゥアールから引っぺがす。おお、総二の体が宙に浮いてる。愛香さんマジパネェっす。
「ったくもう………あ、あれ!?」
総二の腕にはめられたブレスレットを外そうとした愛香だが思ったよりもブレスレットはぴったりはまっているらしく、彼女は血相を変えて両手で総二の手首を握り締めた。
「むぅぅぅ外れないぃ……………!!」
「いで、いででで!やめろ愛香!腕輪の前に俺の腕がもげるううううううう!?」
そんな割とシャレにならんアホなやりとりをしている二人を放っておき、パラドとアイコンタクトを取るとバッグからあるものを取り出し、何かを確認しているトゥアールに向ける。
「おい、トゥアールとやら。いくつか聞きたいことがある。大人しくてを上げろ」
「いやいや、それ人にものを聞く態度じゃ……って、何ですかそれ?おもちゃ?」
ドシュンッ!!!
トゥアールが振り返りながらそう言った途端、俺が操作する前にそれ……中央の画面に向かって赤と黒の大きなAとBのボタンがついた、左に短いチェーンソー、右に二つの小さな銃口、本体の部分に何かを差し込むスロットのある一見玩具に見える赤と黒でカラーリングされた武器ーー『ガシャコンバグヴァイザードライ』の彼女へ向けていた銃口からひとりでに光線が飛び出た。光線は髪をかすめて空中で霧散する。トゥアールは顔を青くした。
「悪いが、こいつはあまり気が長くない。あまり怒らせないほうがーー」
「ーー!エム、来たよ!」
怒らせないほうがいい、そう言おうとした瞬間、何かを感じ取ったのかパラドが声を上げる。俺は一つ舌打ちをこぼし、とりあえずバグヴァイザーを下げる。するとトゥアールはほっとしたような顔をした。
「…勘違いするな、お前には後で話を聞かせてもらう。今は非常事態だ、早くそのポイントに俺たちを飛ばせ」
「…!?なぜ、あなたがそれをーー」
「顔に風穴を開けられたいか?」
ドスを効かせた俺の声にトゥアールはブンブンと首を横に振り、なぜか胸元から某犯罪宇宙人殺すマンが持っている記憶消去装置に似た銀色の棒を取り出し、それを起動させた。次の瞬間、カッ!!!!!と爆ぜた光にその場にいた全員が飲み込まれる。
「きゃっ!な、何よこれ!?」
「ま、眩しーー」
「ふふ、心が踊るなぁ♪」
「やれやれ…」
「な、何なんですかこの二人は…」
それからは一瞬だった。俺たちは目を灼くような極彩色の閃光に包まれ、喫茶『アドレシェンツァ』から姿を消したのだった。
仮面ライダークロニクルの部分は半分独自設定です。
次回は戦闘ありです。
感想をいただけると嬉しいです。