ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】   作:熊0803

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二十話です。
深夜に書いたのを寝落ちしていま投稿するので、ちょっと内容が変かもしれません。
楽しんでいただければ幸いです。


本当のLevel up!

  変身とレベルアップをしてキングゲーマーになった総二ことテイルレッドと培養してエレメリアン態になったグラファイトは、ガンナーゲーマーレベル20に変身したテイルイエローとともにエレメリアン討伐に向かった。

 

「うむ、やはり女子中学生こそ至高」

 

  するとやはりというべきか、そこには聞くものが聞けば万死に値する暴言を吐きながら中学校の校門の前で腕組みをしながら頷いているエレメリアンがいた。先日愛香に瞬殺された巨乳属性のエレメリアンとよく似た、牛のような外見のエレメリアンだ。

 

  ただしこちらには角がなく、代わりにベルトのような意匠の首飾りでマントを留めている。つい先日見たばかりのクラーケギルディのものと同じマントだ。周りにはいつも通り、とりまきの戦闘員(アルティロイド)が複数いる。

 

「モケー!」

「モケケ!」

「そうであろう、そうであろう!」

 

  アルティロイドがカサカサと威嚇するように動き回る中、下校中の中学生は右に左に逃げ惑う。いつもそうだが、女子の多い学校が狙われやすいようだ。少し問題であるとモニターからそれを観戦している正斗は思う。

 

  その間にも、アルティロイドたちとうなずき合いながら、エレメリアンは走って揺れる醜い乳などに存在価値はない、貧乳こそ始まりにして終わりの乳などと世迷言をほざいていた。出撃を我慢している愛香が転送カタパルトに行こうとするのをまあまあとパラドがなだめる。

 

  それを聞いてレッドがガックリと肩を落としているとエレメリアンがこちらに気がつき、やや大仰な仕草で驚いた反応を見せる。いつ見てもオーバーリアクションだった。そして声を上げたテイルイエローを見てさらに驚く。

 

「そこまでですわ!」

「ややっ、現れたかツインテイルズ!我が名はブルギルディ!首領様、そしてクラーケギルディ隊長のため……む!?テイルパラドクスではないだと!?黄色のツインテイルズとは!」

 

  自らを指差して叫ぶブルギルディにアルティロイド達の前に颯爽と躍り出たイエローは、そのリアクションに満足したのか上機嫌な様子で高らかに名乗りを上げた。

 

「わたくしはテイルイエロー、第四のツインテイルズですわ!」

 

  第五の、と叫ぶトゥアールとそれをなだめる正斗の声をスルーしながら、イエローは決めポーズをとった。またしても大げさな動きで驚くブルギルディたち。

 

 それを真剣な光の宿った両目で見据えながら、イエローは正斗とトゥアールに教わった通りに頭の後ろの方にあるツインテールを結ぶフォースリヴォンに触れ、自らの武器を呼び出す。その優雅に髪をかきあげる様を直で見ていたレッドはほう、とため息を漏らす。

 

 その動作とともに雷が迸り、右手の手のひらの中に山吹色に輝く拳銃、『ヴォルティックブラスター』が生成される。するとそれに連動するように、黄緑色の光輪がイエローの体の周りに現れた。

 

《GASHAKON MAGNAM !!!》

《FANTASY BLADE !!!》

 

 どこからともなく男の声が鳴り響き、光輪に現れたいくつかの選択パネルから一つがセレクトされ、左手にやや玩具じみた大型の拳銃が握られた。左腰には鞘付きの黄金のレイピアが装備される。

 

「こ、これは一体……?」

『総二たちの強化ガシャットもそうだが、ガシャットにはそのゲームに適応した武具を生成する機能が搭載されている。存分に使いたまえ』

「はい、承知いたしましたわ!」

「イエロー、お前は雑魚をやれ!エレメリアンは俺とレッドが相手する!」

「そっちは任せたぜ!」

 

 いかにもやる気満々といった様子のイエローに配慮してそういったグラファイトとレッドは、そのままブルギルディの方へと向かっていく。彼らの仕事は彼女の初陣を華々しく飾ること。なるべく勝率の高い相手の方がいいだろう。

 

 それを後ろ目にちらりと確認すると、イエローはアルティロイドへと向きなおる。そしてさあ断罪の時だと言わんばかりに、ヴォルティックブラスターとガシャコンマグナムをアルティロイドへ向かって構えた。

 

「さあ、食らいなさい!」

「も、モケェー!?」

 

 引き金が引かれ、光る二つの銃口から無機質に走り寄ってくるアルティロイドめがけて発砲される。が、しかし……銃口から飛び出たのは稲妻のような弾丸ではなく、縁日の射的のコルク弾に等しいものだった。

 

 頼りない軌道を描いた二つの弾はアルティロイドの体を貫くことはなく、あたりはしたもののどちらとも簡単に跳ね返されてしまう。呆然とするイエロー、困惑するアルティロイド。

 

 だがハッと我を取り戻し、イエローは大仰な仕草で水平撃ちをし、合計6発を連続射出する。だがやはり、全てキャラメル箱すら倒せなさそうな弾がアルティロイドに通用するはずがない。

 

 それから何度も連射するが一向に効果は現れず。アルティロイドはだんだん、なんだか自分が悪いことをしている気がしてきた。もちろん、それはただの錯覚である。

 

「イエロー、気合を込めろ!心を燃やして、テイルギアに命を通わせるんだ!」

「そ、そうですわ!闘志で自己のスペックを超える展開もヒーローの醍醐味!威力不足はわたくしの正義の心で補ってみせますわ!」

 

 いや、間違いなくスペックは必要十分以上にある。なにせ、今現在正斗が開発を終了しているガシャットの中でガシャットブレスは三番目に強力なガシャットなのだから。

 

 レベルの概念を超え、本来ならゲムデウスを制御するために生み出された時間停止機構を備える、プロト仮面ライダークロニクルガシャット。

 

 使用者への負担が非常に高く、未だ調整が続いているガシャットギアデュアルβ。それをパラド専用に改良し、二つのレベル50のゲームを内包することに成功したガシャットギアデュアル。

 

 その二つの次にレベルの高いレベル20のガシャットブレスが弱いはずもない。であるならば、それは使用者が使いこなせているかどうかで出力は決まってくる。

 

 ヴォルティックブラスターとガシャコンマグナムを二つとも右腰にしまうと、イエローは今度はブレスの後ろにある腕の装甲を操作し、そこからレーザー砲を出現させた。

 

「テイルイエローのテイルギアは、全身に武器が内蔵されていますのよ!」

 

 イエローのセリフとともに、気合一閃と言わんばかりにレーザーが発射される……が、これも水鉄砲のような威力でピューっと飛ぶだけで終わり、敵に届く前に落ちてしまう。

 

 

 

 それからはもう、ひたすらに酷い有様だった。

 

 

 レーザー砲の次は黄色いローブに隠されていた肩アーマーが前面にせり出してきて展開し、内側からさらに左右二つずつのバルカン砲が出現するも、それも三歳児が鬼役の父親に投げる豆以下の威力しかない。

 

 あんまりにもあんまりなイエローの戦闘力にアルティロイド達がやばい、どうしようと慌て出す始末。それにムキになったイエローが腰から三門ずつのミサイルを発射するも、その物量に半比例しまくった超低威力。

 

 両足からも五連徹甲弾が出るもそれもお察しの威力。ここら辺で、モニターしている正斗は天井を仰ぎ見てしまった。

 

 胸のライダーゲージの表示された装甲板が上下四方向に開いて現れた大型のホーミングミサイルはヘロヘロと飛んでいき、アルティロイドがイエローへの同情で自ら後ろにジャンプした。

 

 接近戦用の武器である膝のスタンガンやつま先のニードルガン。そしてファンタジーガンナーのもう一つの武器であるファンタジーブレードも、アルティロイドの体に触れた途端刀身の半ばからへし折れた。

 

「こ、こんな……こんなはずでは…」

「……モケ?」

 

  全ての武装が無力だったことを知り、崩れ落ちるイエローの頭をおずおずといった様子で先程後ろに飛んだアルティロイドが撫でた。もはやそれに反応することもできず、うなだれるイエロー。

 

  結局、彼女はグラファイトがブルギルディをその強さで瞬殺し、レッドが雑魚の掃討をしている間も動くことはなく、アルティロイドに頭を撫でられ続けていたのだった。

 

  そのどこか母性が感じられる様子に、二人はそのアルティロイドだけはなんとなく倒す気になれなかったのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

「ブレスをお返しします、神崎君」

「ふむ……」

 

  ブルギルディ戦が終わったその少し後、地下基地に来るなり神堂はそう言って俺に腕から外したガシャットブレスを差し出した。俺は少し思案しながら、一応それを受け取る。

 

  しかし、これほどのものとは思わなかったな……まあ一瞬ガシャットブレスの起動が遅れた時点でもしや、とは思ってはいたがな。やはり彼女は……何かを悩んでいるようだ。

 

  だが、完全には理解できなくても大体の推測はつく。これは神堂の実力云々の話ではない。たしかに俺は数えきれないほどの武術を修めているし、総二はカイデンに、愛香は実家の道場で、パラドとグラファイトは俺の記憶から戦闘技術を学んでいる。

 

  だがしかし、今回の場合はそういう戦う技術を持ち合わせていないからとかそういう話ではない気がする。それは、ゲムデウスの力で見ることのできる神堂の少しくすんだツインテール属性からも容易に推測できた。つまりは、もっと根本的な問題なのだ。

 

  俺がそんなことを考え込んでいる間にも事態は進み、必死に屈辱の涙をこらえる神堂の頭を不器用な仕草でグラファイトがポンポンと撫でた。すると神堂はグラファイトに抱きつき、わっと泣き始める。その背をグラファイトはゆっくりとさすっていた。

 

「ふむ……ところで、『そいつ』は?」

「モケ?」

 

  グラファイトたちの様子を見た後に、俺が視線を向けた先……そこには、つい先程変身していた神堂の頭を撫でていたアルティロイドがいた。根本は同じエレメリアンであるグラファイトから聞いた話によると、何か俺に用があるらしい。

 

  それを尋ねれば、アルティロイドは先程のシュールな雰囲気から一転、その頭にパンツを被ったような見た目にそぐわぬ仕草で懐からあるものを取り出した。それは、耳につける小型の通信機のように見えた。

 

  アルティロイドはそれを俺に差し出して来る。俺は小首を傾げながらそれを受け取り、右耳にはめて……すぐに驚愕することとなった。

 

『ほっほっほっ、聞こえとるかの?』

「……!?」

 

  通信機から聞こえてきたしわがれた初老の男性の声に、俺は少し目を見開く。通信の向こう側から感知できる気配は、間違いなく人間のものだ。けれど、少し何かが違う気がする。

 

  なんにせよ、なぜこんなものをアルティロイドが持っている?

 

「……貴方は?」

『ほっほっ、礼儀のこもった口調で結構。最近の若者は失礼な輩が多いからの』

「…たしかに、ご高齢の方々に対して無遠慮な態度をとる人間がいることには賛成しましょう」

『おお、そうかいそうかい。君はわしが調べた通り、いい奴のようじゃ』

 

  そこまでの会話で、大体の推測が俺の中で組み上がった。特別製の体で、五感は内包する力を解放している龍美がその声を聞いて驚いていることから、まずこいつはアルティメギル、あるいはそれに類ずるものだということがわかった。

 

  次に、口調通りかなりの高齢者……それも、おそらくは老獪さを持ち合わせているタイプだ。歳を重ね、様々な経験をしてきた老人というのはいい道しるべにもなり、またある時には厄介な敵にもなりうる。

 

  そして最後に……この通信の向こう側にいるのは、()()()()()()()()。つまりは、その身をエレメリアンから昇華させ、人間へと至った超越者ということ。要するに、今の龍美に匹敵する強さを持っている。

 

「……それで、ご用件は?」

『おお、そうじゃったな。申し遅れた、我が名はポセイドギルディ。首領の小僧っ子を世話しとるもんじゃよ』

「まさか、そんな……ポセイドギルディ様が、この世界に!?」

『……ほ。感じていた通り、そこにはドラグギルディもおるようじゃな。いやはや、我ら〝超越せし者(ネオ・エレメリアン)〟にいつか至るとは思っておったが……めでたいことじゃ。しかし、その声……お主、女になったのか?』

 

  ……なんというエレメリアン、否、人であろうか。この数秒で、こちらに龍美……元ドラグギルディがいることを見抜いている。しかも女であることまで…いや、これは割と簡単にわかるな。声を聞けば一発でわかるし。

 

  それはともかく。それに、ネオ・エレメリアンだったか?我らと言っていたあたり、ポセイドギルディを含め超越した者は幾人かアルティメギル内にいるのか。これは少し厄介だな。今のパラドたちでは勝てない可能性が高い。ゲムデウスしか対抗できんぞ。

 

『まあ、それは良しとして。神崎君、君と今回話をしているのは、実は協力関係を結びたくての』

「……ほう?」

 

  協力関係、ときたか。

 

  龍美にアイコンタクトを送れば、彼女はゆっくりと頷く。つまり、信用していいのか。元エレメリアンであり、下位者として接してきた彼女が大丈夫いうのなら、ある程度は信頼できるということか。

 

  とりあえず、今は色々と大変だろう神堂たちに聞かれないように、アルティロイドと龍美、自分を結界で覆った。これで音漏れはしないはずだ。

 

『うむ。といっても簡単な話じゃ。そこにおるドラグギルディやわしのように、アルティメギル内にも人間との共存を望むものもおってのお。そういう奴らを引き取って欲しいのじゃ』

「……なるほど、この世界で何かしらの方法で龍美を人間にした私にそいつらを任せたい、というわけですね?」

『ほほ、龍美なんちゅー名前を貰ったのか。良きかな良きかな……と、また話が逸れたな。年寄りになると脇道にずれてかなわんわい』

「……いえ、お気になさらず。そういったものもビジネスでの楽しみの一つですので。それで、それを受諾する際のこちら側のメリットは?」

『それもまたいと易きこと。これからわしが何度か出張って、戦ってもらえれば戦闘データをやろう。老体ではあるが、これでも超越者じゃ。悪い話ではあるまい?』

 

  ……ふむ。これは、かなりの好条件だな。俺はあちらの情報を持つものを引き込めるし、何よりも新米の超越者である龍美以外の、それもかなりの経験を積んだ相手から戦闘データを入手できる。

 

  あちらはあちらで、アルティメギルのやり方に反するものを処刑されることなく姿をくらませることができる、と。何が老体だ、かなりのやり手ではないか。

 

  なんにせよ……この話、受けない手はない。かなりのメリットが俺にもあちらにもあり、それは理不尽に傾くことなく釣り合っている。ゲムデウスを呼び起こしてその超高性能な思考回路で抜け穴を探して貰ったが、今のところそれはなさそうという答えが返ってきた。

 

「…わかりました。その話、受けましょう」

『ほっほっ、物分りが良くて助かるわい。ほんじゃ、これからよろしくの、神崎君。そのアルティロイドは連絡用にそちらに置いてやってくれい』

「了承致しました。では、これにて」

 

  俺の返答を最後に、通信機が切れるノイズじみた音が聞こえてきた。俺は耳から通信機を外して近くで佇んでいたアルティロイドに返す。そして龍美と頷きあった。

 

  結界を解除すると、タイミングよく神堂が泣き止んでいた。結界により締め出されていたことで不機嫌になっていたパラドが俺に飛びついてくる。それを抱きとめながら、俺は彼らの話に耳を傾けた。

 

「……申し訳ありませんわ、鉛龍様。はしたないところを見せてしまいました」

「…いや、問題ない」

「……本当は。本当は、変身するとき失敗するものだと思っていましたの」

「そんな!会長、どうして!?」

 

  グラファイトと驚きの声を上げる総二、それと見守る俺たちに向かって、神堂はどこか儚げな微笑を浮かべながら。

 

 

「わたくしーー本当は、ツインテールが嫌いですの」

 

 

  そう言った。今度こそ絶句する総二、なんとなく予想していたのかやれやれと肩をすくめる愛香とトゥアール。無言で神堂を見るグラファイト。俺とパラドは苦笑いだ。ツインテールの化身でもある龍美は結構残念そうな顔をしていた。

 

  それから彼女は俺たちの前で語った。自分がいかにツインテールのことを愛していないかを。

 

  俺のエンプティガシャットも組み込まれてはいるものの、その深部の構造は半分以上がテイルギアのもの。テイルギアはツインテール属性というツインテールを愛する力で稼働する。つまりそれがない自分には変身はできないと思ったというのが、先程の言葉の意味なようだ。

 

  神堂は、別にツインテールにしたくてツインテールを結んでいるのではない、とも言った。それが彼女の母親……俺も知っているが、陽月学園高等部理事長でもある神堂慧夢の言いつけだから、仕方がなくやっているだけだと。

 

  昔から神堂家の家訓として強く、厳しく言いつけられてきたツインテールを子供の頃から今の今まで続けてきて、子供っぽいとずっと言われ。しかし、やめたくてもやめられない。それのせいでいつしか神堂はツインテールを憎んでさえいたらしい。

 

  けれど、神堂はどうやら自分のそんな部分を目をそらすことなく、自覚していたようで。

 

「罪もないツインテールに全てを押し付ける……子供と言われて突然ですわ」

「会長……」

「それに、わたくしは……」

「……?どうした慧理那」

「あっ、いえ……///」

「「……ははーん?」」

 

  俺とパラドは同時に声をあげた。今の反応だけで丸わかりだ。今の神堂慧理那が自分のツインテールを否定している理由が、今語られたものだけではないことに。

 

  俺はパラドと二人して、グラファイトをニヤニヤと見た。が、ギロリと睨まれたので怖くないが一応真顔に戻る。そして後ろを向いて二人でこっそりと笑った。

 

  ちなみに俺たちがそんなことをしている間、総二は呆然としていた。まあ大方、ショックを受けているのだろうな。ただし神堂がツインテールを好きではないことではなく、ツインテイルズが現れる前までマイナーだったツインテールを、みんながみんな好きだと思い込んでいた自分自身の傲慢さに。

 

  なかなかカオスな状況になってきたなと思っていると、不意にグラファイトが再度神堂に近づいた。そして何をするかと思えば……なんと、神堂の顔をその両手で持ち上げ、ほっぺたをむにむにし始めたのだ。

 

  流石にこの行動には、俺も驚いて固まってしまう。

 

「ひゃ、ひゃふぃふぉすひゅんでひゅにぉ?(訳:な、何をするんですの?)///」

「……慧理那。お前は嘘をついている。バグスターである俺にはわかるが、お前……

 

 

 本当はツインテールが好きなのだろう?」

 

 

「っ……それは」

「第一、変身できたのが証拠だ。自分に資格がないとでも思っているのだろうがな……俺は、自分を偽るお前は好きじゃない」

 

  グラファイトにそう言われて、神堂は押し黙ってしまう。おそらく、グラファイトに好ましくないというのも効いているのだろう。けれどそれ以上に、精神生命体でもある彼の確かな言葉に一種の説得力があるのもまた事実。

 

  すると、迷うようなそぶりを見せる慧理那に何かしらの決意を込めた表情の総二が近づいた。俺の腕に抱きついていたパラドもだ。

 

「私も、できれば本当のエリちゃんが見たいかな。私は正真正銘、エムのゲームを愛する心から生まれた存在……だからこそ、自分の本当の気持ちを否定するのを見ているのはちょっと悲しい。エリちゃんのツインテールへの愛は確かにある。それはバグスター()と、誰よりもツインテールを愛する男(TT)が証明するよ」

「パラちゃん……」

 

  神堂の肩に手を置き、ニッコリと笑いながら言うパラドに続いて総二も諭すように語りかける。

 

「パラドの言う通りだよ。俺はツインテールが大好きだ。愛香っていう特別はあるけど、それでもツインテールそのものも同じくらい愛してる。だからこそわかるんだ。会長のツインテールは心の底から嫌々やってるものじゃないってさ」

「……やっぱり、わかりませんわ。パラちゃんはまだわかりますわ。それが魂そのものなんですもの。けれど観束君はどうしてそこまでツインテールを愛せるんですの!?」

 

  ふむ……少しややこしいことになっているなこれは。まだ、神堂は吹っ切れていない。ゲムデウスの力で無理やり心をあばき出すこともできるが……それは外法というものだろう。

 

  彼女自身がそれを自らの意思で自覚しなければ意味がないのだ。故に、少しもどかしく感じているとグラファイトが語りかける。

 

「それこそ、お前がヒーローが好きなのと同じだ慧理那」

「鉛龍様…?」

「お前はどうしてヒーローを好む?」

「それは…それは、かっこいいからですわ!人々のために戦い、世界の平和を守る……背景がどうあれ、過程がどうあれ、必ずその信念を貫き通すからこそ、ヒーローは尊いのです!」

「なら!」

「っ!」

 

  大きく声を上げるグラファイトに、びくりと神堂が体を震わせる。しかしあくまで冷静に、グラファイトは言葉を続けた。

 

「……ならばなぜ、総二の愛が理解できない。ただその信念が、ツインテールへの愛に置き換わっただけのことだ」

「そ、それは……でも、それは建前なのでしょう!?世界を守り、そのついでにツインテールを守っているのでは……」

「違うよ、会長。俺にはそんな崇高な信念なんてない。俺は世界中のツインテールのために戦ってる……それと、愛香を守るために。最初からその二つしかなくて、それは釣り合っててさ。それ以外は強いて言えばその二つと同じくらいには関心がないんだ」

「そんな……」

 

  総二の確固とした口調で言われたことに、神堂はへたり込んでしまう。それから数度同じような応酬を繰り返したが、しかし総二達の答えは同じだった。

 

  この世界にあるすべてのゲームのため。ツインテールのため。愛香のため。戦いを求めて。それのついでに、世界を守る。つまりは神堂の理論とは逆なのだ。それこそが真実であり、事実である。

 

  ちなみに、総二に赤裸々に愛を告白されて伸びてしまった愛香が休憩ルームに連れて行かれたり、グラファイトがボソッと言った、

 

「まあ、戦う他に慧理那を守るために、というのもあるがな……」

「えっ……?」

 

  というのが神堂に聞かれて赤面させるという俺的にはかなり観ていて心の踊ることもあった。

 

 閑話休題。

 

  グラファイト達の頑固さを知ったところで、ようやく神堂は理解できたようだ。皆それぞれ、自分の好きなもののために戦っていることを。自分にとってはそれがヒーローだというだけのことを。

 

  普通の人からすればなんだそれ、と一蹴されるようなものでも、それでもそれのために戦う。それは確かに、神堂の憧れるヒーローではないであろうか。

 

「……少しだけわかった気がします。みんな違う思いを持っていて、それを貫けるのがヒーロー、なのですね…」

「そういうことだ……今のお前は一度失敗をして、格好が悪かったから逃げようとしている。格好が悪くても、往生際が悪くてもそれでも信じるもののために闘う。それがヒーローだ。違うか?」

 

  グラファイトの問いに、しかし今度は言葉を連ねることはなく神堂はしっかりと頷いた。そして声高に宣言する。

 

「…ええ、そうですわ。わたくしは自分が情けないあまり、勘違いをしていました。わたしくは今、ヒーローとはなんたるかを改めて思い出しましたわ!」

「ようやく理解したか。それなら……目が覚めたのなら俺が、お前を鍛え直してやる」

 

  いきなりの言葉に驚く一同の中で、グラファイトはニヤリと好戦的に笑い、神堂は先ほどまでの情けない顔から一転、何かを決意する顔をした。

 

 

 ●◯●

 

 

  慧理那の再特訓ということで早速、正斗が近くの採石場を買収してそこを使うことになった。その正斗は現在、トゥアールとともにそれを地下基地からモニターしている。

 

「いいか、俺は全力でいく。信念とは、思いとはなんなのかをかろうじて理解できた今のお前なら覚醒できると俺は信じているぞ」

「……はい、わかりましたわ鉛龍様!」

 

  しっかりとした声で答える慧理那にグラファイトは頷き、懐からバグヴァイザーⅢを取り出す。そして赤色のAボタンを押して手にはめたグリップに装着した。

 

  いつもと同じ音楽と音声が流れ、バグスターウィルスの培養により生じた赤黒い気泡に包まれたグラファイトがエレメリアン態である〝グレングラファイト〟に変わる。

 

  それを見た慧理那もゴクリと唾を飲み込み、一度目をつぶって覚悟を決め直すと再びガシャットブレスをはめた右腕を胸の前に持ってきて、左手でスタータースイッチを押した。

 

《FANTASY GUNNER !!!》

 

  ブルギルディ戦出撃前よりもどことなく力のこもった声とともにディスプレイが背後に出現し、周囲にゲームエリアが広がりサボテンがどんどん配置されていく。それをグラファイトと観戦に来た総二、愛香は固唾をのんで見守った。

 

  体の前に《GAME - START》の文字が並んだのを見る暇もなく慧理那は右腰に手を置き一回転、銃を抜くような動作とともに銃の形にした手を肩と水平に振るい、顔の横に持って来て高らかに叫んだ。

 

「〝第弐拾銃術〟、変身!」

《ガッチャーン! レベルアーップ!》

《FANTASY GUNNER !!!》

 

  今度はタイムラグが限りなく短くなり、変身が完了した。それを見据えて戦闘モードに入ったグレングラファイトはグレングラファイトファングを展開して右手に携え、悠然と構える。

 

  それに少し緊張しながら、イエローはヴォルティックブラスターとガシャコンマグナムを構えた。と、その瞬間髪で隠れた右目の中にさまざまな情報が映し出される残りの耐久力、銃のエネルギー残量、パラメータなどなど。

 

  驚いていると、その中の一つにジャーヴィスと思しきマトリックスも表示されているのを見つけた。ジャーヴィスは慧理那改めイエローにグッと親指を立てる。ご武運を、ということだろう。

 

「さあ、死合おうぞ!」

「参りますわ!」

 

  まず初撃、グレングラファイトが超速で接近し、グレングラファイトファングを高速で横薙ぎに振るった。ジャーヴィスのサポートでかろうじてそれを回避するイエロー。

 

  が、しかし、間欠泉のごとく猛烈に舞い上がった砂利に視界を奪われてしまう。その好きにグレングラファイトは属性力(エレメーラ)をたどって三連続でグレングラファイトファングを振るい、イエローの鎧に包まれた体を打ち付ける。

 

  悲鳴をあげそうになるイエローだが、しかし先ほどの地下基地の問答でどれだけ格好悪くても諦めないことこそがヒーローの資格であるということを思い出したので、ぎゅっとそれをこらえ至近距離でグレングラファイトに発砲をした。

 

  あいも変わらずコルク弾と何も変わりない威力の球はいともたやすくグレングラファイトの外骨格に弾かれ……しかしここで諦めることなく、イエローは果敢にガシャコンマグナムを続けて発砲した。

 

  それに応戦してグレングラファイトもグレングラファイトファングを巧みに用いて球を全ていなす。というのも、一発一発重ねるごとに、少しずつ速度が早まって来ているからだ。

 

  ヒーローの存在定義を自覚し直し、なおかつそれに少しでも近づきたいという思い。それがある今のイエローは、無意識にそれに最も近い自分のツインテールへの思いを偽らないという選択をしたことにより少しずつ力が開花して来ていた。

 

  それを間近で見ていた総二は、先程ブルギルディ戦の時に自分が言った心を燃やすというのをイエローが実践していることを感じ取り、なんとなく嬉しい気持ちになる。

 

  最初はグラファイトの攻撃を防戦一方だったのだが、少しずつイエローはテイルギアの力を引き出し始め、グレングラファイトの動きについていけるようになれていた。だがしかし、最後の一ピースが足りない。

 

  これまで彼女が長年付いて来た嘘が、吹っ切れる覚悟を阻んでいたのだ。だがそれを自覚する暇もなく、グレングラファイトの攻撃はさらに苛烈に、猛烈になっていく。

 

「そうだ、それだ!どれだけ傷ついても、格好悪かろうともなお立ち続け俺に向かってくるその姿!それでこそ、お前の望むヒーローだ!!クハハハハハ!」

「あそこまで言われれば、わたくしも鉛龍様たちのように自分が大好きなもののために戦いますわ!彼らに……ヒーローに、追いつくために!」

「その意気だ!さあ、かかってくるがいいッッ!!!」

 

 止まらない、止まらない、止まらない。

 

 

 ドゴァァッ!!バガァンッ!!!ドガァァァンッ!!!!!

 

 

  戦いに集中しすぎて二人とも気がついていないが、すでに採石場はボロボロになっていた。縦横無尽に飛び回る二人によって岩壁には風穴が開き、地面はえぐれ、空中の空気は歪む。

 

「ハァァァッ!」

「ヌゥンッ!」

 

  イエローの繰り出した刺突を、グレングラファイトが受け止める。今度はファンダジーブレードがへし折れることはなく、その攻撃は確かな威力を持っていた。

 

 だが……

 

「ふん、まだ弱いッ!!」

「キャッ!?」

 

  ファンダジーブレードはいともたやすくグレングラファイトファングに押し返され、イエローは吹き飛ぶ。未だグレングラファイトを押すには、イエローのテイルギアは力を発揮しきれていなかった。

 

  それを見てふと不思議に思ったトゥアールは、思わず声を漏らす。

 

『おかしいですね……確かに出力は本来のテイルギアに近づいて来てはいますが、何か違うような……?』

『ふむ……おそらく、彼女は今ガシャットの力しか引き出せていないな』

『……? あっ!確かに、ガシャットブレスのガシャット部分は稼働していますが、まだテイルブレスの部分がブルギルディの時とあまり変わっていません!』

 

  そう。なぜイエローがグレングラファイトを押しきれていないのか。その理由は単純で、今彼女は自分の憧れ、愛しているもの……すなわちヒーローになるために戦っている。

 

  それが功を奏し、ガシャット部分の機能は幸い引き出されているのだ。ジャーヴィスのサポートもあってそれを使いこなせてはいるが、しかしまだ自分のツインテールに関しては無意識に認めきれていない。

 

  トゥアールが声をあげたのは、イエローのパラメータをモニターしており、確かに正斗の言う通りテイルギアがうまく稼働していないことがわかったからだ。

 

  つまりイエローのツインテールへの愛を引き出して完全にテイルギアを目覚めさせなければ、グラファイトには追いつけない。ここまで強くなれば鍛え直したことにはなるだろうが、全力を出せないなどグラファイトの戦士としての矜持が許さない。

 

(……トゥアールさんと神崎君の言う通りですわ。わたくしはまだ、ツインテールが嫌いという嘘に縛られている。けれど、どうしたらそれを振り払えるのか……!)

 

  二人の通信を聞いていたイエロー本人も、それは体感していた。悔しさに歯噛みするイエロー。

 

「……そういえば」

 

  そんなイエローに、不意にグレングラファイトが話しかけた。それを首を傾げて見る一同。

 

「まだ一つ、言っていなかったことがあったな」

「言っていなかったこと…? それはなんですの?」

 

 

 

「お前のツインテール、俺は好きだぞ。いつも後ろにいるからな、よく見てる」

 

 

 

「……にゃっ!?」

 

  突然言われたことにぼんっと顔を真っ赤に染めるイエロー。だがそんなイエローにお構いなしに、言うべきことは言ったと言わんばかりにグレングラファイトファングを構えた。

 

「さあ、そろそろ仕舞いといこうか。我が究極の奥義、受けとめてみろ。お前の本当の力を見せてみろ、慧理那ァァァァァァッッッッッ!!!」

「っ!」

 

  名前を呼ばれたことに驚いているイエローを見ながらグレングラファイトは地面にグレングラファイトファングを握った右拳を強く叩きつけ、右腕と上半身全体を使ってグレングラファイトファングを回転させる。するとグレングラファイトファングを極大の炎が覆った。

 

「超絶奥義!ドドドドドドドドドド!」

 

  その炎を練り込むようにさらにグレングラファイトファングを回転させて、最後に右腕を後ろに引き絞ったグレングラファイトは高らかに自らの最高の技をイエローめがけて解き放つ。

 

「〝紅蓮爆龍剣〟ッッッ!!!!!」

 

  イエローは自分めがけて巨大な顎門を開き、襲いかかってくる炎の龍がまるでスローモーションのように見えながら、ずっと同じことが頭の中でループしていた。

 

(鉛龍様が、わたくしのツインテールが好き……ツインテールが好き……ツインテールが好き……つまり、わたくしを好き?好き?好き?好き?好き?)

 

  つまり、そういうことである。

 

 ゴァアアァアアァアアアッ!!!

 

「「会長!」」

「エリちゃん!?」

『慧理那さん!』

 

  迫り来る豪炎を前に何かブツブツと呟いて棒立ちになっているイエロー……慧理那に、総二と愛香、パラドとトゥアールの四人が思わず声をあげた。

 

  だがしかし、正斗だけはモニタールームにてニヤリと笑い……そしてイエローに向かって大声で叫んだ。

 

『神堂慧理那!!!』

「っ!」

『グラファイトは君のことを好いているという!では君はどうなのかね、神堂慧理那……いや、テイルイエローッッ!』

「え、あ、あう、あ……」

 

  正斗の発破に対して、もはや混乱が頂点に達したイエローは……

 

 

 

 

 

「わ、わたくしもですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

《ガッチャーン! ()()()・アーップ!》

 

  何が起こったのか、最初総二たちには理解ができなかった。気がついたらグレングラファイトの紅蓮爆龍剣が消しとばされていたのだ。後に残った土煙のせいで、イエローの姿が見えない。

 

  やがて土煙が晴れると……そこにいたイエローの姿に、思わず驚きの声をあげた。イエローの姿が変わっていたのだ。

 

  それまで背中にあった補助ブースターが肩のアーマーに移動し、巨大で長大な訪問に。腹部や体の側面にあったアーマーが全て胴体に移動し、強固な装甲版と化している。その装甲板には本来胸部装甲に隠されていたホーミングミサイルを発射する穴が二つ空いている。

 

  腰のミサイル砲に両足の五連徹甲弾が接合され、さらに大きくなっている。両腕にもごつい巨大な装備が装着され、レールカノンとレーザー砲が展開して両腕全体を覆う形になり、そこにヴォルティックブラスターとガシャコンマグナムが展開・合体して左右二門ずつの四門の大砲とかしていた。

 

  そして最後に頭のヘッドギアじみたヘッドバンドも同じように展開され、頭の上部分を全て覆う機械の帽子になっていた。側面に小さな砲門のついたそれはまるで水兵の帽子のようであり、前面にはツインテールのエンブレムが浮き彫りになっている。

 

『これは……?』

『ふ、これこそがガシャットブレスの真の力……ガシャットのアーマーとテイルギアを融合させ、更なる力を発揮する……名付けて、〝テイルアップシステム〟といったところか』

「テイルアップシステム……」

 

  イエローは自分の変化したテイルギアを見下ろし、感慨深いものがこみ上げてきて思わず声を漏らした。そして自分の中のツインテール属性が開花したのを感じる。

 

  自分はいまだにツインテールに対して完全に心を開いたわけではないが……しかしグラファイトが、自分の想い人が好きだと言ってくれるなら、少しは好きになれる気がしたのだった。

 

  そんなイエローにグレングラファイトファングをしまったグラファイトが近づいて、その頭を撫でる。

 

「……よくやった。真の力を解放したな。それでこそ、俺の知る神堂慧理那だ」

「鉛龍様……」

「それにしても、すごいではないか。自分もツインテールが好きだと言えるとは」

「……へ?」

 

  そこでようやく、イエローは自分が先ほど口走ったことを思い出してみるみるうちに顔を赤く染めていった。そして顔をうつむかせ、不気味な笑いをあげ始める。

 

  突然笑い始めたイエローにグレングラファイトがうろたえていると、突如バッとイエローが顔を上げる。その目尻には涙が浮かんでおり、何かを堪えるように唇を真一文字に結んでいた。

 

「鉛龍様の……」

「……?」

 

 

「鉛龍様の、バカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

「グフォォォッ!?」

 

  テイルイエローの本当のレベルアップは、勘違いしたグラファイトにキレたイエローにゼロ距離で一斉掃射され、お空の星になるというなんとも締まりのない終わり方だった。




本来の力を解き放つことに成功したイエロー。復活する幹部二人。そして……闇の処刑人が姿をあらわす。

次回「決戦、烏賊騎士と海竜!」

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