ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】   作:熊0803

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どうも、定期テストの理系科目で地獄を見た作者です。
しばらく更新していなくて申し訳ありません。
挿絵管理のところにパラドのイラストをあげたので、見ていただければ幸いです。


黄色いガンナー、テイルイエロー!

 

  トゥアールからの通信を受け、秘密基地に戻ればそこには途方にくれたような様子の神堂と桜川氏、グラファイトがいた。抱きついてきたパラドを受け止めながら案の定今日もいる未春さんに説明を求めれば、トゥアールの事情は伏せて大まかな事情を話し終えたところらしい。

 

  総二は最後まで悩んだようだ。うまく口裏を合わせようとでもしたのだろうが、俺からすればグラファイトがいる時点で薄々気づかれていたと思うがな。

 

  その俺の予想は外れることなく、どうやら神堂はグラファイトはもちろんのこと、パラドクス……パラドのことも感づいていたみたいだ。そこから芋づる式に総二たちのこともなんとなく予想していたと。

 

  それでも未だ衝撃が抜けきっていない神堂に対し、さすがは神堂家のメイド長と言うべきか桜川氏はすでに落ち着いていた。そしてグラファイトに細かいことを尋問している。トゥアールは壁に寄りかかり、愛香と総二は神堂の前に座っていた。

 

  それらを見ながら俺は咳払いをする。すると全員がこちらを向き、俺の存在に少し驚いたような顔をした。

 

「そんなに俺がいることが不思議かな?」

「いえ……神崎君がここにいるのは当然ですわよね。なにせ、ツインテイルズ……パラちゃんたちの力をトゥアールさんと作り上げた張本人なのですから」

「おや、話したのかトゥアール」

「ええまあ。ただしテイルブレスとガシャットの開発は両方とも正斗さんと私の共同開発ということにしました」

 

  耳元でこそこそと囁くトゥアールにふむ、と頷き、俺はパラドとともに余っていた椅子に座る。そして神堂に色々と質問し始めた。

 

  まず、今は完全に総二たちのテイルブレスが見えているらしい。まあ、いつか言ったように認識撹乱装置(イマジンチャフ)は既知の人間や、なんとなく正体をつかんでいる人間には効かないらしいからな。

 

  そもそも、神堂はグラファイトが変身する以前からなんとなく総二たちのことを予想していたようで。まあパラドはわかるな。こいつは戦っている時とゲームしているときの顔やテンション、口調がそのままだ。総二たちの方は先ほども言った通り、と言ったところだな。

 

「ごめん会長。女の子に変身して戦っているなんて人に言えるようなことじゃないから……あんなに応援してもらっていて、結果的に騙すことになった」

「まあ、そう気にすることはないであろう?ヒーローは正体を隠す……どの世界の戦士もそうであった。まあ、たまにわざと素顔を晒している戦士もいたがな」

「龍美」

 

  いつのまにかトゥアールの横で腕組みをして壁に寄りかかっていた龍美はふっと笑い、神堂と目を合わせる。そして数秒間見つめ合い、唐突にサムズアップを交わし合った。まあこいつ、最近特撮にハマってるしなぁ。

 

  いい機会なので、世間にもあの編入の時も言ったように龍美の正体を神堂に詳しく説明をした。すると神堂の目がキラキラと輝き出す。

 

「もとは悪の組織の敵幹部で、ヒーローたちの仲間入りをする……熱い、熱いですわ!」

「ふははは、まだ戦えはしないがな!」

「それでもその覚悟、尊敬に値しますわ!」

「ふむ、お前とは仲良くなれそうだな、高貴なるツインテールの少女よ!」

 

  ガシッと握手をする二人に苦笑しながら、しばらく特撮の話をしていそうだったのでその間にこちらはこちらで話をまとめることにする。もちろんグラファイトたちも含めて、だ。

 

  おそらく、神堂は正体をばらすことはしないだろう。彼女の性格は俺がよく知っているし、普段から一緒にいるグラファイトのお墨付きだ。まあ、それ以前に洗いざらい話してしまったのだから信用するしかないのだがな。

 

  そして話はこれからのことに移る。つまり、神堂をどうするか。これまでと変わりなくグラファイトが守ると言うが、しかしこいつも神堂と一緒にいない時間だってある。風呂や食事、トイレまで一緒なわけではないからな。それに、グラファイトにこれ以上任せきりになるのも神堂の心情的に良くは思うまい。

 

  ならどうするか……と言ったところで、俺はふと壁の格納棚に視線が行った。するそこには、未だ持ち主が決まっていない黄色いガシャットブレスが置かれている。それを見てちらりと神堂のツインテールを伺うとふむ、と頷き、首をひねっている総二たちを置き去りにしてコツコツと棚に歩いていった。

 

  ガシャットブレスを棚から取ると、それを龍美と特撮談義をしている神堂の前にごとりと置く。当然、楽しそうに笑うパラドや未春さん以外の全員が目を見開いた。

 

「神堂慧理那君、唐突だが面接だ。君はツインテイルズの一員になる気はないかね?」

「わ、私が、ですの!?」

「正斗さん!?それは……」

「ふむ、私ではダメなのか?」

 

  机に置かれたガシャットブレスをひょい、と桜川氏が持ち上げようとするが、しかしその瞬間ガシャットブレスから放電現象が発生しその手を弾いた。とっさに手を引く桜川氏。

 

  あいにく、このガシャットブレスはテイルブレスとのハイブリッド型……ツインテール属性のないものには使えない。今まで狙われなかった以上、桜川氏にはツインテール属性が存在しないことが容易に推測できる。

 

  それを説明すれば、なるほどと桜川氏は頷く。それにトゥアールがまあ超絶貧乳なのに貧乳属性(スモールバスト)が芽生えない人もいますしね、なんて言って軟質素材の床で愛香にバスケットボールのボールにされているのを尻目にさあどうする、と神堂に目で問うた。

 

  ゴールのない空間にスリーポイントシュートを決め込んでいる愛香をスルーした神堂は、しばし躊躇するような顔をしていたものの、しかし最後にはガシャットブレスに手を伸ばした。

 

  恐る恐る伸ばされたその手は、しかし弾かれることはない。つまり、ガシャットブレスに認められたということだ。ぱあっと顔を明るくしてグラファイトを見る神堂。それにグラファイトは、ゆっくりと頷いた。

 

「……最後の確認だ。それを渡すのは、別に戦いを強制するわけではない。問題のない範囲で社員の要望を聞き入れる、それも社長の仕事だからな」

「えっと……」

「つまりそれは、いざという時の自衛手段だ。これから先も、ただグラファイトに守られているだけというのもできる。さあ神堂慧理那、君はどちらを選ぶ?」

「私は……私は、戦いますわ!これ以上、アルティメギルにこの世界を侵略させないためにも!」

 

  決意を込めた瞳で言う神堂に、俺は鷹揚に頷いて手を差し出した。つまり、面接は合格、ツインテイルズに採用ということだ。神堂は感極まったように目を潤ませながら、俺の手をその小さい手で握り返す。

 

  それが終わると、俺はもう一度一同を見回した。もう異論はないな?と。ここまでやるともう諦めたのか、それともグラファイトと言う保険があるからか苦笑して我が仲間たちは頷いた。それを見た神堂はついに泣き出してしまう。それを龍美が背中をさすっていた。

 

  数分後。涙を拭った神堂に、ガシャットブレスを再度見て語りかける。

 

「再三確認するが、いいのだな?相手は特撮に出てくるような普通の怪人ではない。まぎれもない変態だ」

「見くびらなで欲しいですわ、神崎君。私、ヒーローに憧れていますのよ?ヒーローはどんな相手であろうと、悪ならば必ず打ち倒す。それがたとえ変態でも、私は戦いますわ!」

「…その意気やよし。ではグラファイト、これをはめてやれ」

 

  少しいたずら心が発動した俺は、ガシャットブレスをグラファイトに放った。グラファイトは危なげなくそれをキャッチして、そして神堂と顔を見合わせて頬を赤くし、そっぽを向く。だがその先にいるのはニヤニヤしている俺たち。

 

  グラファイトは深いため息をついた後、再度神堂をじっと見た。その瞳には、覚悟を問う心がこもっている。それを神堂は真っ向から受け止め、ゆっくりと頷いた。

 

「……覚悟ならできていますわ。だから、お願いします鉛龍様……はめて下さい。あなたに、はめて欲しいのです」

「……わかった」

「うふふ……まるで婚約指輪(エンゲージリング)のようですわね」

「ぬ……」

「ねえエム、そういえば私婚約指輪もらったっけ?」

「ああ、部屋の金庫に婚姻届と一緒にしまってあるだろ?」

「そうだったね♪」

 

  神堂のまるで口づけをせがむような、背伸びの上目遣いを受けたグラファイトはそれを見てやべーやべー言いながらいきなり謎のブレイクダンスを始めたトゥアールを尻目に、ゆっくりと神堂の腕にガシャットブレスをはめ込んだ。

 

  遠心力で白衣の裾が地面につかないほど高速で回転するトゥアールを愛香が回収していったのを見ながら、俺はニヤリと笑う。なぜなら、自動的にフィット調節されたガシャットブレスからノイズが走り、神堂の体を駆け巡ったからだ。苦しみだす神堂に、グラファイトが困惑する。

 

「おい正斗、これはどういうことだ!?」

〈ご安心を。ガシャットブレスが神堂慧理那様の詳細データを収集しているだけでございます〉

『っ!?!!?』

 

  突如聞こえてきた新たな男の声に、俺以外の全員が驚いたように秘密基地のコンピュータを見た。声の発生源たるそこには、オレンジ色で球体型の謎の単一意識(マトリックス)が浮かび上がっている。

 

  その謎のマトリックスの言う通り、少しずつノイズは収まり、ガシャットブレスに吸収されていく。そしてそれが終わるとガシャットを起動する音がガシャットブレスから発生し、イラストが浮かび上がる。

 

  荒い息を吐いている神堂を、龍美が小さな体を支えて椅子に座らせた。俺は二人に近づいてバグヴァイザー(ドライ)を取り出してガシャットブレスに接続し、余分なバグスターウィルスを吸収する。

 

「はぁ、はぁ……」

「ふむ、ご苦労様と言っておこう、神堂。それにしても……こうなったか」

「エム、どんなガシャットになったの?」

「……()()()()()()

〈命令を受諾。スクリーンに表示します〉

 

  再度男の声が響き、パラドの質問への返答を表示する。するとスクリーンいっぱいにゲームのディスプレイが表示され、そこには砂漠の中に佇む銃と黄金のレイピアを携えた、ボロボロのマントと幅広の帽子、茶色いブーツに白いズボンを纏った銃士が映し出されていた。

 

「ガシャット名は『FANTASY GUNNER』。さしずめ夢幻銃士といったところか。どうやら神堂、君の戦闘スタイルは銃と剣が主体のようだぞ」

「銃と剣、ですの?」

 

  落ち着きを取り戻し、首をかしげる神堂に俺は鷹揚に頷き、ガシャットブレスの元となったエンプティガシャットの特性を説明した。すると特撮好きの神堂は即座にその説明を理解し、目をキラキラとさせる。

 

  そんな神堂に未春さんとパラド、それと本当にいつ入ってきたのかわからないけど未春さんの隣にいる母さんがふむふむと頷き、なにやら話しかけていた。

 

「よかったねーエリちゃん。これで全部対応できるじゃない」

「パラちゃん」

「そうねぇ。総ちゃんと愛香ちゃんは近接戦闘タイプだし、パラドちゃんはエナジーアイテム次第だからね」

「そうそう、新しい仲間なら多数の相手との戦いに対応できるように後方支援も兼ねた火力タイプがいいって思ってたんだ。けど正斗はお母さんの言うこと聞いてくれないし…」

「よく見てらっしゃるなあこの母親たちはーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

「聞いてくれないもなにも、なにも銃に強制する必要はないだろうに」

「ぶーぶー、正斗のいけずー」

 

  年齢にそぐわぬ若々しすぎる顔を膨らませて可愛らしく怒る我が母親に苦笑する俺と、頭を抱えて絶叫する総二。そのまま総二は未春さんに詰め寄り、なにやら騒ぎ始める。

 

「総ちゃんもふと『自分は接近戦が得意だけど、遠距離攻撃が得意な敵と戦う時のために飛び道具も持っておかないと』って考えたりするでしょ?」

「考えるかぁぁぁぁ!せいぜい窓の外に流れる雲を見てあ、あれ愛香のツインテールに似てるなって思うくらいだよ!」

「にゃっ……!?」

 

  総二の発言に顔を真っ赤にする愛香、ニヤニヤしてそれを見るトゥアール、パラド、未春さんに母さん。ふむ、俺はパラドとどこにデートに行こうかとか、会社に関係すること、あるいはゲームのことかな?

 

  言ってはなんだが、俺は授業を受ける意味がないからな。幼少期に海外に行ったとき、あちらで大学まで飛び級で卒業しているし。だから日本の高校の勉強なんて聞き流しても楽勝で全問正解できる。

 

「母さんはいつもそういうことを考えていたわ。そしたら父さんと目があって、はにかみあったりしてね。お互い同じことを考えてるんだな……って」

「なら息子の心情ともリンクしてくれないかなぁ!?今これまでにないほどものすごく(おなか)が痛いんだけどなぁ!?」

「素敵な青春時代でしたのね!わたくしもできれば、ヒーローについて熱く語れる旦那様だと、幸せ、なんですけれど……」///

 

  そう言いながらチラチラとグラファイトを見る神堂。バレバレにほどがある。当のグラファイト本人はあえて気がついていない風を装っていて、今すぐ神堂の頭を撫でくりまわしたいのを我慢しているのか手で手を抑えている。こいつも末期だな。

 

  とまあ、そんな桃色空間かしばらく広がり、全員が元に戻ったところで早速変身してみようかということになったが……神堂が欠伸をした。

 

「む、いかん。もう八時か。お嬢様は九時には眠たくなられるのだ。そろそろお暇せねば」

「駄目ですわ、尊。せっかく仲間として認めていただいたのに、途中で帰るなんて」

〈神堂慧理那様のバイタルを解析。解析終了。既に体が休眠状態に入る兆候が出ています。日常的に継続している生活リズムを乱すことは体調の悪化、思考能力の低下、その他さまざまな不具合を及ぼします。即座に帰宅し、睡眠をとることを推奨いたします〉

「……だ、そうだ」

「……今更だが、なんなんだこいつは?」

 

  桜川氏の言葉にウンウンと頷き、全員が俺に説明を求めるような表情を向けてきた。俺はやれやれと肩をすくめ、透明板を取り出すとそれを操作。地下基地の立体映像装置を起動させ、会議机の中央にそれを浮かび上がらせた。

 

  するとそこに現れたのは、巨大なオレンジ色の球体のホログラム。スクリーンに映っているものと同じだ。外部の円が絶え間なく移動し、内部もまた脈動している。それはまるで……そう、まるで人間の思考を表現ような動き。

 

  科学者たるトゥアールはすぐにこれの正体に気がついたのか、目を見開いて俺を見た。俺はニヤリと笑い、説明を始める。

 

「こいつはジャーヴィス。元はエンプティガシャットに入っていた変異ゲムデウスウィルスで、電気信号を伝って本来ならガシャットブレスに搭載されたサポートAIを乗っ取って意識を確立、インターネットから莫大な知識を溜め込んだ存在だ。もちろん攻撃の意思はないから安心してくれ」

「……意思を持ったウィルス、ですか。恐ろしいですね、ゲムデウスというのは。そんなものまで発生させるなんて」

「それがゲムデウスが神たる所以さ。とまあ、それはともかく。マスター権限は神堂に譲渡済みだ。これから使ってやってくれ。なかなか役に立つぞ?」

 

  俺の言葉に従うように、ジャーヴィスは器用に0と1で構成されたマトリックスの一部を変形させて頭の形にし、ぺこりと頭を下げる。それにつられたように神堂と桜川氏もお辞儀をし返す。

 

  それから、門限が迫っているという神堂たちをジャーヴィスを託して見送り、俺たちはそれぞれの家に帰っていくのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

  一方、アルティメギル基地。仮面ライダークロノスに敗北を喫したリヴァイアギルディとクラーケギルディは深い傷を負い、ポセイドギルディによる治療を施された後どちらとも療養のために眠っていた。

 

  いつもなら言い争いを諌めるリヴァイアギルディとクラーケギルディがいないのをいいことに、更に両陣営の争いは激化。それを素知らぬ顔で見るポセイドギルディ。事なかれ主義ではないが、彼は自分で気がつくまで放って置くタイプだ。

 

  そんな様子を尻目に、我が物顔で通路を歩くエレメリアンが一体。ややスマートなフォルムをしているその男の名はフェンリルギルディ。下着こそ至高と謳う、孤高……否、孤独なエレメリアンだ。

 

  その賛同してくれる者がいない焦燥と若さゆえの野心、それらから生じる傲慢さを持ち、あまつさえツインテール属性そのものも必要ないと言ってしまったフェンリルギルディを沈鬱な雰囲気を纏ったスパロウギルディが呼び止めた。

 

「……ダークグラスパー様が、お前をお呼びだ。心して謁見賜るが良い」

「なんと!?」

 

  ポセイドギルディによりその存在が真であることは知られていたが、よもやすでに到着していたとは。 巡ってきたチャンスにフェンリルギルディは思わず内心笑いをこぼした。

 

  闇の処刑人の恐れられているとはいえ、首領直属の戦士。その権威に声をかけられたとあれば、思い当たる理由は一つしかない。力を合わせよという首領の心遣いも虚しく争いを続ける部隊に見限りをつけ、新しい戦士……すなわち自分に統一を任せるという勅命であろう。

 

  スパロウギルディの表情を部下が大出世することへの悔しさと勘違いしたフェンリルギルディは軽い足取りで通路を進み、専用に改造されたという部屋へと向かうのだった。

 

 

  ーーそれから数分後。ダークグラスパーのために専用に改造された部屋の中にあった光景は、自らの長刀をバラバラにされ呆然とするフェンリルギルディと、それを嘲笑うように見る全身をすっぽりと覆い隠す()()()()()()()()()眼鏡にツインテールの少女ーーダークグラスパーだった。

 

  何が起こったのか簡潔に説明すれば、まずフェンリルギルディはダークグラスパーが人間の少女であったことに驚いた。そして首領に媚を売ってのし上がったのだろうと舐めていた。

 

  だが壁にうず高く積み上げられた無数のエロゲーの箱……それも不思議な力でツインテールの形に……や、その一つをプレイしてフェンリルギルディの眼前でだらしなく顔を緩ませるというまさかの所業に戦慄した。この人間はできる、と。

 

  だが認識を改めたのもほんの数秒間のこと、ダークグラスパーに愚弄され、怒りのまま長刀を尻尾から引き抜いたまではいいものの、一歩も動かずダークグラスパーに破壊されたというわけだ。

 

「ば、バカな……」

「妾の眼鏡は、すべてを見通す。貴様の謀反など、この部屋に足を踏み入れた時から見えておったのじゃ」

「そ、そんな……!」

「だが分かっておろうな?貴様が処刑されるのは……妾ではなく、首領様への反逆ゆえ!」

 

  それまで目も合わせなかったダークグラスパーは初めて立ち上がり、威圧するようにバサッ!と純白のマントをはためかせる。それを見てようやく、フェンリルギルディは自分が無実の罪を咎められていたのだと知る。

 

  縋るように手を伸ばすフェンリルギルディだが、ダークグラスパーから告げられたのはほんの軽口で出た、自らの言葉。すなわち、ツインテール属性の不要。

 

  なぜ、その言葉を。クラーケギルディやリヴァイアギルディの目の前でしか言っていないその言葉を、あの堅物二人が告げ口するはずもないではないか。では、この少女には本当にすべてが見えているというのか。

 

「もとより貴様らの個々の属性へのこだわりは、ツインテール属性を奪取した上で許されていたもの!それをどこで履き違えたか……愚か者どもは、黙っていればどこまでもつけあがりおる。事もあろうにツインテール属性を不要と断じるなど……首領様に、神に唾する行為!死してなおあまりある大罪じゃ!」

「わ、私はただ、ツインテール属性にだけこだわることはないと……首領様に楯突く意思など微塵も!」

「くどい!」

 

  フェンリルギルディ訴えを、その鋭く研ぎ澄まされた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で切って捨てたダークグラスパーは、その眼鏡を光らせる。

 

  激しく発光したダークグラスパーの眼鏡から放たれた二つの光円が視界すべてを覆うように巨大化する。その形はまさに、自らの尻尾を噛むウロボロスのごときインフィニティー。

 

眼鏡よりの無限混沌(カオシックインフィニット)……さあ、せいぜい地獄を楽しむがいい……!」

 

  再び白衣を翻し、黒い装甲に覆われた右手でサムズダウンしたダークグラスパーの姿を最後に、フェンリルギルディは円に溶け込むように別の空間に沈んでいった。

 

  えっほ、えっほ、と、野太い声が聞こえてくる。それにフェンリルギルディは敏感に反応し、びくりと体を震わせた。

 

  女性の下着を愛するフェンリルギルディにとって死よりも辛いもの……それすなわち、男の下着。筋肉質なふんどし一丁の男たちが汗に肉体を煌めかせながら、濃い吐息を撒き散らし一面を闊歩する。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

  男だらけの空間、男ディメンションの中で悲鳴をあげるフェンリルギルディを男たちが取り囲み始める。むせかえるような男スモークに、フェンリルギルディは恐怖の極限に達した。

 

「お許しを!どうかお許しをー!!ダークグラスパー様ー!!」

 

  男たちの汗は蒸発し、立ち上り、男クラウド、そして男レインボーを作り上げる。野心もすべてかなぐり捨て、許しを懇願するフェンリルギルディの声は、男たちのえっほ、えっほ、という声にかき消され、やがて空間と共に消滅した。

 

 軽口も許されよう。

 

 道化も、かぶくのも許されよう。

 

 野心さえ、見過ごそう。

 

  だがしかし、アルティメギルという組織においてーーツインテール属性を軽んじることだけは、存在を許されぬほどの大罪となりえるのだ…。

 

  フェンリルギルディの最後を見届け、禍々しい形状の椅子に座り、これまた禍々しい形のデスクの上にあるパソコンを見るダークグラスパーは静かに眼鏡のブリッジを中指で持ち上げる。

 

  すると白衣が解けるように舞い上がって粒子になり、眼鏡に吸い込まれていく。程なくして、眼鏡の下にあるオッドアイの中身が別物へと変わった。もちろん、少女自身も。

 

  冷徹な処刑人・ダークグラスパーはまるで別人になったかのように目をたれ下げ、柔和な笑みを浮かべて赤く縁取られた黒いジャージの中からとあるものを取り出した。

 

  それは、大きなUSBメモリだった。大きくEの文字が斜めに刻まれたそれには、小さなボタンが付いている。それを見てふにゃりと笑うダークグラスパーだった少女。

 

「きょ、今日も頑張りましたよ……〝師匠〟」

 

  愛おしそうにUSBメモリを撫でた少女はお揃いの、唯一ダークグラスパーの時と変わらなかった無限の刻まれた金眼を嬉しそうに緩め、おずおずとマウスをつかみ直して心置き無くゲームの続きをやり始めた。

 

「もっと頑張って、いつかアルティメギルを掌握する…そしてあの人の無念を晴らして…何より、いつかあなたを見つけにいきます。だから、待っていてくださいーー()()()()()

 

  少女の独白は、エロゲーから発せられる少女の矯正によって誰の耳にも届くことはないのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

  翌日の放課後。ツインテール部の部室でいつも通り各々好きなことをしていると、控えめにノックがされた。パラドが入室許可を出すかしないかくらいで、待ちきれないといった様子の神堂が滑り込むように入って来た。

 

「はぁ、はぁ……お、お待たせしましたわ。生徒会の仕事が長引い、て……」

「そんなに急がなくても、特に問題はない。とにかく座れ、神堂。龍美、お茶でも淹れて……っと、いらぬ心配だったな」

「ふっ、無論だ」

 

  俺が指示を出す前にすでに動いていた龍美が淹れたお茶を神堂に差し出す。こいつは特撮然りお茶淹れ然り、様々なことに興味を示している。その熱意ゆえか全てが高水準なので、もはや苦笑しか出てこない。

 

  神堂は差し出されたそれを飲んで一息ついたようで、神堂はほっとした表情を見せた。先回りされた桜川氏がそれを見てぐぬぬと唸っている。

 

  そんな桜川氏に呆れたような目を向けながら、グラファイトも入ってきた。それを確認した神堂は自らの腕にはまったガシャットブレスを撫でて、そわそわとし始めた。いかにも説明が待ちきれないといった様子だ。

 

  そんな神堂にトゥアールが例の未来型説明キットを展開し、テイルギアの概要を説明する。俺もまたジャーヴィスを呼び出し、仮マスター権限でガシャットの説明とそれに該当する箇所をホログラムで説明した。

 

  その長ったらしい説明に飽きることなく付き合っていた神堂は表情をとろけさせて聞き入っている。さすがはヒーローオタク、こういうのは大好物ということだろう。

 

  ちなみに、エクセリオンショウツのところは俺が説明しながらトゥアールの背中にバグヴァイザーの銃口を押し当てていたので、無事にスルーされた。変なことを言おうものなら電撃で気絶させる算段だった。

 

「ところで神崎君、変身するための掛け声はありまして?」

「ふむ……今の所全員個々の好みで変えているな。すでにこの部屋に属性力(エレメーラ)で結界を張った。現実世界とは隔離してあるから、実演してくれ」

「だから正斗、規格外すぎだから……」

「……まあ、ここまでされたらやるっきゃないわね」

「あは、心が躍るなぁ♪」

 

  俺の行動に呆れたような声で応答した三人とついでにグラファイトは、それぞれの変身を見せる。独自の掛け声から始まり、総二と愛香は似ていて反対の、パラドは獰猛な笑みで、グラファイトは冷静な声で。ふむふむ、改めて見ると、これはなかなかすごいな。

 

  感心している俺の横で、それらを見た神堂は感極まったようにぴょんぴょんと飛び跳ねる。そして早速考える人のようなポーズで自分のものを考え始めた。

 

「ちなみに神堂、君のガシャットは調べたところ、レベルは20だ。参考にしてくれたまえ」

「ありがとうございますわ、神崎君!」

 

  しばらくの後。ようやく考えがまとまったのか、神堂は俺に変身してもいいか問いかけてきた。期待がありありとこもったその声音に、俺は自信を持って頷く。

 

「エリちゃん、言葉も大事だけど変身するっていう認識と意思をしっかり心の中で意識して。そうすればきっとできるよ」

「パラちゃん……はい。そ、それでは……」

 

  パラドに頷き、神堂は真剣な顔になる。ガシャットブレスのはまった腕を胸の前に持ってきて、もう片方の手でイラストの描かれた台形部分の付け根にあるスタータースイッチを押し込んだ。

 

《FANTASY GUNNER !!!》

 

  ガシャットブレスのライン部分が発光し、先日のディスプレイが神堂の背後に表示される。体の前に《GAME - START》の文字が浮かび、そう広くない部室の中にディスプレイ内の砂漠らしくサボテンが次々と設置された。

 

  それを見て驚いた後、再度表情を引き締めた神堂はその場で一回転、その動きに伴うように何もない右腰からまるでホルスターから引き抜いた銃を模したかのように人差し指と親指を立てた手を肩と水平に振るい、そして最後に手の形はそのまま顔の横に持ってきて宣言した。

 

「〝第弍拾銃術〟、変身!」

 

  訪れる一瞬の静寂。かっこよく決めた神堂はうろたえるが、しかしガシャットブレスが突如展開し、そこからいつも通りの男の声が発せられた。

 

《ガッチャーン!レベルアーップ!》

《I live in the 〝FANTASY〟! My name is 〝GUNNER〟! Let's go with me! FANTASY GUNNER !!!》

 

  ガシャットブレスから迸った黄色い光の帯が繭状に展開され、全身に光の粒子が張り付いていく。それは一瞬のことなので知覚できないが、まばゆい光を放ちシルエットが変化した神堂がその場に現れたのは確かな事実であった。

 

  思わず後ずさるほどの激しいスパークを巻き起こし展開された自分のテイルギアを見て、神堂は嘆声を漏らした。

 

「こ、これが……わたくし……?」

 

  変身前よりも、声が大人びていた。いや、声だけではない。総二がそうであるように、変身に伴い激しい身体の変化がもたらされている。

 

  テイルギアを纏ったその姿は非常に成熟しており、愛香やパラドと同身長まで伸びている。腰が高く足はすらりと伸びており、いわゆるモデル体型というやつだろう。身体だけ見ると神堂の面影は一つも見当たらない。

 

  しかし目を引くのは、変化した身体そのものだけではなかった。かなりの重装甲となっていた。それに加えて真ん中に分割用の線が走る豊かな胸部を覆う装甲は片方が四つの丸いボタン、まるでゲーム機のコントローラーについているそれのような形状で、もう片方の左胸装甲には三本積み重なったHPバーが存在していた。

 

  胸だけではなく、その特徴は全身に見られる。テイルギア的な要素はら愛香や総二と違い満遍なく装甲板で覆われている全身には、例えば背中の左右からそれぞれ飛び出た、総二風に言えばツインテールのような八の字を描いた補助ブースターのようなものだったり、両腕にも何かしらの武器と思わしき装甲が付いている。

 

  黄色い全身のテイルギア装甲の他には、本来なら他のものと同じ水着っぽいアンダースーツが装甲以外の肌を全て覆うものに変わっており、それは紺色と蛍光色のグリーンで染められていて特殊な模様が浮き出ている。それは狙撃兵を思わせた。

 

  他には頭には機械的で、ヘッドギアのようなヘアバンドをつけて、右顔がすべて前髪で隠れており、露出している左目は赤くなっていた。首からは背中にかけてブースターを露出させる穴の空いた大きな黄色いローブを纏い、それは腰下くらいまで長さのあるなかなかの代物だ。

 

「おめでとう神堂、これで君はツインテイルズの一員……新たなる戦士、テイルイエローとなった」

「神崎君……」

「ふふ、これでゲーム仲間兼、世界を守る仲間だねエリちゃん」

「パラちゃん……」

「……似合っているぞ、慧理那」

「鉛龍様!」

 

  グラファイトに褒められ、感極まったように目を潤ませる神堂。それを尻目に、変身して巨乳になっていることに愛香がトゥアールに掴みかかっていた。その顔は名だたる絵画コレクターたちが際限なく競り値を釣り上げそうなほど。

 

  涙……というか血涙を流して神堂に飛びかかろうとする愛香を、総二と二人掛かりで押さえ込む。こいつは何度言ってもこの悪癖が治らないな。総二はお前の貧乳が好きだと言っているだろうに。

 

  え、何、お前が洗脳したんだろって?さあなんのことだか俺には少しわからないな。

 

  そんなふうにギャーギャーと騒いでいると、唐突に部室の机の上にあるトゥアールのパソコンからアラートが鳴り響いた。既に空間は元に戻してあるので、エレメリアンの出現を感知したのだ。

 

「ふむ、アルティメギルか。さあ神堂、初陣だ。気張って来い!」

「はい!」

「なら俺も一緒に行こう」

 

  意気揚々と出撃しようとした神堂に、グラファイトがそう言った。神堂は驚いたような顔をしたが、すぐに頷くとグラファイトの手をギュッと握った。一緒に戦ってくれという意味だろう。

 

  いい感じになっている二人を見て、俺は総二たちにアイコンタクトをする。今回は総二だけ一緒に出撃して、華を持たせてやろうということだ。それに愛香とパラドはこくりと頷く。

 

 

 

  さあ、神堂慧理那ことテイルイエローガンナーゲーマーレベル20の初戦……どうなる?

 

 




元ネタはオレカバトルの夢幻銃士ダルタンです。
ジャーヴィスはおなじみアイアンマンからですね。

全く力を発揮できなかったテイルイエロー。落ち込む慧理那を、グラファイトが叱咤する。

次回「本当のLevel up!」

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