ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】   作:熊0803

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すみません、話を予告とは違うものに変更しました。
今回はあのキャラが復活です。
楽しんで頂ければ幸いです。


ホームルームは一波乱

  早朝の神崎家。その無駄に馬鹿でかい屋敷の一室、俺専用の研究室の実験ルームに俺はいた。まだ総二達は来ておらず、今日はパラドも起こしていない。

 

「変……身」

 

  上下左右前後全て見回しても全てが白い実験ルームの真ん中で、俺は制服姿のまま立ち腰にはバックルをつけてベルト状にした薄緑と銀色、赤で彩られたそれ……ガシャコンバグヴァイザー(ツヴァイ)を装着し、そう呟いた。

 

  それと同時に〝その〟ガシャットを持つ右腕をあげ、まるで時計のように横にしていた手をまっすぐにして暗緑色のスタータースイッチを押し込む。すると黒色のガシャットが起動し、基盤が光った。

 

《KAMEN RIDER CHRONICLE !》

 

  いつもの総二達が使っているものとは違う渋い男の声が響き渡り、それを確認するとガシャコンバグヴァイザーⅡの赤いAボタンを押す。すると軽快な音楽が流れ始め、それに沿うようにガシャットを上に投げた。

 

  縦にもでかい部屋の半分ほどまで飛び上がり、しかしそこでガシャットは静止しひとりでに戻ってくる。旋回するような軌道でガシャットは俺めがけて落ちてきた。

 

  戻ってきたガシャットは俺の体の周りを二回転したのち、これまた自動的に基盤が斜め下になり反転するとガシャコンバグヴァイザーⅡの差し込み口(スロット)に収まった。

 

《ガシャット……》

 

  テイルギア適応型のガシャットやガシャットギアデュアルと比べるとやや冷静な声で音声がなり、そのままガシャコンバグヴァイザーⅡ上部にある赤色のスイッチ…バグルアップトリガーを押し込む!

 

《バ・グ・ル・アーップ!》

 

  ガシャコンバグヴァイザーⅡ中心のディスプレイが光り、そこに灰色のデフォルメキャラクターが映し出される。それに伴うように頭上にホログラムの時計盤と長方形のディスプレイが現れた。

 

  右手を掲げると時計盤が真っ二つに割れ、長針と短針が高速回転しⅠからⅻの文字が体の前面に降りてくる。やがて全ての文字が落ちてきて円形に並ぶと、ディスプレイが俺の体をくぐり抜け変身を完了させた。

 

「ふむ……なるほど、こうなるわけか。〝この〟ガシャットに関しては俺でさえも完成するまでは何も分からなかったからな。このようなエフェクトが出るのなら……そうだ、いい変身音声が浮かび上がってきたぞ」

 

  変身した体を見下ろしながらブツブツと呟く。このガシャットの性質上、名前は……そうだな、()()()()とでもしておくか。さて、それでは一番重要なところを確認しなくては。

 

  スーツに包まれた両腕を上げ、ガシャコンバグヴァイザーⅡ……長いからそろそろバグルドライバー(ツヴァイ)と呼称しよう。バグルドライバーⅡのAボタンとBボタンを同時に押した。

 

《PAUSE!》

 

  俺の体から波動が広がり、周囲の世界が少しだけ灰色になる。それを見て俺は実験が成功したことを確信した。では今度は解除の方だ。もう一度ABボタンを同時に押す。

 

《RE–START……》

 

  よし、こっちも問題ないな。しかし、ポーズとリスタートか……つくづく、俺はゲームバカならしい。未知数のガシャットにさえこんな音声が付いているんだからな。

 

  そう考えながら再度実験をしようとABボタンを押す……が、ポーズは発動しなかった。ふむ、もしや回数制限があるのか?要改良だな。

 

  それからいくつかの実験を繰り返し、一度の変身で使えるポーズ&リスタートは一回のみという結果を導き出すことに成功した。なるほどなるほど、これはどこをどう直せばいいのかわかってきたぞ。今まで確認できた問題点をクリアすれば、このガシャットは完成できる……!

 

「…っと、もうこんな時間か。そろそろ総二達が来る頃だな」

 

  そういうことで変身を解除し、着ていた制服のこれもまたトゥアールにより改造された内側の胸ポケットにバックル、バグヴァイザーⅡ、ガシャット……〝プロト()()()()()()()()()()()ガシャット〟を仕舞うと実験ルームを後にした。

 

 

 ●◯●

 

 

  時間は進み、学校でのHR。担任が気怠げに、紹介する人物が二人ほどいると間延びした声で言った。テンプレのごとく美少女か!?それともイケメンか!?と騒ぎ立てるクラスメイト達。

 

  だがその一人を知っている俺からすれば、早くクラスメイト達を驚かせたい気持ちで一杯だった。我ながらなかなか意地が悪いとは思う。だがこういうイベントは大きなリアクションあってこそ成立するものだ。

 

  俺がそう思っている間に、ガラリと教室のドアを開けて転校生が入ってきた。その瞬間、誰もがほう……と感嘆のため息を漏らす。それもそうだ、〝彼女〟は誰もが見惚れるほどの美しい金色のツインテールを持っていたのだから。だがそれ以上に、見た目が見目麗しいのもあるだろう。

 

  陽月学園の制服に身を包んだ体は標準的な高校生女子の慎重でありながら、彼女の足取りが堂々としていることも相まって身長以上に大きく見せる。標準スカートからすらりと伸びる二本の脚は脛の中ほどまで黒い靴下に覆われ、大部分はその白くてきめ細やかな肌を晒していた。これも標準的な起伏がブレザーの胸元を押し上げ、彼女の体格的にちょうどいいと言えるだろう。

 

  だが、彼女にとってもおそらく呆けている総二にとっても最も大切なのは、やはりツインテール。黒い紐で蝶々結びにされた一対の金髪はまるで夜空を流れる流れ星のよう、その完成度は愛香に勝るとも劣らない。つまり、それほど()()ということだ。

 

  やがて教壇の隣にたどり着いた彼女は体をくるりと回転させ、俺たちに向かって正面を向きふんすと腕組みをする。勝気な笑みと、自信に溢れた光の宿る綺麗な蒼眼。それに男子も女子も等しく見惚れる。

 

  が、いつまでたっても彼女は自己紹介をしようとしなかった。さすがに不思議に思い、少しざわざわとし始めるクラスメイト達。そんな彼らを見て含み笑いしながら、俺は立ち上がった。当然、こちらに注目がいく。

 

  それらをすらりと受け流し、俺は腕組みをしている彼女の隣まで歩いていくとその肩をポンと叩いた。そして言葉を発する。

 

「諸君、紹介しよう。彼女の名前は〝黒咲 龍美(くろさき たつみ)〟……()()()()()()だ。ほら、覚えているだろう?最初に宣戦布告をしてきたあの黒い竜だ」

『え……えぇええええぇぇぇええぇええぇええぇええぇええええぇえぇええッッッ!?』

 

  全員がハモって絶叫を上げた。総二や愛香、トゥアールでさえもだ。そして俺に千差万別の疑問を投げかけてくる。だが、如何してかあまり非難に該当するものはなかった。それは世間的な俺の信頼度か、はたまた別の理由か。

 

  とまあ、それはいいとして。俺は不敵な笑みを浮かべ、彼女……黒咲 龍美こと元ドラグギルディの紹介を続ける。

 

「俺は考えたのだ、彼らエレメリアンとも、いい関係を築くことができると。数日前、バグスター達のことは公開しただろう?」

 

  そう。俺はグラファイトが変身して神堂を守ったその日のうちにバグスター達のことを余すところなく公表した。どこから来たのか、今どうしているか、誰がそうなのか、そして安全なのかなど。当然全力を尽くしたので、元からの彼ら彼女らの社会的地位や信頼度により事なきを得た。

 

  つまりは、エレメリアンは危険だがバグスターは安全という認識が世界に広がっている今ならばうまく説明できればドラグギルディを……俺が苦労して人間にした彼女のことも受け入れられると確信したからだ。

 

「彼女は長年悩んでいた……なぜ自分たちは奪わなければならないのか。もっといい方法が、ともすれば共存の道もありえたのではないかとな。だからこそ、俺はその〝道〟を彼女に与えた」

「ああ、そうだとも。社長は俺に……いや、私に人間としての人生をくれた。私をただ奪うだけの修羅の道から解放してくれたのだ」

 

  コロコロと鈴がなるような綺麗な声で初めて話した龍美に、クラスメイト達は再度驚く。そして龍美が一筋の涙をこぼし、その心を表すかのようにぎゅっと拳を握り締めた様子を見て同情的な雰囲気になって来た。よしよし、いい感じだ。

 

  ここでさらに畳み掛ける。俺は葛藤していたドラグギルディをスカウトし、アルティメギルから引き抜いて人間の……それも、彼が渇望していたツインテールの美少女に生まれ変わらせたと説明する。そして彼らエレメリアンが心そのものの存在であり、それに魂を賭けていることも。

 

  そうして俺の大げさな身振り手振りの伴った熱弁とそれに追随する形での龍美の告白が功を奏したのか、次々と「今まで辛かったんだね!」や「大丈夫だ、これからは俺たちが友達だからな!」とか「敵さえも引っ張り込む社長の手腕……そこに痺れる憧れるゥ!」など肯定的な声が上がった。とりあえず最後のは褒め言葉として受け取っておこう。

 

「とまあ、そんなわけでこれから彼女は、人間の君たちのクラスメイトだ。仲良くしてくれると助かる」

「うむ!精進していくから、よろしく頼む!」

 

  儚そうな見た目に反して勝気な龍美の言葉に、クラスメイト達は全員が賛同してくれた。よし、ミッションコンプリート。未だ困惑している総二達には後で再度説明することにしよう。

 

  一通りの予定が滞りなく終了したので、龍美は空いていた窓際の席に座り、俺は自分の席に戻る。それを見届けた担任は、もう一人の人物を紹介する。再度教室のドアを開け放ち現れたのは……なんか、見覚えのあるメイドだった。

 

  身長は162センチほど。鍛え抜かれたのがわかるミニスカートから覗くすらりとした両足に抜群と言っていい全身のプロポーション、大人びた表情に切れ長の瞳。それをカスタマイズされたメイド服とサイドアップにしたツインテールが助長させ、一人の美しい女性をそこに存在させている。

 

「本日から陽月学園の非常勤体育講師として赴任された、桜川尊だ。よろしく頼む」

『……………』

 

  当然、困惑して黙り込むクラスメイト一同。一人の女子が担任の樽井女史におずおずと手を挙げ説明を求めるが、しかし空気読めない上に事なかれ主義の彼女は両手で耳を塞いで自分は何も知りませーんと言っていた。部室の件と言い、なかなか強かな教師だ。

 

  そんな樽井先生を置いておいて、桜川氏は自己紹介を始める。神堂のメイド兼ボディーガードたる彼女は、ただ校内でメイドがじっとしていることに気を使った慧理那により学園長と理事長に相談し、こうして非常勤講師として赴任して来たらしい。慧理那の護衛はどうやらグラファイトに任せるようだ。

 

  ああちなみに、グラファイトは神堂と一緒に登校してきた瞬間囲まれていた。まあ、人がたくさんいたショッピングモールの駐車場で変身したからな。校庭のど真ん中でもう一度自分も見たいという振動にせがまれ、培養して怪人態になりめっちゃ写真を撮られていたようだ。疲れた表情が今でも頭に浮かんでくる。

 

  それにしても、おそらく総二達を含めたクラスメイトはこう思っていることだろう。スーツでもジャージでもなく、メイド服の体育教師とはいったいこの学校はどこを目指しているのだろうと。まあ、元エレメリアンで現美少女の編入が通った時点でかなり特殊なのは知っているがな。

 

  それから桜川氏は何を血迷ったかお近づきの印にとか言って全員の男子生徒に婚姻届を配ってきた。その中でツインテール好きだと暴露された総二が詰め寄られて直接婚姻届を渡されていた。が、しかし。

 

「桜川氏。残念ながら総二は諦めていただきたい」

「む、神崎か。君は……ダメだな。パラド君との関係を大々的に公表している。流石に私は社会的に死ぬ覚悟はまだできていない。それで諦めろとは?」

 

  いや未成年の高校生男子に婚姻届を配っている時点で正気ではないと思われていますよという言葉をなんとか飲み込み、俺はパラドとトゥアールとアイコンタクトをして三人同時に懐からあるものを取り出した。

 

  それは、A6サイズほどのコピーされたとある書類……すなわち、桜川氏と同じ婚姻届だった。

 

「ーー残念ながら、既に総二は愛香と婚約をしているのでね。後は二人が結婚が可能になる年齢になるとともにこれを提出するだけなのですよ」

「ーーーっ!?!!? お、おい正斗ォッ!おまっ、それ俺の部屋の机に鍵かけてしまっといたやつじゃねえか!何コピーしてんだよ!」

「あは、私も持ってるよ〜♪」

「私もです! 私はもう、総二様と愛香さんのことを全力で応援すると決めていますからね!正斗さんにもらったこのコピーは既にさらに100枚ほどコピー済みです!」

「トゥアール……」

 

  突然の暴露に顔を赤くしていた愛香は、トゥアールを驚いたような顔で見つめた。そんな愛香に、トゥアールはニッコリと笑い親指を立ててサムズアップする。おお、普段残念科学者なのにかっこいいな。

 

  あ、ちなみにこの婚姻届のコピーは未春さんと津辺一家、神崎一家全員が持っているので抜かりはない。ずっと支えてくれた親友達だ、これくらいは当然である。

 

  そんなことを考えながら、俺は大爆発したクラスメイト達の歓声に包まれ顔を真っ赤にしてプルプルしている総二に目を向けた。

 

「さあ総二、ここまでお膳立てしてやったのだ、自ら宣言してはどうかね?」

「……………ああもう、わかったよっ! そうだ、俺はもう愛香と結婚するって決めてる!だから他の誰の婚姻届も受け取らねえ!」

「「「うおおおぉ!!!」」」

「「「キャーーー!」」」

 

  桜川氏……ではなくて、愛香の方に向き直り叫んだ総二にクラスメイトは雄叫びをあげる。当の愛香は湯気が出るほど顔を真っ赤にしていた。だが俺は見逃していないぞ、その嬉しそうな表情を。トゥアールはなんか、ものすっごい穏やかな微笑みを浮かべていた。閻魔大王が裸足で逃げ出すくらいの微笑みを。

 

  それからまたテイルレッドがなんだのブルーがなんだのとギャーギャーといろいろ騒いでいたが、ホームルームは無事に?終了するのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

  スパロウギルディはクラーケギルディ、リヴァイアギルディの部隊を迎えるべく、黒白竜の死により意気消沈していたスワンギルディとそんな義兄を心配するイグレットギルディをせめて気晴らしにと伴い基地最奥の搬入口へと向かっていた。

 

  ちなみに、ポセイドギルディは用意された自室で寝ている。本人曰く、長旅で疲れたらしい。いかな三護神といえど、単独での世界移動は負担があるようだ。

 

「何としてもお二方の仲を我らの手で取り持ち、ツインテイルズを打倒するのだ」

「はい……」

「あ、兄上……」

 

  覇気なく答えるスワンギルディとうろたえるイグレットギルティを心配しながらも、しかし歩みを止めないスパロウギルディ。ベテランたる彼は今まで何体ものエレメリアンが消えゆくところを見ているが故に、痛いほど気持ちがわかったからだ。

 

  彼が言った言葉の意味とは、効率化の意味の他に各々の好みの相違による無駄な口論を展開させないため小部隊に分けられているアルティメギルの部隊の中でも、特に巨乳と貧乳……けして相容れぬ対極に位置する属性を持つリヴァイアギルディとクラーケギルディであるからだ。

 

  そのため、二人とも非常に強い戦士ではあるが余計な勃発を引き起こされてはツインテイルズ打倒など夢のまた夢だ。だから、何としても協力させなければいけない。犬猿の仲、水と油そのものの二人だが、たとえこの身がどうなろうともと老兵は覚悟と焦燥を抱いた。

 

  そんなスパロウギルディ達が移動艇の着艦した搬入口にたどり着くと、案の定そこは猛烈な殺気に包まれていた。頭を抱えるスパロウギルディ。既に二大軍団は到着するや真っ向からにらみ合い火花を散らしている。最たるものは、そのエレメリアンたちを率いる大将二体だ。

 

  細身で精悍な顔つきの、肩から垂れ下がっているものを中心に全身に細い触手を無数に備える貧乳属性(スモールバースト)のクラーケギルディに、人魚の尻尾が如く股間から垂れ下がる巨大な一本の触手を螺旋状に体に巻き付け、鎧としている巨乳属性(ラージバースト)のリヴァイアギルディ。

 

  クラーケギルディとリヴァイアギルディは十数体の部下を後ろに従え、今にも戦いを始めんばかりに威嚇し合っている。このままでは最悪の事態に直面するのは必須、それを避けるためスパロウギルディは火中に飛び込む。

 

「クラーケギルディ様、リヴァイアギルディ様。お、お二人がこの世界に来てくださるとは、光栄でございます」

「フン、首領様の命令は絶対だからな。どうも強敵打倒の増減にかこつけてどこぞの無能部隊の引き受けまで任されたようだが」

「ハンッ、言ってくれるな。それはこちらのセリフよ。侵攻する世界で何度も情けをかけ、属性力(エレメーラ)の完全奪取を遂行せず見逃した半端者が」

「言ってくれる。お前こそ騎士かぶれが一層増したな、なんだ、揃いのマントなど部下に着せおって。それに、先ほどの言葉は義父上(ちちうえ)を愚弄する言葉ぞ?」

 

  リヴァイアギルディの言に声を荒げようとした部下の一人をクラーケギルディは制し、ギロリとリヴァイアギルディを睨み据える。それからまた二体は常人が聞けばくだらないやりとりを続け、

 

(キョ)ォォォッ!」

(ヒン)ッッッ!!」

 

  裂帛の叫びとともに、お互いの触手を激突させようとする。が……

 

()ぃ〜っと。やかましくて一眠りすることもできんわい」

「「ッ!?!!?」」

 

  激突する直前、いつの間にやら間の空間に現れていたポセイドギルディの髪触手によって掴まれていた。髭を撫でながら穏やかな声で言うポセイドギルディは、その雰囲気とは真反対に超速で髪触手をうならせクラーケギルディとリヴァイアギルディを壁に叩きつけた。

 

  壁が軋むほどの剛力で叩きつけられた二体はズルズルと地面にずり落ちたのち、同時に「「義父上(ちちうえ)!?なぜここに!」」と叫んだ。そう、クラーケギルディとリヴァイアギルディは反発しながらもかつてポセイドギルディに師事し、ともに修行した仲なのだ。

 

  ほっほっと穏やかに笑うポセイドギルディは久しぶりに見る義理の弟子息子二人にあまり老体を動かさせんでくれと言い、終始柔らかい笑みを浮かべたまま廊下の奥へと消えていった。ポセイドギルディに言われてはクラーケギルディとリヴァイアギルディもこれ以上は争えない。

 

  互いの顔を見合わせた後フンッと鼻息を漏らし、互いの部下にこの基地と自分たちの母艦を接合するように指示を出した。それが終わったらツインテイルズの記録をみると言い、リヴァイアギルディは基地の構造を聞くとドラグギルディ、バハムギルディの相部屋に向かって歩き始めた。

 

「お、お二人の御部屋に何か……?」

「がははは、何、負け犬どもの面影でも見ておこうと思ってな!」

「……っ!」

 

  リヴァイアギルディの言葉に、それまで消極的だったスワンギルディの雰囲気が変わった。それにいち早く気がついたイグレットギルティは兄を止めようとするが、スワンギルディはイグレットギルティを押しのけ、リヴァイアギルディの節くれだった肩を掴む。

 

「リヴァイアギルディ様……今の言葉、お取り消しを!ドラグギルディ様とバハムギルディ様は誠、見事に戦い命をーー」

「慎め若造!」

「ぐぅ……っ!?」

 

  神速で振るわれたリヴァイアギルディの股間の触手により吹き飛ばされ、先ほどの二体のように壁に叩きつけられるスワンギルディ。リヴァイアギルディは鼻を鳴らして「俺に生意気な口を聞く前に、剣の一つでも振って強くなれ!」と言って再度歩みを進めた。

 

  崩れ落ちるスワンギルディに、イグレットギルティとスパロウギルディが慌てて近寄る。悔しがるスワンギルディに、スパロウギルディは無言でリヴァイアギルディを指差した。そちらを向いて、スワンギルディは驚愕する。つられたイグレットギルティもだ。

 

  なんとリヴァイアギルディは、自分の体を巻きつけた触手で引き千切らんばかりにギチギチと縛り付けていた。それはまさしく、不器用な男の深い悲しみを表現している。触手で怒り、触手で泣く。それがリヴァイアギルディなのだ。

 

「リヴァイアギルディ様はドラグギルディ様、バハムギルディ様と旧知の友。悲しくないはずがあるまいよ」

「……剣の一つでも振るえ、ですか」

 

  ぐっと自分の右拳を握りしめ、噛みしめるように言うスワンギルディにイグレットギルティは右手を自らの胸に置き、静かな声で言った。

 

「……兄上。その覚悟がおありならばこのイグレットギルティ、どこまでもついていきましょう」

「……感謝する、我が妹よ」

「ほっほっほっ。若いのう」

 

  突如聞こえてきた声にギョッと振り向けば、そこには先ほどあくびをしながら部屋に戻ったはずのポセイドギルディが佇んでいた。ポセイドギルディはスワンギルディとイグレットギルティを見据え、弓なりの目を開き鋭い眼光で射抜く。

 

「強くなりたいか?」

「「………………はい!」」

「……ほ。その意気や良し。ならばお主らに、真の究極の試練をわしが教授してやろう」

「し、真のでございますか!?」

「さよう。五大究極試練の約半分……すなわち半年に期間を詰め込み、内容はさらに過酷なものとなった代物じゃ。それを潜り抜ける覚悟は、お主たちにあるか?」

「無論でございます!」

「このイグレットギルティ、兄上とともにどこまでも!」

 

  やる気満々の新米二人にポセイドギルディは満足げに頷き、彼が友たる残りの三護神とともに生み出した試練を二人に教授するのだったーー

 

  ーーついでに、リヴァイアギルディが黒白竜の部屋に赴き、それぞれ一つずつおっぱいマウスパッドを供物として置いていったこともここに記しておこう。

 

 

 ●◯●

 

 

「ということで、これからよろしく頼むぞ!」

 

  時間は進み、放課後のツインテール部部室。ホームルームの時のように胸を張って……愛香が一瞬鬼の形相をしていたが……ドラグギルディ改め龍美が言えば、全員がパチパチと拍手をした。まあ、俺と彼らの交渉を直に見ていたからな。受け入れられるのも早かったのだろう。

 

「そういえば、どうやってドラグギルディを人間にしたんだ?」

 

  総二の質問に俺は待っていましたと言わんばかりに答える。

 

  どうやってドラグギルディを人間の少女に変えたか。その方法はそこまで複雑なものではない。というのも、ただ単にドラグギルディ本人からアルティメギルに伝わるという五大究極試練とやらを教えてもらい、それをゲムデウスの力で幻として再現し時間を現実世界よりも何百倍にも加速させ、ここ数週間ほどドラグギルディを鍛え上げただけだ。

 

  その結果、ドラグギルディはその五大究極試練を幻の中で約百年間もの間続け、人間の姿を手に入れることができた。具体的に説明すると、例えば俺はいくつもの属性力を肉体に持ち、それを融合させることで究極のバグスター、ゲムデウスへと変わることができる。ならばその反対は?と仮定し、結論はこうだった。

 

  すなわち、一つの属性を極めたエレメリアンはそれの源流たる人間に回帰するのではないか?と。

 

  その過程はどうやら当たっていたようで、精神生命体たるドラグギルディに文字通り極限の修行(精神状態)を常に味あわせ、その中で属性力を磨いていかせたのだ。俺の目論見は無事に成功し、あの時見た見事な黄金のツインテールを持った今の姿になった。

 

  が、ここで一つ問題が発生した。どうやらこの姿、そう長く持たせることができないようなのだ。当然だ、極限の集中状態に入って初めて、真の実力を解放した姿こそがそれそのものなのだから。それをずっと維持しろというのは無理難題だ。

 

  だが、こんなところで諦める俺ではない。約束した以上、本人の期待以上の結果を残すのが俺のポリシーの一つだ。故に連日徹夜してまで考え抜いた。考えて考えて、そろそろ気分転換にゲームでもしようかと思ったところで……閃いた。

 

  ゲームといえば、ガシャットだ。そしてガシャットには必殺技を発動する際止められないよう、一時的に無敵状態になるプログラムが組み込まれている。つまり、状態を一定時間維持できるのだ。それに加えて例の〝あの〟ガシャットのシステムを使えば、うまくいくのではないか?

 

  思い立ったが吉日とはよく言ったもので、三日間悩んだ末に出た解決策はあっさりと数時間で実現した。ゲムデウスの力で人間態のドラグギルディの肉体の情報を複製し、〝あの〟ガシャットの力を使い消滅しないよう保管するとゲムデウスウィルスとバグスター達の身体構造を応用してドラグギルディ人間態のクローンを作り出したのだ。

 

  結果は上々。近未来系のゲームだとクローンは寿命が短いとかいうのがあるが、そんな出来損ないを作り出すことなどクリエイターとしての俺が絶対に許さない。その執念が功を奏し、強力なドラグギルディの力に耐えられる完全な人間の体を作り出すことに成功した。

 

  で、無事にその肉体にドラグギルディの意思の宿った属性玉(エレメーラオーブ)を移植し、こうして今ここにいるわけである。

 

「いやちょっと待って、ぶっ飛びすぎててもうよくわかんないんだけど」

「本来ならクローンの作成は科学者としてはご法度なんですけどね……」

「まあ、エムだし今更じゃない?」

規格外から生まれた規格外の存在(バグスター)が言うか!?」

「ふははは、やはり賑やかだな、お前達は!」

 

  豪快に笑う龍美。そんな彼女にふと疑問を抱いたのか、総二が尋ねる。

 

「えっと。当然、知ってるんだよな?俺たちの正体……」

「勿論だとも。そこにいる少女がテイルブルーでそこの女性がテイルパラドクス。そちらの白衣の少女が仮面ツインテール、そして……お前がテイルレッド。相違ないか?」

「……ああ、そうだけど。その、お前は…」

「フ……確かにショックは受けたさ。だが、それはもう過去のドラグギルディ(わたし)のこと。今の私は人間黒咲龍美だ。これからは人の少女として、新たな運命の出会いを求めよう!」

 

  立ち上がって大胆不敵に宣言する龍美に、おーと感心の声を上げる一同。確かに、ここまで思い切っているのはいっそすごいな。さすがはアルティメギルの一部隊を率いていただけの器の持ち主、ということか。

 

「それじゃあ、あんたも戦いに参加すんの?」

「いいや、それはまだだ。というのも、どうやら私はこの体を維持するために普段は力を抑えられているらしくてな」

「ああ、ゲムデウスウィルスにドラグギルディのDNAを加え、培養した肉体といえど耐えられる力には限界値があるからな。それに、どうやら体質的にもガシャットが使えないらしい」

「へえ、そんなこともあるのね」

「じゃあ、一緒には戦えないんだな」

 

  残念がる総二に、俺は不敵に笑って言葉を発する。

 

「まあ、何もずっとそうわけではない。今、とある会社と取引をしていてな。うまくいけば、新しい力の鍵となるものを譲渡してもらえる」

「へえ、そうなのか!それで、なんていう会社なんだ?」

「ああ……〝鴻上ファウンデーション〟だ」

 

  鴻上ファウンデーション、古代の文献や遺跡、遺産などを多数発掘し、その権利を持つ会社だ。同時にロボットやマシン関係の会社で、かなりそちらの業界では有名な会社である。

 

  そして龍美が扱えないガシャットの代わりに使うのは……確か、〝恐竜オーメダル〟と言ったか?太古の錬金術師達が恐竜達の力をメダルに凝縮し誕生した代物、だったか。随分オカルトじみたものだったが、商談の際実物を見せてその力を確認させてもらっているのでガセということはないだろう。

 

  現在、例のプロジェクト…ガシャット専用の特殊変身用装置、〝ゲーマドライバー〟と並行してオーメダルの力を引き出すドライバーを作成している。数ヶ月すれば完成するだろう。

 

  一通りのことを話し終えると、全員で親睦を深めるためにしばし談笑に興じた。だがしかし、奴らは律儀にも毎日やってくる。

 

「……皆さん、エレメリアンです」

「…今日も来たか」

「まったく、毎日毎日懲りない奴らね」

「まあ、我らエレメリアンにとって属性力(エレメーラ)奪取は文字通り死活問題、定期的に摂取しなければ消滅してしまうからな」

「なるほどな……まあいい。総二、愛香、パラド。いけるか?」

「当たり前だよ♪」

 

  全員が各々の変身アイテムを手に持ち、自信満々に頷いた。俺も頷き返し、トゥアールとともにオペレーションの準備に入った。

 

「セカンドテイル・オン!」

「第五撃、変身ッ!」

「大変身」

《ガッチャーン!レベルアーップ!GOLDEN KING SAVIOR !》

《ガッチャーン!レベルアーップ! PURPLE BEAST BERSERKER !》

《Dual up!! PERFECT PUZZLE!!!》

 

 

 

 さあ、今日もエレメリアン討伐の開始だ。

 

 




エレメリアン討伐により、手に入れられた巨乳属性の属性玉。愛香の願望が爆発する。そして現れる幹部級エレメリアン。怯えるブルー……ついに、正体は発覚する。

次回「神(仮)、降臨!」

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