ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】 作:熊0803
楽しんで頂ければ幸いです。
「ええっ!? せ、生徒会長!?」
「ふむ、やはり来たか」
「エリちゃん、思ったより早かったねー」
「いやいやお二人とも、なぜそんなに落ち着いているんですか!?」
こちらを鬼気迫る表情で見て言うトゥアールや、慌てて受け取ったガシャットを隠すのに必死になっている総二、愛香に俺とパラドは苦笑し、まあ落ち着けと諭すような口調で言う。
「事前にここが幻夢コーポレーション支部だということは提出してある。ツインテイルズの協力者である俺がいるのに、どうして慌てる必要がある?」
「「「……あっ」」」
ぴたり、と動きを止めてそういえばみたいな表情をする三人。そう、ガシャットを作ったのも俺だと公表している以上、三人はあくまでも学友のふりをすればいいのだ。
なぜいるのかと聞かれれば、既に神堂に総二たちのことは話したことがあるし、ツインテイルズの熱心なファンで俺の手伝いをするバイトをしてもらっていると説明すればいい。自画自賛ではないが、俺の言葉には一定の説得力があるからな。
それに……初日で総二のツインテールバカは知れ渡ってるしな(笑)。
そんなことを考えながら、俺はゆったりと全員が落ち着いて席に着くのを待つ。そう時間がかからないうちに総二達は席に座りなおし、それを見たパラドが「入ってきていいよー」と声をかけた。するとガラリと扉が開き、神堂達が入ってくる。
「お邪魔いたしますわ」
ーーしゃなり。
彼女が入ってきた時の空気を擬音で表すならば、まさにそれであろう。空気が変わった、とでも言うべきか。たおやかな歩みで入ってくるその姿はまるで一国の女王が如く、むさ苦しい闘技場に清楚な姫が踏み込んだかのようだ。
彼女が小さい体を揺らすたびにそれに伴い黄金のツインテールも揺れ、ツインテールバカでもない俺でもその凄みは伝わってきた。それはつまり、それくらい完成度が高いと言うことで。彼女の
ふと前を見れば、対面に座っていた総二は呆気にとられていた。まあ、不機嫌顔をした愛香につねられていたが。それはどうでもいいとして。神堂慧理那生徒会長は、そんな雰囲気をまとい入室してきた。
神堂は今日転校してきたばかりのトゥアールをちらりと見た後、後ろにいたグラファイトから俺たちが提出した新設希望の紙を受け取り広げた。表情も一瞬前の笑顔から一変、引き締まる。
「申請のあった部活新設の書類を見て、少し気になりまして。直接確かめて新設許可を出させていただこうと思い、こちらへ伺いました」
「わざわざ申し訳ない。それで、〝私〟達の書類に何か不備が?」
生徒会長としての職務を全うする、人の上に立つための態度を示す神堂に対して俺も仕事用の口調に変えて答える。
「いえ、不備というわけではないのですが……部活内容はツインテールを研究し、見守ること、そして幻夢コーポレーションの支部としてツインテイルズの支援をするため、とありますが」
「間違いないな。彼らのことはもう話してあるだろう?私の自慢の幼馴染達だ」
「マサ……」
フッと微笑む愛香にひらひらと手を振り、不敵な笑みのまま話を続ける。ついでに総二を指差しながら。
「特にこいつは昔から大のツインテールバカでな。ツインテイルズのファンらしく、どうせだから手伝いをしてもらおうと思ってな」
「ちょ、おまっ!」
「なるほど……わかりましたわ」
わかっちゃったよ。愛香、グラファイトとトゥアールも含み笑いしてるし。
それから神堂がなぜそこまでツインテールが好きなのか?と聞き、それに総二が神堂のツインテールを見ながら(また愛香につねられていた)ツインテールを好きになるのに理由はいるか?と答えるなどの問答があったが、とりあえず無事に終了した。
俺は総二が迷いなくツインテールが好きだと答えた時の神堂の動揺などを感じ取っていたが、あえて指摘しなかった。だいたい理由は察せるしな。
そんなこんなで、滞りなく確認は終わったかと思った、その時。
「……あら? 観束君、いくら部室の中といっても派手なアクセサリーは校則で禁止ですわよ?」
「「「「っ!?」」」」
「ほう?」
総二、愛香、トゥアール、パラドの四人は息を呑み、俺は少し声を上げ、グラファイトはピクリと眉を動かす。ふむ、これは面白い。テイルブレスには
だが神堂は俺が作った特注品だというと納得したようで。幻夢コーポレーション系列の会社からもツインテイルズのグッズ、アクセサリーがわんさか発売されているし、テイルレッドのものもまた然り。
故に事前に総二がツインテールバカと知っていたことによりそこまで疑問視はされなかったようで、失礼いたしましたわという言葉とともに退出していった。
「ちょ、ちょっとトゥアール、どういうことよ!?」
「わ、私にもわかりません!なぜ認識撹乱装置が……」
「ふむ……確か、
「それじゃあ……」
こくり、と頷く俺に、トゥアールは総二と愛香のテイルブレスを今夜メンテナンスすると言った。俺の方はそもそもガシャットに認識撹乱装置などつけていないので、特に言うことはない。
というのも、俺は別に正体がバレてもそこまで問題ではないと考えているためだ。いまのツインテイルズはあくまで幻夢コーポレーション所属の謎の戦士という肩書きでしかない。それならばいっそ、身元がしっかりしていた方が下手な危険から守れるというものだ。
「それに、神堂会長が何度も奴らに狙われるほどのツインテール属性を持っている、というのも理由の一つにあげられるだろうな」
同じ属性は共鳴反応を引き起こす。それはドラグギルディ達の件で証明されたようなものだ。
はてさて……これから、一体どうなることやら。
●◯●
一方、無数にある並行世界の時空の狭間にあるアルティメギル基地では。
「ご報告致します!タイガギルディ殿、ツインテイルズに敗れました!」
「…………やはり、か」
大会議室の一つの席に、部下のエレメリアンの報告を受け沈鬱な表情をさらにかげらせるエレメリアンがいた。スズメのような温和な外見でありながらも、老獪さを感じさせるその戦士の名はスパロウギルディ。
スク水ーー
おそらくツインテールに見惚れたのでしょうと言いながら、部下の一人がアルティロイドの撮影した映像を大会議室のスクリーンに映し出す。そこにはテイルレッド達の前で、まるで服従のポーズのように仰向けになるタイガギルディが映っていた。筋骨隆々な虎面なので、全く可愛くない。
『さあ、テイルレッド!素晴らしきスク水を纏う戦士よ!後生だ、我が腹を海と見立てて、元気よく泳ぐがいい!』
『テメェは三途の川ででも泳いでな!』
《KNOCKOUT CRITYCAL SMASH !》
好戦的なテイルパラドクス:ファイターゲーマーの笑みを最後に、映像は途切れている。スパロウギルディは頭を抱えた。彼の心はもはや、半分諦観に支配されている。今は亡き黒白竜からこの部隊の全権を引き継いだまではいいものの、もはや闘気のかけらすらも湧いてこない。
ツインテイルズは、強すぎる。
「……そして、バハムギルディ様が最後に基地に流した映像が、これにございます」
そこへ追い討ちをかけるように、もう一度映像が映される。そこには……ゲムデウスと成り、全てを圧倒的な力で蹂躙する正斗の姿が映っていた。どよめくギャラリー。まさか同じエレメリアンであるこの何者かが、尊敬するべき隊長二人にとどめを刺したのか。
しかし悔しさよりも、復讐心よりも、なによりもエレメリアン達の心を支配したのはーーゲムデウスの圧倒的すぎる、映像越しにすら伝わってくる凄まじい恐怖そのものだった。あれは、我らが未だ謁見すら許されぬアルティメギル首領にすら匹敵するほどのエレメリアンだということが、本能で悟れたのだ。
『ーー這いつくばったまま、死ぬがよい』
ドラグギルディとバハムギルディの信念を嘲笑ったその声が。
『ハーッハッハッハッハッ!ハーハッハッハッハッハッハッハッハッッッ!!!』
エレメリアンからしても悍ましいと感じるその容貌が。
『出でよーー宝剣〝デウスラッシャー〟』
全てを切り裂いた赤金色の剣が。
『ーー無意味』
決死の特攻をいともたやすく防ぎ、粉砕した剣と一対のその大盾が。それら全てを力強く見せる天輪と大翼が、エレメリアンの心を完膚なきまでにへし折った。
スパロウギルディは長年、ドラグギルディとバハムギルディの側近を務めてきた。それ故に
先ほどまで弔い合戦だ、と騒ぎ立てていた若い部下達もゲムデウスの姿を見て悟ったのだろう。この世界にいても、ただ無駄にーーそれこそゲムデウスの言う通り、〝無意味〟に死ぬだけだということを。
援軍の頭も既に息絶えた。残ったのは効率化を重視したばかりにろくに鍛錬されていない部下達のみ。まさに一強百弱、ツケが回ってきたということだ。まして、ドラグギルディとバハムギルディほどの豪傑はそうはいない。
もはやこれまで……そう思い、スパロウギルディがこの世界からの撤退を宣言しようとした、その時。
「ス、スパロウギルディ殿! 新たな部隊がここへ!」
「そうか……だが、しかし……」
「リヴァイアギルディ様の部隊です!」
「……何!?」
思わずスパロウギルディは立ち上がった。リヴァイアギルディといえば、ドラグギルディ、バハムギルディとともに修行時代をともにした同期の桜。実力もかの黒白竜に匹敵するものと讃えられる。
彼ならば、もしかしたらーー
「そ、それともうひと部隊ーークラーケギルディ様の部隊も、ここへ!」
「何ィ!?それは確かか!?」
微かな希望を抱いた矢先にさらに衝撃的な報せを受け、思わずスパロウギルディはそう叫んだ。クラーケギルディといえば、リヴァイアギルディに対抗意識を燃やす戦士として有名だ。超実力主義の彼も一騎当千の部隊長ではあるが、どうしてこの二人を同じ世界に寄越したのであろう。
だが二度あることは三度あるというもので、スパロウギルディはすぐさままた驚く羽目になった。慌てた様子のエレメリアンが大会議室に飛び込んできたのだ。そのエレメリアンはよほど慌てているのだろうか、スパロウギルディの前で足を滑らせ顔面を床に叩きつけた。
しかしながらも、それほど緊急を要する報せなのか気にもとめずスパロウギルディにまくし立てる。
「ご、ごごごごごごこごご報告いたします!」
「ど、どうした!一体何があった!?」
「そ、それがーー
ーーポセイドギルディ様、このアルティメギル基地にご到着とのこと!」
一瞬の静寂の後。
『な……何んだとオォオオォオオオオオオオオォオオオオオオオオオォオオオオォォォオオオオォォォォオオオッ!?』
スパロウギルディ含め、全員の声が揃った。
ポセイドギルディ。ゼウスギルディ、ハデスギルディと並ぶ、それ一体で神の名を冠せし究極のエレメリアン。アルティメギル首領ですら対等に接する、首領三護神とも呼ばれる最強の戦士だ。
アルティメギル五大修練を編み出した張本人達ともされ、三体全てがその五つの苦行を難なくクリアした、正に伝説中の伝説の存在。自然現象すら操るその実力はあらゆる部隊長……首領直属の四部隊の隊長すら足元に及ばない、それこそ……ゲムデウスと同等の、神たる存在だ。
思い出してみよう。先ほど、報告をしたエレメリアンはなんと言ったか。ポセイドギルディが、
その中でも、若いエレメリアンや新米アルティロイド一人一人にすら心遣いをする真摯さと、世話焼きの良い好々爺とした面から三護神の中で最も人望の厚い、かのポセイドギルディが来るとは、よほどのことと首領は捉えたか。
「ーーホッホッホッ。この老いぼれ一人のためにそこまで騒いでくれるとは、いやはや長生きはしてみるものじゃのう」
戦慄を禁じ得ないエレメリアン達の耳朶を、どこか安心させるような、それでいて深い叡智のこもった声が震わせる。思わず全員ばっとそちらを振り向けばーー
「なんじゃ、儂の顔に何かついとるかの?」
「あ、あなたが、ポセイドギルディ様、なのですか……?」
「うむ。こんななりじゃが、儂がポセイドギルディじゃよ」
ーーそこには、人間の老人が一人佇んでいた。正斗達の世界で言えばギリシャ風の衣装で覆われた肉体は二メートルを超え、無駄が全て廃されたまるで清涼な小川のごとき細身の体躯、綺麗に伸ばされた背筋。手に持つは天高くその鋭い切っ先を掲げる三メートル長の三叉の槍。
濃紺色の宝玉がはめ込まれたそれを杖のようにつき、白いふさふさのヒゲを撫でながら多数のしわの入った顔を人間ーー否、ポセイドギルディは笑みに染めた。それに合わせ、外見年齢にそぐわぬ豊かな頭髪の先端の触手が揺れる。
「な、なぜ人間がここにいる!」
だが、一体のエレメリアンが我に帰り、そう叫んだ。穏やかな目でそちらを見るポセイドギルディ。
「人間の身でポセイドギルディ様の名を騙るなど、言語道断!ここで俺が成敗してくれーー」
「ーーこれ、若造。目上の者には敬語を使わんかい」
ドガァンッ!
「「「……は?」」」
気がついたら、声をあげたエレメリアンが壁にめり込んでいた。早すぎて、その場にいた誰もが目で動きを追えなかった。わかったのは、ポセイドギルディが元の位置に戻した髪の触手を使ったのだろうということだけ。
全員があっけにとられる中、ポセイドギルディはただ温厚そうな表情で笑う。
「ほっほっ、まあ、よろしく頼むぞい」
ポセイドギルディは人間とすら対等に話し合い、事実いくつかの並行世界は彼の手によって完全には滅びなかった。そんなやりにくい存在が、正斗達の世界へとやってきたのだったーー
●◯●
時は進み、放課後。なんかそんな気分になったので、全員で総二の家……というか、喫茶店アドレシェンツァに行くことになった。
控えめにカウベルを鳴らした総二を先頭に、喫茶店の扉を開ける。すると、カウンター席以外の全てが埋まっていた。おや、珍しい。ここまで盛況だとは。
「あ、お帰りなさい総ちゃ〜んに愛香ちゃ〜ん。他のみんなもね〜」
「た、ただいま。それで、この状況は一体?」
混乱しながら総二が尋ねる。あと気づいてないだろうが、さらっと愛香もウチの子認定されていた。早く子どもの顔が見たいなぁ、なんて未春さんと話してる俺としては嬉しい限りだ。
と、俺がそんなアホなことを考えている間に事態は進み、人出が少し足りないから手を貸すことになった。パラド、愛香とトゥアールがウェイターで総二が皿洗い、俺と未春さんが料理担当だ。実は俺も料理ができる。コンテストに出て賞をもらっている程度には。
厨房に入ると、そこには見慣れた一人と一体の人物がいた。
「やあバガモン、小岩さん」
「あ、おかえりバガ〜」
「こんにちは、ボクも手伝いに来たよ」
前者は言わずもがな、俺から生まれたバグスターの一体であるバガモンバグスター。今は人間態の茶髪の青年の姿になっている。ただし口調はバグスターの時と同じなところがなんとなく癒された。
後者は『小岩めぐる』さん。黒髪を三つ編みにまとめたクールビューティのいわゆるボクっ娘で、幼馴染の旦那さんと学生時代からアドレシェンツァの常連だった女性であり、たまに手伝いに来てくれるらしい。
ついでに言うと年齢は23歳。ここで酔っていた時の旦那さんから聞いたが、ボコされていた。ま、安易に女性の年齢を言うべきではないといういい教訓になった。
ちなみにその件の旦那の『小岩誠二』さんは幻夢コーポレーションのキャラクターデザイン部門の部長だ。特にメイド服のデザインは天才的だったので直接スカウトした。
とまあ、そんなことは置いておいて。未春さんの指示に従い、コーヒーや料理を作りパラド達に渡す。
「お待たせしました〜」
「お、お待たせしました」
「お待たせしました♪」
俺の視線の先では、店のエプロンをした三人がウェイターをこなしていく。トゥアールはフィギュアスケートのような流麗な動きで注文されたコーヒーを客に運び、愛香は少し硬いながらもしっかりと、パラドはこの状況をポイント制のゲームに見立てているのか上機嫌な様子で接客をこなした。
そこまではいい。何も問題はあるまい。だな問題があるのは客の方だ。えっと、なんだあれ?吸血鬼的なコスプレをしてたり、スーパーハッカーの真似事をしているのか?まるで未春さんと同じ……
そこまで考えたことで、俺はなんとなく悟った。悟ってしまった。なので、他のメンバーがツッコミを入れるまでは黙々と仕事をこなすことにする。俺と同じことを思ったのか、バガモンは苦笑していた。
それからそう時間がかからないうちに、また一人来店する。勢いよく扉を開けたその青年の客はカウンターに一直線に向かってきた。その青年からは、なんとも言えぬ雰囲気を感じる。
「すまないが……水と、新聞を……今日の新聞を見せてくれないか」
言うが早いか、ゆっくりとカウンターに詰め寄ってきた青年に未春さんがお冷やと新聞を差し出す。水をゆっくりと飲み干した青年は体全体を覆い隠すような擦り切れた黒いローブに、くすんだ、光のない片目の隠れた長い赤髪を持ち、背が俺と同じくらいの175センチ前後はあった。
やたら真剣な顔をした未春から渡された新聞を受け取り、やけに傷だらけの手で読むと青年はぽつりと呟く。
「…四月……二十五日…そうか、これは……なるほど、思ったより早い時間に
ああ、やっぱりか。どうやら俺が感じた凄みはただの気のせいだったらしい。
俺が予想的中と呆れている間に憑き物が落ちたかのような顔をした青年はカウンターに座り、彼に未春さんがそっとコーヒーを差し出した。
青年は無言でコーヒーを飲み……虚空を見つめてフッと安心するように、懐かしむように破顔した。いや、どこを、ていうかこの人は何を見ているのだろうか。少なくとも俺にはわからん。
わからんが、どうやら未春さんにはわかるらしく何故か急に棚から取り出したカップを磨きながら語り出した。それはもう粛々と。
「……
「ああ……そうだな。あなたは、
「……?」
「……どうやら、俺の出番はまだらしい。だから、また来る」
「ーーッ!?」
気前よくカウンターに万札を置く。その時、俺は〝それ〟を、見た。
青年の手首にはまった……一見、継ぎ目のない禍々しいオーラを……総二の数千倍のツインテール属性の
俺が硬直している間に、最後までミステリアスだった青年は間店の扉から差し込む光に向かい歩いて行った。そしてどんな光でも包み込めない闇のようなその姿は…しかし、溶けていくように消えていく。
呆然としている間に隣で未春さんが総二達と何やら騒いでいるが、俺にはそんなことかけらも意識の中に入ってこなかった。いや、できないと言うべきか。
しばらくしてようやく正気に戻り、しかし外界の情報をシャットダウンしてあの青年のことに関すること全てに思考能力を割いた。そのおかげか、ようやく気がついた。
あの、最初に見たときの言いようのない凄み、激しい違和感。それらの正体を。髪で隠れていてよくわからなかったが……
「なぜ……なぜあいつはーー
それに……
「なぜ……あの青年からは、総二のものと全く同じ波動のツインテール属性が……」
わからない、わからない、わからいない。ゲーマーにとって最たる恐怖とは、クリアできないトラップだ。それは精神を削り、注意力を奪い、結果としてクリアできたはずのゲームをろくなゲームオーバーの仕方をしないで終わる。
あの青年は……否、アレは、一体誰だ!?
●◯●
「俺の世界にあの男はいなかった……そしてあの男は、俺の〝コレ〟に目ざとく気がついた」
夕焼けに染まる街をビルの屋上から見下ろしながら、つい先ほどアドレシェンツァに赴いた青年はそれーー自分の手首にはまる、黒いテイルブレスを見やる。
「あいつは、警戒しなくてはいけない……まあいい。まだその時じゃないことはわかった」
一人、ブツブツと呟きながら青年は胸の前でテイルブレスのはまった手を構える。そして、口にした。かつて英雄であった彼が口にしていた、しかし絶望に染まった
「ーー
ドゥッ!!!!
一瞬。テイルブレスから噴き出した粘着質な炎が青年の体を包み込み、その姿を変貌させた。体をぴっちりと覆う、露出の激しい漆黒のアンダースーツと左右非対称の軽装の全身鎧、真っ黒でガラスのようなバイザーをつけた、美しすぎる美女に。
「……さらばだ、未だ平和な世界よ。いずれ、俺が壊して救う」
その言葉を最後に、美女の姿は突如彼女の背後に現れた虹色のカーテンに包まれ、跡形もなく消えるのだった。
はい、こんな感じです。
謎の人物の鎧はクロオビXを想像していただけると嬉しいです。
ショッピングへ向かう神堂会長。その身をまたしてもエレメリアンが襲い……しかし、守護者は現れる。
「俺がお前を守ろう。力の限りな」
《INFECTION!!》
次回「最強のBody guard!」
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