ツインテールとゲームで世界を守る。【とりあえず凍結】   作:熊0803

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読んでる方がいるかわかりませんが、更新が遅れてしまい申し訳ありません。
楽しんでいただければ幸いです。


決戦開始

  ポッピーの出ているニュース番組を見ていた朝から数日後。

 

  俺はたちはいつも通り制服を身に纏い、一路学校への道を歩いていた。総二と愛香は手を繋いで、俺は例の透明板でガシャットの設計図を完成させながら、パラドはゲームをしながら。皆やっていることはバラバラだが、それでも一緒に歩いていることに変わりはあるまい。

 

  そんなことを考えていると、ふと気になったことがあるので一度透明板をしまい、朝からイチャイチャしている総二と愛香の方へと視線を向けた。

 

「そういえば総二」

「ん? どうしたんだ正斗」

「いや、ふと『ブレイクレリーズ』や『オーラピラー』などをいつも叫んでいるが、あれには何か意味がこもっているのか?と思ってな。実の所どうなんだ?」

「ああ…ほら、パラド…クスは普通にかっこいいからいいけどさ、俺は見た目がアレだろ?だからこれ以上愛玩動物みたいな扱いを受けないようにヒーローっぽく振る舞おう、ってな」

「なるほど…」

 

  危うくパラドクスのことを本名であるパラドと呼びかけ、慌てて付け加える総二。周囲に聞かれないよう小声で話してはいるが、一応用心してだな。

 

  ふむふむと俺が頷いていると、総二はそれに、と続けた。ヒーローっぽくというのもあるが、どうやら言葉にするというのは心を力に変えるテイルギアにとって非常に有用なようで。発動のキー、力のオンオフ、言葉をきっかけにすることで意識の収束が効率的になるのだとか。

 

  なるほどなぁ、と再び思う俺。

 

  俺は、ガシャットやパラドのガシャットギアデュアルにも、パラドを除けば俺の最も好きなものであるゲーム…つまりそれっぽい演出や感じを出来うる限り詰め込んである。必殺技の時はガシャットから音声が鳴るし、変身もゲームの中の主人公、もしくは特撮のヒーローらしく演出していた。

 

  それ故に、自分から必殺技などを叫ぶ必要はないのだが、そこらへんは自動のガシャットと違ってテイルギアではそういうふうに力をコントロールするのか、と感心したのだ。同時に、声や特定の手順で一定の瞬間パワーアップする機能を付け加えるのもいいのかもなとも思った。そのうちトゥアールと協力して最初からガシャットとテイルギアが融合しているものを作るというのもなかなか夢が広がる。

 

「そういえば、愛香は最初にガシャットを使った時に決めゼリフを言っていたな。確か『フィニッシュは決め技で決まりよ!』だったか?あれはもう言わないのか?」

 

  俺が話の水を向けると、愛香は途端にぼっと顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。それを穏やかな目で見る総二。

 

「あ、あの時はテンション上がってたっていうか、そーじを助けるために半ばヤケクソで…自己暗示的な意味があったのよ…」

「そっか、ありがとな愛香」

「うう…」

 

  頭を撫でる…のではなく、ツインテールをいじりながら愛香を穏やかな笑顔で慰める総二。そんな総二にピトッと寄り添い、甘えるような仕草をする愛香。俺たちは見慣れたからいいが、周りの人間はたまったものではないのだろうか。現に周りを見渡せば、何人かの通行人は砂糖を吐きそうな顔をして……

 

「…ん?」

「どうしたのエム?」

 

  周囲の人間がどんな反応を示しているのか確かめようとした拍子に、あることに気がついて疑問の声をあげる。それにパラドが反応してゲーム機から顔を上げ、こちらに問いかけてきた。それに無言で指差す俺。

 

「…ツインテールが、多い?」

「ああ、そうだ」

 

  ほんの少し前までは全くと言っていいほどなかったツインテールにしている女子、若い女性。ツインテイルズの影響で、ツインテールをする女の子が増えているのだ。逆に変身時のパラドのような髪型をしている青年もちらほらと見えた。それがどこか心に引っかかる。

 

  …もしや、これはそういうことなのか?突然現れた異界からの侵略者…それに伴うように現れたトゥアール…トゥアールはかつてツインテールの戦士だった…パラドとの会話ではぐらかした部分…たった一人だけ奪われなかった強大なはずのツインテール属性…いや待て、そもそもテイルギアの製造技術…いや、構成システムは一体どこから………っ!

 

「そういう、ことか…!」

「…エム」

 

  俺の考えていることが遊戯属性(ゲーマー)属性力(エレメーラ)を通してわかるパラドは、周囲の女の子を俺が見ていて不満そうだった顔を真面目なものに変えた。まずいな、これは。おそらく総二たちは気がついていない。いや、勘の鋭い愛香はもしかしたら気づいているかもしれんが…ともかく、これは近いうちに()()ぞ。

 

「…()()を使うか」

「!」

 

  俺が鞄の中からガシャコンバグヴァイザーIII(ドライ)を取り出し、ある機能を頭に思い浮かべるとパラドは心配そうな表情で俺を見てきた。それに頭を撫でて大丈夫だと言外に伝え、俺はとあることを密かに決意する。

 

「うーん、やっぱりツインテールの子が増えてきたなぁ」

「…む」

「なんだよ愛香」

「…そーじはあたしのツインテールを見てればいいのっ!」

「お、おう…」

 

  …とはいえ、今すぐ彼らに俺の予想を伝えてあんな幸せそうな光景をすぐに壊すことはあるまい。しばらくは独自に動くとしよう。そう思っていると、キュッと服の裾をパラドが掴んだ。

 

「…どうした?」

「…私、頑張るから。でも、もしものときは…守ってね?」

「…当然だろ」

 

  潤んだ目で上目遣いをして来るパラドに、俺は笑顔でそう答えた。するとある程度は安心したのだろう、パラドは服の裾から手を離した。

 

「おはようございます!良い朝ですわね!」

 

  と、そのタイミングで突然弾んだ声がかけられて、総二と愛香、パラドは驚いて振り向いた。普段から悪質な他社からの刺客に備えて気配に気を配っている俺は話している時から気がついていたが。

 

  ゆっくりと振り向けば、やはりというべきかそこにいたのは満面笑顔の神堂慧理那。陽月学園の生徒会長であり、昔から懇意にしている神堂家の娘であり、そして俺とパラド両方のゲーム仲間だ。誰にでも分け隔てなく挨拶をするくらい性格の良い彼女は知り合いの俺たちを見て一層挨拶した方が良いと思ったのだろう。

 

  小柄な…ともすれば小学生と見間違うほどの彼女の後ろを見れば、制服を着たグラファイトが無言無表情で付き従っていた。どうやら今日もしっかりボディーガードの役目をこなしているようだ。グラファイトは一瞬俺を観て軽く会釈をした。律儀なやつだな。

 

  っと、そうではないな。挨拶をされたらし返す、日常生活でも取引の場でも重要なことだ。

 

「おはよう、会長。いつも通り元気ですね」

「おはよーエリちゃん」

「はい、おはようございますお二人とも!観束君と津辺さんも!あと、正斗さんは敬語でなくても大丈夫ですわ」

「「お、おはようございます!」」

 

  少し緊張気味に挨拶をし返す総二たちに苦笑しながら、俺は口調を崩して神堂会長…否、神堂に話しかける。

 

「ならお言葉に甘えて。それで、神堂はなにが理由でそんなに機嫌が良さそうなんだ?」

「それはもちろん、数日前現れたテイルブルーのことですわ!テイルレッドと…テイルパラドクスに、仲間がもう一人いたとわかって嬉しいんですの」

「なるほど…」

 

  テイルパラドクスと言う一瞬、ちらりとパラドのことを神堂会長は見た。まあ、顔自体は変身しても変わっていないからな。よく見れば、わかるやつはわかるだろうし。そんなふうに考えていると、神堂会長は心の底から慈しむような顔をした。

 

「ーー本当に、良かったですわ」

「…それはなぜだ?」

「どんなに強くても、二人では支えきれない時がきっときますわ。その時もう一人いれば、倒れた二人の背中を受け止められる。私たちはどれだけ応援しても、神崎君のように本当の意味で支えることはできません…だから、お二人に仲間がいてくれて、本当に良かったですわ」

「…なるほどな。それを聞いたら本人たちは喜ぶと思うぞ?」

「ふふっ、そうだと嬉しいですわ」

「会長は本当に、ツンテイルズを応援しているんですね」

 

  微笑む会長に総二がそういえば、神堂会長は少し頬を染めながら自分がヒーローに憧れていることを明かした。未だに子供向けの特撮番組を見ていたり、玩具を買ったりと。俺とパラドは以前聞いていたが、見た目的に違和感がないときっと総二と愛香も思っていることだろう。

 

「あの日も実は、メイドたちの目を盗んで足を運んだヒーローイベントで襲われてしまいましたの」

 

  ああ、そういえばそうだったか。あとで調べればあの日は特撮ヒーローやアニメヒロインのイベントがあったそうだ。あくまで子供向け…ではあるが、やはり神堂会長なら違和感なく溶け込んでしまうだろう。

 

  それに、ゲームという世界中の子供に楽しんでもらえるものを作り、世に送り出している側の俺からすれば、是非そういうものには何歳になっても憧れて、心の底から楽しんで欲しいものだ。

 

「だから、運命を感じていますのよ。テイルレッドとテイルパラドクスに出会い、助けられたことに」

「運命…か」

 

  運命というものを、俺はあながち疑ってはいない。なぜなら、運命の導きがなければ俺はあの時あの晩、パラドと出会えなかっただろうから。だからこそ、ある程度は運命は存在するものだと、俺は確信していた。

 

「…エム」

 

  頰を赤く染め、恥ずかしそうに、しかしどこか嬉しそうな顔をしてパラドが俺を見て呟いた。俺はそれにただ無言で微笑んだ。俺たちのやりとりにその場にいた全員が苦笑する。

 

「…まあ、あながち間違いではないかもしれないな。とにかく、彼女たちに伝えておこう」

「きっと会長のような人はツインテイルズの心の支えになっていますよ」

「ええ、ありがとうございますわ…それではまた、観束総二君、津辺愛香さん」

 

  神堂は総二の名前を呼ぶ時、また先ほどのように数秒総二の顔をじっと見ていたが、すぐに微笑みながら手を振り歩いていった。グラファイトも会釈してその後をついていく。ほっとする総二と愛香。ふむ…これは、少し正体がバレる可能性があるか?まあ、だとしても神堂ならばあまり問題はないのだが。

 

「よかったな、三人とも。さあ、そろそろ学校に行くぞ」

 

  俺はパラド、総二、愛香の順に肩を叩き、歩み始めた。それに待ってくれと言いながら追いかけてくる彼女と親友二人に、俺は密かに笑うのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

  一方その頃、アルティメギル基地のホールにて再び会議が開かれていた。

 

「……以上、この一ヶ月余りで撃破された同胞は隊員十六名、戦闘員(アルティロイド)百二名に及びます」

「ふぅむ……」

「これほどのものか、ツインテイルズ!!」

 

  ペースが落ちることはなく、アルティメギルは続々と戦力を投入。しかし複数隊員とアルティロイドを出撃させようと別々の地点に行かせようとビーストゲーマーの力を得たテイルブルーも加わり、正斗考案の地獄の方が生温いほどのトレーニングを〝カイデンバグスター〟…正斗から生まれたバグスターの一体であり、剣道属性(ザ・ソード)を核とするバグスター。総二の剣術及び体術の師匠で、普段は剣術道場をしている…が師範となってしている結果日に日に強くなっていくツインテイルズ三人にことごとく敗北を味わっていた。

 

「一方、この世界に降りてより我らが手に入れられた属性力(エレメーラ)は皆無。恥を忍んで隠密行動をしようとも幻夢コーポレーション(例の会社)から販売されている防犯器具のせいですぐにばれ、一時捕獲したものも全てツインテイルズに奪還されております」

「むぅ…幻夢コーポレーションか」

「あの忌々しい人間め…」

 

  今しがたとあるエレメリアンが言った通り、正斗が独自に作り上げたエレメリアン感知装置とも呼ぶべきものが組み込まれている防犯器具によりツインテイルズ基地に即座に情報が流れ、出撃できるようになっている。それのせいで幻夢コーポレーション及び開発者と公表している社長の正斗はアルティメギルにある程度目をつけられていた。

 

「ならば属性力(エレメーラ)の持ち主もろとも捕獲し、即座に一時撤退すれば良いではないか?」

「それではまるで、ツインテイルズを恐れ、逃げ腰でいるようなものではないか!」

 

  提案するエレメリアンに対して一体のエレメリアンが、鼻息も荒くテーブルを叩く。だが彼らとて属性力(エレメーラ)がなくては生きていけぬ身、いつまでも手をこまねいているわけにも行かない。

 

  当然テイルレッドは世界最強のツインテール属性保持者らしく比類なき強さを誇り、テイルパラドクスは状況に応じて青と赤の姿に早変わりし確実に出撃したものすべてを殲滅、ブルーもツインテール属性こそレッドに劣るものの、ビーストゲーマーの力と普段の鍛錬により属性力の差を埋めている。

 

  侵略開始から一ヶ月、いよいよアルティメギル側に焦りが見え始めていた。そんなエレメリアンたちを見て、ドラグギルディとバハムギルディは腕組みをしてギリ、と歯を鳴らす。それだけで、全員が喉元に二つの刃を押し当てられたように鋭い緊張感に包まれる。エレメリアンたちは案に、自分らの不甲斐なさを諌められているようだった。

 

「…ツインテイルズの強さは本物だ。もはや、なまかな戦士をぶつけてもいたずらに戦力を削ぐだけとなろう」

「だろうな。故に、これより先は勇者のみに許されし聖戦である。我こそはと志願するものよ、前に出ろ!」

 

 バァンッ!

 

  ドラグギルディの言葉を引き継ぎ、立ち上がって床を白く太い尾で叩きつけるバハムギルディ。エレメリアンたちがどよめく中で、一体のエレメリアンが立ち上がった。

 

「はっ!それならば私が!」

「では、僭越ながら兄上に続き(わたくし)も」

「「ほう?」」

 

  二つの若い男女の声が、ドラグギルディとバハムギルディの耳を打つ。どちらとも野心も小賢しさも感じないただ真っ直ぐで純粋な声だ。それらはバハムギルディたちの最も好む声である。しかし、実直ずぎるが故に危うきまでに強い。その義兄妹エレメリアンに対してのバハムギルディとドラグギルディの認識は、まさにそれだ。

 

「おお、看護服属性(ナース)の申し子と呼ばれし神童、スワンギルディ、そしてその兄妹分、イグレッドギルディ……貴様らならば、誰も異論はない!」

 

  冷や汗混じりだったものを始め、多くのものが安堵の賛同で迎える。

 

「……よかろう。だが、その前にテストを行う。お前たちが、ツインテイルズと戦うにふさわしいかをな」

 

  今度はドラグギルディが立ち上がり、カッと目を見開く。次の瞬間、二陣の風が吹いたーーエレメリアンたちがそう感じた刹那、ドラグギルディは剛剣を、バハムギルディは細身の剣を抜き、剣先をスワンギルディ、イグレッドギルディの眼球の数ミリ前で止めていた。

 

 しかし、兄妹は微動だにせず。

 

「フッ…どちらとも、肝はなかなかのものなようだな」

「だがもう少し試させてもらう……アレを」

 

  アルティロイドが二名入室し、黙礼とともにドラグギルディとバハムギルディの前にかしずく。彼らが運んできたキャリーには、PCとモニターが2セット置かれていた。

 

「私たちの部屋のパソコン…何故ここへ!?」

「お、落ち着くのです兄上!」

 

  二体の対なる竜の神速の剣にすら臆することのなかったスワンギルディが、はっきりと怯えた声をあげる。それを落ち着かせようとするイグレッドギルディだが、彼女もまた内心焦っていた。

 

「静まれい!」

「これもテストの一環だ!」

「ま、まさか……あの修羅の試練、エロゲミラ・レイターを…う、うう」

「兄上、気を確かに!」

 

  恐怖に体を震わせるスワンギルディに、必死に呼びかけるイグレッドギルディ。しかしそれを見ながら、ドラグギルディとバハムギルディはそれぞれ無言でマウスを動かす。カーソルは、どちらとものデスクトップ上にあるツインテールの女の子型のアイコンの上で止まった。

 

  そこで、スワンギルディだけならずさすがのイグレッドギルディもびくりと体を跳ねさせた。周囲のもの体も、これから何が行われるのか既に悟っているようだ。

 

 カチリ。

 

  マウスのクリック音が、兄妹の耳には電気椅子の電源を入れる音に聞こえる。展開されるのは原色たっぷりの『幻夢コーポレーション』のメーカーロゴの後、タイトル画面。…エロゲーだった。就職には早そうな年齢の女の子たちが、ナース服を着ている。すかさずロードするを選択する黒竜と白竜。

 

「これはこの世界で数日前に発売されたばかりのゲームであろう。もうコンプリートしておるわ」

「フハハ、兄妹揃って卑しいやつよのぅ」

 

  追い討ちをかけるように、二分割された部屋の大モニターに皆に見えるようPC画面が映し出された。ひっ!?と声をあげるスワンギルディとイグレッドギルディ。

 

「フッフッフッ、それにつけてもこのセーブデータ…どちらともサムネイルが肌色ばかりであるなぁ。やはり兄妹といったところか」

「「お許しを!どうかお許しをー!」」

「ややっ、だというのに一つだけ頬を赤らめた少女のサムネイル…バハムギルディよ、このセーブデータは怪しいと思わんか?」

「おうとも…おや?これは接吻をしているようだな。他のより少し違う…やはり怪しい」

 

 無慈悲にもロードされる。

 

  映し出されるのは、おそらく主人公の部屋で二人きりのやりとり。しかし、スワンギルディのほうは女の子は頬を赤らめてこそいるが、つつがなく普通の会話に終始し、場面が移ってしまった。では、イグレッドギルディの方はどうかというと……

 

「なんと、義妹ルートか!」

 

 ビックゥ!

 

  イグレッドギルディの方が、これまでにないほど…いや、今までで一番震えた。しかしそれに構わず、続けるバハムギルディ。鬼だった。竜だが。バハムギルディが指を走らせると、スワンギルディ同様ほぼ会話シーンだったものの、最後女の子が膝の上に座り主人公とキスをして退室をするシーンで終わった。

 

「ふむ…スワンギルディはどうやら幼馴染の部屋に遊びに来て、空気が変わったことですかさずセーブをしたのであろうな。これから二人で睦事を始めるのではないかと。だが何事もなく終わり、次の日の日付ロゴが表示され、落胆ーー」

「「「あー、あるある」」」

「ぐううう!」

「イグレッドギルディは…単純に、恥ずかしくなってセーブしてやめたのだろうな。もしくは、このシーンを何かと重ねーー」

「いやぁぁぁぁぁぁ!」

「ごふっ!?」

 

  プレイ時の心境をドンピシャで当てられ、周囲に共感されて気絶寸前だったスワンギルディのみぞおちに悲鳴をあげるイグレッドギルディの拳が全力で叩き込まれた。崩れ落ちるスワンギルディ。それでもなおイグレッドギルディは悲鳴をあげながら、スワンギルディの襟首を掴むと、そのまま凄まじい勢いでホールから出ていってしまった。

 

「フッ、情けない…これしきのことで」

「これでツインテイルズと一戦交えようなどと、笑止千万!」

 

  そう言い笑うドラグギルディとバハムギルディ。しかし言葉とは裏腹に、その目にはどこか兄妹への慈しみも見て取れた。

 

「「ーー我らが行く」」

 

  静かにそう宣言すると、ホールがどよめきに包まれた。

 

「ドラグギルディ様とバハムギルディ様自らが!?」

「偉大なる首領より実権を預かる我らの統率者、双対の黒白竜様、あなた方が自ら行かれるなど!」

「くどいッ!!!」

「男に二言なしだ!!!」

 

  その体色とは逆にそれぞれ互いの体色のマントを翻し、ホールを出て行くドラグギルディとバハムギルディ。二体の足跡が炎となって浮き出るような幻視をエレメリアンたちは抱いた。超絶の威圧感にはもはや、怪物という形容は似合うまい。

 

  神獣ーーまさに、その言葉こそがふさわしい。

 

「さすがはドラグギルディ様とバハムギルディ様。恐ろしき方達よ」

「当然だ、あのお二方は歴代アルティメギル戦士の中でも、五大究極試練といわれる苦行、スケテイル・アマ・ゾーンを乗り越え、兄弟の契りを交わした方々なのだ」

「なんと! あの、通販で買ったものが1年間ずっと、透明な箱で梱包され配達されるという恐ろしき苦行を!?まさしく生きた伝説……私ならば、そんな悪夢初日で絶命してしまう!」

「あのお二方ならば、必ず……」

 

  ツインテイルズの映像に切り替わったモニターを見ながら、怪物たちは一縷の望みを託すのだった。

 

 

 ●◯●

 

 

 場面は戻る。

 

  レッドやパラドクス、ブルーなどの画像や動画などを見て将来が心配になる発言、さらにはトランクスに写真を転写しただのパラドクスのbotを作っただの繋がっていない電話の向こうでブルーとかと会話している頭のおかしいエレメリアンとそう変わらない同級生たち(変態ども)を軽やかにスルーし、次の日の日曜の昼下がり。

 

  やはりというべきか、またエレメリアンが出現したので、今回はレッドとパラドクスが出撃していた。場所は日本の詳しい場所もよくわからない山中だ。主役の住んでる近辺に敵が集中している特撮と違ってエレメリアンは神出鬼没、ツインテイルズは世界中を飛び回っている。

 

「さあ、こいつで終わりだ!」

 《KNOCK OUT CRITYCAL SMASH !!》

「グランド、ブレイザアアアアアアア!」

「ぐおおおおおおお!」

 

  お気に入りのパズルゲーマーからファイターゲーマーとなったパラドクスは、ラビットギルディと名乗るエレメリアンに必殺の炎の二連撃をかまし、最後にレッドが炎刃一閃、派手に爆散させた。

 

  ふぅ、と息を吐いたパラドクスは爆煙を払いながらラビットギルディがいた場所に残った兎耳属性(ラビット)の属性玉(エレメーラオーブ)を拾い、腰の金色バックルーーパラドクスバックルに吸収させた。パラドクスのスーツにも収納機能が付いているのだ。それが終わると、レッドとハイタッチをする。

 

「さーて、終わったことだし帰ってエムとーーっ!?」

「っ!?」

 

  帰還しようとしていたパラドクスとレッドは、カイデンバグスターによる地獄の修行で身につけた第六感によって不意に頭上から殺気を感じ、即座に飛び退いた。すると一瞬前まで二人のいた場所にドオォォオンッ!と轟音をあげて何かが落下する。

 

「一体何が…!?」

「ーーほう、流石だな。やはり、この程度は避けるかツインテイルズよ」

「それでこそ倒しがいがあるというものよ」

 

  地面との激突に伴い巻き上がった土煙が、一刀のもとに両断される。中から現れたのはおよそ三メートルの体躯を持つややスマートな見た目の黒いマントを羽織った白い竜人のようなデザインのエレメリアンと、全身に走るおびただしい傷が特徴的な白マントを羽織った巨躯の黒い竜人のようなデザインのエレメリアンだった。

 

  二体のエレメリアンは片や野太い声で、片や中性的な声でレッドとパラドクスの回避を賞賛する。ささやくような音量でありながら、どちらとも周囲一帯に轟くかのような威圧感に満ちた声。

 

「…お前ら、今までのやつとは格が違うな?」

「ほう!そこまでわかるか!」

「あいにく、普段から隣に規格外の天才(正斗)がいるからな」

 

  レッドはそう答えながら、パラドクスと目配せして警戒心を引き上げる。パラドクスも冷や汗を流しながらマテリアライズスマッシャーの中の拳を握った。

 

「我が名はドラグギルディ!全宇宙全世界全てを並べ、我が兄弟を除きツインテールを愛する心は右に出るものはいないと自負している!」

「同じく、バハムギルディ!貴様ら人間からすれば悪道…しかして我が正道を行き、この胸に宿るツインテール(信念)をかけて歩むものなり!」

「ハッ、いつも通りじゃねえか!」

「こっちは真剣(マジ)だってーのに!」

 

  伝説の龍そのままを思わせる風貌の、対極の色を持つ双対の禍々しいまでの闘気をたちのぼらせるドラグギルディとバハムギルディ。たった数秒の邂逅で、レッドとパラドクスはこれまでの勝利全てがご破算にされてしまったような感覚さえ覚えてしまう。それほどに、目の前の二体の竜が放つプレッシャーは強大だった。

 

「……馬鹿者。我らが行くと言ったものを……!」

「…兄弟よ、いつまでも嘆いていては仕方があるまい」

 

  悼むように、ドラグギルディとバハムギルディはラビットギルディが消えた空間を見つめた。しかしそれは一瞬、すぐに剣を構える。

 

「不甲斐ない部下たちが退屈をさせた。だが、大事な同胞に変わりはない」

「ゆえに、貴様らの属性力(エレメーラ)

 を奪うことで仇を討たせてもらおう!」

「勝手に侵略して何が仇だっつーの!」

「んなこたぁどうでもいい、いくぜぇ!」

『待ってくださいパラド!』

 

  ブレイザーブレイドを抜き激昂するレッドを置き去りに、パラドクスはまず手始めにバハムギルディめがけて突進した。通信により制止するトゥアールを無視し、バハムギルディに殴りかかる。が、鋭い拳がバハムギルディの体を捉えることはなかった。なぜならば、

 

「ふっ……」

「!?」

 

  マテリアライズスマッシャーはバハムギルディのすっと差し出された剣の腹によって受け流された。パラドクスは一瞬硬直したがすぐに体勢を立て直し、上半身をひねって裏拳をバハムギルディの顔めがけて振るう。しかし水のごとく、バハムギルディは滑らかな動きでそれを避けた。

 

「良い拳だ。だが甘い」

「くっ!?」

 

  下から振り上げられた剣を、両腕をクロスして防ぐパラドクス。マテリアライズスマッシャーが盾となり、衝撃はある程度緩和されたが、しかしそれでも見た目とは裏腹に凄まじいパワーで吹き飛ばされる。気がつけば、レッドの隣まで戻ってきていた。

 

「パラドクス!」

「よそ見をしていて良いのか?」

 

  思わずパラドクスの方に振り向いたレッドに、その巨躯からは想像もできないような高速でドラグギルディが迫る。豪風がレッドの赤いツインテールを揺らし、岩から削り出したような剛剣が彼女めがけて振り下ろされた。

 

「ふん!」

「ぐっ!」

 

 ガギギィンッ!!!

 

  レッドはコンマ数秒の差でブレイザーブレイドにより凶刃を防ぐことに成功した。耳障りな金属音と、弾け散る火花。かろうじて受け止めたが、痺れるほどの衝撃がレッドの腕を駆け巡る。テイルギアを覆う光膜、フォトンアブソーバーの閾値を超えるほどの斬撃。レッドが敵からの攻撃で痛みを感じるのは、テイルギアを纏って初めてのことだった。

 

「う、ぐぁ…!」

「ほう、技を感じる受けだな。それにしても刃こぼれひとつせんとは…頑丈だな、とても人間の作ったものとは思えん!かつて一人だけ認めた好敵手を思い出す!」

「この野郎!」

 

  体勢を立て直しつつバックハンドで放ったレッドの斬撃を、ドラグギルディは悠々と刃の腹で受け止めた。バハムギルディが〝柔〟の剣ならば、ドラグギルディはまさしく〝剛〟の剣である。そのあともドラグギルディから次々と攻撃が放たれ、一度に数十の剣で斬られる錯覚すら覚えた。

 

「ハッ、ヤッ、オルァッ!」

「ハハハハハ!!そうだ、もっと速く、もっと強くだ!!!」

 

  すぐ近くではバハムギルディとパラドクスも互角とは言えない、パラドクスが押され気味の交戦をし、あまりの速さに翻弄されて二人は必死に剣と拳を撃ちつけていく。

 

「「…っ!?これは……」」

「ほおう!たったこれだけで気がついたか!」

「さすがはツインテイルズよ!」

 

  とある瞬間、レッドがドラグギルディの剣筋をなぞるうち、その軌跡が何であるかに気がついた。十数回に渡る撃ち合いの末、なんの因果かレッドとパラドクス、ドラグギルディとバハムギルディは四人同時に後ろへ跳躍し距離をとった。

 

「…ドラグギルディ、お前の剣は……」

「バハムギルディ、てめぇの剣は…」

「そう!我らが振るうはーー」

「レッド!パラドクス!大丈夫!?」

 

  と、そのタイミングでトゥアールから通信を受けテイルブルービーストゲーマーに変身して急いでやってきた愛香が青く染まったツインテールをなびかせ、空から舞い降りようとした時ーー

 

「「「「ツインテールの剣技(けん)!!」 」」」

 

 ズベシャァッ!

 

『ぶふっ!』

 

  四人が当時に口にした色々な意味で衝撃すぎる言葉に驚き、ブルーはつんのめって着地に失敗した。そして今回の相手は自分の最愛の人であるそーじと同じ同類だと悟り、深い深いため息をついた。基地で見て聞いていた正斗も思わず吹き出す。

 

「テイルレッド、恐るべき幼女よ。我が神速の斬撃……これほど早く見切ったのはお主が初めてだ!」

「見くびるなよ!どんなに速かろうが、心の形をなぞられたら見えるに決まってるぜ!俺はいつだって、(特に愛香の)ツインテールを心に刻んで生きているんだからな!」

「パラドクス、見事なり!……と言いたいところだが、どうやら貴様はレッドと同じ理由ではないようだが……?」

「…まあ、オレは少し特殊でな。剣に溢れるお前のツインテール属性を感じただけさ」

 

  叫び、肩をすくめるレッドとパラドクス。二人の言葉を噛みしめるように何度も頷いたあと、ドラグギルディとバハムギルディはそれぞれ自分の獲物に向かって足を踏み込んだ。地面に亀裂を入れるほどの脚力による加速、そこから放たれる斬撃は自慢げに語るに値する神速。

 

  まるで夜空に輝く星々の軌跡が、美しい星座を型作るように。ドラグギルディとバハムギルディの剣閃はこの地上に二房髪(ツインテール)座という絶佳なる光芒を生み出していた。みるみるうちに追い詰められていくレッドとパラドクス、入り込めないブルー。

 

「「うおぉぉぉぉっ!」」

 

  しかし、視界を埋め尽くす刃をなんとか防ぎ切り、二人は再び距離をとった。息を切らしながら、油断なく二体の竜を睨み据える。それを見て、白竜と黒竜は喜びに体を震わせた。そして、恐竜の牙のような歪に乱れ刃の並ぶ大剣を、大理石を彫刻のように削り出したかのような流麗な剣を、それぞれ肩に担いで大きく声を発する。

 

「「見事なり!」」

「!?」

「どういう意味だ!」

「いやなに、見事なツインテールだと思ってな……!本当に、敵として出会ったのが口惜しい!」

「然り!テイルパラドクスよ、お前がツインテールでないことが残念でならんわ!」

 

  こっちの台詞だ、とレッドは口の中で呟く。彼女…いや、彼の方こそ、あのように心から笑ってツインテールについて語れるものが友にいればどれだけ良かったかと考える。正斗は薄気味悪がらずに真正面から受け止めてくれたが、しかし彼はツインテールを愛してはいない。彼はパラドをこそ愛しているのだ。

 

「女でありながら、ましてやレッドなど小さな体で我らの刃を全て受けきった技量、舞うように放たれる剣撃と拳撃…何より、レッド!動きに合わせるかのように空を踊るそのツインテール!このドラグギルディ、戦いの場で美に心奪われたのは久方ぶりのことぞ!」

「くっ、褒められてるのにあんまり嬉しくねぇ…!」

「いやいや、嬉しくちゃダメだろレッド」

 

  拳を握り締めるレッド、突っ込むパラドクス。それを見てわーっはっはっはっ!と豪快に笑うドラグギルディにバハムギルディ。もはやここまで空気になっているブルーはあまりの馬鹿さ加減に今にも崩れ落ちそうだった。

 

「ううむ…見れば見るほど、なかなかどうして…フッ、奥深い。基本に忠実でありながら、それでいて目を凝らすほどに様変わりしている錯覚すら覚える」

「いや、そりゃあ髪なんだから動けば揺れるだろ」

「超一流のツインテールとは、これほどのものか!」

「無視かよ!」

 

  胸を張るバハムギルディにパラドクスが叫ぶ。その拍子にバハムギルディの体に目が映り、そこにうっすらと刻まれている無数の傷に気がついた。ドラグギルディだけではなく、バハムギルディもまた全身に傷を負っていたのだ。それはパラドクスに、くぐり抜けてきた修羅場の数を雄弁に語る。

 

「気になるかパラドクス、この傷が」

「まあな。でもアレだろ?背中は傷がないんだろ?」

「ほう、よくわかったな?」

「おおかた、敵に背を向けたことがない…いや、至高の女性に背中を流してもらうため、ってとこか?」

「く、くふ、くふはははっ!惜しい!惜しいぞパラドクス!そこまで気づいた貴様がツインテールでないことが、本当に惜しい!!」

「あいにくと、オレはレッドとはちょっと違うんでね。他を当たってくれ」

「おうとも!しかし、今貴様は命をかけて戦うに値する相手だと確信した!」

 

  傲然と立つバハムギルディは一点の曇りもない強い瞳に鋭い眼光を携え、剣を構える。ドラグギルディもだ。勝算の低いことがわかっていながらも、パラドクスはレッドとアイコンタクトをしたあと、こちらもまたお互いの得物を構えた。しかし、レッドがふと思い出したようにあることを口にする。

 

「ようやくわかったぜ、お前たちの属性力(エレメーラ)が何なのか」

「ほう」

 

  そう啖呵を切ったレッドの頭の中に浮かんでいるのは、テイルギアの核ともなっている最強の属性力(エレメーラ)。自分の胸の中にも宿るそれはエレメリアン全員が全員求めてきたもので、その上で自分の属性に目を当てていた。

 

  しかし、目の前にいる二体のエレメリアンは違う。彼らはーー

 

 

 

「ーーお前たちは正真正銘、ツインテール属性を持つエレメリアンなんだな……!」

 

 




今回からこちらにも次回予告を入れます。

明かされる真実、トゥアールは仮面ツインテールとなり、ドラグギルディとバハムギルディの前へと姿をあらわす。そしてーー正斗は、動き出す。

「さあ…審判の時だ」

《Release……!》

次回予告「神の降臨」

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