幼女戦記×編隊少女   作:アル・ソンフォ

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ついに存在Xのご登場です。
理不尽な転生をデグさんに与えた存在X、今回はどんな嫌がらせをするのでしょうか。


第5話:存在Xの祝福

>>>西暦一九四二年六月二十日一〇〇〇時 極東基地司令官室前廊下<<<

 

フィオナ・ウェストバリーは元新聞記者だった。フーファイターの正体が知りたいとFF適性試験を受け晴れて操縦士となり、この基地に配属されている。情報は足で稼ぐものだ。ジャーナリストの経験を活かし基地内の情報にも通じている。

 

操縦士が着任すると聞けば、伝手を頼り、情報を収集し、着任前にはどういう子が来るのか把握している。

しかし、今日着任したというターニャ・フォン・デグレチャフについては、ほとんどわからない。フォンが付いているからドイツ貴族なのだろうが、名前も苗字もロシア系のそれ、どこの軍に所属しているのかもよくわからない。トップエースというが戦績が一切確認できない。わからない尽くしの子、しかも、操縦士ではないとも聞く今までになく正体不明な子なのだ。意を決して司令官室に近づく、あまり行儀のいいことではないし、司令官室の盗み聞きなんてスパイ行為に近い行動はいけないことだと知っている、でも、ジャーナリスト魂がその躊躇を振り切る。

 

しかし、司令官室に近づいていつもと違うことに気が付く。今日は音が全く漏れてきていない。どうしても、FF適性を有するのが若い女性である以上、女性特有の挨拶は結構漏れ聞こえる。この挨拶だけでも新任操縦士の性格は掴める重要な情報だというのに、もう、退出してしまったのだろうか。

「ああ、もう気になってしかたがない。何者なのよ。新人少佐さんは。」

フィオナが残念がって戻ろうとすると、司令官室の扉が開き一人の金髪の小さな少女が出てくる。身に纏っているモスグリーンの軍服も目深に被った軍帽も、男性用と変わらない変哲のない軍装、いろいろ着飾った服装を着用することが多い操縦士にあっては地味そのもの。首元にある赤い大きな珠をはめ込んだペンダントと銀地に青の徽章だけが飾りといえば飾りだ。きびきびとした動きは正に模範的な軍人そのもの。幼女とでもいうべき姿にかかわらず少佐という肩書がしっくり違和感がない。

宿舎へ案内するのだろう一戸瀬補佐官と一緒にデグレチャフ少佐が向こうへ歩いていく。もう少し良く見ようとしたとき、フィオナ・ウェストバリーは見てしまった。それは獲物を見つけ今まさに狩ろうかとする獰猛な笑みを浮かべるバケモノの横顔であった。

 

>>>同日一一〇〇時 基地内宿舎<<<

 

一戸瀬補佐官に案内され自分にあてがわれた個室に落ち着いたターニャは、ベットの上に転がって先程受け取った資料を読んでいた。

藤堂司令官は、昼食までゆっくり休んでいてほしいと言ってくれたし、いままでの帝国での戦闘に次ぐ戦闘を思えば清潔なシーツが敷かれたベットで横になれるというのは贅沢の極みだ。

今もしこの部屋の中を見ることができる者がいたら、もらったチョコレートを食べながら寝っ転がって書類を読むデグレチャフ少佐という珍しいものを見ることができただろう。

 

「チョビ髭の伍長もスタ公もフーファイターの襲撃で死んでしまっているのか。モスクワ襲撃?自分も参加してみたかったな。共産主義の牙城をコテンパンに叩きのめし、革命指導者の銅像や廟を破壊する。全資本主義者の夢の光景じゃないか。羨ましい。まあ、こいつらがいなくならないと一致団結して戦うなんで無理だろうがな。」

 

読み終えた資料を横に置き、仰向けになって今までを思い起こす。考えてみれば、帝国は自分が強行しようとしたブレスト軍港強襲が出来ずド・ルーゴ将軍を南方大陸に逃してしまった時点で勝利を逃したのだ。あとは、自由共和国な度という御大層なものが作られ、拡大していく戦線に国力は疲弊、第二次世界大戦よろしく合州国からの膨大なレンドリースによる物量戦、兵士が畑でとれる連邦の参戦で優先むなしく崩壊するのだろう。

 

最初は変な世界に迷い込んだと考えたが、考えようによっては悪くない。いかに正体不明なフーファイターとやらが世界中を攻撃しているといっても、この基地を見る限りまだ余裕がある。晴れ時々砲弾日和なライン戦線などと比べたらリゾート地といって差し支えない。それに大隊長だといっても戦闘機に乗れない自分が戦闘に参加することはない。いかに自分で飛べるとはいえエレニウム95式を最大限起動させても15000、あのシューゲル博士の言った18000など瞬間ならいけるかもしれないが持続して航行するなど自殺行為、ノルデンでは鈍重な爆撃機だから相手にできたのであって、速度が500も600も出るような戦闘機と編隊を組んで出撃などできるわけもない。

そう考えれば、出撃してもよくて観測任務、場合によっては基地からの戦闘指揮、いままで渇望していた後方勤務というべき任務ではないか。悪くない、泥船となりかけている帝国から安全な後方勤務、本物の珈琲を飲みデスクワークにいそしめるのだろうと思うと思わず笑いが出てくる。

まあ、二〇三大隊の諸君には悪いが私は平和主義者なのだ。ヴァイス大尉も十分に大隊を指揮できる能力もあるし戦争大好きな彼らのことだ私がいなくなっても十全の能力を発揮してくれることだろう。

そう考えていた時、ターニャにあのいやな感覚が襲う。呪わしい存在Xのご訪問だ。くそったれ。

 

「まったく逃げていく勝利、逆境、苦難、普通の人間なら神にすがろうと信仰心をはぐくむ好機を与えてやっても一向に信仰心が芽生えない救いようのない奴め。信仰にさえ芽生えれば祝福された未来が待っているというのに、無理をする必要はないのだぞ」

声のする方を見れば机においてあるアンティークドールが立ち上がりしゃべりだす。

 

「ああ、また貴様か存在X。今度はアンティークドールでご登場とは随分と可愛くなられたもので、ひょっとして幼女化はご自分の趣味でありましたか?人の趣味にはケチをつける気はありませんが、他人に押し付けるのはやめてもらいたいものですね。」

せっかく久々にゆっくりできているところを邪魔されたターニャは毒舌を吐く。存在Xに対してなら小一時間でも罵詈雑言を並べる自信はある。

 

「貴様のような合理主義者や現実主義者とかいう不信心者には、血で血を洗う戦争では追い詰められないのだな。むしろ生き生きとしていたではないか。でも、知っただろう。所詮貴様が小説の主人公でしかないと知った気分はどうだ。現実主義者と思っていた自分が架空の存在だと知った気分は」

存在Xは、分厚い本を数冊目の前に顕現させる。それには軍服を着た幼女が表紙に印刷され表題にははっきりと『幼女戦記』と記されている。

見てみるがいいといって投げられ思わず手に取った本を斜め読みすれば確かに今までの自分の行動が書いてある。

 

「で、このようなものを見せてなんだというのか。紙の上の存在に過ぎなかったいって悔悟するとでも、私は私だ。自分を支配できるのは自分だけだ。自分で考え自分で判断して行動するから人間だ。操られる人形になるなどご免被る。ああ、そうか。いつも人形で現れるから不思議に思っていましたが、所詮、創造主など名乗っても人形に過ぎない紛い物という暗喩ということですか、不用品は不用品らしくごみ箱にでも入っていればいい」

ターニャは、以前のくるみ割り人形と同じく手では払うと、アンティークドールは砕け散る。

 

「ふん、私から信仰心などというものを得たかったら、ドラッカーの本でも読んで顧客というものの考え方を学んだ方がいいでしょうな」

ターニャは転がったアンティークドールの頭を踏みつぶそうとしたとき、その目が動き、こういった。

「まあよい不信心者め。再び恩寵をくれてやる。少しは私の慈愛というものを感じ取るのだな」

そう言い捨てられたのち、不快なあの感覚が消える。振り返れば、先程のアンティークドールは無傷のまま元の場所にもどっていた。

 

「この事態も存在Xの仕業か。呪われているな自分は」

ターニャがひとり呟いた時、扉がノックされる。

「少佐殿はいらっしゃいますか、デグレチャフ少佐殿、入室を許可願います」

ああ、さっきの鳩森少尉だな。セレブリャコーフ少尉と同じ声で紛らわしい。司令官との昼食ミーティングの呼び出しだろうと、扉をあけた。

 




最初からくるみ割り人形がおいてあればデグさんは警戒するでしょう。
ということで、存在Xの憑代を変えております。
人形の形は編隊少女で好感度をあげるためのプレゼント一覧にある人形と思ってください。

あと、司令官はデグレチャフ少佐からの好感度を上げるためさり気にチョコレートを渡しています。

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