ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐が編隊少女の世界へ転移するそんな幼女戦記×編隊少女クロスオーバー作品です。
>>>統一歴一九二五年六月二十日 帝国軍第二〇三航空魔導大隊駐屯地<<<
糞っ、糞っ、帝国の勝利は逃げてしまった。
床に軍服から毟り取った銀翼突撃章を投げつけた後、ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐は、ただ一人、ロッカーを殴り続けた。
帝国はダンケルクされてしまうのだ。いずれあの帝国よろしくこの帝国も焦土と化すのだろう。
さきほど副官のセレブリャコーフ少尉から伝えられた「停戦命令」は、待ち焦がれた「平和な日々」への扉を閉ざす無情な宣告であった。
息を切らせ握られたままの手を見れば、血塗れになった小さな手、少佐殿、大隊長殿、敵からはラインの悪魔と呼ばれようとも一二歳の女児の華奢な手が視界に入る。
手からするりと逃げて行った帝国の勝利、所詮は、この小さな手でつかむのは無理だったのだろう。
「糞っ!」
ターニャは床に崩れ落ち呻き声とも無言の慟哭ともつかぬ絶望の中で気を失った。
>>>????年?月??日 某所<<<
どれだけ時間が経ったのだろう再び気が付いた時、ターニャは格納庫のようなところに立っていた。
周りには誰もいない。ただ広いだけの格納庫。並べられていたはずのV-1すらないそこにターニャは立っていた。
「誰かいないか、少尉、セレブリャコーフ少尉、いないか」
ターニャは呼んだが、誰もいないようであった。
あきらめて外に出て、初めてターニャは違和感に気付く。外が明るいのだ。自分が逃した勝利を平和を嘆いたのは夕刻、いかにあの後気を失っていようと、大隊の過半が休暇中であろうと自分が一晩ほったらかしにされる訳がない。
立ち止まって気づく6月初夏というのにまるで前世の日本の春の日のようなうららかな陽気すら感じる。
「存在Xの仕業か?」
ターニャは左右を見渡すが時間が止まったようなあの違和感も忌々しいくるみ割り人形も見渡らなかった。
「ガチャリ」
横を向くと今持っているはずのない協商連合のあの魔導士から奪った短機関銃を左肩に担いでいる。軍帽も頭にのり、投げつけたはずの銀翼突撃章もいつもの位置に佩用された状態、あれだけ殴った手も傷一つない真っ白なお手々。いつもの姿でありながら通常ではない姿の自分がそこにいることに気付く。
ターニャは何気に視線を上に向けたとき、視界に入った低空を着陸態勢で横切っていく戦闘機をみて違和感は最大となった。その戦闘機は記憶が確かならば「フォッケウルフ」しかもご丁寧に国籍マークは帝国の国章ではなくドイツ国防軍の鉄十字、いかに帝国がドイツに似た国家であったとはいえ帝国の戦闘機は第一次大戦の戦闘機に類似したもののはず、第二次大戦時に登場した戦闘機など開発され配備されたなどという話は聞いたことはない。続けて飛んできた戦闘機を見てターニャは唖然とする。日本の戦闘機「飛燕」なのだ。仮に秋津洲皇国の戦闘機としても帝国は元の世界と異なり日独伊三国同盟ようなもの結んでいない。この戦争のさなかに飛んでくる訳がないのだ。
さらに続く戦闘機を見てターニャは愕然とする3機目はイギリスの「スピットファイア」、4機目はアメリカの「P51マスタング」、国籍が異なる4機が編隊を組んで飛んでいたかのように下りていくのを唖然とターニャは見続けたのであった。
「ありえない。私が気を失っている間に何があったのだ。」
思わず滑走路の方に駆け出しひらけた視界にあるものが見えたとき、ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐はここが昨日までいた第二〇三航空魔導大隊駐屯地ではないことを受け入れざるえないこととなったのであった。