#白露型深夜の真剣創作60分一本勝負
お題:「海風」
海風と魚屋の養子との話です。
なんとか一時間で1000字書くことが出来ました……(遅筆)
「おねえさん、いつもゆうがたにここにくるけど、なにしてる人なのー?」
「何をしている人か、ですか?」
それはとある市街の商店街。
私は、一人の少年に質問された。
確か、この少年は魚屋の店主の養子にあたる子で、年齢はまだ二桁もない。
魚屋の店主は漁師で、漁をする際に私達の鎮守府から護衛を出すことになっている。
鎮守府付近の港から出る船の護衛艦娘は、私が管理している。今日も、管理者として、翌朝の航行可能なルートを伝えに来ていたのだ。
「……フフッ、秘密です」
「ひみつかぁ……」
彼は少し落ち込んだ表情を見せた。
だが、すぐに顔を上げ、私にこう言ってきた。
「じゃあ、どうしたらおしえてくれるの?」
「……そうですねぇ」
ここで本当のことを言っても良いが────。
「君が君のお義父さんみたいな立派な漁師になったら教えますよ」
私は、少し意地悪なことを言ってみた。
彼は、まだ幼い。恐らく、本当のことを話しても、話半分で終わってしまうだろう。
だから少しくらい意地悪しても、きっとそれが意地悪だと気付かないまま忘れるだろう。
「ほんとう!? じゃあ、ぼく、おとうさんみたいなりっぱなりょうしになるよ!」
「……フフッ、それは楽しみです」
なのに彼は、いい笑顔で決意を語る。
案外、夢を持つ人のきっかけというものは、些細なことなのだろう。
「すまん、待たせたな。友樹の相手してくれて助かったよ」
「いえいえ、楽しくお話してたので大丈夫ですよ」
そうこうしているうちに彼のお義父さんの方も話が終わったらしく、店の奥から顔を出した。
「そうだ、友樹の相手してくれた礼だ。これ持っていきな」
「いやいや、悪いですよ! そんな立派な魚なんて!」
「いいんだ。君達がいなければ、俺達は漁が出来ないからな。これくらい安いさ」
「…………そこまで言われたら、ありがたく頂戴するしかないじゃないですか」
「ハッハッハ」
魚屋の店主は豪快に笑い飛ばす。それにつられて、私も自然と笑みがこぼれる。
「じゃあ、明日もまた頼むよ」
「はい! よろしくお願いします!」
私は一礼をすると、彼──友樹に手を振る。
「またね」
「うん! またね!」
彼に手を振ると、彼は一所懸命に手を振っていた。その顔は楽しみと希望で満ちており、夕焼けによって橙色に輝いていた。
私はその表情にやる気を貰いつつ、日の沈みゆく海へ向けて歩き出した。
「……あの子の為にも、海風も頑張らなければ、ですね……」
その後、中学を卒業した彼が、漁師ではなく提督を目指すことになるのだが、それはまた別の話。