(抹消… 光…)
だがそんな彼女たちを邪魔だというようにブルペノンからは雨あられとミサイルが投下され続けてきた。
ダイダー「くっ、かわしきれない!!」
ライナージェットは右左の機敏な動きができず、どうしても直線的な飛行になってしまう。
ひっきりなしに飛んでくるミサイルをかわして近づくのは困難であり、少しずつではあるが追い詰められていっていた。
おまけにそのミサイルを無下に見過ごせば地上に影響が出るのは目に見えていた。
リリーフ「ミサイルを撃ち漏らしたら… チェンジハンド・タイプブルー!! エレキ光線発射!!」
そのためそちらの方にも対処せざるを得ず、完全に膠着状態になっていた。
そして、単身戦っていたデッドもまた
デッド「!!! 活動時間限界、強制スリープまであと30秒…」
デッドにはAIの最適化機能として、一定量の活動をすると3時間ほど強制的にスリープ状態に陥ってしまうようにセットされている。
これが彼女の数少ない弱点であり、なかなか決着をつけられない要因ではあるのだが、ここに至っては最悪の事態でもあった。
自分の行動が間も無く停止すると判断したデッドは戦線を離脱しようとしたが、ミサイルの雨にそれを阻まれてしまった。
結果、空中で動きの止まってしまったデッドはミサイルの直撃をくらい地面に叩き落とされた。
ラン「ゆ、ゆうさん!! しっかり!!」
目の前に落下してきたデッドに必死に声かけを行なっているランを見て、思わずリリーフは叫んだ。
リリーフ「ランちゃん危ない!! 早く逃げて!!」
ダイダー「いけない!! こっちも!!」
リリーフ「えっ、ああっ!!」
驚きの声をあげたのもつかの間、戦力が減ったことによりこう着状態は一気に崩れたこともあり、リリーフとダイダーの操るライナージェットにもミサイルが直撃した。
リリーフ・ダイダー「「きゃあああ!!!」」
結果、きりもみ状態で地面に向かって突っ込んでいき、大爆発を起こした。
当面の脅威であるプリキュアを排除したと判断したか、ブルペノンは辺り一面に向かってどす黒い弾を発射し始めた。
その弾の着弾とともに街は闇に包まれて消滅していき、昼間だというにもかかわらず、一寸先も見えないような闇が一面を覆い尽くし始めた。
ラン「こ、これって…」
Dr.フライ「暗黒世界の招来か… じゃが…」
プリキュアが破れ、周りが闇に覆われていく光景を見て唖然としていたランたちだったが、そこに向かってどす黒い弾の一つが飛んできた。
ラン「えっ? あっ!!」
逃げ損ね思わず目をつぶってしまったランだったが、そこに極太のビームが飛んできて弾を消しとばした。
遠藤「ラン!! 無事か!?」
ソーラ「先輩はどうしたの!?」
ラン「おじいちゃん!! ソーラさんも!!」
なんとか動くぐらいは可能になったソーラを乗せ、プラスエネルギー砲を携えた遠藤博士の車が突っ込んできたのを見て、Dr.フライは驚愕の声をあげた。
Dr.フライ「ヌァっ!! 遠藤!!」
遠藤「フライ!! 貴様どうしてここに!!」
仇敵ともいうべき相手が目の前に突然現れたことに、遠藤博士もDr.フライもお互いに睨み合いになってしまった。
ラン「そんなのいいから!! リーフさんとダイーダさんを!! ゆうさんを!! ほらあんたもよ!!」
一触即発の空気の中、ランがDr.フライを松葉杖で小突きつつ必死の思いで叫んだ。
Dr.フライ「な、何!?」
遠藤「お、おい待たんかラン。其奴は…」
ラン「私は医者になるのよ!! こんなんでも怪我人をほっとけないわ!! それに人手も足りないんだし、つべこべ言うな!!」
その迫力には勝てず、Dr.フライを始め、スリープ状態になったゆうと遠方でボロボロになっていたリーフとダイーダを拾いあげた遠藤博士は、ブルペノンの無差別攻撃をなんとかかんとかかわしにかわして研究所まで引き上げていった。
速田家
突如発生したこの異常事態に市内はもちろん、日本中がパニックになっており情報が錯綜していた。
節子『突撃レポーターの甲斐節子です。この事態を皆様はどうお考えでしょう? 突如出現した謎のUFO。ここ数ヶ月に渡る怪物の侵攻はあの宇宙人の侵略の先兵だったのでしょうか? 頼みの綱のプリキュアも敗れてしまったらしい今、我々はどうなってしまうのでしょうか?』
豪母「さっ、急いで避難するわよ。少しでも遠くに逃げないと…」
そんな中、真剣な顔でじっと放送を聞いていた豪は母親のそんな促しも聞かずに腕を釣っていた包帯を解くときっぱりと言い放った。
豪「じいちゃんとこ行ってくる。姉ちゃんたちのことも心配だし、なんか手伝えることがあるだろうから」
そんな豪を母は慌てて捕まえて言い聞かせるように叱りつけた。
豪母「バカなこと言わないの!! あんな危ないことはやりたい人だけが勝手にしてればいいの!! 子供のあなたがしていいことじゃありません!!」
事実として一度死にかけたこともあり母が自分のことを心配してくれているのは嫌という程わかる。
だが、先の戦いを経て今回の戦いの中多くの経験を積んできた豪も譲る気はなかった。
豪「子供だからやんなくっていいってなんだよ。じゃあ母さんは大人だから何やってんだよ。何でもかんでも人任せにしてそれでいいわけねぇじゃん!! 大事な人が一生懸命やってんのに、何にもしないでいるのが大人だったらそんなん糞食らえだ!!」
豪母「ご、豪…」
豪「それに俺は将来刑事になるんだ!! 自分のことしか考えない奴が警官なんてなれるわけねぇよ!!」
それだけ言うとぐうの音も出なくなった母親を置いて、豪は研究所へと駆け出して行った。
遠藤平和科学研究所
遠藤「ふうふう… とりあえずは一息つけるが…」
なんとかかんとか研究所まで逃げ帰ってきた一同だったが、状況は最悪と言ってもよかった。
デッドに破壊されたソーラはもちろんのこと、リーフとダイーダのボディも爆発に巻き込まれて半壊状態になっており、当のデッドこと四季ゆうもまたボディの一部がショートして自己修復を兼ねたスリープ状態になっていたからである。
リーフ「く、くく…」
ダイーダ「やってくれるわね… あいつ…」
ソーラ「でも、何とかしないと…」
かろうじてと言った感じで何とか動いている三人だったが、窓から見える光景に悔しそうに顔を歪めた。
邪魔者のいなくなったブルペノンが我が物顔で上空を闊歩し、無差別にどす黒い光弾を発射していたからである。
それに伴い街は闇に飲み込まれ消滅し続けていた。
無論、何とか対抗せんと自衛隊の戦闘機も飛び交っていたが、攻撃以前にブルペノンから放たれるミサイルに次々と撃墜されていた。
今まさに世界は暗黒に飲み込まれようとしていた。
豪「じいちゃん!! 姉ちゃんたちは!?」
そんな重い空気の中、豪が研究所に勢いよく駆け込んできた。
ラン「豪!? あんた大丈夫なの!? おばさんは?」
豪「へっ、こんな怪我ぐらいでヘコタレてられるかって!! それよりどうなの!?」
リーフ「ごめん… 私たち負けちゃってね…」
ソーラ「すみません… 私がゆうって人に負けなかったら…」
その名前を聞いた豪はギョッとした。
豪「いっ!? ゆう姉ちゃん帰ってきたの!? い、今どこに…」
ダイーダ「地下室でスリープ状態よ… もっともあいつもあの円盤に結構派手にやられてたけど…」
それを聞いて最悪の事態だけは何とか避けられそうだとホッと胸をなでおろした豪だったが、直後に街の方から聞こえてきた爆発音と振動にひっくり返った。
慌てて研究所から飛び出した一同の目には、ブルペノンによって全滅したらしい自衛隊の戦闘機と瓦礫と化した街並み。
そして闇に覆われていく世界そのものだった。
豪「や、やべえぜこれ…」
ソーラ「早く… 何とかしないと… 博士、修理を急いでください!!」
リーフ「一刻も早く、あれを何とかしないと…」
ダイーダ「世界そのものが…」
三人に懇願された遠藤博士は真剣な顔でじっと考えていたが、ややあって口を開いた。
遠藤「…ダメじゃ。修理はできん」
豪「な、何で!?」
ラン「そ、そんなに壊れちゃってるの!?」
予想外の言葉に慌てふためいている皆をなだめるように遠藤博士は静かに答えた。
遠藤「そういうわけではない。だが、修理をしたとしてお主達はどうする気じゃ?」
リーフ「ど、どうって…」
ダイーダ「そりゃ、あいつと戦いに…」
ソーラ「私だって行くよ、あれを止めないと…」
遠藤「そういうと思った。だから修理できん」
豪「どうしてだよじいちゃん!!」
リーフ「何でそんな…」
遠藤「はっきり言って、今の状態では全くもって勝算がない。敵の正体も皆目わからんし、当然にして戦力の計算もできん。立ち向かったところでやられる可能性が極めて大きい」
ラン「だからって諦めていいわけないじゃない!! いつもいつも絶対に諦めないって言ってた元気はどうしたのよ!!」
ダイーダ「確かにそうかもしれませんが、博士らしくありません!! 一体どうしたんです!? 前の時は最後まで諦めなかったじゃありませんか!!」
遠藤「あの時とは状況が違う!! 今戦いに行くのは無謀以外何者でもない!!」
ソーラ「でもだからって… いくら無謀だからって、私たちは覚悟はできてます!!」
遠藤「だからじゃ!! 豪やランも一度は死にかけた。そして今またお主達を死ぬかもしれん状況には送り込みたくない。普段世界平和を口にしておきながらエゴだと笑わば笑え。じゃがわしの本心でもある」
その言葉に皆は遠藤博士の気持ちが痛いほどにわかり何も言えなくなってしまった。
Dr.フライ「だったらわしが修理してやるわ」
その言葉に皆ギョッとして振り返ると、そこには全身に包帯を巻きつけたDr.フライがいた。
豪「Dr.フライ!? 何でここに!? それよりどういうつもりだよそれ!!」
Dr.フライ「ふん。何やかんやでそこの嬢ちゃんに助けられたからな。 受けた借りはきちんと返すまで。 特別サービス、タダでやってるわい」
その言葉にソーラ達は顔を見合わせたものの力強く頷いた。
ダイーダ「この際仕方ないわ」
リーフ「修理してもらえるならね」
ソーラ「お願いします」
その言葉とともにDr.フライの元に三人が行こうとしたところ、当然のように遠藤博士が割って入った。
遠藤「待て待て待て!! フライ、貴様何を考えとる!!」
Dr.フライ「何とはどういうことじゃ? わしは其奴らが修理してほしいというから望み通りにしてやろうというだけじゃ」
遠藤「な〜にをいけしゃあしゃあと!! おのれがそんな殊勝な人間か!? え!?」
Dr.フライ「ヒャヒャヒャ、バレたら仕方ない。わしは受けた借りは必ず返すタチでな。あのUFOにいる奴がどんなやつかは知らんが、このわしをぞんざいに扱ったことだけは確か。じゃからこそ目にもの見せてやりたいだけじゃ」
遠藤「黙れ!! それだけではなかろう、そうしてこいつらがあのUFOと相打ちになれば万々歳というところか」
さすがというべきか、Dr.フライの思考を読みきったように遠藤博士が怒鳴りつけると、当の本人は全く悪びれず返した。
Dr.フライ「ほう、よくわかった… いや、さすがにそれぐらいはわかるか」
豪「お前ってやつは!!」
ラン「どこまで性根が腐ってるのよ!!」
この二人も怒りの目で睨みつけたが、そんなものなど屁とも思わずDr.フライは続けた。
Dr.フライ「わしが何か変なことを言っておるか? 其奴らは戦いたいから直してほしい。わしは其奴らとUFOが戦って相打ちにでもなってほしい。利害が完全に一致しとるだけじゃろうが」
遠藤「ふざけたことをぬかすな!! 自分に都合よくこいつらを利用しようと撮るだけじゃろうが!! この極悪人のエゴイストが!!」
ついに我慢の限界に達したか、Dr.フライの胸ぐらを掴みあげて怒鳴りつけた遠藤博士だったが、Dr.フライもまた負けじと低い声で言い返した。
Dr.フライ「その言葉、そっくり返すぞ」
遠藤「何ぃ!?」
Dr.フライ「貴様とてプリキュアと一緒にいたのはこの世界を守るとかいうくだらん理想がこいつらの利害と一致したからじゃろうが!! それに今自分のくだらんエゴで、こやつらの意思を無視しているのはどこのどいつじゃ、え!?」
遠藤「〜〜!!!!!」
そのセリフに反論の言葉に詰まったか、遠藤博士は苦悶の表情とともにギリギリと歯ぎしりをした。
そしてややあって、Dr.フライを突き飛ばすようにして開放するとビシッと指差して叫んだ。
遠藤「えぇい、貴様がこいつらを修理するならば勝手にせい!!」
豪「えっ!? ちょっとじいちゃん…」
遠藤「ただし、妙な改造や装置でも組み込まれたらかなわん!! だからわしがメインで修理しておのれが手伝いじゃ!! そもそも貴様だけでまともな修理ができるわけはないからな!!」
Dr.フライ「なめるなよ!! わしを誰だと思っておるか!!」
憎まれ口をたたき合いながらも、三人のプリキュアの修理の準備をすべく遠藤博士とDr.フライは地下の研究室へと向かって行った。
ラン「なんか変な感じね。おじいちゃんとDr.フライが一緒にいるなんて」
豪「それも一緒になって姉ちゃん達を修理しようってんだぜ。妙な光景だよなぁ…」
そんな二人の後ろ姿を見送ったランと豪は、想像したこともなかった光景に違和感を感じていた。
リーフ「そんなことないよ… あの二人、初めは友達だったんでしょ…」
ダイーダ「変な感じなのは私もだけどね。これも絆で繋がっていくってことじゃないかしら…」
ソーラ「絆…か。 あの人先輩たちと戦った人なんですよね。 私もひどい目に遭わされたし、やっぱり複雑」
ソーラが思いつめたような表情でぽつりと呟いた。
豪「だよね〜… 俺だってそうだぜ。前ん時散々やりたい放題やったんだし」
ラン「今回だってこの怪我あいつのせいだし… 助けといてなんだけど、ちょっとねぇ…」
ソーラ「でも、もしかしたら… 今戦ってる人とも分かり合えるのかもしれないな… そうなったら、戦わなくて済むし…」
そんな会話をしていると、スリープから回復したらしいゆうが淡々とした口調で割り込んできた。
ゆう「嘲笑する。所詮は偽物、勝算がないと見ての懐柔策に出るとはな」
豪「げげっ!! ゆう姉ちゃん!?」
驚きの声を上げた豪とは対照的にソーラはムッとしたように返した。
ソーラ「そんなんじゃないよ!! 戦う理由がないのに、戦わなくてもいいじゃない!!」
ゆう「否定する。今現在侵攻してきている存在に対して、戦闘以外の選択肢はない」
ソーラ「そんなことない!! きちんと話し合う機会さえあれば…」
そこまで叫んだ瞬間、ソーラはゆうに殴り飛ばされた。
ソーラ「な、何よいきなり!?」
当然のように抗議をしたソーラだが、ゆうはそんなことなど御構い無しに無表情に殴り続けた。
豪「ちょっ、姉ちゃんストップ!!」
ラン「やめてゆうさん!!」
ダイーダ「くっ、なんなのよ一体!?」
リーフ「やめて、ゆう!!」
皆が必死に割って入ったことでなんとか距離を取れたソーラは、怒りに満ちた目でゆうを睨みつけた。
ソーラ「なんだか知らないけど、そっちがその気なら!!」
そうして頭上で両腕を交差させた瞬間、ゆうが無表情ながら嘲笑うように告げた。
ゆう「確認する。一方的に侵攻してくる相手にも機会があれば対話するのではなかったのか?」
ソーラ「!!!」
その言葉に何も言い返せなくなったソーラはがっくりとうなだれた。
ゆう「通達する。所詮貴様の言い分などは現実を見ていない妄言でしかない。戦う力がないという事実から目をそらしているだけのな。 そうでもなくとも奴に話し合おうという意思など初めからない」
リーフ「う〜…」
ダイーダ「確かにそうかもしれないけど…」
ゆうの言い分も極論ではあるが正論である。
事実、以前の敵パーフェクトとも最後には力任せに戦う道を選んでしまっていた以上、この二人も反論の言葉がなかなか出てこなかった。
ソーラ「…確かに私は弱いよ。でも、誰もかれもが強いわけじゃないでしょ!!」
ゆう「何!?」
ソーラ「ドラフターにされてた人たちだって、みんな弱いところがあったからあいつらに利用された。でも、それを乗り越えて強くなっていった人たちだっていっぱいいた!! そんな風に一生懸命な人たちを私は守りたい!! そのためなら、戦って勝つことだけが全部じゃない!!」
ダイーダ「ソーラ…」
リーフ「立派になったよね…」
その堂々たるソーラの言葉に、ゆうもややあって口を開いた。
ゆう「…了承した。私にも死なせたくない姉やいとこや祖父がいる。まがい物、貴様の言い分を証明してみせろ」
ソーラ「よ〜し、見てろよ〜!!」
そうして気合が入ったところで、遠藤博士とDr.フライが修理の準備が整ったと告げにきたため、コズミックプリキュア三人を始め豪とランも手伝いをすべく地下の研究室へと向かっていった。
そんな皆を見送ったゆうは静かに口にした。
ゆう「…だが、奴も全力で生きようとしているものを守ろうとしているだけ。説得が通じる相手ではあるまいが、な」
続く