甲子市
突如として甲子市の上空に曇り空というのもおこがましいどす黒い雲が発生し、巨大な魔法陣が浮かび上がった。
そしてその中から屋敷と一体化し全身に砲塔を生やした最終形態となったトラウーマが辺りのビルを押しつぶしながら現出した。
トラウーマ「全てを闇に染め上げるのだ!!」
そしてそればかりか、全身から生やした砲塔から四方八方にどす黒い光線を発射した。
その光線に触れたものは次々に闇に包まれ消滅していき、市内はパニックになっていた。
魔法のほうきを取り出し、なんとか屋敷の崩壊に巻き込まれることを逃れたミラクルとマジカル、そしてフェリーチェに助けられたソーラだったが、その砲撃に破壊されていく街を見て愕然とした。
マジカル「な、何よあれ…」
ミラクル「こ、こんな…」
フェリーチェ「街が…」
「助けてくれー!!」
「うわぁーっ!!」
人々が警察のパワードスーツ隊の誘導の元、必死に逃げ惑う姿を見てミラクルは真剣な表情でトラウーマを睨みつけた。
ミラクル「平和な街を破壊するなんて許さない!!」
だが、そんな彼女たちを嘲笑うかのようにトラウーマは全身の砲塔を発射してきた。
フェリーチェ「なっ!?」
マジカル「う、嘘!!」
巨大なニンジンのような弾頭を必死にかわしていた四人だったが、尽きることのない攻撃をついにかわしきれず直撃を食らってしまった。
「「「キャアアアア!!!」」」
きりもみ状態で全員が落下していく中、砲撃の流れ弾が空を覆っていた黒雲の一部を吹き飛ばし、そこから太陽が顔を出し暖かな光が降り注いだ。
ソーラ「しめた!! 太陽だ」
太陽光線を浴びたことで、ソーラのプラチナブロンドの髪にセットされているナノマシンサイズの太陽電池が稼働し、ぼんやりと光り始めるとともにエネルギーとダメージの回復がたちまちのうちに行われた。
ソーラ「よっしゃー!! ソーラーエネルギーチャージ完了。モードプリキュア、ウェイクアップ!!」
掛け声とともに頭上で交差させた両腕を大きく開くとソーラの全身は万華鏡のような幻想的な光のオーロラに包まれていった。
その光のオーロラを身にまとうかのようにしたかと思うと、ミラクル達を抱きかかえて無事に地面に着地した。
マジカル「あなた、その格好…」
フェリーチェ「やはりあなたも…」
深緑のフリルのついた黒光りのするドレスのようなコスチュームに変身したのを見て、ミラクル達がやっぱりというような表情を浮かべる中、ソーラ いやキュア・ソーラーは力強く頷いた。
ソーラー「話は後、まずはあいつをなんとかしないと。 力を貸してくれる?」
ミラクル「もちろんだよ。同じプリキュア同士だもの」
うなずき合い、四人が固く手を握る中トラウーマの下劣な笑いが響いてきた。
トラウーマ「はっはっはっ!! 笑わせてくれる、たった四人で闇の王たる私に勝てるとでも思っているのか!!」
その言い様にミラクルは当然の様に反論した。
ミラクル「勝ってみせるよ、絶対に!!」
トラウーマ「無駄だ、戦う前からすでにお前達は負けている。これを見ろ!!」
その声にトラウーマの体になっている屋敷を見上げた四人は絶句した。
なんとちょうどトラウーマの首の真下部分に牢屋のようなものがあり、その中には
モフルン「モフゥ…」
ラン「ソーラさん…」
豪「くそっ、逃げ損ねた…」
ソルシエール「おのれトラウーマ」
この四人?が閉じ込められていたのだ
トラウーマ「下手に動いてみろ。この檻ごと押しつぶしすからな」
フェリーチェ「そんな…」
マジカル「モフルン、ソルシエールさん!!」
ソーラー「豪くん、ランちゃん!!」
マジカル「あんた、どこまで卑怯なの!?」
その光景にさすがのマジカルもトラウーマを罵ったが、どこ吹く風と言うような返事をしてきた。
トラウーマ「効率的に戦っていると言ってもらおうか。まぁこんなことをせずともお前たちごとき敵ではないが、な」
その言葉通り、再び絶え間なく砲撃が行われ、四人のプリキュアは大爆発に吹っ飛ばされた。
「「「キャアアアア!!!」」」
モフルン「ミラクル!! マジカル、フェリーチェ!!」
ラン「ソーラさん!!」
吹っ飛んだ四人を見て思わず悲鳴を上げる中、豪はなんとかして檻を破ろうとしていた。
豪「クッソ、叩いても蹴ってもビクともしねぇ。なんとか逃げないと…」
ソルシエール「小僧、なぜ貴様はそこまで抗おうとする? 魔法もなく特別な力もないただの子供なのに…」
捕らえられていたにもかかわらずハッタリと口八丁だけで挑み、そして今尚必死に脱出手段を考えている豪にソルシエールは疑問が拭えないというように尋ねた。
豪「へへっ、んなこたぁ前の時に十分思い知ったぜ。でもさ、だからって諦めていい理由にならねえじゃん」
ソルシエール「何?」
豪「確かに俺はガキさ。でもそれに甘えたくはねぇんだ。姉ちゃんたちが必死に戦ってるのにただ助けてくれなんて言うのかっこ悪りぃし。どうせならよく頑張ったとか言って欲しいし。あんただってそうだったんだろ」
ソルシエール「!! それは… だが…」
豪の言葉に詰まってしまったソルシエールにランが優しく語りかけた。
ラン「あなた、魔法の先生に会って究極の魔法を知りたいって言ってたわよね。そんなものなくてもあなたはすごい魔法使いになってたじゃない。 それでもそれを求めたのって…」
ソルシエール「…私は、素直にそれを口に出していいのか?」
弱弱しい口調でぽつりと呟いたソルシエールに、豪たちは力強く答えた。
豪・ラン「「当然」」
モフルン「モフゥ!!」
一方 トラウーマの砲撃により、地上には砂煙がもうもうと巻き上がり、一寸先もろくに見えなくなっていた。
そんな中、四人のプリキュアはひとまず物陰に隠れて一息ついていた。
ミラクル「ゲホゲホ、みんな大丈夫?」
フェリーチェ「は、はい。ですが、人質がいる以上攻撃もできませんし…」
マジカル「おまけに何にも見えない。これじゃ次の攻撃がどこから来るか…」
顎に手をやりじっと考え込んでいたソーラーが突如指を鳴らした。
ソーラー「そうだ。向こうだってこっちが見えないんだし、今のうちに一気に近づいて豪くんやランちゃん達を助けよう!!」
マジカル「いや、でもどうやって近づくのよ。下手なことしたら攻撃にやられちゃうわ…」
不安げなマジカルに対して、ソーラーはどんと胸を叩いた。
ソーラー「ふっ、私にまーかせなさーい!! 突破口は開くからついてきて!!」
自信満々に告げたソーラーは、腰の左右のクロムスティックを取り外して両手に構えた。
一面に砂煙が立ち込める中、ソーラーの言葉通りトラウーマもまたプリキュアの姿を見失っていた。
トラウーマ「チッ、少しはしゃぎすぎたか。奴らを見失った」
止むを得ず一旦砲撃を中断し、砂煙が晴れるのを待っていたが、ふと異変に気がついた。
トラウーマ「ん? 奴らめどこに行った?」
地上を見回してもプリキュアの姿はどこにも見えず、上空に飛び上がっていないことは確認していた。
トラウーマ「いない… プリキュアめ敵わないと見て逃げたのか? それとももうくたばったか… ん?」
次の瞬間、トラウーマの真下で地鳴りが聞こえてきたことに、全てを理解した時にはすでに遅かった。
トラウーマ「しまった!!」
ソーラー「プリキュア・ドリルドライバー!!」
次の瞬間、スティックを両手に構えてドリルのように高速きりもみ回転しながら地面の下を掘り進んできたソーラーがミラクル達と共に飛び出してきたのだ。
フェリーチェ「なるほどこれなら一気に近づけますね」
ミラクル「すごい技…」
マジカル「やるわね」
ソーラー「つおりゃああああ!!!」
そしてその勢いのまま、ソーラーはスティックに光のエネルギーを注入して、トラウーマの首の一部と豪達が閉じ込められていた檻を下から上に切り上げた。
トラウーマ「ギニャアアア!!」
悲鳴と共に悶えたトラウーマのために、破壊された檻から放り出される格好になった豪達はなんとかミラクル達に助けられた。
ミラクル「モフルン!!」
マジカル「ソルシエールさん!!」
フェリーチェ「お二人とも大丈夫ですか?」
モフルン「ミラクル、ありがとうモフ」
豪「サンキュー」
ラン「助かったわ」
ソルシエール「すまない、恩にきる」
そんなミラクル達を怒りを込めた目で見つめると、トラウーマは砲塔の狙いを定めた。
トラウーマ「やってくれたな、死ね!!」
しかし発射されたミサイルは、光のエネルギーを注入し鞭のような形状に変化させたソーラーのクロムスティックに絡め取られた。
ソーラー「こんな物騒なもの、返してあげるわ!!」
そしてミサイルの勢いを利用して、ハンマー投げの要領でソーラーはトラウーマに叩きつけた。
トラウーマ「グオオオッ!!」
ミサイルを叩きつけられたことで体の一部が爆発と共にえぐり取られた格好になったトラウーマは、大ダメージと共を受けて動きが止まってしまった。
モフルン達を抱えて一旦地上に着地したミラクル達は、皆に避難を促すと共にトラウーマの姿を見てチャンスと判断した。
ミラクル「よし、みんな今だよ!!」
そのミラクルの言葉にマジカルとフェリーチェは力強くうなずき、ソーラーも負けられないとばかりに全身に力を集中し始めた。
トラウーマ「舐め…るなあ!!」
しかし、当のトラウーマも負けじと凄まじい形相で睨み返してきた。
続く