ソーラ「抜けた!! ここは?」
ことは「みらい、リコ!!」
みらい・リコ「「はーちゃん!!」」
各々別の場所で見つけた上空に輝く小さな星に飛び込んだ四人は、次の瞬間、本で埋め尽くされた部屋の天井付近にワープしていた。
そしてそのまま受け身も取れないまま床に尻餅をついてしまったもののとりあえず全員の無事を確認できたことに安堵していた。
ソルシエール「来たなプリキュア。待っていたぞ、涙をよこせ」
みらい「あなたは…」
ソーラ「ソルシエール…」
しかし、自分たちのいる場所がソルシエールの部屋だと気付いた時、全員の目つきが険しくなった。
豪「姉ちゃん!! よかった…」
モフルン「みらい〜、リコ〜、はーちゃ〜ん!!」
リコ「っ!! あなた人質なんて卑怯よ!!」
ことは「モフルンを、その子達を返して!!」
険しい表情でそう言い放ったリコとことはに、ソルシエールも毅然とした態度で言い返した。
ソルシエール「解放してやるとも。お前たちが涙さえよこせばな」
みらい「涙… それで究極の魔法が本当にできるの?」
ソルシエール「できる。それさえあれば秘薬が完成し、あの女を蘇らせて今度こそ…」
ソーラ「よ、蘇らせる… どういうこと… いくらプリキュアのプラスエネルギーが強いといっても、命までどうこうできるほど万能じゃ…」
ソーラの疑問の言葉にソルシエールも首を傾げた。
ソルシエール「何を言っている。貴様もこの魔法のことは知っていると…」
豪(や、やべ…)
会話をソルシエールの後ろで聞いていた豪とランはモフルンを抱きかかえつつ、冷や汗を流してそーっと移動し始めた。
豪(おい、悪いけどちょっと我慢しろよ)
モフルン「モフ?」
そしてスマホンとエメラルドを大切そうに抱えたモフルンに小さく謝ると、軽く放った。
豪「パース!!」
そのままサッカーボールの要領でモフルンをみらい達の手元に蹴り飛ばすと、突然のことに全員の意識が一瞬上にそれた。
そしてその隙に自分たちもまた転がるようにしてソーラ達のところへと走っていった。
みらい「モフルン!!」
モフルン「みらい、無事でよかったモフ」
ソーラ「二人とも大丈夫そうね」
豪「姉ちゃんもね。フーッ、なんとかなったね」
ホッとしたように笑い合っていたが、ソルシエールの目つきは険しくなっていった。
ソルシエール「小僧、どういうことだ? そのプリキュアはこの秘薬のことを知っていたのではないのか? 悲しい涙を流すことになれば効果はなくなるという私の知らないことまで知っていると!!」
豪に対して怒鳴りつけるようにして叫んだソルシエールだが、豪はキョトンとしてランに尋ねた。
豪「俺、そんなこと言ったっけ?」
そしてランも肩をすくめて返した。
ラン「さあ? 覚えてないわ」
ソルシエール「っ!! 貴様らーっ!!」
その態度に、全てを察したソルシエールは激昂してハートが二つに割れたようなカチューシャを巨大化させて押しつぶさんとしてきた。
みらい・リコ・ことは「「「キュアップ・ラパパ!!」」」
しかしそれより一瞬早く変身したみらい達がその攻撃を受け止めた。
ミラクル「ま、間に合った…」
マジカル「二人とも早く逃げて」
豪「さ、サンキュー!!」
ミラクル達に礼を言うと、豪とランはモフルンとともに部屋の扉に向かって走り出した。
ラン「しっかしあんた。よくあの状況であんなハッタリとっさにぶちかましたわよね」
豪「まぁ普段から色々言い訳してるからな。適当に時間稼ぐのには慣れてんだよ」
モフルン「…すごいことするモフ」
ミラクルとマジカルがソルシエールの攻撃を受け止めている隙に、その背後から飛び出したソーラがスティックを投擲してソルシエールの足をからめとった。
ソーラ「タアァッ!!」
ソルシエール「ぐあっ!!」
バランスを崩して倒れかかったソルシエールに対して、続けざまにフェリーチェが殴り飛ばした。
ソルシエール「く、くそ… 究極の魔法さえあれば… こんな…」
悔しそうなソルシエールの言葉に、マジカルは堂々と言い放った。
マジカル「究極の魔法。確かに昔の私なら欲しがったかもしれない。でも今の私にはそれよりももっと大きな力がある」
ソルシエール「何ぃ?」
フェリーチェ「こうして他の世界の人たちともわかりあい、想いは繋がりました。それこそが何者にも勝る魔法です」
ミラクル「その思いがあるかぎり私たちは絶対に負けない!!」
ソーラ「私だって負けられない。先輩達から受け継いだ思いがあるから!!」
ソルシエール「黙れ… 黙れ黙れ黙れ!!!」
真っ直ぐな瞳と口調で堂々言い切った四人に対して、ソルシエールはその言葉を必死に否定するかのように叫んで再度巨大化したカチューシャで攻撃を仕掛けた。
フェリーチェ「させません!! リンクル・ピンクトルマリン!!」
しかし、フェリーチェがフラワーエコーワンドの先端から展開させた花弁状のバリアフィールドに防がれて勢いが弱まった。
ソーラ「しめた!! これぐらいなら、変身してなくったって!!」
挙句勢いが落ちたところを、ソーラにスティックでそのまま打ち返された。
ソルシール「何ぃっ!?」
自分の攻撃を跳ね返され、まともに受けることになってしまったソルシエールは壁に叩きつけられてダメージとともにへたり込んでしまった。
ソルシール「があっ… うう…」
するとそこに、先ほどから幾度となく聞こえてきた美しいハミングが聞こえてきた。
ミラクル「この歌…」
フェリーチェ「先ほどの…」
四人が振り返ると、いつの間に入ってきたのか小さな少女が一人どこか悲しげな表情でその歌を口ずさんでいた。
ソーラ「これ、さっきからあなたが…」
少女が返事がわりに歌い続けていると、ソルシエールが耳を塞ぎ聞きたくない音だと言うように叫んだ。
ソルシエール「やめろ、やめろやめろやめろ!! そんな歌など聞きたくもない!!」
マジカル「あの子は一体… それにこの歌は…」
マジカルが尋ねると、ソルシエールは悔しそうに床を殴りつけながら話し始めた。
ソルシエール「お前達… 想いは繋がると、受け継げるといったな… だが、私の想いは繋がらず受け継ぐこともできなかった!!」
ソーラ「えっ?」
次の瞬間、本で覆われていた薄暗い部屋の中は明るい草原へと変わっていた。
ミラクル「ここは…」
そんな中、先ほどの少女が笑顔で老女の元へと駆け寄っていった。
ソルシエール「私は幼くして親を亡くし、ある魔法使いの弟子になった」
フェリーチェ「ではあの少女は、昔のあなたなのですか?」
フェリーチェの問いにコクリと頷いたソルシエールにマジカルは続けて尋ねた。
マジカル「この歌は一体なんなの?」
ソルシエール「あの女に聞かされた子守唄だ」
マジカル「子守唄…」
ソルシエール「あの女は自分の後継者を探していた。だから私は必死に魔法を学んだ。なのに…!!」
ソーラ「あなたも、想いを受け継ぎたくて…」
ソルシエール「あの女は私を認めなかった。私がどれほど魔法を上達させようとも、究極の魔法を教えてはくれなかった。それどころかいつまでたっても子供扱い。挙句が子守唄で寝かしつけようとする始末だ!! そして結局そのまま…」
一面に映し出されていた光景は、墓に参るソルシエールの姿となり、皆はそんな彼女の気持ちが痛いほどにわかった。
ソルシエール「なぜ教えてくれなかったのか、私の記憶の中にその答えはなかった… だからこそ、死んだものを呼び戻す魔法がいる。だからよこせ、プリキュアの涙を!!」
よろめきながらも立ち上がり、必死に詰め寄ってきたソルシエールにミラクルは悲しげに尋ねた。
ミラクル「あなたは先生を恨んでいるの?」
ソルシエール「当然だ!! あの女は私の想いを踏み躙ったのだ!!」
吐き捨てたように言い放ったソルシエールのどこか悲痛な思いを感じ取ったかソーラは悲しげな顔で訴えた。
ソーラ「…そうじゃない。究極の魔法なんて、教えるものじゃなかったんだよ」
ソルシエール「何を馬鹿な!! あの女は言った、いつか私にも究極の魔法が使えるようになると。だが、どんな書物を見てもそんなものは書いていなかった!! ならばあの女が知って独占していたに決まっている!!」
ソーラ「私もそうだった!! 立派なプリキュアになりたくて、肝心なことを教えてくれなかった先輩達に反発もした。でも、一人で考えて全力で戦ってきてわかった。一番大切なものは誰かが教えてくれるものじゃない、自分で見つけるものなの!! それは教えられるようなものじゃない!!」
自分の経験を、想いを必死に訴えたソーラだったが、ソルシエールの怒りは収まらなかった。
ソルシエール「ふざけるなぁ!! あの女にそんな高尚な考えなどあるものか!! 人を子供扱いして見下していたような女に!!」
フェリーチェ「そうではありません。憎しみを滾らす前に考えて見てください、なぜ子守唄を歌ったのかを」
その言葉にソルシエールはハッと気がついたように息を飲んだ。
ミラクル「先生はあなたのことを愛していたはずだから歌ったんだよ」
ソルシエール「そんな、そんなことは…」
視線を泳がせながら、否定の言葉を探していたソルシエールだったが、どうしても言葉が続かなかった。
マジカル「いいえ、愛していなければ子守唄なんて歌わないわ。 それにあの歌を聴いているとすごく元気が出たわ。そんなすごい歌を、愛してもいない人に歌いはしない」
ソーラ「確かにあの歌にはすごいプラスエネルギーを感じた。あなただってこの歌を聴いて、気持ちが落ち着いたりしたんじゃない?」
ソルシエール「小さい頃の話だ。それにもう先生の顔もよく思い出せないのだ」
うつむきながら呟いたソルシエールをミラクルは必死に励ました。
ミラクル「諦めないで!! あなたもこの歌をもう一度歌ってみて、そうすれば…」
ミラクルは歌を歌い始め、それを聴いたマジカル達も頷き合い優しく歌い始めた。
それにつられるかのように、ソルシエールも少しづつではあるが口ずさみ始めた。
そうして歌い始めるとソルシエールの脳裏に、優しかった師匠の笑顔が浮かんできた。
ソルシエール「あぁ… あぁそうだ。私はただ…初めは先生に喜んで欲しくて…なのに…」
大粒の涙を流して泣き崩れてしまったソルシエールの肩に手を置き、フェリーチェとソーラは優しく語りかけた。
フェリーチェ「大丈夫です。あなたは少し道を間違えただけ、もう一度頑張りましょう」
ソーラ「私だってまだまだだもの。一緒に頑張ろう、きちんと想いを受け継げるように」
そんな光景を見てミラクルはウルウルと目を潤ませ始めた。
マジカル「ちょっと、なんであんたまで泣いちゃうのよ」
ミラクル「う〜だって〜」
そして、大粒の涙がとうとう堪えきれないというようにミラクルの目からこぼれ落ちたその時だった。
ミラクル「えっ?」
待ってましたとばかりにトラウーマがどこからともなく現れて、その涙を小さな壺に受け止めた。
ソルシエール「トラウーマ…?」
ソーラ「あっ!! くそっ!!」
とっさにスティックを投げつけたソーラだったが、それをトンボを切ってかわしたトラウーマは堪えきれないというように高笑いを始めた。
トラウーマ「やった… ついに手に入れたぞ、プリキュアの涙。これで俺が完全復活できる!!」
ソルシエール「どういうことだ、それは!?」
トラウーマ「ふっ、俺はかつて貴様の師匠に封印された闇の王だ。あの忌々しい女が死んだことでようやく封印の一部が解けたが、まだまだ不完全でな。そのためにこの秘薬を必要としていたのだ」
その言葉にソルシエールは絶句した。
ソルシエール「なっ!? ならば、先生が私を憎んでいたのかもしれないというのは… 先生を蘇らせるというのは!!」
トラウーマ「ふん、あんな女の弟子だけあって、間抜けな女だったなぁ」
ソルシエールを見下し嘲笑うように嗤ったトラウーマに、全員の怒りが爆発した。
フェリーチェ「あなたという人は…」
マジカル「あんた… 最っ低!!」
ミラクル「許さない… 絶対に!!」
ソーラ「その腐った根性、叩き直してあげる!!」
トラウーマ「なんとでも言え!! すでに秘薬は完成した!! 闇よ、プリキュアの涙、光の力を飲み込み解放されよ!!」
開き直ったように叫びながら手にした壺に入った薬を飲み干すと、トラウーマは突如として巨大な漆黒の馬の姿へと変化していった。
ソーラ「なっ!?」
ミラクル「大きくなっていく!!」
さらにそれだけにとどまらず、部屋をぶち破りながら巨大化を続け、ついには屋敷そのものが崩壊し始めた。
フェリーチェ「建物が崩れる!!」
トラウーマ「ついに復活の時だぁー!!」
ミラクル「きゃあああ!!!」
マジカル「あああっ!!」
四人が崩壊に巻き込まれていくのを満足げに見下ろしながら、トラウーマは屋敷そのもの一体化し始めていた。
トラウーマ「まずは手始めにこの世界を暗黒の闇に染め尽くしてくれる。そしてやがてはあらゆる世界をもなぁ!!」
続く