遠藤平和科学研究所
遠藤「クッソ〜!! 一体今何度あるんじゃ?」
全身汗だくになり、額の汗をぬぐいながらうだるような声を遠藤博士は出した。
ラン「室内でも39℃よ。クーラーも今にもいかれそうだわ、なんせ外が外だから…」
現在、12月上旬。
タンスにしまっていた夏服を引っ張り出し、団扇で扇ぎながらげんなりしたような声をランは出した。
ソーラ「まずいな。早くあれをなんとかしないと…」
熱で煙を上げ始めているテレビでは、節子が耐熱服を着込んで単身突撃レポートを敢行しているシーンが映っていた。
節子『ご覧ください、この閑散とした街を。外を出歩こうという人は誰もいません。かく言う私も、この暑さの前には耐熱服越しでも気が遠くなりかけています』
事実、映されている街中は陽炎で揺らめき、アスファルトが溶け始めて妙な色の煙が漂い、街路樹もあまりの暑さで枯れ始めていた。
節子『このままでは世界はどうなってしまうのでしょうか? あの輝く悪魔の前に我々は屈するしかないのでしょうか?』
節子の見上げた先には、この地上を照りつける「二つ」の太陽があった。
数時間前
気象予報士『今日はかなり冷え込む日となるでしょう。それでは皆様、体にお気をつけて良い一日をお過ごしください』
朝一番の天気予報を見ながら、ランはぶつぶつと文句を言っていた。
ラン「よく言うわよ。ここんとこずっと当たったためしないじゃない。晴れるって言うから洗濯物出したら土砂降りだったし。寒くなるって言うから冬物出したら、全然あったかいし」
遠藤「まあまあ、そうそう愚痴るな。天気予報が当たらないことぐらいザラじゃろうが」
ラン「おじいちゃんはいいわよ!! どうせ地下室にこもりっきりなんだし、冷暖房はつけ放題なんだから!! 外をうろつく私の身にもなってよ!! あったかいか寒いかだけでもはっきりして欲しいわ!!」
そうやって当たり散らすランにソーラもウンウンと納得していた。
ソーラ「そうだよね。突然雨に降られたりなんかしたら、私もエネルギーが充電できないもんね。ねぇ博士、天気を自由にしたりするってできないんですか?」
ソーラとしては素朴に尋ねたつもりだったが、遠藤博士は珍しく声を荒げた。
遠藤「バカもん!! 良いか、いかに科学が発達しようとも大自然の力を乗り越えようなどと自惚れてはならん!! 人間の力と言うものは天然自然の一部でしかない、くれぐれもそこを間違えてはならんぞ!!」
ソーラ「は、はい…」
遠藤博士の勢いに、ソーラも思わず姿勢を正すことになった。
遠藤「まあ、それはそれとてじゃ。お主の太陽エネルギーの急速充電システムぐらいは用意した方が良いかもしれんな」
ソーラ「そんなのできるんですか? 太陽電池の改造の余地が他にも!?」
遠藤「うんにゃ。鏡やらなんやらを利用して太陽光線を効率的に集めるようにしたりするのと、あとは以前に作った太陽光線と同じスペクトルの光を照射してみるぐらいじゃな。(コズミックプリキュア12話参照)」
その答えにランは呆れることになった。
ラン「なんだ、大したことじゃないのね。大げさに言うから何かと思えば」
遠藤「何を言うか、本来科学とはこう言う地味なことの積み重ねじゃ。一足飛びに結果など出せんぞ。目標を据えてコツコツ努力し続ける。それが大事なんじゃ」
したり顔で言い放った遠藤博士は、そこでふと思い出したように続けた。
遠藤「そういえば目標で思い出したが、連中の最終目的をお主は本当に知らんのか?」
ソーラ「あ、はい。なんせあいつらとまともに話をしたのもこの間が初めてでしたし。先輩達なら何か知ってたかもしれませんが…」
遠藤「そうか… それがわかれば対処の幅も広がるんじゃがな… 他にわかってそうなやつといえば、あやつだけじゃしな…」
ラン「うん、Dr.フライだよね…」
遠藤博士のどこか沈んだ言葉に、ランも表情が曇った。
ソーラ「私もその人のことは聞いてます。なんでも一度死んだのにマイナスエネルギーを取り付けられて生き帰らされたんですよね」
遠藤「うむ。ある意味でこの世界で一番闇の力を知っとるやつじゃからな。話を聞ければいいんじゃが、どこに幽閉されとるかわからんからなぁ… あのバカもんが」
一度戦った相手とはいえ、かつては友人だった男である。
その末路を思い、遠藤博士は残念そうに呟いた。
遠藤「あの才能を無駄にしおって。一体なんのために天から授かったと思っておったんじゃ…」
ソーラ「まぁなんにせよ。連中の目的がわからないなら、今度攻めてきたときに取っちめてやりますよ!!」
力強く語られたソーラの言葉に、研究所内にも明るさが戻った。
遠藤「うむ。そうじゃなことここに至ってはそれが一番じゃ!!」
ラン「頼りにしてるわよ、ソーラさん」
ソーラ「オッケー!! まっかせなさーい!!」
調子に乗りやすい性格のソーラだったが、この明るさは遠藤博士達にとってもありがたいものだった。
ラン「(なんか不思議ね。ソーラさんを見てると明るくなってくる)…って、いっけない遅刻しちゃう!!」
話し込んでいる間に、時間がかなり経ってしまったことに気がついたランは、慌ててランドセルを背負った。
ラン「じゃあ行ってきます。ソーラさん、おじいちゃんのお昼お願いね。あっためるだけだから」
ソーラ「うんわかった。行ってらっしゃい!!」
遠藤「車に気をつけるんじゃぞ」
そうやって見送られたランが、ドアを開けた瞬間だった。
ラン「!! あっち〜!!」
冬だと言うのにサウナ風呂のような熱気が外から漂ってきたのだ。
遠藤「な、なんじゃこの暑さは!? 今12月じゃぞ!! 異常気象にもほどがある!!」
こんなはずはないとばかりに外へ飛び出した遠藤博士だったが飛び上がることになった。
遠藤「あちゃちゃちゃ!! 地面が焼けとる!!」
ラン「どうなってるのよ一体!! 太陽が二つあるみたい…」
その言葉にソーラがのんきそうな声をあげた。
ソーラ「わぁランちゃんってすごい。 ほら本当に太陽が二つも!!」
遠藤「何ぃ!?」
ラン「嘘!!」
そんなバカなと空を見上げたところで、二人は目を疑った。
ラン「ほ、本当に太陽が二個ある…」
遠藤「こんなことが…」
そこで遅ればせながら、居間に備え付けてあるマイナスエネルギー検知器がけたたましい音を立てた。
ソーラ「!! まさかあの太陽!!」
遠藤「考えるまでもあるまい、ドラフターじゃ!!」
それに気がついた途端、二つ目の太陽は輝きを増しジリジリと照りつけてきた。
遠藤「とにかく家に!! 焼け死ぬぞ!!」
その日差しにたまらず家の中に逃げ込み、一息ついたところでソーラは真剣な顔つきになって空を睨んだ。
ソーラ「私行ってきます!! 早くあいつを倒さないと!!」
ラン「うん、お願い!!」
ランの頼みに自信満々に頷くと、ソーラは窓から飛び出して行った。
ソーラ「あ、あづい… オーバーヒートしそうで帰ってきちゃった…」
飛び出して行ってわずか10秒。
あまりにも情けない声とともにヘロヘロになって帰ってきたソーラに、ランも遠藤博士もズッこけた。
遠藤「と、とはいえ、あの太陽ドラフターじゃがまがい物とはいえ本物の太陽並みの熱気じゃ。迂闊に近づいたら熱で溶かされかねんか…」
今にも熱でやられそうになっているテレビでは、二つ目の太陽を撃墜せんと飛び立った自衛隊機が熱にやられて、ろくに攻撃もできないままに撤退する様が報道されていた。
ラン「でもなんとかしないと外にも出れないし、家の中でもいつまで持つか…」
実際問題、クーラーをガンガンにかけていても、温度計はうなぎのぼり。
だんだんと頭がぼーっとしてくるぐらいであった。
ソーラ「それに早くしないとあいつが究極成長しちゃう。急がないと…」
濡らしたタオルで体を冷やしながら不安そうな声を出したソーラに、遠藤博士も汗を滝のように流しながら答えた。
遠藤「よし、強力な耐熱スーツを作る。それを着込んで突撃し一撃で破壊するしかあるまい。しばらく待っちょれ…」
そうして耐熱スーツの製作に取り掛かった遠藤博士だったが、あまりの暑さに体力が奪われ、思考は停止し、作業が難航していたところで冒頭に戻る。
続く