日本 某県 甲子市 童夢小学校
豪「ぷっは〜、食った食った」
生徒1「相変わらずいい食いっぷりだね、お前」
給食をペロリと平らげ、さらに大量のおかわりまでもして満足げな顔を浮かべていた豪は鼻の下をこすりながら得意げに告げた。
豪「へへっ。こんなうまいものいくらでも食べられるぜ」
そんな豪を見て、周りの生徒はもちろん担任の先生も気分が良かった。
担任「ウンウン。あんなに美味しそうに食べるのを見てると、こっちも気分がいいわね」
生徒2「ですね。でも…」
ちらっと見た視界の端には、未だにほとんど給食に手つかずのまま手を合わせている一際小さな女生徒がいた。
「ごちそうさまでした…」
担任「水原さん、またこんなに残して。ちゃんと食べないと体に悪いわよ」
水原という名の女生徒は担任にたしなめられたものの、聞く耳は持たないといった感じだった。
水原「だってお腹いっぱいなんです。無理して食べたら余計に体に悪いですよ」
担任「そんなわけないでしょ。パンもおかずもほとんど一口ずつしか食べてないじゃないの」
水原「だからいいんですってば。別に少しぐらい食べなくったって関係ないし」
豪「あ、待て待て。もったいねぇよ食わねぇんなら俺が…」
名乗り出ようとした豪だったが、担任に止められた。
担任「待ちなさい。いい、水原さん。私たちはこうして今ご飯が当たり前のように食べられるけど、二年前の騒ぎから復興仕切れてない場所だってあるし世の中大変なところも多いの。最近の騒ぎで食料が届かないところだって近くにあるのよ」
水原「はい、知ってます。それが何か?」
担任「そんな場所じゃ非常食だってまともにないことだってあるの。食べ物を粗末にして、そんな人たちに申し訳ないと思わないの?」
水原「そんなの日々の蓄えがいい加減だっただけじゃないですか。それにここで食べ物を大切にしたからってその人たちがどうなるわけでもなし。なんだったらこれをそこの人たちに持ってった方がよっぽどいいですよ」
机の上の手つかずの給食を指差して、そう言い捨てると彼女は席を立った。
生徒3「水原さんって、一年生の時から給食を全部食べたことないんじゃないかしら」
生徒4「毎年おんなじようなことやってるわよね」
担任「はぁ。食べ物のありがたみを知らないとは飽食の時代の弊害かしら。無駄かもしれないけど一応お家の方に連絡しておきましょう」
遠藤平和科学研究所
ここの地下研究室でソーラの太陽電池の改良が朝から行われていた。
遠藤「よーし。これで蓄電効率が上がったから、太陽電池のエネルギーをある程度なら蓄えておける。フルチャージにしておけば曇りの日ぐらいなら変身も可能じゃろう」
ソーラ「ありがとうございます。これで効率よくあいつらとも戦えます」
遠藤「なーに、この改造プランは真っ先に考えとったことじゃしな。夜や雨の日に戦えないではたまらん」
もともと太陽電池のエネルギーを貯めておくシステムは改良プランとして考えていたことではあるが、出力が上がりすぎることでまともにソーラが扱えない可能性が高いということもあって、先送りになっていたのだ。
ソーラ「ケンドーとかジュードーとか色々教えてもらってこの体の動かし方もだいぶわかってきたし、きちんと戦えると思います。でも…」
遠藤「確かにな。ただ戦えればいいというわけではないんじゃもんな。あのドラフターを浄化できんことには何にもならんのじゃから…」
これまで二回ドラフターを倒してはきているが、なんとか弱点をついたり相手が自滅したりといった要素が強く、次もうまくいくとは限らない。
それを痛感していたソーラはなんとか必殺技らしきものを身につけようとしているのだが…
ソーラ「このクロムスティックで突き刺すのも相手の弱点を突かないといけないし、何かもっといい案は…」
遠藤「フーム。ライナージェットを修復しても、もともとリーフとダイーダが二人で使うことを想定しとった武器じゃからな。今のお主では荷が重すぎるじゃろうし…」
それを聞いて、ふとソーラは引っかかった。
ソーラ「そういえば先輩たちの必殺技ってどんなだったんです?」
遠藤「ああ、ライナージェットは小型ジェット機でもあると同時にプラスエネルギーを照射するキャノン砲にもなっておってな。あの二人のプラスエネルギーを圧縮して一斉照射する技があった」
ソーラ「ふむ、エネルギーの照射か… だったら… よし、エネルギーをフルチャージにしたら一度試してみようかな」
豪「へーっ、ソーラ姉ちゃんがパワーアップするんだ」
いつの間にやら研究室に入ってきていた豪が感心したように声をあげていた。
ソーラ「あっ豪くん。そうだよ、太陽エネルギーをたっぷり吸収できるようになったからね。あとできちんと蓄えないと…」
その言葉を聞いて、豪はウンウンと頷いていた。
豪「そーだよねー。なにをするにしてもエネルギーをしっかりとらないと」
遠藤「ん? なんぞ学校であったのか?」
豪「いや実はさ…」
豪が給食の時間にあった出来事を簡単に話すと、遠藤博士ももっともだというように頷いた。
遠藤「フーム、贅沢な時代になったもんじゃ。出された食事を残すなんざ、わしが子供の頃には考えられんかったがな」
ソーラ「ご飯食べないと元気が出ないんじゃないの? テレビっていうのでやってたよ。お腹空いてる人に顔をちぎって食べさせてる人がそう言ってた」
豪「まぁ、そうだけどね… (ここら辺はリーフ姉ちゃんやダイーダ姉ちゃんと変わんないな)」
ソーラの言葉に豪が多少ひきつっていると、ランが怒鳴り声をあげて入ってきた。
ラン「おじいちゃん!!」
遠藤「おう、ランも帰っとたか」
ラン「帰ったかじゃないわよ!! なによあの台所は!?」
遠藤「なによとはなんじゃ?」
ランの怒声にきょとんとした遠藤博士だったが、続けざまにランががなり立てた。
ラン「あんな勿体無いお昼の食べ方して。食べ物を捨てたりしないでちゃんと最後まで処理してよ」
遠藤「なーにを言っちょるか。ちゃーんと綺麗に残さず食べとるじゃろうが」
心外だというように返した遠藤博士だったが、ランも負けなかった。
ラン「どこがよ? 鮭の骨はあとで味噌汁の出汁取りに使えるし、大根の葉っぱは切り刻んでサラダにできるし、漬物の汁は戻してまた使えるでしょ。お米のとぎ汁だって掃除に使ったり色々使い道があるのに全部捨てちゃって、それにね…」
遠藤「食い物が勿体無いという話から掛け離れていっとるな。さすがにそこまでせんでよかろう…」
同時刻 水原家
水原「ただいま」
件の少女 水原 静香もまた自宅に帰っていたが、おかえりの言葉の代わりに母親からの説教が待っていた。
水原母「ただいまじゃないわよ。あなたまた給食残したんですって。先生から連絡があったわよ」
水原「なんだ、また連絡があったの? もういいじゃない」
うんざりしたように答えを返したが、母親の怒りは収まらなかった。
水原母「よくありません。いっつも給食費無駄にして。家でもほとんどご飯は食べないし、もうすぐ成長期だっていうのに、大きくなれませんよ」
母親の言う通り、彼女の身長はクラスはもちろん学年でも最も小さい方であり、彼女にとってのコンプレックスでもあった。
水原「うるさいなぁ。いいじゃない、小さい方がご飯も少なくて済むし」
口答えをしながら居間に行きテーブルの上の皿を見た途端、彼女は思わずブータレた。
水原「あっ、あの子豚のクッキーどうしたの? あれ好きだったのに!! 帰ったら食べようと思って楽しみにしてたのよ!!」
その一言に、母親も堪忍袋の尾が切れた。
水原母「いい加減にしなさい!! そう言うつもりならご飯は食べなくて結構!!」
しかし
水原「いいわよ別に。お小遣いぐらいあるし、お店で食べることだってできるもの」
その、全くわかっていない回答とともに遊びに出かけた娘にがっくりと肩を落とすしかなかった。
水原「全く、一体ママも先生も何をプリプリしてるのよ!! 私がご飯食べないことで誰が迷惑するってのよ!! えーい腹立たしい!! なんでこんなに怒られなきゃいけないの!?」
一応本人にしてみればかなり理不尽なことで怒られていると言う認識のため、あちこちの石を蹴ったりとかなり不機嫌そうに街を歩いていた。
水原「あの子豚クッキーだって楽しみにしてたのに、ママってば勝手に食べた挙句に、訳のわかんないことでごまかすなんて!!」
そうイラつきながら蹴った小石は、目の前にいた黒ずくめのガリガリの男に当たった。
水原「あわわ!! す、すみません!!」
慌てて誤った彼女に、目の前の男はにっこりと笑いながら近寄って行った。
パーリ「気にすることはない。何か気に入らないことがあったのだろう?」
水原「あっ、はい。実は…」
目の前の男にどこか得体の知れない空気を一瞬感じた彼女だが、にこやかな態度と石をぶつけてしまった負い目もあり、事情を簡単に説明してしまった。
パーリ「それはそれは。だったら、君の主張が正しいことを証明して見なさい。私は君のような人間を探していたのだよ」
水原「えっ?」
笑顔とともに語られたどこか妙な言葉に戸惑う暇もなく、パーリはダーククリスタルを取り出し、彼女の額に押し付けた。
パーリ「さぁ。君の望み通り、食べ物の不必要さを証明するがいい!!」
水原「ああーっ!!」
その悲鳴とともに、彼女の体は全身から吹き出した真っ黒な蒸気に覆い尽くされ、黒い火花のようなものがスパークすると同時に、二階建ての家ぐらいのサイズの子豚ドラフターが誕生した。
その子豚ドラフターは、雄叫びを一つあげると近くのスーパーマーケットに向かって突進していき、そこの食料を貪り食い始めた。
パーリ「ふふっ、あいつはなかなか面白いドラフターになってくれた。キュア・ソーラー、お前の攻撃も奴には通じまい」
その言葉に呼応するかのように、子豚ドラフターは食料を平らげると一回り巨大になっており、それを喜ぶかのように一鳴きすると、次の食料を求めて走り出した。
遠藤平和科学研究所
マイナスエネルギー検知器がけたたましく鳴り響く中、テレビの報道で状況を察したソーラが出動準備を整えていた。
豪「よし、準備完了。今回は俺も行くよ」
変装用兼防御用のヘルメットを目深に被り、アンチマイナーガン改めアンチドラフターガンを手にした豪も勇ましくそう告げた。
遠藤「あのドラフターの進路はこのまま行くと、ここの食品加工工場じゃろう。ここの倉庫には大量の備蓄品があるじゃろうし、ここをやられたらかなりの打撃になる。頼んだぞ」
ソーラ「はい。エネルギーのチャージも終わったところだしね。豪くん、しっかりつかまっててよ」
そう言ったソーラにぎゅっと抱きしめられる格好になった豪は顔を真っ赤にしながらせわしなく頷いた。
ラン「なーに赤くなってんのよ。このバカ!!」
豪「う、うるせぇ!! さすがにちょっと恥ずかしいんだよ」
そのセリフにソーラはちょっと不安げな顔をした。
ソーラ「えっ? これダメなの?」
豪「あ、いやそうじゃねぇから。さっ、行こう行こう」
そうやって豪に促されたソーラは、豪を抱きしめて現地へと飛び立って行った。
ラン「何よ、にやけちゃって」
遠藤「? お前は何をイラついとる?」
ラン「っさい!!」
続く